治療は、がんの進行の程度を示す病期(ステージ)やがん細胞の性質(組織型)、体の状態などから検討します。
1.病期と治療の選択
胚細胞腫瘍の治療を選択する際には、次のことを調べます。
1)病期(ステージ)
胚細胞腫瘍の病期はⅠ~Ⅳ期に分けられます(表1)。大まかにいうと「Ⅰ期」は臓器などの中にとどまっていた腫瘍が完全に切除され、リンパ節に転移がみられなかったもの、「Ⅱ期」は、臓器を包む膜に腫瘍が広がっているか、あるいは小さなリンパ節転移があったもの、「Ⅲ期」は、目で見えるリンパ節転移があったもの、あるいは腫瘍の取り残しがあり、腹水または胸水の中に腫瘍細胞が確認されたもの、「Ⅳ期」は肺や肝臓など、もとの腫瘍から離れた場所に転移があったものです。
また、卵巣胚細胞腫瘍については、国際産科婦人科連合(FIGO)の病期分類が用いられています(表2)。
2)がん細胞の性質(組織型)
胚細胞腫瘍の組織型分類を以下に示します(表3)。もっとも頻度が高いのは奇形腫で、細胞の分化(成熟)の程度により成熟型と未熟型に分けられますが、小児ではいずれも良性として扱われます。成熟型は1つの腫瘍の中に神経系成分、脂肪成分、骨や歯の成分、粘膜成分などいろいろな組織成分が集まっているのが特徴です。未熟型では未熟な分化段階の組織が含まれます。
悪性の胚細胞腫瘍には、胎児性がん[精巣]、多胎芽腫、卵黄のう腫瘍、絨毛がんや、未分化胚細胞腫[卵巣]/胚細胞腫(ジャーミノーマ)[中枢神経]/セミノーマ[精巣、縦隔]などがあります。また良性の奇形腫が、時間の経過により悪性化したり、悪性の形で再発したりすることもあります。
3)治療の選択
治療法は、腫瘍の性質や体の状態などから検討します。患者やご家族の希望なども含めて検討し、担当医と共に決めていきます。
図1は、胚細胞腫瘍の治療について、一般的な流れを示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
*一期的切除:1回の手術で腫瘍をすべて切除すること(全摘ができれば一期的切除となる)
まずは検査結果から良性の奇形腫か、悪性かを判断します。良性の場合は、手術(外科治療)のみで治療は終了です。悪性の場合は、まず手術が検討されます。切除した組織を顕微鏡で診断して、すべて取り切れていた場合でも、手術の後に薬物療法の1つである化学療法を行うことが多いです。すべて取り切れなかった場合は、化学療法を行い、再度手術を行うこともあります。また、完全切除が困難な場合や遠隔転移のある場合には術前化学療法を行うこともあります。
再発時には化学療法を中心とした集学的治療を行います。
15歳からの青年期に発症した精巣腫瘍や卵巣胚細胞腫瘍は、成人の腫瘍の場合と同じ治療を行うことがあります。
2.手術(外科治療)
良性の胚細胞腫瘍に対しては、原則として手術による治療が⾏われます。
Ⅰ期の精巣胚細胞腫瘍は、摘出手術のみで化学療法は行わず、経過を観察します。
卵巣の胚細胞腫瘍は両側に発生することがあるため、可能であれば腫瘍のみを切除して卵巣を温存するようにします。完全摘除が困難と思われる場合は、化学療法で腫瘍を縮⼩させた後に⼿術を⾏います。
新生児の大きな仙尾部腫瘍では、腫瘍部分を流れている血液の量が多く、出血により難しい手術になることもあります。
尾骨に腫瘍が発生した場合は、尾骨の切除を行います。
後腹膜腫瘍では、腫瘍の大きさによって良性の場合でも腎臓など周囲組織を⼀緒に切除しなければならないことがあります(15~50%)。
縦隔の腫瘍では、まれに腫瘍が気管を圧迫して呼吸困難となる場合があり、緊急に胸部を開けて圧迫を取り除く手術が必要となることがあります。
3.薬物療法
薬物療法の1つである化学療法は、細胞障害性抗がん薬を用いて、がん細胞の増殖を抑える治療法です。手術の後に病期に応じて、化学療法が行われます。ただし、成熟奇形腫や未熟奇形腫のような良性腫瘍では化学療法は行われません。また、悪性胚細胞腫瘍でも精巣あるいは卵巣に発生したもので、かつ完全に切除できたⅠ期の腫瘍については、化学療法を行わずに経過をみます。
一方前述のように、初回の手術は腫瘍の一部を採るだけの生検にとどめ、化学療法で腫瘍を縮小させた後に残った腫瘍の切除を行う場合もあります。Ⅱ~Ⅳ期の悪性胚細胞腫瘍および精巣、卵巣以外の部位にできたすべての病期の悪性胚細胞腫瘍に対しては、化学療法が必要です。ただし、卵巣腫瘍のうち性腺胚細胞腫瘍では、Ⅰ期であっても術後に化学療法を⾏います。
標準的な細胞障害性抗がん薬の組み合わせは、シスプラチン(あるいはカルボプラチン)とエトポシド、ブレオマイシンの3剤によるものです。放射線治療は原則として⾏われませんが、化学療法後に腫瘍が残っている場合には検討します。
化学療法による副作用
細胞障害性抗がん薬による合併症として、骨髄抑制(白血球など血球の減少)に伴う感染症、シスプラチンやカルボプラチンによる腎障害、聴力障害、ブレオマイシンによる肺障害、エトポシドによるアレルギー反応があります。また、細胞障害性抗がん薬のすべてに共通するものとして、二次がん(治療のための抗がん薬、放射線により生じるがん)、不妊があげられます。骨髄抑制以外は必ず生じるというものではありませんが、治療から時間が経過してから生じるものもあり、注意が必要です。
4.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、学校のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。
本人にしか分からないつらさもありますが、幼い子どもの場合、自分で症状を表現することが難しいこともあります。そのため、周りの人が本人の様子をよく観察したり、声に耳を傾けたりすることが大切です。気になることがあれば積極的に医療者へ伝えましょう。
5.再発した場合の治療
再発時には化学療法を中心とした集学的治療を行います。
片側の卵巣原発の場合に、反対側に再発したり、新生児期の良性仙尾部胚細胞腫瘍が悪性となって局所(最初のがんと同じ場所あるいはごく近く)や遠隔再発(最初のがんの発生場所から離れている器官または組織に転移)したりすることもあります。
仙尾部に再発した場合は、再手術と化学療法を行いますが、追加の放射線治療をする場合もあります。
また、未熟奇形腫などの腫瘍が化学療法後に良性の成熟奇形腫として増大し、胸腔内や腹腔内を占拠したりするGrowing teratoma症候群(GTS:growing teratoma syndrome)も知られています。
再発部位、組織型などによりそれぞれで状態が異なるため、病状に応じてその後の治療やケアについて決めていきます。