治療を進めていく中で、さまざまな状況が生じてきます。患者さんご本人で対処できているのか、ご家族として支援が必要か、戸惑うこともあるかもしれません。同居か別居か、近くに住んでいるかどうかはもちろん、ご本人やご家族の年齢や社会生活のありようによっても支援の形はさまざまです。
1.入院での治療を支える
入院中の看護・介護は病院に任せられますが、衣類の洗濯や日用品の買い物などをご家族がサポートすることで、ご本人の手助けになることがあります。
また、入院が長期にわたるときには以下の点などを確認しておきましょう。
- 留守中にやってほしいことや必要な手配がないかをご本人に聞いておく
- 知人から不在の理由を聞かれたときの対応も相談しておく
- あなたがいつ病院に行けるのかを知らせておく
入院中は、親しい人と話をしたい人、黙ってそばにいてもらうだけで落ち着く人、ひとりでいたい人など、さまざまです。ご本人がどうしてほしいかを気にかけて接すると、ご本人も安心して療養できるでしょう。
退院時には、医師や看護師から生活上の注意点についての説明があります。今後の日常生活でどのような配慮が必要になるか、しっかりと聞き、メモをしておきましょう。
入院生活に必要な身の回りのことを手伝う、通院につきそうなど、近くにいるからできる支援のほか、利用できる制度を調べる、手続きを行うなど、場合によっては遠くにいてもできるサポートもあります。また、電話などで話を聞くことそのものが、気持ちの支えになるかもしれません。本人の希望や必要としていることを確認しながら、自分にできることを探して支えていきましょう。また、状況を伝えて、自分の場合にはどのようなサポートができそうか、「がん相談支援センター」で相談してみることもできます。他の家族と分担する、制度を利用するなど、工夫しながら上手に支えていきましょう。
2.通院での治療を支える
放射線治療や薬物療法は、多くの場合、外来通院で行われます。治療中も仕事や家事などができる場合もありますが、個別の状況によって大きく異なります。いずれにしても、心身に負担がかからないように、ご本人やご家族の注意が必要です。
治療の前には、医師、看護師、薬剤師から治療の内容や副作用について詳しい説明があります。どのような症状が起きる可能性があるかや、自宅での対応方法、どのような場合に急いで受診をする必要があるかなどについて、事前に十分に話を聞いておくことが安心につながります。
3.合併症や副作用の対処法を知る
手術や薬物療法などの治療による合併症や副作用は、同居をするご家族の生活に少なからず影響します。例えば、薬物療法の中には、食欲不振、味覚・嗅覚の変化が生じるものがあります。
病院には、こうした療養生活をサポートするスタッフがいます。例えば、食事については、治療を受けている病院の管理栄養士に相談ができます。また、参考となるさまざまな書籍が出ています。合併症や副作用、その対処法は治療によってさまざまですので、詳しい情報については、医療者に確認しましょう。
起こりうることやその対処法、注意点を事前に知っておくと、状況の理解や、冷静な対応に役立ちます。また、ご本人の体調や、療養生活の困りごとをあなたがメモをしておき、医療者に伝えることも役立つ場合があります。
4.利用できる制度や支援の窓口を知る
がんの治療を優先させることは大切ですが、ご本人やあなたの生活を考えることも大切です。治療によっては、ご本人やあなたが仕事を中長期にわたって休んだり、生活の手助けが必要になったりすることがあります。
こうした際に、利用できるさまざまな制度があります。あなたがご自身の生活を大切にしたり、支援を求めたりすることは、患者さんご本人を大切にすることにもつながります。
制度や保険を活用するポイント
- (1)主な問い合わせ先を確認しましょう。
まずは、「がん相談支援センター」に相談しましょう。その他には、各医療機関の相談窓口、ソーシャルワーカー、各自治体の相談窓口に尋ねてみることもできます。 - (2)医療や介護・療養での支払いの領収書は捨てずに保管しましょう。医療費控除等、さまざまな手続きの際に必要となります。
- (3)各制度の対象となる基準には、ご本人のみならずご家族(世帯)の所得や状況が関連するものもあるので、家族全体の状況から活用できる制度がないか調べてみましょう。
- (4)新しく治療を始めるときや退院・療養場所を変えるときなど、ご本人の状況が変わったときに、活用できる制度について見直してみましょう。
- (5)生命保険、医療保険、がん保険などに入っている場合には、契約内容を確認しましょう。
表2に、がんになったご本人やご家族が利用できる可能性のある制度の例を示します。自分がどのような制度が使えるか知りたい場合は、まずは「がん相談支援センター」に相談することから始めましょう。
5.療養生活でのご本人との関わり
治療を進める中で、患者さんご本人としては、副作用のつらさや対応方法に加えて、副作用や病気についての周囲への伝え方、家事の負担や仕事など、社会とのつながりで悩む方も少なくありません。
図5は、ご本人とご家族から寄せられた、療養生活で悩んだことや工夫したことの例です。参考にしてください。
「よいと思うこと」を勧めるときにも配慮が必要
家族ががんになったとき、なんとかして治ってほしい、何かできることはないか、と思うのは自然なことです。しかし、その思いの強さのままに、食事療法や健康法、サプリメントなどを勧めたり、食欲のないご本人に食べることを強く勧めたりすることが、ご本人の心の負担になる場合もあります。正しい1つの正解があるわけではありませんが、最終的には、ご本人の意思や希望を尊重することが大切です。
治療の中で使われる言葉を理解する
治療が進むと、がんについての知識も増え、医療用語にもある程度慣れてくるでしょう。すると、受けている治療法や検査結果の意味、他の治療法などについてもっと深く知りたくなることも多いようです。
自分で調べた治療が、科学的根拠があるのか、専門の医師の判断はどうなのかという視点をもつことは大切です。
治療の中では、医師から標準治療という言葉を使って治療法を説明されるかもしれません。標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示されたものです。がんの治療では、標準治療が重要なキーワードとなります。
一方で、「臨床試験」「未承認薬」「先進医療」などといった言葉を聞くこともあるかもしれません。これらは、「標準治療」よりも優れた効果があることが示された治療ではなく、現在、有効性や安全性が検討中であったり、研究などのために限られた施設のみで行われたりしている治療であることに注意が必要です。