1.成人T細胞白血病リンパ腫について
1)成人T細胞白血病リンパ腫とは
血液の中にある赤血球、白血球、血小板などを血液細胞といいます。血液細胞は、骨の中心部にある骨髄で、血液細胞のもとになる造血幹細胞からつくられます(図1)。
成人T細胞白血病リンパ腫は、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)というウイルスの感染が原因で起こる病気です。HTLV-1が白血球の1つであるT細胞に感染し、がん化した細胞(ATL細胞)が増殖することで発症します。
しかし、HTLV-1に感染しても必ず成人T細胞白血病リンパ腫を発症するわけではありません。HTLV-1に感染した人が、一生のうちに成人T細胞白血病リンパ腫を発症する確率は2~5%とされています。
成人T細胞白血病リンパ腫では、核の部分が花びらのような形をしている「フラワーセル(Flower cell:花細胞)」が見られることが特徴です。病型(病気のタイプ)は「急性型」「リンパ腫型」「慢性型」「くすぶり型」に分かれます。病型によって、ATL細胞が見られる場所(血液中かリンパ節か)や増えるスピード、症状の程度などが異なります。
急性型、リンパ腫型、慢性型のうち予後不良因子(血液検査項目のうち、LDH、アルブミン、BUNのいずれか1つ以上が異常値)がある場合は、進行が速いことが多く「アグレッシブATL」と呼ばれます。一方、予後不良因子がない慢性型とくすぶり型は比較的経過が緩やかで、「インドレントATL」と呼ばれます。治療法は、アグレッシブATLとインドレントATLで異なります。
なお、HTLV-1の感染経路は、母乳による母子感染(垂直感染)と性行為による感染などです。主な感染経路は母子感染と考えられています。以前は輸血で感染することもありましたが、昭和61年以降は献血で提供された血液は感染していないかどうか確認する検査が行われているため、現在は日本国内での輸血による感染はありません。
造血幹細胞から血液細胞ができるまで
造血幹細胞は、骨髄系幹細胞とリンパ系幹細胞に分かれて成長し、骨髄系幹細胞からは、赤血球、白血球(顆粒球、単球)、血小板などが、リンパ系幹細胞からは白血球の一種であるリンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞)がつくられます。
2)症状
全身のリンパ節が腫れたり、皮膚に発疹や腫瘤があらわれたりすることがあります。
ATL細胞が臓器に浸潤すると、下痢や便秘、頭痛が起こることもあります。また、血液中のカルシウム濃度が高くなることによって倦怠感や意識障害が起こることもあります。
さらに、免疫に関係するT細胞ががん化するため、免疫不全の状態になり、日和見感染症(健康な人には害のないような弱い細菌、真菌、ウイルスなどの病原体に感染すること)にかかることがあります。
2.検査
成人T細胞白血病リンパ腫では、血液検査を行い、HTLV-1に感染しているかどうか、ATL細胞があるかどうかなどを調べます。また、診断や病型を確定するために骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検)や生検(腫れているリンパ節などの病変の組織をとって、顕微鏡などで調べる検査)、病気の広がりを調べるためにCTやPET-CTなどの画像検査などが行われます。
なお骨髄検査は、皮膚を消毒し局所麻酔をした後に、一般的には腸骨(腰の骨)に針を刺して、骨髄組織を採る検査です。
がんの疑いがあるときや治療中・治療後に受けることの多い検査についての情報は、「がんの検査について」をご参照ください。
3.治療
くすぶり型や予後不良因子がない慢性型では、無治療経過観察(積極的な治療をせずに医師が経過を見ていくこと)が行われます。
急性型、リンパ腫型、予後不良因子がある慢性型では、複数の細胞障害性抗がん薬を用いて行う多剤併用化学療法が行われます。分子標的薬を用いた治療が行われる場合もあります。可能であれば、造血幹細胞移植が行われることもあります。
がんの診断から治療までの流れなどについては「8.関連する情報」、手術・薬物療法・放射線治療などの主な治療法に関する情報は「診断と治療」をご覧ください。「妊孕性(にんようせい)」には、妊娠や出産に関する情報を掲載しています。
1)患者向けの情報
治療の情報を含む患者向けのページを紹介しています。
2)医療従事者向けの情報
医療従事者向けの情報が掲載されています。
なお、上記は旧版のガイドラインです。改定版「造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版」が2023年7月20日に発行されています。最新の情報は、改定版のガイドラインをご確認ください。
4.療養
「症状を知る/生活の工夫」には、がんの治療に伴う症状や自宅での生活の工夫などに関する情報を掲載しています。
特に、血液・リンパのがんは、がんそのものや薬物療法の影響で、健康な人には害のないような弱い細菌、真菌(カビ)やウイルスなどの病原体に感染しやすくなります。そのため、手洗いやうがいをしっかり行う、感染源を作らないためにけがをしないようにするなど、日常生活でも注意が必要です。
がんと診断されてからの仕事については「がんと仕事」、医療費や利用できる制度、相談窓口などのお金に関する情報は「がんとお金」をご参照ください。また、「がん相談支援センター」でも、仕事やお金、生活の工夫や利用できるサポート等、困ったときにはどんなことでも相談することができます。
「地域のがん情報」では、各都道府県等が発行しているがんに関する冊子やホームページへのリンクを掲載しています。併せてご活用ください。
5.臨床試験
国内で行われている成人T細胞白血病リンパ腫の臨床試験が検索できます。
がんの臨床試験を探す チャットで検索
※入力ボックスに「成人T細胞白血病リンパ腫」と入れて検索を始めてください。チャット形式で検索することができます。
がんの臨床試験を探す カテゴリで検索 白血病 悪性リンパ腫
※「カテゴリで検索」では、広い範囲で検索します。そのため、お探しのがんの種類以外の検索結果が表示されることがあります。
臨床試験への参加を検討する際は、以下の点にご留意ください
- 臨床試験への参加を検討したい場合には、担当医にご相談ください。
- がんの種類や状態によっては、臨床試験が見つからないこともあります。また、見つかったとしても、必ず参加できるとは限りません。
6.患者数(がん統計)
成人T細胞白血病リンパ腫は、1年間に診断される患者の数に関する正確なデータはありません。これまでの報告では、HTLV-1に感染している人は日本全国で約108万人、そのうちATLを発症する割合は2~5%と考えられており、1年間に約1,000人が発症すると言われています。
7.相談先・病院を探す
情報や病院などが見つからないときにはご相談ください。
8.関連する情報
がんの治療を始めるにあたって、参考となる情報です。
9.参考資料
- 日本血液学会,造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版.2023年,金原出版.
- 野村正満編.ハンドブック 白血病と言われたら 改訂第6版 下巻 血液の病気を知ろう.2020年,認定特定非営利活動法人全国骨髄バンク推進連絡協議会.
2023年11月28日 | 「造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版」より、内容を確認して更新しました。 |
2022年08月23日 | 「5.臨床試験」の関連情報に、「患者本位の『がん情報サイト』」を追加しました。 |
2022年06月23日 | 「3.治療」の関連情報に、「厚生労働科学研究班 がん対策研究紹介サイト 正しいがん情報の提供 研究成果・資料 2.悪性リンパ腫に関する資料」を追加しました。 |
2021年11月11日 | 構成を変更し、「造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年補訂版」より内容を更新しました。 |
2021年01月05日 | がん種名の表記を「成人T細胞白血病/リンパ腫」から「成人T細胞白血病リンパ腫」に修正しました。 |
2016年06月30日 | タブ形式に変更しました。「造血器腫瘍取扱い規約 2010年3月(第1版)」「造血器腫瘍診療ガイドライン 2013年版」より内容を更新し、タイトルを「成人T細胞白血病/リンパ腫」に変更しました。 |
2006年10月01日 | 「成人T細胞白血病リンパ腫」を掲載しました。 |