横紋筋肉腫については、「横紋筋肉腫〈小児〉について」のページをご参照ください。
1.軟部肉腫とは
軟部肉腫(あるいは悪性軟部腫瘍)とは、体の軟部組織から発生した悪性腫瘍のことです。軟部組織とは、筋肉、脂肪、血管、リンパ管、神経や、そのほか、体を作る軟らかい組織を指し、肺や肝臓などの臓器と支持組織である骨や皮膚は含みません。この腫瘍は、大腿部(太もも)などの四肢(手足)が最も多いですが(図1)、体幹、頭頸部など体のいろいろな部位に発生します。
軟部肉腫は血行性転移を起こしやすく、多くは肺に転移します。肉腫の種類によってはまれにリンパ節転移が起こります。
国内での軟部肉腫の発生率は5万人に1人くらいで、まれな腫瘍です。このうち小児に発生する軟部肉腫はさらに少なく、全小児がんの5~6%にあたりますが、横紋筋の腫瘍である横紋筋肉腫および未分化肉腫(肉腫のうち、筋肉や脂肪などのようにはっきりした性質を示さないもの)が、小児軟部肉腫の全症例の半数以上を占めます。
軟部肉腫は治療しにくい腫瘍の1つであり、最初の治療の成否によって、予後や術後の機能に大きな差が出てきます。したがって、軟部肉腫の治療は早期発見とともに、必ず専門家のいる病院で治療することが大切です。
2.症状
軟部肉腫の大部分は、皮下や筋肉の中にできたこぶのようなものです。主な症状は痛みのないしこり(腫瘤)や腫れ(腫脹)ですが、痛みがないため放置されていることも多く、大きな腫瘤になってから初めて受診となることも少なくありません。
太ももなどでは、筋肉の厚い場所に発生すると、腫瘤が外からは分かりにくいために、太もも全体が大きく腫れたようになって初めて気が付くことがあります。また、手足にできた腫瘍が大きくなると、関節が曲がらなくなったり、座ることができなくなったりすることもあります。
⼀部には腫瘤自体に痛みがあったり、腫瘤が大きくなって神経を圧迫して痛みを伴ったりすることもあります。また、皮膚の色が変わったり潰瘍ができたりすることもあります。
乳児の場合、訴えがないので周りの人の注意が大切です。
3.組織型分類
軟部肉腫は30種類以上もあり、多くの非横紋筋肉腫軟部肉腫は、小児よりも成人に多く、小児も成人もほぼ同じ自然経過をたどります。代表的な小児の非横紋筋肉腫軟部肉腫について示します。
乳児線維肉腫
好発部位は上肢・下肢で、体幹に発生する場合もあります。乳幼児(4歳未満)に発生する線維肉腫は、局所(腫瘍の発生した部位)では周囲に広がっていく浸潤性がありますが、転移することは少なく、手術で摘出することによって良好な予後(今後の見通し)が期待できます。ほとんどの腫瘍にETV6-NTRK3融合遺伝子が存在しています。
悪性末梢神経鞘腫瘍
好発部位は上肢・下肢、後腹膜、体幹で、後述する滑膜肉腫に次いで小児に多い軟部肉腫です。特定の遺伝子変異により発症する神経線維腫症Ⅰ型患者に多く発生しますが、神経線維腫症に関係なく発生することもあります。
滑膜肉腫
好発部位は下肢で、次いで上肢、体幹に発生します。小児の非横紋筋肉腫軟部肉腫で最も多く、20歳未満の患者が約3割を占めます。よく起こる転移は肺転移です。
胞巣状軟部肉腫
好発部位は下肢で、次いで上肢、頭頸部に発生します。まれな肉腫ですがAYA世代(主に、思春期(15歳~)から30歳代までの世代)に好発します。他の軟部肉腫と比較して進行が遅い場合が多いですが、肺転移を起こしやすい性質があります。また、軟部肉腫には珍しく脳転移を起こすこともあります。
類上皮肉腫
好発部位は上肢、下肢、特に手足から下腿や前腕で、次いで、体幹に発生します。腱、腱鞘に沿って皮下に広範に広がる硬い小腫瘤(硬結)や潰瘍を形成します。進行が遅い腫瘍ですが、リンパ節転移や肺転移を起こしやすく、予後は不良です。