網膜芽細胞腫の診断は眼底検査を基本とし、必要に応じて画像診断を組み合わせて行います。初期の治療方針については、生検による組織診断を行わずに臨床診断に基づいて決定します。また、全身の状態を把握するための診察も行います。検査に対する恐怖心を和らげたり、動きを制限したりするために、薬や麻酔を使用して眠った状態で検査をすることがあります。
1.前眼部・眼底検査
点眼薬で瞳孔を開いた状態にして、網膜の状態と、硝子体や前房に腫瘍が広がっていないかどうかを調べます。拡大して観察するため、1mm程度の小さな腫瘍も発見することができます。また、あわせて網膜剥離や緑内障など随伴症状(何らかの症状に伴って起こる症状)の有無を確認することが治療法の決定に重要です。
2.画像診断
1)超音波(エコー)検査
閉じたまぶたの上に測定用のプローブ(探触子)を当てることで、眼球の状態を詳しく知ることができます。腫瘍の大きさや位置に加え、網膜芽細胞腫の特徴である腫瘍内部の石灰化を確認することもできます。超音波検査は放射線被曝の危険がなく、角膜混濁などで眼底検査が十分できない場合にも有用です。
2)頭部のCT検査、MRI検査
CT検査はX線を、MRI検査は磁気を用いて、腫瘍の性質や広がりを調べることができる検査です。CT検査は眼球内の腫瘍の石灰化を鮮明に写し出すことができ、診断に有用ですが、被曝を伴うため、可能であればMRI検査が優先されます。
MRI検査は腫瘍の広がりをより鮮明に確認することができ、頭蓋内浸潤や、両眼性網膜芽細胞腫の約3%で脳腫瘍を併発する三側性網膜芽細胞腫の検出に有⽤です。
3)全身検査
一般的ながんでは、治療前に全身への転移があるかどうかを確認するために、薬を投与してがん細胞に目印を付け、PET検査やシンチグラフィ検査(微量な放射線を出す物質を含んだ薬を静脈から注射して、その分布を調べる検査)、全身CT検査などを行います。これらの検査は放射線を用いるため、低い確率ですが、放射線によって別の悪性腫瘍(二次がん)を発症する危険性があります。特に、両眼性など遺伝性の網膜芽細胞腫の場合は、健康な人と比較して二次がんを生じやすいことが分かっています。
一方で、網膜芽細胞腫は腫瘍が眼球内にとどまっている場合は転移を生じることは非常にまれです。そのため、腫瘍が眼球外に広がっていないと判断される場合は被曝を伴う検査は最小限にとどめます。
腫瘍が眼球外へ広がっていることが疑われる場合は、被曝のリスク以上の必要性が生じるため、これらの検査とともに、骨髄検査、脳脊髄液検査なども組み合わせて行います。
3.病理検査
眼球を摘出した場合は病理検査を行います。腫瘍は小型で丸い形をした細胞からなり、神経や網膜の細胞と似た性質を持っています。組織型としては一定の配列を示さない未分化型と、ロゼット様(細胞が放射状に配列)の構造を示す分化型に分けられますが、多くは混在しています。また、血流の不足などにより細胞が死に至る腫瘍壊死を伴うことが多く、壊死部分に石灰化を生じることが特徴的です。
病理検査でさらに重要なのは浸潤の範囲です。脈絡膜や毛様体など豊富な血管をもつ組織に浸潤している場合には、血行性転移、篩状板を超えて視神経へ浸潤している場合には、中枢神経浸潤(転移)の危険因子と考えられます。