1.全国がん罹患モニタリング集計
がん対策の立案と評価には、地域、あるいは国レベルでのがんの罹患(新たにがんと診断されること)の把握が不可欠です。わが国では、全国規模での地域がん登録が行われていなかったため、比較的信頼性の高い資料を蓄積しているいくつかの府県の地域がん登録から登録情報を収集し、全国推計値を算出することでがんの罹患状況を把握してきました。全国がん罹患モニタリング集計では2013年集計まで全国推計値を主たる統計として報告しています(2014年集計および2015年集計では、全都道府県のがん登録データの精度が向上したことから、全国合計値を主たる統計として報告しています)。1975~1994年の全国がん罹患集計は、厚生労働省がん研究助成金による「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」班が、1995~2010年の集計は、厚生労働科学研究費補助金第3次対がん総合戦略研究事業「がん罹患・死亡動向の実態把握の研究」(「がんの実態把握とがん情報の発信に関する研究」)班、2011~2012年の集計は厚生労働科学研究費補助金がん政策研究事業「都道府県がん登録データの全国集計と既存がん統計の資料の活用によるがん及びがん診療動向把握の研究」班、2013年の集計は厚生労働科学研究費補助金がん対策推進総合研究事業「都道府県がん登録データの全国集計と既存の資料の活用によるがん及びがん診療動向把握の研究」班、2014~2015年の集計は厚生労働科学研究費補助金がん政策研究事業「都道府県がん登録の全国集計データと診療情報等との併用・突合によるがん統計整備及び活用促進の研究」で罹患データを収集し、国立がん研究センターで解析・公表を行っています。集計結果は、「集計表ダウンロード」で公開されています。2016年から始まった全国がん登録によって、国全体のがん罹患を把握する体制が整いましたが、2015年の集計までは、地域がん登録データに基づき、全国推計値および合計値が公表される予定です。
2.全国がん罹患モニタリング集計に用いたがん登録
全国推計がん罹患データは、集計されている年によって含まれる地域がん登録が異なるため、推計年ごとにデータの質が異なることに注意が必要です。 以下に、全国推計に用いた地域がん登録数と名前、がん登録における、登録の精度指標であるDCO割合と罹患死亡比(IM比※)、診断の正確性に関する指標である、病理診断のある症例の割合を示します。(推計に用いる地域がん登録の基準は、全国がん罹患数の推計方法の(1)を参照してください。) 全国がん罹患推計最新年である2015年値推計に用いた地域がん登録は43登録で、2015年におけるそれらの登録対象地域の人口は、同年の日本の総人口の97%に相当します。
3.全国がん罹患数推計に用いた地域がん登録と登録精度
罹患年 | 推計参加登録 | 精度指標† | 診断精度† | ||
---|---|---|---|---|---|
DCO割合(%) | 罹患死亡比 | 病理診断のある 症例の割合(%) |
|||
数 | 登録名 | 範囲 または平均 |
範囲 または平均 |
範囲 または平均 |
|
1975−1979 | 5 | 宮城/山形/大阪/広島市/長崎市 | 13.0−17.2 | 1.56−1.63 | 59.9−68.7 |
1980−1984 | 7 | 宮城/山形/千葉/大阪/広島市/長崎市/佐賀 | 13.8−15.9 | 1.58−1.70 | 63.2−69.9 |
1985−1989 | 9 | 宮城/山形/神奈川/福井/大阪/鳥取/広島市/長崎県/佐賀 | 13.9−15.4 | 1.78−1.79 | 65.9−67.6 |
1990−1994 | 10 | 宮城/山形/千葉*/神奈川*/福井/大阪/鳥取/広島市/長崎県/沖縄 | 16.6 | 1.87 | 71.2 |
1995−1999 | 11 | 宮城/山形/千葉/神奈川/新潟/福井/滋賀/大阪/岡山/佐賀/長崎県 | 16.7 | 1.70 | 67.1 |
2000 | 11 | 宮城/山形/千葉/神奈川/新潟/福井/滋賀/大阪/岡山/佐賀/長崎県 | 15.1 | 1.80 | 72.4 |
2001 | 10 | 宮城/山形/神奈川/新潟/福井/滋賀/大阪/岡山/佐賀/長崎県 | 14.3 | 1.90 | 73.8 |
2002 | 11 | 宮城/山形/神奈川/新潟/福井/滋賀/大阪/鳥取/岡山/佐賀/長崎県 | 15.4 | 1.90 | 68.2 |
2003 | 13 | 宮城/山形/千葉/神奈川/新潟/福井/滋賀/大阪/鳥取/岡山/広島県/佐賀/長崎県 | 16.8 | 2.01 | 68.1 |
2004 | 14 | 宮城/山形/千葉/神奈川/新潟/福井/滋賀/大阪/鳥取/岡山/広島県/佐賀/長崎県/熊本 | 17.1 | 1.96 | 67.2 |
2005 | 12 | 宮城/山形/千葉/神奈川/新潟/福井/滋賀/鳥取/岡山/広島県/長崎県/熊本 | 14.9 | 2.02 | 74.9 |
2006 | 15 | 宮城/秋田/山形/栃木/千葉/神奈川/新潟/福井/愛知/鳥取/岡山/広島県/佐賀/長崎県/熊本 | 13.4 | 2.05 | 74.2 |
2007 | 21 | 岩手/宮城/秋田/山形/茨城/栃木/群馬/千葉/神奈川/新潟/富山/福井/愛知/滋賀/京都/鳥取/岡山/広島県/佐賀/長崎県/熊本 | 14.6 | 2.06 | 74.3 |
2008 | 25 | 岩手/秋田/山形/茨城/栃木/群馬/千葉/神奈川/新潟/富山/石川/福井/山梨/愛知/滋賀/京都/鳥取/島根/岡山/広島県/山口/愛媛/佐賀/長崎県/熊本 | 13.6 | 2.13 | 75.5 |
2009 | 32 | 青森/岩手/秋田/山形/茨城/栃木/群馬/千葉/神奈川/新潟/富山/石川/福井/山梨/岐阜/愛知/滋賀/京都/兵庫/鳥取/島根/岡山/広島県/山口/徳島/香川/愛媛/高知/佐賀/長崎県/熊本/沖縄 | 13.4 | 2.20 | 76.0 |
2010 | 28 | 北海道/青森/秋田/山形/茨城/栃木/群馬/千葉/新潟/富山/石川/福井/山梨/岐阜/愛知/滋賀/兵庫/和歌山/島根/岡山/広島県/山口/徳島/香川/高知/長崎県/熊本/沖縄 | 12.0 | 2.23 | 78.0 |
2011 | 14 | 山形/栃木/群馬/新潟/福井/愛知/滋賀/島根/岡山/広島/山口/香川/長崎/熊本 | 5.3 | 2.31 | 83.1 |
2012 | 28 | 青森/秋田/山形/福島/茨城/栃木/群馬/新潟/福井/山梨/長野/愛知/三重/滋賀/大阪/奈良/和歌山/鳥取/島根/岡山/広島/山口/香川/愛媛/高知/佐賀/長崎/熊本 | 5.6 | 2.31 | 82.2 |
2013 | 34 | 秋田/山形/福島/茨城/栃木/群馬/千葉/新潟/石川/福井/山梨/長野/静岡/愛知/三重/滋賀/大阪/奈良/和歌山/鳥取/島根/岡山/広島/山口/徳島/香川/愛媛/高知/福岡/佐賀/長崎/熊本/大分/沖縄 | 5.0 | 2.30 | 83.7 |
2014 | 41 | 北海道/青森/宮城/秋田/山形/福島/茨城/栃木/群馬/埼玉/千葉/神奈川/新潟/石川/福井/山梨/長野/岐阜/静岡/愛知/三重/滋賀/大阪/奈良/和歌山/鳥取/島根/岡山/広島県/山口/徳島/香川/愛媛/高知/福岡/佐賀/長崎県/熊本/大分/鹿児島/沖縄 | 4.7 | 2.33 | 83.8 |
2015 | 43 | 北海道/青森/宮城/秋田/山形/福島/茨城/栃木/群馬/埼玉/千葉/東京/神奈川/新潟/石川/福井/山梨/長野/岐阜/静岡/愛知/三重/滋賀/京都/大阪/兵庫/奈良/和歌山/鳥取/島根/岡山/広島県/山口/徳島/愛媛/高知/福岡/佐賀/長崎県/熊本/大分/鹿児島/沖縄 | 4.4 | 2.40 | 84.4 |
4.全国がん罹患数の推計方法
全国がん罹患数の推計は、以下の方法で行っています。(参考:Japanese Journal of Clinical Oncology 1994; 24: 299-304)
- 【精度と推計対象登録】参加登録別の推計年前後を含めた3年間の登録精度(Death Certificate Only, DCO; Death Certificate Notification, DCN; IM比※)の平均を計算する(ただし2003年以降は推計年のみの登録精度)。推計に用いる登録は、1. 全部位(男女計、全年齢)のDCO割合が25%未満、または、DCN割合が30%未満で、かつ、2. IM比が1.5以上とする。なお、2011年以降は、全部位(男女計、全年齢)について1. DCO割合が10%未満、かつ、2. DCN割合が20%未満、かつ、3. IM比が2.0以上を満たす登録とした。
- 【補正前罹患率】推計対象登録((1)の条件で選ばれた登録)の3年間の部位、性、5歳年齢階級別罹患率の算術平均を求め(ただし2003年以降は推計年のみの罹患率)、これを全国罹患率推計値(補正前)とする。
- 【補正前罹患数】性、5歳年齢階級別全国人口に、(2)で得た補正前罹患率を乗じ、全国の部位、性、5歳年齢階級別の全国罹患数推計値(補正前)とする。
- 【推計対象地域の死亡数】人口動態統計より得た、推計対象登録別の部位、性、5歳年齢階級別がん死亡率より、(3)と同様の方法で、部位、性、5歳年齢階級別の全国死亡数推計値を求める。
- 【全国死亡数】人口動態統計より、部位、性別全国死亡数実測値を得る。
- 【補正係数】(5)で得た部位、性別全国死亡数実測値と、(4)で得た推定値との比を計算し、部位、性別補正係数とする。
- 【補正後罹患数と罹患率】(3)で得た補正前罹患数に、(6)で得た補正係数を乗じて、部位、性、5歳年齢階級別の罹患数(補正後)の推定値とする。
※これらの用語については、がん統計の用語集を参照してください。
1975~2001年値:全部位として上記の方法に従って推計した罹患数
2002年値以降:上記の方法に従って推計した部位別罹患数の合計値
2013~2015年の全国罹患推計値には、全国がん登録開始に伴う登録方式変更の影響が含まれます。詳細は「全国がん罹患モニタリング集計」の「2013年罹患数・率報告(平成29年3月)」、「2014年罹患数・率報告(平成30年3月)」、「2015年罹患数・率報告(平成31年4月)」を参照してください。