胃がんの治療には、内視鏡治療、手術、薬物療法、緩和ケアなどがあります。
1.病期と治療の選択
治療法は、がんの進み具合を示すステージ(病期)やがんの性質、体の状態などに基づいて検討します。胃がんの治療を選択する際には、次のことを調べます。
1)ステージ(病期)
がんの進行の程度は、「ステージ(病期)」として分類します。ステージは、ローマ数字を使って表記することが一般的で、Ⅰ期(ステージ1)・Ⅱ期(ステージ2)・Ⅲ期(ステージ3)・Ⅳ期(ステージ4)と進むにつれて、より進行したがんであることを示しています。なお、胃がんではステージのことを進行度ということもあります。
胃がんのステージはⅠ期~Ⅳ期まであり、次のTNMの3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決まります。
Tカテゴリー:がんの深達度(がんの深さ)(図5)
Nカテゴリー:領域リンパ節(胃の近くにあるリンパ節)への転移の有無
Mカテゴリー:遠隔転移(がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移)の有無
胃がんでは、がんの深達度が粘膜および粘膜下層にとどまるT1のものを「早期胃がん」といい、粘膜下層を越えて広がるものを「進行胃がん」といいます。
なお、胃がんの治療方針を決めるためのステージ(病期)には、臨床分類と病理分類の2つの分類があります。
(1)臨床分類
臨床分類は、治療方針を決めるときに使う分類です。画像診断や生検、審査腹腔鏡などの結果に基づいてがんの広がりを推定します(表1)。
(2)病理分類
病理分類は、手術で切除した病変を病理診断し、実際のがんの広がりを評価した分類です。術後補助化学療法が必要かどうかなど、手術後の治療方針を判断したりするときなどにも使われます(表2)。病理分類による分類は、手術前の検査によって推定した臨床分類と一致しない場合があります。
2)治療の選択
治療は、がんの進行度(ステージ)に応じた標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、担当医と話し合って決めていきます。
図6は、胃がんの標準治療を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
遠隔臓器(胃以外の臓器)やリンパ節への転移がなく、がんの深達度が粘膜層までの場合は、内視鏡治療(内視鏡的切除)が中心です。がんが粘膜下層に達しているときは、手術(外科治療)を検討します。手術後には、切除した病変の病理分類を行い、必要に応じて薬物療法が行われることがあります。遠隔臓器への転移がある場合には、状況によって、薬物療法などの治療法を検討します。
なお、内視鏡治療の対象になるかどうかに関する詳細は、「胃がん 治療 2.内視鏡治療 1)内視鏡治療の方法」をご覧ください。
3)妊娠・出産について
がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊孕性を温存すること(妊娠するための力を保つこと)が可能かどうかを、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
2.内視鏡治療(内視鏡的切除)
内視鏡を使って胃の内側からがんを切除する方法で、がんが粘膜層にとどまっている場合に行われます。リンパ節転移の可能性がごく低い早期のがんで、一度に切除できると考えられる場合に行うのが原則です。手術と比べると、体に対する負担が少なく、がんの切除後も胃が残るため、食生活への影響が少ない治療法です。
内視鏡治療でがんが確実に取りきれたかどうかは、病理診断で確認します。がんが確実に取りきれ、リンパ節転移の可能性が極めて低い場合(根治度A、B)には、経過を観察します。がんが確実に取りきれなかったものの、転移の可能性がごく低い場合(根治度C1)には、再度内視鏡による治療が行われたり、慎重に経過を観察したりするなどします。一方、がんが内視鏡治療では取りきれなかった、あるいは取りきれているが、深さが粘膜下層まで達しているなどの理由でリンパ節転移の可能性がある場合(根治度C2)は、後日、追加で手術が必要となります(図6)。
1)内視鏡治療の方法
内視鏡の先端から、スネアと呼ばれる輪状の細いワイヤーをかけて、病変を切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR)(図7)、高周波ナイフで粘膜下層から病変をはぎ取るように切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります(図8)。
EMRはがんの大きさが2cm以下で潰瘍のない病変が実施の条件ですが、ESDは2cmを超える潰瘍のない病変や、3cm以下の潰瘍のある病変でも行われます。
2)内視鏡治療の合併症
治療後に、出血や胃に穴が開く穿孔が起こることがあります。出血や穿孔が起こると、吐き気や嘔吐などの症状が出てきます。その他にも、腹痛やめまいなど、治療後に何らかの体調の変化を感じたときには、医師や看護師に伝えることが必要です。
3.手術(外科治療)
遠隔転移がなく、内視鏡治療による切除が難しい場合には、手術による治療が推奨されています。手術には、おなかを20cmほど切開する開腹手術と、おなかに小さい穴を開けてそこから専用の器具を挿入して手術を行う腹腔鏡下手術、ロボット支援下腹腔鏡下手術があります。
なお、腹腔鏡下手術やロボット支援下腹腔鏡下手術が推奨されるかどうかは、がんの進行度などによって異なります。また、十分な知識や経験をもつ医師が行うことなどの条件があり、実施できる施設は限られています。この手術が可能かどうかは、担当医とよく相談してください。
1)手術の方法
手術では、がんと胃の一部またはすべてを取り除きます。同時に胃の周囲のリンパ節を取り除くリンパ節郭清や、食べ物の通り道をつくり直す再建手術(消化管再建)も行われます。
(1)胃の切除範囲
切除する胃の範囲は、がんのある部位と進行度によって決まります。胃の切除範囲によっていくつかの方法があり、代表的なものは、胃全摘術、幽門側胃切除術、幽門保存胃切除術、噴門側胃切除術です(図9)。
(2)リンパ節郭清
胃を切除する際に、胃の周囲にあるリンパ節も切除します。胃のすぐそばのリンパ節と、胃から少し離れたリンパ節を合わせて切除する「D2リンパ節郭清」が標準的に行われます。早期がんで、リンパ節転移がない場合には、郭清するリンパ節の範囲を狭くした「D1リンパ節郭清」または「D1+リンパ節郭清」が行われます。
(3)消化管再建
消化管再建とは、胃の切除手術の際に、食道と残った胃や腸などの消化管を縫い合わせてつなぎ、新しく食べ物の通り道をつくり直すことです。再建の方法にはいくつかの種類があり、胃の切除範囲などによって決まります。
(4)周辺臓器の合併切除
胃の周囲にある、肝臓、横隔膜、膵臓、胆のう、横行結腸などの臓器にがんが浸潤している場合、胃の切除と同時に、これらの臓器の一部を切除することがあります。これを他臓器合併切除といい、がんを完全に切除することを目指して行われます。
2)手術の合併症
胃がんの手術に伴う主な合併症として、縫合不全や膵液漏、これらに伴う腹腔内膿瘍などがあります。
(1)縫合不全
手術のときに消化管を縫い合わせたところがうまくつながらなかった場合に、つなぎ目から食べ物や消化液が漏れることを縫合不全といいます。炎症が起こり痛みや熱が出ます。縫合不全になると腹膜炎が起こり、再手術が必要になる場合があります。
(2)膵液漏
膵臓の周りのリンパ節郭清を行ったときに、一時的に膵液が漏れ出すことを膵液漏といいます。膵液は、タンパク質や脂肪を分解する酵素を含むので、膵液漏が起こると、周囲の臓器や血管を溶かし、感染が起こって膿瘍(膿がたまること)ができたり、出血を起こしたりすることがあります。
(3)腹腔内膿瘍
縫合不全や膵液漏によって感染が起こり、おなかの中にできた膿のかたまりを腹腔内膿瘍といいます。膿瘍ができる場所により症状は異なりますが、多くの場合、腹痛や発熱といった症状があらわれます。画像検査で確認し、膿瘍ができていれば、感染を抑えるために抗菌薬を使います。また、膿を外に出すためのカテーテルを体の中に一定期間入れておく場合もあります。
(4)その他、手術後に起こる症状と食事の注意点
胃を切除したあとは、食後に動悸、発汗、めまいなどが起こるダンピング症候群や、貧血などにもなりやすくなるため、食事のとり方や内容にも注意が必要です。詳細は、関連情報「胃がん 療養 2.日常生活を送るうえで 2)手術(外科治療)後に起こる症状と食事の注意点」をご覧ください。
4.薬物療法(化学療法)
胃がんの薬物療法には、大きく分けて「手術によりがんを取りきることが難しい進行・再発胃がんに対する化学療法」と、手術後の再発予防を目的とする「術後補助化学療法」があります。なお、リンパ節転移の状況によっては、手術の前に「術前補助化学療法」が行われる場合もあります。胃がんの薬物療法で使う薬には、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬があります。治療は、これらの薬を単独または組み合わせて、点滴もしくは内服で行います。
細胞障害性抗がん薬は、細胞が増殖する仕組みの一部を邪魔することで、がん細胞を攻撃する薬です。分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質などを標的にして、がんを攻撃する薬です。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ(がん細胞が免疫にブレーキをかけるのを防ぐ)薬です。
薬物療法の効果は、内視鏡検査やCT検査で確認します。また、転移した臓器に対する治療の効果は主にCT検査で確認します。この他に、MRI検査やPET検査などで確認することもあります。
1)手術によりがんを取りきることが難しい進行・再発胃がんに対する化学療法
遠隔転移がある場合など、手術でがんを切除することが難しい場合や、がんが再発した場合に行われます。薬物療法だけでがんを完全に治すことは難しいですが、がんの進行を抑えたり、がんによる症状を和らげたりすることが分かっています。薬物療法を受けることができるかどうかは、以下の条件などを参考に検討します。
- 病理診断が行われ、病理分類が確認されている
- 体の状態を表す指標の1つであるパフォーマンスステータスが0から2である
- 心臓、肝臓、肺などの主な臓器の機能が保たれている
- 他に重い病気がない
治療には、一次化学療法から四次化学療法以降までの段階があります。まずは一次化学療法から始め、治療の効果が低下した場合や、副作用が強く治療を続けることが難しい場合には二次化学療法、三次化学療法、四次化学療法以降と治療を続けていきます(図10)。
どの種類の薬を使うかは、がんの状況や臓器の機能、薬物療法に伴って起こることが想定される副作用、点滴や入院の必要性や通院頻度などについて、本人と担当医が話し合って決めていきます。薬に関する詳しい情報は、治療の担当医や薬剤師などの医療者に尋ねてみましょう。
(1)一次化学療法
一次化学療法では、細胞障害性抗がん薬を用います。なお、胃がんでは、HER2と呼ばれるタンパク質ががん細胞の増殖に関わっている場合があるため、治療前に病理検査を行い、HER2陽性の場合には、HER2タンパク質の働きを抑える分子標的薬を併用することが推奨されています。また、HER2陰性の場合には、免疫チェックポイント阻害薬を併用する場合もあります。
(2)二次化学療法
二次化学療法では、一次化学療法で使用しなかった細胞障害性抗がん薬と分子標的薬を組み合わせて用います。二次化学療法の前には、MSI検査と呼ばれるがんの遺伝子検査を行うことが推奨されています。MSI検査で、MSI-High(遺伝子に入った傷を修復する機能が働きにくい状態)の場合には、免疫チェックポイント阻害薬を用いることもあります。
(3)三次化学療法
三次化学療法では、HER2陰性の場合には、二次化学療法までに使用しなかった細胞障害性抗がん薬、もしくは免疫チェックポイント阻害薬のいずれか、HER2陽性の場合は、一次化学療法、二次化学療法とは異なる種類の分子標的薬を用いることがあります。なお、二次化学療法までに免疫チェックポイント阻害薬を使用した場合は、三次治療で用いることは推奨されていません。
(4)四次化学療法以降
四次化学療法以降は、三次化学療法までで候補になった薬のうち、使用しなかった薬剤に切り替えて治療することを検討します。
2)術後補助化学療法
手術でがんを切除できても、目に見えないようなごく小さながんが残っていて、のちに再発することがあります。こうした小さながんによる再発を予防する目的で行われる化学療法を術後補助化学療法といい、手術後の病理分類で、ステージがⅡまたはⅢの場合に行うことが推奨されています。
手術後の体の状態やがんの進行度を考慮し、細胞障害性抗がん薬の内服か、細胞障害性抗がん薬の内服と他の種類の細胞障害性抗がん薬の点滴を併用する方法を検討します。
3)薬物療法の副作用
細胞障害性抗がん薬は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えるため、口内炎、吐き気、脱毛、下痢などの症状や、血液中の白血球や血小板などの数が少なくなる骨髄抑制、肝機能や腎機能が悪化するなどの副作用が起こることがあります。副作用の有無や程度は人により異なりますが、最近は副作用を予防する薬も開発され、特に吐き気や嘔吐は、以前と比べて予防ができるようになってきました。
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は、薬ごとにさまざまな副作用があらわれます。自分が受ける薬物療法について、いつどんな副作用が起こりやすいか、どう対応したらよいか、特に気をつけるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医に確認しておきましょう。
5.免疫療法
免疫療法は、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。2022年7月現在、胃がんの治療に効果があると証明されている方法は、免疫チェックポイント阻害薬を使用する治療法のみです。その他の免疫療法で、胃がんに対して効果が証明されたものはありません。免疫チェックポイント阻害薬を使う治療法は、薬物療法(化学療法)の1つでもあります。
6.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う体の痛みだけではなく、心の痛みや社会的なつらさを和らげます。決して終末期だけのものではなく、がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。
胃がんが進行した場合は、消化管が狭くなることによる吐き気や嘔吐、腹水や腹水がたまることによる腹痛、だるさや倦怠感などの症状があらわれることがあります。このような症状や、本人にしか分からないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。なお、胃の出口がふさがっている場合は、食事ができるように、ステントと呼ばれるチューブのような器具を入れる治療が勧められることもあります。
7.リハビリテーション
リハビリテーションは、がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力の維持・向上のために行われます。また、緩和ケアの一環として、心と体のさまざまなつらさを和らげる目的でも行われます。
一般的に、治療の途中や終了後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などを、リハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師に確認しましょう。
8.再発した場合の治療
再発とは、治療によって、見かけ上なくなったことが確認されたがんが、再びあらわれることです。原発巣(最初にがんができた臓器)やその近くに、がんが再びあらわれることだけでなく、別の臓器で「転移」として見つかることも含めて再発といいます。
胃がんの場合は、初回の内視鏡治療あるいは手術(外科手術)で、目で見える範囲のがんをすべて取り除いたあとや、術後補助化学療法のあとに、治療した場所または離れた別の臓器やリンパ節に再びがんが見つかることをいいます。胃がんの転移には、主に肝臓や肺などに転移する血行性転移、リンパ行性転移、腹膜播種があります。
再発した場合の治療は、再発した部位、体の状態や前回の治療法とそのときの効果などにより決まります。薬物療法(化学療法)による治療が一般的です。
2022年07月26日 | 「胃癌治療ガイドライン医師用 2021年7月改訂【第6版】」より、内容を更新しました。 |
2019年04月08日 | 「胃癌治療ガイドライン医師用 2018年1月改訂(第5版)」「胃癌取扱い規約 第15版(2017年10月)」により、内容を全面的に更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2016年02月10日 | 「2.治療成績」の5年相対生存率データを更新しました。 |
2015年10月31日 | 「胃癌治療ガイドライン 2014年第4版」などにより、「4.化学療法」などを更新しました。 |
2015年10月31日 | 最新の情報を確認し、「3.自分にあった治療法を考える」などを更新しました。 |
2015年03月16日 | 図の出典を更新しました。 |
2014年10月03日 | 5年相対生存率データを更新しました。 |
2013年03月26日 | 内容を更新しました。 |
2013年02月14日 | 「内視鏡治療」の図を更新しました。 |
2012年11月27日 | 「治療に伴う合併症とその対策」を追加しました。 |
2012年11月27日 | 「手術(外科治療)」「腹腔鏡下胃切除」を更新しました。 |
2012年11月02日 | 「治療成績」を更新しました。 |
2012年10月29日 | 「内視鏡治療」「薬物療法(抗がん剤治療)」を更新しました。 |
2012年10月26日 | 更新履歴を追加しました。 |
2012年10月15日 | 内容を更新しました。 |
2012年06月22日 | 内容を更新しました。 |
2012年06月05日 | 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2007年04月02日 | 掲載しました。 |