1.便秘について
便秘とは、便を十分にかつ快適に出し切れない状態です。便秘が続くとおなかが張って苦しくなったり、吐き気や食欲低下につながったりすることもあるため、早めに対処することが大切です。
2.原因
がんの治療中に起こる便秘は、多くの場合、生活環境や生活リズムの変化などとも関わりながら、次のようなさまざまな原因が重なって起こります。
- 食事や水分が十分にとれない、運動量が減る、気分が落ち込む
- がんの治療に用いる薬(細胞障害性抗がん剤や分子標的薬など)や痛み止め(医療用麻薬)の副作用
- がんによる大腸の圧迫や閉塞
- 加齢、糖尿病、甲状腺機能低下症など
3.便秘になったときには
便秘の治療では、1日の排便回数が何回になるかということよりも、心地よい排便ができるようになることが大切です。
多くの場合、下剤を使います。それでも便秘が改善されないときには、便秘を生じやすい薬(医療用麻薬など)を減らす、下剤の量を調整するなどを検討します。
便秘および便秘の予防に用いる薬のタイプには、のみ薬、坐薬、浣腸があります。
薬の種類には、便に水分を含ませ軟らかくする薬(酸化マグネシウム)、腸を刺激し大腸の動きを促進する薬(センナ等)、腸液の分泌を促し便を軟らかくする薬(ルビプロストン等)、医療用麻薬による便秘を予防し改善する薬(ナルデメジン)などを用いることがあります。
薬の種類や量は、症状の強さや効果の具合によって担当医や薬剤師、看護師と相談しながら調整していきます。
4.ご本人や周りの人ができる工夫
便秘の原因によっては、ご本人や周りの人が工夫できることもあります。
1)できる範囲で体を動かす
無理のない範囲で体を動かすことは、便秘の予防につながります。外出したり歩いたりできない場合には、ベッドの上でおなかを動かしたり、ベッドからいすに移る運動をしたりするだけでも、腸を刺激して排便を促す効果があります。おなかをやさしくマッサージする方法や、腰やおなかを温める方法もよいでしょう。
2)水分を摂取する
水分を十分にとり、脱水を予防することは便秘の予防に効果的です。摂取する水分量の目安は、個人により異なりますが、一般的には1日に1.5L程度です。
3)食物繊維をとるなどの食事を工夫する
適度に体を動かし、水分を摂取していても便秘が続く場合には、食物繊維(特に水溶性食物繊維)を多く含んだものを食べることが効果的です。食物繊維は、主に豆類、きのこ、海藻、果物などに多く含まれます。ただし、体の状態によってはとりすぎるとよくない場合もあるので、医師と相談しましょう。また、ヨーグルトのような乳酸菌などの生きた微生物を含む食品は、適正な量をとると便秘を和らげる効果があるといわれています。
病気の状態によっては食事や水分の制限もありますので、医師と相談しながら、食べられるものを、バランスよく食べることが大切です。
4)落ち着いて排便できる環境を整える
落ち着いて排便ができるトイレの環境を整えましょう。便意を感じたらすぐトイレに行き、我慢しないようにしましょう。我慢しすぎると腸の活動が悪くなり、便意を感じにくくなります。また、便意がなくても毎日決まった時間にトイレに行き、排便する習慣をつけることもよいといわれています。
5)生活リズムを整えるなどのその他の工夫
排便のリズムを整えるためにも、生活リズムを整え、十分に睡眠をとり、ストレスをためないようにすることが大切です。
排便するときには、前かがみの姿勢がよいといわれています(図1)。
5.こんなときは相談しましょう
およそ3日以上排便がないとき、下剤を使って1~2日たっても便が出ないとき、腹痛や嘔吐があるときには担当医や看護師に相談しましょう。
また、おなら(排ガス)が出ない、腹痛がある、嘔吐する、おなかがひどく張る(腹部膨満感がある)と感じた場合には、腸閉塞の可能性もあるためすぐに担当医や看護師に伝えましょう。
下剤は、自分の判断で始めたりやめたりせず、まずは薬剤師や担当医に相談してからにしましょう。
また、毎日排便があるか、硬さ(表1)や量がどのようであるかを記録しておくと、診察の際に担当医に伝えるのに役立ちます。
6.「便秘」参考文献
- 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会編.がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017年版.金原出版
- 日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編.慢性便秘症診療ガイドライン2017.南江堂
- 日本がん看護学会監修.病態・治療をふまえたがん患者の排便ケア.2016年,医学書院
- American Cancer Societyウェブサイト.https://www.cancer.org/,Constipation;2015(閲覧日:2018年11月10日)
- National Cancer Instituteウェブサイト.https://www.cancer.gov/,Gastrointestinal Complications (PDQ®)–Health Professional Version;2018(閲覧日:2018年11月10日)
- 森田達也 他 監修.緩和ケアレジデントマニュアル.2016年,医学書院
- George F, et al. Functional Bowel Disorders. Gastroenterology. 2006; 130: 1480-1491.
7.その他の関連情報
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