1.肝臓について
肝臓は腹部の右上にある人体で最大の臓器です。肝臓の下面からは、門脈(胃や腸から吸収した栄養を多く含む血液を肝臓に運ぶ静脈)と肝動脈(豊富な酸素を含む血液を肝臓に運ぶ動脈)が流入します。肝臓に入った血液は、肝静脈を通って下大静脈へ流れ出ていきます(図1)。
肝臓の主な役割は、門脈から流入した血液に含まれる栄養を代謝して体に必要な成分に変えること、代謝の際に生じた物質や摂取した有害物質を解毒して排出すること、脂肪の消化を助ける胆汁をつくることです。胆汁は、胆管を通って胆のうに入ったのち、十二指腸に送られます。
2.肝芽腫とは
原発性肝腫瘍は肝臓から発生した腫瘍です。小児の肝腫瘍は小児の悪性腫瘍の中で1%程度のまれな病気です。国際的な発生頻度は、14歳以下10万人当たり年間2.4人程度であり、わが国の全国規模の登録でも年間50~70例程度となっています。
小児の肝腫瘍の80%以上は、肝芽腫と呼ばれる肝細胞になるはずの未熟な細胞から発生した悪性腫瘍です。発症年齢は低く、多くの場合3歳までに発症します。肝芽腫の多くは化学療法の効果が高く、手術との組み合わせにより70%程度の5年生存率が期待できます。
肝芽腫は肺に転移しやすく、初めて見つかった時点で約20%に肺転移が見られます。一方で、リンパ節転移は非常に起こりにくいとされています。
肝細胞のがん化により発生した肝細胞がんは、通常は肝芽腫よりも高い年齢(多くは小学生以上)に発症します。小児肝腫瘍の登録例中3~5%程度と発生頻度は少ないですが、5年生存率は25%程度と低くなります。
小児の肝腫瘍にはこのほかにも肝未分化胎児性肉腫のような比較的まれな悪性腫瘍や、血管腫、巣状結節性過形成のような良性の病変があります。
3.組織型分類(がんの組織の状態による分類)
小児の肝腫瘍は、肝細胞や胆管細胞を発生母地とする上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍に分かれます。代表的な上皮性腫瘍として肝芽腫、肝細胞がんがあります。非上皮性腫瘍には肝未分化肉腫、横紋筋肉腫、悪性ラブドイド腫瘍などがあります。
肝芽腫はさらに胎児型、胎芽型、上皮・間葉混合型などに分かれます。胎児型のうち純胎児型と呼ばれる腫瘍は予後が非常に良いことが知られています。
4.症状
肝芽腫は多くの場合、腹部腫瘤(腹部のしこり)以外の症状はなく、腹痛を訴えることはまれです。一方で、腫瘍内出血や腫瘍破裂により出血性ショックに陥ることがあります。これらは外傷をきっかけに起こることもありますが、明らかな原因が認められないことも少なくありません。
肝芽腫は巨大な腫瘍として発見されることもありますが、急性・慢性肝不全に陥ることは非常に少なく、肝臓の機能は腫瘍がかなり進行した状態になるまで維持されます。
5.発生要因
肝芽腫の発生リスクが高くなる場合として、次の3つがあげられています。
- 先天的な腹壁異常と大きな⾆を主症状とするBeckwith-Wiedemann症候群
- 家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)
- 出生体重1,500g未満の低出生体重児
一方、肝細胞がんの発生リスクが高くなる要因として、次の2つがあげられています。
- B型肝炎ウイルス陽性
- 胆汁性肝硬変やチロシン血症などの特定の疾患により肝臓に損傷を受けている