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Q1 肺炎球菌とは何ですか?
A1肺炎は、2023年における日本人の死因の第5位を占めています。肺炎球菌は肺炎の原因として最も多く、成人の肺炎の20~30%を占めると報告されています。また肺炎球菌は、その他中耳炎や副鼻腔炎、細菌性髄膜炎においても、その原因となることが最も多い細菌です。無症状のまま鼻やのどに定着していることも多いですが、免疫力の低下などをきっかけとして、肺炎、敗血症、髄膜炎など重篤な感染症を引き起こすことがあります。免疫機能が低下した状態では、肺炎球菌による感染症を起こしやすくなるため注意が必要です。
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Q2 がんの患者でも、肺炎球菌ワクチンの接種を受けることができますか?
A2受けることができます。肺炎球菌ワクチンは細菌の病原性をなくして作った不活化ワクチンですので、接種により肺炎球菌感染症を発症することはありません。そのため、がんの患者でも安全に接種できます。一方で効果の面では、免疫機能が低下した状態では、ワクチンの効果が十分に得られないことがありますので、病状や全身状態によってワクチン接種の時期などを検討する必要があります。まずはがん治療の担当医に相談してください。
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Q3 現在がんの治療中です。肺炎球菌ワクチンの接種を受けたほうがよいですか?
A3受けることが勧められます。がんの種類や治療法にもよりますが、がんの治療中は免疫機能が低下する傾向があります。免疫とは、主に感染症から自分の体を守る仕組みで、体内に入ってきた微生物を攻撃したり、一度かかった感染症にかかりにくくしたりする働きがあります。免疫機能が低下すると、通常より肺炎球菌感染症にかかりやすくなり、またかかった場合に重症化する危険性も高まります。特に血液やリンパのがんの人、免疫器官として重要な役割を担っている脾臓を摘出した人は感染のリスクや重症化のリスクが高くなります。
また、薬物療法の中には強い免疫抑制を伴うものがあります。副作用には個人差がありますが、骨髄抑制、白血球減少などがみられた場合は特に感染症に気を付けましょう。造血幹細胞移植やCAR-T細胞療法(免疫療法の1つ)を受けた場合も、薬物などの影響で免疫力が低下した状態が続き、個人差はありますが、免疫機能が回復するまで1~2年かかります。その他、脾臓に放射線治療を行った場合に免疫機能が低下することがあります。
このように免疫力が低下した状態の中であっても肺炎球菌への抵抗力を高めるために、がんの治療中の人には、そうではない人以上に肺炎球菌ワクチンの接種が勧められています。また、インフルエンザ予防接種と併用することで、より高い肺炎予防効果が期待できます。なお、実際に免疫が低下しているかどうかは、治療の経過や血液検査などにより、がん治療の担当医が判断します。
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Q4 肺炎球菌ワクチンの接種はどのタイミングで受ければよいですか?
A4肺炎球菌感染症は、1年を通じて発生するため、季節にかかわらず接種が可能です。ただし、免疫機能が低下している状態では、ワクチンを接種しても免疫が十分にできない可能性があります。すでに治療中、治療後の人は免疫機能の状態をみて接種のタイミングを検討する必要がありますので、がん治療の担当医とよく相談してください。
ワクチンの予防効果は、時間の経過とともに低下していきます。そのため特に感染リスクの高い、血液やリンパのがんの人、脾臓を摘出した人を中心にワクチンの再接種が勧められています。ただし、5年以内に再接種をすると、注射部位の痛みなどが強く出ることがあることから、一度接種したら5年以上の間隔を空けることが推奨されています。肺炎球菌ワクチンを接種したことがある場合には、必ず担当医に伝えることが大切です。
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Q5 肺炎球菌ワクチンの接種に保険適用や公費補助はありますか?
A5現在国内で使われている主な肺炎球菌ワクチンは、23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックスNP)、沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(商品名:プレベナー13)、沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(商品名:バクニュバンス)の3種類です。このうち、23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックスNP)は、脾臓を摘出した人への接種が保険適用になっています。
また、23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックスNP)は、平成26年10月から高齢者を対象とする定期接種になっています。定期接種とは予防接種法に基づいて、市町村が主体となって行うもので、接種の対象者が希望する場合に実施されます。ただし、すでに23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックスNP)の接種歴がある人は定期接種の対象にはなりません。接種費用の一部は公費で賄われますが、その補助額は市区町村によって異なります。詳しくはお住まいの市区町村へお問い合わせください。
定期接種の対象者- 65歳の人
- 60~64歳で、心臓や腎臓、呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活を極度に制限される人
- 60~64歳で、ヒト免疫不全ウイルスによって免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人
定期接種で使用するワクチン- 23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックスNP)
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Q6 肺炎球菌ワクチンの接種によって起こる症状(副反応)にはどのようなものがありますか?
A6ワクチン接種後の反応で、免疫ができる以外のものを副反応といいます。肺炎球菌ワクチンの接種では、接種部位の痛み・赤み・腫れ、筋肉痛、だるさ、発熱、頭痛などの副反応がみられることがあります。これまでのデータでは、これらの副反応とがん患者かどうかとは関係がありません。がん患者かどうかにかかわらず、過去に予防接種で強い副反応が出たことがある人、肺炎球菌ワクチンの接種歴がある人は接種前に医師に伝えることが大切です。また、ワクチン接種後は安静にして様子をみましょう。気になる症状が出た場合は接種した医療機関に連絡してください。
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Q7 ワクチン接種以外に肺炎球菌感染症の予防として大切なことは何ですか?
A7肺炎球菌感染症は、風邪などちょっとした体調の崩れをきっかけとして発症することが多く、手洗い、うがいなど一般的な感染症予防策や、睡眠や食事など規則正しい生活を送ることが大切です。また、同居の家族など周囲の人は、体調が悪い時には十分な手洗いやマスクをするなどして、患者に風邪などをうつさないよう気を付けることが重要です。さらに、高齢者などでは、鼻や口の中に定着した細菌を吸い込むことによって肺炎を発症することがありますので、歯磨きやうがいなどで口の中を清潔に保つことも大切です。
肺炎球菌には90種類以上の型(莢膜血清型と呼ばれます)があります。23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックスNP)は、そのうちの感染症を起こすことが多い23種類の型を対象に作られていますが、すべての型を網羅しているわけではありません。したがって、完全に肺炎球菌感染症を予防することはできません。そのため、ワクチン接種を受けたあとも日頃の予防策を心がける必要があります。
「肺炎球菌感染症Q&A」参考文献
- 厚生労働省ウェブサイト.肺炎球菌感染症(高齢者)(閲覧日2024年6月9日)https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省ウェブサイト.肺炎球菌感染症(小児)(閲覧日2024年6月9日)https://www.mhlw.go.jp/
- 日本臨床腫瘍学会編.発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン改訂第3版.2024年,南江堂.
- 日本乳癌学会編.乳癌診療ガイドライン①治療編2022年版.2022年,金原出版.
- 日本感染症学会ウェブサイト.ガイドライン 肺炎球菌ワクチン再接種のガイダンス(改訂版);2017年(閲覧日2024年6月10日)https://www.kansensho.or.jp/
- 日本感染症学会ウェブサイト.提言 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方;2024年,6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方(第2版);2023年(閲覧日2024年6月10日)https://www.kansensho.or.jp/
- 国立感染症研究所ウェブサイト.感染症情報 肺炎球菌感染症(閲覧日2024年6月10日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/
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