1.腎臓について
腎臓は腸管全体を包み込む腹膜と背中の間にある後腹膜腔という場所に、左右1つずつあります。高さとしては、ちょうど肋骨の下端あたりです。
腎臓の主な働きは、血液をろ過して尿を作ることです。尿は腎実質(実質はさらに皮質と髄質に分けられます)で作られ、腎盂に集められたあと、尿管を通って膀胱へと送られます。また、腎臓は血圧のコントロールや造血に関するホルモンの生成もしています(図1)。
2.腎芽腫(ウィルムス腫瘍)とは
小児の腎臓内にできる腫瘍の約70%は胎生期の後腎芽細胞由来の腎芽腫あるいはウィルムス腫瘍と呼ばれる悪性腫瘍です。腎芽腫の約半数は3歳までに発症します。米国では年間約500例が診断されていますが、⽇本における発生頻度は低く、年間70~100例程度と推測されています。
腎芽腫の大半は、治療によく反応する予後の良いがんですが、治療の効果があらわれにくいものもあります。また腎臓には、腎芽腫のほかに、腎明細胞肉腫、腎ラブドイド腫瘍などと呼ばれる腫瘍も生じます。このほか、比較的よくみられる腎腫瘍として先天性間葉芽腎腫があります。これは乳児期早期に多くみられ、ほとんどが手術による切除のみで治ってしまう腫瘍です。
腎芽腫は、腎周囲のリンパ節、腎⾨部(腎臓の中央内側のくぼみ部分)への直接浸潤や、腫瘍の破裂などにより腫瘍細胞が腹腔内に漏れ出して腹膜播種を来すこともあります。さらに遠隔転移として、肺、肝臓、まれですが骨や脳にも転移します。
そのほか、腫瘍が腎静脈や下大静脈内に進展し、腫瘍血栓(腫瘍組織を中心とした血のかたまり)を作ることがあります。
数は少ないですが、小児でも成人型の腎細胞がんがあり、10歳以上に多く発生します。
3.症状
腎芽腫の典型的な症状には、腹部のしこりや腫れ、血尿、腹痛、高血圧などがありますが、実際にはこれらの症状がすべてあらわれることはほとんどありません。早期に自覚症状が出ることは少ないので、実際には血尿で早期発見されるよりも、腹部膨満や腹部腫瘤で発見されることが多いのが実状です。
4.発生要因
腎芽腫は、成長や発達に悪影響を及ぼす遺伝子症候群(異常な遺伝子によって引き起こされる疾患)の一部として発⽣することがあります。腎芽腫との関連性が明らかになっている遺伝子症候群には、WAGR症候群、Beckwith-Wiedemann症候群、Denys-Drash症候群などがあります。また、特定の先天異常がある場合にも、発症リスクが高くなる可能性があります。