軟部肉腫〈小児〉について
横紋筋肉腫については、「横紋筋肉腫〈小児〉について」のページをご参照ください。
1.軟部組織について
軟部組織は、体を形作っている軟らかい組織のことで、脂肪、筋肉、腱、靱帯、神経、血管、リンパ管などをいいます。体を支える骨や体の表面を覆う皮膚などは含みません。
2.軟部肉腫とは
軟部肉腫とは、体の軟部組織から発生する悪性腫瘍(がん)のことです。悪性軟部腫瘍とも呼ばれます。この腫瘍は、太ももなどの手足(四肢)に発生することが最も多いのが特徴です。そのほか、おなかや背中(体幹)、頭や首(頭頸部)などに発生することもあります。
軟部肉腫には、がん細胞が血液の流れに乗って別の場所に広がる血行性転移を起こしやすい特徴があり、多くは肺に転移します。軟部肉腫の種類によっては、まれにリンパ節へ転移することもあります。
国内での軟部肉腫の発生率は2.5万人に1人程度で、非常にまれながんです。小児で発生する割合はさらに少ないとされています。
また、小児がん全体の中で軟部肉腫が占める割合は5~6%程度です。小児の軟部肉腫では、横紋筋肉腫(横紋筋由来の腫瘍)と未分化肉腫(筋肉や脂肪などのはっきりした特徴をもたない肉腫)が多くみられ、この2つで半数以上を占めています。
軟部肉腫は治療が難しい腫瘍の1つであり、最初に適切な治療が受けられるかどうかが、その後の経過(予後)や手術後の体の機能に大きく影響します。そのため、早期発見に加えて、必ず専門の医師がいる病院で治療することが大切です。
軟部肉腫には50種類以上の組織型(病気の種類)があり、それぞれ性質が異なります。そのうち、横紋筋肉腫以外の軟部肉腫は、まとめて非横紋筋肉腫軟部肉腫と呼ばれます。非横紋筋肉腫軟部肉腫の多くは、小児よりも成人に多くみられます。
以下では、子どもにみられる代表的な非横紋筋肉腫軟部肉腫について説明します。これらの腫瘍は、小児も成人もほぼ同じ経過(病状の推移)をたどることが知られています。
横紋筋肉腫については、「横紋筋肉腫〈小児〉」のページをご参照ください。
滑膜肉腫
脚(下肢)に最も多く発生し、次いで腕(上肢)、おなかや背中(体幹)に発生します。小児の非横紋筋肉腫軟部肉腫で最も多い病気です。全体の約3割を20歳未満の若年層が占めています。肺への転移が見られることがあります。
悪性末梢神経鞘腫瘍
脚や腕(四肢)、おなかや背中(体幹)、おなかの奥(後腹膜)などに発生します。小児に起こる軟部肉腫の中では滑膜肉腫に次いで2番目に多い病気です。特定の遺伝子変化が原因で発生する神経線維腫症Ⅰ型の子どもに多く発生しますが、この病気とは関係なく発生することもあります。
乳児線維肉腫
腕や脚(四肢)に多く発生し、おなかや背中(体幹)にできることもあります。4歳未満の乳幼児に発生する線維肉腫は、腫瘍ができた場所から周りに広がっていく性質(浸潤性)があります。一方で、他の臓器へ転移することは少なく、手術で完全に摘出することができれば、その後の経過(予後)はよいことが期待できます。また、ほとんどの腫瘍にETV6::NTRK3融合遺伝子と呼ばれる特有の遺伝子の変化が見つかることが大きな特徴です。
胞巣状軟部肉腫
太ももなどの脚(下肢)に最も多く発生し、次いで腕(上肢)、頭や首(頭頸部)に発生します。まれな肉腫ですが、AYA世代(主に、思春期(15歳~)から30歳代までの世代)に多く発症する特徴があります。他の軟部肉腫と比較して進行は穏やかな場合が多いものの、肺に転移しやすい性質をもっています。また、軟部肉腫には珍しく、脳に転移することもあります。
類上皮肉腫
腕や脚(四肢)、特に手から前腕、足先からすねにかけて多く発生し、次いで、おなかや背中(体幹)に発生します。筋肉と骨をつなぐ腱や、それを包む腱鞘に沿って皮膚の下に広範に広がる硬いしこり(硬結)や皮膚がえぐれる潰瘍を形成することがあります。進行はゆっくりですが、リンパ節や肺に転移しやすく、治療が難しい場合があります。
3.症状
軟部肉腫の多くは、皮膚の下や筋肉の中にできた「こぶ」のようなものです。主な症状は、痛みのないしこり(皮膚の下にできる比較的はっきりした塊)や腫れ(その部分が全体的に膨らんだ状態)です。痛みがないため、こぶが大きくなってから初めて病院を受診するケースが多いのが特徴です。
太ももなど筋肉の厚い場所に発生すると、初期の段階では外からは分かりにくいため、大きく腫れたようになって初めて気が付くことがあります。また、腕や脚(四肢)にできたしこりが大きくなると、周囲の組織が圧迫されます。その結果、関節が曲がらなくなったり、座ることができなくなったりすることもあります。
⼀部には腫瘤自体に痛みを生じたり、腫瘤が神経を圧迫して痛みを伴ったりすることもあります。さらに、皮膚の色が変わったり、皮膚や粘膜の表面が深く削れて潰瘍ができたりすることもあります。
乳幼児の場合、自分で症状を訴えることができないため、周りの人がよく見て変化に注意することが大切です。
4.発生要因
小児がんの多くは、なぜ発生するのかという根本的な原因が分かっていません。生まれつきの体質(遺伝的な要因)が関わっていることもありますが、非常にまれです。もし遺伝的な要因が関わっていると分かった場合は、一人ひとりの体質に合わせた治療や健康管理を丁寧に行っていきます。
小児の軟部肉腫の発生要因も、多くの場合、明らかになっていません。大半のケースでは生活環境などの明らかな原因(リスク要因)はなく、親から遺伝したものではない遺伝子の変化が偶然重なって発生すると考えられています。ただし、一部のケースでは特定の遺伝性疾患(リ・フラウメニ症候群や神経線維腫症など)が関連していることが分かっています。また、非常にまれですが、過去に別の病気で受けた放射線治療が原因となり、その場所に、二次がんとして発生することもあります。
5.予防・検診
小児がんの根本的な原因や予防法は今のところはっきり分かっていません。小児の軟部肉腫についても、親からの遺伝や生活環境などの特定の原因が影響して発症する可能性は低いと考えられています。そのため、日常生活の中で注意して予防する方法は現在のところありません。
また、国が推奨する小児がんに特化したがん検診はありません。症状が出てから検査を受けて見つかる場合がほとんどです。
軟部肉腫〈小児〉 検査
軟部肉腫が疑われた場合には、まず医師が目で見て、触って確認する「視診」と「触診」を行います。皮膚に治りにくい潰瘍ができている場合や、深い場所に発生した腫瘍で硬いものは、悪性腫瘍の可能性が高くなります。特に大きさが5cmを超える腫瘍は注意が必要です。これらに加え、腫瘍の一部を採取して調べる生検を行って、腫瘍細胞の種類を調べます。軟部腫瘍の場合、適切な治療を行うためには正確な診断が必要となります。経験豊富な専門の医療機関を受診することが大切です。
横紋筋肉腫の検査については、「横紋筋肉腫〈小児〉 検査」のページをご参照ください。
1.画像検査
がんの疑いがある場合は、腫瘍の性質や広がりを調べるため、CT検査、MRI検査、超音波(エコー)検査、血管造影検査などを行います。これらの検査により、腫瘍の形や広がりを詳細かつ立体的に確認することができます(画像診断)。
また、転移がないかを調べるために、胸部や腹部のCT検査を行います。腫瘍の種類によっては、造影剤を使ってよりくっきりと映し出す腹部のCT検査や脳のMRI検査を行うこともあります。
2.病理検査
病気の正確な診断(病理組織診断)のために、針を刺して腫瘍組織の⼀部を取り出して顕微鏡で調べる針生検を行います。外来で比較的簡単に行える検査ですが、採取した腫瘍の量が少ないなどの理由で、確実な診断が難しいこともあります。
針生検で十分な情報が得られない場合は、皮膚を少し切り開いて約1cm⾓程度の腫瘍組織を直接採取する切開生検を行い、腫瘍の種類(組織型)や悪性度(細胞の形や増殖のスピードから評価したがんの性質の悪さ)を正確に診断します。
3.腫瘍マーカー検査
軟部肉腫では、現在のところ、診断や治療効果の判定に使用できるような特定の腫瘍マーカーはありません。
軟部肉腫〈小児〉 治療
軟部肉腫の治療は、手術(外科治療)、薬物療法、放射線治療などがあります。また、診断されたときから、がんに伴う心と体のつらさなどを和らげるための緩和ケア/支持療法を受けることができます。
子どものがんの治療は、大人のがん治療とは異なる部分があります。小児がんと診断された場合は、小児がんの医療を専門的に行っている病院(例えば小児がん拠点病院、小児がん連携病院など)で治療を受けるようにしましょう。できれば子どもの成長・発達に配慮した設備、医療者などの環境が整っている病院がよいでしょう。
横紋筋肉腫の治療については、「横紋筋肉腫〈小児〉 治療」のページをご参照ください。
1.病期(ステージ)と治療の選択
治療方法は、腫瘍(がん)の進行の程度を示す病期(ステージ)やがんの性質、体の状態などに基づいて検討します。
1)病期分類
すべての軟部肉腫に適用されるわけではありませんが、一般的には国際的な基準(TNM分類)を使って病期分類を行います。この基準では、がんの大きさ(T)、リンパ節への広がり(N)、他の臓器への転移(M)があるかどうかを調べます。これに加えて、顕微鏡で見た細胞の形や増殖のスピードから、がんの性質の悪さ(悪性度)を評価します。
軟部肉腫には非常に多くの種類(組織型)があります。そのため、これらをまとめて評価できるように、おなかや背中(体幹)、脚や腕(四肢)、おなかの奥(後腹膜)にできた軟部腫瘍については、病期分類の評価項目の1つとして悪性度が用いられています(表1)。
頭や首(頭頸部)、胸(胸腔)、おなかの中の臓器(腹腔内臓器)にできた軟部肉腫については、病期の定義はありません。がんがどの程度広がっているかを示す進展度を使って分類します(表2、表3)。
| 病期 | 腫瘍のサイズ 1) | リンパ節転移 2) | 遠隔転移 3) | 悪性度 4) |
|---|---|---|---|---|
| ⅠA | T1 | N0 | M0 | Grade 1、Grade X(低悪性度) |
| ⅠB | T2、T3、T4 | N0 | M0 | Grade 1、Grade X(低悪性度) |
| Ⅱ | T1 | N0 | M0 | Grade 2、Grade 3(高悪性度) |
| ⅢA | T2 | N0 | M0 | Grade 2、Grade 3(高悪性度) |
| ⅢB | T3、T4 | N0 | M0 | Grade 2、Grade 3(高悪性度) |
| Ⅳ | Any T (腫瘍のサイズは問わない) |
N1 | M0 | Any Grade(Gradeは問わない) |
| Ⅳ | Any T (腫瘍のサイズは問わない) |
Any N (転移の有無は問わない) |
M1 | Any Grade(Gradeは問わない) |
- 1)T1(最大径≦5cm)、T2(5cm<最大径≦10cm)、T3(10cm<最大径≦15cm)、T4(15cm<最大径)、Any T(腫瘍のサイズは問わない)
- 2)N0(すぐ近くにある領域リンパ節への転移なし)、N1(領域リンパ節への転移あり)、Any N(転移の有無は問わない)
- 3)M0(離れた臓器などへの遠隔転移なし)、M1(遠隔転移あり)
- 4)FNCLCC分類(悪性度はGrade 1<Grade 2<Grade 3); Grade 1(合計スコア2または3)、Grade 2(合計スコア4または5)、Grade 3(合計スコア6または7または8)、Grade X(分化度の評価が不可能)、Any Grade(Gradeは問わない)
| 進展度 | TNM分類 |
|---|---|
| 限局1) | T1(最大径≦2cm) |
| T2(2cm<最大径≦4cm) | |
| T3(4cm<最大径) | |
| 領域リンパ節転移 | N1 |
| 隣接臓器浸潤 | T4a(眼窩 2)/頭蓋底 3)/硬膜 4)/正中臓器 5)/顔面骨格/翼突筋 6)に浸潤) |
| T4b(脳実質 7)/椎前筋 8)/中枢神経に浸潤/頸動脈を取り囲む) | |
| 遠隔転移 | M1 |
- 1)腫瘍が発生した場所にとどまっていて、周囲や別の部位へ広がっていない状態
- 2)眼球が収まっている骨で囲まれた空間(目のくぼみ)
- 3)頭蓋骨の底の部分で、脳を下から支えている骨
- 4)脳や脊髄を包む膜のうち、最も外側にある膜
- 5)体の中央付近に位置する臓器
- 6)あごを動かしたり食べ物をかんだりするときに働く筋肉
- 7)脳の本体にあたる組織
- 8)首の骨(頸椎)の前側にある筋肉
| 進展度 | TNM分類 |
|---|---|
| 限局 | T1(単一臓器に限局) |
| 領域リンパ節転移 | N1 |
| 隣接臓器浸潤 | T2a(漿膜/臓側腹膜 1)に浸潤) |
| T2b(漿膜を超える顕微鏡的進展) | |
| T3(2臓器浸潤/漿膜を超える肉眼的進展) | |
| T4a(2部位以下浸潤多病巣性腫瘍 2)) | |
| T4b(3-5部位浸潤多病巣性腫瘍) | |
| T4c(6部位以上浸潤多病巣性腫瘍) | |
| 遠隔転移 | M1 |
- 1)臓器などの表面を包んでいる薄くて潤いのある保護膜(漿膜/臓側腹膜)
- 2)1つの臓器や部位に、複数の腫瘍が発生している状態
2)治療の選択
治療法は、病期や進展度に基づいて、手術(外科治療)、薬物療法、放射線治療などについて検討します。年齢や体の状態、生活環境などを考慮しながら、子ども本人の希望や気持ちを尊重し、担当医とよく話し合って決めていきます。
手術、放射線治療はがんがある部分を集中的に治療する局所の治療で、薬物療法は全身的な治療です。転移があったり転移が疑われたりする場合は、全身的な治療(薬物療法)が必要となります。現在、軟部肉腫の治療の中心は手術ですが、悪性度の高い場合は、転移が見つからなくても全身的な治療を組み合わせることがあります。また、必要に応じて手術、薬物療法、放射線治療を組み合わせた「集学的治療」を行うこともあります。
温熱療法、免疫療法と呼ばれる治療法については、現在のところ、軟部肉腫の治療法として確立されたものはありません。
なお、担当医から複数の治療法を提案され、選択を求められることもあります。治療を選ぶにあたって分からないことは、まず担当医に確認することが大切です。治療の選択に関する悩みや困りごとは、がん相談支援センターで相談することもできます。
病期別の治療例
ⅠA、ⅡB、Ⅱ期については通常は、がんの周囲の正常な組織を含めて切除する手術(広範切除)のみで治療します。
ⅢA、ⅢB期についても広範切除が基本です。ただし、深部に発生した5cmを超えるような軟部肉腫で、悪性度が高く、薬物療法(化学療法)の効果が期待できる場合(例えば滑膜肉腫など)は、手術前や手術後に補助的に抗がん薬を全身投与する薬物療法(補助化学療法)を行うことが推奨されます。
Ⅳ期については、リンパ節転移のみであれば、Ⅲ期と同じ治療方法で治癒を目指した治療ができる場合があります。一方、遠隔転移(がんが離れた臓器に広がった状態)がある場合は、すべての病巣が切除可能であれば、積極的に切除手術と薬物療法を組み合わせた治療を行うこともあります。しかし、全体としては完治が難しい場合が多く、基本的には薬物療法が中心となります(表1)。
病期のない軟部肉腫については、腫瘍のできた場所と種類によって治療法が異なります。そのため、それぞれの進展度に応じた最適な治療を行います(表2、表3)。
一般に、血管の流れに乗ってがんが広がる血行性転移を起こしている小児の軟部⾁腫の場合は、どのタイプの腫瘍でも治療が難しくなりやすいとされており、一律に決まった治療方法はありません。基本的な治療は薬物療法になりますが、一人ひとりの状況に応じてもともとの病巣(原発巣)や転移した病巣(転移巣)の切除を行ったり、放射線治療を組み合わせたりすることがあります。
妊孕性温存(妊娠するための力を保つこと)について
がんの治療が、将来の妊娠や出産に影響することがあります。近年、卵子や精子、受精卵、卵巣や精巣などの組織を凍結保存する「妊孕性温存治療」という選択肢も加わってきました。ただし、年齢や発達の状況によって利用できる方法は異なり、乳幼児などでは選択肢が限られる場合があります。まずは治療を開始する前に、妊孕性温存治療ができるかどうか、担当医に相談してみましょう。
2.手術(外科治療)
がん(腫瘍)が他へ広がらず、発生した部位(局所)だけにとどまっている場合、その部分の腫瘍を切除します。このとき、できるだけ再発を防ぐ工夫をして手術を行います。がんは成長するときに、周りに反応層と呼ばれる膜のような領域をつくります。しかし、この反応層の中にはすでにがん細胞が入り込んでいます。そのため、反応層のぎりぎりで切除すると再発する可能性が高くなってしまいます。これを防ぐために、反応層の外側にある正常な組織も含めて大きめに切除する手術を行います(広範切除術)。
近年では、再建の技術が大きく進歩し、がんを切除したところに別の部位の皮膚、筋肉、骨などを持ってきて細い血管をつないだり(再建手術)、静脈や人工血管を使って血管を移植したりできるようになりました。これにより、以前であれば切断するしかなかった場合でも、手足を残して機能を保つ手術(患肢温存術)を選べる機会が増えています。
ただし、がんが大きくなって血管や神経を巻き込んでいる場合は、やむを得ず手足の一部を切断する手術が必要になることもあります。
また、リンパ節への転移が疑われる場合は、そのリンパ節を切除します。しかし、転移が確認されていない周りのリンパ節まで含めて予防的に切除するリンパ節郭清を行うべきかどうかについては、まだはっきりとした結論が出ていません。
3.薬物療法
薬物療法は薬を使って全身のがんを治療する治療法です。静脈から点滴で投与(全身投与)された抗がん薬は、血液の流れで運ばれて全身に行き渡り、がん細胞に作用して死滅させたり、増殖を抑えたりします。
軟部肉腫の薬物療法には、主に次の2つがあります。1つ目は手術の前後に行う薬物療法(補助化学療法)、2つ目はがんの進行を抑える目的で行う薬物療法です。
軟部肉腫では、手術後に再発して転移がみられることがあります。この場合、現在の検査では発見できない小さな転移(微小転移)が手術の時点ですでにあったと考えられます。このような微小転移を治療するため、手術前や手術後に補助的に抗がん薬を全身投与する薬物療法を補助化学療法といいます。
また、すでに肺などへの転移がある場合や、手術による切除が難しい場合には、病気の進行を抑える目的で薬物療法を行うことがあります。
軟部肉腫の治療に使用する主な薬剤には、細胞障害性抗がん薬(がん細胞の増殖を抑える薬)のドキソルビシン、イホスファミド、トラベクテジン、エリブリン、分子標的薬(がん細胞に特徴的な目印を狙って攻撃する薬)のパゾパニブなどがあります。トラベクテジン、エリブリン、パゾパニブは国内で小児に対する安全性が確認されていないため、原則として16歳以上が対象となります。ドキソルビシンとイホスファミドは併用する場合があります。
病気の種類に応じた薬剤を使って治療を行うこともあります。
乳児線維肉腫では、最初の手術で大切な機能を残して切除することが難しい場合に、細胞障害性抗がん薬(ビンクリスチン+アクチノマイシンD)を用いる治療や分子標的薬のトロポミオシン受容体キナーゼ(TRK)阻害剤を用いる治療を検討することがあります。
また、胞巣状軟部肉腫では、最初に発生したがん(原発巣)や転移したがん(転移巣)の切除が難しい場合に、免疫チェックポイント阻害薬(患者自身の免疫力を高めることでがんを攻撃する薬)の抗PD-L1抗体による治療を検討することがあります。
以前は、薬物療法は副作用が強くつらい治療の1つと考えられていました。しかし最近では、副作用を軽減する新しい薬剤の開発や支持療法の進歩により、副作用やつらさを和らげながら、より安全に治療を行うことができるようになっています。
4.放射線治療
放射線治療は高いエネルギーの放射線をがんに照射する治療法です。がん細胞を死滅させて、腫瘍(がんの塊)を小さくするために行います。ただし、軟部肉腫は放射線治療が効きにくいものが多いため、最初から放射線治療だけをメインに選択することはあまりありません。
手術ができない場合や、手術前に放射線治療を行って腫瘍をできるだけ小さくしたい場合、手術後にがんの取り残しが考えられる場合などに行います(補助的放射線療法)。
5.緩和ケア/支持療法
小児がんになると、体や治療のことだけではなく、学校のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体のつらさや社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。
本人にしか分からないつらさもありますが、幼い子どもの場合、つらさを我慢したり、あるいは自分で症状をうまく表現できなかったりすることもあります。そのため、周りの人が本人の様子をよく観察したり、話をよく聞いてあげたりすることが大切です。気になることがあれば積極的に医療者(医師、看護師、薬剤師、理学療法士など)へ伝えましょう。
6.リハビリテーション
リハビリテーションは、がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力を維持・向上させるために行います。また、心と体のさまざまなつらさを和らげる緩和ケアの一環としても、非常に重要な役割をもっています。
子どもは、がんやその治療の影響によって日常生活動作(ADL)が低下しやすく、リハビリテーションの強さや回数の調節が難しい面があります。年齢や性格に合わせて遊びの要素を取り入れたり、無理をさせないように配慮したり、工夫しながら進めます。
軟部肉腫の場合、全身のあらゆる部位から発生するため、発生した部位によって必要なリハビリテーションも異なります。治療の経過を見ながら、早期に、関連する診療科(例えば、形成外科や口腔外科、整形外科など)と連携し、一人ひとりに最適なリハビリテーションを行います。
7.再発した場合の治療
再発とは、治療によってがんがなくなったと判断されたあとに、再びがんがあらわれることです。最初に発生したがん(原発巣)のあった場所やその近くに、再びあらわれることだけでなく、別の臓器で「転移」した状態で見つかることも含めて再発といいます。
軟部肉腫が再発した場合の治療は、再発した部位やこれまでに受けた治療内容、さらには全身状態などによって異なります。そのため、共通する標準的な治療方法はなく、一人ひとりの状態に合わせて治療を検討します。
最初のがんが発生した部位(局所)だけに再発した場合は、手術による広範切除(腫瘍の周りを含めて広く切除すること)が推奨されていますが、手術だけではがんを抑えることが難しいこともあります。
遠隔転移で別の臓器に再発した場合は、転移の状況や病状に合わせて薬物療法や放射線治療を行うことがあります。また、子どもの体力や病状の進行状況次第では、病気に伴う体や心のつらさを和らげ、家族と穏やかに過ごすための緩和ケアに重点を置くことが最も適した選択になる場合もあります。
軟部肉腫〈小児〉 療養
本人の心や体のケア、家族へのケア、周りの方ができること、制度やサービス、入院治療後の生活、長期フォローアップなどの情報を関連情報に掲載しています。併せてご活用ください。
横紋筋肉腫の療養については、「横紋筋肉腫〈小児〉 療養」のページをご参照ください。
1.入院治療中の療養
子どもにとっての入院生活は、検査や治療に向き合う療養生活に加え、発達を促すための遊びや学びの場でもあります。病院では、さまざまな職種が連携し、多方面から子どもと家族を支援していきます。
- 医師、看護師、薬剤師、理学療法士、心理士、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど
- 保育士、療養支援の専門職(チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)、ホスピタル・プレイ・スペシャリスト(HPS)、子ども療養支援士など)、院内学級の教員など
また、入院治療中は、保護者が子どもに付き添う時間がどうしても多くなります。そのため、きょうだいがいる家庭では、きょうだいの心のケアやサポートも重要になります。
医療費のことも含め、さまざまな支援制度があります。「どこに相談したらいいのか分からない」というときには、まずは「がん相談支援センター」に相談することから始めましょう。子ども本人のことに限らず、保護者自身の不調や悩みなどについても相談が可能です。1人で抱え込まずに、周りに頼ること、多方面と効果的にコミュニケーションを取ることが大切です。各医療機関の相談窓口、ソーシャルワーカー、各自治体の相談窓口に尋ねることもできます。
軟部肉腫の入院治療は、退院と入院を繰り返しながら長期間に及ぶことがあります。そのため、小学生、中学生、高校生などの場合は、入院中も体調に合わせた学習の継続が必要になります。治療が終わったあとにスムーズにもとの学校生活に戻れるよう、院内学級や教師の訪問教育、オンライン授業への参加など、さまざまな配慮や工夫が行われています。
2.経過観察
治療後は定期的に通院して検査を受けます。軟部肉腫では、がんの再発や時間がたってからあらわれる晩期合併症の早期発見のために、定期的な診察や画像診断などの経過観察が必要になります。経過観察のスケジュールや検査の内容は、子ども一人ひとりの状態によって異なります。詳しくは、担当医に確認しましょう。
3.日常生活を送る上で
退院して間もなくは、入院生活と治療の影響により体力や筋力が低下しています。あせらずに少しずつ普段の生活リズムを取り戻していきましょう。
食事
食欲が低下して食事内容が偏ってしまう場合があります。十分な水分摂取とともに栄養のバランスを考慮した食事を心がけるようにしましょう。
運動
強い紫外線による過度の日焼けは避けましょう。特に退院後しばらくは、治療の影響によるバリア機能の低下や、手術の傷跡などにより、皮膚が紫外線の影響を受けやすいことがあるため注意が必要です。また、疲れが翌日に残るような激しい運動は控え、体調を見ながら徐々に普段の活動に戻していきましょう。運動再開の時期や内容は、病気や治療内容、回復状況によって異なるため、担当医に相談してください。
感染予防
受けた治療によりますが、治療後しばらくの間は予防接種を受けられないことがあります。日頃からの感染予防に努めましょう。また、退院してしばらくは感染を防御する力が十分には回復していないこともあります。近くでみずぼうそうや、はしかなどの特別な感染症が流行した場合は、すぐに担当医に連絡し、対応を相談してください。
登園・登校(復園・復学)
園や学校に戻るタイミングについては、子どもの状態によって一人ひとり異なります。時期やこれからのスケジュール、さらに、活用できる社会的サポートについては、担当医やソーシャルワーカーとよく話し合いながら進めていくことが大切です。
集団生活が始まったら、子どもの様子を見ながら、担任の先生や養護教諭などと相談し、できることから徐々に慣らしていきましょう。
4.晩期合併症/長期フォローアップ
1)晩期合併症
晩期合併症とは、治療が終わってから長い時間が経過したあとに起こる健康上の問題のことです。疾患そのものの影響よりも、薬物療法、放射線治療、手術、輸血などの治療が原因となっていることが多いとされています。本人や家族が、将来どのような晩期合併症が起こる可能性があるのかを知っておくことはとても大切です。
どのような晩期合併症が出やすいかは、病気の種類、受けた治療、治療時の年齢により異なります。その程度も軽いものから重いものまであり、発症する時期も数年後から数十年後までさまざまです。
軟部肉腫では、成長や発達への影響、生殖機能への影響、臓器機能への影響、二次がんなどがあります。
2)長期フォローアップ
晩期合併症に適切に対処するためには、発達段階に応じた、幅広いフォローアップケアが必要となります。治療後は一人ひとりの子どもに合わせて、いつ・どこで・どのような診察や検査を行うかといった、長期フォローアップの方針を決めていきます。
また、治療の記録(薬物療法で使用した薬剤の名前や量、放射線治療の部位や放射線量など)を残していくことも重要です。就学や進学、就職、転居、結婚などにより生活環境や通院する医療機関が変わったときにも継続していきましょう。治療から長い年月が経つと、医療機関側でも過去の治療内容を詳しく確認するのが難しくなることもあります。
治療部位以外でも体のことについて気になることがあれば、担当医に相談しましょう。
軟部肉腫〈小児〉 臨床試験
より優れた標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。
現在行われている標準治療は、より多くの人によりよい治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。
軟部肉腫〈小児〉の臨床試験を探す
国内で行われている軟部肉腫〈小児〉の臨床試験が検索できます。
がんの臨床試験を探す チャットで検索
※入力ボックスに「軟部肉腫」と入れて検索を始めてください。チャット形式で検索することができます。
がんの臨床試験を探す カテゴリで検索 小児の固形がん
※「カテゴリで検索」では、広い範囲で検索します。そのため、お探しのがんの種類以外の検索結果が表示されることがあります。
臨床試験への参加を検討する際は、以下の点にご留意ください
- 臨床試験への参加を検討したい場合には、担当医にご相談ください。
- がんの種類や状態によっては、臨床試験が見つからないこともあります。また、見つかったとしても、必ず参加できるとは限りません。
軟部肉腫〈小児〉 患者数(がん統計)
横紋筋肉腫を除く軟部肉腫の患者数(がん統計)について記載しています。横紋筋肉腫については、「横紋筋肉腫〈小児〉 患者数(がん統計)」のページをご参照ください。
1.患者数
日本では、毎年約35~60人の小児が非横紋筋肉腫軟部肉腫を発症しています。
2.生存率
小児がんの生存率に関する情報です。
軟部肉腫〈小児〉 関連リンク・参考資料
1.軟部肉腫〈小児〉の相談先・病院を探す
2.参考資料
- 日本小児血液・がん学会編.小児がん(血液腫瘍・固形腫瘍)診療ガイドライン 2026年版.2026年,金原出版.
- 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会・軟部腫瘍診療ガイドライン策定委員会編.軟部腫瘍診療ガイドライン2020.2020年,南江堂.
- 日本小児血液・がん学会編.小児血液・腫瘍学 改訂第2版.2022年,診断と治療社.
- James D.Brierleyほか編.TNM悪性腫瘍の分類 第8版 日本語版.2017年,金原出版.
- JCCG長期フォローアップ委員会長期フォローアップガイドライン作成ワーキンググループ編.小児がん治療後の長期フォローアップガイド.2021年,クリニコ出版.
作成協力
一般社団法人くすりの適正使用協議会 くすりのしおり