1.神経膠細胞とは
神経膠細胞は、グリア細胞とも呼ばれ、神経細胞(ニューロン)とともに、脳・脊髄に無数に存在します。主な役割は、神経細胞を固定し、栄養の供給や神経伝達物質の伝達をすることなどです。
神経膠細胞が存在している脳は、頭蓋骨という脳を保護する骨に囲まれており、さらに、頭蓋骨の内側にある髄膜によって被われています。脳は大まかに大脳や小脳、脳幹という部位に分けることができ、各部位にさまざまな機能があります。
脳内では、神経細胞から延びた神経線維が集まり、束になり走行しています。神経線維は、細胞間の情報伝達に重要な役割を果たしています。

2.神経膠腫(グリオーマ)とは
神経膠腫は、悪性の脳腫瘍の1つです。グリオーマとも呼びます。
神経膠腫は、神経膠細胞から発生します。
脳腫瘍には、他のがんのようなTNM分類やステージ分類がありません。代わりに悪性度(グレード)として1から4までの数字を用いて分類されています。グレード1の腫瘍は手術で全摘出できれば再発のおそれがほとんどない良性腫瘍です。グレード1の神経膠腫としては、子どもの小脳や視神経に発生することが多い毛様細胞性星細胞腫があります。
神経膠腫の中で最も多いのは、びまん性星細胞腫や乏突起膠腫で、グレード2〜4に分類されます(表1)。組織型やグレードによって治療方針が異なります。
乏突起膠腫は星細胞腫に比べてややおとなしく、薬物療法の効果が得られやすい腫瘍です。また、神経膠腫の中には主に脳室の壁の近くに発生する上衣腫(エペンディモーマ)という腫瘍もあります。

神経膠腫をはじめ、脳腫瘍の診断は世界保健機関(WHO)2016年分類に基づいて行われます。
これまで、脳腫瘍の分類は、主に顕微鏡で観察した組織学的検査に基づいていましたが、この分類では、腫瘍組織の遺伝学的検査がほぼ必須となっています。
神経膠腫では、IDHやp53と呼ばれる遺伝子変異の有無や、染色体1p/19q共欠失(1番染色体短腕と19番染色体長腕が共に欠失している)の有無をもとに、表1の分類がさらに細分化されます。また、薬物療法(テモゾロミド)の効果が期待されるかは、腫瘍細胞のMGMTという遺伝子の一部の領域におけるメチル化が関係していることがわかっています。
しかし、神経膠腫の遺伝子検査は、2018年5月現在、保険適用ではありません。また、すべての施設で行うことができず、現在は一部の大学病院やがんセンターのみで実施が可能です。腫瘍の遺伝子診断などについては、主治医によく尋ねて、場合によっては大学病院やがんセンターなどでセカンドオピニオンを受けてください。
脳腫瘍は、神経膠腫のほかにも、中枢神経系悪性リンパ腫や髄芽腫などの悪性脳腫瘍や、髄膜腫や神経鞘腫などの良性脳腫瘍に分類され、細かく分けると150種類以上にもなります。このため“脳がん”という言葉はほとんど使われることはありませんが、表にある神経膠腫は脳から発生した悪性腫瘍であり、“脳がん”にあたります。
脳腫瘍の種類や治療の概要などについては、以下をご参照ください。
3.症状
神経膠腫が脳に発生すると、腫瘍の周りには脳浮腫という脳のむくみが生じます。手や足を強くぶつけると、手足が腫れることと同じです。腫瘍や脳浮腫によって、脳の機能が影響を受けることになります。
脳腫瘍や脳浮腫による症状は、腫瘍によって頭蓋骨内部の圧力が高まるために起こる「頭蓋内圧亢進症状」と、腫瘍が発生した場所の脳が障害されて起こる「局所症状(巣症状)」に分けられます。
1)頭蓋内圧亢進症状:多くに共通して起こる症状
脳は周囲が頭蓋骨に囲まれた閉鎖空間であるため、その中に腫瘍ができると逃げ場がなく、その結果、頭蓋の中の圧力が高くなります。これによってあらわれる頭痛、吐き気、意識障害などの症状を、頭蓋内圧亢進症状といいます。人間の頭蓋内圧はいつも一定ではなく、睡眠中にやや高くなりますので、朝起きたときに頭痛が強く、吐き気を伴うことがあります。
2)局所症状(巣症状):脳の各部位が担う機能と関連する症状
運動や感覚、思考や言語などのさまざまな機能は脳の中でそれぞれ担当する部位が決まっています。脳の中に腫瘍ができると、腫瘍や脳浮腫によってその部位の機能が障害され、局所症状として出現するため、脳のどの部位がどのような機能を担っているのかを理解することが大切です。
脳は大脳、小脳、脳幹からなります。そして大脳は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、大脳基底核に分けられ、それぞれに異なった機能を担っています(図2)。
腫瘍がどこにあるかは、手術のリスクや今後どのような症状が出る可能性があるかを予測する上で重要です。

前頭葉には、思考や記憶力の中枢があります。前頭葉と頭頂葉の間には中心溝という大きな溝があります。
前頭葉側には運動野(中心前回にある体を動かす機能を受け持つ部分)があり、頭頂葉側に感覚野(中心後回にある刺激を感じる機能を受け持つ部分)があります。
顔、手、足の運動や感覚は、脳の外側から、中心側(左右大脳半球間裂)に向かって整列しています。したがって、脳腫瘍などが脳の内側(左右大脳半球の間)にある場合には足に強い麻痺や感覚障害が生じ、外側(側頭葉側)にある場合には、手に強い麻痺や感覚障害が生じます。
人の脳は大脳半球と呼ばれる左右の脳に分かれます。右利きの人のほとんど、左利きの人の7割程度は、左の大脳半球が優位半球です。
優位半球とは言語中枢(話す、理解する)がある大脳半球で、この優位半球が障害されると、言葉での意思の疎通が障害される可能性が出てきます。
非優位半球(多くは右脳)の病気ではあまり症状があらわれないこともあります。
側頭葉のウェルニッケ野には言語理解の中枢があり、前頭葉のブローカ野には発語の中枢があります。そしてこれらに障害があり、発語や言語の理解ができなくなることが失語という症状です。
一般に左脳の広い障害では、利き手の右手足が不自由になるばかりでなく、言語の障害も起きるため、右脳の障害よりもはるかに日常生活上の困難が伴います。手術を行う際にも右脳と左脳ではリスクも異なります。
頭頂葉前部には痛みや触覚などを感じる感覚野があります。優位半球の頭頂葉の障害では計算障害などのほかに、失読・失書(字が読めない・書けない)などの症状が出現します。
後頭葉は視覚情報の認識に関わります。光は網膜から視神経に伝えられますが、視神経は頭蓋内に入ったところにある視交叉という部分で交わり、視覚情報が伝達されます。つまり、視界の右側の情報は左後頭葉へ、視界の左側の情報は右後頭葉へとそれぞれ視放線を通って伝えられます。
脳腫瘍により視交叉の前で左視神経が障害されると、左の視力が落ちます。視交叉の後で、左の視放線や左後頭葉が障害されると、左右の視力は保たれますが、右側の視界が見えなくなる半盲という状態になります。
また下垂体腫瘍などによって視交叉が圧迫されると、耳側性半盲(視野の外側が見えなくなる状態)が起こります。
小脳はバランスの中枢で、運動の学習効果を獲得する機能があります。小脳は大脳と異なり、同側性支配です。つまり右大脳の障害では左手足の障害をきたすのに対して、右小脳の障害では右側の運動障害を生じます。
小脳に腫瘍があると、ふらつきやめまいなどの症状がみられます。
また小脳浮腫を起こすと、直前にある脳幹を圧迫したり、第四脳室を閉塞するため髄液の流れが滞り水頭症をきたし、急速に意識障害が進行することがあります。
以下に、脳の各部位が担う機能(表2)と、腫瘍が存在する場所に応じた局所症状の例(表3)を示します。

