胚細胞腫瘍〈小児〉について
1.胚細胞腫瘍とは
胚細胞腫瘍は、胎生期(胎児の時)の原始生殖細胞(精子や卵子になる前の未成熟な細胞)から発生した腫瘍の総称です。精巣・卵巣といった性腺由来のものと、仙尾部(おしり)、後腹膜(胃や腸のある腹腔より背中側の場所)、前縦隔(胸骨と心臓の間の部分)、頸部、頭蓋内など性腺外由来のものに分けられます。頭蓋内では下垂体、視床下部、松果体の付近に多く発生します。
よく発症する年齢や頻度は生じる部位により異なります。精巣原発のものは生後6カ月から12カ月ころに発症することが多く、これに対して卵巣原発のものは乳児期から成人期まで広い年齢に発症します。いずれも良性であることが多いです。また、生後6カ月から12カ月ころは悪性である卵黄のう腫瘍も多くみられます。
性腺以外の場所でもっとも発生の頻度が高い部位は仙尾部で、新生児の腰に大きな腫瘍が飛び出したように見えますが、ほぼすべてが未熟成分を含む良性型です。ただし、生後6カ月以降では仙骨の前側に発生することが多く、悪性である可能性が非常に高い特徴があります。
まれにみられる頸部原発の腫瘍は、新生児期や出生前に診断されるものがほとんどです。また、後腹膜原発の腫瘍は胚細胞腫瘍全体の10%程度であり、乳児期以降の比較的高い年齢によく発症しますが、悪性である可能性は10%未満と高くはありません。前縦隔の腫瘍は胸腺原発であることが多く、学童期(小学校に就学している時)以降の高い年齢によく発症します。悪性腫瘍も少なからずみられます。
2.症状
腫瘍がどこから発生したかによりさまざまな症状があらわれます。
- ◆精巣:陰嚢腫大(陰嚢の一部がはれあがること)
- ◆卵巣:腹痛、腹部腫瘤(腹部のこぶ、固まり)
- ◆仙尾部:臀部の腫瘤
- ◆後腹膜:腹部腫瘤
ただし、腫瘤は外からは目立たないことも多く、症状がないケースもあります。
- ◆前縦隔:呼吸困難
- ◆頸部:呼吸困難
- ◆頭蓋内:ホルモンの異常、物が二重に見えるなど
胚細胞腫瘍〈小児〉 検査
胚細胞腫瘍が疑われた場合には、腫瘍マーカー検査を行います。病期の診断には画像検査を行い、がんかどうかについて正確な診断をするためには、病理検査を行います。
1.腫瘍マーカー検査
胚細胞腫瘍が疑われたら、まず腫瘍マーカーを調べます。腫瘍の種類によっては、腫瘍マーカーと呼ばれるその腫瘍特有の物質(タンパク質など)が作られ、それが血液など体液から検出されるためです。
腫瘍マーカーを調べることは、腫瘍の種類の判定に役立ちます。例えば、ヒト絨毛性ゴナドトロピンβ鎖(β-hCG)は絨毛がんで上昇し、アルファフェトプロテイン(AFP)は卵黄のう腫瘍で上昇します。また、腫瘍の成分として両者が混在することもあり、その場合は両方の腫瘍マーカーが上昇します。それに加えて、腫瘍マーカーは治療効果の評価にも役立ちます。
胚細胞腫瘍の組織型のうち胚細胞腫、未分化胚細胞腫およびセミノーマには特異的な腫瘍マーカーはありません。
2.画像検査
腫瘍の状態や遠隔転移があるかどうかを調べるために、超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィ、腫瘍シンチグラフィ(腫瘍に集まる性質をもった微量な放射線を出す薬剤を静脈から注射して腫瘍の性質を調べる検査)などを行います。それによってどのくらい病気が進行しているかを知ることができます。
3.病理検査
最終的には、腫瘍全体、もしくは腫瘍の⼀部を手術で取って顕微鏡で調べること(病理検査)によって診断が確定されます。
胚細胞腫瘍〈小児〉 治療
治療は、がんの進行の程度を示す病期(ステージ)やがん細胞の性質(組織型)、体の状態などから検討します。
1.病期と治療の選択
胚細胞腫瘍の治療を選択する際には、次のことを調べます。
1)病期(ステージ)
胚細胞腫瘍の病期はⅠ~Ⅳ期に分けられます(表1)。大まかにいうと「Ⅰ期」は臓器などの中にとどまっていた腫瘍が完全に切除され、リンパ節に転移がみられなかったもの、「Ⅱ期」は、臓器を包む膜に腫瘍が広がっているか、あるいは小さなリンパ節転移があったもの、「Ⅲ期」は、目で見えるリンパ節転移があったもの、あるいは腫瘍の取り残しがあり、腹水または胸水の中に腫瘍細胞が確認されたもの、「Ⅳ期」は肺や肝臓など、もとの腫瘍から離れた場所に転移があったものです。
また、卵巣胚細胞腫瘍については、国際産科婦人科連合(FIGO)の病期分類が用いられています(表2)。
2)がん細胞の性質(組織型)
胚細胞腫瘍の組織型分類を以下に示します(表3)。もっとも頻度が高いのは奇形腫で、細胞の分化(成熟)の程度により成熟型と未熟型に分けられますが、小児ではいずれも良性として扱われます。成熟型は1つの腫瘍の中に神経系成分、脂肪成分、骨や歯の成分、粘膜成分などいろいろな組織成分が集まっているのが特徴です。未熟型では未熟な分化段階の組織が含まれます。
悪性の胚細胞腫瘍には、胎児性がん[精巣]、多胎芽腫、卵黄のう腫瘍、絨毛がんや、未分化胚細胞腫[卵巣]/胚細胞腫(ジャーミノーマ)[中枢神経]/セミノーマ[精巣、縦隔]などがあります。また良性の奇形腫が、時間の経過により悪性化したり、悪性の形で再発したりすることもあります。
3)治療の選択
治療法は、腫瘍の性質や体の状態などから検討します。患者やご家族の希望なども含めて検討し、担当医と共に決めていきます。
図1は、胚細胞腫瘍の治療について、一般的な流れを示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
*一期的切除:1回の手術で腫瘍をすべて切除すること(全摘ができれば一期的切除となる)
まずは検査結果から良性の奇形腫か、悪性かを判断します。良性の場合は、手術(外科治療)のみで治療は終了です。悪性の場合は、まず手術が検討されます。切除した組織を顕微鏡で診断して、すべて取り切れていた場合でも、手術の後に薬物療法の1つである化学療法を行うことが多いです。すべて取り切れなかった場合は、化学療法を行い、再度手術を行うこともあります。また、完全切除が困難な場合や遠隔転移のある場合には術前化学療法を行うこともあります。
再発時には化学療法を中心とした集学的治療を行います。
15歳からの青年期に発症した精巣腫瘍や卵巣胚細胞腫瘍は、成人の腫瘍の場合と同じ治療を行うことがあります。
2.手術(外科治療)
良性の胚細胞腫瘍に対しては、原則として手術による治療が⾏われます。
Ⅰ期の精巣胚細胞腫瘍は、摘出手術のみで化学療法は行わず、経過を観察します。
卵巣の胚細胞腫瘍は両側に発生することがあるため、可能であれば腫瘍のみを切除して卵巣を温存するようにします。完全摘除が困難と思われる場合は、化学療法で腫瘍を縮⼩させた後に⼿術を⾏います。
新生児の大きな仙尾部腫瘍では、腫瘍部分を流れている血液の量が多く、出血により難しい手術になることもあります。
尾骨に腫瘍が発生した場合は、尾骨の切除を行います。
後腹膜腫瘍では、腫瘍の大きさによって良性の場合でも腎臓など周囲組織を⼀緒に切除しなければならないことがあります(15~50%)。
縦隔の腫瘍では、まれに腫瘍が気管を圧迫して呼吸困難となる場合があり、緊急に胸部を開けて圧迫を取り除く手術が必要となることがあります。
3.薬物療法
薬物療法の1つである化学療法は、細胞障害性抗がん薬を用いて、がん細胞の増殖を抑える治療法です。手術の後に病期に応じて、化学療法が行われます。ただし、成熟奇形腫や未熟奇形腫のような良性腫瘍では化学療法は行われません。また、悪性胚細胞腫瘍でも精巣あるいは卵巣に発生したもので、かつ完全に切除できたⅠ期の腫瘍については、化学療法を行わずに経過をみます。
一方前述のように、初回の手術は腫瘍の一部を採るだけの生検にとどめ、化学療法で腫瘍を縮小させた後に残った腫瘍の切除を行う場合もあります。Ⅱ~Ⅳ期の悪性胚細胞腫瘍および精巣、卵巣以外の部位にできたすべての病期の悪性胚細胞腫瘍に対しては、化学療法が必要です。ただし、卵巣腫瘍のうち性腺胚細胞腫瘍では、Ⅰ期であっても術後に化学療法を⾏います。
標準的な細胞障害性抗がん薬の組み合わせは、シスプラチン(あるいはカルボプラチン)とエトポシド、ブレオマイシンの3剤によるものです。放射線治療は原則として⾏われませんが、化学療法後に腫瘍が残っている場合には検討します。
化学療法による副作用
細胞障害性抗がん薬による合併症として、骨髄抑制(白血球など血球の減少)に伴う感染症、シスプラチンやカルボプラチンによる腎障害、聴力障害、ブレオマイシンによる肺障害、エトポシドによるアレルギー反応があります。また、細胞障害性抗がん薬のすべてに共通するものとして、二次がん(治療のための抗がん薬、放射線により生じるがん)、不妊があげられます。骨髄抑制以外は必ず生じるというものではありませんが、治療から時間が経過してから生じるものもあり、注意が必要です。
4.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、学校のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。
本人にしか分からないつらさもありますが、幼い子どもの場合、自分で症状を表現することが難しいこともあります。そのため、周りの人が本人の様子をよく観察したり、声に耳を傾けたりすることが大切です。気になることがあれば積極的に医療者へ伝えましょう。
5.再発した場合の治療
再発時には化学療法を中心とした集学的治療を行います。
片側の卵巣原発の場合に、反対側に再発したり、新生児期の良性仙尾部胚細胞腫瘍が悪性となって局所(最初のがんと同じ場所あるいはごく近く)や遠隔再発(最初のがんの発生場所から離れている器官または組織に転移)したりすることもあります。
仙尾部に再発した場合は、再手術と化学療法を行いますが、追加の放射線治療をする場合もあります。
また、未熟奇形腫などの腫瘍が化学療法後に良性の成熟奇形腫として増大し、胸腔内や腹腔内を占拠したりするGrowing teratoma症候群(GTS:growing teratoma syndrome)も知られています。
再発部位、組織型などによりそれぞれで状態が異なるため、病状に応じてその後の治療やケアについて決めていきます。
胚細胞腫瘍〈小児〉 療養
がんの子どもの心や体のケア、家族へのケア、周りの方ができること、制度やサービス、入院治療後の生活、長期フォローアップなどの情報を掲載しています。併せてご活用ください。
1.入院治療中の療養
子どもにとっての入院生活は、検査や治療に向き合う療養生活に加え、発達を促すための遊びや学びの場でもあります。医師、看護師、保育士、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)、薬剤師、管理栄養士、理学療法士やソーシャルワーカー、各専門チーム、院内学級の教員などが連携し、多方面から患者とご家族を支援していきます。また、きょうだいがいる場合には、保護者が患者に付き添う時間がどうしても多くなるため、きょうだいの精神的なサポートも重要になります。入院中のさまざまな不安が軽減できるよう、抱え込まずに、多方面と効果的にコミュニケーションを取ることが大切です。
医療費のことも含めさまざまな支援制度が整っています。「どこに相談したらいいのか分からない」というときには、まずは「がん相談支援センター」に相談することから始めましょう。また、各医療機関の相談窓口、ソーシャルワーカー、各自治体の相談窓口に尋ねてみることもできます。
2.日常生活について
入院治療後に退院して間もなくは、入院生活と治療の影響により体力や筋力が低下しているので、あせらずゆっくりと日常生活に慣れていくことが大切です。
また、経過観察中は免疫力が回復していないこともあるため、近くでみずぼうそうや、はしかなどの特別な感染症が流行した場合は、対応について担当医にご相談ください。食欲が低下して食事内容が偏る場合がありますので、栄養のバランスを考慮した食事を心がけるようにしましょう。
就園・就学や復学については、子どもの状態や受け入れ側の態勢によって状況が異なります。担当医やソーシャルワーカーと、時期や今後のスケジュール、さらに、活用できる社会的サポートについてよく話し合いながら進めていくことが大切です。学校生活では子どもの様子をみながら、担任の先生や養護教諭などと相談し、できることから徐々に慣らしていきましょう。
日常生活を送る上での特別な注意はありません。紫外線による健康影響が懸念される過度の日焼けや疲れが残る強度の運動は避ける必要がありますが、できるだけ普段の生活リズムに沿った日常生活を送りましょう。
3.経過観察
手術後の状態や、化学療法後の晩期合併症の有無、また、再発の有無を調べる診察のために定期的な通院が必要です。また、手術を行った臓器に特有のフォローも必要となります。例えば、性腺であれば二次性徴(思春期になってあらわれる、性器以外の体の各部分にみられる男女の特徴)を含めた内分泌の問題、卵巣であれば、生理(月経)の発来がどうかなどです。
胚細胞腫瘍は、比較的治りやすいとされている腫瘍ですが、再発することもあります。再発は、手術後3年以内の場合が多いため、特に3年間はしっかりと定期的な検査を受ける必要があります。さらに、晩期合併症にも十分な経過観察が必要なことから、一般的には少なくとも5年以上のフォローアップが必要です。
4.晩期合併症/長期フォローアップ
晩期合併症は治療後しばらくしてから起こる問題のことです。疾患そのものの影響よりも、化学療法、放射線治療、手術、輸血などの治療が原因となっていることが多く、本人や家族が、晩期合併症について将来どのようなことが起こる可能性があるのかを知っておくことはとても大切です。
どのような晩期合併症が出やすいかは、病気の種類、受けた治療、その年齢により異なります。その程度も軽いものから重いものまでいろいろあり、時期についても数年後から数十年後に発⽣するなどさまざまです。
例えば、便秘、排便および尿失禁、手術後のケロイドなどの美容上の問題や精神的な問題も発生することがあります。
細胞障害性抗がん薬(化学療法)による晩期合併症としては、腎障害、聴力障害(特に高音域の聴力低下)、肺線維症(酸素の吸収障害)、ホルモンの分泌障害、不妊、二次がんがあげられます。
腎障害、聴力障害についてはある程度生じることは避けられませんが、同じ投与量でも程度には大きな個人差があります。また、ブレオマイシンによる肺線維症については障害が生じにくい範囲に投与量が抑えられているため、肺障害が生じる可能性は低いと考えられます。不妊についてはどの程度の割合で発生するか明らかになっていないため、今後の検討課題です。晩期合併症に関しては、これらの障害についての定期的なチェックが必要です。
なお、晩期合併症の1つである妊孕性(妊娠するための力)の低下については、近年、卵子や精子、受精卵を凍結保存する「妊孕性温存治療」という選択肢も加わってきました。妊孕性温存治療ができるかどうかについて、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
胚細胞腫瘍〈小児〉 臨床試験
より良い標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。
現在行われている標準治療は、より多くの人により良い治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。
胚細胞腫瘍〈小児〉の臨床試験を探す
国内で行われている胚細胞腫瘍〈小児〉の臨床試験が検索できます。
がんの臨床試験を探す チャットで検索
※入力ボックスに「胚細胞腫瘍」と入れて検索を始めてください。チャット形式で検索することができます。
がんの臨床試験を探す カテゴリで検索 小児の固形がん
※国内で行われている小児の固形がんの臨床試験の一覧が出ます。
- 臨床試験への参加を検討したい場合には、今おかかりの担当医にご相談ください。
- がんの種類によっては、臨床試験が見つからないこともあります。また、見つかったとしても、必ず参加できるとは限りません。
胚細胞腫瘍〈小児〉 患者数(がん統計)
1.患者数
小児がんの罹患率に関する情報です。
2.生存率
小児がんの生存率に関する情報です。
胚細胞腫瘍〈小児〉 関連リンク・参考資料
1.胚細胞腫瘍〈小児〉の相談先・病院を探す
2.参考資料
- 日本小児血液・がん学会編.小児がん診療ガイドライン 2016年版.2016年,金原出版.
- 日本小児血液・がん学会編.小児血液・腫瘍学 改訂第2版.2022年,診断と治療社.
- 日本病理学会小児腫瘍組織分類委員会編.小児腫瘍組織カラーアトラス第7巻 胚細胞腫瘍およびその他の臓器特異的希少腫瘍.2017年,金原出版.
- JCCG長期フォローアップ委員会長期フォローアップガイドライン作成ワーキンググループ編.小児がん治療後の長期フォローアップガイド.2021年,クリニコ出版.
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