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網膜芽細胞腫〈小児〉

網膜芽細胞腫〈小児〉 治療

治療法は腫瘍が眼球内にとどまっているか、眼球外に広がっているかによって大きく異なります。

1.病期と治療の選択

1)病期(ステージ)

網膜芽細胞腫では眼球を残すかどうかの基準として、現在は眼球内網膜芽細胞腫の国際分類が広く使われています(表1)。国際分類A群の腫瘍は眼球を温存できる可能性が最も高く、国際分類E群では最も低くなります。

表1 眼球内網膜芽細胞腫の国際分類(概略)
retinoblastoma_table01
Murphree AL. Intraocular retinoblastoma: the case for a new group classification. Ophthalmol Clin North Am. 2005; 18(1): 41-53. より作成

播種はしゅ腫瘍から腫瘍細胞が崩れて散らばった状態

**びまん性:腫瘍が広範囲に広がっている状態

2)治療の選択

(1)転移や眼球外への広がりが見られる場合

可能な限り腫瘍を切除します。術後は全身に対する抗がん剤治療(化学療法)や腫瘍のあった部位に放射線治療を⾏います。転移の場合には大量化学療法と呼ばれる強い全身治療が必要です。

(2)腫瘍が眼球内にとどまっている場合

眼底検査や画像診断で、腫瘍が眼球の外へ広がっていないと判断される場合は、眼球をなるべく摘出てきしゅつしないで、可能な限り残す方針で治療するという考え方が最近では多くなっています。眼球を摘出することによる治療効果や、眼球を残せる可能性について、担当医とよく相談しましょう。

(3)眼球を温存するか、摘出するかの判断

腫瘍の大きさや場所により視力への影響は異なるため、眼球が残せても良好な視力が保てるとは限りません。また、眼球を残すことで、見た目は義眼よりも良くなる可能性がありますが、考慮すべき問題もあります。

例えば、再発や転移の可能性、抗がん剤による副作⽤の可能性が残ります。眼球を残すために全身麻酔による治療の回数が増えると、体への負担が大きくなります。また、眼球を残す治療によって眼球が小さくなったり、斜視しゃしや白内障などが起こり、外⾒的にも目立つようになることがあります。特に放射線治療を行った場合は眼の周りの骨の成長が悪くなり、くぼんでしまうことがあります。

腫瘍が片眼だけにある場合と、両眼にある場合では治療の判断が異なります。期待される視機能や合併症の可能性なども考えて、担当医とよく相談し、治療方針を決めることが大切です。

2.手術(外科治療)

視力の温存が期待できない場合や緑内障などを合併している国際分類E群の場合は、眼球摘出が行われます。摘出した眼球の病理検査で眼球外にも腫瘍が広がっている可能性がある場合には、転移のリスクを減らすために抗がん剤治療を⾏います。

⼿術治療では、腫瘍を眼球ごと摘出します。眼球内の腫瘍だけを切除することは、転移のリスクが高いため行いません。そのため、網膜芽細胞腫では、腫瘍切除が眼球摘出と同等の意味になります。手術は全身麻酔をして行われ、1時間程度で終わります。手術後は、まぶたの腫れや皮下出血が見られる場合がありますが、1~2週間で治まります。手術直後に有窓ゆうそう義眼ぎがんと呼ばれる透明なプラスチック製の義眼を入れておき、結膜嚢(袋状になっている結膜)の形成を助けます。術後2~4週間で角膜が描かれている仮義眼を装用します。その後、義眼を調整し、本義眼をつくることになります。

義眼について

義眼は正面を向いたときの、反対側の目の向き(義眼を入れない方の目の視線)を基準につくります。横を見るときに動かすことはできませんが、顔を視線の⽅向に向けて見るようにすればさほど目立ちません。また、人前で義眼がずれることもほとんどありません。まばたきもできますし、涙も流れます。

義眼は毎日はずして洗い、眼脂がんし(目やに)をふき取るなど、清潔にしておかなければなりません。目やにが多いときには、眼の軟こうや点眼剤を使います。また、成長に合わせて義眼を変える必要があります。

なお、義眼台という土台となるものを入れておくと、多少は義眼を動かすことができますが、後に義眼台が露出して取り除かなければならないこともあります。義眼台を入れるかどうかは、担当医とよく話し合って決めましょう。

3.眼球温存治療

視力の温存が期待できる場合は眼球を残す方法で、腫瘍の治療を行います。後述する抗がん剤治療と局所治療を組み合わせて行いますが、標準治療はまだ確立されていないのが現状です。

治療の効果は眼底検査で判断します。画像診断では小さな腫瘍を発見することはできないため、腫瘍の残存と瘢痕はんこん化した組織(傷あと)の区別は困難です。

4.局所治療(局所療法)

温めたり凍らせたりすることで、腫瘍を破壊します。

1)レーザー照射(温熱療法)

比較的小さな腫瘍に対してはレーザー単独で、大きな腫瘍に対しては化学療法と併用して行います。

2)冷凍凝固

-80℃に冷却した専用の器具を眼球の壁に当て、腫瘍を凍らせて破壊します。網膜の周辺部(眼球の前⽅)にある比較的小さな腫瘍に対して行います。術後に結膜の充血や腫れが見られます。

5.薬物療法(化学療法)

薬物療法の1つとして、抗がん剤を用いて腫瘍を小さくします。

1)全身化学療法

局所治療(局所療法)だけでは治癒が難しい大きな腫瘍(国際分類B~D群)に対して、最初に全身化学療法を行います。この治療により、眼球内の腫瘍は小さくなりますが、この治療だけで眼球の腫瘍を治癒させることは難しいため、引き続き局所治療を追加します。

抗がん剤は腫瘍だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼすため、毛が抜けたり、吐き気がしたり、白血球や血小板が減ったりするなどの副作用が生じます。

2)局所化学療法(眼だけの治療)

局所化学療法は、全身化学療法のあとに残っている腫瘍や、再発した眼内腫瘍に対して行います。投与方法は2種類あります。いずれも世界中で行われている治療ですが、標準治療と呼べるものではなく、研究的な治療法の位置づけで、現在は効果を評価している段階です。

(1)選択的眼動脈がんどうみゃく注入

眼球に流れる眼動脈にカテーテルを挿入して抗がん剤を少量注入する方法です。眼球には十分な抗がん剤が流れ、全身にはごくわずかな抗がん剤しか流れないため、全身の副作用を避けることができます。

(2)硝子体しょうしたい注入

硝子体に腫瘍が播種している場合に、硝子体へ直接薬剤を注入する方法です。硝子体注入は、他の眼科疾患でもよく行われます。

6.放射線治療

X線などの放射線によって腫瘍を破壊する治療です。

1)外照射治療

1990年代までは治療の第一選択でした。20~25回に分割して毎日照射する治療で、主に顔の側方からX線を当てます。この治療により約60%の症例で腫瘍が消失し、治療効果の期待できる治療法ですが、眼部の骨の成長障害による変形や、放射線によって別の腫瘍を生じる二次がんの問題、また、下垂体かすいたい(頭蓋骨の中で脳の下に存在し、さまざまなホルモンの働きをコントロールしている部位)に放射線が当たることで全身の成長が悪くなる危険性があることなどが明らかとなり、現在ではほとんど行われていません。

2016年から、小児がんに対する陽子線治療が保険適用になりました。陽子線は眼球以外の組織が被曝する範囲を狭くできるため、放射線障害を低減することが期待されています。

ただし、乳幼児の場合は鎮静が必要になるため、治療が可能な施設は限られます。また実際の治療効果と副作用については今後の評価が必要となります。治療を行う場合は担当医とよく相談することが大切です。

2)小線源治療(内照射)

放射線を発生する金属(ルテニウム)の板を眼球の外から腫瘍部に固定して、一定時間、腫瘍部に集中して放射線を当てる治療です。周辺の組織への放射線の影響を低減することができます。手術後は物が二重に見えること(複視ふくし)があります。この治療は鉛で覆われた特殊な病室が必要で、限られた施設だけで行われています。

7.緩和ケア/支持療法

がんになると、体や治療のことだけではなく、学校のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。

緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。

支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。

治療後の視力は、腫瘍の状態、治療のダメージにより異なります。ロービジョンケア(視覚障害によって日常生活および社会生活を不自由に感じている方への支援)や視覚支援教育などを、年齢に応じて行うことが大切です。

脳転移を生じた場合には、積極的な治療を行っても治癒は非常に難しくなり、緩和ケア/支持療法が必要になることがあります。

本人にしか分からないつらさもありますが、幼い子どもの場合、自分で症状を表現することが難しいこともあります。そのため、周りの人が本人の様子をよく観察したり、声に耳を傾けたりすることが大切です。気になることがあれば積極的に医療者へ伝えましょう。

8.再発した場合の治療

再発とは、治療の効果により腫瘍がなくなった後、再び腫瘍があらわれることをいいます。

眼球温存治療後の再発という場合は、もともと腫瘍のあった場所に残っていた腫瘍細胞が再び見える大きさになってきたことであり、眼球に対する治療を追加します。

眼球摘出後の眼部への再発や、遠隔転移を生じた場合は、前述した手術、化学療法、放射線治療を組み合わせた治療を行います。

更新・確認日:2022年09月21日 [ 履歴 ]
履歴
2022年09月21日 内容を更新し、ウェブページで公開しました。
2021年07月01日 小児がん情報サービスから移動し、PDFで公開しました。
2014年04月22日 小児がん情報サービスで掲載しました。
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