1.甲状腺について
甲状腺は、重さ10~20gの小さな臓器です。羽を広げた蝶々のような形で、中央の峡部と左右の腺葉からできています。腺葉は、体の右側を右葉、左側を左葉といいます。甲状腺は、のどぼとけ(甲状軟骨)のすぐ下にあり、気管を前から取り囲むように位置しています。甲状腺の裏側には、声帯を動かす反回神経があります(図1)。
甲状腺には、甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン:T3、サイロキシン:T4)やカルシトニンなどのホルモンを分泌する働きがあります。甲状腺ホルモンは、血液の中に含まれるヨウ素(海藻などの食物に含まれるミネラルの1つで「ヨード」ともいう)が甲状腺に取り込まれることで作られ、脳や骨の成長や、脂質や糖の代謝などを促進する働きがあります。カルシトニンは、血液中のカルシウム濃度の調整に関わっています。
2.甲状腺がんとは
甲状腺にできたしこりを甲状腺結節といい、そのうち悪性のものを甲状腺がんといいます。
3.症状
多くの場合、自覚症状がないか、しこり以外の症状はありません。病状が進行すると、のどの違和感・嗄声(声のかすれ)・痛み・飲み込みにくさ・誤嚥・血痰・呼吸困難感などの症状が出てくることがあります。
このような気になる症状がある場合には、早めにかかりつけ医に相談したり、耳鼻咽喉科や内分泌科を受診しましょう。
4.組織型分類(がんの種類による分類)
甲状腺がんの組織型(がんの種類)には、乳頭がん・濾胞がん・低分化がん・髄様がん・未分化がんがあり、それぞれで治療法が異なります。
一般的に若年であるほど予後がよいとされており、乳頭がん・濾胞がん・低分化がんでは55歳という年齢でステージ(病期)の分け方が変わります。
1)乳頭がん
乳頭がんは、甲状腺がんの中で最も多く、約90%を占めます。リンパ液の流れに乗って転移するリンパ節転移(リンパ行性転移)が多いですが、基本的にゆっくりと進行するため、急に命に関わる状況になることはまれです。ただし、ごく一部の乳頭がんは再発を繰り返すことがあります。また、突然悪性度の高い未分化がんに変化することがごくまれにあります。
2)濾胞がん
濾胞がんは、甲状腺がんの中で2番目に多い(約5%)がんです。良性の甲状腺腫瘍(濾胞腺腫)との区別が難しいことがあります。乳頭がんに比べて、リンパ節への転移は少ないのですが、血液の流れに乗って肺や骨など遠くの臓器に転移(血行性転移)しやすい傾向があります。このように遠くの臓器への転移(遠隔転移)が起こらない場合は、乳頭がんと同様、予後は比較的よいとされています。
3)低分化がん
低分化がんは、甲状腺がんの中で1%未満とまれです。特徴としては、乳頭がん・濾胞がんと未分化がんの中間的ながんです。乳頭がん・濾胞がんに比べると遠隔転移や再発しやすい性質があります。乳頭がん・濾胞がんから低分化がんに変化したり、低分化がんから未分化がんに変化したりすることもあります。
4)髄様がん
髄様がんは、カルシトニンを分泌する傍濾胞細胞に由来するがんで、甲状腺がんの約1〜2%です。髄様がんは分化がん(乳頭がんや濾胞がん)と比べて悪性度が高く、リンパ節や肺のほか、肝臓へ転移しやすいという特徴がみられます。
なお、髄様がんはRET遺伝子という遺伝子に変異がある場合があります。そのため、髄様がんの場合は、治療方針を決めるためにRET遺伝子検査を受けることを勧められています。一方で、遺伝子検査を受けることで、自分だけでなく血縁者の遺伝情報を知ることにつながります。そのため、遺伝子検査を受けるかどうかについては、遺伝カウンセリングなどで専門家ともよく相談することが大切です。
5)未分化がん
未分化がんは、甲状腺がんの中の約1~2%の割合です。悪性度が高く進行が速いことから、甲状腺周囲の臓器(反回神経、気管、食道など)への浸潤や全身の臓器への転移を起こしやすいという特徴があります。
なお、甲状腺に悪性リンパ腫ができることがあります。悪性リンパ腫は、甲状腺がんとは病気のなりたちや治療法が異なります。悪性リンパ腫の情報については、関連情報をご確認ください。