1.吐き気・嘔吐について
「吐き気・嘔吐」は、がんの治療やがんそのものによって起こることがある症状のひとつです。
吐き気や嘔吐が続くと、食事を十分にとれず、水分・栄養素が不足することがあります。また、疲労感や倦怠感から生活に支障をきたしたり、治療の継続が難しくなったりする場合もあります。
適切に対処し、吐き気・嘔吐を予防・軽減していくことが大切です。
2.原因
がんやがんの治療による吐き気・嘔吐の主な原因は以下の通りです。
1)治療の副作用・合併症として起こるもの
(1)薬物療法に伴う吐き気・嘔吐
がんの薬物療法で使う薬にはさまざまな種類があり、吐き気や嘔吐が起こる頻度は薬の種類によって異なります。
また、吐き気・嘔吐が出現する時期や続く期間には個人差があり、薬物療法の直後から起こる場合もあれば、1日以上たってから起こる場合があります。ほとんどの症状は、薬物療法を行ってから5日~1週間程度でおさまります。
(2)放射線治療に伴う吐き気・嘔吐
放射線治療を行った2~3時間後から、吐き気・嘔吐が起こることがあります。
特に全身やおなかの上部、脳全体、脊髄全体に対して放射線を照射する場合、吐き気が起こりやすいといわれています。そのため、予防として吐き気止めを使うことがあります。症状には個人差がありますが、一般的に10日前後で落ち着いてきます。
(3)手術(外科手術)に伴う吐き気・嘔吐
麻酔薬の副作用や、手術のあとに消化管の動きが低下して便秘になることで、吐き気・嘔吐が起こることがあります。
また、腹部(大腸や子宮など)の手術後は腸閉塞になることがあり、それが吐き気・嘔吐の原因となる場合もあります。
(4)医療用の麻薬を使うことに伴う吐き気・嘔吐
がんの痛みや息苦しさを和らげるために、医療用の麻薬を使うことがあります。薬を使い始めたときや量を増やしたときに吐き気・嘔吐が起きやすくなりますが、通常数日から1週間で軽減します。
2)がんそのものの影響によるもの
がんが大きくなることや腹水などによって消化管が圧迫され、通りが悪くなったり動きが低下したりすると、吐き気の原因になることがあります。
また、がんが脳にできた場合も、吐き気を引き起こすことがあります。
ほかにも、電解質異常(ナトリウムやカルシウムといった電解質の体内でのバランスが悪くなること)や、低血糖などが原因となることもあります。
そのほか、これまでの治療による吐き気・嘔吐の経験や不安が原因となることもあります。この症状を予防するために大切なのは、吐き気・嘔吐を我慢せず、適切に対処することです。早めに医療者に相談しましょう。
3.吐き気・嘔吐を予防するために・起きたときには
吐き気や嘔吐を予防する方法や起こったときの対処法は原因によって異なり、主に以下のようなものがあります。
1)薬を使って予防する・症状を和らげる
吐き気止め(制吐薬)
がん治療中の吐き気・嘔吐は、吐き気止めの進歩によって、コントロールできるようになってきました。薬物療法などの吐き気が起こる頻度に合わせて、吐き気止めを予防的に使います。また、症状が続く可能性のある期間にも続けて使います。
今使っている吐き気止めで吐き気・嘔吐が軽減しない場合は、飲み方を調整したり、薬の量を増やしたり、別の薬に変更するかを医療者と一緒に考えていくこともできます。また、がん治療以外の原因で吐き気・嘔吐が起こっていないかを再確認することもあります。
あらかじめ吐き気・嘔吐が出現する時期とおさまる時期についての見通し、吐き気止めの飲み方や飲むタイミング、受診するべき症状などを、医療者に確認しておきましょう。
抗不安薬
不安や緊張などによって吐き気・嘔吐が起きている場合は、医師と相談しながら、不安や緊張を和らげる薬(抗不安薬)を使用することもあります。
2)その他の対応や処置
便秘に伴う吐き気や嘔吐の場合は、下剤を用いることがあります。
消化管が圧迫されたことで起きる吐き気・嘔吐の場合は、吐き気止めのほかに、症状を緩和するための治療や処置を行う場合があります。詳しくは医師にお尋ねください。なお、関連情報「病名から探す」には、がんの種類別に治療に関する情報も掲載しています。併せてご活用ください。
何らかの対応や処置をしても吐き気・嘔吐がつらいときは、我慢せずに医師や看護師など病院のスタッフに伝えましょう。
4.ご本人や周りの人ができる工夫
吐き気・嘔吐の原因によっては、ご本人や周りの人が工夫できることもあります。そのためのヒントをまとめました。
1)生活環境の工夫
においが吐き気・嘔吐を引き起こすことがあります。食べもの、化粧品、芳香剤など、においの強いものは周りに置かないようにし、部屋ににおいがこもっているときは、窓を開けて空気を入れ替えましょう。好きな音楽を聴く、テレビを見るなど気分転換をして、気持ちを落ち着かせることも大切です。
また吐き気が強いときは、安静に過ごせるように配慮し、飲料水、ごみ箱、ティッシュペーパー、洗面器などを、手の届くところに置いておきましょう。
2)食事の工夫
食事をとろうとすることで吐き気が強くなってしまう可能性もあるため、どうしても食べられないときは、無理に食べる必要はありません。気分のよいときに、食べられそうなもの、好きなものを食べるようにしましょう。
また、食事は一度にたくさん食べようとせず、少しずつ数回に分けて食べましょう。小さいお皿に盛り付けるなどして、盛り付けを少量にするのもひとつの方法です。
食事について、栄養士などの医療スタッフに相談することもできます。栄養士に相談したいときは、まずは医師や看護師にお尋ねください。
おすすめのもの
- 消化のよいもの(胃の中に食べものが長くとどまっていると吐き気・嘔吐が起きやすい)
例:お粥や軟らかくゆでた麺、軟らかく煮た野菜など - 粗熱をとり、室温程度に冷ましたもの(温かいとにおいを感じやすい)
例:ご飯の場合は冷ますか、冷凍ご飯を温めるとにおいが抑えられる - 冷たく口当たりのよい、飲み込みやすいもの
例:アイスクリーム、シャーベット、ゼリー、果物、冷たい麺類、卵豆腐、冷やっこなど - やや酸味のあるもの、炭酸飲料など
気を付けたほうがよいもの
- においが強いもの
例:炊き立てのご飯、焼き魚、具材の種類が多い煮物など - 脂肪の多いもの
例:揚げ物など
3)姿勢や服装の工夫
クッションなどで体を起こす、横を向くなど、楽な姿勢をとりましょう。
また衣類で体が締めつけられると、吐き気・嘔吐を起こしやすくなります。特におなかの周りを圧迫しないゆったりとしたものを選びましょう。
4)うがい・口腔ケア
うがいや歯磨きをして口の中を清潔に保つことで、気分がすっきりし、吐き気が抑えられることがあります。通常のうがいや歯磨きで吐き気・嘔吐が起こるときは、少量の冷水(氷水)やレモンを漬けた水などで数回に分けてうがいをするなど工夫しましょう。
上記の口腔ケアを食事の前に行うのも効果的です。
5)その他
便秘が吐き気・嘔吐に影響していることもあります。便秘が続いているときや、便秘気味のときは、できる範囲で体を動かす、おなかをやさしくマッサージする、十分に水分をとるなどを心がけましょう。海藻や果物など、水溶性の食物繊維が多く含まれる食品をとるのもよいでしょう。
下剤を使う場合には、使い方を医師や看護師と相談しましょう。
6)ご家族や周りの人ができること
吐き気・嘔吐があるときは、心のつらさを感じていることも多いといわれています。ご家族や周りの方が背中をやさしくさすったり、ゆっくりと声をかけたりすることで、不安が和らぐことがあります。
5.こんなときは相談しましょう
吐き気止めを使っても強い吐き気・嘔吐が続き、水分摂取ができないような場合は、我慢せず、すみやかに医療機関に連絡し、受診が必要かどうか判断を仰ぎましょう。
また医師や看護師など病院のスタッフにご自身の状態を正しく伝えられるよう、以下のような内容をメモしておくとよいでしょう。
メモしておく内容の例
- いつ、どんなときに吐き気・嘔吐が起こったか、いつまで続いたか
- 症状の重さはどれくらいか(吐き気止めを使えば我慢できる、吐き気止めを使っても日常生活に支障をきたす)
- 吐き気止めを飲んだ時間、どの程度吐き気が和らいだか、吐き気止めはどのくらいの時間効いたか
- 排便の回数や量、下痢の有無
- 食事の量や飲水量
など
6.関連情報
7.参考資料
- 日本緩和医療学会編.がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン 2017年版 第2版.2017年,金原出版.
- 日本癌治療学会編.制吐薬適正使用ガイドライン2023年10月改定 第3版.2023年,金原出版.
- 日本緩和医療学会編.専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第2版.2019年,南江堂.
- Cancer Research UKウェブサイト. Cancer and sickness (nausea); 2023(閲覧日2024年3月13日)https://www.cancerresearchuk.org/
- NPO法人キャンサーリボンズ編.がんの治療と暮らしのサポート実践ガイド.2017年,SMS
- 狩野太郎ほか編.がん治療と食事 治療中の食べるよろこびを支える援助.2015年,医学書院.
- 西智弘ほか編.緩和ケアレジデントマニュアル.2022年,医学書院.
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