プログラム
第1部「平成27年度の患者部会活動とそこから見えてきた課題。そして今、これから」
講義「患者相談部会の役割」
各県担当部門からの発表と質疑応答
第2部「死を身近に感じながら苦悩している患者・家族を支援するために」
概要とあいさつ
「死を身近に感じながら苦悩している患者・家族を支援するために」を全体テーマとして、第1部として各県の取り組みの報告、第2部として講演とグループワークの2部構成で行われました。
開会にあたり、国立がん研究センターがん対策情報センター 若尾文彦センター長より「東北で行う2度目のフォーラムとなる今回は、公募した企画の中で優れた企画として採用され、実行委員の皆さんの協力により実現したものであること。またこの企画のテーマとなっている“死を目前にした患者をどうサポートするか”については、都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会相談支援部会が行ったアンケートでも相談員の方々が普段対応に苦慮している問題としてあがっており、国のがん対策推進協議会でも議論されている内容でもある。ぜひ来週からの相談支援につながる学びを得ていただきたい」とのあいさつがありました。
第1部「平成27年度の患者部会活動とそこから見えてきた課題。そして今、これから」
講義「患者相談部会の役割」
東北がんネットワーク患者相談室専門委員会委員長 藤谷恒明
昭和59年以降のがん対策とその推移、特に情報提供と相談支援に関わる施策についての概説の後、宮城県を例にがん診療連携協議会の下部組織として設置されている相談支援部会の機能について紹介がありました。各県において名称は多少異なるものの、いずれの県にも相談支援の部会が組織されており、各県の患者相談部会はなくてはならない組織となっていること。これらの部会は都道府県拠点病院を中心に、県内の各医療機関の意見を集約し全国の会に伝えるとともに、全国の会で集約した情報を県内にフィードバックする役割を担っていること。東北地方では、東北がんネットワークという任意のネットワークも形成されており、相互に連携しながら事業を実施していること、が解説されました。
続いて、がん相談支援センターの担当者と県のがん対策主管課の双方から各県の取り組みについての報告がありました。
青森県
発表者:成田富美子(青森県立中央病院)、田中ちどり(青森県がん・生活習慣病対策課)
まず、青森県がん相談員の強みとして、青森県がん情報サービス関係者向けサイトの紹介がありました。青森県内の相談員が日々の相談内容を登録し、共有できるID・パスワードで管理されたシステムがあり、他の相談員がどのように対応したのかがわかり大変参考になっており、そのシステムには掲示板機能もあるので研修会のお知らせや相談にも活用されているそうです。
また、2015年の部会発足に向けて実施された相談実務者のアンケートでは、相談員に必要な取り組みとして「情報の共有をしたい」「周知活動をしたい」「相談の質評価を」「スキルアップ研修」の4つのカテゴリが認識されました。部会発足後はこのアンケート結果に基づいて取り組みを進めており、すでに8回の研修会も実施されています。一方、相談対応での困りごとについて顔を合わせての情報共有、「相談の質評価」としてのPDCAサイクルチェックの実施や相談者からフィードバック、事例検討会がまだ実施できていないとのことで、今後は実施できなかった原因を分析して実現可能な計画を作っていく予定との報告がありました。
秋田県
発表者:高橋直人部会長(秋田大学附属病院)、後藤富美夫(秋田県健康推進課)
秋田県では平成21年にがん相談員担当者会、平成24年3月にがん患者相談部会が設置されました。平成26年に「就労支援」「広報・情報」「研修会企画」の3つのワーキンググループを発足させて以降、年2回、秋田県内の相談員の知識と技能の向上を目的に、講師を招聘した講演会による研修と各拠点病院の相談支援機能のチェックや事例の共有などを進めている旨の報告がありました。県担当者からは、平成23年以降、それまではオブザーバー的な関わりだった県がん対策室担当者もがん相談員担当者会の正式な参加者として参加するようになり、相談員担当者部会から発案された施策に県で予算を確保して、部会で実施するという役割分担で取り組みが推進するサイクルができており、今年度は、山形県の取り組みを参考にウィッグの助成事業などアピアランスケアの充実とがん相談員の数と質の向上に取り組んでいるとの報告がありました。
岩手県
発表者:青木慎也(岩手医科大学附属病院)、山口秋人(岩手県医療政策室)
岩手県では平成27年10月に、県内のがん診療連携拠点病院および緩和ケア病棟をもつ4病院を含めた14病院から医師、看護師、MSW各1人に県担当者1人を加えた計43人の情報提供・相談支援部会が発足しました。主な活動としては、研修ワーキンググループにてがんと仕事の両立支援セミナーへ座長・シンポジストとして参加、情報提供ワーキンググループにてがん療養サポートブックの作成と配布を行っていること、がん相談支援センターのPR活動としてリレーフォーライフの参加やラジオ放送への協力を行っていることが報告されました。岩手県は四国4県に匹敵する面積をもつ上、県内交通網が十分に整備されておらず、直接集まる機会を作りづらいこと、兼務体制の相談員が多く、各委員が活動時間を十分に割けないといった点が課題としてあげられましたが、今後は、全国のさまざまな好事例を参考に、岩手らしさを織り交ぜながら取り組みを進めていきたいとのことです。
山形県
発表者:稲村みどり(山形県立中央病院)、布宮倫(山形県健康長寿推進課)
山形県では平成20年3月に山形県がん診療連携協議会が設置され、同時に下部部会も設置されました。がん患者相談室部会は、「相談支援機能の充実・強化」と「がん患者・家族等に情報をわかりやすく提供すること」を目標に、年2回の会議を開催し、メーリングリストを活用して情報共有や研修会を行っているとのことです。それぞれの病院では、がん相談支援センターを患者の方にわかりやすい場所に配置し、外来・病棟との連携を図っており、治療・就労・外見上の悩みに1カ所で答えるワンストップ相談会やハローワークと共に出張就職相談会なども行っているそうです。山形県の特徴的な取り組みとしては、他県に先駆けて医療用ウィッグ購入費助成事業やアピアランス相談支援員養成事業が行われており、申請数が大きく伸びているとともに他県からの問い合わせも増えているとの報告がありました。
宮城県
発表者:古山美智子(東北大学病院)、森川聡子(宮城県疾病・感染症対策室)
宮城県では患者相談部会の下に、①宮城県共通がん相談シートを利用する、②研修会に参加し研鑽できる、③部会の活動に協力できる、の3つに賛同したがん相談窓口を有する20施設が参加する「がん相談実務者会議」が置かれています。このがん相談実務者会は、がん患者が医療圏を越えても安心して医療を受ける生活をおくれるよう支援していく上で、相談員間の顔の見えるネットワークを築く役割も果たしています。相談部会では平成27年度は3回の実務者会議を開催し、みやぎがんサポートハンドブックの改訂、宮城県版PDCA実施状況チェックリストの作成とがん相談支援センター活動の見える化、相談員研修の企画・実施に取り組みました。今年度の課題は、がん相談支援センターの広報活動の充実、相談支援の質の担保と県内の相談支援の均てん化であり、部会メンバーによるPDCAピアレビュー、相談員研修の開催、リレーフォーライフへの参加などを行っていること、今後は宮城県版がん相談支援センターの内規を作成することを通じて各施設のマニュアル作成を支援し、県内全体でステップアップできることを目指したいと報告されました。県担当者からはウェブページへの窓口紹介の掲載や全戸配布の県政だよりへの情報掲載などにて広報活動を支援しているとの報告がありました。
福島県
発表者:會田悦子(いわき市立総合磐城共立病院)、根本武(福島県地域医療課)
福島県では平成19年12月に相談支援部会が発足し、各拠点病院の相談員が部会委員となり、実務者レベルで顔の見える関係を構築してきたのが強みとのことです。現在は、患者支援団も部会委員に加わり、県担当者もオブザーバーで参加されています。これまで年1回の相談員研修を行ってきたが、今後は年2回に増やしていくことを考えていること、平成28年度から広報ワーキンググループと研修ワーキンググループを立ち上げ、それぞれに活動の充実を図っていること、広報ワーキンググループでは、平成22年度以降使い続けているポスターやチラシの刷新を準備しているとともに、がん相談空白地域である南会津地域にて講演会と出張がん相談を実施したとの報告がありました。
第2部「死を身近に感じながら苦悩している患者・家族を支援するために」
講演「がんスピリチュアル相談を支える相談員の死生観・人生観」
聖路加国際病院リエゾンセンター長、精神腫瘍科部長 保坂隆
精神科医として長年臨床に携わってこられた保坂隆センター長(聖路加国際病院リエゾンセンター)より、相談員の死生観・人生観はどうあるべきか、ご自身の経験を踏まえてお話しいただきました。
ターミナルケアで大切なことは、患者と家族が「ありがとう」と言い合える場をもてるようにすること。そのために、がんの告知という衝撃の段階から適応に至るまでの各段階において適切なサポートを行い、「悪かったこと・よかったことリスト」などを使って、がんになったことの意味を両面から自分自身で気付けるようにすることで、がんになった自分を受け入れた前向きな精神状態にもっていけること。スピリチュアルケアの入り口は、病気になった「原因」を探すのではなく、病気になった「意味」に目を向けさせることが重要である、とのお話がありました。
愛する人に「ありがとう」と言えなかったとき、人が死ぬ時の最大の後悔となること。告知をしないことは患者を傷つけないどころか、患者から家族を遠ざけ患者を一人ぼっちにしてしまうこと。それゆえにターミナルケアでは、残された時間を患者の希望をかなえ、患者と家族がお互いに「ありがとう」と言い合える関係を築くことに使えるようサポートを行うこと。これらの重要性についてもお話がありました。
最後に、がん告知という試練を受けた患者を前向きにする2つの仮説について紹介がありました。いずれの仮説においても、「すべては乗り越えられるよう準備された課題であり、学びの場である。一緒に取り組んでいきましょう」という姿勢で患者に対するとよいとのアドバイスをいただき、講演が終了しました。
【グループワーク】
相談場面のDVDを視聴し支援を考える
グループワークでは、保坂先生の講演を踏まえて、相談場面(患者とその家族の話)を見て、①患者と家族の思いをどう捉え、②望ましい患者・家族の姿は何か、③それを実現するための支援内容、について話し合い、そのまとめた内容をフロア全体で共有しました。
【発表】
いずれのグループも患者本人と家族(娘)の思いにずれがあると考えていました。「患者本人に何を大事にしたいかを話してもらう」「どう生きていてほしいかをそれぞれに話してもらい、双方の思いのずれに気付いてもらう」など、患者本人の思いを表出することを手助けするという意見から、小さい時に母を亡くした体験から生き続けることを非常に強く主張する家族(娘)へのケア、母が亡くなった時点からの振り返りが必要という家族に目を向けた意見まで、さまざまな意見が出されました。
【講評】
講師の保坂センター長よりDVDでの相談場面に対する解説がありました。残された時間については、「患者本人に決めてもらい、全員で応援する」を目標とし、ただ長生きすることを強く主張する家族(娘)に対して母を亡くしたこと、父を亡くしつつあることへのグリーフケアを行うべきとのお話でした。
そして最後に、話題を変えて感情労働である看護師や相談員のバーンアウト予防策についてご紹介いただきました。
総評・閉会あいさつ
総評として、国立がん研究センターがん対策情報センター 若尾文彦センター長より、非常に有意義であったこの日の研修内容を各施設の参加できなかった相談員に伝えてほしい、今回のような他県の相談員と交流する研修会に意味があると感じられたならぜひ今後も続けていってほしい、という2点について参加者へのお願いがありました。
総評の後、今回の開催県である宮城県実行委員から来年の開催県である秋田県代表へバトンタッチがありました。
最後に、東北がんネットワークがん患者相談室専門委員会 藤谷恒明委員長より、閉会のあいさつとして、今回は国立がん研究センターの支援があったが、来年度の秋田は東北がんネットワークから資金援助を得て継続する旨、またその際の協力のお願いがあり、「平成28年度 地域相談支援フォーラム in 東北」は閉会しました。
資料
第1部
- 「患者相談部会の役割」
東北がんネットワークがん患者相談室専門委員会 藤谷恒明委員長PDF - 「青森県がん診療連携協議会相談支援部会のあゆみ」
青森県立中央病院 成田富美子PDF - 「秋田県のがん相談支援 これまでの取り組みと今後の展望」
秋田県がん診療連携協議会がん患者相談部会 高橋直人部会長PDF - 「岩手県情報提供・相談支援部会からの報告」
岩手医科大学附属病院 青木慎也PDF - 「山形県がん診療連携協議会がん患者相談室部会の取り組み」
山形県立中央病院 稲村みどりPDF - 「ステップアップしていくために」
東北大学病院 古山美智子PDF - 「平成28年度地域相談支援フォーラム」
いわき市立総合磐城共立病院 會田悦子PDF
第2部