前立腺がんでは、最初にPSA検査を行い、基準値を超えているときは直腸診を行います。これらの検査で前立腺がんが疑われる場合には、MRIを用いた画像検査を実施して確認し、最終的に経直腸エコーを用いた前立腺生検を行ってがんかどうかを診断します。がんの広がりや転移の有無は画像検査(全身MRI検査、CT検査、骨シンチグラフィなど)で調べます。
1.PSA検査
PSA(前立腺特異抗原)は前立腺でつくられるタンパク質の一種で、前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられています。がんや炎症により前立腺組織が壊れると、PSAが血液中にもれ出し、血液中のPSA量が増加します。前立腺がんが疑われる場合は、まず、血液検査によってPSA値を測定し、前立腺がんの可能性を調べます。
PSAの基準値は一般的には4.0ng/mL以下とされますが、年齢とともに上昇することを考慮して、50~64歳で3.0ng/mL以下、65~69歳で3.5ng/mL以下、70歳以上で4.0ng/mL以下が推奨されています。ただし、PSA値が10ng/mL以上でも前立腺がんが発見されないことがある一方で、基準値以下であっても前立腺がんが発見されることがあります。また、PSA値が100ng/mLを超える場合には前立腺がんが強く疑われ、すでに転移が起こっている可能性もあります。
PSA検査は、症状などから前立腺がんの可能性が疑われる場合だけではなく、職場や自治体のがん検診で実施されることもあります。なお、PSA値は前立腺肥大症や前立腺炎などがん以外の病気で上昇することもあります。
2.直腸診
直腸診は、医師が肛門から指を挿入して前立腺の状態を確認する検査です。前立腺の表面に凹凸があったり、左右非対称であったりした場合には前立腺がんを疑います。
3.画像検査
画像検査(画像診断)はMRI検査、CT検査、骨シンチグラフィなどを必要に応じて行います。
MRI検査は、磁気を使用して、体の内部をさまざまな方向の断面画像として映し出す検査です。がんの有無や場所の確認、がんが前立腺の外に広がっていないか、リンパ節などに転移がないかについて調べるために行います。なお、生検の後にMRI検査を行う場合は、生検に伴う出血がMRIの診断能力を低下させるため、一定の間隔を空けてから行います。
CT検査は、X線を使って体の内部の様子を画像に映し出す検査です。リンパ節や遠隔臓器への転移の有無を調べるために行います。
CT検査、MRI検査は共に、造影剤を使用することがあるため、アレルギー反応が起こることがあります。薬剤によるアレルギー反応を起こした経験のある方は必ず担当医に伝えてください。
骨シンチグラフィは、微量の放射線を出す物質を含んだ薬剤を静脈から注射し、薬剤が骨にあるがんに集まる様子を画像に映し出す検査です。骨転移の有無を調べるために行います。
4.前立腺生検
自覚症状、PSA値、直腸診、MRI検査などから前立腺がんが疑われる場合、診断を確定するために前立腺生検を行います。前立腺生検では、まず肛門から超音波を発する器具(プローブ)を挿入し、経直腸エコー(経直腸超音波検査)による画像を観察しながら、前立腺に細い針を刺して複数カ所の組織を採取します。方法は、肛門から針を刺す経直腸生検と肛門と陰嚢の間の皮膚から針を刺す経会陰生検があります(図2)。採取した組織を顕微鏡で観察し、がん細胞の有無を調べます。
近年では、複数の画像を組み合わせて評価するMRI検査(mpMRI:マルチパラメトリックMRI)で生検の必要性を確認してから実施することもあります。また、経直腸エコーの画像にMRI検査の画像を組み入れて、異常部位をねらって検査することもできるようになっています(MRI標的生検)。
前立腺生検でがんが発見されなくても、PSA検査を継続的に実施して、PSA値が上昇したり高値が続いたりする場合には、再び生検を行うことがあります。
前立腺生検の合併症には、出血、感染、排尿困難などがあります。頻度の高いものは血尿、血便のほか、精液に血が混じる血精液症です。感染症の予防のために、生検前に抗菌薬を服用します。重い感染症はまれですが、生検のあとに発熱などの症状がある場合には、他の症状とあわせてすぐに担当医に伝えることが大切です。