1.下痢について
下痢とは、水分が過剰な便や固形ではない便が出て、かつ排便の回数が増加した状態です。個人差はありますが、一般的に下痢の場合の排便回数は1日3回以上とされます。下痢が続くと脱水や栄養障害を起こしたり、肛門の周りに痛みや炎症が起こったりして、心身ともに負担がかかります。重度の下痢の場合は、脱水などによって命に関わる状態になる場合もあるため、速やかに対処することが大切です。
2.原因
がんの治療に伴う下痢は、薬物療法によって起こることがあります。免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブなど)、細胞障害性抗がん薬(イリノテカン、フルオロウラシル(5-FU)など)、分子標的薬(アベマシクリブなど)が関係することがあります。
また、腹部・骨盤内への放射線治療、大腸がんなどの手術によって起こることがあります。その他、感染症、腸管が狭くなること、重度の便秘によって腸の内圧が高くなり腸液などが増加すること、がんそのもの、食事内容、ストレスなどによって起こることもあります。
3.下痢が起こったときには
まずは原因をみつけるために問診や検査を行い、下痢の原因や状況に応じた治療を行います。
薬物療法による下痢の場合
がんの薬物療法による下痢には、投与から24時間以内に起こる早発性下痢と、投与から数日~10日ほど経ってから起こる遅発性下痢があります。使用しているがんの治療薬の種類や下痢の程度に応じて、症状を軽減する薬を使います。また、原因と考えられるがんの治療薬の減量などを担当の医師が慎重に検討します。
放射線治療による下痢の場合
下痢の程度に応じて、症状を軽減する薬を使います。多くは、治療が終わると徐々に落ち着いていきますが、放射線治療終了後、数カ月以上経ってから難治性の下痢が起こることもあります。
感染症による下痢の場合
一般的には、脱水を予防する、整腸剤を使用するなどの対症療法で様子を見ますが、感染源によっては抗菌薬を使うこともあります。
その他の場合
原因に応じた治療を行います。がんそのものによる下痢の場合には、下痢の症状を軽減する薬を使うとともに、症状とうまく付き合いながら生活をしていく工夫をします。
下痢の症状を軽減するための薬には、腸のぜん動運動を抑える薬(ロペラミドなど)、腸への刺激を抑える薬(次硝酸ビスマスなど)、便の中の水分を吸収して便を固める薬(天然ケイ酸アルミニウム)、乳酸菌などを含む整腸薬(ラクトミン製剤など)などがあります。また、重度の場合、腸を休めるために、一時的に食事を止めるように担当の医師から指示があることもあります。
4.本人や周りの人ができる工夫
下痢の原因によっては、本人や周りの人が工夫できることもあります。
1)水分摂取
下痢が続くと水分とともにナトリウムやカリウムなどの電解質も奪われるため、脱水には十分に気をつけ、水分や電解質を含んだ飲みものの摂取を心がけましょう。カフェインを含む飲みものは避けて、水や経口補水液、スポーツドリンク、スープ、みそ汁などからその時々で口に合うものを選ぶとよいでしょう。
2)食事の工夫
おかゆなどの消化のよい食品を食べるように心がけ、高脂肪食や乳製品、食物繊維の豊富な食品、アルコールや刺激物は控えましょう。胃腸への負担を考え、冷たいものではなく、常温に近いものにするとよいです。
ビフィズス菌、乳酸菌などの生きた微生物(プロバイオティクス)を含む食品は、おなかの調子を整え、放射線治療などに伴う下痢を軽減することがあるといわれています。
3)皮膚のケア
排便回数が増えることやアルカリ性の腸液を含む便の影響により、肛門の痛みや肛門周りの皮膚の炎症が起こることがあります。排便後は温水洗浄便座などを使って、お湯でやさしく洗い流し、肛門の周りの皮膚を清潔に保つことを心がけましょう。トイレットペーパーを使うときは、やさしく押さえるように拭き取るとよいです。皮膚を保護するオイルを含む市販の洗浄剤をトイレットペーパーに含ませて押さえるように拭くと、刺激が緩和されて皮膚の痛みや炎症の予防になります。
肛門の痛みや肛門の周りの皮膚に炎症が起こった場合は、担当の医師や看護師に早めに相談しましょう。肛門の周りに使うことができる軟こうなどの薬を処方してもらうこともできます。
4)その他の工夫
下痢が続くと体力を消耗するため、心身ともに安静を保ち、十分な休息をとるようにしましょう。おなかを温めると、腹痛の緩和につながります。
外出が必要なときは、トイレの場所をあらかじめ確認しておいたり、軟便用のパッドをあてておいたり、念のための着替えを用意しておくなどしてもよいでしょう。
5.こんなときは相談しましょう
下痢が続く場合には、医療機関に連絡してください。特に高齢の人は、脱水になりやすいため、早めに相談・受診しましょう。「どのような症状のときに医療機関に連絡したらよいか」について、担当の医師と前もって相談しておきましょう。また、体がつらくて飲むことさえ難しい場合も、我慢せずに相談してください。
1日あたりの下痢の回数やどれくらいの期間続いているか、便の色や状態、量、血が混じっているかどうか、食事や水分の内容・量、排尿状況などを記録しておくと、診断や治療の参考になります。
6.関連情報
7.参考資料
- 日本がん看護学会監.病態・治療をふまえた がん患者の排便ケア.2016年,医学書院
- 日本緩和医療学会編.専門家をめざす人のための緩和医療学(改訂第3版).2024年,南江堂
- 森田達也ほか監.緩和ケアレジデントマニュアル 第2版.2022年,医学書院
- 日本消化管学会編.便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症.2023年,南江堂
- 佐々木常雄監.がん薬物療法看護ベスト・プラクティス 第3版.2020年,照林社
- National Cancer Instituteウェブサイト.https://www.cancer.gov/,Gastrointestinal Complications (PDQ®)–Health Professional Version;2025(閲覧日:2025年9月18日)
- American Cancer Societyウェブサイト.https://www.cancer.org/,Diarrhea;2024(閲覧日:2025年9月18日)
- American Cancer Societyウェブサイト.https://www.cancer.org/,Dehydration and Lack of Fluids;2024(閲覧日:2025年9月18日)
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