胆道がんの治療法には、手術、薬物療法、放射線治療があります。胆道がんでは、がんを取り除くには手術が最も有効と考えられています。そのため、まず手術ができるかどうかを検討し、手術ができない場合は薬物療法を中心とした治療を行います。
1.病期と治療の選択
治療法は、がんの進行の程度や体の状態などから検討します。がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。
1)病期(ステージ)
病期は、ローマ数字を使って表記することが一般的で、胆道がんでは早期から進行するにつれて0期〜Ⅳ期まであります。
病期は、次のTNMの3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決めます。
Tカテゴリー:がんの大きさや周囲への広がりの程度
Nカテゴリー:領域リンパ節への転移の有無
Mカテゴリー:がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移の有無
病期を知ることは、治療の方針を決めるためにとても重要です。胆道がんの病期は、肝内胆管がん(表1)、肝門部領域胆管がん(表2)、遠位胆管がん(表3)、胆のうがん(表4)、十二指腸乳頭部がん(表5)に分けて分類されています。
2)治療の選択
治療法は、がんの進行の程度に応じた標準治療を基本として、体の状態、年齢、本人の希望なども含めて総合的に検討し、担当医と患者がともに決めていきます。
図4は、胆道がんの標準治療を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。胆道がんと診断されたら、手術の可能性について、肝胆膵外科などの胆道の手術を専門とする外科医に相談する必要があります。
(1)手術ができるかどうかについて
胆道がんでは、手術ができるかを判断するとき、一般的に次のような点を考慮します。
- 手術に耐えられる体の状態であること
- 遠隔転移がないこと
- 肝臓の切除が必要な場合は、手術後の肝臓の機能が十分あると予測できること
遠隔転移がなくても、最初にがんができた場所や周囲への広がりなどの状態によっては、手術で切除することが技術的に難しいこともあります。このような場合、手術ができるかどうかの判断が、施設ごと、医師ごとに異なることもあります。診断や治療選択などについて、違う医療機関の医師の意見(セカンドオピニオン)を聞いてみたいときは、遠慮せずに担当医に相談してみましょう。
(2)手術ができない場合の治療
手術ができない場合には薬物療法を行います。遠隔転移がない場合には放射線治療を検討することもあります。痛みや症状の緩和などを目的として、薬物療法や放射線治療、胆道ドレナージ(内ろう[胆道ステント]や外ろう)を行う場合もあります。
「エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン 2019年(改訂第3版)」(医学図書出版)より作成
(3)妊娠や出産について
がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊孕性温存治療(妊娠するための力を保つ治療)が可能か、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
2.胆道ドレナージ
胆道にがんができると、多くの場合、がんで胆道がつまり、胆汁の流れがせき止められます。胆汁が流れなくなると、腸での消化や吸収が不十分になったり、黄疸の症状が出たり、手術や薬物療法などの治療を安全に進めることが難しくなったりすることがあります。このため、胆道がつまった場合には、たまった胆汁を通すための処置を行うことがあります。この処置のことを胆道ドレナージといいます。ドレナージとは「水などをある場所から導き出す」という意味です。
ドレナージには、外ろうと内ろうの2つの方法があります(表6)。外ろうは、チューブを使って胆汁を鼻やおなかから体の外に出し、ボトルやプラスチックバッグにためて回収する方法です(図5、6)。内ろうは、ステントというプラスチックや金属の管を胆管の中に置き、胆汁を本来の流れ道である腸の中に流す方法です(図5)。チューブやステントを胆道がつまっている箇所まで入れる方法には、内視鏡の技術を使う方法と、おなかの皮膚から刺し入れて肝臓を通す方法があります。
外ろうの注意点
胆汁が逆流しないように容器の位置を低く保ち、チューブが抜けたり折れたりしないようにするなどの注意が必要です。チューブが抜けてしまった場合はすぐに病院に連絡しましょう。また、胆汁の色や量に気を配り、変化があったら早めに担当医に相談しましょう。
内ろう(胆道ステント)の注意点
外ろうの場合のような日常生活の制限はない反面、体内のステントが抜けたりつまったりしても気付きにくいという欠点があります。腹痛や発熱、黄疸の症状が出た場合には、何らかのトラブルが起きている可能性がありますので、病院に連絡しましょう。
3.手術(外科治療)
がんの広がりや大きさに応じて、安全で、できるだけ完全にがんを取りきることのできる方法を検討します。胆道がんの手術は、ごく早期の場合を除いて切除範囲が大きくなることが多く、体への負担も大きくなりがちです。手術を検討する場合には、その手術でどのようなメリットがあり、どの程度のリスクがあるのか、担当医によく確認しましょう。
1)手術前の準備
がんのできた場所によっては、胆道にできたがんとともに肝臓の一部を切除することがあります。肝臓を広範囲に切除する必要がある場合には、手術の前に、残肝予備能評価(切除後に残る肝臓の大きさや機能を予測すること)を行い、手術ができるかどうかを検討します。
肝臓を半分以上切除する場合には、手術後も肝臓の機能を維持するために、手術の前に門脈塞栓術(切除する側の肝臓の門脈をふさぎ、残す側の肝臓の血流を増やす手術)を行って、残す側の肝臓の容積をあらかじめ大きくすることもあります。また、肝臓を広範囲に切除する場合で、黄疸の症状があるときには、手術の前に胆道ドレナージを行います。
2)がんの種類別の手術法
(1)肝内胆管がん
がんが肝臓の右葉(自分側から見て右側の大きい部分)・左葉(左側の小さい部分)のどちらかのみにある場合には、がんとその周辺の肝臓の一部またはがんのある側を切除します(図7)。がんが左右の葉を越えて広がっている場合には、さらに大きく切除する拡大肝葉切除を行います。がんが肝門の近くにある場合には、肝外胆管や胆のうの切除と同時に、周囲のリンパ節郭清を行うこともあります。
(2)肝門部領域胆管がん
がんを取りきることを目的として、胆管のほかに肝臓や胆のうなど周りの臓器の一部や、周辺のリンパ節も切除するのが一般的です(図8)。肝門部領域では、胆管、門脈、肝動脈が分岐していて構造が複雑なので、肝門部領域胆管がんの手術は難しい手術になります。切除後は、残した胆管と小腸の一部をつなぐなど、臓器の機能を回復するための再建手術を行います。
(3)遠位胆管がん
遠位胆管は膵臓を通っているため、遠位胆管にできたがんは膵臓へ広がることがあります。そのため、膵頭十二指腸切除を行って、胆管、胆のう、膵頭部(十二指腸に接している側の膵臓)、十二指腸および連続する胃や腸の一部を切除するのが一般的です(図9)。周囲のリンパ節郭清も行います。切除後は、残した胆管や膵臓、胃を小腸とつなぎ合わせ、食物や消化液が小腸に流れるようにするなどの再建手術を行います。
(4)胆のうがん
がんが胆のう内部にとどまっている場合には、胆のうの摘出手術を行います(図10)。がんが胆のうの周囲まで広がっている場合には、その広がりに応じて、肝臓、胆管、膵臓、大腸、十二指腸、リンパ節など周りの臓器の切除が必要になります。
(5)十二指腸乳頭部がん
十二指腸乳頭部がんの標準手術は膵頭十二指腸切除です(図9)。この手術では、十二指腸、膵頭部、肝外胆管、胆のう、周辺のリンパ節を切除します。連続している胃や小腸を切除することもあります。残った胆管を小腸に、膵臓を小腸や胃などにつなぎ合わせる再建手術を行います。
3)手術後の合併症
胆道がんの手術後の合併症には、肝不全、胆汁漏、膵液漏、胸水、腹水、胆管炎などがあります。重い合併症の多くは手術後1週間以内に起こるので、注意深く経過を観察します。
(1)肝不全
肝臓を大きく切除した場合、肝臓の機能に障害が出て、黄疸、腹水、意識の低下などの症状が出ることがあります。
(2)胆汁漏・膵液漏
胆道や膵臓の手術でつなぎ合わせた部分から、胆汁や膵液が漏れることがあります。胆汁漏は自然におさまることが多いのですが、腹膜炎の原因となることもあります。膵液には脂肪やタンパク質を溶かす働きがあるので、膵液が漏れると近くの血管を傷つけることがあります。
(3)胸水・腹水
胸、特に右胸や腹部に水がたまることがあります。自然に治ることもありますが、胸水の量が多く呼吸に影響が出るような場合には、胸水を抜いたり、減少させる薬剤を使用したりします。
(4)胆管炎
胆管と腸をつなぐ手術を行った場合、つないだ場所が狭くなったり、腸の動きが悪くなったりして腸液が逆流し、胆管炎を起こすことがあります。胆管炎は退院後に起きる可能性もありますので、上腹部の痛みや高熱、黄疸が出た場合には担当医に相談しましょう。
4.薬物療法
がんの進行をできるだけ抑えることを目的として、薬物療法を行うことがあります。体内に入った薬は全身をめぐるので、転移したがんや、画像検査では確認できない小さながんに対する効果も期待できます。
1)手術ができない場合の薬物療法
手術によってがんを取りきることが難しい場合や、がんが再発した場合に、薬を使った治療を行います。薬物療法だけでがんを完全に治すことは困難ですが、がんの進行を抑えることにより、生存期間を延長したり、症状を和らげたりできることがわかっています。
胆道がんの薬物療法では、ゲムシタビン、シスプラチン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS1:ティーエスワン)※を使用します。複数の薬を組み合わせることにより、より高い効果が出ることが知られています。標準治療には、次のようなものがあります。
- GC療法:ゲムシタビンとシスプラチンを併用
- GS療法:ゲムシタビンとテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤を併用
- GCS療法:ゲムシタビン、シスプラチン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤を併用
※薬の名前は「一般名(商品名)」で示しています。薬の名前の記載方針については関連情報をご覧ください。
2)術後補助療法としての薬物療法
胆道がんの手術では、肉眼的には取りきれていても、顕微鏡で確認するとがん細胞が残っていたり、完全に取りきれているように見えても同じ場所から再発したりしてしまうことがあります。このため、手術の後に、薬物療法や薬物療法と放射線治療を併用した化学放射線療法を補助療法として行うこともあります。しかし、その効果は現時点では十分に証明されておらず、標準治療ではありません。
薬物療法による副作用
食欲不振、吐き気、だるさ、脱毛、白血球減少、貧血、血小板減少などの副作用を伴うことがあります。
また、それぞれの薬に特有の副作用として、次のようなものがあります。
- ゲムシタビンによる間質性肺炎
- シスプラチンの長期投与による腎臓への負担や難聴、手足のしびれなど
- テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤による皮膚の痛みや色素の沈着、下痢、口内炎、涙目など
頻度としては高くなくても、重症になると命に関わったり、いったん生じると改善しづらかったりするものもありますので、気になる症状が出たときには早めに担当医に相談しましょう。
5.放射線治療
胆道がんの手術では、肉眼的には取りきれていても、顕微鏡で確認するとがん細胞が残っていたり、完全に取りきれているように見えても同じ場所から再発したりしてしまうことがあります。このため、切除面にがん細胞が残っていたり、リンパ節への転移があったりした場合には、手術の後に、放射線治療や放射線治療と薬物療法を併用した化学放射線療法を補助療法として行うこともあります。しかし、その効果は現時点では十分に証明されておらず、標準治療ではありません。
また、手術ができないがんで、遠隔転移がない場合には、がんの進行を遅らせたり、内ろう(胆道ステント)がふさがってしまうのを防いだり、痛みを和らげたりすることなどを目的として放射線治療を行う場合があります。しかし、この効果も現時点では十分に証明されておらず、いずれの場合も標準治療ではありません。
6.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときはいつでも受けることができます。
なお、支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。本人にしかわからないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。
7.リハビリテーション
一般的に、治療中や治療終了後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などをリハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師に確認しましょう。
8.転移・再発
転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れなどに乗って別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。また、再発とは、治療により縮小したりなくなったりしたようにみえたがんが再び出現することをいいます。
1)転移
胆道がんは、周囲のリンパ節、肝臓、肺などの臓器に転移したり、膵臓などの周囲の臓器に浸潤(がんが周囲に染み出るように広がっていくこと)したりすることがあります。治療は転移の状況に合わせて行いますが、多くの場合薬物療法を検討します。骨に転移した場合は、痛みを和らげる目的で放射線治療を行うこともあります。
2)再発
がんを切除した部位やその近くに起こる局所再発のほか、腹膜にがんが散らばる腹膜播種として見つかることがあります。再発の場合も薬物療法が治療の中心となります。