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神経膠腫(グリオーマ)

神経膠腫(グリオーマ)について

1.脳、神経膠細胞について

脳は、頭蓋骨ずがいこつとその内側をおおう髄膜ずいまくによって守られ、脳の周りを流れている脳脊髄液のうせきずいえきの中に浮かんでいます(図1)。

図1 頭蓋骨内の構造
図1 頭蓋骨内の構造

脳は大脳、小脳、脳幹のうかんに分けることができ、脊髄せきずいを加えて中枢神経系と呼ばれます。

大脳はさらに、前頭葉ぜんとうよう側頭葉そくとうよう頭頂葉とうちょうよう後頭葉こうとうようなどからなり(図2)、それぞれが異なる働きをしています。

図2 脳の表面図と断面図
図2 脳の表面図と断面図

脳には、情報の伝達と処理を行う神経細胞(ニューロン)が1,000億個以上あり、それらを支える神経しんけい膠細胞こうさいぼう(グリア細胞)が1兆個以上存在します。神経膠細胞には、星細胞せいさいぼう(アストロサイト)や乏突起膠細胞ぼうとっきこうさいぼう(オリゴデンドロサイト)、小膠細胞しょうこうさいぼう(ミクログリア)、脳室のうしつ上衣じょうい細胞さいぼうがあり、これらが脳・脊髄を構成しています(図3)。神経膠細胞には、神経細胞の位置を固定して栄養を送る役割に加え、神経伝達物質を処理する役割、血液中の物質が脳組織へ移動するのを制限する仕組み(血液脳関門)を作って有害物質が脳内に侵入することを防ぐ役割などがあります。

図3 脳を構成する細胞
図3 脳を構成する細胞

脳内では、神経細胞から延びる神経線維しんけいせんいが束になって走行しています。神経線維は、最終的に目・耳・鼻などの感覚器や、内臓、筋肉などとつながり、体のいろいろな部位との情報伝達に重要な役割を果たしています。

2.神経膠腫(グリオーマ)とは

神経膠腫しんけいこうしゅは、悪性の脳腫瘍の1つです。

脳腫瘍は、脳そのもの(脳実質:大脳、小脳、脳幹)から発生するものと、それ以外の場所(髄膜、下垂体、脳神経など)から発生するものがあります。

脳・脊髄を構成する神経細胞や神経膠細胞は、神経上皮細胞という、まだ役割が定まらない(分化度の低い)、細胞から生まれます。この神経上皮細胞から発生する脳腫瘍を神経上皮性腫瘍といいます。神経上皮性腫瘍はさらに細かく分類され、その代表的なものが神経膠細胞に由来する神経膠腫しんけいこうしゅ(膠腫)で、グリオーマともいいます(図4)。

図4 脳腫瘍の分類と神経膠腫
図4 脳腫瘍の分類と神経膠腫
Central Nervous System Tumours:WHO Classification of Tumours,5th Edition,Vol.6,WHO Classification of Tumours Editorial Board.Copyright(2021).より作成

神経膠腫の中で最も多いのは、成人型びまん性膠腫(星細胞腫せいさいぼうしゅ乏突起膠腫ぼうとっきこうしゅ膠芽腫こうがしゅ)です。脳内部の脳脊髄液に満たされた空間(脳室)の壁を形成する脳室上衣細胞に由来する腫瘍が上衣系腫瘍で、上衣腫じょういしゅなどがあります。正常組織との境界が明らかな限局性星細胞系腫瘍には、小児の小脳や視神経に生じる毛様細胞性もうようさいぼうせい星細胞腫せいさいぼうしゅがあり、グリア神経細胞系腫瘍には神経節膠腫しんけいせつこうしゅがあります。小児型びまん性高悪性度膠腫には、小児に多くみられる脳幹神経膠腫(びまん性正中膠腫 H3.K27変異)などがあります。

また、神経上皮性腫瘍には、小児腫瘍を代表する悪性脳腫瘍である胎児性腫瘍(髄芽腫など)などもあります。

さらに、脳腫瘍には、神経上皮性腫瘍のほかに、中枢神経系悪性リンパ腫や小児に多い胚細胞腫瘍などの悪性脳腫瘍、髄膜腫ずいまくしゅ神経鞘腫しんけいしょうしゅなどの良性脳腫瘍があり、細かく分けると100種類以上になります。

脳腫瘍の種類や治療の概要などについては、以下の関連情報をご参照ください。

3.症状

神経膠腫が大きくなると、腫瘍の周りには血流の変化や炎症などにより脳浮腫のうふしゅという脳のむくみが生じます。腫瘍や脳浮腫によって脳の機能が影響を受けることで、さまざまな症状が起こります。

脳腫瘍や脳浮腫による症状は、頭蓋骨内部の圧力が高まるために起こる頭蓋内圧ずがいないあつ亢進症状こうしんしょうじょうと、腫瘍ができた場所の脳の機能が障害されて起こる局所症状(巣症状そうしょうじょう)に分けられます。以下に示すような症状がある場合は、軽い症状のときでもすぐに脳神経外科や脳神経内科(神経内科)を受診するようにしてください。

神経膠腫を含む脳腫瘍自体はまれな病気ですが、感じたことのない違和感や症状に気付いたときには、速やかに受診しましょう。

1)頭蓋内圧亢進症状

脳は頭蓋骨に囲まれた閉鎖空間にあるため、腫瘍ができると頭蓋の中の圧力が高くなります。これによってあらわれる頭痛、吐き気、意識障害などの症状を頭蓋内圧亢進症状といいます。人間の頭蓋内圧は睡眠中にやや高くなることから、朝起きたときや昼寝のあとに症状が強く出ることがあります。

2)局所症状(巣症状)

運動や感覚、思考や言語などのさまざまな機能は、脳内で担当する部位が決まっています。脳の中に腫瘍ができると、腫瘍や脳浮腫の影響を受けてその部位の機能が障害され、局所症状としてあらわれます。表1に、腫瘍のできた場所ごとに主な機能と局所症状の例を示します。

表1 脳の機能と局所症状の例
腫瘍の場所 主な機能 局所症状の例
前頭葉 思考、感情、判断力、集中力、
言語を発する役目、
運動をつかさどる
腫瘍とは反対側の運動麻痺まひ(片麻痺)、
言葉を理解できるがうまく話せなくなる(運動性失語)、
性格変化・自発性低下、
年月日や場所が分からなくなる(認知機能の低下)、
集中力低下、記憶力低下、てんかん発作(けいれん)
側頭葉 言語の理解、記憶、視覚や
聴覚などの認知機能
言葉を聞いて理解することが難しくなる、
優位半球が障害されると発話は流暢にできるが
言葉の言い誤りが多くなることがある(感覚性失語)、
腫瘍とは反対側の視野障害(同名半盲)、
てんかん発作(意識消失・変な臭いを感じる幻嗅げんきゅう
頭頂葉 脳に入力された情報を統合して
分析をする
高次機能、顔手足の感覚
腫瘍とは反対側のしびれ・感覚障害、
読み書きができなくなる(失読・失書)、
計算ができなくなる(失算)、
左右を判断できなくなる、
指の名前(親指・人差し指・中指など)が言えなくなる、
左右片方の刺激を認識できなくなる(半側空間失認)
後頭葉 視覚 腫瘍とは反対側の視野が欠ける(同名半盲)
視床下部 意識、体温、食欲、睡眠、
体の水分量や塩分量の調節
意識障害、
尿の濃度がうまく調節できなくなり
尿の量が増える(尿崩症)、
肥満、体温調節の異常、
視交叉しこうさ・視神経の圧迫による視力・視野障害
視床 感覚、痛覚、視覚、聴覚、
味覚などの情報を中継して大脳に送る
意識障害、運動麻痺(片麻痺)、
手足のしびれや感覚の異常
脳幹部 意識、呼吸、循環などを調節して
生命を維持する
全身の感覚や運動をつかさどる
運動(顔・四肢)麻痺や感覚障害、
物が二重に見える(複視)、
顔面神経麻痺、顔面や手足の感覚障害、
食べた物が飲み込みにくくなる(嚥下えんげ障害)、
聴力障害
小脳 体のバランスをとる
運動をコントロールする
細かな動きができない協調運動障害(運動失調)、
ふらつきやめまい、歩行障害
脳神経 脳から出る末梢神経で左右12対の
脳神経がさまざまな働きをする:
きゅう神経・視神経・動眼神経・
滑車神経・三叉さんさ神経・外転神経・
顔面神経・聴神経・舌咽ぜついん神経・
迷走神経・副神経・舌下神経
視力・視野障害(視神経の障害)、
目の動きが悪くなり物が二重に見える
(動眼神経や外転神経の障害)、
顔のしびれや感覚低下(三叉神経の障害)、
聴力低下・耳鳴り・めまい(聴神経の障害)、
嚥下障害(舌咽神経の障害)
脊髄 脳から続く神経線維の束で、
全身の感覚を脳に伝え、脳からの
指令を手足や体の各部分に伝える
手足のしびれや麻痺
※優位半球:人の脳を大きく左右に分けたとき、話す、理解するなどの言語中枢がある方の半球。左右どちらが優位半球かは人によって異なる。多くの人は左が優位半球。

前頭葉と頭頂葉の間には中心溝ちゅうしんこうという大きな溝があります。その溝の前頭葉側(中心前回)には運動野(体を動かす機能を受けもつ部分)があり、頭頂葉側(中心後回)には感覚野(刺激を感じる機能を受けもつ部分)があります。顔、手、足の運動や感覚は、脳の外側から中心側(大脳縦列:左右の大脳半球の間の溝)に向かって整列しています(図5)。したがって、腫瘍が脳の内側(左右大脳半球の間)にある場合には麻痺や感覚障害が足に生じ、外側(側頭葉側)にある場合には、麻痺や感覚障害が手に生じます。

図5 脳の左側の機能
図5 脳の左側の機能

人の脳は大脳半球と呼ばれる左右の脳に分かれます。左右大脳半球のうち、ブローカ野(話す)、ウェルニッケ野(言葉を理解する)などの言語の中枢がある側の半球を優位半球と呼び、右利きの人のほとんどは左大脳が優位半球です。左利きでは7割の人は左大脳が優位半球で、3割の人は右大脳が優位半球です。

腫瘍によって優位半球(多くは左大脳)の機能が障害されると、言葉による意思の疎通が難しくなる可能性が出てきます。一方、非優位半球(多くは右大脳)の腫瘍ではほとんど症状があらわれないこともあります。

一般に、優位半球(多くは左大脳)に腫瘍ができてその機能が障害されると、多くの人は利き手側の手足(多くは右手足)が不自由になり、言語の障害も起きるため、非優位半球(多くは右大脳)に腫瘍ができた場合よりもはるかに日常生活が困難になります。また、手術を行う際も優位半球と非優位半球ではリスクの大きさが異なります。

後頭葉は視覚情報の認識に関わります。光は網膜もうまくから視神経に伝えられ、視神経は頭蓋内の視交叉しこうさで交わって視覚情報が伝達されます。具体的には、視界の右側の情報は左後頭葉へ、視界の左側の情報は右後頭葉へ、それぞれ視放線しほうせんを通って伝えられます。そのため、脳腫瘍により視交叉の前で左視神経の機能が障害されると左の視力が落ちます。一方、視交叉よりうしろの部分で左の視放線や左後頭葉の機能が障害されると、左右の視力は保たれますが、右側の視界が見えなくなる半盲はんもうという状態になります。また下垂体かすいたい腫瘍などによって視交叉が圧迫されると、耳側性半盲(視野の外側が見えなくなる状態)が起こります。

小脳は平衡感覚をとる、姿勢を保持する、体の動きを調節するなどの機能があり、運動学習(自転車にのる、ピアノを弾くなど、運動技能を習得すること)に関わっています。小脳は大脳と異なり、機能が障害された側と同じ側に症状があらわれます(同側性:右小脳の機能が障害されると右側に運動障害が起こる)。小脳に腫瘍ができると、ふらつきやめまいなどの症状がみられます。また、小脳浮腫を起こすと、脳幹を圧迫したり、第四脳室(脳幹と小脳に挟まれた空間)を詰まらせたりすることで、髄液の流れが滞って水頭症すいとうしょうになり、急に意識障害などの症状が出ることがあります。

更新・確認日:2023年10月20日 [ 履歴 ]
履歴
2023年10月20日 「脳腫瘍診療ガイドライン 1.成人脳腫瘍編・2.小児脳腫瘍編 2019年版」より内容を更新しました。
2019年05月13日 関連情報として「脳腫瘍(成人)」へのリンクを追加しました。
2018年07月27日 「脳腫瘍診療ガイドライン1 2016年版」「臨床・病理 脳腫瘍取扱い規約 第4版,2018年」より、内容の更新をしました。4タブ形式に変更しました。
2017年08月21日 掲載準備中として、公開を中止しました。
2006年10月01日 内容を更新しました。
1997年08月23日 掲載しました。
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