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Q1 末梢神経障害にはどのようなものがありますか?がんの治療中にみられる症状を教えてください。
A1末梢神経障害には感覚神経障害、運動神経障害、自律神経障害の3種類があります。がんの治療中にみられるしびれは多くの場合、末梢神経障害によるもので、「手足がビリビリ、ジンジンする(感覚がおかしい)」「何かに少し触れただけで痛くてビリッとする(感覚が強い)」「手袋をはめているような感じがする(感覚が鈍い)」「手足に力が入りにくい」など、症状はさまざまです。
また、「衣服のボタンが留めにくくなった」「つかんでいた物をよく落とすようになった」「文字が思うように書けなくなった」「うまく歩けなくなった」「つまずくことが多くなった」「飲み込むのが困難になった」などの変化はしびれによって起こっている場合があります。 -
Q2 しびれはどうして起こるのですか?
A2しびれの原因はさまざまです。がんやがんの治療が原因で起こるしびれには、がんによる神経の圧迫やがんの転移による神経の障害、薬物療法に使う薬の副作用によるものなどがあります。しびれが起こりやすい薬としては、細胞障害性抗がん薬の白金製剤(シスプラチン、オキサリプラチンなど)、タキサン系製剤(パクリタキセル、ドセタキセルなど)、ビンカアルカロイド系製剤(ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビンなど)、分子標的薬のボルテゾミブ、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体薬などが知られています。
なお、がんやがんの治療以外の原因でしびれが起こったり、悪化したりすることもあります。 -
Q3 しびれはいつまで続きますか?ずっと残りますか?
A3手足のしびれ、指先や腕の感覚がないようなしびれ、口のしびれなどは、いつまで続くのかとても不安になることもあるでしょう。残念ながら、しびれは個人差が大きく、受けた治療の内容や症状によっても変わるため、はっきりしたことはいえません。例えば、がんの薬物療法の副作用で起こるしびれの場合、投与開始から数週間後、または数回目の投与後に現れることが多いとされています。ただし、しびれの症状が現れる時期や、回復までの期間にはかなりの個人差があります。
実際、がんの治療を終えた後からゆっくり改善する場合がある一方で、人によってはなかなか治らないこともあります。数カ月から1年以上の長期間にわたって続くこともあるため、しびれの症状が出た場合はすぐに担当医に詳細を伝えて相談するようにしましょう。症状の原因や程度を検討し、担当医や薬剤師、看護師などと相談しながら、最適な対処方法を選んでいくことが大切です。
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Q4 しびれを薬で治す方法はありますか?
A4がんの薬物療法の副作用によるしびれに対して、有効な予防法や治療法は十分に確立されていません。したがって、薬で治す方法があるとはいえないのが現状ですが、しびれの原因や程度に応じて、しびれを和らげるための薬を補助的に使うことがあります。例えば、抗うつ薬(デュロキセチンなど)、抗けいれん薬(プレガバリン、ミロガバリンなど)、ビタミンB12、漢方薬などです。しびれに伴う痛みが強い場合は、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)やオピオイド(医療用麻薬)など痛み止めの薬を使うこともあります。また、がんの薬物療法の副作用でしびれが起こった場合、症状の程度によっては治療法の変更(薬の減量や変更、休薬など)を検討することもあります。その際は、薬の治療効果としびれ(副作用)による生活への影響のバランスを十分に考慮し、担当医や薬剤師と相談しながら慎重に自身に合った治療方法を探していきます。がんの治療中に起こるしびれへの対処方法や、しびれを改善したり、症状を軽くしたりするためにできる工夫については、以下の関連情報をご覧ください。
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Q5 しびれは治療によって、どの程度よくなりますか?症状がつらく、がんの薬物療法を継続するべきかどうか迷った場合はどうすればよいですか?
A5がんの薬物療法の副作用によるしびれに対して、有効な予防法や治療法は十分に確立されていません。症状が長く続く場合や、日常生活に大きく影響する場合もあるため、どの程度まで回復するかについては何ともいえないのが現状です。しびれの程度や感じ方は個人差が大きく、人によって異なります。しびれのために生活に支障が生じていると感じたときはすぐに担当医に相談するようにしてください。我慢してしまうと医療者も気がつかずに、さらに状況が悪くなることがあります。
このままがんの薬物療法を続けるかどうか、日常生活を優先させるかどうかはその都度、担当医や薬剤師、看護師などと一緒によく考えて、治療法を選んでいきましょう。 -
Q6 日常生活で困っていることがあります。よい解決策はないですか?
A6日常生活の中の小さな工夫が解決策になることがあります。周りの人にサポートしてもらうことも考えながら、自身の状況にあった解決方法をみつけていきましょう。
診察では、しびれが原因で困っていることを、医師、看護師、薬剤師などに遠慮なく具体的に伝えましょう。話すことで解決のヒントが得られる場合があります。また、これまでのしびれと違う感覚や変化があった場合もすぐに相談するようにしてください。
周りの人は本人の様子に注意しながら、気になる変化があれば、必要に応じて本人に確認したり、病院に相談したりしましょう。本人が気づいていなかったり、気づいていても我慢したりしていることもあります。
がんの治療中に起こるしびれへの対処方法や、しびれを改善したり、症状を軽くしたりするためにできる工夫については、以下の関連情報をご覧ください。 -
Q7 日常生活の中で工夫できることがあれば教えてください。
A7- 手足の曲げ伸ばしや散歩、ラジオ体操など、無理のない運動をできる範囲で取り入れるようにします。
- しびれによって温度を感じる感覚が鈍くなり、やけどをすることがあります。鍋ややかん、どんぶりや湯飲みなどをつかむときには直接触れないようにします。
- 低温やけどにも気をつける必要があります。湯たんぽなどは低温で短時間の使用を心がけます。
- しびれが強いときは手に持った物を落としてしまうことがあります。慎重に行動するようにします。
- しびれによりペットボトルなどのフタが開けにくいことがあります。オープナーやタオル、滑り止めを使うと開けやすくなります。
- しびれによって運動神経や感覚神経が鈍くなり、筋力も低下するため、転びやすくなります。階段、段差、敷物には特に気をつける必要があります。できるだけ脱げにくい履物(かかとが覆われた靴など)や滑り止めの付いている履物を使用し、できるだけ床にものを置かないようにします。
- 衣服や靴下はきつすぎると血行が悪くなって症状が悪化することがあります。ゆとりのあるものを着用するようにします。
- 手のしびれがある場合、衣服のボタンを面ファスナーに変えると着替えが楽になります。便利グッズなども活用して作業が楽になる方法を考えます。
しびれの症状例や解決策の例や、療養生活を支える社会制度やサービス、福祉用具などの情報が掲載されています。 -
Q8 周りの人に症状をどのように伝えたらよいですか?
A8しびれによってできなくなったこと、困っていること、つらいことなどを具体的に周りの人に伝えましょう。例えば、「字がきれいに書けなくなった」「歩きにくい」「パソコンを打つのに時間がかかる」「料理するのがつらい」「ドアノブがうまく握れない」「車の運転が不安」などあなたの実際の状況を詳しく伝え、今後どうしたいのか、どんな協力が欲しいのかについて相談してみましょう。
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Q9 周りの人ができることはありますか?
A9協力できることはいろいろあります。まずは、その人がどのようなことに困っていたり、不安を感じたりしているかを把握しましょう。「ペットボトルやビンのフタを開ける」「着替えを手伝う」「転ばないように支える」など、ほんの少しの手助けでも日常生活が楽になることは多いといえます。本人にも確認しながら、あなたが手伝えることを伝えていきましょう。また、変化や異変に気づいた場合は、必要に応じて本人に伝えたり、病院に相談したりしましょう。
関連情報
参考資料
- 日本がんサポーティブケア学会編.がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版.2023年,金原出版.
- 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会編.患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド 増補版.2017年,金原出版.