網膜芽細胞腫の治療は、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法などがあります。また、診断されたときから、がんに伴う心と体のつらさなどを和らげるための緩和ケア/支持療法を受けることができます。
子どものがんの治療は、大人のがんとは異なる場合もあります。小児がんと診断された場合は、小児がんの医療を専門的に行っている病院(例えば小児がん拠点病院、小児がん連携病院など)で治療を受けるようにしましょう。できれば子どもの成長・発達に配慮した設備、医療者などの環境が整っている病院がよいでしょう。
1.病期(ステージ)と治療の選択
治療は、がんの進行の程度を示す病期(ステージ)やがんの性質、体の状態などに基づいて検討します。網膜芽細胞腫では、腫瘍が眼球内にとどまっているか、眼球の外に広がっているかによって治療法が大きく異なります。
1)病期(ステージ)
網膜芽細胞腫では、がんの進行の程度(ステージ)に合わせて、眼球を残せるかどうかを検討します。その基準として、現在は眼球内網膜芽細胞腫の国際分類が広く使われています(表2)。この分類は最も状態が軽いA群から最も進行しているE群までの5段階に分かれています。国際分類A群の腫瘍は眼球を残せる可能性が最も高く、国際分類E群になるとその可能性が最も低くなります。
| A | 3mm以下の網膜腫瘍 |
|---|---|
| B | 3mm以上、黄斑部、視神経近傍の網膜腫瘍 |
| C | 限局性播種1)(硝子体・網膜下) |
| D | びまん性2)播種(硝子体・網膜下) |
| E | 摘出を要する進行例 |
- 1)播種:腫瘍から腫瘍細胞が崩れて散らばった状態
- 2)びまん性:腫瘍が広範囲に広がっている状態
2)治療の選択
治療法は、病期分類に基づいて、手術(外科治療)、薬物療法、放射線治療などについて検討します。生活環境、年齢を含めた体の状態などを考慮しながら、子ども本人の希望や気持ちも尊重し、担当医とよく話し合って決めていきます。
(1)眼球の外へ広がっている場合や転移がみられる場合
眼球を摘出し、できる限り腫瘍を切除します。手術後は細胞障害性抗がん薬を用いた薬物療法(化学療法)や、腫瘍のあった部位への放射線治療を⾏います。転移している場合には、大量化学療法と呼ばれる強い全身治療が必要になることがあります。
(2)腫瘍が眼球の中にとどまっている場合
最近では、眼底検査や画像検査で腫瘍が眼球の外へ広がっていないことが分かった場合、眼球を摘出せず、できる限り残す方針で治療を進めるケースが増えています。眼球を摘出する場合のメリットとデメリットや、眼球を残せる可能性がどのくらいあるかについて、納得がいくまで担当医とよく相談しましょう。
(3)眼球を残すか、摘出するかの判断
腫瘍の大きさや場所によって、視力への影響は大きく異なります。そのため、眼球が残せたとしても、これまで通りの視力が保てるとは限りません。また、眼球を残す選択は、義眼(人工の目)にするよりも見た目が自然に保てる可能性がある一方で、慎重に考えなければならない問題もあります。
例えば、がんが再発したり別の場所に転移したりするリスクが残ることがあります。また、眼球を残すための局所治療によって全身麻酔の回数が増えると、体への負担が大きくなります。さらに、治療によって目のサイズが小さくなったり、左右の目の視線がずれる斜視や、水晶体(目の中のレンズ)が濁る白内障などが起こったりして、かえって変化が目立つようになることもあります。特に放射線治療を行った場合は、目の周りの骨の成長が悪くなり、目が奥にくぼんでしまうことがあります。
腫瘍が片方の目だけにあるのか、両方の目にあるのかによっても、治療の選択肢が変わります。将来どれくらい目が見える状態を保てるか、治療後にどのような合併症が起こる可能性があるかなどを総合的に考える必要があります。担当医とよく相談しながら、納得のいく治療方針を決めていくことが大切です。
妊孕性温存(妊娠するための力を保つこと)について
がんの治療が、将来の妊娠や出産に影響することがあります。近年、卵子や精子、受精卵、卵巣や精巣などの組織を凍結保存する「妊孕性温存治療」という選択肢も加わってきました。ただし、年齢や発達の状況によって利用できる方法は異なり、乳幼児などでは選択肢が限られる場合があります。まずは治療を開始する前に、妊孕性温存治療ができるかどうか、担当医に相談してみましょう。
2.手術(外科治療)
視力を残すことが難しい場合や、緑内障などの合併症がある場合などは、眼球を摘出する手術を行います。また、摘出した眼球の病理検査で眼球の外にも腫瘍が広がっている可能性があると分かった場合は、転移を防ぐために細胞障害性抗がん薬による薬物療法を⾏います。
⼿術では、腫瘍を眼球ごと取り除きます。眼球の中にある腫瘍だけをくり抜いて切除することは、がんが周りに飛び散って転移するリスクが高いため行いません。そのため、網膜芽細胞腫における腫瘍の切除は眼球の摘出を意味します。手術は全身麻酔で行い、1時間程度で終わります。手術後は、まぶたの腫れや皮下出血が見られる場合がありますが、通常は1~2週間で治まります。
手術が終わるとすぐに、結膜嚢(まぶたの裏側の袋状のくぼみ)の形を保つため、有窓と呼ばれる、中心に穴があいた透明なプラスチック製の義眼(人工の目)を入れます。手術後2~4週間で傷が落ち着いてきたら、黒目や白目が描かれている仮の義眼に着け替えます。その後、子どもの成長や目の状態に合わせて調整を重ね、より自然な見た目の本義眼を作っていきます。
小児がんで眼球を摘出したあとの義眼作製には、年齢の制限なく健康保険が適用されます。手続きは、いったん費用の全額を自己負担したあと、申請により払い戻しを受ける「療養費払い」となります。義眼の耐用年数は原則2年ですが、子どもの成長に伴って作り直しが必要と認められれば、2年以内であっても再度健康保険の適用を受けられます。また、自己負担をさらに軽減できる公的助成制度を利用できる場合もあります。詳しくは、担当医や病院の「がん相談支援センター」などに相談してください。
義眼について
義眼は正面を向いたときの、もう片方の目の向き(義眼を入れない方の目の視線)を基準に作ります。横を見るときに義眼自体を大きく動かすことは難しいですが、見たい⽅向に顔を向けるようにすれば周囲からはほとんど気になりません。また、人前で義眼がずれることはほぼなく、まばたきも自然にできますし、涙も通常通り流れます。
義眼は毎日はずして洗い、目やにをふき取るなど、清潔に保つことが大切です。目やにが多いときには、眼軟膏や点眼薬を使います。また、子どもの場合は、成長に合わせて義眼を作り替える必要があります。
なお、義眼台という土台を埋め込む手術をしておくと、ある程度は義眼を動かせるようになります。ただし、時間の経過によって義眼台が表面に露出してしまい、手術で取り除かなければならないことがあります。義眼台を入れるかどうかは、担当医とよく話し合って決めましょう。
3.眼球温存治療
視力を保てる可能性がある場合は、眼球を残したままでがんを治す治療(眼球温存治療)を行います。通常は、薬物療法(化学療法)と局所治療などを組み合わせて治療を行います。一人ひとりの状態に合わせて最適な方法を選ぶため、一律の標準治療はまだ確立されていません。
治療の効果は、目の奥を詳しく調べる眼底検査で確認します。CTやMRIなどの画像検査では、小さな腫瘍を見つけることができません。また、腫瘍が残っているのか、それとも治った後の傷あと(瘢痕)なのかを区別するのは困難です。
4.局所治療(局所療法)
局所治療とは、病変がある特定の場所とその周辺に絞って行う治療のことで、局所療法ともいいます。がんがある部分に直接働く治療法です。その方法の1つとして、がんを温めたり凍らせたりすることで、破壊する治療があります。
1)レーザー照射(温熱療法)
特殊な光(レーザー)を当てることで腫瘍を温めて破壊する治療法です。比較的小さな腫瘍に対してはレーザー単独で行い、大きな腫瘍に対しては薬物療法(化学療法)と組み合わせて行います。
2)冷凍凝固
-80℃に冷却した専用器具の先端を白目の上から眼球の壁に優しく押し当て、奧の腫瘍を凍らせて破壊する治療法です。網膜の周辺部(眼球の前⽅)にある比較的小さな腫瘍に対して行います。手術後に白目の部分(結膜)の充血や腫れが見られることがあります(図1)。
5.放射線治療
放射線治療はX線などの放射線によって腫瘍(がん)を破壊する治療法です。
1)外照射治療
体の外からがん(腫瘍)に向けて放射線を照射する治療法です。
従来のX線治療
網膜芽細胞腫の治療では、主に顔の横(側方)からX線を当てます。通常は20~25回に分割し、毎日少しずつ照射します。この治療は約60%の割合で腫瘍が消失するなど高い治療効果が期待できたため、1990年代までは治療の中心でした。しかし、その後に以下のような副作用が出るリスクがあることが分かったため、現在ではほとんど行われていません。
- 顔面の変形:目の周りの骨の成長が妨げられることがあります。
- 二次がん:放射線が当たった場所に別のがんを生じる危険性があります。
- 成長への影響:頭蓋骨の奥にある下垂体に放射線が当たることで、成長に必要なホルモンの働きが乱れることがあります。
陽子線治療
2016年から、小児がんに対する陽子線治療が保険適用になりました。陽子線は眼球以外の組織が被ばくする範囲を小さくできるため、従来のX線治療でみられた放射線障害を低減することが期待されています。
ただし、陽子線治療が可能な施設は全国でも限られています。また実際の治療効果と副作用については、現在も慎重に評価が進められています。治療を検討する場合は担当医とよく相談することが大切です。
2)小線源治療(内照射)
放射線を発生する金属(ルテニウム)の板を眼球の外側に直接固定し、一定期間、腫瘍部分に集中して放射線を照射する治療です。周りの組織への放射線の影響を最小限に抑えることができます。ただし、この治療は鉛で覆われた特殊な病室に入院する必要があるため、この治療に対応できる病院は非常に限られています。
6.薬物療法(化学療法)
薬物療法は、薬を使って病気の治療や症状の改善を目指す治療法です。その一種である化学療法では、細胞障害性抗がん薬を使ってがん細胞の増殖を抑え、腫瘍を小さくします。
1)全身化学療法
全身化学療法は、抗がん薬を点滴や内服などで体に入れ、血液の流れに乗せて全身のがん細胞に届ける治療法です。一般的な化学療法(抗がん薬治療)と同じ意味ですが、体の一部分だけを治療する局所化学療法と区別するためにこのように呼ばれることがあります。
眼球内の治療(局所治療)だけでは治すことが難しい比較的大きな腫瘍(国際分類B~D群など)に対しては、まず全身化学療法を行います。最もよく用いられる方法は、3種類の抗がん薬を数日かけて点滴で投与し、その後3~4週間の間隔をあける治療を1サイクルとして、これを複数回繰り返すものです。この治療により、眼球内の腫瘍は小さくすることができます。ただし、この治療だけで腫瘍を治すことは難しいため、通常は局所治療を追加して行います。
化学療法で使用する細胞障害性抗がん薬はがん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼすため、毛が抜けたり、吐き気がしたり、白血球や血小板が減ったりするなどの副作用が生じることがあります。どのような副作用が起こりやすいか、特に気をつけるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医に確認しておきましょう。また、副作用と思われる症状がみられたときには、自己判断せず、すぐに担当医に相談してください。
2)局所化学療法(目だけを対象とした治療)
局所化学療法は、がん細胞が存在する特定の部位や組織に対して、細胞障害性抗がん薬などの薬剤を直接投与する治療法です。全身化学療法のあとに残っている腫瘍や、眼球の中に再発した腫瘍に対して行います。投与方法は2種類あり、いずれも網膜芽細胞腫に対する標準的な治療として世界中で行われています。
(1)選択的眼動脈注入
太ももの付け根などから細い管(カテーテル)を挿入し、眼球へとつながる眼動脈に直接、細胞障害性抗がん薬を少量だけ注入する方法です。目の中には十分な量の細胞障害性抗がん薬を届けることができる一方で、全身にはごくわずかな量しか流れないため、全身の副作用を抑えることができます。2026年からは、保険診療で行うことができるようになりました。
(2)硝子体注入
目の中にあるゼリー状の組織である硝子体に腫瘍が播種している(散らばっている)場合に行う治療です。硝子体へ直接薬剤を注入します。硝子体に薬剤を注入することは、他の一般的な眼科疾患でもよく行われる安全性の高い治療法とされています。
7.緩和ケア/支持療法
小児がんになると、体や治療のことだけではなく、学校のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体のつらさや社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。
本人にしか分からないつらさもありますが、幼い子どもの場合、つらさを我慢したり、あるいは自分で症状や感情をうまく表現できなかったりすることもあります。そのため、周りの人が本人の様子をよく観察したり、話をよく聞いてあげたりすることが大切です。気になることがあれば積極的に医療者(医師、看護師、薬剤師、理学療法士など)へ伝えましょう。
8.リハビリテーション
リハビリテーションは、がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力を維持・向上させるために行います。また、心と体のさまざまなつらさを和らげる「緩和ケア」の一環としても、非常に重要な役割を持っています。
子どもは、がんやその治療の影響によって日常生活動作(ADL)が低下しやすく、リハビリテーションの強さや回数の調節が難しい面があります。年齢や性格に合わせて遊びの要素を取り入れたり、無理をさせないように配慮したり、工夫しながら進めます。
網膜芽細胞腫の場合、目に発生した腫瘍を治療するため、治療後の見え方は腫瘍の状態、治療のダメージによって一人ひとり異なります。リハビリテーションの一環として、視覚障害によって日常生活および社会生活を不自由に感じている人を支援するロービジョンケアや、年齢に応じた視覚支援教育などを行うことも重要になります。
9.再発した場合の治療
再発とは、治療によって、見かけ上なくなったことが確認された腫瘍(がん)が、再びあらわれることです。原発巣のあった場所やその近くに、がんが再びあらわれることだけでなく、別の臓器で「転移」として見つかることも含めて再発といいます。
網膜芽細胞腫の場合、眼球温存治療後の再発は、もともと腫瘍のあった場所に残っていた腫瘍細胞が再び見える大きさになって見つかることです。この場合は、眼球に対する治療を追加します。
眼球を摘出したあとの眼部への再発や、遠隔転移を生じた場合は、手術、薬物療法、放射線治療を組み合わせた集学的治療を行います。
脳転移を生じた場合は、がん自体を治すことが非常に難しくなるため、体の痛みや心のつらさを和らげる緩和ケア/支持療法が中心になることもあります。
一般社団法人くすりの適正使用協議会 くすりのしおり