更新・確認日:2019年07月24日 [
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2019年07月24日 |
用語集へのリンクを追加しました。 |
2017年08月14日 |
6.病型別の治療法に関連情報「急性骨髄性白血病 化学療法(シタラビン大量療法)基本パス」を掲載しました。 |
2015年05月20日 |
タブ形式に変更しました。「造血器腫瘍診療ガイドライン 2013年版」「造血器腫瘍取扱い規約2010年3月(第1版)」より内容を更新しました。 |
2006年10月01日 |
掲載しました。 |
1.化学療法(抗がん剤治療)
中心となる治療法は化学療法(抗がん剤治療)で、大きく2つの過程で行われます。初期治療として、抗がん剤をいくつか併用して行う、
寛解導入療法(かんかいどうにゅうりょうほう)と、その後の
完全寛解を維持し、白血病細胞をゼロに近づけるための
寛解後療法(かんかいごりょうほう)です。病状によっては、維持療法を行う場合もあります。
病型や病態によっては、脳や
脊髄(せきずい)に白血病細胞が
浸潤(しんじゅん)することがあります。脳や脊髄の中枢神経には、点滴や内服による投与では抗がん剤が届きにくいため、背中から細い針や管(くだ)を挿入して中枢神経系に直接抗がん剤を投与する「髄腔内注射(ずいくうないちゅうしゃ)」を行います。
【副作用と対策について】
多くの場合、大量の抗がん剤を投与するため、開始当日から治療後数カ月にわたり、さまざまな副作用が起こりますが、予測される副作用に対して、可能な限り対策を立てて治療を行います。あらかじめ予想される状態について知っておいたり予防や準備をしておくと、落ち着いて対応でき、実際に副作用が起きたときにも早く適切に対処できるようになります。
治療前は、白血病細胞がふえている一方で、正常な血液細胞は圧迫されて減少しています。白血病細胞を減らす目的で抗がん剤治療を行いますが、減少した正常な血液細胞もダメージを受けて、一時的にはさらに減少します。一般的な副作用は、骨髄抑制や吐き気、嘔吐(おうと)、下痢、口内炎、脱毛、発熱などです。
1)骨髄抑制
使用される薬の種類によっても異なり、個人差もありますが、抗がん剤治療後の7~14日ごろに、
赤血球や
血小板、
白血球(特に感染を防御する重要な役割を持つ
好中球)が減少します。もともとの病気による正常な白血球数の減少や、
リンパ球の機能異常などもあり、非常に感染症を起こしやすい状態であり、さらに細菌やカビなどのさまざまな菌やウイルスなどの病原体と戦う白血球が減るため、肺炎や敗血症などの感染症を起こすことがあります。
2)対策
時間がたつにつれて、白血球の数は自然に回復しますが、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)という白血球をふやす薬を使うこともあります。感染経路を遮断(しゃだん)するためにも、手洗い・うがい、清潔を保つことを心がけます。また、感染症状について知り、早めに対処することで重篤な感染症を防止することができます。貧血や血小板減少に対しては、輸血を行います。
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2.分化誘導療法
急性前骨髄球性白血病では、ビタミンAの誘導体であるオールトランス型レチノイン酸(ATRA:All-trans Retinoic Acid)とタミバロテンが使用されます。他の抗がん剤が白血病細胞を直接破壊するのに対し、ATRA、タミバロテンは白血病細胞を分化・成熟させることによって、正常な白血球と同様な経過をたどって死滅させます。
特徴的な副作用は「APL分化症候群」で、発熱、息切れ、息苦しさ、胸苦しさ、咳、倦怠(けんたい)感などが出現する場合があります。この症状が悪化すると、致命的な合併症となるため注意が必要ですが、抗がん剤との併用などにより、その合併症の減少が図られるようになっています。
3.分子標的治療
CD33と呼ばれる抗原が陽性の
再発または難治性の急性骨髄性白血病の場合は、分子標的薬のゲムツズマブオゾガマイシン(商品名:マイロターグ)を用いたGO療法が行われます。ゲムツズマブオゾガマイシンとはCD33抗原に対する
抗体に抗がん剤である「カリケアマイシン」を結合させた薬剤です。
ゲムツズマブオゾガマイシンの抗体部分は、急性骨髄性白血病細胞の表面にあるCD33抗原に結合します。この薬が白血病細胞に取り込まれることで殺細胞効果があらわれます。ゲムツズマブオゾガマイシンが有効なタイプのCD33を持つ急性骨髄性白血病かどうかは、治療前に
骨髄検査あるいは血液検査で、
細胞表面マーカー検査をしておきます。
【副作用について】
一般的な副作用としては、発熱、吐き気、嘔吐、食欲不振、骨髄抑制、肝機能障害です。倦怠感、頭痛、口内炎、発疹、かゆみ、めまいなどがみられる場合もあります。特徴的な副作用としては、肝臓に障害が起こりやすく、静脈閉塞性肝疾患(VOD)などの重い副作用が出現する場合があります。静脈閉塞性肝疾患とは、肝臓の小さな血管が血栓でふさがれてしまい、機能が低下し、黄疸(おうだん)や肝腫大、腹水などの症状が出現することです。重症化すると腎臓や心臓などの重要な臓器にも障害が起こるため、血液検査などで注意深く観察します。
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4.造血幹細胞移植
造血幹細胞移植が適応するかどうかは、染色体異常、病型、予後因子などによって決定されます。化学療法と比べて、この治療によって質の高い
クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を得られると考えられる場合や
予後の改善が期待できるとき、再発時などに治療の選択肢として検討されます。
【造血幹細胞移植について、さらに詳しく】
1)骨髄移植
化学療法、または放射線治療の組み合わせによって、
骨髄(こつずい)を中心とする体の中の白血病細胞と正常な血液細胞を破壊し、白血球の型(
HLA)が一致した
ドナーから採取した正常な骨髄を、静脈から輸血のように体内に入れ、破壊された造血幹細胞と入れ替えます。
2)末梢血(まっしょうけつ)幹細胞移植
白血球をふやす薬(G-CSF)を数日間ドナーの皮下に注射し、骨髄から全身の血管内に流れ出てきた造血幹細胞を採取し移植します。この方法では、G-CSFの投与に伴う副作用はありますが、全身麻酔による骨髄液採取は不要になるので、ドナーの負担が減る可能性があります。
3)臍帯血(さいたいけつ)移植
臍(へそ)の緒の中に存在する造血幹細胞を、骨髄のかわりに用います。臍帯血バンクには、さまざまな HLA型に対応できるよう臍帯血が保管されています。
4)骨髄非破壊的移植(ミニ移植)
近年では、必ずしも大量の抗がん剤治療や全身を照射する放射線治療をしなくても、免疫抑制作用の強い薬を用いることによって、患者さんとドナーの造血幹細胞を入れ替えることが可能になりつつあります。60歳代の高齢者の方や、合併症のある患者さんへの移植が行われるようになってきました。通常の骨髄あるいは、末梢血移植に比べて再発率は高いものの移植合併症が明らかに少ないことがわかってきました。
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5.支持療法
支持療法とは、白血病細胞そのものを減少や死滅させる治療ではありませんが、症状や合併症、治療に伴う副作用を予防、軽減させる治療で、血液のがんの治療を効果的に進めていく上で重要になります。
具体的には、治療に伴う白血球減少に備え、感染しやすい場所(口の中、気道、肛門周囲など)の治療やケア、白血球減少の状況での感染症の予防や治療のための抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌(カビ)薬の投与、貧血や血小板の減少に対する輸血、その他血液製剤や吐き気止めの使用などです。長期にわたることの多い治療の間の精神的な支援を含めて、幅広い内容の支持療法が行われます。
6.病型別の治療法
治療の基本は、白血病細胞を根絶し(Total Cell Kill)、治癒(ちゆ)を目標とした強力な化学療法を繰り返し行います。寛解導入療法は白血病細胞の根絶と正常な造血機能の回復を目的として行われ、寛解後療法は、残存している白血病細胞の根絶と再発・
再燃の予防を目的として、治癒を目指します。
1)急性骨髄性白血病の治療:若年者
若年者(65歳以下、小児を除く)の場合はまず、複数の薬剤を使用した化学療法を行い
寛解(かんかい)を目指します。寛解後の治療は、予後に関連する因子の1つである染色体異常などから予後分類を行い、その後の治療方針を決定します。
【治療について、さらに詳しく】
図5は、治療の流れを大まかに示した図です。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
図5 急性骨髄性白血病(若年者)の治療
日本血液学会編「造血器腫瘍診療ガイドライン 2013年版」(金原出版)より作成
(1)寛解導入療法
寛解導入療法の中心となる抗がん剤はシタラビンで、アントラサイクリン系の薬剤との組み合わせで使用されることが
標準治療です。下記の薬剤の組み合わせで投与を1コース行い、寛解の場合は寛解後療法を行います。寛解にならないときは、再度同じ治療を行い、2コース目でも寛解が得られない場合は、大量または中等量のシタラビンを含む
救援療法が行われます。
(2)寛解後療法
寛解後療法は、地固め療法と呼ばれる化学療法を引き続き行い、
染色体検査によって予後因子を決定し、その後の治療方針が決定されます。予後良好群に分類された場合はシタラビン大量療法を3コース以上行います。
(3)投与スケジュールについて
下記は、寛解導入療法、寛解後療法で使用される抗がん剤の投与スケジュールです。抗がん剤の量や治療の日程は、患者さんの状態や副作用などによって変更される場合があります。詳しくは担当医へご確認ください。
1. 寛解導入療法
・イダルビシン+シタラビン療法
イダルビシンとシタラビンの2種類の抗がん剤を使用します。通常、7日間をひと区切り(1コース)で行い、イダルビシンは3日目まで、シタラビンは7日目まで毎日点滴で投与します。
薬剤 |
投与方法 |
投与日 |
イダルビシン(IDR) |
点滴 |
1~3日目 |
シタラビン(AraC) |
点滴 |
1~7日目 |
・ダウノルビシン+シタラビン療法
ダウノルビシンとシタラビンの2種類の抗がん剤を使用します。通常、7日間をひと区切り(1コース)で行い、ダウノルビシンは5日目まで、シタラビンは7日目まで毎日点滴で投与します。
薬剤 |
投与方法 |
投与日 |
ダウノルビシン(DNR) |
点滴 |
1~5日目 |
シタラビン(AraC) |
点滴 |
1~7日目 |
2. 寛解後療法
・シタラビン大量療法
シタラビンを5日間点滴で投与します。通常、5日間がひと区切り(1コース)ですが2日目と4日目が省かれる場合もあります。
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2)急性骨髄性白血病の治療:高齢者
高齢者(65歳以上)の場合は、全身状態や合併症の有無などを考慮して、強力な化学療法が可能か判定し、その後予後分類にそって、治療方針が選択されます。
【治療について、さらに詳しく】
図6は、治療の流れを大まかに示した図です。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
図6 急性骨髄性白血病(高齢者)の治療
日本血液学会編「造血器腫瘍診療ガイドライン 2013年版」(金原出版)より作成
(1)寛解導入療法
高齢者で標準治療が可能な場合は、若年者と同様に寛解導入療法を行います。中心となる抗がん剤はシタラビンですが、シタラビンのかわりに、シタラビンにゆっくりと変換されるエノシタビンを使用することもあります。標準治療の実施は困難だが、治療は可能な場合は、低用量のシタラビンの投与などが行われます。
(2)寛解後療法
高齢者の場合は、標準的な寛解後療法は確立されていませんが、アントラサイクリン系の薬剤を含んだ多剤併用療法が選択される場合もあります。
(3)投与スケジュールについて
下記は、寛解導入療法で使用される抗がん剤の投与スケジュールです。抗がん剤の量や治療の日程は、患者さんの状態や副作用などによって変更される場合があります。詳しくは担当医へご確認ください。
1. 寛解導入療法
・ダウノルビシン+シタラビン療法
ダウノルビシンとシタラビンの2種類の抗がん剤を使用します。通常、7日間をひと区切り(1コース)で行い、ダウノルビシンは3日目まで、シタラビンは7日目まで毎日点滴で投与します。薬剤の投与量は、全身状態などによって減量する場合があります。
・ダウノルビシン+シタラビン療法
ダウノルビシンとシタラビンの2種類の抗がん剤を使用します。通常、7日間をひと区切り(1コース)で行い、ダウノルビシンは3日目まで、シタラビンは7日目まで毎日点滴で投与します。薬剤の投与量は、全身状態などによって減量する場合があります。
薬剤 |
投与方法 |
投与日 |
ダウノルビシン(DNR) |
点滴 |
1~3日目 |
シタラビン(AraC) |
点滴 |
1~7日目 |
・ダウノルビシン+エノシタビン療法
ダウノルビシンとエノシタビンの2種類の抗がん剤を使用します。通常、8日間をひと区切り(1コース)で行い、ダウノルビシンは3日目まで、エノシタビンは8日目まで毎日点滴で投与します。薬剤の投与量は、全身状態などによって減量する場合があります。
薬剤 |
投与方法 |
投与日 |
ダウノルビシン(DNR) |
点滴 |
1~3日目 |
エノシタビン(BHAC) |
点滴 |
1~8日目 |
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3)急性骨髄性白血病の予後因子
急性骨髄性白血病は、他のがんと比較すると抗がん剤治療の効果が高く、治癒が期待できます。ただし、これまでの治療成績より、治療効果が低いさまざまな条件が明らかになっています。これらの条件を予後因子と呼び、予後因子から「予後良好群」「予後中間群」「予後不良群」の3つに分類し、寛解後導入療法の方針を決定します。
【予後因子について、さらに詳しく】
表4 急性骨髄性白血病の予後因子について
項目 |
予後良好となる因子 |
予後不良となる因子 |
年齢 |
50歳以下 |
60歳以上 |
全身状態
(PS)* |
PS2以下
日常生活の問題がない
|
歩行可能で、自分の身の回りのことはすべて可能だが、作業はできない
|
PS3以上
限られた自分の身の回りのことしかできない
|
動くことができず、自分の身の回りのことはまったくできない
|
発症形式 |
初発 |
二次性 |
染色体異常** |
t(8;21) (q22;q22)
inv(16) (p13.1q22)
t(16;16) (p13.1;q22)
t(15;17) (q22;q21) |
3q異常[inv(3) (q21q26.2)、
t(3;3) (q21;q26.2)など]
5番・7番染色体の欠失
または長腕欠失
t(6;9) (p23;q34)複雑核型 |
遺伝子異常 |
NPM1 変異
CEBPA 変異 |
FLT3-ITD 変異 |
寛解までの
治療回数 |
1回 |
2回以上 |
*PS(Performance Status):パフォーマンスステータス。全身状態の指標の1つで、患者さんの日常生活の制限の程度を示します。
**染色体異常の記号の説明
・t : 転座(translocation) 2本の染色体がそれぞれ切断され、断片が交換されること
・inv : 逆位(inversion) 同じ染色体が2カ所切断され、内側の染色体の断片が逆転すること
・q : 染色体の長い部分(長腕)
・p : 染色体の短い部分(短腕)
日本血液学会編「造血器腫瘍診療ガイドライン 2013年版」(金原出版)より作成
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4)急性前骨髄球性白血病の治療
急性前骨髄球性白血病は、ビタミンAの誘導体であるオールトランス型レチノイン酸(ATRA:All-trans Retinoic Acid)を化学療法と併用して、寛解導入療法を行います。ATRAは白血病細胞の分化や成熟を誘導することによって、高い治療効果が期待できる治療薬です。寛解導入療法だけでは寛解を維持することは難しいため、寛解後療法を行います。病状によっては、ATRAを中心とした維持療法が行われる場合もあります。抗がん剤の治療だけでは再発する可能性が高い場合や、再発した場合、また骨髄異形成症候群より移行して発症した場合などは、年齢や全身状態を考慮した上で、治療の適応があれば造血幹細胞移植を行う場合もあります。
【治療について、さらに詳しく】
図7は、治療の流れを大まかに示した図です。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
図7 急性前骨髄球性白血病の治療
日本血液学会編「造血器腫瘍診療ガイドライン 2013年版」(金原出版)より作成
(1)寛解導入療法
標準的な治療は、ATRAとアントラサイクリン系の薬剤を中心とした化学療法です。
(2)寛解後療法
血液学的完全寛解が確認された後は、地固め療法と呼ばれる化学療法を行います。寛解導入療法と同様のアントラサイクリン系の薬剤を中心とした化学療法を、引き続き2~3コース行います。ATRAと同じビタミンAの誘導体であるタミバロテンという薬剤や亜ヒ酸(ATO)を化学療法と併用したり、単独で使用する場合もあります。
(3)難治性、再発時の治療
難治性の場合や、ATRAと化学療法の治療後に再発した場合でも、亜ヒ酸(ATO)の投与によって高い治療効果が期待できます。再寛解後は地固め療法として、引き続き亜ヒ酸を投与し、病状によっては造血幹細胞移植も検討されます。造血幹細胞移植の適応がない場合は、タミバロテンや亜ヒ酸による維持療法や分子標的薬のゲムツズマブオゾガマイシンを用いたGO療法が選択される場合もあります。
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クリニカルパスとは、入院中の患者さんの検査や治療、療養に関する予定を記載した計画表のことで、計画的に安全な医療を進める手助けとなります。
【参考文献】
- 日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2013年版;金原出版
- 日本血液学会、日本リンパ網内系学会編:造血器腫瘍取扱い規約 2010年3月 第1版;金原出版
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