1.経過観察
治療後は、定期的に診察を受け、必要があれば検査をします。検査を受ける頻度は、がんの進行度や治療法によって異なります。
問診や視触診は、初期治療終了後の3年間は3〜6カ月ごと、4〜5年目は6〜12カ月ごと、5年目以降は年1回の頻度で行うことが勧められています。また、乳房部分切除後は、手術した乳房や反対側の乳房に対して、年に1回程度マンモグラフィを受けることが推奨されています。
必要に応じて、超音波検査、腫瘍マーカー検査なども行います。また、もともとの病気の状態や治療内容によって、MRI検査なども組み合わせて乳房の状態を確認することもあります。
症状がなく経過が順調なときは、それ以外の検査を受けるメリットは少ないとされています。これは、症状がない状態で再発を早期発見し早く治療を始めた場合と、何らかの自覚症状によって再発が発見されてから治療を始めた場合とを比較した研究で、生存期間に差はないということが複数報告されているからです。また、早期発見し早く治療を始めた場合には、薬物療法などの治療を受ける期間が長くなり、体への負担や経済的な負担が大きくなるという見方もあります。
検査は、患者ひとりひとりに最適な内容・頻度で行われるため、人によって異なります。検査について不安や疑問があるときには、担当医に聞いてみましょう。
2.日常生活を送る上で
規則正しい生活を送ることで、体調の維持や回復を図ることができます。禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、適度な運動などを日常的に心がけることが大切です。
症状や治療の状況により、日常生活の注意点は異なりますので、体調をみながら、担当医とよく相談して無理のない範囲で過ごしましょう。
乳がんは他のがんと比べて、比較的若い年齢で発症することが多いがんです。乳がんと診断されたときから治療が進む中で、仕事や家族のことなどさまざまな不安を抱え、それが生活に影響を与えることもあります。
不安や悩みへの対処として、医療者への相談はもちろんですが、患者会やピアサポート、がん相談支援センターを利用するのもよい方法です。
また、治療による副作用は、治療後も続いたり、治療後しばらく経過してあらわれたりすることがあります。気になることがあれば、担当医に相談しましょう。
1)手術(外科治療)後の日常生活
(1)腕や肩を動かしにくい
治療した側の腕があがりにくい、腕を回しにくい、腕がだるい、痛む、しびれる、わきの皮膚が突っ張るといった症状がみられることがあります。リンパ節や脂肪組織、皮膚、筋肉など、切除した範囲が広いとこれらの症状が起こりやすくなります。担当医に相談の上、腕や肩の運動を段階的に取り入れていくとよいでしょう。詳しくは、関連情報の「乳がん 治療 6.リハビリテーション」をご覧ください。
(2)リンパ浮腫
リンパ節郭清や、リンパ節に放射線治療を行った後に、腕や手がむくむことがあります。リンパ浮腫はいったん起きると治りづらいこともあるため、予防が大切です。医師の指導によって、日常生活の工夫を行いましょう。リンパ浮腫外来などの専門家がいる医療施設もありますので、担当医に相談した上で利用するのもよいでしょう。
(3)手術後の下着の選び方について
傷の治り具合や再建手術の有無、方法によって、下着の選び方は変わります。担当医や看護師から指示があるときはそれに従ってください。
手術直後は、傷が擦れたり締め付けられたりしないような、ゆったりとした下着をつけましょう。前開きタイプのもの、ノンワイヤーのものが便利です。傷に影響しなければ、以前使用していた下着をつけることもできます。また、乳房手術後専用の補整下着もあります。
乳房全切除術を受けた場合や、乳房部分切除術や乳房の再建をしても形が気になる場合、乳房の重みに左右差が生じて姿勢を保ちにくい場合は、パッドなどを入れて調整する方法もあります。
下着の選び方やパッドの調整に悩んだとき、補整下着の種類や購入場所について知りたいときは、看護師などの医療者やがん相談支援センターのがん専門相談員に相談することができます。患者会やピアサポートなどでは、同じ経験をした人の工夫や、実際のつけ心地について話を聞くことができるかもしれません。また、自治体によっては補整下着の購入に対して助成制度があります。患者会の情報や自治体の助成制度についても、がん相談支援センターで確認することができます。
(4)銭湯や温泉などでの入浴に不安がある場合は
入浴に不安がある場合は、貸し切りの浴場がある施設や洗い場が個別に分かれている施設、褐色や乳白色のお湯の施設を選ぶとよいでしょう。浴槽の外では、肩からタオルをかけたり、タオルでさりげなく胸元をおおったりしても不自然ではありません。
また、胸元をおおうための入浴専用肌着(入浴着)もあります。入浴着を着用してよいか、あらかじめ施設に問い合わせておくと安心です。入浴着の購入を検討する場合は、インターネットで検索したり、がん相談支援センターで聞いてみたりしましょう。
2)放射線治療後の日常生活
放射線が肺に照射されることによって起こる肺炎が、まれに長引くことがあります。咳や微熱が続いたり、息苦しさ、倦怠感、胸の痛みなどが残ったりする場合は医師に相談し、放射線治療を受けたことを伝えましょう。適切な治療を行うことで肺炎は治ります。肺炎が治ったあとも、放射線治療後の変化として肺に影が残ることがあります。
また、放射線があたった皮膚は、汗や皮脂の分泌が減ることで皮膚の温度が少し高くなります。かさかさしてかゆくなったりすることがあるため、保湿を心がけましょう。
3)薬物療法中の日常生活
支持療法が進歩したため、薬物療法の副作用を予防したり、症状を緩和したりできるようになりました。このため、通院で薬物療法を行うことが増えています。
通院での薬物療法は、仕事や家事、育児、介護など今までの日常生活を続けながら治療を受けることができますが、体調が悪くても、無理をしてしまうことがあります。日常生活を送っていたとしても、治療により万全の体調ではないことを忘れないようにしましょう。また、いつも医療者がそばにいるわけではないため、不安に感じることもあるかもしれません。予想される副作用やその時期、対処法について医師や看護師、薬剤師に事前に確認し、通院時には疑問点や不安点などを相談しながら治療を進めるとよいでしょう。
4)食生活や運動について
乳がんの再発の危険性を高める食品などはありません。しかし、肥満は再発のリスクを高めるといわれています。健康的な食生活と適度な運動を続け、肥満を避けるようにしましょう。
5)性生活・妊娠について
性生活によって、がんの進行に悪影響を与えることはありません。また、性交渉によってパートナーにがんがうつることもありません。しかし、がんやがんの治療は、性機能そのものや、性に関わる気持ちに影響を与えることがあります。
薬物療法中やそのあとは、腟分泌物や精液に薬の成分が含まれることがあるため、パートナーが薬の影響を受けないように、コンドームを使いましょう。また、薬は胎児に影響を及ぼすため、治療中や治療終了後一定期間は避妊しましょう。なお、経口避妊薬などの特殊なホルモン剤を飲むときは、担当医と相談してください。
特に乳がんの場合、手術を受けた部位やリンパ節を切除したわきの下の感覚が変化するため、パートナーに触れられた際に違和感や不快感を生じることがあります。また、細胞障害性抗がん薬やホルモン療法薬の影響で女性ホルモンの働きが抑えられ、腟の乾燥や粘膜の萎縮を生じ、性交痛を伴うことがあります。治療後の性生活は、心身の回復状態や、患者本人やパートナーの性生活への考え方が大きく影響します。お互いの状況や気持ちを話し合い、焦らずゆっくりと、お互いが満足できる方法を探しましょう。
治療終了後、一定期間を経過したあとは妊娠が可能です。薬物療法で使用する薬によっていつから妊娠できるかは異なるため、担当医に相談しましょう。また、妊娠中に再発してしまうと治療が難しくなることがあります。再発のリスクは人によりさまざまなので、リスクについても医師に確認しておくとよいでしょう。
性に関する悩みは周囲の人や医療者に相談しにくいかもしれません。そのようなときは、患者会やピアサポートで、同じ悩みをもつ人と情報交換したり、気持ちを共有するのもよいでしょう。関連情報「がんやがんの治療による性生活への影響」には、がんやがんの治療による性生活への影響や相談先などを掲載していますのでご覧ください。
6)仕事や社会復帰について
がんと診断されたことで、必ずしも仕事を辞める必要はありません。体調が落ち着いていれば、仕事をしながら治療を受けることもできます。勤務時間や業務の内容を調整できるかどうかを上司や同僚などに相談しましょう。
以下の関連情報では、療養中に役立つ制度やサービスの情報を掲載しています。
2023年07月05日 | 「乳癌診療ガイドライン①治療編2022年版」「乳癌診療ガイドライン②疫学・診断編2022年版」より、内容を更新しました。 |
2023年01月17日 | 「1.日常生活を送る上で」に「2)手術後の下着の選び方について」を掲載しました。 |
2020年07月09日 | 「日本乳癌学会編 乳癌診療ガイドライン(1)治療編2018年版」「日本乳癌学会編 乳癌診療ガイドライン2018年版(追補2019)」により、内容を全面的に更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2019年06月10日 | 関連情報として「日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン」へのリンクを掲載しました。 |
2017年07月19日 | 1.手術(外科治療)に関連情報「乳がん 手術リハビリテーションクリニカルパス」を掲載しました。 |
2015年03月23日 | タブ形式への移行と、「臨床・病理 乳癌取扱い規約2012年(第17版)」「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編(2)疫学・診断編2013年版」より、内容の更新をしました。 |
2011年07月15日 | 内容を更新しました。 |
1997年10月01日 | 掲載しました。 |