1.網膜と眼について
網膜は眼球の内面を覆う薄い膜状の組織であり、カメラに例えるとフィルムのような役割を果たしています。
角膜を通って瞳孔(眼の中心にある黒目の部分)から入った光は、水晶体により屈折した後、網膜に映し出されます。網膜で感じ取った光の刺激が視神経を通って脳に伝わり、「見える」と認識されます。
2.網膜芽細胞腫とは
網膜芽細胞腫は、目の奥にある網膜に発生する悪性腫瘍(がん)です。乳幼児に多く、出生児16,000~23,000人につき1人の割合で発症します。
家族が「子どもの瞳が猫の目のように白く光って見える」という白色瞳孔(猫目現象)の症状に気付いて受診することが多く、患者全体の約9割が3歳までに診断されています。
腫瘍が眼球内にとどまっている早期の段階で治療が開始できれば生命に関わることは少なく、治る可能性が高い病気です。片方の目だけにできる片眼性と、両方の目にできる両眼性があり、その割合はおよそ2:1です。
がん細胞の特徴と組織型の分類
網膜芽細胞腫の細胞は小さな丸い形をしており、神経や網膜の細胞と似た性質を持っています。顕微鏡で見たときの細胞の並び方によって、不規則に並ぶ「未分化型」と、中心を囲むように放射状に並ぶ「分化型(ロゼット様)」の2つのタイプ(組織型)に分けられますが、多くはこれらが混ざり合っています。
また、この腫瘍は大きくなるスピードが早いため、血液の供給が追いつかずに細胞の一部が死んでしまう「腫瘍壊死」を伴うことが少なくありません。その死んでしまった部分にカルシウムが沈着して硬くなる「石灰化」がみられる点も、大きな特徴となっています。
3.症状
乳幼児は見え方の異常などの症状をうまく伝えることができません。そのため、腫瘍が大きくなってから、瞳の奧が白く光って見える白色瞳孔などの症状で周りの人に発見されることが多いという特徴があります。
また、網膜の中心部(黄斑部)に腫瘍ができた場合は、視力が悪くなることが原因で左右の目で視線がずれる斜視になったり、自分の意志とは関係なく目(眼球)が小刻みに動いたり揺れたりする眼振の症状が出て発見されることがあります。
腫瘍がさらに大きくなると、目の中の圧力(眼圧)が上がって目が充血したり、まぶたや目の周りが腫れたり(眼部腫脹)、目が痛んだりします。また、その痛みによってミルクや母乳をうまく飲めなくなったり(哺乳不良)、吐いてしまったり(嘔吐)することがあり、これらの症状から病気が見つかることもあります。
学童期(小学生)では、乳幼児と同様に白色瞳孔や斜視で発見されることが多いものの、子ども自身が「見えにくさ」に気付いて見つかることもあります。
4.発生要因
網膜芽細胞腫は、RB1と呼ばれる遺伝子の変化によって発生することが分かっています。RB1遺伝子は、細胞が無秩序に増殖してがん化するのを防ぐ「がん抑制遺伝子」の1つです。しかし、なぜこの遺伝子に変化が起こるのかについてはまだよく分かっていません。
RB1遺伝子の変化が起こるパターンには、大きく分けて非遺伝性と遺伝性の2つのタイプがあります(表1)。
| 項目 | 非遺伝性 | 遺伝性 |
|---|---|---|
| RB1遺伝子の変化 | 腫瘍細胞のみに存在 | 全身の細胞に存在 |
| 遺伝子変化の発生時期 | 生まれた後に生じる | 生まれつき存在する |
| 発生する目 | 主に片眼性 | 両眼性が多い |
| 子どもへの遺伝 | 遺伝しない | 遺伝する可能性がある |
| 二次がんのリスク | 高くならない | 高くなる |
もし遺伝性と分かった場合には、一人ひとりの体質に合わせた治療や健康管理を丁寧に行っていきます。また、遺伝について不安がある場合は、遺伝カウンセリング(遺伝相談外来)を利用することもできます。
- 網膜芽細胞腫の腫瘍細胞のみで変化が起こった場合(非遺伝性)
網膜芽細胞腫の腫瘍細胞のみにRB1遺伝子の変化が起こったタイプです。基本的に片方の目だけに腫瘍が発生します(片眼性)。このタイプの場合、将来生まれてくる子どもに病気が遺伝することはありません。 - 生まれつき体のすべての細胞で変化がある場合(遺伝性)
生まれつき、体の中のすべての細胞にRB1遺伝子の変化があるタイプです。この変化は、親から引き継ぐ場合もあれば、本人の代で新たに発生する場合もあります。このタイプでは、遺伝子の変化が子どもに引き継がれる(遺伝する)可能性があります。網膜芽細胞腫が両方の目に発生する場合(両眼性)のほぼすべてと、片方の目だけの場合(片眼性)の約10~15%がこのタイプにあたります。また、最初は片方の目だけでも、もう片方の目にも発生する可能性が高いです。さらに、骨肉腫など別の悪性腫瘍(二次がん)が発生しやすいことも知られています。そのため、あらかじめ遺伝性であることが分かれば、早期発見のための定期検査を受けたり、放射線による二次がんのリスクをできるだけ減らすために不要なX線(レントゲン)検査やCT検査を避けたりするなど、具体的な対策を立てることができます。
【もっと詳しく】遺伝・遺伝子について
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RB1遺伝子の働きと網膜芽細胞腫
網膜芽細胞腫は、13番染色体の13q14と呼ばれる場所にあるRB1遺伝子の病的な変化によって発症することが分かっています。RB1遺伝子には、細胞が過剰に増えないように細胞分裂を調節する重要な役割があります。人の細胞には通常23対(46本)の染色体があり、RB1遺伝子も、父親から受け継いだものと母親から受け継いだものの2本があります。一方のRB1遺伝子に病的な変化があっても、もう一方が正常に働いていれば、細胞は正常に機能することができます。しかし、両方のRB1遺伝子の働きが失われると、細胞分裂の調節ができなくなり、網膜芽細胞腫が発生すると考えられています。
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遺伝学的検査
現在は、RB1遺伝子の病的な変化が全身の細胞(網膜以外の細胞)にあるかどうかを調べる血液検査を、保険診療で受けることができるようになっています。病的な変化が検出されれば遺伝性と判断できますが、検出率は約80%とされています。病的な変化が検出されなかった場合は、遺伝性ではないことが多いと考えられますが、遺伝性であっても、現在の検査ではその変化を検出できない可能性もあります。そのため、検査結果は、発症の状況や家族歴などを含めて総合的に評価する必要があります。検査を受ける際には、目的や限界を十分理解しておくことが大切です。必要に応じて、遺伝相談外来などで適切なカウンセリングを受けるのがよいでしょう。詳しくは担当医にご相談ください。
5.予防・検診
網膜芽細胞腫は、RB1遺伝子の変化と関連していることが分かっています。しかし、網膜芽細胞腫を含め、小児がんの多くは、なぜ発症するのかという根本的な原因や予防法はまだはっきり分かっていません。大人のがんとは異なり、生活環境や生活習慣など特定の原因が影響して発症する可能性は低いと考えられています。そのため、日常生活の中で注意して予防する方法は現在のところありません。
また、国が推奨する小児がんに特化したがん検診はありません。症状が出てから検査を受けて見つかる場合がほとんどです。
一方、両眼性の網膜芽細胞腫の場合や家族歴がある場合は遺伝性と考えられ、その親から生まれる子どもは50%の確率でRB1の病的変化を受け継ぐことが分かっています。そのため、遺伝性の網膜芽細胞腫を発症する可能性がある場合は、出生時から定期的に眼底検査を行い、腫瘍を早期に発見することが強く推奨されています。
網膜芽細胞腫の遺伝に関することで心配や不安がある場合は、まずは担当医に相談してください。臨床遺伝専門医などの遺伝の専門家によるカウンセリングを利用することもできます。