1.経過観察
食道がんの根治切除後は、定期的に通院して検査(経過観察)を受けます。経過観察の目的は、(1)再発の早期発見・早期治療、(2)体の状態やクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の評価と改善、(3)食道の中に複数の病変が発生する多発がんや、胃がん、頭頸部がんなどの重複がんの早期発見・早期治療です。
再発の早期発見を目的とした検査では、問診やCT検査、上部消化管内視鏡検査などが行われます。多発がんや重複がんの早期発見のためには、咽頭から治療後に残った食道と胃にかけて、上部内視鏡検査による定期的かつ慎重な観察が必要とされています。
診察や検査の時期や頻度は、初回治療時のがんの進行度、治療の目的や受けた治療、治療の効果、治療後の時間経過によって異なりますが、おおよそ年1~4回程度です。
なお、術後に再発する場合は、2年以内のことが多いですが、それ以降に起こることもあります。首の腫れや声のかすれ、痛み、呼吸苦、血痰などの症状がある場合にはすぐに受診しましょう。
2.日常生活を送る上で
規則正しい生活を送ることで、体調の維持や回復を図ることができます。禁煙、禁酒、バランスのよい食事、適度な運動などを日常的に心がけることが大切です。症状や治療の状況により、日常生活の注意点は異なりますので、体調をみながら、担当医とよく相談して無理のない範囲で過ごしましょう。
1)手術(外科治療)後の日常生活
食道がんの手術によって食物の通り道が変わると、食事量が減り、体重が減少します。また、胃酸や消化液の逆流による逆流性食道炎や、飲食物が小腸に速く流れ込むことにより、動悸、発汗、めまいなどの症状があらわれるダンピング症候群が起こりやすくなります。
逆流性食道炎やダンピング症候群に対しては、食事を含めた生活面での工夫が必要です。胸やけや食後の腹痛・倦怠感などの症状が続くときには、担当医に相談しましょう。これらの症状を和らげるために、薬を使って治療を行うこともあります。
(1)ダンピング症候群
食後すぐあとに起こる早期ダンピング症候群と、2〜3時間後に起こる後期ダンピング症候群があります。
早期ダンピング症候群は、未消化の食べ物が急に小腸に入ることで起こります。動悸、発汗、めまい、脱力感などの症状があらわれます。食事の回数を増やし、1回の食事量を減らして、ゆっくりとよくかんで食べることが予防になります。
後期ダンピング症候群は、腸で急速に糖質が吸収されて、インスリン(血糖を下げるホルモン)が大量に分泌し、血糖が下がり過ぎることで起こります。めまいや脱力感、発汗、震えなどの症状があらわれることがあります。症状が起こりそうだと感じたら、すぐに糖分を含んだアメなどをなめるようにします。糖分を多く含む食事や甘みの強いジュースや流動食を控えることが予防になります。
(2)逆流性食道炎
食道胃接合部領域を切除すると、胃液や腸液、胆汁などの消化液が逆流して食道に炎症が起こる逆流性食道炎になることがあります。逆流性食道炎では、胸やけや胸がつかえるなどの症状があらわれます。横になると消化液が逆流しやすくなるため、食事は就寝前2〜4時間までにとるようにしましょう。また、胆汁の量が増えるため脂肪の多い食事は控えましょう。
2)治療後の食事について
食道がんの内視鏡的切除や手術、放射線治療のあとは、治療を受けた部分の食道が狭くなり、食事がつかえることがあります。また、手術や放射線治療では、飲み込みの力が落ちることによって誤嚥を起こしやすくなるため、食べ方や食事の内容を工夫しましょう。誤嚥の予防には嚥下リハビリテーションも有効です。
(1)食べ方や食事の内容の工夫
治療後は、基本的には好きなものを少しずつ小さく刻んで食べてよいのですが、無理をせずに、医師の指示に従ってゆっくりよくかんで食べましょう。なるべく軟らかく煮たものやツルツルとしたもの(プリンなど)を食べ、のどごしの悪いものやパサパサした食べ物(のりなど)は避けることがお勧めです。
手術後は、消化しにくいもの(こんにゃくなど)は避けるとよいです。水分は最も誤嚥しやすいため、とろみをつけたり、吸い飲みなどを使って飲むのがお勧めです。また、食べられない期間があったあとには、胃腸に負担がかかりにくい消化のよいもの(おかゆや茶わん蒸しなど)や、タンパク質の多いもの(温泉卵など)を、人肌程度の温度にして食べるとよいでしょう。
(2)食欲がないとき
食欲がないときには、無理に食べる必要はありません。好きなもので、食べやすいものを選んでください。全くご飯が食べられない場合でも、水分はとるようにしましょう。水分がとれないときには、点滴で栄養を補うこともあります。治療後、3カ月程度でゆっくり元の食事量に戻すことを目指すとよいです。
ご家族や周りの方は、食べ物を勧めすぎないように配慮してください。食べられないとき、体重が減ることや、体重が戻らないことなどについて不安があるときには、遠慮せずに医師、看護師、栄養士にご相談ください。
3)薬物療法中の日常生活
薬物療法の副作用を予防したり、症状を緩和したりする支持療法が進歩したため、通院で薬物療法を行うこともあります。
通院での薬物療法は、仕事や家事、育児、介護など、今までの日常生活を続けながら治療を受けることができますが、体調が悪くても、無理をしてしまうことがあります。日常生活を送っていたとしても、治療により万全の体調ではないことを忘れないようにしましょう。また、いつも医療者がそばにいるわけではないため、不安に感じることもあるかもしれません。予想される副作用やその時期、対処法について医師や看護師、薬剤師に事前に確認し、通院時には疑問点や不安点などを相談しながら治療を進めるとよいでしょう。
4)性生活・妊娠について
性生活によって、がんの進行に悪影響を与えることはありません。また、性交渉によってパートナーに悪い影響を与えることもありません。しかし、がんやがんの治療は、性機能そのものや、性に関わる気持ちに影響を与えることがあります。がんやがんの治療による性生活への影響や相談先などに関する情報は、「がんやがんの治療による性生活への影響」をご覧ください。
なお、薬物療法中やそのあとは、腟分泌物や精液に薬の成分が含まれることがあるため、パートナーが薬の影響を受けないように、コンドームを使いましょう。また、薬は胎児に影響を及ぼすため、治療中や治療終了後一定期間は避妊しましょう。経口避妊薬などの特殊なホルモン剤を飲むときは、担当医と相談してください。
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