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乳がん(にゅうがん)

更新日:2017年05月11日 [ 更新履歴 ]
更新履歴
2017年05月11日 「5.疫学・統計 1)乳がんの統計」に男性乳がんの記載を追加しました。
2016年09月02日 「5.疫学・統計 2)乳がんの発生要因」を更新しました。
2015年11月04日 「3.症状 1)乳房のしこり」に葉状腫瘍の記載を追加しました。
2015年08月25日 「5.疫学・統計」の罹患データを2011年で更新しました。
2015年03月23日 タブ形式への移行と、「臨床・病理 乳癌取扱い規約2012年(第17版)」「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編(2)疫学・診断編2013年版」より、内容の更新をしました。
2011年07月15日 内容を更新しました。
1997年10月01日 掲載しました。

1.乳房について

乳房(にゅうぼう)は母乳(乳汁)をつくる乳腺と、乳汁を運ぶ乳管、それらを支える脂肪などからなっています(図1)。乳腺には腺葉と呼ばれる15~20個の組織の集まりがあり、腺葉は乳管と多数の小葉(しょうよう)から構成されています。乳腺でつくられた乳汁は乳管を通って乳管洞にためられます。
図1 乳房の構造
図1 乳房の構造

2.乳がんとは

乳がんの多くは乳管から発生し、「乳管がん」と呼ばれます。小葉から発生する乳がんは、「小葉がん」と呼ばれます。乳管がん、小葉がんは、乳がん組織を顕微鏡で検査(病理検査)すると区別できます。この他に特殊な型の乳がんがありますが、あまり多くはありません。

乳がんは、しこりとして見つかる前に、乳房の周りのリンパ節や、遠くの臓器(骨、肺、胸膜、肝臓、脳など)に転移して見つかることがあります。乳がんの種類や性質によって、広がりやすさ、転移しやすさは、大きく異なります。

3.症状

乳がんが見つかるきっかけとしては、マンモグラフィなどによる乳がん検診を受けて疑いを指摘される場合や、あるいは自分で症状に気付く場合などが多いようです。

自分で気付く症状としては、以下のようなものがあります。

1)乳房のしこり

乳がんが進行すると腫瘍が大きくなり、注意深く触るとしこりがわかるようになります。ただし、しこりがあるからといって、すべてが乳がんというわけではありません。例えば、乳腺症、線維腺腫、葉状腫瘍などでもしこりの症状があらわれます。葉状腫瘍はまれな腫瘍ですが、線維腺腫に似た良性のものから、再発や転移を起こしやすい悪性のものまでさまざまです。これらは乳がんとは異なりますが、しこりが気になる場合は専門医に診てもらいましょう。

2)乳房のエクボなど皮膚の変化

乳がんが乳房の皮膚の近くに達すると、エクボのようなひきつれができたり、乳頭や乳輪部分に湿疹(しっしん)やただれができたり、時にはオレンジの皮のように皮膚がむくんだように赤くなったりします。乳頭の先から血の混じった分泌液が出ることもあります。

乳房のしこりがはっきりせず、乳房の皮膚が赤く、痛みや熱をもつ乳がんを「炎症性乳がん」と呼びます。炎症性乳がんのこのような特徴は、がん細胞が皮膚に近いリンパ管の中で増殖してリンパ管に炎症を引き起こしているためです。

痛み、むくみや腫れといった症状は乳がん以外の病気、例えば良性腫瘍の1つである線維腺腫(せんいせんしゅ)、乳腺症、細菌感染が原因の乳腺炎や蜂窩織炎(ほうかしきえん)などでも起こることがあるので、詳しい検査をして乳がんであるかどうか調べる必要があります。

3)乳房周辺のリンパ節の腫れ

乳がんは乳房の近くにあるリンパ節である、わきの下のリンパ節(腋窩[えきか]リンパ節)や胸の前方中央を縦に構成する胸骨のそばのリンパ節(内胸リンパ節)や鎖骨上のリンパ節に転移しやすく、これらのリンパ節を乳がんの「領域リンパ節」と呼びます。腋窩リンパ節が大きくなると、わきの下などにしこりができたり、リンパ液の流れがせき止められてしまうため、腕がむくんできたり、腕に向かう神経を圧迫して腕がしびれたりすることがあります。
腋窩リンパ節はレベルI、II、IIIのグループに分けられます。(図2)。
レベルI:小胸筋外縁より外側のリンパ節
レベルII:小胸筋の後ろまたは大胸筋と小胸筋の間のリンパ節
レベルIII:鎖骨下の小胸筋内縁より内側のリンパ節

リンパ節転移は一般にレベルIからレベルII、さらにレベルIIIへ進むとされています。手術前の触診や画像診断、またセンチネルリンパ節生検(詳しくは「乳がん 治療-1.手術 4)わきの下のリンパ節郭清(腋窩リンパ節郭清)」をご覧ください)で臨床的に明らかな腋窩リンパ節転移を認めた場合は、レベルIIまでの郭清が標準とされています。
図2 乳房周辺の領域リンパ節および腋窩リンパ節のレベル区分
図2 乳房周辺の領域リンパ節および腋窩リンパ節のレベル区分

4)遠隔転移の症状

転移した臓器によって症状はさまざまであり、症状がまったくないこともあります。領域リンパ節以外のリンパ節が腫れている場合は、遠隔リンパ節転移といい、他臓器への転移と同様に扱われます。腰、背中、肩の痛みなどが持続する場合は骨転移が疑われ、負荷がかかる部位に骨転移がある場合には骨折を起こす危険があります(病的骨折)。肺転移の場合は咳(せき)が出たり、息が苦しくなったりすることがあります。肝臓の転移は症状が出にくいですが、肝臓が大きくなると腹部が張ったり、食欲がなくなったりすることもあります。また、痛みや黄疸(おうだん)が出ることもあります。

4.乳がん検診

乳がんは早期発見により適切な治療が行われれば、良好な経過が期待できます。しこりなど自覚症状がある場合は速やかに受診することを勧めますが、無症状の場合でも、乳がん検診により乳がんが見つかることがあります。

乳がん検診については「乳がん検診の勧め」と「乳がん検診Q&A」もご参照ください。

各市区町村で行われている乳がん検診は、対象年齢や費用などさまざまです。またがん検診推進事業では、年度ごとに対象者を決めて無料クーポンを配布しています。配布内容については、各市区町村で異なります。詳しくは、お住まいの市区町村へお問い合わせください。

5.疫学・統計

1)乳がんの統計

わが国の2013年の乳がん死亡数は女性約13,000人で、女性ではがん死亡全体の約9%を占めます。2011年の女性乳がんの罹患(りかん)数(全国推計値)は、約72,500例(上皮内がんを除く)で、女性のがん罹患全体の約20%を占めます。

年齢階級別罹患率でみた女性の乳がんは、30歳代から増加をはじめ、40歳代後半から50歳代前半でピークを迎え、その後は次第に減少します。

男性乳がんの罹患率は女性乳がんの1%程度で、女性に比べ5~10歳程度高い年齢層に発症します。

年次推移は、高齢になるほどがんの死亡率および罹患率は高くなるため、人口に対する年齢分布の年次推移を考慮し、仮想人口モデルで調整された年齢調整率(参照:年齢調整死亡率年齢調整罹患率)で比較されます。乳がんの年齢調整率の年次推移は死亡、罹患とも一貫して増加しており、出生年代別では最近の出生者ほど死亡率・罹患率が高い傾向にあります。

罹患率の国際比較では、東アジアに比べて欧米、特にアメリカ系白人で高く、アメリカの日系移民は日本在住者より高い傾向にあります。

2)乳がんの発生要因

乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。すなわち、体内のエストロゲン濃度が高いこと、また、経口避妊薬の使用や、閉経後の女性ホルモン補充療法など、体外からの女性ホルモン追加により、リスクが高くなる可能性があるとされています。

また、体内のエストロゲン濃度が維持されている期間が長いほど、ホルモン受容体陽性の乳がんの発症リスクがあがるといわれています。初潮が早いことや閉経が遅いことは体がエストロゲンに暴露される期間が長いことを意味します。妊娠や出産経験のある女性に比べて、ない女性は乳がんの発症リスクが高く、さらに初産年齢が遅いほどリスクが高いことがわかっています。これは、妊娠・出産を契機に、乳腺の細胞が悪性化しにくい細胞に分化するためと考えられています。また授乳歴がない女性に比べて、ある女性やその期間が長い女性の乳がんの発症リスクは低く、これはエストロゲンへの暴露期間に関係していると考えられています。さらに、脂肪細胞でもエストロゲンがつくられるため、成人してからの肥満もリスク要因とされています。特に、閉経後の肥満はリスク要因であることがわかっています。その他には出生時の体重も乳がんの発生に影響すると考えられています。

生活習慣では、飲酒習慣や喫煙により、リスクが高くなることはほぼ確実とされています。一方、閉経後の女性では、運動によって、乳がんのリスクが減少することが、ほぼ確実であるとされています。

その他、良性乳腺疾患の既往、糖尿病は、乳がんのリスクが高くなることがわかっています。家族歴の多い場合には遺伝性乳がんが疑われます。

遺伝性乳がんについては「遺伝性腫瘍・家族性腫瘍」もご参照ください。
 
【参考文献】
  1. 日本乳癌学会編.臨床・病理 乳癌取扱い規約第17版.2012年,金原出版
  2. 日本乳癌学会編.科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編(2)疫学・診断編2013年版,金原出版
  3. 日本乳癌学会編.科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編2015年版,金原出版
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更新日:2015年11月04日 [ 更新履歴 ]
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2015年11月04日 「3.がんと言われたとき」を更新しました。
2015年03月23日 タブ形式への移行と内容の更新をしました。
1997年10月01日 掲載しました。

1.がんの診療の流れ

この図は、がんの「受診」から「経過観察」への流れです。大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。あなたらしく過ごすためにお役立てください。

がんの疑い

  「体調がおかしいな」と思ったまま、放っておかないでください。なるべく受診しましょう。
   

受診

  受診のきっかけや、気になっていること、症状など、何でも担当医に伝えてください。メモをしておくと整理できます。いくつかの検査の予定や次の診察日が決まります。
   

検査・診断

  検査が続いたり、結果が出るまで時間がかかることもあります。担当医から検査結果や診断について説明があります。検査や診断についてよく理解しておくことは、治療法を選択する際に大切です。理解できないことは、繰り返し質問しましょう。
   

治療法の
選択

  がんや体の状態に合わせて、担当医は治療方針を説明します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの方と話し合ってください。あなたの希望に合った方法を見つけましょう。
   

治療

  治療が始まります。治療中、困ったことやつらいこと、小さなことでも構いませんので、気が付いたことは担当医や看護師、薬剤師に話してください。よい解決方法が見つかるかもしれません。
   

経過観察

  治療後の体調の変化やがんの再発がないかなどを確認するために、しばらくの間、通院します。検査を行うこともあります。

2.受診と相談の勧め

がんという病気は、患者さんごとに症状のあらわれ方が異なります。また、症状がなく検診でがんの疑いがあると言われることもあります。何か気にかかる症状があるときや、詳しい検査が必要と言われたときには、医療機関を受診してください。疑問や不安を抱きながらも問題ないとご自身で判断したり、何か見つかることを怖がって、受診を控えたりすることのないようにしましょう。受診して医師の診察を受け、症状の原因を詳しく調べることで、問題がないことを確認できたり、早期診断に結び付いたりすることがあります。

がん診療連携拠点病院などのがん相談支援センターでは、がんについて知りたい、話を聞きたいという方の相談をお受けしていますので、お気軽に訪ねてみてください。その病院にかかっていなくても、どなたでも無料で相談できます。対面だけでなく、電話などでも相談することができますので、わからないことや困ったことがあったらお気軽にご相談ください。

詳しくは、がんの相談窓口「がん相談支援センター」のページをご覧ください。

お近くのがん相談支援センターは「がん相談支援センターを探す」から検索することができます。

3.がんと言われたとき

がんという診断は誰にとってもよい知らせではありません。ひどくショックを受けて、「何かの間違いではないか」「何で自分が」などと考えるのは自然な感情です。

病気がどのくらい進んでいるのか、果たして治るのか、治療費はどれくらいかかるのか、家族に負担や心配をかけたくない…、人それぞれ悩みは尽きません。気持ちが落ち込んでしまうのも当然です。しかし、あまり思い詰めてしまっては、心にも体にもよくありません。

この一大事を乗りきるためには、がんと向き合い、現実的かつ具体的に考えて行動していく必要があります。そこで、まずは次の2つを心がけてみませんか。

1)情報を集めましょう

まず、自分の病気についてよく知ることです。病気によってはまだわかっていないこともありますが、その中で担当医は最大の情報源になります。担当医と話すときには、あなたが信頼する人にも同席してもらうといいでしょう。わからないことは遠慮なく質問してください。
病気のことだけでなく、療養生活のこと、経済的なこと、薬のこと、食事のことのような身の回りに関しては、看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、栄養士などが専門的な経験や視点であなたの支えになってくれます。

また、あなたが集めた情報が正しいかどうかを、あなたの担当医に確認することも大切です。

「知識は力なり」。正しい知識は、あなたの考えをまとめるときに役に立ちます。

2)病気に対する心構えを決めましょう

大きな病気になると、積極的に治療に向き合う人、治るという固い信念を持って臨む人、なるようにしかならないと受け止める人などいろいろです。どれがよいということはなく、その人なりの心構えでよいのです。そのためには、あなたが自分の病気のことをよく知っていることが大切です。病状や治療方針、今後の見通しなどについて担当医からよく説明を受け、いつでも率直に話し合い、その都度十分に納得した上で、病気に向き合うことに尽きるでしょう。

情報不足は、不安と悲観的な想像を生み出すばかりです。あなたが自分の病状について理解した上で治療に取り組みたいと考えていることを、担当医や家族に伝えるようにしましょう。

率直に話し合うことが、担当医や家族との信頼関係を強いものにし、しっかりと支え合うことにつながります。
更新日:2015年03月23日 [ 更新履歴 ]
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2015年03月23日 タブ形式への移行と、「臨床・病理 乳癌取扱い規約2012年(第17版)」「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編(2)疫学・診断編2013年版」より、内容の更新をしました。
2011年07月15日 内容を更新しました。
1997年10月01日 掲載しました。

1.検査

1)視診・触診

乳房を観察して、形状や左右差、皮膚の変化を調べます。次に指で乳房やわきの下に触れて、しこりの性質(硬さや動き方、大きさや形、個数など)を調べます。

2)マンモグラフィ検査

病変の位置や広がりを調べるために行われる、乳腺専用のX線検査です。少ない被曝(ひばく)線量で乳房組織を鮮明に映し出すために、板状のプレートで乳房を挟んで圧迫し、うすく引き伸ばして撮影します(図3)。そのため、乳房を圧迫される痛みがありますが、視診・触診で発見しにくい小さな病変も見つけることができます。

画像の性質上、乳腺の発達している若い人では、病変が存在していても見つかりにくいことがあります。またマンモグラフィで高濃度乳房とされる症例(乳腺の密度が高く、マンモグラフィで白く見える部分が多い状態)では、超音波検査のほうが乳がんを検出できることが知られています。
図3 マンモグラフィ検査の様子
図3 マンモグラフィ検査の様子

3)超音波(エコー)検査

乳房内の病変の有無、しこりの性状や大きさ、わきの下など周囲のリンパ節への転移の有無を調べます。乳房の表面から超音波を発生する器械(探触子:たんしょくし、プローブ)をあてて、超音波の反射の様子を画像で確認する検査です(図4)。X線のように放射線による被曝の心配がありませんので、妊娠中でも検査が可能です。ベッドにあおむけに寝た姿勢で受けられる検査で、痛みもなく体に負担がありません。
図4 超音波(エコー)検査の様子
図4 超音波(エコー)検査の様子

4)病理検査・病理診断(細胞診/組織診)

病変の一部を採取して、がんかどうかを顕微鏡で調べる検査です。がん細胞が含まれていれば、その細胞の種類や性質なども調べます。

細胞診検査は大きく分けて、乳頭からの分泌液を採取して行う分泌液細胞診と、病変に細い針を刺し、細胞を吸引して行う穿刺(せんし)吸引細胞診があります。細胞診検査は、体への負担が比較的少ない検査ではあるものの、偽陽性(がんではないのにがんと診断されてしまうこと)や偽陰性(がんであるのにがんではないと診断されてしまうこと)がまれにあるという欠点があります。

組織診検査は病理診断を確定するための検査で、生検と呼ばれています。組織診では痛み止めとして局所麻酔を行い、病変の組織を採取します。注射針より太い針を使用する針生検、さらに太い針を使用するマンモトーム生検、皮膚を切開して組織を採取する外科的な生検があります。細胞診に比べて確実な診断ができ、また調べられる細胞や組織の量が多いので、腫瘍についてより詳しい情報を得ることが可能になります。

5)乳腺のCT検査・MRI検査

手術や放射線治療などを検討するとき、病変の広がりを調べるために行う検査です。CT検査(図5)はX線を、MRI検査は磁気を使って体の内部を描き出します。乳房内での病変の広がり具合を診断するのに有効とされています。

CTやMRIで造影剤を使用する場合、アレルギーが起こることがありますので、以前に造影剤のアレルギーを起こした経験のある人は、担当医に申し出てください。
図5 CT検査の様子
図5 CT検査の様子

6)全身検索のための検査(CT検査、骨シンチグラフィなど)

乳がんが転移しやすい遠隔臓器には、肺、肝臓、骨、リンパ節などがあります。がんの乳腺以外への広がりを調べるために、必要に応じてCT、MRI、腹部超音波、骨シンチグラフィ、PET-CT検査などの画像検査が行われます。

2.病期(ステージ)

1)病期診断

病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、英語をそのまま用いてStage(ステージ)ともいいます。医師による説明では「ステージ」という言葉が使われることが多いかもしれません。わが国では、病期にはローマ数字が使われ、0期、I期、II期(IIA、IIB)、III期(IIIA、IIIB、IIIC)、IV期に分類されています。UICCと呼ばれる国際分類では、手術後の検査結果でI期をさらにIA期とIB期に分けていますが、他はわが国の分類と同じです。

病期は、がんが乳房の中でどこまで広がっているか、リンパ節転移があるか、骨や肺など乳房から離れた臓器への転移があるかなどによって決まります(表1)。

乳がんの治療方針は、この病期ごとにおおよその指針が決まっています。

また、病期やがんの性質によって、将来がんが再発するリスクをある程度推測することができます。手術によって切除された病変について病理検査・病理診断が行われ、がんの広がり、形態、性質を詳しく調べます。腫瘍の大きさ、広がり、年齢、異型度(グレード)、HER2タンパク質(参照:HER2型乳がん)、ホルモン受容体(参照:ホルモン受容体陽性)、Ki67の情報などを基に、将来の再発リスク、追加治療の必要性が検討されます。推定される再発のリスク、糖尿病や心臓病など別の病気の有無、年齢や患者さん自身の希望なども考慮して治療方針を決定していきます。
表1 乳がんの病期分類
0期 非浸潤がんといわれる乳管内にとどまっているがん、または乳頭部に発症するパジェット病(皮膚にできるがんの一種)で、極めて早期の乳がん
I期 しこりの大きさが2cm以下で、リンパ節や別の臓器には転移していない
IIA期 しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周囲の組織に固定されず可動性がある
または、しこりの大きさが2~5cmでリンパ節や別の臓器への転移がない
IIB期 しこりの大きさが2~5cmで、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周囲の組織に固定されず可動性がある
または、しこりの大きさが5cmを超えるが、リンパ節や別の臓器への転移がない
IIIA期 しこりの大きさが5cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周辺の組織に固定されている状態、またはリンパ節が互いに癒着している状態、またはわきの下のリンパ節転移がなく胸骨の内側のリンパ節に転移がある場合
あるいは、しこりの大きさが5cm以上で、わきの下または胸骨の内側のリンパ節への転移がある
IIIB期 しこりの大きさやリンパ節への転移の有無に関わらず、皮膚にしこりが顔を出したり皮膚が崩れたり皮膚がむくんでいるような状態
炎症性乳がんもこの病期から含まれる
IIIC期 しこりの大きさに関わらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移がある、または鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある
IV期 別の臓器に転移している
乳がんの転移しやすい臓器:骨、肺、肝臓、脳など
日本乳癌学会編「臨床・病理 乳癌取扱い規約2012年(第17版)」(金原出版)より作成<

2)転移・再発乳がん

乳房のしこりに対する初期治療を行ったあと、乳がんが再び出現することを「再発」といいます。他の臓器に出現した場合は「転移再発」と呼びます。なお、乳房部分切除術を行ったあとの乳房に起こる再発は「乳房内再発」、また乳房を全部摘出したあとの胸壁の皮膚やリンパ節に起こる再発は「局所・領域再発(参照:局所再発領域再発)」と呼んで区別します。

3.サブタイプ分類

薬物療法内分泌[ホルモン]療法化学療法分子標的治療)の選択については、今までもホルモン受容体陽性やHER2陽性などで検討して治療されてきましたが、近年サブタイプ分類という考え方が定着してきました。サブタイプ分類はがん細胞の性質で分類する考え方で、遺伝子解析によって提唱されています。遺伝子検査は費用もかかり、実用はまだ難しく、実際は、生検や手術で採取されたがん細胞を免疫染色で調べることで、臨床病理学的に遺伝子解析の分類に当てはめています(表2)。調べられる要素は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質で、ホルモン受容体(エストロゲン受容体[ER]とプロゲストロン受容体[PgR])、HER2、Ki67です。

化学療法、内分泌(ホルモン)療法、分子標的治療は、がん細胞の性質により効果が異なります。がん細胞の性質を調べて、腫瘍の性質に合わせた治療を選択します。
表2 サブタイプ分類
サブタイプ分類 ホルモン受容体 HER2 Ki67値
ER PgR
ルミナルA型 陽性 陽性 陰性
ルミナルB型(HER2陰性) 陽性または陰性 弱陽性または陰性 陰性
ルミナルB型(HER2陽性) 陽性 陽性または陰性 陽性 低~高
HER2型 陰性 陰性 陽性 -
トリプルネガティブ 陰性 陰性 陰性 -
Ki67は、検査の状況(染色の条件、スコアリングの方法)によって陽性率が大きく変わります。適切なKi67カットオフ値(ルミナルAとBを分ける基準)はまだ明らかにされておらず、結果の解釈には注意が必要です。
 
【参考文献】
  1. 日本乳癌学会編.臨床・病理 乳癌取扱い規約第17版.2012年,金原出版
  2. 日本乳癌学会編.科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編(2)疫学・診断編2013年版,金原出版
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更新日:2016年02月10日 [ 更新履歴 ]
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2016年02月10日 「2.治療成績」の5年相対生存率データを更新しました。
2015年03月23日 タブ形式への移行と、「臨床・病理 乳癌取扱い規約2012年(第17版)」「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編(2)疫学・診断編2013年版」より、内容の更新をしました。
2011年07月15日 内容を更新しました。
1997年10月01日 掲載しました。

1.臨床病期による治療選択

乳がんの治療は、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法内分泌[ホルモン]療法化学療法分子標的治療など)があります。それぞれの治療を単独で行う場合と、複数の治療を組み合わせる場合があります。

がんの性質や病期(ステージ)、全身の状態、年齢、合併する他の病気の有無などに加え、患者さんの希望を考慮しながら、治療法を決めていきます。

図6は病期と治療法選択の目安を表にしたものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。

各治療については「乳がん 治療」をご覧ください。
図6 乳がんの臨床病期と治療
図6 乳がんの臨床病期と治療
日本乳癌学会編「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編2013年版」(金原出版)より作成

1)0期

乳房部分切除術または乳房切除術を行います。乳房部分切除術を行った場合、術後放射線治療が必要になります。センチネルリンパ節生検を行うかどうかは患者さんの病状によって判断します。

手術後に切除した組織を検査して、がんの広がりや形態、性質などを調べ、再発の危険性を評価します。術後の検査結果で0期ではなく、I期以上であると判明した場合、再発を予防するための薬物療法(内分泌[ホルモン]療法、化学療法、分子標的治療)が行われることもあります。最終病理診断で、非浸潤がんであっても、温存乳房や対側乳がんの発生予防のために内分泌(ホルモン)療法が行われることがあります。

2)I~II期

乳房の腫瘍に対しては、乳房部分切除術または乳房切除術を行います。乳房部分切除術が行われた場合、術後放射線治療が必須になりますが、乳房切除術が行われた場合でも術後放射線治療が必要になることがあります。腫瘍が大きい場合には、化学療法(抗がん剤治療)で腫瘍を縮小させて(術前化学療法)から手術を行う方法もあります。リンパ節に対しては患者さんの病状によって、センチネルリンパ節生検を行うか、または明らかに転移が認められる場合は、わきの下のリンパ節を切除する腋窩リンパ節郭清(えきかりんぱせつかくせい)を行うことが検討されます(参照:リンパ節郭清)。

手術後に切除した組織を検査して、がんの広がりや形態、性質などを調べ、再発の危険性を評価します。多くの患者さんで、再発を予防するための薬物療法(内分泌[ホルモン]療法、化学療法、分子標的治療のいずれか1つ、またはいくつかを組み合わせた治療)が行われます。

3)III~IV期

薬物療法(内分泌[ホルモン]療法、化学療法、分子標的治療)を行います。薬物療法を行う前に病理検査を行い、使用する薬剤を選択します。III期では、薬物療法を行ったあとに手術を行う場合もあります。乳房部分切除術または乳房切除術に加えて、腋窩リンパ節郭清を行います。再発を予防するための放射線治療も併せて行います。

がんの治療と併せて、痛みやつらい症状がある場合には、それを和らげるための治療を行います。緩和ケアについては「がんの療養と緩和ケア-4.がんの痛みと緩和ケア」もご参照ください。

4)転移・再発乳がん

乳がんの手術をした場所やその近くにだけ再発した場合(局所再発)には、再発した部分だけを手術で切除したり、放射線治療を行ったりすることもあります。転移・再発乳がんについては薬物療法が原則必要となります。

がんの治療と併せて、痛みやつらい症状がある場合には、それを和らげるための治療を行います。緩和ケアについては「がんの療養と緩和ケア-4.がんの痛みと緩和ケア」もご参照ください。

●妊娠中に乳がんと診断された場合

検査や手術、薬物療法、放射線治療は、妊娠の時期によって、流産や胎児への影響を起こす危険性があります。担当医や家族と十分に相談をすることが必要です。

2.治療成績

がんの治療成績を示す指標の1つとして、生存率があります。生存率は通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。こうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、用いるデータによって、生存率の値が異なる可能性があります。

以下の【乳がんの生存率について、さらに詳しく】に、全国がん(成人病)センター協議会(全がん協)が公表している院内がん登録から算出された5年相対生存率のデータを示します(表3)。このデータは、およそ10年前のがんの診断、治療に基づくものです。診断や治療の技術は進歩していますので、現在は下記の数字より治療成績は向上していると考えられます。

データは平均的なものであり、かつ確率として推測されるものですので、すべての患者さんに当てはまる値ではないことをご理解ください。
【乳がんの生存率について、さらに詳しく】
このデータは、2005年から2007年の間に、乳がんの診断や治療を受けた患者さんが対象となっています。治療については、外科治療だけではなく、放射線治療、薬物療法、その他の何らかの治療を受けた患者さんが対象となっています。そのため、各施設で公表している、外科治療だけを受けた患者さんを対象とした生存率と、異なる場合があります。

臨床病期については「乳がん 検査・診断-2.病期(ステージ)」をご参照ください。
表3 乳がん(女性)の病期別生存率
病期 症例数(件) 5年相対生存率(%)
I 7,029 99.9
II 6,923 95.4
III 1,710 80.3
IV 699 33.0
全症例 16,466 93.0
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3.自分に合った治療法を考える

治療方法は、すべて担当医に任せたいという患者さんがいます。一方、自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたいという患者さんも増えています。どちらが正しいというわけではありません。自分の生活や人生において何を大切にするのか、自分で考えることが大切です。

まずは、病状を詳しく把握しましょう。わからないことは、まず担当医に質問してみましょう。診断を聞くときには、病期(ステージ)を確認しましょう。治療法は、病期によって異なります。医療者とうまくコミュニケーションをとりながら、自分に合った治療法であることを確認してください。

担当医と話すときの助けとして「わたしの療養手帳 自分に合った治療法は?患者必携サイトへのリンクもご参照ください。「患者必携 わたしの療養手帳」はさまざまな場合で必要なことを書きとめることができる手帳になっています。印刷もできますので、自分で記入してみて、わからないことや聞いてみたいことを整理してみましょう。

診断や治療法を十分に納得した上で、治療を始めましょう。最初にかかった担当医に何でも相談でき、治療方針に納得できれば言うことはありません。

担当医以外の医師の意見(セカンドオピニオン)を聞くこともできます。セカンドオピニオンを聞きたいときは、担当医に話してみましょう。多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的なことと理解していますので、快く資料を作ってくれるはずです。

セカンドオピニオンについては「セカンドオピニオンを活用する患者必携サイトへのリンクもご参照ください。

担当医以外でも、看護師など他の医療スタッフやがん相談支援センターのスタッフに相談することができます。あなたの抱えている問題点を整理し、一緒に考えてくれます。

がん相談支援センターについてはがんの相談窓口「がん相談支援センター」もご参照ください。
【妊娠や出産を希望する場合についてもっと詳しく】
・治療後の妊娠や出産に影響を与えることがあります。
・将来出産を希望している場合には、まず、治療開始前にその希望を担当医に伝え、よく相談をしましょう。

妊娠・出産については以下もご参照ください。

平成24年度厚生労働科学研究費補助金(第3次対がん戦略事業)乳癌患者における妊孕(にんよう)保持支援のための治療選択および患者支援プログラム・関係ガイドライン策定の開発班編「乳がん治療にあたり将来の出産をご希望の患者さんへ」(PDF:3.1MB

外部サイトへのリンク厚生労働省 若年乳がん患者のサバイバーシップ支援プログラム 若年乳がん
「乳がん治療にあたり将来の出産をご希望の患者さんへ」はこちらのサイトでもダウンロードできます。
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【参考文献】
  1. 日本乳癌学会編.科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編(2)疫学・診断編2013年版,金原出版
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更新日:2017年07月19日 [ 更新履歴 ]
更新履歴
2017年07月19日 1.手術(外科治療)に関連情報「乳がん 手術リハビリテーションクリニカルパス」を掲載しました。
2015年03月23日 タブ形式への移行と、「臨床・病理 乳癌取扱い規約2012年(第17版)」「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編(2)疫学・診断編2013年版」より、内容の更新をしました。
2011年07月15日 内容を更新しました。
1997年10月01日 掲載しました。

1.手術(外科治療)

乳がんの治療では、手術によってがんを取りきることが基本となります。手術は大きく分けて、乳房を残す「乳房部分切除術」と乳房を全部切除する「乳房切除術」とがあります。

1)乳房部分切除術

腫瘍から1~2cm離れたところで乳房を部分的に切除します。乳房部分切除術はがんを確実に切除し、患者さんが美容的に満足できる乳房を残すことを目的に行います。乳房部分切除術を受けられる条件については明確なものはなく、がんの大きさや位置、乳房の大きさ、本人の希望などにもよるので、手術を担当する医師とよく相談することが重要です。

しこりが大きい場合は、術前薬物療法によって腫瘍を縮小させてから手術を行います。

手術中では、切除した組織の断端(切り口)のがん細胞の有無を顕微鏡で調べて、確実にがんが切除できていることを確認する必要があります。がんが手術前の予想よりもはるかに広がっている場合は、手術中に乳房を全部切除する乳房切除術に変更するか、もしくは、再手術で乳房切除術を行うこともあります。

通常、手術後に放射線照射を行い、残された乳房の中での再発を防ぎます。

2)乳房切除術

乳がんが広範囲に広がっている場合や複数のしこりが離れた場所に存在する多発性の場合は、最初から乳房を全部切除する乳房切除術を行います。

3)乳房再建術

乳房切除術後に、患者さん自身のおなかや背中などから採取した組織(自家組織)またはシリコンなどの人工物を用いて、新たに乳房をつくることを乳房再建といいます。乳頭を形成することもできます。再建の時期については乳がんの手術と同時に行う場合(一次再建)と、数カ月から数年後に行う場合(二次再建)とがあります。再建手術は主に形成外科医が担当します。従来は自家移植の場合にのみ公的医療保険が適用されていましたが、現在はシリコン・インプラントなどの人工物を使う場合にも、保険の適用が拡大されています。しかし、現在でも、手術の内容や、病院によっては自費診療の場合があります。まずは担当医に再建の希望を伝え、よく相談しましょう。

4)わきの下のリンパ節郭清(腋窩リンパ節郭清)

がん細胞はリンパ液の流れに乗って、周辺のリンパ節に入り込む、転移を起こすことが知られています。しかし、現在の手術前の検査ではリンパ節にがんが転移しているかどうかは正確にはわかりません。そこで、乳がんの手術では、リンパ節郭清(かくせい)を行い、転移の有無を調べてきました。リンパ節郭清を行うと、手術のあとに、腕が上がりにくい、しびれる、むくみといった症状が起こることがあります。このため、今日では手術前にリンパ節転移が明らかな場合にのみ、わきの下のリンパ節郭清が行われます。

領域リンパ節については「乳がん 基礎知識-3.症状 3)乳房周辺のリンパ節の腫れ」をご覧ください。

手術前にリンパ節転移が明らかでない場合には、センチネル(見張り)リンパ節生検が行われます。
【センチネルリンパ節生検について、もっと詳しく】
がん細胞が最初に転移するリンパ節があり、これをセンチネル(見張り)リンパ節といいます(図7)。このリンパ節を摘出し、顕微鏡で検査を行い、転移がみられなければ、これ以外のリンパ節を取り除く手術(リンパ節郭清)を省略しても、再発率に影響がないことがわかっています。

センチネルリンパ節転移が1個でも陽性の場合には、腋窩リンパ節郭清を行っているのが現時点での標準治療です。しかし、近年、術前の身体診察や超音波検査などの画像検査で腋窩リンパ節転移が陰性とされていた場合では、術後の薬物療法や放射線治療をしっかり行うことで、腋窩リンパ節郭清を省略できる可能性が報告されています。

これを受け、リンパ節におけるがんの転移の大きさによって、郭清をするかどうか、替わりに放射線治療をするかどうかを決める病院もあります。長期的成績が出ていないため、いまだに慎重な判断が必要な状況です。転移がある場合にリンパ節郭清をするかどうかは、手術後の治療方針との兼ね合いで決められる場合もありますので、詳しくは担当医にご質問ください。
図7 センチネル(見張り)リンパ節
図7 センチネル(見張り)リンパ節
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乳がんの手術は、治療の範囲が乳腺とわきの下の周囲に限られているので、内臓の機能(呼吸や消化、排泄など)への影響はあまりなく、麻酔による影響からの回復や痛みの調節が落ち着けば、少ない安静期間で起き上がったり、立ち上がったりすることができるようになります。手術当日の夕方にトイレまで歩けることもあります。乳房や胸の筋肉を切除した場合などでは、治療した側の腕の運動をしばらく控え、安静を保つ必要があります。

手術直後には、手術の創(きず)から出る血液や体液などを排出するドレーンという管が体に付けられています。創の状態が安定したら、管を抜きます。抜糸(最近では抜糸を必要としない縫い方や抜糸が不要のテープ、医療用接着剤を使用する病院も多くなってきています)のころには、創そのものからの痛みはかなり治まっています。
【手術に伴う主な合併症について、もっと詳しく】

(1)腕や肩を動かしにくい

治療した側の腕が上がらない、腕を回せない、腕がだるい、痛む、しびれる、腋の皮膚が突っ張るといった症状がみられることがあります。リンパ節や脂肪組織、皮膚、筋肉など、切除した範囲が大きいとこれらの症状が起こりやすくなります。

胸の筋肉を切除した場合にはしばらく安静が必要ですが、必ずしも安静が必要でないときに、「腕を動かすと痛い」「違和感が気になる」といって動かさないでいると、肩や腕の関節や筋肉がこわばって動かしにくくなることがあります。担当医に相談の上、段階的に運動を取り入れていきましょう。指や手などの曲げ伸ばし運動から始め、手術後1週目ころからは、腕の横振り、前後振り運動、続いて、腕を背中に回したり、肩を回したりする運動など、無理のない範囲で少しずつ行います。退院後どのように運動をしていけばよいのか、適切な方法を入院中に担当医や看護師に聞いておきましょう。

乳房切除術後のリハビリテーション」のページもご参照ください。

(2)腕や手がむくむ

手術でリンパ節を切除したり、リンパ節に放射線治療を行ったりしたあとに、腕や手がむくむことがあります。むくみの前ぶれとして、手術をした側の腕や胸、肩、背中に重苦しさを自覚する場合が多いようです。

これはリンパ浮腫(ふしゅ)といって、リンパの流れが悪くなり、リンパ液が腕や手にたまった状態になっています。こうしたむくみは手術のあとに起こることが多いのですが、しばらくたってからあらわれることもあります。手のけがや細菌の感染をきっかけにむくみが強くなることもあります。

手術を受けた側の腕では、けがや虫刺され、やけどなどに注意し、重いものを長時間持たないようにしたほうがよいとされています。しかし、あまり安静にしすぎるのもよくないとされていますので、適度に動かすようにしましょう。痛みや腫れは自分で感じにくいこともあるので、意識して自分の目で見て確認するとよいでしょう。また、皮膚の清潔と潤いを保つことも大切です。

リンパ浮腫があるときには、横になるときなどに腕や肩の位置が高くなるようにすると、むくみが軽くなることがあります。リンパ浮腫の予防には、きつめのサポーターのような機能のある弾性スリーブやバンデージ(弾性包帯)などの弾性着衣を着用したり、リンパの流れを改善するマッサージを行ったりすると、むくみや腫れの症状が改善することがあります。検査のための採血や治療のための注射も、できる限り治療を受けた側と反対の腕で行います。この他、日常生活の注意点や工夫、日常的に行えるリンパ浮腫対策を、退院前に担当医や看護師に確認しておきましょう。急な腫れや、赤くなって熱を帯びている場合は、担当医に早めに診てもらいましょう。

乳房切除術後のリハビリテーション」「リンパ浮腫」のページもご参照ください。

(3)手術の傷あとが怖い、見るのがつらい

手術のあと、「傷あとが怖い」「見るのがつらい」「形が変わってショック」と感じられる患者さんは少なくありません。手術の前に担当医から説明され、ある程度心の整理や覚悟があっても、実際に鏡の前で見るとつらい気持ちになるのは自然なことです。おなかや手などの手術の傷と違い、やわらかい胸の手術の傷は凹凸や左右の違いなどが目立つ場合もあります。

また、乳房の大きい人では、左右のバランス感覚に変化が起こり、不安定な感じを覚えることがあります。

傷の色や形は、手術後少しずつ、周りの皮膚になじむようになってきます。治療後間もない時期には、傷の状態も含めて医師などに診てもらうとよいでしょう。看護師や担当医は手術後の経過について、豊富な経験をもっています。あなたの気持ちや治療後の状態に応じた助言を受けることができるでしょう。

抜糸して腫れが治まり、痛みがなければ、担当医に相談の上、既製のパッドや補正下着などを上手に取り入れてみるのもよいかもしれません。担当医や看護師などの医療スタッフに相談してみましょう。こすれたり、ずれたりすることがないか、試着して体に合ったものを選びましょう。もちろん、「見た目はほとんど気にならない、気にしない」とおっしゃり、特に何もしないで療養生活を送る人も少なくありません。一方、乳房を元に近い形に再建する技術も進歩しています。がんの手術後に続いて行われることもあります。多くの場合は、手術後の傷の状態や、放射線治療など別の治療の影響が落ち着くのを待って行われ、皮膚や筋肉の一部を移植する、人工物を埋め込むなど、再建の方法を検討した上で手術が行われます。
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関連情報
乳がん 手術リハビリテーションクリニカルパス
クリニカルパスとは、入院中の患者さんの検査や治療、療養に関する予定を記載した計画表のことで、計画的に安全な医療を進める手助けとなります。

2.放射線治療

放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を体の外から照射して行われます。がん細胞を通過した放射線は、細胞の増殖を阻害し、がんを小さくする効果があります。放射線治療は放射線照射を行った部分だけに効果を発揮する局所療法です。

乳がんでは、乳房部分切除術のあと、温存した乳房やリンパ節での再発の危険性を低くするために、放射線治療が行われることが多くなっています。また、再発した場合に、がんの増殖や骨転移に伴う痛み、脳への転移による神経症状などを改善するために行われることもあります。

放射線を照射する範囲や量は、放射線治療を行う目的、病巣のある場所、病変の広さなどによって選択されます。多くの場合、外来での治療が可能です。

副作用は主に放射線のあたる部位にあらわれます。治療中や治療終了直後に、皮膚が日焼けをしたように赤くなることがあるので、強くこすったり、かいたりしないようにします。皮膚の赤みは治療終了後1週間から2週間でほとんど改善します。治療後に皮膚が熱をもったり、黒ずんだりカサカサになることがありますが、多くは1年から2年で元に戻ります。治療が終了して数カ月以内に遅れて出る副作用として、肺に炎症が起こることがあります。咳(せき)や微熱が続くときは担当医に伝えるようにしましょう。

3.薬物療法

薬物療法には、「手術や他の治療を行ったあとにその効果を補う」「手術の前にがんを小さくする」「根治目的の手術が困難な進行がんや再発に対して、延命および生活の質を向上させる」などの目的があり、病期(ステージ)、リスクなどに応じて行われます。どのような薬物をどのように組み合わせて治療を行うかは、がんの広がりや性質、病理検査の結果などによって検討されます。その際、どの薬剤を使うかは「サブタイプ分類」により、がん細胞の特性に合わせた薬物療法が選択されます(表4)。また、しこりの大きさやリンパ節転移の有無に加え、がん細胞の増殖に関わる要因から再発の危険を予測することができます。そのため、再発の危険性が高い場合、より再発抑制効果の強い治療を行い、そのリスクの低減を図ります。ルミナルA型は再発の危険性が低いため、化学療法をほとんど必要としないことが多くなっています。
表4 サブタイプ分類による術前・術後薬物療法選択
サブタイプ分類 選択される薬物療法
ルミナルA型 内分泌(ホルモン)療法、(化学療法)
ルミナルB型(HER2陰性) 内分泌(ホルモン)療法、化学療法
ルミナルB型(HER2陽性) 内分泌(ホルモン)療法、分子標的治療、化学療法
HER2陽性 分子標的治療、化学療法
トリプルネガティブ 化学療法
副作用については、予防や対策を講じながら治療を進めていきます。主な副作用としては、脱毛、手足のしびれ、不眠などがあります。また薬によっては、卵巣機能障害があらわれ、不妊の長期的な副作用がみられる場合もあるので、乳がんの治療後の生活も含めて検討する必要があります。妊娠・出産については以下もご参照ください。

平成24年度厚生労働科学研究費補助金(第3次対がん戦略事業)乳癌患者における妊孕(にんよう)保持支援のための治療選択および患者支援プログラム・関係ガイドライン策定の開発班編「乳がん治療にあたり将来の出産をご希望の患者さんへ」(PDF:3.1MB
外部サイトへのリンク厚生労働省 若年乳がん患者のサバイバーシップ支援プログラム 若年乳がん
「乳がん治療にあたり将来の出産をご希望の患者さんへ」はこちらのサイトでもダウンロードできます。

薬剤が高額であったり、投与期間が長かったりで、医療費が高額となる場合があります。治療の方針について担当医から話を聞いた上で、医療費について不安のある場合には、ご相談ください。がん相談支援センターなどでも、利用可能な高額療養費制度など確認することができます。

1)内分泌(ホルモン)療法

卵巣機能が活発な女性では、主に卵巣から女性ホルモンが分泌(ぶんぴ)されています。50歳前後で閉経を迎えたあとの女性では、卵巣からの女性ホルモンの分泌は停止し、そのかわりに副腎皮質から分泌される男性ホルモンを原料として、「アロマターゼ」と呼ばれる酵素の働きによって女性ホルモンがわずかに産生されます。閉経後の女性では閉経前に比べ、女性ホルモンが1/100程度に減少します。

乳がんは「ホルモン受容体」(エストロゲン受容体[ER]とプロゲステロン受容体[PgR])のあるものとないものに分けることができます。ホルモン受容体陽性というときには、(1)エストロゲン受容体陽性/プロゲステロン受容体陽性、(2)エストロゲン受容体陽性/プロゲステロン受容体陰性、(3)エストロゲン受容体陰性/プロゲステロン受容体陽性の3つの組み合わせがあります。

手術後に、ホルモン受容体のある乳がんかどうか、がんの組織を詳しく調べます。「ホルモン受容体」のある乳がんでは、女性ホルモンががんの増殖に影響しているとされています。内分泌(ホルモン)療法は女性ホルモンの分泌や働きを妨げることによって乳がんの増殖を抑える治療法で、ホルモン受容体のある乳がんであれば効果が期待できます。

内分泌療法には抗エストロゲン剤、選択的アロマターゼ阻害剤、LH-RHアゴニスト(黄体ホルモン放出ホルモン抑制剤)などが使われます。乳がんの術後や転移性乳がんに用いられる抗エストロゲン剤は、女性ホルモンのエストロゲン受容体への結合を阻害します。選択的アロマターゼ阻害剤の作用機序(薬理学の用語で、薬物が生体に作用する仕組み)は、閉経後の女性に対してアロマターゼの働きを抑え、女性ホルモンの産生を抑えます。閉経前の女性の場合は、卵巣からの女性ホルモンの分泌を抑えるLH-RHアゴニスト(黄体ホルモン放出ホルモン抑制剤)を併用することがあります。その他にも、プロゲステロン製剤などを使用する場合もあります。

治療の目的や使う薬の種類によって治療期間や効果の目安は変わりますが、手術後に行う場合は5年間から10年間の投与が目安となります。

副作用については、化学療法に比べて軽いといわれていますが、顔面の紅潮やほてり、のぼせ、発汗、動悸(どうき)などの更年期障害のような症状が出る場合もあります。これらの症状の多くは治療を開始して数カ月から数年後には治まりますが、症状によっては使用するホルモン剤の種類を変更したり、症状を和らげる薬を投与したりすることもあります。また薬剤によっては高脂血症、血栓症、骨粗しょう症のリスクが高まることが知られているので、そのようなリスクを少なくするための治療を併用することもあります。
【内分泌療法の薬剤について】
薬剤
薬効分類名 投与方法 適応 特徴的な副作用
アロマターゼ阻害薬(非ステロイド性)
アナストロゾール
レトロゾール
経口 術前
術後
転移再発
閉経後が対象となります。術前内分泌療法を行った場合、術後は術前に使われていた薬剤を続けます 骨粗しょう症、関節症状(関節痛、関節のこわばり)、脂質異常症など
心血管イベントの上昇も可能性が指摘されています
アロマターゼ阻害薬(ステロイド性)
エキセメスタン 経口 術前
術後
転移再発
閉経後が対象となります。術前内分泌療法を行った場合、術後は術前に使われていた薬剤を続けます 骨粗しょう症、関節症状(関節痛、関節のこわばり)、脂質異常症など
心血管イベントの上昇も可能性が指摘されています
LH-RHアゴニスト
ゴセレリン酢酸塩
リュープロレリン酢酸塩
皮下
注射
術後
転移再発
閉経前が対象となります ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)、頭重感、骨塩量の減少、性欲減退
選択的エストロゲン受容体モジュレーター
タモキシフェンクエン酸塩 経口 術後
転移再発
閉経前、閉経後に関わらず用いられます ホットフラッシュ、静脈血栓症、帯下増加、不正性器出血、卵巣腫大、中性脂肪増加、脂肪肝、肝機能障害など
子宮体がん、子宮内膜増殖症
トレミフェンクエン酸塩 経口 転移再発 閉経後が対象となります ホットフラッシュ、静脈血栓症、中性脂肪増加、肝機能障害など
選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーター
フルベストラント 筋肉
注射
転移再発 閉経後が対象になります ホットフラッシュ、関節痛、吐き気、注射部位の疼痛(とうつう)・感染など
メドロキシプロゲステロン酢酸エステル
抗悪性腫瘍経口黄体ホルモン製剤 経口 転移再発 閉経前、閉経後に関わらず用いられます 血栓症、肥満、糖尿病、高血圧、食欲増進など
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2)化学療法

がん細胞は、正常細胞と違い、際限なく増殖し続けるという性質があります。化学療法は抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)により、細胞増殖を制御しているDNAに作用したり、がん細胞の分裂を阻害したりすることで、がん細胞の増殖を抑えます。

(1)術前化学療法

手術を行うことが困難な場合や、しこりが大きいために乳房部分切除術ができない場合には、3カ月から半年ほどの化学療法を行い、腫瘍を縮小させてから手術を行う方法があります。これを術前化学療法といいます。この方法によって、手術や乳房部分切除術を受けられる人が増えています。術前化学療法で腫瘍が十分に縮小しない場合は、乳房切除術を行ったり、必要に応じて放射線治療や内分泌(ホルモン)療法を追加したりすることもあります。

(2)術後化学療法

早期の乳がんでは、多くの場合、転移・再発を防ぐ目的で、手術後に化学療法を行います。手術後に化学療法を行う目的は、どこかに潜んでいる微小転移を死滅させることです。手術後の化学療法によって、再発率、死亡率が低下することが報告されています。作用が異なる複数の抗がん剤を使用することによって、がん細胞をより効果的に攻撃できることが明らかになったことから、術後化学療法においては複数の抗がん剤を組み合わせて使用します。

(3)主な副作用

化学療法は正常な体にとっても毒であるため、各副作用があります。最近は化学療法の副作用に対する予防法や対策が進歩していることもあり、外来通院しながら治療を受けることが多くなっています。特に髪の毛、口や消化管などの粘膜、あるいは血球をつくる骨髄など新陳代謝の盛んな細胞が影響を受けやすく、脱毛、口内炎、下痢が起こったり、白血球血小板の数が少なくなったりすること(参照:白血球減少血小板減少)があります。その他、全身のだるさ、吐き気、手足のしびれや感覚の低下、筋肉痛や関節痛、皮膚や爪の変化、肝臓の機能異常などが出ることもあります。
【化学療法の副作用について、もっと詳しく】
●吐き気
吐き気や嘔吐(おうと)が出やすい抗がん剤としてはアンスラサイクリン系(ドキソルビシン、エピルビシン)やシクロホスファミドがあります。投与24時間以内に起こる急性期の吐き気、24時間から7日目くらいまでの間に起こる遅発性の吐き気、治療前に治療のことを考えて吐き気が出る予期性の吐き気があります。点滴や内服の吐き気止めを組み合わせて、しっかり予防しながら治療を行っていきます。

●骨髄抑制
骨髄抑制とは、白血球や血小板、赤血球が減ることです。一般的には抗がん剤投与後7日から10日で減り始め、10日目から14日目が最低値となり、3週間目くらいに回復していきます。白血球の一成分である好中球が低下している時期に発熱を起こした場合(発熱性好中球減少症)、抗菌薬で治療を行ったり、場合によっては好中球を増やす薬の注射をしたりすることがあります。免疫力が低下している時期の発熱は、危険な感染を見越した対処がなされます。貧血や血小板低下が高度に起こっている場合には輸血することがあります。

●脱毛
脱毛はアンスラサイクリン系(ドキソルビシン、エピルビシン)やタキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル、ナブパクリタキセル)でよく認められる副作用です。治療後2週目から3週目に急に抜け始めることが多いです。眉毛やまつげも抜けることがあります。脱毛の副作用が強い薬を使用する場合、あらかじめ、医療用かつら(ウィッグ)などを用意しておくことで、心の準備をしておくとよいでしょう。

●卵巣機能障害
月経が一時的、もしくは完全に止まる可能性があります。それに伴ってホットフラッシュなどの更年期症状があらわれることがあります。

●その他
爪の色素変化や割れ、味覚障害も比較的多い副作用です。

副作用は化学療法の種類によって異なるだけでなく、症状の程度は患者さんによる個人差が大きい場合もあります。
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【化学療法の薬剤について】
薬剤
薬効分類名 投与方法 適応 特徴的な副作用
トポイソメラーゼ阻害薬(アンスラサイクリン系)
アドリアマイシン(ドキソルビシン塩酸塩)
エピルビシン塩酸塩
静脈注射 術前
術後
転移再発
心筋障害、心不全、不整脈、急性骨髄性白血病(10年1.5%)、吐き気、脱毛、骨髄抑制
微小管作用薬(タキサン系薬剤)
パクリタキセル 静脈注射 術前
術後
転移再発
末梢(まっしょう)神経障害、脱毛、アレルギー症状、筋肉痛・関節痛、骨髄抑制
ドセタキセル 静脈注射 術前
術後
転移再発
骨髄抑制、脱毛、浮腫、発疹、アレルギー反応
アルブミン懸濁型パクリタキセル 静脈注射 転移再発 末梢神経障害、脱毛、アレルギー症状、筋肉痛・関節痛、骨髄抑制
その他の微小管作用薬
エリブリンメシル酸塩 静脈注射 転移再発 骨髄抑制、末梢神経障害、発熱、発熱性好中球減少症、骨髄抑制
代謝拮抗(きっこう)薬
テガフール・ウラシル配合物(UFT) 経口 転移再発 下痢、口内炎
テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(S-1) 経口 転移再発 吐き気、下痢、口内炎、涙流、嗅覚障害
カペシタビン 経口 転移再発 骨髄抑制、吐き気、脱毛、手足症候群、心障害、肝障害
フルオロウラシル(5-FU) 静脈注射 術前
術後
転移再発
骨髄抑制、下痢、口内炎、小脳失調、心筋虚血
ゲムシタビン塩酸塩 静脈注射 転移再発 骨髄抑制、間質性肺炎、倦怠(けんたい)感、発熱
アルキル化剤
シクロホスファミド水和物 経口
静脈注射
術前
術後
転移再発
急性腎機能障害、出血性膀胱炎、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、肺線維症
プラチナ系抗悪性腫瘍薬
カルボプラチン 静脈注射 HER2陽性乳がん
転移再発
吐き気、嘔吐、腎毒性、末梢神経障害、骨髄抑制
微小管作用薬(ビンカアルカロイド系)
ビノレルビン酒石酸塩 静脈注射 転移再発 倦怠感、骨髄抑制、便秘、静脈炎、腸管麻痺(まひ)、間質性肺炎、気管支けいれん
葉酸代謝拮抗薬
メトトレキサート 静脈注射 術後
転移再発
急性腎不全、粘膜障害、骨髄抑制、神経障害
トポイソメラーゼ阻害薬
塩酸イリノテカン 静脈注射 転移再発 下痢、骨髄抑制、脱毛
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3)分子標的治療

分子標的治療薬は、がんの増殖に関わっている分子を標的にして、その働きを阻害する薬です。

分子標的治療薬にはさまざまな薬剤があります。乳がんでは、細胞の表面にあり乳がんの増殖に関わっていると考えられているタンパク質(HER2:ハーツー)の働きを阻害する抗HER2薬が、手術の前後や再発した場合などに、腫瘍の性質に応じて使われています。病理検査でHER2が陽性であることがわかった場合に治療が検討されます。

分子標的薬はがん細胞だけを狙い撃ちに治療をするため、一般に副作用は軽いですが、寒気や発熱など特有の症状が出ることがあり、確認しながら治療していきます。
【分子標的治療の薬剤について】
薬剤
薬効分類名 投与方法 適応 特徴的な副作用
HER2ヒト化モノクローナル抗体
トラスツズマブ 静脈注射 術前
術後
転移再発
HER2過剰発現が確認された乳がんが対象となります 心障害、アナフィラキシー様症状、インフュージョンリアクション、悪寒、発熱、全身倦怠感
ペルツズマブ 静脈注射 転移再発 トラスツズマブとタキサン系抗がん剤と併用で使用します トラスツズマブに準じる、発疹、下痢
HER2ヒト化モノクローナル抗体コンジュゲート薬
T-DM1 静脈注射 転移再発 トラスツズマブ併用療法にも関わらず進行してしまった場合に使用します 吐き気、嘔吐、下痢、疲労感、肝機能障害、血小板減少
抗VEGFヒト化モノクローナル抗体
ベバシズマブ 静脈注射 転移再発 パクリタキセルと併用されることもあります ショック、アナフィラキシー、消化管穿孔(せんこう)、瘻孔(ろうこう)、創傷治癒遅延、出血、血栓塞栓(そくせん)症、高血圧性脳症、高血圧性クリーゼ、可逆性後白質脳症症候群、ネフローゼ症候群、骨髄抑制、感染症、うっ血性心不全、間質性肺炎、血栓性微小血管症
HER1、2チロシンキナーゼ阻害薬
ラパチニブトシル酸塩水和物 経口 転移再発 HER2過剰発現が確認された手術不能または再発乳がんが対象となります 下痢、発疹、爪周囲炎、皮膚障害
mTOR阻害薬
エベロリムス 経口 転移再発 ホルモン療法と併用されることもあります 口内炎、貧血、呼吸困難、高血糖、倦怠感、薬剤性肺炎、肝酵素上昇
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4)薬物療法の代表的なレジメン

レジメンとは、薬剤の用量や用法、治療期間を明記した治療計画です。患者さんのがん細胞の性質や現在の症状などから総合的に判断し、患者さんの同意の下で決められます。
【薬物療法の代表的なレジメンについて、もっと詳しく】
レジメン名
適応 用量スケジュール 特徴的な副作用
AC療法
術前
術後
転移再発
アドリアマイシン 40-60mg/m2 1日目点滴
シクロホスファミド 500-600mg/m2 1日目点滴
1サイクル:21日 4サイクル
吐き気、嘔吐、脱毛、体重増加、下痢、口内炎、白血球減少、好中球減少、心機能障害
EC療法
術前
術後
転移再発
エピルビシン 75-100mg/m2 1日目点滴
シクロホスファミド 600-830mg/m2 1日目点滴
1サイクル:21日 6-8サイクル
吐き気、嘔吐、脱毛、血管痛、感染、心機能障害
FEC療法
術前
術後
転移再発
5-FU 500mg/m2 1日目点滴
エピルビシン 100mg/m2 1日目点滴
シクロホスファミド 500mg/m2 1日目点滴
1サイクル:21日 4-6サイクル
吐き気、嘔吐、脱毛、口内炎、好中球減少、心機能障害
FAC療法
術前
術後
転移再発
5-FU 500mg/m2 1日目点滴
アドリアマイシン 50mg/m2 1日目点滴
シクロホスファミド 500mg/m2 1日目点滴
1サイクル:21日 4-6サイクル
吐き気、嘔吐、脱毛、口内炎、好中球減少、白血球減少、心機能障害
TAC療法
術前
術後
転移再発
ドセタキセル 60-75mg/m2 1日目点滴
アドリアマイシン 50mg/m2 1日目点滴
シクロホスファミド 500mg/m2 1日目点滴
1サイクル:21日 4-6サイクル
吐き気、嘔吐、脱毛、口内炎、好中球減少、白血球減少、発熱性好中球減少症、倦怠感、心機能障害
TC療法
術前
術後
転移再発
ドセタキセル 75mg/m2 1日目点滴
シクロホスファミド 600mg/m2 1日目点滴
1サイクル:21日 4-6サイクル
好中球減少
(5%以上で認められた重症の副作用:発熱性好中球減少、倦怠感、発熱、感染症、下痢)
パクリタキセル毎週投与
術前
術後
転移再発
パクリタキセル 80mg/m2 1日目点滴
毎週投与 術前・術後療法では12サイクルが多い
転移再発では3週間投与1週間休みで継続することが多い
末梢神経障害、関節痛、筋肉痛、白血球減少、好中球減少、脱毛
パクリタキセル3週ごと投与
術前
術後
転移再発
パクリタキセル 175mg/m2 1日目点滴
1サイクル:21日 術前・術後療法では4サイクルが多い
末梢神経障害、関節痛、筋肉痛、白血球減少、好中球減少、脱毛
アルブミン懸濁型パクリタキセル療法(ナブパクリタキセル療法)
術前
術後
転移再発
アルブミン懸濁型パクリタキセル 175mg/m2 1日目点滴
1サイクル:21日 術前・術後療法では4サイクルが多い
末梢神経障害、白血球減少、好中球減少、脱毛
ドセタキセル療法
術前
術後
転移再発
ドセタキセル 60-75mg/m2 1日目点滴
1サイクル:21日 術前・術後療法では4サイクルが多い
好中球減少、脱毛、浮腫、発疹、アレルギー反応、発熱性好中球減少症
エリブリン療法
転移再発 エリブリン 1.4mg/m2 1日目と8日目に点滴
1サイクル:21日
好中球減少、末梢神経障害、発熱、発熱性好中球減少症、骨髄抑制
カペシタビン療法
転移再発 カペシタビン 1657mg/m2を1日目から21日目まで朝夕2回に分けて内服 1サイクル:28日
カペシタビン 2500mg/m2を1日目から14日目まで朝夕2回に分けて内服 1サイクル:21日
吐き気、嘔吐、骨髄抑制、下痢、口内炎、手足症候群
S-1療法
転移再発 S-1 体表面積ごとに80-120mg/日 を1日目から14日目まで朝夕2回に分けて内服
1サイクル:28日
吐き気、嘔吐、骨髄抑制、下痢、口内炎、涙流、嗅覚障害、手足症候群、色素沈着
ゲムシタビン療法
転移再発 ゲムシタビン 1250mg/m2 1日目、8日目、15日目に点滴
1サイクル:28日
骨髄抑制、肝機能障害、脱毛、吐き気、関節痛、筋肉痛、発熱、血尿、蛋白尿、間質性肺炎
ビノレルビン療法
転移再発 ビノレルビン 25mg/m2 1日目、8日目に点滴
1サイクル:21日
好中球減少、白血球減少、末梢神経障害、血栓性静脈炎、筋肉痛、脱毛
イリノテカン療法
転移再発 イリノテカン 100mg/m2 1日目、8日目、15日目に点滴
1サイクル:28日
下痢、好中球減少、脱毛
CMF療法
術後
転移再発
シクロホスファミド 100mg/m2 1日目から14日目まで内服
メソトレキセート 40mg/m2 1日目と8日目に点滴
5-FU 600mg/m2 1日目と8日目に点滴
1サイクル:28日 6サイクル
吐き気、嘔吐、脱毛、体重増加、口内炎、下痢
トラスツズマブ療法
術前
術後
転移再発
トラスツズマブ 初回8mg/kg、2回目以降6mg/kg 1日目点滴 1サイクル:21日
トラスツズマブ 初回4mg/kg、2回目以降2mg/kg 1日目点滴 1サイクル:7日
心機能低下(アンスラサイクリン系薬剤と一緒に投与すると心機能低下の出現頻度が10%以上になるため注意を要する)、インフュージョンリアクション
ペルツズマブ+トラスツズマブ+タキサン療法
転移再発 ペルツズマブ 初回840mg、維持用量420mg
1サイクル:21日
トラスツズマブ 初回用量8mg/kg、維持用量6mg/kg
1サイクル:21日
タキサン:ドセタキセル 75-100mg/m2 1サイクル:21日 6サイクルまたはパクリタキセル 80mg/m2 1日目点滴 毎週投与 12-18サイクル
下痢、疲労、悪心、発疹、インフュージョンリアクション、末梢神経障害
T-DM1療法
転移再発 T-DM1 3.6mg/kg 1日目に点滴
1サイクル:21日
好中球減少、貧血、肝機能障害、下痢
ラパチニブ+カペシタビン療法
転移再発 ラパチニブ 1250mg/日 1日1回空腹時 1日目から14日目まで内服
カペシタビン 体表面積ごとに1500-2400mg/日を1日目から14日目まで朝夕2回に分けて内服
ともに1サイクル:21日
下痢、吐き気、嘔吐、手足症候群、倦怠感、皮疹(ひしん)、貧血、血小板減少、リンパ球減少
パクリタキセル+ベバシズマブ療法
転移再発 パクリタキセル 90mg/m2 1日目、8日目、15日目に点滴
ベバシズマブ 10mg/kg 1日目、15日目に点滴
1サイクル:28日
パクリタキセルの副作用に加え、骨髄抑制、高血圧、蛋白尿、出血、血栓症、消化管穿孔、可逆性後白質脳症症候群、創傷治癒遅延
エベロリムス+エキセメスタン療法
転移再発 エベロリムス 10mg/日
エキセメスタン 25mg/日
連日内服
口内炎、全身倦怠感、下痢、吐き気、嘔吐、食欲低下、関節痛、薬剤性肺炎、不眠
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4.生活の質を重視した治療

がんと診断されたときから、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を維持するために、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげたり、患者さんとご家族が自分らしく過ごしたりするための緩和ケアが重要です。

緩和ケアは、がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われるものです。緩和ケアでは、痛みや吐き気、食欲不振、だるさなど体の症状だけに限らず、気分の落ち込みや孤独感など心のつらさを軽くすること、また、自分らしい生活を送ることができるようにすることなど、患者さんのニーズに応じて幅広い対応をします。

そのためにも、治療や療養生活について不安なこと、わからないことなど、ご自身の思いを積極的に担当医に伝えましょう。十分に話し、納得した上で治療を受けることが大切です。

痛みが強いときには、痛みの原因によって、医療用麻薬を含めた痛み止めを使ったり、痛みの原因となっているがんのある場所に対して放射線治療を行ったりして、つらさを和らげることができます。

詳しくはこちらの「がんの療養と緩和ケア-4.がんの痛みと緩和ケア」もご参照ください。

転移のある患者さんに対しては、痛みや骨折のリスクを減らす目的でビスフォスフォネート製剤やデノスマブといった薬剤が使われることがあります。ビスフォスフォネート製剤やデノスマブの有害事象には顎骨壊死(がっこつえし)があり、口腔ケアを心がけ、衛生状態を良好に保つことが重要です。投与前に歯科を受診することが必要です。

5.臨床試験

がんの治療は治療技術の進歩とともに変わっていきますが、その時点で得られている科学的な根拠から、最もよいと考えられる治療を「標準治療」と呼びます。ただし、標準治療は必ずしも「完全な治療」というわけではありません。新しい治療の有用性を科学的に検証する「臨床試験」によって、がんの治療をよりよいものにしていこうとする努力が世界各地で行われています。臨床試験の結果から、現在標準とされている治療より、よい治療であることが証明されれば、新たな標準治療が生まれます。現在の標準治療は、これまでに行われた臨床試験の積み重ねの中から生まれてきた治療法です。現在行われている臨床試験で採用されている治療法は、将来の標準治療となりうる治療であり、治療の選択肢の1つであると言えます。

現在国内で行われている乳がんの患者さんを対象とした臨床試験(医師・研究者が実施する臨床試験、および製薬企業や医師が実施する治験の一部)に関しては、「がんの臨床試験を探す 乳がん」で、開発の段階別に分類された情報を閲覧することができます。
 
【参考文献】
  1. 日本乳癌学会編.科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編(2)疫学・診断編2013年版,金原出版
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更新日:2015年03月23日 [ 更新履歴 ]
更新履歴
2015年03月23日 タブ形式への移行と、「臨床・病理 乳癌取扱い規約2012年(第17版)」「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編(2)疫学・診断編2013年版」より、内容の更新をしました。
2011年07月15日 内容を更新しました。
1997年10月01日 掲載しました。

1.治療後に日常生活を送る上で

乳がんは他のがんと比べ、比較的若い年齢で発症することの多いがんです。病気や治療後の後遺症、副作用などに加えて、仕事や就業、経済的な問題、家庭や家族、育児や介護、人間関係、性や妊娠・出産、手術後の乳房再建など、体や心の心配事が診断された直後だけでなく、治療中やその後の療養生活の間でも数多く発生します。

心配事を担当医や看護師などの医療者に伝えたり、今の自分の気持ちを落ち着いて整理したり、患者会などで自分と似た経験をした患者さんの話を聞く機会をもつことで、つらい気持ちが軽くなる、楽になる場合があります。病院によっては乳がんの患者さんの心や体のケアを専門とする「乳がん看護認定看護師」もいるので、話を聞いてみるのもよいでしょう。あまり否定的にならず、無理のない範囲で自分なりの方法を試してみましょう。

1)周りの人や親しい人の理解を得る

(1)治療前

乳がんの治療はがんの性質だけでなく、一人一人の患者さんの状態に応じて変わります。自分の状態を落ち着いて考えるために、率直な思いを周りの人や親しい友人に話してみたり、調べた情報を基に自分の気持ちを整理したりして、担当医の説明を聞くときに確認しておきたいことをまとめておくとよいでしょう。

(2)治療後

胸や腕の違和感やしびれ、体のだるさを自覚することが多いようです。治療後の自分を受け入れることが難しい場合もあるかもしれません。見た目は変わらないようでも、痛みやだるさ、つらさは本人が話さないと伝わりません。一人で無理をしないで、家族や周りの人に伝えて協力を求めるようにしましょう。「○○をしてほしい」と具体的に伝えるようにすれば、家族はあなたが今どういう動作がしにくいのか、どんな気持ちでいるかなどがわかり、一緒につらさを乗り越えるための手助けをしやすくなるでしょう。

2)食事について

食事については、特に制限はありません。栄養のバランスを第一に、気持ちよく食べることが大切です。ただし、化学療法中などで吐き気があるときには、担当医からあらかじめ処方された制吐剤(吐き気止め)を内服したり、食事を少しずつ何回かに分けて食べたりといった工夫をしましょう。

3)運動について

運動は、体力の回復に合わせて、散歩などから始め、少しずつ運動量を増やしていきましょう。家事をしている間は適度に体を動かすことになるので、腕や肩のよい運動になります。リハビリのつもりで少しずつやってみましょう。このとき、手を伸ばせる方向や位置に物を配置しておく、物をとるときには反対側の手を添えるなどの工夫も必要です。家族や周りの人の助けを借りながら、無理のない範囲で動いてみましょう。

スポーツは、種類や運動の程度にもよりますが、今まで行っていたことを徐々に始めて構いません。ただし、腋窩リンパ節郭清を行った場合、施術側の腕に強い負荷をかけるような運動は浮腫を発症させることもありますので、担当医に相談しましょう。

詳しくは、「乳房切除術後のリハビリテーションについて」もご参照ください。

4)性生活・妊娠について

性生活には、支障はありませんが、治療中は避妊しましょう。妊娠・出産を希望される場合は担当医とよく相談されるとよいでしょう。経口避妊薬などの特殊なホルモン剤をのむときも、担当医とよく相談してください。

5)仕事や社会復帰

がんと診断されたことで、必ずしも仕事を辞める必要はありません。社会復帰は、治療が一段落して、薬物療法放射線治療などの予定がはっきりしてきたところで考えるとよいでしょう。多くの場合、引き続き通院による治療が続くので、体調がすぐれないときには仕事をする時間を短くしたり、休んだりすることができるか、定期的な通院が可能かどうかなどを、確認しておくとよいでしょう。

また、治療後は体調が優れないことがあるので、時間や業務の内容を調整して無理をしないことが大切です。上司や同僚など一緒に仕事をする職場の人の理解を得ておくことも必要です。心配事があれば、まず相談しましょう。

仕事については「患者必携 がんになったら手にとるガイド」の「社会とのつながりを保つ患者必携アイコンをご参照ください。

2.治療後の経過観察と検査

術後の治療予定は、手術時の状態や、手術で切除したがんの病理診断の結果、はじめの治療の効果などによって個別に変わってきます。また、体調の回復具合や治療による副作用の程度などによっても異なります。治療を引き続き行う場合は治療の予定に応じて、継続して治療を行わない場合でも3カ月から6カ月ごとに、問診・視診・触診を中心とした診察を受けるために定期的に通院します。その後、体の状態をみながら通院の間隔を6カ月に延ばし、5年過ぎたら1年間隔にするのが一般的です。担当医によく確認しておきましょう。

乳がんは手術後5年あるいは10年過ぎてから再発するということあります。定期的な診察を受ける以上に、治療後の胸や反対側の乳房の自己検診を継続的にして、体調に変化を感じたときには医療機関に相談しましょう。
 
更新日:2015年03月11日 [ 更新履歴 ]
更新履歴
2015年03月11日 タブ形式への移行と、「臨床・病理 乳癌取扱い規約2012年(第17版)」「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編(2)疫学・診断編2013年版」より、内容の更新をしました。
2011年07月15日 内容を更新しました。
1996年10月01日 掲載しました。

1.転移

転移とは、がん細胞がリンパ液血液の流れに乗って別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。乳がんでは、比較的早期から検査では見つからない程度のごく小さな転移が起こりやすいとされています。つまり、手術でがんを取りきったようでも、その時点で肉眼や画像検査では見つけることの困難ながん細胞が、すでに別の臓器に移動している場合があり、時間がたって増殖してくると再発として見つかることがあります。

乳がんが最初に転移しやすい臓器としては、腫瘍の近くにあるリンパ節や骨、皮膚があります。遠く離れた臓器では肺、肝臓、脳への転移が起こることもあります。

肺や肝臓、脳などへの転移や再発では、内分泌(ホルモン)療法化学療法分子標的治療などの薬物療法を中心にしてなるべく進行を遅らせることや、がんによるつらい症状を和らげることが目標となります。脳への転移に対しては放射線治療を組み合わせることもあります。骨への転移があるときには、骨の分解を抑制するビスフォスフォネート製剤や分子標的薬による治療が検討されます。また、骨への転移によって痛みが強いときは、痛みを和らげるために手術や放射線治療を組み合わせることもあります。

転移はそれぞれの患者さんによって状態は異なるため、症状や体調あるいは希望に応じて治療やケアの方針を決めていきます。

2.再発

再発とは、治療の効果により目に見える大きさのがんがなくなったあと、再びがんが出現することをいいます。乳がんは治療後3年までに再発することが比較的多いのですが、5年から10年を経過して起こることもあります。

サブタイプ別では、ルミナルA型(エストロゲン受容体陽性でHER2陰性)において、5年間における遠隔再発率が、他のサブタイプと比較して少ないことが報告されています。Ki67高値であるルミナルB型の場合は、リンパ節転移の有無に関わらずルミナルA型よりも再発リスクが高いとされています。

なお乳房部分切除術を行ったあとの乳房に起こる再発は「乳房内再発」、また乳房を全部摘出したあとの胸壁の皮膚やリンパ節に起こる再発は「局所・領域再発(参照:局所再発領域再発)」といいます。これらの再発はその部分だけに起こっている可能性があり、遠隔臓器への転移(再発)とは治療方針が異なるので区別します。

乳房内再発や乳房切除術後の局所・領域再発では、再度、切除が可能であれば手術を行って根治を目指します。状況によって薬物療法や放射線治療を組み合わせます。

再発はそれぞれの患者さんによって状態は異なるため、症状や体調あるいは希望に応じて治療やケアの方針を決めていきます。

再発や転移、痛みが強いときの治療については、「患者必携 がんになったら手にとるガイド 普及新版」の以下の項もご参照ください。
「がんの再発や転移のことを知る」患者必携サイトへのリンク
もしも、がんが再発したら 冊子
がんの再発に対する不安や、再発に直面したときの支えとなる情報をまとめた冊子です。がんの再発という事態に直面しても、「希望を持って生きる」助けとなりたいという願いを込めて、再発がんの体験者、がん専門医らとともに検討を重ねて作成されたものです。
(Webサイトでもご覧になれます。「もしも、がんが再発したら [患者必携]本人と家族に伝えたいこと患者必携サイトへのリンク

【参考文献】
  1. 日本乳癌学会編.科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン(1)治療編(2)疫学・診断編2013年版,金原出版
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