1.呼吸困難・咳・痰について
呼吸困難とは、「息切れや息苦しさ」などの、呼吸をするときの不快な感覚のことです。肺がんの人に多くみられますが、そのほかのがんや疾患でも起こることがあります。
咳に痰がからむかどうかは、呼吸の症状を把握し、原因を探るために重要です。咳や痰は、がんの治療開始前からみられることがありますが、薬物療法をしているときに、痰がからまない乾いた咳が続く場合には、重大な副作用である間質性肺炎の可能性もあるため注意が必要です。
2.原因
1)呼吸困難
がんそのもの(肺がんなど)や、がんの治療が呼吸困難の原因となることがあります。
(1)がんそのものが原因となるもの
- 肺がんなどにより気道(空気の通り道)が狭くなる
- がんの進行に伴い肺の外側(胸腔)に水がたまる(悪性胸水)
- 肺炎の合併
- 体力低下
(2)がんの治療が原因となるもの
- 放射線治療によって肺の組織に炎症が起こる放射線肺臓炎
- 細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などによる薬剤性肺障害
(3)そのほか
- 不安や精神的ストレスなど
2)咳や痰
がんそのもの(肺がんなど)によるものや、がんの治療による放射線肺臓炎、薬剤性肺障害によるものなどがあります。細菌やウイルス感染による風邪や肺炎、誤嚥、持病(心不全、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患[COPD]など)によって症状が出ていることもあります。
間質性肺炎による呼吸困難や咳
間質性肺炎は、肺胞の壁やその周辺の炎症のために酸素を取り込みにくくなり、血液中の酸素濃度が低くなる状態で、早めに対処しないと症状が重くなる可能性があります。細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などによる薬物療法の重大な副作用の1つです。間質性肺炎がみつかった場合は、まず原因と思われる薬を中止します。症状が改善しない場合は、ステロイドや免疫抑制剤などの薬を使うこともあります。
3.呼吸困難になったとき、咳・痰が出るときには
1)呼吸困難への対応
原因によって治療法は異なります。そのため、まずは原因をみつけるための問診や検査を受けます。
(1)酸素吸入
呼吸困難があり、検査で血液中の酸素が少ないとわかった場合には、酸素吸入を行い、酸素不足により低下していた体の機能を改善させます。酸素吸入には、鼻カニュラという鼻にあてる細いチューブや、口や鼻に密着させる酸素マスクなどを使います。
なお、血液中の酸素が増えても、呼吸困難の症状が消えない場合があります。酸素吸入を行っても苦しいと感じる場合は、医師や看護師に伝えましょう。
(2)胸腔ドレナージ
肺の外側(胸腔)に水がたまっている場合は、局所麻酔をして皮膚を小さく切開し、チューブを挿入してたまった水を外に出します(胸腔ドレナージ)。たまった水が抜けて、呼吸が十分楽になったことが確認できたらチューブを外します。
(3)薬による治療
医師が慎重に判断し、モルヒネなどの医療用麻薬や、ステロイドなどを使うことがあります。
(4)リハビリテーション
病状が比較的落ち着いている場合には、看護師や理学療法士のサポートのもとで、運動、呼吸の仕方(呼吸法)、痰の出し方(排痰法)などについての呼吸リハビリテーションを行うことがあります。
2)咳や痰が出るときには
咳の症状がつらいときには、咳を抑えるための薬(デキストロメトルファンやゲーファピキサントクエン酸塩など)や、医療用麻薬(コデインやモルヒネなど)を使うことがあります。
痰は、気付いたときにティッシュなどに吐き出し、ためないようにすることが大切です。痰がかたくなかなか出せない場合には、痰を出しやすくする薬を使うこともあります。
4.本人や周りの人ができる工夫
1)室内環境の調整
換気をよくし、窓を開けたり扇風機を回したりして顔に心地よい風があたると、症状が軽減することがあります。強すぎる風が顔にあたるとかえって息苦しく感じることもありますので、弱い風から始めて、好みの強さに調節していくとよいでしょう。
室温は寒いと感じない程度にやや低めにし、部屋が乾燥している場合は加湿器を使用すると、快適さが増すといわれています。
たばこの煙は症状を悪化させることにつながります。たばこの煙は避けましょう。
2)姿勢や衣類の工夫
背中を起こせるベッドや枕・マットレスなどを利用して上半身を起こし、膝の下にクッションなどを入れて曲げるなど、楽だと思える姿勢をとります(図1)。数時間おきに姿勢を変えると、痰が出やすくなり、呼吸が楽になることにもつながります。衣類をゆったりしたものにすることもおすすめです。

3)呼吸の仕方の工夫
息苦しいと感じるときには、慌てずに、できるだけリラックスして息を整えるようにします。息を吸うときにおなかをふくらませて吐くときにへこませる「腹式呼吸」を行うと、肺に多くの空気が取り込まれ、症状が和らぐことが期待できます。鼻から息を吸い、口をすぼめてゆっくり吐き出す「口すぼめ呼吸」も有効なことがあります。
4)痰をこまめに出す
痰を出すことは、感染症を予防したり、呼吸を楽にしたりするために大切です。うがいをして口の中をうるおすと、痰のねばりが弱くなり、痰が出しやすくなります。
5)食事の調節や便秘の予防
呼吸が落ち着いている楽なときに食べるようにします。また、食べやすく、飲み込みやすくするためにとろみをつけた食品を試してみるのもよいでしょう。
呼吸困難により運動や食事の量が減ると、便秘になりやすくなります。便秘になると、排便時に力むため規則正しい呼吸ができず、呼吸困難の症状が強くなるといわれています。水分を多めにとる、おなかをやさしくマッサージする、軽い運動をするなど、便秘の予防を行いましょう。
6)心のケア・十分な睡眠
不安は呼吸困難を強めるといわれています。不安や精神的ストレスが原因となっている場合には、身近な人に話を聞いてもらったり、場合によっては心のケアの専門家に相談したりすることが効果的です。夜は、外からの光や音が入りにくいように防音や遮光の機能があるカーテンを使うなどの工夫をして、十分休みましょう。
5.こんなときは相談しましょう
呼吸困難が急に起こった場合は、ただちに受診する必要があります。緊急度の高い病気が原因となっている可能性もあり、一刻を争います。一方で、徐々に息が苦しくなってきた場合でも、がんによるものだけでなく、心不全や肺炎などさまざまな可能性が考えられるため、医師による診断と治療が必要です。
水分や食事をとった後、むせたり、咳や痰が多くなったりする場合には、誤嚥したおそれがあるため、すぐに医師や看護師に伝えましょう。
症状の現れた時期や頻度、咳に痰がからむかどうか、痰の色、発熱や胸の痛みなど別の症状の有無、日常生活で支障が出たことなどをメモしておくと、診察の際に医師に状況を伝えやすくなります。
6.関連情報
7.参考資料
- 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会編.進行性疾患患者の呼吸困難の緩和に関する診療ガイドライン 2023年版 第3版.2023年,金原出版.
- 日本緩和医療学会編.専門家をめざす人のための緩和医療学改訂第3版.2024年,南江堂.
- 日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 第3版作成委員会編.薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第3版 2025.2025年,メディカルレビュー社.
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構ウェブサイト.https://www.pmda.go.jp/index.html,重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎.2019年(閲覧日:2025年9月23日)
- American Cancer Societyウェブサイト.https://www.cancer.org/,Shortness of Breath;2025(閲覧日:2025年9月23日)
- American Cancer Societyウェブサイト.https://www.cancer.org/,Swallowing Problems;2024(閲覧日:2025年9月23日)
- Cancer Research UKウェブサイト.https://www.cancerresearchuk.org/,About shortness of breath;2023(閲覧日:2025年9月23日)
- Cancer Research UKウェブサイト.https://www.cancerresearchuk.org/,Fluid on the lungs (pleural effusion);2023(閲覧日:2025年9月23日)
- Cancer Research UKウェブサイト.https://www.cancerresearchuk.org/,Causes of breathlessness in people with cancer;2023(閲覧日:2025年9月23日)
- 森田達也 他 監修.緩和ケアレジデントマニュアル第2版.2022年,医学書院.
※本ページの情報は、「『がん情報サービス』編集方針」に従って作成しています。十分な科学的根拠に基づく参考資料がない場合でも、有用性が高く、身体への悪影響がないと考えられる情報は、専門家やがん情報サービス編集委員会が評価を行ったうえで記載しています。
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