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腎臓がん(腎細胞がん)

腎臓がん(腎細胞がん) 治療

腎細胞がんの治療には、手術(外科治療)、凍結療法、薬物療法、放射線治療、監視療法などがあります。できる限り手術でがんを取り除きますが、手術が難しい場合は薬物療法や放射線治療などを行います。また、診断されたときから、がんに伴う心と体のつらさなどを和らげるための緩和ケア/支持療法をうけることができます。

1.ステージ(病期)と治療の選択

治療は、がんの進行の程度を示すステージ(病期)やがんの性質、体の状態などに基づいて検討します。腎細胞がんの治療を選択する際には、次のことを調べます。

1)ステージ(病期)

ステージ(病期)は、ローマ数字を使って表記することが一般的で、腎細胞がんではⅠ期〜Ⅳ期に分けられ、進行するにつれて数字が大きくなります。なお、ステージのことを進行度ということもあります。

ステージは、次のTNMの3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決まります(表1、表2)。
Tカテゴリー:原発巣の大きさや広がり
Nカテゴリー:領域リンパ節への転移の有無
Mカテゴリー:がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移の有無

表1 腎細胞がんの進展度(TNM分類)
表1 腎細胞がんの進展度(TNM分類)
日本泌尿器科学会,日本病理学会,日本医学放射線学会編.泌尿器科・病理・放射線科 腎癌取扱い規約 第5版.p36-37.2020年,メディカルレビュー社.より改変
表2 腎細胞がんの病期分類
表2 腎細胞がんの病期分類

2)がんの性質(組織型)

腎細胞がんの性質は、組織型によって異なります。組織型とは、がんの種類のことです。組織型は、顕微鏡下でのがん組織の見え方によって分類され、同じがんの中に、複数の組織型が混在していることもあります。

腎細胞がんは、最も多い淡明細胞型たんめいさいぼうがた腎細胞がん(7~8割を占める)のほか、乳頭状腎細胞がんなど、合わせて14種類の組織型に分類されます。

3)腎細胞がんのリスク分類

リスク分類は、予後予測分類ともいわれます。予後とは、病気や治療などの、医学的な経過についての見通しのことです。転移のある腎細胞がんには、予後を予測する判断材料として、予後と関連する複数の項目(予後予測因子)があります。リスク分類(予後予測分類)は、薬物療法を選択する際にも用いられています。

(1)MSKCC分類

MSKCC分類は、予後を予測するための分類方法です。転移のある腎細胞がんの予後を予測する指標として用いられています。

表3に示す5つの項目が予後と関連することが知られており、これらの項目を何個満たしているかで、3つのリスクグループ(低リスク・中リスク・高リスク)のどこに当てはまるかが決まります。

表3 転移がある腎細胞がんの予後予測分類(MSKCC分類)
表3 転移性の腎細胞がんの予後予測分類(MSKCC分類)

(2)IMDC分類

IMDC分類は、転移のある腎細胞がんの予後を予測するための分類方法です。分子標的薬による治療の予後を予測する指標として用いられています。

表4に示す6つの項目が予後と関連することが知られており、これらの項目を何個満たしているかで、3つのリスクグループ(低リスク・中リスク・高リスク)のどこに当てはまるかが決まります。

表4 転移がある腎細胞がんの予後予測分類(IMDC分類)
表4 転移性腎がんの予後予測分類(IMDC分類)

4)治療の選択

治療は、ステージや組織型、リスク分類に応じた標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、担当医と話し合って決めていきます。

図2および図3は、腎細胞がんの標準治療を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。

なお、担当医から複数の治療法を提案されることもあります。治療を選ぶにあたって分からないことは、まず担当医に確認することが大切です。治療を選ぶにあたっての悩みや困りごとは、がん相談支援センターで相談することもできます。

図2 腎細胞がんの治療の選択(Ⅰ期・Ⅱ期・Ⅲ期)
図2 腎細胞がんの治療の選択(Ⅰ期・Ⅱ期・Ⅲ期)
図3 腎細胞がんの治療の選択(Ⅳ期)
図3 腎細胞がんの治療の選択(Ⅳ期)

Ⅰ期・Ⅱ期・Ⅲ期の腎細胞がんに対する標準治療は手術(外科治療)ですが、がんが小さい場合は、体への負担が手術よりも少ない凍結療法が選択されることも増えてきています。また、Ⅳ期でがんが広がっていたり、転移が見られたりする場合に、薬物療法や放射線治療を行うこともあります。

妊娠や出産について

がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊孕性にんようせいを温存すること(妊娠するための力を保つこと)が可能かどうかを、治療開始前に担当医に相談してみましょう。

2.手術(外科治療)

手術は、がんや、がんのある臓器を切り取る(切除する)治療法です。一般的には、腎摘除術が標準的な術式です。しかし、近年の画像診断技術の向上などに伴って、がんがまだ小さいうちに見つかることが多くなってきたため、可能であれば腎部分切除術を行うことも増えてきました。

手術の術式としては、おなかを切開して行う「開腹手術」や、おなかに開けた小さな穴から腹腔鏡を入れて行う「腹腔鏡手術(後腹膜鏡手術)」があります。腹腔鏡手術を行う場合には、手術用ロボットを遠隔操作して行う「ロボット支援手術」を検討することもあります。手術の術式は、がんや体の状態などによって決まります。

1)腎部分切除術(腎機能温存手術)

がんを取り除くために、がんが生じている部位の腎臓を部分的に切除する術式です。残った腎臓の機能を温存できるという利点があり、長期的な視点で見た時に、腎機能の低下とそれに伴う合併症への影響を小さくできます。主に4cm以下の小さながんの場合に選択されますが、がんの位置などによっては選択できない場合があります。

2)腎摘除術(根治的腎摘除術)

がんのある側の腎臓をすべて取り除く術式です。腎部分切除術の実施が適切ではない場合に選択されます。腎臓の頭側にある副腎ふくじんを一緒に切除するかどうかは、がんの位置や副腎への転移の有無をふまえて決められます。がんの状況によっては、腎臓だけでなく、周囲の臓器や、血管内にあるがんを切除(静脈内腫瘍塞栓摘除そくせんてきじょ術)することもあります。

片側の腎臓を摘出して腎臓が1つになったとしても、残った腎臓が正常に働いていれば、通常は生活に支障を来すことはありません。

手術(外科治療)の合併症

腎部分切除術では、縫い合わせた部分から出血すること(後出血)や、尿が漏れること(尿漏)があります。出血があった場合には、経皮的に動脈塞栓術を行うか、開腹して再度縫い合わせます。尿漏については、カテーテルを留置してしばらく様子をみますが、止まらない場合には腎摘除術を検討します。

3.凍結療法

がんが小さい場合、がんとその周囲のみに対して治療を行うことがあります。体の外から特殊な針をがんに直接刺し、アルゴンガスで組織を凍らせてがん細胞を死滅させる凍結療法はその1つです。通常、超音波検査、CT検査、MRI検査を用いて確認しながら行います。高齢者や、重篤な合併症をもつ場合、手術を希望しない場合に選ばれることがあります。

4.薬物療法

薬物療法は、手術でがんを切除することが難しい場合に行います。手術の前に、治療の効果を高める目的で薬物療法を行うこともあります。腎細胞がんの薬物療法では、主に、分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬を用います。

分子標的薬

分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質や、栄養を運ぶ血管、がんを攻撃する免疫に関わるタンパク質などを標的にしてがんを攻撃する薬です。

免疫チェックポイント阻害薬

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ薬です。

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使えないときには、免疫細胞が作り出すタンパク質の一種であるサイトカインを利用したサイトカイン療法を行うこともあります。

最初に行う薬物療法(一次治療)で使用する薬の種類は、組織型とリスク分類(予後予測分類)に基づいて決めます。組織型が淡明細胞型の腎細胞がんの一次治療では、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬を組み合わせて治療を行うこともあります。二次治療以降に用いる薬は、がんや体の状態、前の治療で使用した薬の種類に基づいて選択します(表5)。

また、分子標的薬は、手術の前に薬剤で小さながんを消滅させたり、がんを小さくして手術で切除する範囲を小さくしたりすることを目的に使用することもあります。

表5 薬物療法の選択
表5 薬物療法の選択

薬物療法の副作用

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は、薬ごとにさまざまな副作用があらわれます。自分が受ける薬物療法について、いつどんな副作用が起こりやすいか、どう対応したらよいか、特に気をつけるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医に確認しておきましょう。また、サイトカイン療法の副作用は、発熱やだるさ、食欲不振、悪心・嘔吐おうと、頭痛、脱毛、白血球減少などが報告されています。

5.免疫療法

免疫療法は、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。2023年6月現在、免疫療法の中で、腎細胞がんの治療に効果があると証明されている方法は、免疫チェックポイント阻害薬を使用する治療法とサイトカイン療法のみです。その他の免疫療法で、腎細胞がんに対して効果が証明されたものはありません。

6.放射線治療

放射線治療は、患部に放射線をあてることにより、がん細胞を死滅させる治療法です。脳や骨に転移がある場合に、がんの進行を抑えたり、痛みを和らげたりするために行うことがあります。

腎細胞がんの原発巣(腎臓にできたがん)そのものに対しては、根治的な治療を目的として放射線治療を行うことはあまりありません。

7.監視療法

手術などの治療をせず、CT検査、MRI検査、超音波検査の画像検査を定期的に行いながら、がんや体の状態などの経過を観察することを監視療法といいます。がんが小さく、腎臓内にとどまっているような、いわゆる早期のがんの場合に選択することがあります。特に、高齢であったり、他の病気にかかっていたりするために手術に危険が伴う場合には、選択肢の1つとなります。

8.緩和ケア/支持療法

がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。

緩和ケア/支持療法は、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげたり、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くしたりするために行われる予防、治療およびケアのことです。

決して終末期だけのものではなく、がんと診断されたときから始まります。つらさを感じるときには、がんの治療とともに、いつでも受けることができます。本人にしか分からないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。

「さまざまな症状への対応」には、症状別に、がんそのものやがんの治療に伴って起こることがある症状や原因の説明、ご本人や周りの人ができる工夫などを紹介しているページへのリンクを掲載しています。
体や心のつらさ、緩和ケア/支持療法に関する疑問や質問などは、がん相談支援センターにも相談できます。

9.リハビリテーション

リハビリテーションは、がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力を維持・向上させるために行われます。また、緩和ケアの一環として、心と体のさまざまなつらさに対処する目的でも行われます。

一般的に、治療中や治療終了後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などをリハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師に確認しましょう。

10.再発した場合の治療

再発とは、治療によって、見かけ上なくなったことが確認されたがんが、再びあらわれることです。原発巣(最初にがんができた臓器)のあった場所やその近くに、がんが再びあらわれることだけでなく、別の臓器で「転移」として見つかることも含めて再発といいます。

がんが腎臓にとどまっていて、根治的に腎摘除を行った場合でも、その後、20〜30%の人に再発が見られるとされています。しかし、どのような場合に再発しやすいかを知る方法は確立していません。

再発した場合の治療は、転移のある腎細胞がんに対する治療と同様に、薬物療法が中心です。再発したがんの状況によっては、がんを手術で取り除くことも治療の選択肢の1つとなる場合があります。

更新・確認日:2023年01月12日 [ 履歴 ]
履歴
2023年01月12日 「4.薬物療法」「10.再発した場合の治療」を一部更新しました。
2022年10月31日 「腎癌診療ガイドライン2017年版 2020年アップデート内容」「泌尿器科・病理・放射線科 腎癌取扱い規約 第5版」より、内容を更新しました。
2020年02月27日 「6.薬物療法」以降の項目の順序を変更し、「10.生存率」の参照先を「がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計」としました。
2017年12月25日 「腎癌診療ガイドライン2017年版」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。
2013年11月22日 タブ形式への移行と内容の更新をしました。
2006年10月01日 更新しました。
1997年03月24日 掲載しました。
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