令和5年6月28日(水)、第18回小児がん拠点病院連絡協議会をオンラインで開催した。全国15の小児がん拠点病院および国立がん研究センターと国立成育医療研究センターの2つの小児がん中央機関代表者が参加した。(出席者名簿)
開会にあたり、国立がん研究センターの中釜斉理事長、国立成育医療研究センターの五十嵐隆理事長より挨拶があった。また、厚生労働省健康局がん・疾病対策課の上野琢史課長補佐より挨拶があった。
報告事項
1.小児がん中央機関からの報告
小児がん中央機関からの報告①(資料1-1)
松本公一センター長(国立成育医療研究センター小児がんセンター)より第4期がん対策推進基本計画について報告された。
- 2023年3月28日に閣議決定された第4期がん対策推進基本計画では、これまで高齢者のがん対策にまとめられていた小児がんに関する記述が、「①小児がん及びAYA世代のがん対策」「ライフステージに応じた療養環境への支援」として個別に取り上げられた。
- 小児がん拠点病院で診療される小児がん患者は、日本全体のおよそ40%にとどまっており、小児がん拠点病院のみに小児がん患者を集約化することは困難である。連携病院の中で、患者数の比較的多い施設(あるいは療養環境が充実した施設)での療養環境をより充実させることにより、日本における小児がん診療全体の質向上と底上げを目指す。
小児がん中央機関からの報告②(資料1-2)
井上真奈美先生(国立がん研究センターがん対策研究所)より、情報提供・相談支援、及び院内がん登録と研修について報告された。
- がん情報サービスについて、全体としては毎月12万件ほどアクセスがあり、小児の疾患に関係する情報へのアクセスが多い。疾患についてだけでなく、療養や復学など社会的な側面に関するページへのアクセスも多く見られた。引き続きアクセスしやすい情報提供を検討していく。
- 院内がん登録の集計について、2016-2017年の報告書について公表済であり、2018-2019年の報告書については現在集計値の分析・データの確認を進めており作業が済み次第公開予定。
- 2022年8月に出された「小児がん拠点病院等の整備に関する指針」の中で、小児がん拠点病院における「院内がん登録実務者の配置」の要件について、小児病院では症例数に限界があるため、一般的な院内がん登録実務中級者認定の取得・更新が困難であることから、小児がん拠点病院等で勤務する院内がん登録実務者用に【中級者相当】の技能を取得するための研修・認定試験の整備を国立がん研究センターと国立成育医療研究センターで協議しており、今年度中に研修・試験が実施できるよう準備が進められている。
2.相談支援部会からの報告(資料2)
鈴木彩医療社会事業専門員(国立成育医療研究センター医療連携・患者支援センター)より相談支援部会について報告された。
- 「第4期がん対策推進基本計画について」「病気療養中等の児童生徒に対するオンデマンド型の授業配信を可能とする制度改正について」「小児がん連携病院(類型1)の層別化について」「各ブロックの年間計画」について取り上げた。
- 今後の小児がん対策に相談員の視点からの意見を伝えていけるような取り組みを継続していくため、相談支援体制課題検討ワーキンググループの設置が提案された。年2~3回の活動が予定されている。
3.看護部会からの報告(資料3)
嶋田せつ子看護部長(国立成育医療研究センター看護部)より看護部会について報告された。
- 第11回小児がん拠点病院連絡協議会看護部会をオンラインで開催し、第一部では3施設に「CAR-T細胞療法の実際」「栄養管理の実際」「家族会の開催における当センターでの取り組み」について発表いただいた。
- 第二部の看護部長会議では、持ち込み食に関する意見交換を行った。リーフレットの改定については行わず今年度も現行のものを引き続き使用することとした。
4.病理部会からの報告(資料4)
義岡孝子統括部長(国立成育医療研究センター病理診断部)に代わって松本公一センター長(国立成育医療研究センター小児がんセンター)より、病理診断部会について報告された。
- 中央病理診断症例数の推移について、2022年は1192例、2023年5月までは517例の依頼があり、ほぼ例年通り日本全体をカバーしているものと思われる。
- 遺伝子解析件数についてはここ2年程ではさほど変化していないように見られる。
- 中央病理診断への「小児固形腫瘍検体提出の手引き(第2.2版)」に沿った検体提出の協力について要請があった。
5.緩和ケア部会からの報告(資料5)
余谷暢之先生(国立成育医療研究センター緩和ケア部)より、緩和ケア部会について報告された。
- 第1回緩和ケア部会は2023年7月14日にオンラインで開催予定。
- 診療報酬改定に向けて日本小児総合医療施設協議会(JACHRI)から小児の末期心不全における要件について提案したところであり、小児特有の課題に対応できるような緩和ケア診療加算について部会の中で提案・検討をしていく。
6.各ブロックからの報告(資料6-1、資料6-2)
昨年度の事業報告と今年度の事業計画について、各ブロックより報告された。
北海道ブロック代表・北海道大学病院真部淳先生
東北ブロック代表・東北大学病院笹原洋二先生
関東甲信越ブロック代表・神奈川県立こども医療センター栁町昌克先生
東海・北陸代表ブロック代表・静岡県立こども病院渡邉健一郎先生
近畿ブロック代表・京都府立医科大学家原知子先生
中国・四国ブロック代表・広島大学病院唐川修平先生
九州・沖縄ブロック代表・九州大学病院大賀正一先生
7.事前アンケート結果の報告(資料7)
米田光宏副センター長(国立成育医療研究センター小児がんセンター)より、小児がん拠点病院連絡協議会事前アンケートの結果について報告された。
- 小児がん病棟における入院患者の家族の付き添いの状況について、各拠点病院へアンケートを行った。
- 家族の付き添いについて、「付き添いを必須としている」施設数はコロナ流行前後で変化はなかった。理由の大半はマンパワー不足。それ以外にも、構造的・機能的問題や慣習であるとの回答もあった。
- 付き添い者の交代や病院外への外出可否については大きく変化が見られた。コロナ流行以前では大半の施設で外出は許可されていたが、コロナ禍においては外出可とする施設が全体の3割程度となり、交代・外出について条件を設ける施設が大幅に増えた。
討議事項
1.相談支援部会部会長選出について(資料8)
鈴木彩医療社会事業専門員(国立成育医療研究センター医療連携・患者支援センター)より、相談支援部会長選出についての提案がなされた。
- 相談支援部会において、国立成育医療研究センター血液腫瘍科診療部長富澤大輔先生が部会長に選出され承認された。
- 今回の協議会においても承認の可否について投票が行われ、承認された。
2.小児がん連携病院の指定について
松本公一センター長(国立成育医療研究センター小児がんセンター)より小児がん連携病院の指定についての報告なされた。(資料9-1)
- 現在の小児がん連携病院の類型1を1-A、1-Bと層別化を行う意義として、小児がん診療全体の質向上と底上げを目指し、将来的には1-A施設で何らかのインセンティブが得られないか検討したいとのことが挙げられているが、指定要件における症例数について、県別発症数や年間新規患者数は年ごとに変化がみられることから、一律な基準を作成することは困難であり、ブロック内での地域の実情に応じた基準を作成することがこれからの課題となる。
- 小児がん連携病院の新規指定は9月1日に行うが、それ以降に出てくるデータを考慮し2024年1月に再度検討したい。
続いて、米田光宏副センター長(国立成育医療研究センター小児がんセンター)より、小児がん拠点病院連絡協議会事前アンケート2の結果について報告された。(資料9-2)
- 各ブロックにおける類型1-Aの『20症例』のカウント基準について、期間に関してはほとんどの施設で直近3年間を対象としていた一方で、九州沖縄ブロックでは前年度1年間のデータを対象としていた。使用データに関しては北海道ブロックが学会登録のデータを使用したのに対し他のブロックでは情報公開や現況報告のデータを用いていた。また、カウント方法の詳細について、直近3年間のうち症例数の多い2年の平均を取るなど各ブロック工夫していた。
- 地域実情に考慮し特例として類型1-Aを設ける場合の条件については、診療機能を重要視する意見が多かった。次いで診療従事者の配備、医療設備、診療実績などを重視する意見が挙げられた。
3.研究開発・臨床研究等の推進について(資料10)
小川千登世先生(国立がん研究センター中央病院)より、小児がん拠点病院における治験と臨床研究の実施状況について報告・提案があった。
- 令和4年度QI松本班で調査された治験の実施数や治験登録患者数の結果より、施設ごとの治験の経験数はあまり多くないと考えられる。小児がんに携わるCRCの数は多くの施設で5人以上いるが、CRC一人当たりの治験実施数はほとんどの施設で1未満。
- DCT(分散型治験・リモート治験)について小児の分野においても導入していきたいと考えており、これについて意見を求めた。
4.その他として小児がんゲノム医療の進捗について(資料11)
- 現在開発が進められているがんゲノムプロファイリング検査において小児がん診療に有用な遺伝子を含めたパネル(TOP2)が開発された。結果については現在論文化を進めている。
- 今後の課題として、中央病理診断との連携や小児がんに習熟したエキスパートパネル体制の構築について挙げられた。また、がんゲノムプロファイリング検査そのものに限界があることや診療提供体制との不一致、薬剤の到達性について引き続き検討が必要であるとした。
- 厚生労働省が主導する全ゲノム解析等実行計画について、令和5年度よりJCCGの臨床研究と連携して解析を進めていく。