1.院内がん登録とは
院内がん登録は、国が指定するがん診療連携拠点病院等を中心に、全国約850病院で行われているもので、各施設でがんの診療を行ったすべての患者さんのデータを全国共通のルールに従って登録するものです。
登録するデータは、がんの部位や進行の程度、診断の方法、治療の方法とその結果などの105項目です。氏名、住所、生年月日なども集められますが、施設の外に出す際には、匿名化されます。
院内がん登録を行っている病院では、登録した院内がん登録データを用いて、がんの診療状況の評価等を行ったり、情報を公表したりします。また、登録データは、国立がん研究センターに提出します(図1)。
国立がん研究センターでは、各病院から提出されたデータを用いて、全国の病院で行われたがん診療の状況を集計、分析し、その結果を「院内がん登録全国集計」「院内がん登録生存率集計」として公表しています。
「院内がん登録全国集計」は、各病院で毎年新たに院内がん登録に登録されたデータを集計、分析した報告書で、医療機関ごとのがんの診療数や進行度、行われた治療など、詳細な情報を知ることができます。がん情報サービスでは、「院内がん登録全国集計結果閲覧システム」を公開し、その内容を誰でも簡単に検索し閲覧できるようにしています。
「院内がん登録生存率集計」は、全国、都道府県別、施設別、がんの種類別に、10年、5年、3年生存率を算出したもので、これによって各がんの病期ごとの生存率が分かります。この内容の一部も、がん情報サービスでは「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」から閲覧可能となっています。
また、「相談先・病院を探す」に掲載されている、がん診療連携拠点病院などの「がんの種類」のページから「がんの名称」をクリックすると、各病院の院内がん登録件数を閲覧することができます。
2.院内がん登録の使われ方
院内がん登録データは、詳しく分析することでがん医療の質の向上やがん対策に活かすことができ、主に病院や行政機関で活用されます。また、病院ごとのがん診療の状況が詳しく分かることから、がん患者さんやその家族にとってもとても有用なデータです。
ここからは、病院、国・都道府県等の行政、がん患者さんやそのご家族等、研究利用に分けて、院内がん登録の活用方法の例を紹介します。
病院
院内がん登録を行っている病院では、自施設の院内がん登録データから、すべてのがんの診断、治療やその結果など、自施設のがん診療の状況を一括して把握し、見直すことができます。また、他施設のデータと比較することにより、自施設の特徴を理解し、よりよいがん診療を行うことに役立てることができます。
国・都道府県等の行政
国や都道府県等の行政機関では、「院内がん登録全国集計」や「院内がん登録生存率集計」を用いて、全国や各地域の病院におけるがん診療の状況の把握、分析、評価やがん対策の企画立案、推進等を行っています。
例えば、どこに住んでいても標準的ながん医療を受けられるよう、国や都道府県が、質の高いがん診療を行う病院を指定し、適切に配置したり、医師等のがん診療に関わる人材を確保したりすることに役立てています。
がん患者さんやそのご家族等
がん患者さんやそのご家族等は、「院内がん登録全国集計」や各病院が公表する院内がん登録データを見ることで、それぞれの病院が行っているがん診療の内容やがん種別の症例数などを知ることができ、病院を選択する際に参考になります。これは患者数の少ないがん(希少がん)の場合、特に有用な情報となります。
ご自身で院内がん登録データを調べることが難しい場合は、「施設別がん登録件数検索システム」を運用している病院のがん相談支援センターで調べてもらうことができます。なお、このシステムで分かるのは、主に病院別のがん診療数ですが、診療数の多い病院が必ずしもよい病院とは限らないことにご留意ください。
研究利用
院内がん登録データは、がん医療の状況や質の分析、地域のがん診療における医療資源(医療に関わる人材や物)の検証など、さまざまな研究に利用されています。
3.院内がん登録についてよくある質問と答え
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Q1誰が調査・登録を行うのですか?
A1国が指定するがん診療連携拠点病院等に所属する「がん登録実務者」が行います。がん登録実務者は、国立がん研究センターが主催する研修を受講し、認定試験によって認定された者で、がん登録における専門的な知識(解剖学や臨床医学、登録ルール等)を身に付けています。またその知識を日々アップデートし、登録データの精度の維持に努めています。 -
Q2登録されるのは具体的にはどのような情報ですか?
A2大きく分けて4分野、105項目の調査・登録項目が設けられています。
- 基本情報(8項目)
患者さんや病院の情報(病院等の名称、患者氏名、性別、生年月日、住所等) - 腫瘍情報(33項目)
腫瘍の発見経緯、病名告知の有無、体のどの部分にどのようながんができたか(部位、進展度、病期[ステージ]等)等の情報 - 治療情報(31項目)
どのような治療が行われたか(外科的治療の有無、放射線療法の有無、化学療法の有無、経過観察の選択の有無等)等の情報 - 管理情報(33項目)
どの病院から紹介されたのか(紹介元施設、主治医情報、診療科情報等)等の情報
- 基本情報(8項目)
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Q3個人情報は守られますか?
A3がん登録を行う病院では、国の定めるルールに従い、厳重に個人情報を管理しています。また、院内がん登録を行う実務者は、個人情報や情報のセキュリティーについての研修を受け、守秘義務を厳守しています。
国立がん研究センターに「院内がん登録」データを提出する際は、個人が特定できる情報(氏名、詳細な住所等)を除いた匿名化されたデータに加工されています。 -
Q4院内がん登録全国集計の最新情報は、いつ頃「がん情報サービス」に掲載されますか?
A4通常、院内がん登録全国集計は、診断した年の翌年末、あるいは翌々年の初め頃に掲載しています。さまざまな情報を評価・分析しているため、掲載までに時間はかかりますが、みなさまに活用をしていただくため、少しでも早く掲載できるよう努めています。 -
Q5院内がん登録と全国がん登録の違いはなんですか?
A5院内がん登録は、がん診療連携拠点病院などの院内がん登録を実施している病院が行っているもので、病院ごとのがん診療の状況を把握するための基礎データになります。
それに対し、全国がん登録は、全国すべての病院(医療機関としての機能は問わず全病院が対象)が「がん登録推進法」に則って義務として届出を行っているものです。がん患者さんの数や診療等について、国が一括登録・一元管理を行っており、わが国においてのがん対策における基礎データになります。
全国がん登録の詳しい情報は、関連情報をご覧ください。