プログラム
- 開会挨拶 神奈川県がん診療連携協議会会長
- オリエンテーション
- (午前の部)講義・グループディスカッション
- テーマ「がん専門相談員を育てる」を考えよう
- がん相談対応評価表についての講義
- がん相談対応評価表を活用したグループディスカッション
- (午後の部)パネルディスカッション
- テーマ「がん専門相談員として独居のがん患者を地域で支える」を考える
- 神奈川県からの報告
- 東京都からの報告
- 千葉県からの報告
- 総合討論
- 閉会挨拶 国立がん研究センターがん対策情報センター長
概要
神奈川県がん診療連携協議会相談支援部会の企画提案により実施されたこのワークショップは、神奈川、東京、千葉3都県の相談員を対象として、平成26年11月8日(土)に横浜市教育会館にて開催され、ソーシャルワーカー、看護師など総勢114人のがん相談支援に携わる相談員が参加しました。
定刻の午前10時、浦崎多恵さん(横浜市立大学附属市民総合医療センター・神奈川県)の進行(総合司会)で幕開けしたワークショップは、まず金森平和会長(神奈川県がん診療連携協議会)から「神奈川・東京・千葉の企画委員、運営委員で計画し準備してきたこのワークショップに参加し、実りの多い秋の1日にしてほしい」と開会のあいさつをいただきました。
ワークショップ全体のオリエンテーションにおいて、近藤まゆみさん(北里大学病院・神奈川県)からは開催趣旨として「がん相談支援センターの取り組みが全国に広がっているが、次のステップとして相談員の質の担保が必要であること、その質の担保を近隣県と連携し地域で研修を企画し実施することが重要であり、このワークショップはその取り組みの一つである」との説明がありました。
午前の部は、清水奈緒美部会長(神奈川県がん診療連携協議会相談支援部会)の進行で、「これまで神奈川県で取り組んできた、がん専門相談員の教育プログラム(電話相談を対象としたがん相談対応評価表を活用したプログラム)を、東京都と千葉県の相談員にも体験してもらい、自都県、自施設での教育のあり方を考える機会としてとらえ、ひいては地域や自施設で『がん専門相談員を育てること』を考えることが午前の部のテーマである」という企画意図の説明で始まりました。
プログラムはまず、高山智子部長(国立がん研究センターがん対策情報センター)による講義「がん相談対応評価表の活用方法」において、がん相談支援の評価・改善というPDCAサイクルを回すためにも、個別の相談対応が機能しているかどうかのモニタリングが重要であることと、それを実践する諸外国の事例が紹介され、日本で質の評価・教育ツールとして活用するために「がん相談対応評価表」を研究班で開発した経緯が話されました。完成した「がん相談対応評価表」では、がん専門相談員が行う相談対応の基本姿勢、実際の相談対応、相談者の反応、各項目の考え方と実際の評価について解説があり、また、相談対応のスキルアップを目指す場合において、どうしたらよりよく対応できるのかといった視点で評価表を活用することが大事であることが説明されました。
このワークショップに申し込んだ参加者には事前に、相談者と相談員による電話相談を記録した音声データ、その逐語録、がん相談対応評価表が郵送されており、参加者各自で相談場面の音声を聞き、「がん相談対応評価表」の各項目を評価した上で参加していました。講義でがん相談対応評価表の活用方法について理解を深めたのち、17グループ(各グループ5人程度とファシリテーター1人)に分かれてのグループディスカッションに移りました。
グループディスカッションは、メンバー個々の自己紹介と相談全体の印象を話すことから始まりました。その後、参加者が事前に記した評価とその理由、がん専門相談員の役割に基づくより望ましい対応について話し合いました。この討議をとおして、がん専門相談員としての「自己の気づき」をグループのメンバーと共有したところ議論は白熱し、時間を5分延長するほどでした。その後、全体共有を行い、2つのグループから「自分が評価した結果とほかの参加者の評価が違っていることが多く、さまざまな視点があることを共有できたことは大きな学びになった」、また「相談者の主訴はほかの参加者同様アセスメントできていたが、何をニーズとするかについては十分にアセスメントできていなかった」「このように相談対応をすれば、ニーズが明確にできたのではないか」といった議論のポイントが紹介されました。全体共有を受けて、清水奈緒美部会長から、がん相談支援の現場で「がん相談対応評価表」を活用した事例として、1)ほかの相談員の相談事例を聞いてがん相談対応評価表の活用を学ぶ、2)自分の相談事例を録音して聴き返し、評価表を用いて自己評価をする、3)自分の相談事例の録音をメンターに聞いてもらい、評価表に基づいてフィードバックを受ける(=メンタリング)、といった各ステップに沿った実践が紹介されました。特にステップ2)については、録音設備がなくてもICレコーダー等を使用して実践することが可能であること、また自らの相談事例を聴き返し、逐語録をつくり、評価表をつけるプロセスを踏むことで多くの気付きを得ることができ、ひいてはがん専門相談員の教育を考える重要な機会となることが語られ、午前の部を終えました。
60分の休憩をはさみ、午後の部は「がん専門相談員として、独居のがん患者を地域で支える」をテーマにパネルディスカッションが行われました。小迫冨美恵さん(横浜市立市民病院・神奈川)と小粂亜紀さん(藤沢市民病院・神奈川)の司会で神奈川、東京、千葉での地域特有の状況と課題、がん専門相談員の関わり、院内や地域におけるチームによる支援などについて都県を越えてがん専門相談員同士が共に考え議論を進めました。
最初に登壇した前田景子さん(北里大学病院・神奈川)からは「独居のがん患者を支える~超高齢単身社会を目前に控えて~」と題して報告がなされました。まず単身者、独居の定義を「同居する親族・パートナー・友人などがおらず、1人で生活をしている人」として整理した上で、今後の超高齢化に加え単身社会が到来する日本において、単身のがん患者が増えるのは自明であり、治療・療養をしながら1人で生きていける社会環境をつくることが急務であることや、単身で生活することにはさまざまなリスクがあるが、自立して生きる証しでもあるとの見方が述べられました。また、神奈川県の特徴としては、全国で2番目に人口が多く、高齢人口増加率が全国平均を上まわっていること、および、人口に比して療養病床数では全国で2番目に少なく、全病床数では全国で最下位である現状が伝えられ、日々のがん相談支援の中でも単身独居者の療養場所の検討は難しい課題であることが紹介されました。さらに、単身独居が「当たり前」になる中でのがん専門相談員に求められる取り組みとしては、「相談窓口を利用しやすいものにすること」、「広報の徹底」、「参加しやすいがんサロンを設けること」、「法律や住宅」、「就労など他分野の専門家との連携」など、単身独居者が地域とつながりやすい環境づくりとともに、アドバンスケアプランニングとして、適切で早い時期からの準備が必要であるという意識を広げていくことの必要性が述べられました。
続いて、宮田佳代子さん(国立がん研究センター中央病院・東京)から「がん専門相談員として独居のがん患者を地域で支える」と題して報告がなされました。まず、東京都のがん医療の現状として、国指定のがん診療連携拠点病院27施設に加え、東京都認定のがん診療病院9施設、がん診療連携協力病院22施設と多数にのぼり、都の単身世帯が増加している現状、またアンケート結果から明らかになったひとり暮らし高齢者の抱える不安の内容や、日常の用事を頼める相手がいない人が多いという暮らしの特徴が紹介されました。次いでがんの治療・療養を続ける医療依存度の高い独居者が増えている現状において、日々のがん相談支援実践で経験する在宅療養支援について事例を交えて紹介し、がん専門相談員として、本人の希望、本人・家族の生活への影響、本人・家族がどこまでできるかを正確にアセスメントして、経済的な課題も考慮した上で在宅サポートとして何を整えるかを検討するプロセスが重要であることが述べられました。就労者の場合は、仕事への影響や職場の理解も必要な視点であり、病院、訪問診療や看護、介護、職場、そして本人・家族の協力、連携が必要であることも強調されました。平成26年度の診療報酬改定においては在宅医療の充実が重点課題とされています。東京都では訪問診療、訪問看護など医療資源が量的には充実しているものの、地域的な偏在、訪問可能なエリア、症例や医療処置への対応、必要なタイミングでの導入などの情報を綿密に確認しながら支援することが重要である、との報告がありました。
最後に登壇した佐久間裕子さん(旭中央病院・千葉県)からは「千葉県東総地区におけるがん患者への支援体制について」と題する報告でした。旭市は都心から約80㎞に位置する農業・漁業が発展した市で、高齢化率は24%を超えており、がん患者の通院時間は公共交通機関を利用すると、国立がん研究センター中央病院まで約2.5時間、国立がん研究センター東病院まで約3.5時間、千葉県がんセンターまで約2時間といずれも長時間かかるため、単身者ががん治療を継続するときの大きな課題の1つになっていることが紹介されました。また、単身者ががん治療を継続するときの課題として、地域にある在宅・緩和ケアの資源の状況に大きく影響を受けることがあります。そのため、がん専門病院から緩和ケア目的などで自院が紹介される場合、自動車での通院が困難となるとタクシー利用を余儀なくされ経済的な負担が大きくなるなどの地理的な問題があることや、在宅療養支援診療所が少なくマッチングが難しいことなどが述べられました。そして死への準備を含め、日常生活やメンタルサポートとともに、がん専門相談員の自己決定支援を基礎とした役割が報告されました。
3人のがん専門相談員の報告に続いて小迫さんと小粂さんの司会による総合討論に移りました。まず、前田さんからは「選択肢を提示したいが資源が少ないこと」および「神奈川県では特に24時間態勢の在宅医療・介護サービスと療養型病院が少ないこと」が伝えられました。次に、宮田さんからは「東京都においても量的には恵まれているが23区内外では地域差が激しいので、本人の病状に合わせて調整することが必要。各医療機関で管理できる医療処置を独自に情報収集し、がん専門相談員で共有していること」。最後に、佐久間さんからは「単身者の希望の特徴として、在宅で療養して最期は病院で看取ってほしいという希望が多く『2人主治医制』が有効だと思われること」が補足されました。
フロアから「地域へ戻る方への支援の工夫」について質問があった際には、壇上の専門家の方から、「通院が困難になることを見越し、タイミングを逃さず早目に介入することが必要」である、との回答がありました。同様に、「若年単身者と高齢単身者への支援の相違点は何か」という質問に対しては、「経済的な部分やプライドといった心理社会的背景の違いや、高齢者はフォーマルなサービスが利用できるが、若年者が利用できる資源が限定されること」といった意見も出されました。
活発な議論がなされたのち、司会者とパネリストから、どの職種であっても、患者が安心して過ごすためにニーズをつないでいくのががん専門相談員の役割であり、独居であっても家族との関わりを見つめる必要があること、また、アドバンスケアプランニングについても独居だから、家族と同居だから、と類型にあてはめて対応するのではなく、どんな相談者であっても早期から考えていくべきであること等が確認され、参加者の大きな拍手で午後のパネルディスカッションが終了しました。
平成26年度から新規導入し企画提案型として初の開催となった「地域相談支援ワークショップ in 神奈川・東京・千葉」は、若尾文彦センター長(国立がん研究センターがん対策情報センター)のあいさつで閉会となりました。