1.小児がんと言われた子どもの心に起こること
幼児期の⼦どもは、⼤⼈の態度や⾔動をよく観察しています。周囲のただならぬ雰囲気から、⾃分に⼤変なことが起きているということを感じ取ることがあります。⼩学⽣以上になれば、親と同様に「がん(腫瘍)」という⾔葉から、命に関わる病気かもしれないと感じる⼦どももいます。
今起きていることや、これから起きることがわからない上に、体調も悪いとなると、⼦どもはとても不安になります。不安が⾼まると、いろいろなことに敏感になります。例えば、痛みを感じやすくなったり、寝付きが悪くなったりすることがあります。
⼦ども⾃⾝が「治したい」という⾃覚をもって、納得して治療に臨めるようにすることが大事です。そのために、親は本人にどのように伝えるか、医療スタッフとしっかり話し合いましょう。子どもは漠然とした不安を抱えながら治療を進めていくよりも、周囲から⽀えられていることを感じながら試練を乗り越えることができると、精神的により成⻑することが知られています。
⼊院治療中の生活において本⼈が孤⽴しないように、まずは、本⼈と家族と医療チームの間に信頼が築けるような態勢を整えましょう。
2.子どもへの説明
子どもが幼少の場合は、治療や療養のことについて、家族が判断や決定をすることが多いかもしれません。しかし、子ども⾃⾝が⾃分のことを理解し納得していることはとても重要です。
子どもに病気や治療のことを説明し子どもからの了承(賛意)を得ることを「インフォームド・アセント」と⾔います。いつごろ、何を、どのように、どのタイミングで説明するかは、子どもの年齢や理解力、病状などによって異なります。家族と医療スタッフ(医師・看護師)で、⼗分に相談しながら決めていきます。
子どもに説明するときに⼀番⼤切なのは、「うそをつかない」ことです。楽観的に話したり逆に過度に悲観的に話したりすると、かえって子どもが混乱する原因になります。話す⼈によって伝える内容が違うと、信頼関係が揺らいでしまいます。子ども⾃⾝の意思を尊重しながら、わかりやすく説明することで、病気に立ち向かう⼒を引き出し、納得して治療に臨めると考えられています。⼦どもに説明するにあたっては、病気のことを子どもにわかりやすい⾔葉で説明している絵本や教材などもあります。担当医や看護師に相談してみるとよいでしょう。
3.子どもの主体性を尊重した関わり
病気だからといって特別扱いをするのではなく、普段と同じように接しましょう。例えば、着替えや⾝の回りのことなど、⾃分でできることはできるだけ⾃分で行わせるようにします。しかし、特に薬物療法や放射線治療中は、いつも通りに行動できないことが多々あります。⼦どもの主体性を尊重しつつ、周りの人は見守りや確認をして、本人が無理をしないように支えるようにしましょう。
1)入院に際して
⼊院治療中の生活では、お気に入りのおもちゃや本、友だちからの⼿紙などが安心感や励みになることがあります。病院によっては持ち込む物品が決められている場合もありますので、前もって確認しておきましょう。
2)痛みやつらさに対して
子どもによっては、痛みやつらさを我慢してしまうこともあります。痛みやつらさをなるべく取り除くような治療(緩和ケア)も⾏われますので、痛みやつらさがある場合はすぐに担当医や看護師に伝えるようにしましょう。
3)その他
子どもが⼼地よく、家族にとっても安⼼できる生活が送れるよう、気になることがあれば、遠慮なく担当医や看護師に相談しましょう。⼊院中は治療を優先することが多いかもしれません。しかし、成⻑や発達のことを考慮しながら、退院後の⽣活を見据えた準備も進めていきましょう。
4.子どもの権利
子どもに⼩児がんについて告知することを、家族が悩む場合もあることでしょう。医療現場においては、患者の権利である「知る権利」や「⾃⼰決定権」が尊重されています。治療が難しかった時代には、本人に告知するかどうかは常に家族の大きな悩みでしたが、治療の⽅法もふえ、選ぶことができるようになった現在では、本⼈が納得して治療を受けるのが普通のことになってきています。最近では、がんは治る病気になってきており、⼩児がんも例外ではありません。
⼩児がんの場合、全ての決定を子ども本⼈にゆだねることは難しいです。しかし、子どもが「知る」ことのもたらす安⼼感を考えると、家族と医療者が話し合った上で、子どもの理解力に適した説明をしていくことが必要です。
例えば、効果は期待できても、副作⽤を伴う可能性がある治療を選択する際には、「吐き気が出るかもしれないけれど、症状を軽くする⽅法があるから、つらかったら周りの⼈に⾔おうね」、「髪の⽑が抜けることになるけれど、3カ月したら⽣えてくるんだって。」など、これから起こりうることを伝えておくと、体の急な変化に対して、知らないまま直⾯するよりも、本⼈に余裕が⽣まれるようになります。
また、治療が終わって復学したときのことを考えてみると、同級⽣に「どんな病気になったの?」、「なぜそんな病気になったの?」などと質問されたとき、本⼈なりに答えられるということは、お互いの関係を保つのにもよいことでしょう。
権利というと難しいことのように聞こえますが、広い視野、長い時間軸でとらえて、本⼈にとって最適な⽅法を選んでいきましょう。
1951年5⽉5⽇(⼦どもの⽇)に制定された児童憲章には以下のようにうたわれています。
- 児童は、⼈として尊ばれる。
- 児童は、社会の⼀員として重んぜられる。
- 児童は、よい環境のなかで育てられる。
医療の現場や教育の現場においても、これらを指針に、できるかぎり⼦どもにとってよい環境づくりを進めています。
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