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胃がん(いがん)

更新・確認日:2015年10月31日 [ 履歴 ]
履歴
2015年10月31日 最新の情報を確認し、「5.疫学・統計」などを更新しました。
2012年12月04日 内容を更新しました。
2012年10月26日 更新履歴を追加しました。
2012年06月05日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2007年04月02日 掲載しました。

1.胃について

胃は食道と小腸の間に位置する袋状の臓器です(図1)。胃の入り口部分は食道との境目にあたり噴門部(ふんもんぶ)と呼ばれ、中心部分は胃体部といいます。胃の出口は小腸の一部である十二指腸とつながっており、幽門部(ゆうもんぶ)と呼ばれます。

胃の壁は内側から順に、胃液や粘液を分泌(ぶんぴ)する粘膜、粘膜を支える粘膜筋板、粘膜と固有筋層をつなぐ粘膜下層、胃の動きを担当する固有筋層、胃全体を包む薄い膜である漿膜(しょうまく)の5層に大別されます。

胃の主な役割は、食物を一時的に貯蔵し、その食物を消化することです。食物を食べると、喉から食道を通って胃に入ります。食道は、単なる食物の通り道にすぎませんが、胃は胃袋とも呼ばれ、食物をしばらくためておくことができます。その間に固形状の食物を砕いて細かくしたり、胃液と混ぜ合わせ粥(かゆ)状になるまで消化し、適量ずつ十二指腸へ送り出します。
【胃の働きについて】
食物の消化と栄養の吸収は主に小腸の役割ですが、ビタミンB12、鉄、カルシウムは胃で吸収されます。胃の粘膜から分泌される胃液には、塩酸と消化酵素のペプシノゲンが含まれています。また、胃液の分泌(ぶんぴ)を調節するガストリンというホルモンも分泌されています。塩酸は強い酸性で、胃の中を殺菌し、一定時間蓄えられた食物の腐敗を防ぎます。ペプシノゲンは塩酸と混じると分解され、ペプシンに変化し、タンパク質を分解して食物をどろどろの粥状にする役割があります。胃の動きと胃液の働きによって、粥状になった胃の内容物は適量ずつ十二指腸に送り出され、小腸で効率のよい消化吸収が行われ、食後数時間から半日くらいは食事をする必要がないようにできています。
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図1 胃の構造
図1 胃の構造の図

2.胃がんとは

胃がんは、胃の壁の最も内側にある粘膜内の細胞が、何らかの原因でがん細胞になって無秩序に増殖を繰り返すことで生じます。胃がん検診などで見つけられる大きさになるまでには、何年もかかるといわれています。大きくなるにしたがってがん細胞は胃の壁の中に入り込み、外側にある漿膜(しょうまく)やさらにその外側まで侵食し、近くにある大腸や膵臓(すいぞう)にも広がっていきます。がんがこのように広がることを浸潤(しんじゅん)といいます。

がん細胞の組織型(細胞を顕微鏡で観察した外見)分類では、胃がんのほとんどを腺がんが占めています。細胞の分化度は、大きく分類すると分化型と未分化型に分けられ、一般的に、分化型は進行が緩やかで、未分化型はがん細胞の増殖が速いため進行が速い傾向があるといわれています。なお、未分化型は、特殊なタイプの胃がんであるスキルス胃がんだと誤解されることがありますが、未分化型であっても深達度(しんたつど)の浅い早期がんもあり、分化型でスキルス胃がんになることもあります。
【スキルス胃がんについて】
スキルス胃がんは胃がんの10%前後を占めており、女性や若年者の胃がんにもみられます。がんの進行に伴い吐き気や上腹部痛、上腹部膨満感など、さまざまな症状が出現しますが、スキルス胃がんに特有の症状はありません。また、スキルス胃がんは、胃の壁の中をしみこむように浸潤し、粘膜の表面にはあまりあらわれないため、内視鏡検査でも診断が難しいことがあります。また、腹膜播種(ふくまくはしゅ)やリンパ節転移の頻度が高いため、治癒切除が困難なことが多く、予後が悪い傾向にあり、治療が難しい胃がんの種類の1つです。近年、抗がん剤による治療効果の向上が期待されています。
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3.胃がんの原因

胃がんの発生については多くの研究が行われており、いくつかのリスク要因が指摘されています。中でも、喫煙や食生活などの生活習慣や、ヘリコバクターピロリ菌の持続感染などが胃がん発生のリスクを高めると評価されています。食生活については、塩分の多い食品の過剰摂取や、野菜、果物の摂取不足が指摘されています。

日本人のヘリコバクターピロリ菌の感染率は、中高年で高く、若年層では近年低下傾向にあります。ヘリコバクターピロリ菌に感染した人のすべてが胃がんになるわけではありませんが、現在、除菌療法が胃がんにかかるリスクを低くするという研究結果が集積されつつあります。感染していることがわかれば除菌療法が推奨され、定期的な胃の検診を受けることが勧められます。感染の有無に関わらず、禁煙する、塩や高塩分食品のとり過ぎに注意する、野菜、果物が不足しないようにするなどの配慮が重要となります。

4.症状

胃がんは、早い段階で自覚症状が出ることは少なく、かなり進行しても無症状の場合があります。代表的な症状は、胃の痛み・不快感・違和感、胸やけ、吐き気、食欲不振などがありますが、これらは胃がん特有の症状ではなく、胃炎や胃潰瘍(いかいよう)の場合でも起こります。検査をしなければ確定診断はできませんので、症状に応じた胃薬をのんで様子をみるよりも、まずは医療機関を受診し、検査を受けることが重要です。症状の原因が、胃炎や胃潰瘍の場合でも、内視鏡検査などで偶然に、早期胃がんが発見されることもあり、貧血や黒色便が発見のきっかけになる場合もあります。食事がつかえる、体重が減る、といった症状は、進行胃がんの可能性もあるため、早めに医療機関を受診する必要があります。

5.疫学・統計

胃がんの罹患(りかん)率は40歳代後半以降に高くなります。日本全体では、一昔前の同年代の人々と比べると、人口10万人あたりの罹患率は男女とも大きく減ってきていますが、高齢化のために胃がんにかかる人の全体数は横ばいです。がんで亡くなった人の数では、全がんの中で胃がんは2013年時点で男性では2位、女性では3位ですが、以前と比べると、胃がんで亡くなる人の割合は減ってきています。

罹患率の国際比較では、東アジア(中国、日本、韓国など)や南米で高く、欧米など白人では低くなっています。また、アメリカでは、日系、韓国系、中国系移民の罹患率が白人より高くなっていますが、それぞれの本国在住者よりは低い傾向にあります。一方、日本国内では、東北地方の日本海側で高く、南九州、沖縄で低い「東高西低」型を示しています。

6.胃がん検診

早期胃がんは、多くの患者さんが検診によって発見されています。症状の有無に関わらず、定期的に検診を受けることが、早期発見のために最も重要なことです。

胃の検査方法として一般的なものは、胃X線検査および胃内視鏡検査です。
【胃がん検診について、さらに詳しく】

1)胃X線検査

胃X線検査は、バリウム(造影剤)と発泡剤(胃をふくらませる薬)をのみ、胃の中の粘膜を観察する検査です。胃がんを見つけることが目的ですが、良性の病気である潰瘍やポリープも発見されます。検査の感度(全がんを分母としたときの見つけることのできるがんの頻度)は、70~80%です。検査当日は朝食が食べられないなど、検査を受ける際の注意事項があります。検査に伴って起こりうる有害事象としては、検査後の便秘やバリウムの誤嚥(ごえん)などがあります。

2)内視鏡検査

胃の中を内視鏡で直接観察する検査です。内視鏡を口や鼻から挿入するため、検査の準備として、喉や鼻の麻酔、鎮静剤や鎮痛剤などの注射を用いることがあります。内視鏡検査は、胃の中の小さな病変を直接見つけることが可能で、胃X線検査でがんなどが疑われた場合でも、確定診断をつけるための精密検査として行われます。ただし、注射や麻酔によるショック、出血や穿孔(せんこう:胃の壁に穴が開いてしまうこと)といったことがまれにあるため、検査の準備と内容については、検査前に担当医にご確認ください。

3)ペプシノゲン検査

血液検査によって、胃粘膜の萎縮度(いしゅくど)を調べます。胃がんを直接見つけるための検査ではありませんが、一部の胃がんは萎縮の進んだ粘膜から発生することがあるため、この検査をきっかけにして胃がんが発見されることがあります。陽性と判定された場合は、検診を受けることが望ましいといえます。

4)ヘリコバクターピロリ抗体検査

血液検査などによって、ヘリコバクターピロリ菌に感染している、または、感染したことがあるかどうかを調べることができます。ヘリコバクターピロリ菌感染は、胃がんの発生リスクを高めますが、感染した人がすべて胃がんになるわけではありません。この検査では胃がんの診断はできないので、基本的には胃X線検査や内視鏡検査を受けることが勧められます。
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【参考文献】
  1. 日本胃癌学会編:胃癌取扱い規約 第14版(2010年3月);金原出版
  2. 日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン 2014年第4版;金原出版
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更新・確認日:2015年10月31日 [ 履歴 ]
履歴
2015年10月31日 「3.がんと言われたとき」を更新しました。
2012年10月26日 更新履歴を追加しました。
2012年06月05日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2007年04月02日 掲載しました。

1.がんの診療の流れ

この図は、がんの「受診」から「経過観察」への流れです。大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。あなたらしく過ごすためにお役立てください。

がんの疑い

  「体調がおかしいな」と思ったまま、放っておかないでください。なるべく受診しましょう。
   

受診

  受診のきっかけや、気になっていること、症状など、何でも担当医に伝えてください。メモをしておくと整理できます。いくつかの検査の予定や次の診察日が決まります。
   

検査・診断

  検査が続いたり、結果が出るまで時間がかかることもあります。担当医から検査結果や診断について説明があります。検査や診断についてよく理解しておくことは、治療法を選択する際に大切です。理解できないことは、繰り返し質問しましょう。
   

治療法の
選択

  がんや体の状態に合わせて、担当医は治療方針を説明します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの方と話し合ってください。あなたの希望に合った方法を見つけましょう。
   

治療

  治療が始まります。治療中、困ったことやつらいこと、小さなことでも構いませんので、気が付いたことは担当医や看護師、薬剤師に話してください。よい解決方法が見つかるかもしれません。
   

経過観察

  治療後の体調の変化やがんの再発がないかなどを確認するために、しばらくの間、通院します。検査を行うこともあります。

2.受診と相談の勧め

がんという病気は、患者さんごとに症状のあらわれ方が異なります。また、症状がなく検診でがんの疑いがあると言われることもあります。何か気にかかる症状があるときや、詳しい検査が必要と言われたときには、医療機関を受診してください。疑問や不安を抱きながらも問題ないとご自身で判断したり、何か見つかることを怖がって、受診を控えたりすることのないようにしましょう。受診して医師の診察を受け、症状の原因を詳しく調べることで、問題がないことを確認できたり、早期診断に結び付いたりすることがあります。

がん診療連携拠点病院などのがん相談支援センターでは、がんについて知りたい、話を聞きたいという方の相談をお受けしていますので、お気軽に訪ねてみてください。その病院にかかっていなくても、どなたでも無料で相談できます。対面だけでなく、電話などでも相談することができますので、わからないことや困ったことがあったらお気軽にご相談ください。

詳しくは、「がんの相談窓口『がん相談支援センター』」をご覧ください。

お近くのがん相談支援センターは「がん相談支援センターを探す」から検索することができます。

3.がんと言われたとき

がんという診断は誰にとってもよい知らせではありません。ひどくショックを受けて、「何かの間違いではないか」「何で自分が」などと考えるのは自然な感情です。

病気がどのくらい進んでいるのか、果たして治るのか、治療費はどれくらいかかるのか、家族に負担や心配をかけたくない…、人それぞれ悩みは尽きません。気持ちが落ち込んでしまうのも当然です。しかし、あまり思い詰めてしまっては、心にも体にもよくありません。

この一大事を乗りきるためには、がんと向き合い、現実的かつ具体的に考えて行動していく必要があります。そこで、まずは次の2つを心がけてみませんか。

1)情報を集めましょう

まず、自分の病気についてよく知ることです。病気によってはまだわかっていないこともありますが、その中で担当医は最大の情報源になります。担当医と話すときには、あなたが信頼する人にも同席してもらうといいでしょう。わからないことは遠慮なく質問してください。
病気のことだけでなく、療養生活のこと、経済的なこと、薬のこと、食事のことのような身の回りに関しては、看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、栄養士などが専門的な経験や視点であなたの支えになってくれます。

また、あなたが集めた情報が正しいかどうかを、あなたの担当医に確認することも大切です。

「知識は力なり」。正しい知識は、あなたの考えをまとめるときに役に立ちます。

2)病気に対する心構えを決めましょう

大きな病気になると、積極的に治療に向き合う人、治るという固い信念を持って臨む人、なるようにしかならないと受け止める人などいろいろです。どれがよいということはなく、その人なりの心構えでよいのです。そのためには、あなたが自分の病気のことをよく知っていることが大切です。病状や治療方針、今後の見通しなどについて担当医からよく説明を受け、いつでも率直に話し合い、その都度十分に納得した上で、病気に向き合うことに尽きるでしょう。

情報不足は、不安と悲観的な想像を生み出すばかりです。あなたが自分の病状について理解した上で治療に取り組みたいと考えていることを、担当医や家族に伝えるようにしましょう。

率直に話し合うことが、担当医や家族との信頼関係を強いものにし、しっかりと支え合うことにつながります。
更新・確認日:2016年07月14日 [ 履歴 ]
履歴
2016年07月14日 「図2 胃がん診断の流れ」から著作権マークを削除しました。
2015年10月31日 胃生検組織診断分類の説明などを更新しました。
2015年03月16日 図3、図4を更新しました。
2012年10月26日 更新履歴を追加しました。内容を更新しました。
2012年06月05日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2007年04月02日 掲載しました。

1.検査

胃がんが疑われると、まず血液検査や胃X線検査、内視鏡検査などを行い、病変の有無や場所を調べます(図2)。内視鏡検査では胃の内部を目視で観察し、がんが疑われる病変があると生検を行い、病理検査・病理診断で確定診断します。胃がんの進み具合や深達度(しんたつど)転移を調べる検査としては、超音波検査(エコー検査)CT検査、注腸検査などがあります。

さまざまな検査結果を総合的に判断して病期(ステージ)が判定され、治療方法が決まっていきます。
図2 胃がん診断の流れ
図2 胃がん診断の流れの図

1)血液検査

胃がんではCEAやCA19-9と呼ばれる腫瘍マーカーなどを検査します。多くの腫瘍マーカーには、正常な状態や良性の腫瘍の場合にも数値が上昇すること、早期がんのうちは正常値であることが多いこと、がんがあっても必ず数値が上昇するとは限らないことなどから、腫瘍マーカーの結果だけではがんの有無を診断することはできません。通常は、手術後の再発のチェックや薬物療法の効果判定の参考に使われます。

2)内視鏡検査

胃の内部を直接見て、がんが疑われる病変の場所や、その病変の広がり(範囲)と深さ(深達度)を調べる検査です(図3)。病変があればその組織のごく一部を採取する生検を行い、病理診断をすることもあります。

がんの深達度を詳しく調べるために超音波内視鏡検査が実施される場合があります。
図3 内視鏡検査の様子
図3 内視鏡検査の様子の図
【内視鏡検査の手順について】

(1)検査方法・目的

内視鏡検査では、先端にレンズとライトが付いた細い管(くだ)状の内視鏡(ビデオスコープ)を口から胃の中に挿入します。最近は、鼻から内視鏡を挿入して検査を行う経鼻内視鏡検査も普及しています。胃の内部を直接目で見て観察できるため、胃がんと思われる病変があるかどうかを確認することができ、がんの範囲や深達度などを診断します。
病変ががんかどうかを診断するために、その組織の一部を小さく採取する生検を行い、採取した組織の病理検査により病理診断が行われます。

(2)検査の準備

検査の準備(前処置)は、まず胃の粘膜に付着している粘液を洗い落とす薬をのみ、次に、内視鏡を挿入するときの苦痛を和らげるために、喉に局所麻酔を行います。また、胃の動きを抑えて胃の内部を観察しやすくするように、薬剤を注射する場合もあります。
この検査では、全身麻酔は行いませんが、鎮静剤や鎮痛剤などの注射を用いることがあります。
心臓病、高血圧、その他の慢性疾患の薬と抗血栓薬(血をサラサラにする薬)などを内服している場合は、検査前の内服について担当医へご確認ください。
詳しい検査の準備に関しては、実施する状況によって異なりますので、検査前にご確認ください。

(3)検査時間

病変の有無や胃の状態で変わりますが、通常では10分程度、精密検査や生検を行う場合は20~30分程度です。

(4)注意事項

抗血栓薬を服用中の場合は、生検後の出血が止まりにくい状態となっているため、薬の種類によっては検査を受ける前に薬を中止することがあります。必ず医師に相談してください。
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【超音波内視鏡について】
超音波内視鏡は、先端に超音波を発する端子の付いた特殊な内視鏡スコープを用いたり、内視鏡に超音波プローブ(探触子という超音波を発する部分)の付いた細い管状の機材を挿入したりして、病変の粘膜の下の状態、また胃の壁や外側の様子などを観察する検査です。
胃がんがどのくらい深い層にまで及んでいるか(深達度)、胃の外側にあるリンパ節が腫(は)れているか(リンパ節転移の有無)などについて、詳しく診断することができます。超音波内視鏡は必ず行われるものではなく、通常の内視鏡検査では診断が難しい場合に行われます。
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3)病理検査・病理診断

内視鏡検査の生検で採取した組織を調べ、がん細胞の有無や種類によって胃がんの確定診断を行います。確定診断が難しいときは、内視鏡検査による病理検査と病理診断が何度か行われる場合もあります。

胃がんの確定診断には、胃生検組織診断分類(Group[グループ]分類)が用いられます。
【Group(グループ)分類について、さらに詳しく】
Group(グループ)分類で、胃がんと確定診断されるのは、Group5になります。GroupXからGroup4までは確定診断できないため、結果に応じて経過観察や再検査を行います。
この分類は病期(ステージ)とは異なり、がんか否かを表すもので、胃がんの進み具合を表す言葉ではありません。
表1 胃がんのGroup分類
Group分類 病理診断 検査後の対応
GroupX 生検組織診断ができない不適材料 再生検
Group1 正常組織および非腫瘍性病変 必要に応じて経過観察
Group2 腫瘍(腺腫または癌)か非腫瘍性か判断の困難な病変 再検査や経過観察
Group3 腺腫 経過観察や必要時は内視鏡治療(EMR、ESDなど)を行う
Group4 腫瘍と判定される病変のうち癌が疑われる病変 再検査や内視鏡治療 (EMR、ESDなど)を行い確定診断を試みる
Group5 胃がんと確定診断され治療法を検討する
日本胃癌学会編「胃癌治療ガイドライン2014年第4版」(金原出版)より作成
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4)胃X線検査(バリウム検査)

バリウムをのんで、胃の形や粘膜などの状態や変化をX線写真で確認する検査です。途中で発泡剤をのんで胃をふくらませます。

手術の前に胃がんの状態を詳しく診断する方法としては、徐々に内視鏡検査が中心になってきており、特に内視鏡治療を行う場合は、胃X線検査が省略される傾向にあります。
【胃X線検査(バリウム検査)の手順について】

(1)検査方法・目的

X線を透過しない硫酸バリウムという物質を含んだ造影剤と、胃の中でガスを発生する発泡剤をのみ、空気とバリウムで胃の中の細部の様子や変化を写し出す検査です。台の上で体を回したり、いろいろな方向に向けながら検査を受けます。
がんの範囲を詳しく決定するなどの目的で行われる精密検査では、胃ゾンデと呼ばれる細い管を鼻から胃の中まで挿入し、空気や造影剤の量を少しずつ調節しながら行う場合があります。
胃X線検査では、胃の形や粘膜表面の状態だけではなく、胃の壁の動きや硬さの変化なども観察することができ、がんの有無や浸潤の範囲、深達度などの診断ができます。
内視鏡検査と異なり、胃やがんを全体的に診察することが可能なため、手術の場合は胃の切除範囲を決定する検査方法の1つとなります。
ただし、この検査だけでは確定診断はできません。

(2)検査の準備

心臓病、高血圧、その他慢性疾患で毎朝薬を服用している方は必ず医師に相談してください。
詳しい検査の準備に関しては、実施する状況によって異なりますので、検査前にご確認ください。

(3)検査時間

通常は5~10分程度ですが、精密検査を行う場合には30分程度かかることもあります。
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5)CT検査

X線を使って体の内部を輪切りのように描き出し、撮影する検査です(図4)。別の臓器への遠隔転移やリンパ節への転移、肝臓など胃の周りの臓器への浸潤(しんじゅん)などを調べます。
CTではヨード造影剤を用いますので、腎臓病や喘息(ぜんそく)、アレルギーのある人は医師に申し出てください。
CT検査の数日前に胃X線検査などのバリウムを使った検査を受ける場合、腸の中にバリウムが残っているとCT検査による診断を妨げることがあります。CT検査の前日までにバリウムが出きっていないと感じる場合には、下剤の追加が必要な場合もあるため医師へご相談ください。
図4 CT検査の様子
図4 CT検査の様子の図

6)PET検査

放射性ブドウ糖液を注射し、その取り込みの分布を撮影することで全身のがん細胞を検出するのがPET検査です。ほかの検査で転移・再発の診断が確定できない場合に行うことがあります。

7)注腸検査

検査の前日に検査食を食べて腸内をきれいにして、肛門からバリウムと空気を注入し(図5)、X線写真を撮ります。注腸検査はもともと大腸がんの有無を調べる検査ですが、胃のすぐ近くを通っている大腸にがんが広がっていないか、腹膜播種(ふくまくはしゅ)がないかなどを調べます。
図5 注腸検査の準備の様子
図5 注腸検査の準備の様子の図
【注腸検査の手順について】

(1)検査方法・目的

検査の前日に検査食を食べて、下剤をのみ、腸内をきれいにしてから検査が行われます。
肛門からバリウムと空気を注入し、X線写真を撮ります。検査中に、大腸の中に空気が入ると、下腹部の張り感を強く感じることがあります。大腸全体をうまく造影するに、体の向きを頻回に大きく変えながら撮影します。

(2)検査の準備

検査の前日夜に下剤をのみます。便を少なくするために、前日に注腸食という食事をとることもあります。
鮮明に大腸の様子が撮影されるために、腸内をきれいにしてから検査を行うことが重要になります。検査食を食べたり、下剤をのんだりすること(前処置)は、よい状態で検査を受けるために重要なため、十分説明を受けてください。
注腸検査の前に胃X線検査(バリウム検査)を行う場合は、バリウムが大腸に残り注腸検査の実施を妨げることがあります。注腸検査の前日までに十分バリウムが出きっていないと感じるときは、下剤の追加が必要な場合もありますので医師へご相談ください。

(3)検査時間

通常はおよそ20~30分です。
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2.病期(ステージ)

胃がんは粘膜に発生し、胃の壁の中を徐々に深く進みます。

病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、英語をそのまま用いてStage(ステージ)という言葉が使われることがあります。病期にはローマ数字が使われ、胃がんはI期(IA、IB)、II期(IIA、IIB)、III期(IIIA、IIIB、IIIC)、IV期に分類されます(図6)。

がんの深さが粘膜および粘膜下層までのものを「早期胃がん」、深さが粘膜下層を越えて固有筋層より深くに及ぶものを「進行胃がん」といいます。がんが胃の壁の内側から外側に向かって深く進むにしたがって、転移することが多くなります。
図6 胃がんの病期(ステージ)分類
図6 胃がんの病期(ステージ)分類の図
日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第14版(2010年3月)」(金原出版)より作成
【深達度について、さらに詳しく】
胃の壁は、5つの層に分かれており、胃の内側から粘膜層(M:mucosa)、粘膜下層(SM:submucosa)、筋層(MP:tunica muscularis propria)、漿膜下層(SS:subserosa)、漿膜(SE:serosa)と呼ばれます。
がんが壁のどの深さまで進んでいるかを示す言葉が深達度です(図7)。
英語のtumor(腫瘍)に由来し、アルファベットの略語で「T」と表示されます。
深達度はT1~T4bまでの5つに分類され、数字が大きくなるほど、胃がんが進行していることを示します。
図7 胃がんの深達度
図7 胃がんの深達度の図
日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第14版(2010年3月)」(金原出版)より作成
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【参考文献】
  1. 日本胃癌学会編:胃癌取扱い規約 第14版(2010年3月);金原出版
  2. 日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン 2014年第4版;金原出版
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更新・確認日:2016年02月10日 [ 履歴 ]
履歴
2016年02月10日 「2.治療成績」の5年相対生存率データを更新しました。
2015年10月31日 最新の情報を確認し、「3.自分にあった治療法を考える」などを更新しました。
2015年03月16日 図5の出典を更新しました。
2014年10月03日 「2.治療成績」の5年相対生存率データを更新しました。
2012年11月02日 「2.治療成績」を更新しました。
2012年10月26日 更新履歴を追加しました。
2012年10月15日 内容を更新しました。
2012年06月05日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2007年04月02日 掲載しました。

1.臨床病期による治療選択

胃がんの治療は、手術(外科治療)、内視鏡治療、薬物療法(化学療法)の3つが中心になり、治療法は「病期(ステージ)」に基づいて決まります。

図8は、病期と治療方法の関係を表したものです。担当医と治療方針について、話し合う際の参考にしてください。また、胃がんの標準治療などが記載されたガイドラインについては「がん情報サービスレファレンスリスト 胃がん」もご参照ください。
図8 胃がんの臨床病期と治療
図8 胃がんの臨床病期と治療の図
日本胃癌学会編「胃癌治療ガイドライン2014年第4版」(金原出版)より作成
【IV期の胃がんに対する治療について】
IV期の胃がんは、遠隔転移を伴っており、がんをすべて取り除くことを目標とする根治手術は難しいと考えられるため、抗がん剤治療(化学療法)が中心となります。

病状によって、遠隔転移があっても、胃がんだけを切除する手術(減量手術)を行ったり、がんからの出血や狭窄のために食事が十分にとれないときは、病変がある胃を切除したり、食物の通り道をつくるバイパス手術が行われる場合もあります。

抗がん剤治療は、現在確立されている標準治療を行いますが、臨床試験に参加して治療を行う選択肢もあります。
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2.治療成績

がんの治療成績を示す指標の1つとして、生存率があります。生存率は通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。こうしたほかの要素の分布(頻度)が異なるため、用いるデータによって、生存率の値が異なる可能性があります。

以下の【胃がんの生存率について、さらに詳しく】に、全国がん(成人病)センター協議会(全がん協)が公表している院内がん登録から算出された5年相対生存率のデータを示します(表2)。このデータは、およそ10年前のがんの診断、治療に基づくものです。したがって、診断や治療の進歩により、現在は下記の数字より治療成績は向上していると考えられます。

データは平均的、かつ確率として推測されるものであるため、すべての患者さんに当てはまる値ではないことをご理解ください。
【胃がんの生存率について、さらに詳しく】
このデータは、2005年から2007年の間に、胃がんの診断や治療を受けた患者さんが対象となっています。治療については、外科治療だけではなく、放射線治療、化学療法、その他の何らかの治療を受けた患者さんが対象となっています。そのため、各施設で公表している、外科治療だけを受けた患者さんを対象とした生存率と、異なる場合があります。

臨床病期については「胃がん 検査・診断-2.病期(ステージ)」をご参照ください。
表2 胃がんの病期別生存率
病期 症例数(件) 5年相対生存率(%)
I 11,507 97.3
II 1,515 65.7
III 1,892 47.2
IV 3,255 7.3
全症例 18,514 73.1
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3.自分に合った治療法を考える

治療方法は、すべて担当医に任せたいという患者さんがいます。一方、自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたいという患者さんも増えています。どちらが正しいというわけではありません。自分の生活や人生において何を大切にするのか、自分で考えることが大切です。

まずは、病状を詳しく把握しましょう。わからないことは、まず担当医に質問してみましょう。診断を聞くときには、病期(ステージ)を確認しましょう。治療法は、病期によって異なります。医療者とうまくコミュニケーションをとりながら、自分に合った治療法であることを確認してください。

担当医と話すときの助けとして「わたしの療養手帳 自分に合った治療法は?患者必携サイトへのリンクもご参照ください。「患者必携 わたしの療養手帳」はさまざまな場合で必要なことを書きとめることができる手帳になっています。印刷もできますので、自分で記入してみて、わからないことや聞いてみたいことを整理してみましょう。

診断や治療法を十分に納得した上で、治療を始めましょう。

担当医以外の医師の意見(セカンドオピニオン)を聞くこともできます。セカンドオピニオンを聞きたいときは、担当医に話してみましょう。多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的なことと理解していますので、快く資料をつくってくれるはずです。

セカンドオピニオンについては「セカンドオピニオンを活用する患者必携サイトへのリンクもご参照ください。

担当医以外でも、看護師などほかの医療スタッフやがん相談支援センターのスタッフに相談することができます。あなたの抱えている問題点を整理し、一緒に考えてくれます。

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【参考文献】
  1. 日本胃癌学会編:胃癌取扱い規約 第14版(2010年3月);金原出版
  2. 日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン 2014年第4版;金原出版
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更新・確認日:2015年10月31日 [ 履歴 ]
履歴
2015年10月31日 「胃癌治療ガイドライン 2014年第4版」などにより、「4.化学療法」などを更新しました。
2013年03月26日 内容を更新しました。
2013年02月14日 「3.内視鏡治療」の図を更新しました。
2012年11月27日 「5.治療に伴う合併症とその対策」を追加しました。
2012年11月27日 「1.手術(外科治療)」「2.腹腔鏡下胃切除」を更新しました。
2012年10月29日 「3.内視鏡治療」「4.薬物療法(抗がん剤治療)」を更新しました。
2012年10月26日 更新履歴を追加しました。
2012年06月22日 内容を更新しました。
2012年06月05日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2007年04月02日 掲載しました。

1.手術(外科治療)

胃がんの標準的な治療法は、手術です。胃を切除する範囲は、がんのある部位と病期(ステージ)の両方から決定します。胃の切除と同時に、胃の周囲のリンパ節を取り除くリンパ節郭清(かくせい)や、食物の通り道をつくり直す再建手術(消化管再建)も行います。

1)手術の種類

手術の方法は、治癒手術(治癒を目的とした手術)と非治癒手術(治癒が難しい場合に症状緩和などを目的とした手術)に大別されます。

治癒手術は、胃の切除範囲とリンパ節郭清の範囲によって、定型手術と非定型手術に、非治癒手術は、目的により緩和手術と減量手術に分けられます。
【手術の種類について、さらに詳しく】

(1)治癒手術

1.定型手術
標準的な術式で、胃がんを完全に切除することを目的とします。胃の2/3以上と、少し離れたリンパ節までを切除します(D2リンパ節郭清*1)。リンパ節転移のある早期胃がんや、進行胃がんが対象になります。

*1 D2リンパ節郭清については、下記の「3)リンパ節郭清 【リンパ節郭清について、さらに詳しく】」を参照してください。
2.非定型手術
縮小手術と拡大手術に大別されます。

●縮小手術
定型手術より、胃の切除範囲やリンパ節郭清の範囲が狭い手術の方法です。リンパ節転移のない早期胃がんが対象になります。

●拡大手術
進行胃がんに対して、定型手術に加えて胃の周辺の別の臓器(膵臓、脾臓[ひぞう]、大腸、肝臓など)も一緒に切除したり、リンパ節郭清を定型手術よりも拡大して行う方法です。

(2)非治癒手術

がんからの出血や狭窄(きょうさく)のために食事が十分にとれないときは、病変がある胃を切除したり、食物の通り道をつくるバイパス手術が行われる場合もあります。
1.緩和手術
出血や狭窄などの症状を改善するために行われます。Ⅳ期の場合、標準治療の1つとなります。
2.減量手術
腫瘍の量を減らすための手術です。腫瘍による症状(出血や狭窄など)の出現を遅らせることや延命を目的として行われます。ただし、標準治療ではないため、病状によって適応が検討されます。
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2)手術の方法

手術の種類は、さらに胃の切除範囲によっていくつかの方法があり、代表的な手術は、胃全摘術、幽門(ゆうもん)側胃切除術、幽門保存胃切除術、噴門(ふんもん)側胃切除術になります。
【手術の方法について、さらに詳しく】

(1)胃全摘術

図9 胃全摘術
図9 胃全摘術の図
噴門(胃の入り口)と幽門(胃の出口)を含めて、胃を全部切除します。病変がある場所が胃の中部から上部付近で、噴門を残す余裕がない場合に行われます。胃と食道の接合部(境目付近)にできたがんが、食道の方にも広がっている場合は、食道(下部食道)も切除します。

(2)幽門側胃切除術

図10 幽門側胃切除術
図10 幽門側胃切除術の図
胃がんのある場所が、胃の中部から下部で、噴門と胃がんの距離が十分離れている場合に行われる術式です。噴門側を約1/3を残して、幽門(ゆうもん:胃の出口)側を約2/3切除します。胃の周囲のリンパ節のつながりは、噴門側の約1/3のところで境界があるため、リンパ節郭清も胃の切除範囲と同様の範囲で行う必要があります。もし、胃の半分程度が残せそうな場合でも、リンパ節郭清を正確に行うために、幽門側を約2/3切除することになります。

(3)幽門保存胃切除術

図11 幽門保存胃切除術
図11 幽門保存胃切除術の図
早期胃がんで、がんのある場所が胃の中部で、幽門側胃切除術の適応の場合、幽門と胃がんの距離が約4cm以上離れていれば、検討される手術の方法です。通常は、胃の上部の約1/3と幽門を残して胃を切除します。早期胃がんの場合、がんを治すのに十分な範囲で胃の機能を温存し、手術を縮小しますが、幽門を残す利点については、専門家の間でも議論される場合があります。

(4)噴門側胃切除術

図12 噴門側胃切除術
図12 噴門側胃切除術の図
早期胃がんで、がんのある場所が噴門側から約1/3の範囲内にあり、噴門を残す余裕がない場合に、検討される手術の方法です。噴門を含めて胃の約1/3を切除します。噴門を残す余裕がなく、病変の位置が、噴門側から1/3を越える場合には胃全摘になります。
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3)リンパ節郭清

胃がんのリンパ節転移は、がん細胞がリンパ液の流れに入って、胃から徐々におなかの深いところにある大動脈の近くまで流れていくことにより、形成されます。手術のときに胃の切除と同時に、周囲のリンパ節を切除することをリンパ節郭清といいます。
【リンパ節郭清について、さらに詳しく】
胃の周囲にあるリンパ節は第1群リンパ節、胃から少し離れたリンパ節を第2群リンパ節、さらに離れたリンパ節(大動脈の周囲など)を第3群リンパ節、というように段階を付けていましたが、現在は第1群リンパ節と第2群リンパ節を合わせて、「領域リンパ節」と呼びます。この領域リンパ節を切除することを「D2リンパ節郭清」といい、標準的に行われるリンパ節郭清の方法です。
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4)消化管再建

消化管再建とは、胃の切除手術と同時に、胃や腸などの消化管を縫い合わせてつなぎ、新しく食べ物の通り道をつくり直すことです。消化管再建の方法は、手術の種類によりいくつかの方法がありますが、それぞれの再建法によって特徴があるため、胃の切除範囲などによって再建法が検討されます。
【消化管再建について、さらに詳しく】

(1)胃全摘術の再建法

食道に空腸をつなぐルーワイ法が一般的です。食道と十二指腸の間に、胃の代用として腸を入れる空腸間置法が行われることもあります。

(2)幽門側胃切除術の再建法

残った胃(残胃[ざんい])と十二指腸を直接つなぎ合わせるビルロートI法や、十二指腸の断端を閉鎖し残胃と空腸(十二指腸から続く上部の小腸)をつなぎ合わせるビルロートII法やルーワイ法があります。

(3)幽門保存胃切除術の再建法

切除後に残胃の上部(噴門)と下部(幽門)をつなぎ合わせる胃胃吻合(いいふんごう)法が行われます。

(4)噴門側胃切除術の再建法

食道と残胃を直接つなぐ食道残胃吻合法や、食道と残胃の間に10〜15cmほどの小腸(空腸)をつなぐ空腸間置法などが用いられます。
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5)周辺臓器の合併切除

胃の周囲を取り囲む臓器は、肝臓、横隔膜、膵臓(すいぞう)、胆のう、横行結腸などです。原発部位や転移した病変がこれらの臓器に直接浸潤した場合、胃の切除と同時に、浸潤している臓器の一部を切除することを、合併切除と呼びます。合併切除は、手術の範囲が広くなりますが、がんを完全に切除し、治癒する目的で行われます。

6)手術に伴う主な合併症と対策

胃がんの手術後の主な合併症は、腹腔内膿瘍(ふくくうないのうよう)、膵液漏(すいえきろう)、創感染(そうかんせん)、腸閉塞(ちょうへいそく)、出血などがあげられます。合併症が起こった場合には、それぞれの状況に応じて治療が行われます。
【手術の合併症と対策について、さらに詳しく】

(1)腹腔内膿瘍

手術のときに消化管を縫い合わせたところがうまくつながらなかった場合に、つなぎ目から食物や消化液が漏れて、炎症が起こり痛みや熱が出ます。吻合部の周囲に膿(うみ)がたまり、さらにおなか全体に膿が広がってしまうと腹膜炎を起こします。それほど高い頻度で発生する合併症ではありませんが、いったん起こると回復に時間がかかります。
対策
縫合不全が起こることが多いのは、手術後に飲水が開始される術後3日目前後のため、手術のあとはおなかに入っている管から出る排液の状態や、腹痛・発熱などの症状がないかを観察し、縫合不全が起きていないか確認します。痛みや発熱が続くなど、縫合不全が疑われる場合には、炎症や感染の広がりを確かめる画像検査(CT検査)や造影剤をのんで実施する胃X線検査が行われ、状況によっては、再び手術で開腹して腹部の中を洗浄する処置が行われます。

(2)膵液漏

膵臓は、タンパク質や脂肪を消化するための膵液を十二指腸に分泌していますが、膵臓の周りのリンパ節郭清を行った影響で、膵臓の表面から一時的に膵液が漏れ出し、周囲の脂肪を溶かしたり、感染を起こして、膿瘍(のうよう)を形成します。内臓脂肪の多い男性に生じることが多く、おなかに入っている管から膿が出なくなるまで、1カ月から2カ月かかることもあります。
対策
基本的な治療法は、腹部にたまっている膵液の混じった浸出液や膿を管より体の外に出す方法で 、ドレナージと呼ばれます。膿が出なくなるまで洗浄する処置を行う場合や、膵液漏の影響で血管から出血が生じたときは、血管造影によって出血を止めます。

(3)創感染

一般的に、手術後は創(きず)を中心に痛みが生じたり、おなかに力を入れることが難しくなったりします。創の痛みは時間の経過とともに少しずつ治まりますが、細菌などで感染が起こると、創が赤くなったり、腫(は)れたり、痛みが強くなったりする場合もあります。
対策
創の痛みには、痛み止めの薬が使われますが、痛みがつらいときには、担当医に相談しましょう。そのときに、痛みの様子(痛い場所や、時々痛むのか、持続的に痛むのかなど)についても、確認して伝えられるようにしておきましょう。

(4)肺塞栓

手術中やその後、長時間体を動かさないでいたことで、足の静脈の中にできた血のかたまりが、肺の血管に流れて詰まることがあります。肺塞栓の症状は、突然の息切れ、胸の痛みを起こすことがあります。
対策
予防のため、手術前には足を圧迫する医療用の弾性ストッキングをはきます。また、手術後に動き出す時期などについては、担当医や看護師にご相談ください。

(5)腸閉塞

手術のあとで、残胃や腸内の食物の流れが悪くなり、便やガスが出なくなることがあります。症状は、おなかの張り感や痛み、吐き気などです。創の周囲の炎症や、手術の影響で生じた癒着などが原因で起こります。
対策
まずは、食事や水分をとらないで保存的に様子をみます。症状の程度によっては、イレウス管と呼ばれる管を挿入し、腸管の減圧をする処置や再手術を行うことがあります。腸閉塞は退院したあとに生じることもありますので、おなかの張り感や痛み、吐き気、ガスが出ないという症状が重なったら、医療機関を受診する必要があります。
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2.腹腔鏡下胃切除

腹腔鏡手術は、腹部に小さい穴を数カ所開けて、専用のカメラや器具で手術を行う方法です。通常の開腹手術に比べて、手術による体への負担が少なく、手術後の回復が早いことが期待されているため、手術件数は増加しています。
胃癌治療ガイドラインでは、治療前の診断の臨床病期がstageⅠで幽門側胃切除術が適応となる場合は、腹腔鏡下胃切除術も治療法の選択肢の1つとなりますが、手術の方法によっては臨床試験による十分な治療成績が明らかにされていません。
開腹手術と比べてリンパ節郭清が難しいこと、消化管をつなぎ直す技術の確立が十分とはいえないことなどから、通常の手術より合併症の発生率がやや高くなる可能性も指摘されています。
また、がんがどれくらい治るかについての長期成績がまだ出ていないのが現状です。腹腔鏡手術を検討する場合には、担当医とよくご相談ください。

3.内視鏡治療

図13 内視鏡治療(イメージ図)
図13 内視鏡治療(イメージ図)の図
内視鏡を使って、胃の内側からがんを切除する方法です。切除後も胃が温存されるため、食生活に対する影響がほとんどなく、生活の質(QOL)を保ちながら、がんの治療を行えることが最大の利点です。

切除の方法には、内視鏡的粘膜切除術(ないしきょうてきねんまくせつじょじゅつ:EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ:ESD)があります。

治療の適応は、早期の胃がんでがんの深さ(深達度)が粘膜にとどまっていて、リンパ節に転移している可能性がない場合です。近年は、治療の適応の拡大や技術的な進歩により、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が普及しています。

内視鏡治療で胃がんが確実に切除されたかどうかは病理検査・病理診断で確認し、内視鏡治療の適応を超えてがんが進行していた場合は、後日、追加の手術(外科治療)が必要となります。
【内視鏡治療について、さらに詳しく】

1) 内視鏡治療の適応条件

内視鏡治療の適応の原則は、胃がんがリンパ節に転移している可能性が極めて低いと考えられるもので、その病変が一括で切除できる大きさと部位にあることです。

胃癌治療ガイドライン【第4版】によると、潰瘍を伴わない2cm以下の、肉眼的に深達度が粘膜内にとどまっていると診断される分化型癌を「絶対適応病変」としており、この病変に対するESD・EMRを日常臨床として推奨しています。

一方で、(1)2cmを超える潰瘍のない分化型の粘膜内の癌、(2)3cm以下の潰瘍がある分化型の粘膜内の癌、(3)2cm以下の潰瘍のない未分化型の粘膜内の癌は「適応拡大病変」として内視鏡治療の対象にしています。しかし、その有効性は現在検証中であるため、臨床研究として行われるべきとされています。これらの適応拡大病変に対しては、一括して切除が可能なESDによる切除が行われます。

切除された病変は、病理診断が行われ、内視鏡治療によって胃がんがリンパ節転移の可能性なしに完全に取りきれたかどうかの評価(根治性の評価)が行われます。内視鏡治療の根治性は胃癌治療ガイドライン【第4版】にしたがい、「治癒切除」、「適応拡大治癒切除」、「非治癒切除」のいずれかに判定されます。

具体的には、腫瘍が一括切除され、切除検体の切り口に癌がなく完全に切除されていて(切除断端陰性)、癌がリンパ管や静脈の中に認められず(脈管侵襲陰性)、かつ腫瘍径が2cm以下、分化型癌で、深達度が粘膜内にとどまっている場合には「治癒切除」と判定されます。

一方で、腫瘍が一括切除され、切除断端陰性、かつ脈管侵襲陰性で、(1)2cmを超える潰瘍のない分化型の粘膜内の癌、(2)3cm以下の潰瘍がある分化型の粘膜内の癌、(3)2cm以下の潰瘍のない未分化型の粘膜内の癌、または(4)3cm以下の分化型かつ深達度が粘膜下層の浅い部分(粘膜筋板から500μm未満)までにとどまっている癌のいずれかであった場合には、「適応拡大治癒切除」と判定されます。

さらに治癒切除と適応拡大治癒切除の条件に1つでも当てはまらない場合は「非治癒切除」と判定され、例えば、がん細胞が粘膜下層の深いところにまで達している場合や、脈管侵襲が陽性の場合には、リンパ節への転移の可能性が高く、原則的に根治治療のために後日あらためて追加の外科手術を行う必要性が出てきます。

2)内視鏡的粘膜切除術(EMR)

胃がんの下の粘膜下層に生理的食塩水などを注入して病変部を浮き上がらせ、内視鏡の機材の挿入口から胃内に挿入されたスネアと呼ばれる輪状の金属のワイヤーで、その浮き上がった部分を絞めて、高周波電流を用いて切除する方法です。
図14 内視鏡的粘膜切除術(EMR)
図14 内視鏡的粘膜切除術(EMR) の図

3)内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

胃がんの下の粘膜下層に生理的食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどの薬剤を注入して、病変とその周りの組織を電気メスで徐々にはぎ取る方法で、大きな病変や潰瘍がある場合も一括して切除が可能です。内視鏡的粘膜切除術(EMR)と比較すると高度な技術を要し、切除する際の時間もかかりますが、一括して切除でき治療成績が良好なため、現在では早期胃癌に対する治療の主流になっています。
図15 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
図15 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) の図

4)内視鏡治療の合併症と対策

内視鏡を使って胃の内側からがんを切除するため、手術(外科治療)と比べて入院期間も短く、切除後も胃が温存されるため、体にも負担が少ない治療です。一方で、合併症として出血や穿孔(せんこう:内視鏡治療によって胃に小さな穴が開くこと)があります。治療後は切除した創が潰瘍になるため、軽い痛みが生じる場合があります。処方された内服薬を医師の指示どおりにのみ、消化のよい食事をとることなどを心がけましょう。痛みの程度が強くなったり持続するとき、または黒色の便が出たり、血液混じりのものを吐いたりした場合には担当医や当直医などに連絡の上で医療機関を受診しましょう。
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4.化学療法

胃がんの薬物療法(化学療法)には、手術と組み合わせて行われる「補助化学療法」と、手術による治癒が難しい状況で延命や症状コントロール目的で行われる緩和的化学療法があります。緩和的化学療法は、胃がんを完全に治すことが難しい場合でも、がん自体の進行を抑え、延命および症状を軽減することを目標として行われます。ただし、化学療法の副作用は人によって程度に差があるため、効果と副作用をよくみながら行います。

使用する薬剤は、フルオロピリミジン系薬剤(フルオロウラシル[商品名:5-FU]、S-1、カペシタビンなど)、プラチナ系薬剤(シスプラチン、オキサリプラチン)、タキサン系薬剤(パクリタキセル、ドセタキセル)、塩酸イリノテカン、ラムシルマブなどの抗がん剤が単独または組み合わせて用いられます。

また、胃がんの10~20%では、「HER2(ハーツー)」と呼ばれるタンパク質ががん細胞の増殖に関与しているため、HER2検査が陽性の場合は、分子標的薬のトラスツズマブを併用した化学療法が行われます。

1)手術による治癒が難しい進行・再発がんに対する化学療法

化学療法の開始前にHER2検査を行います。その結果により使用する薬剤を決めます(図16)。HER2陽性の場合は、トラスツズマブとの併用が標準治療となります。このように、効果や副作用の情報が十分にある標準治療以外にも、新薬や既存薬の新規組み合わせなど、新たな治療法の開発を目的とした臨床試験に参加して治療を行う選択肢もあります。
図16 化学療法の薬剤と治療の選択
図16 化学療法の薬剤と治療の選択の図
日本胃癌学会編「胃癌治療ガイドライン2014年第4版」(金原出版)より作成

(1)一次化学治療

1.HER2陰性の場合
初回治療として、基本的にはフルオロピリミジン系薬剤(フルオロウラシル[商品名:5-FU]、S-1、カペシタビンなど)、プラチナ系薬剤(シスプラチン、オキサリプラチン)の2剤併用療法が推奨されます。現在、S-1+シスプラチン療法が日本では最も広く使用されていますが、その他の選択肢として、カペシタビン+シスプラチン療法や、外来での治療を希望するときなどは、シスプラチンに代えてオキサリプラチンを使用することもできます。シスプラチンを用いるときには主に数日間の入院が必要ですが、外来治療が可能な、S-1+オキサリプラチン併用(SOX)療法やカペシタビン+オキサリプラチン併用(CapeOX)療法も選択肢の1つとなっています。
2.HER2陽性の場合
初回治療として、カペシタビン(または5-FU)+シスプラチン+トラスツズマブ療法が世界中でも最も広く使われています。S-1+シスプラチン+トラスツズマブ療法が選択される場合もあります。

(2)二次化学療法

一次化学療法が効かなくなった場合や、副作用などの理由で一次化学療法を中止した場合でも、全身状態が良好であれば、二次化学療法が行われます。使用する薬剤は、ドセタキセルまたはパクリタキセル、イリノテカンのいずれかより選択されます。パクリタキセルとの併用療法により治療効果がさらに高まることが示されたため、2015年からは、パクリタキセルと併用してラムシルマブが使用可能となりました。(図16には、2015年承認のラムシルマブについては未記載)

(3)三次化学療法

二次化学療法の治療効果が期待できない場合でも、全身状態が良好であれば、三次化学療法が行われます。使用する薬剤は、ドセタキセルまたはパクリタキセル、イリノテカンのうち、二次化学療法で使用していない薬剤を選びます。
【化学療法について、さらに詳しく】
S-1+シスプラチン療法は、食事がとれないときやおなかに腹水がたまる(腹水貯留)、腸管が狭窄している(腸閉塞)、腎臓の機能が低下している場合など、これらの薬剤が投与できない、あるいは減量して投与しなくてはならないことがあります。また、高齢者についても十分な効果や安全性が証明されていないため、このような症例については投与量や、スケジュールについて、慎重に検討します。S-1+シスプラチン療法の適応が難しい場合、食事がとれるときにはS-1単独療法、食事がとれないときには5-FU単独療法などの選択肢があります。
また、高度腹膜転移(腹膜転移の進行)により食事がとれない場合、あるいは大量の腹水がみられる場合は、パクリタキセルも選択可能です。
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2)術後補助化学療法

手術で切除できたと思われる場合でも、目に見えないような微小ながんに対して、再発予防を目的として行われる治療です。適応となる対象はII期/III期(T1および、リンパ節転移のないT3を除く)であり、S-1という抗がん剤を手術後1年間内服する治療が標準治療となっています。これにより、治癒率(5年生存割合)が約10%向上することが知られています。

3)術前補助化学療法

再発の要因となる、目に見えないような小さな転移(微小転移)に対して、また比較的大きく、切除が難しいがんを小さくして、切除しやすくする目的などで行われる治療です。さまざまな薬剤の組み合わせで、治療が試されていますが、術後補助化学療法と比べて、上乗せされる効果が確定されていないため、臨床試験として行うべき治療として位置付けられています。

4)副作用

化学療法は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼします。特に髪の毛、口や消化管などの粘膜、あるいは血球をつくる骨髄など細胞分裂の盛んな細胞が影響を受けやすく、その結果として、脱毛、口内炎、下痢が起こったり、白血球や血小板の数が少なくなったりすることがあります。
その他、全身のだるさ、吐き気、手足の腫(は)れ、色素沈着、しびれ、心臓への影響として動悸(どうき)や不整脈、また肝臓や腎臓に障害が出ることもあります。

こうした副作用は、用いる薬の種類によって異なり、その程度も個人差があります。また、自分でわかる自覚的なものと、検査などによってわかる他覚的なものに大別されます。
副作用が著しい場合には治療薬を減量したり、治療の休止、中断を検討することもあります。
【参考文献】
  1. 日本胃癌学会編:胃癌取扱い規約 第14版(2010年3月);金原出版
  2. 日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン 2014年第4版;金原出版
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更新・確認日:2015年10月31日 [ 履歴 ]
履歴
2015年10月31日 「胃癌治療ガイドライン 2014年第4版」などにより、「3.経過観察と検査」などを更新しました。
2012年12月04日 内容を更新しました。
2012年10月26日 更新履歴を追加しました。
2012年06月18日 内容を更新しました。
2012年06月05日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2007年04月02日 掲載しました。

1.日常生活を送る上で

1)手術(外科治療)後の日常生活

手術(外科治療)後の生活で、一番大きく変わるのは食生活です。胃の一部または全部を切除した場合は、胃腸の状態に応じて手術後の後遺症とつき合うことになるため、担当医、看護師、栄養士などと相談して、自分なりの対応を見つけていきましょう。食事に限らず工夫しながらできることを少しずつ生活に取り入れ慣らしていくことは、自分自身の療養生活をより快適にしていくことにもつながります。また、無理をしない程度で、散歩など毎日の軽い運動によって体力の維持に努めることも大切です。

(1)手術後の消化器症状

胃を切除したことで、消化器系にもさまざまな影響があります。手術の方法(胃全摘術、幽門側胃切除術、幽門保存胃切除術、噴門側胃切除術)によって起こる症状が違いますが、ダンピング症候群、逆流症状、胃もたれなどがあります。
【手術後の消化器症状について、さらに詳しく】

1.胃全摘術のあとの症状

胃をすべて切除した場合、食物が食道から直接すぐに小腸に流れるため、ダンピング症候群が起こりやすくなります。栄養の吸収は小腸で行われますが、つないだ腸がふくらんで胃の代わりになるというわけではありません。一度にたくさんは食べられないので、少しずつよくかんで食べることが重要になります。腸の動きがあまりよくないと、逆流症状(逆流性食道炎)が生じたり、下痢を起こしやすくなることもあります。

2.幽門側胃切除術のあとの症状

胃の中で消化された食物を、十二指腸や小腸へ送り出す働きがある幽門(ゆうもん:胃の出口)も合わせて切除するため、食物が胃から腸に流れ込みやすくなり、ダンピング症候群が起こることがあります。消化不良、腹痛、下痢などの症状に注意しましょう。

3.幽門保存胃切除術のあとの症状

幽門側胃切除術とは異なり、幽門の働きを残すことで、食物の消化と栄養の吸収がよく血糖の上下も穏やかなため、ダンピング症状が少ないと考えられています。しかし、手術直後は幽門の働きが十分に回復していないために食物がなかなか十二指腸へ通過しない場合もあります。満腹感や胃が張った感覚、胃もたれなどの症状が起こりやすくなります。

4.噴門側胃切除術のあとの症状

食物や胃液が食道に逆流することを防ぐ噴門を切除することによって胃の内容物が逆流しやすくなり、逆流性食道炎や、胸やけの症状が起こりやすくなります。
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(2)手術後のさまざまな症状について

胃を切除した後、これまで胃の中を通っていた食べ物が直接腸に流れ込むために、さまざまな症状が起こることがあります。これをダンピング症候群といいます。ダンピング症候群は、早期と後期の2種類に分けられます。
その他にも、胃の切除により起こる症状は、逆流性食道炎や貧血、骨粗しょう症などがあります。
【手術後のさまざまな症状について、さらに詳しく】

1.早期ダンピング症候群

胃が切除された結果、糖分の高い食物が十二指腸あるいは上部空腸内へ急速に排出されることが引き金となり、血糖値が急激に上昇し、特殊なホルモンが分泌(ぶんぴ)されて起こる現象です。食後すぐから30分以内に出現する冷や汗、動悸(どうき)、目まい、眠気、腹鳴(ふくめい:おなかがごろごろと激しく鳴ること)、脱力感、顔面紅潮や蒼白(そうはく)、下痢などの症状があります。
●対策
・1回の食事量を少なめに、何回かに分けて、ゆっくり時間をかけて食べるようにしましょう。
・よくかんでゆっくり食べること。さらに食事の内容を検討し、消化のよいでん粉や糖質を多く含むもの、甘味の強い流動物は控えましょう。
・食事中の水分を控えるようにします(流し込むような食べ方は控えましょう)。
それでも症状が続く場合は担当医に相談しましょう。

2.後期ダンピング症候群

胃の出口の幽門を切除する術式の場合、食物がそのまま小腸に流れ込みます。腸管からの糖質の吸収によって急に血糖値が高くなると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが大量に分泌されて、逆に下がりすぎてしまうことがあります。通常、食後2時間から3時間ころに目まい、脱力感、発汗、震えなどが起き、症状が悪化した場合は意識が遠のくような場合もあります。
●対策
・症状は予兆があることが多く、血糖値が下がることで起こるため、糖分を補うことで改善できます。予兆があるときや食後2時間くらいに糖分を含む間食をしたり、外出の際にも菓子類を持参すると、症状が起こったときに役に立ちます。
・でん粉や糖質を多く含んだ食事の摂取を控えるようにしましょう。これらの食品は吸収が早く、食後の血糖値を高くし、反応性の低血糖が起こりやすくなります。

3.逆流性食道炎

胃の入り口(噴門)を切除する術式の場合、噴門の機能が損なわれ、胃液や腸液、胆汁などの苦い消化液が逆流することで、胸やけなどの症状が出現します。
●対策
食べ物が消化される時間を考え、夕食は就寝の2時間から4時間以上前にとるように心がけます。脂肪分の多い食事を控え、食後すぐに横になるのは避けましょう。横になる場合は、上半身を少し高くし、消化液が逆流したら水をのんでみるとよいでしょう。軽い運動が症状を抑えることもあります。

4.貧血

胃切除後(この場合、どのくらいとったかによりますが)は、赤血球をつくるために必要なビタミンB12の吸収がしにくくなります。さらに、鉄を吸収されやすい形に変える胃酸の分泌(ぶんぴ)も減少します。そのため、ビタミンB12の吸収障害と胃酸の減少の相乗効果により、貧血となります。
ただし、ビタミンB12は肝臓に蓄積されているため、貧血の発生は胃切除から数年後にみられる場合が一般的です。
●対策
食事量が少なくなっても、鉄分の摂取を心がけましょう。不足している栄養分を補うためには、どのような食材が適切か、看護師や栄養士に相談してみるのもよいでしょう。定期的に血液検査を受け、必要に応じて鉄剤を内服したり、ビタミンB12の注射を受けます。一般的に、胃を切除した人(切除した大きさにもよりますが)は、ビタミンB12の注射が年に1~2回必要となります。

5.骨粗しょう症

胃の手術後は、カルシウムの吸収が悪くなるため、骨が弱くなり、骨折しやすくなります。
●対策
必要に応じてカルシウム剤やビタミンD製剤を処方されることがあります。バランスのよい食事とともに、骨を支える筋力を強化するための運動も大切です。
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2)内視鏡治療後の日常生活

胃の機能が大きく損なわれることがないので、早めに体力が回復し、基本的には食事も治療前と同じようにとれます。退院後2週間から3週間以内に復帰できることが多いようです。ただし、力仕事や激しい運動、暴飲暴食や飲酒、熱いお湯への長時間の入浴などは、治療後およそ1~2カ月の間は控えるようにしましょう。

3)化学療法中の日常生活

近年抗がん剤や、支持療法の進歩に伴い、通院によって抗がん剤治療を行う外来化学療法が増えています。仕事や家事、育児など今までの日常生活を続けながら治療ができる一方で、いつも医療者がそばにいるわけではないという不安があるかも知れません。担当医へ予想される副作用やその対処法について事前に確認し、外来時には疑問点や不安点などを相談しながら治療を進めるとよいでしょう。また、副作用については家族や周りの人のサポートを得ながら、自分なりの対処法を見つけることも大切です。逆に、化学療法中だからといって心配しすぎる必要はありません。ご自身の体調に合わせて無理なく、できるだけ普段と同じような気持ちで日常生活を送るよう心がけてください。

2.食事について

胃がんの治療中や治療後は、食事の量や食べ方がこれまでと違ったり、献立や調理法に工夫が必要など、胃腸の状態をみながら自分に合った食事のリズムをつくっていくことが必要です。

自分自身で栄養指導を利用することもできますが、なるべく家族の方にも同席してもらうことをお勧めします。これまでの食事の内容や生活スタイルに合った食事の方法や調理の工夫など、参考になることが多いはずです。例えば、「これは食べてよい、これは食べてはいけない」といったように難しく考えないで、家族と同じ食事をすりおろしたり刻んだり、煮込んだりしてもう一手間かけるようにしてみるとよいでしょう。

1)手術後の食事について

手術の方法によって胃が残る場合でも、残胃は時間がたつにつれて大きくなることはなく、食物を一時的に蓄えるスペースが小さくなるため、1回の食事量は少なくなります。また、一定時間蓄えて消化し、効率よく徐々に腸に送り出す本来の役割も障害されるため、ダンピング症候群などの症状が起こることがあります。

食事は「少量を」「よくかんで」「ゆっくり」食べること、食べ方を次第に新しい胃の状態に慣れさせていくことが大切です。

治療開始前や退院直後に比べて、やせたと悩む患者さんが少なくありません。しかし、症状が安定すれば、体重は治療前より減少した状態で維持されることも多いので、あまり心配することはありません。体重よりむしろ食事の仕方に気を付けましょう。
【手術後の食生活のヒントについて】

1.カルシウムは不足しないように

胃切除術後はカルシウムの吸収が低下します。普通の食事が食べられるようになったら、牛乳や小魚など、カルシウムを多く含んでいる食品をとるようにしましょう。
また、カルシウムの吸収にはビタミンDが必要です。ビタミンDは、食事に含まれる成分をもとにして日光によって皮膚でつくられます。適度に日光浴を楽しみましょう。
カルシウムは、牛乳、ヨーグルト、チーズ、小魚、大豆製品、緑黄色野菜などに多く含まれています。
ビタミンDは、魚類、肉類、卵類、干し椎茸(しいたけ)などに多く含まれています。

2.鉄やビタミンも不足しないように

胃の切除により胃酸分泌が減少するため、鉄の吸収が悪くなり、鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。鉄分を多く含む食品を食べるようにしましょう。ビタミンCには、鉄分の吸収を助ける働きがあります。積極的にとるようにしましょう。
鉄分は、レバー、肉類、鶏卵、魚類、大豆製品などのタンパク源、緑黄色野菜などに多く含まれています。
ビタミンCは、緑黄色野菜、その他の野菜、果物類に多く含まれています。
また、胃を全部とった場合、ビタミンB12の吸収障害により手術後6年くらいしてから貧血が起こります。胃が少しでも残っている場合は、ほとんど起こりません。これは食事療法では治りませんので、ビタミンB12の注射による補給が必要となります。必ず医師の指示を受けてください。
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2)化学療法(抗がん剤治療)時の食事について

抗がん剤の副作用では、吐き気・嘔吐(おうと)、食欲不振、口内炎、下痢、便秘などの症状で、食欲が低下することがあります。
そのような場合の食事のとり方については、「調子が悪いときの食事 2.症状に合わせた食事のとり方」を参照してください。

3.経過観察と検査

1)手術後の経過観察と検査

受診と検査の間隔は、胃がんの性質や進行度、治療内容と効果、追加治療の有無、体調の回復や後遺症の程度などによって異なります。治療を引き続き行う場合は、治療の予定に応じて通院します。継続して治療を行わない場合でも、はじめは1カ月から3~4カ月ごと、病状が安定してきたら6カ月から1年ごとに定期的に受診します。

手術後の経過観察は5年間が原則とされています。再発や残胃がん、重複がんの発見のためには、CT検査腫瘍マーカー(CEAおよびCA19-9)、内視鏡検査が有用であるとされていますが、経過観察のための適切な検査や間隔については、今後さらなる検証が必要とされています。

2)内視鏡治療後の経過観察と検査

内視鏡治療後の経過観察の方法は、切除された病変の根治性の評価により異なります。まず、治癒切除の場合は年1~2回の内視鏡検査による経過観察を行い、適応拡大治癒切除の場合は年1~2回の内視鏡検査に加えて、腹部超音波検査、CT検査などで転移の有無を調べることが望ましいとされています。

3)化学療法の経過観察と検査

治療中の受診と検査の間隔は、化学療法の目的、種類、効果および副作用の出方によって異なります。治療を引き続き行う場合は、治療の予定に応じて通院します。治療開始当初は副作用を確認するために1-2週間ごとに来院し、現在の投与量や、副作用を抑える治療が患者さんにとって適切かどうかをチェックします。必要に応じて、副作用を抑える治療を追加したり、抗がん剤の投与量を変更したりします。

継続して治療を行わない場合でも、はじめは1週間ごと、病状が安定してきたら2~3週間ごとに定期的に受診します。治療効果については、緩和的化学療法の場合には2~3カ月に一度、術後化学療法の場合には、半年ごとにCT検査などで腫瘍の状態を確認します。

受診時には、副作用の有無、食事の様子、体調などについての問診や診察、検査が行われます。検査としては、血液検査(腫瘍マーカーなど)や尿検査、内視鏡検査、超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査などが行われます。

4.社会復帰

これまでの仕事や生活リズムにもよりますが、一般的には体力が付いて、さまざまな症状も改善されれば、通常に近い生活リズムに戻すことが可能です。

外出の回数を増やす、軽い運動をしてみるなど、少しずつ行動範囲を広げていきます。職場に復帰するときは、会社の人たちに大まかな治療の予定や生活上の注意点などを伝えておき、無理のない業務や就労時間でスタートしましょう。

社会復帰については「社会とのつながりを保つ患者必携サイトへのリンクもご参照ください。
更新・確認日:2015年10月31日 [ 履歴 ]
履歴
2015年10月31日 最新の情報を確認し、一部を更新しました。
2012年10月26日 更新履歴を追加しました。
2012年10月02日 内容を更新しました。
2012年06月05日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2007年04月02日 掲載しました。

1.転移

転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って胃から別の臓器に移動し、そこで成長したものをいいます。がんを手術で全部切除できたようにみえても、その時点ですでにがん細胞が別の臓器に転移している可能性があり、手術した時点では見つけられなくても、時間がたってから再発することがあります。

胃がんの転移には、いくつかの種類があります。
最も多い胃がんの転移はリンパ節転移で、早期がんでも起こることがあります。リンパ行性転移は、かなり遠くまで広がっていなければ、手術でがんと一緒に胃の周りの転移しているリンパ節をすべて切除することによって、治る可能性がある転移です。ただし、リンパ節転移でも胃から離れたものは切除することが不可能です。
病気がある程度進行すると、肝転移などの血行性転移や播種性転移(はしゅせいてんい:腹膜播種)が起こります。これらの転移は治癒を目的とした治療が難しいという問題点があります。
【転移についてさらに詳しく】

1)血行性転移

がん細胞が血液の流れに入り込み、肝臓や肺に到達し、そこで増えることをいいます。血流に乗ってがん細胞が全身に広がっていると考えられるため、手術で完全に取りきることはできず、治療の中心は化学療法となります。

2)播種性転移(はしゅせいてんい:腹膜播種)

おなかは腹腔という大きな1つのスペースで、その中に胃・肝臓・小腸・大腸などの臓器が入っています。腹腔の表面は、腹膜という薄い膜でおおわれています。

胃がんの腹膜播種とは、がん細胞が胃の外側からおなかの中にこぼれ落ちて、肝臓、腸、膀胱(ぼうこう)、卵巣などを包んでいる腹膜(漿膜)に付いて増殖した状態です。
腹水がたまったり、腸の動きが悪くなったり、腸が狭窄(きょうさく)を起こすことがあります。水腎症(尿管の周囲が腹膜播種で圧迫されて、尿が出にくくなる)も起こすことがあります。
腹膜播種がある場合、腹腔内には多くのがん細胞が存在するため、治療の中心は化学療法(抗がん剤治療)となります。

3)リンパ行性転移(リンパ節転移)

リンパ節転移とは、胃がんの細胞がリンパ液の流れに入って、胃から流れ出て、胃の外にあるリンパ節に転移することです。リンパ節転移の進み方は、胃の近くのリンパ節から次第に遠いリンパ節に及ぶと考えられています。
早期胃がんの場合は、リンパ節転移が遠くまで広がっていなければ、手術の際にがんを取り除くだけでなく、周辺にあるリンパ節を切除すること(リンパ節郭清)で治る可能性があります。しかし、リンパ液の流れに乗って、胃がんの細胞が全身に広がっている可能性が高い場合には、治療の中心は化学療法となります。
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2.再発

再発とは、初回の手術で目で見える範囲の胃がんをすべて取り除いたあとや、化学療法を終えたあと、時間が経過して、治療をした場所や胃から遠く離れた別の臓器やリンパ節に転移が発見されることをいいます。
再発といってもそれぞれの患者さんでの状態は異なりますが、化学療法による治療を行うことが一般的です。それぞれの患者さんの状況に応じて治療やその後のケアを決めていきます。
【再発についてさらに詳しく】
胃がんの手術をして胃の一部が残った場合、残った胃に再び胃がんが発生することがあります。これは残胃がんと呼ばれ、新たに胃がんが出現したので、厳密な意味での再発ではありません。

再発とは、初回の手術(外科治療)や化学療法を行う前の検査では見つからず、手術中にも目で見える範囲ではわからない、ごく小さな転移(微小転移)がすでに存在していて、それが治療後、時間の経過とともに少しずつ大きくなり発見されると考えられています。血液の流れの中に入ったり(血行性転移)、おなかの中にこぼれ落ちたり(腹膜播種)、リンパ液の流れに乗って(リンパ行性転移)胃から遠くまで広がり「転移」として見つかった場合には、手術ですべて取りきることは難しいため、治療の中心は化学療法となります。

再発は、転移と同じ状態と考えられるため、治療法としては基本的には手術で取ることはできず、化学療法が中心となります。

進行胃がんで発見された場合、再発の可能性は高くなるため、治療後の経過観察がとても大切です。再発といっても、それぞれ患者さんの状態は異なり、その状態によりさまざまな症状の原因となります。また、治療法も異なる場合があるので、ご自身の体の状態を知り、どのような対処法やその選択肢があるかを知ることが必要となります。
ご家族や親しい人の力も借りながら、患者さんひとりで立ち向かう必要はないことを心にとめて、治療を受けることが大切です。
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3.生活の質を重視した治療

がんが進行していたり、別の臓器に転移しているときには、がんそのものに対する治療に加えて、痛みや食事をとりにくいなどのがんに伴う症状を和らげることを重視して治療を行っていきます。

●痛みが強いとき

痛みの原因を調べ、痛み止めの治療や、原因となっているがんのある場所に対して放射線治療が行われることがあります。

●食事がとれないとき

食べ物の通り道ががんによって狭くなっている、腸の動きが弱い、薬物療法の副作用によって食欲がないなど、原因はさまざまです。吐き気止めを使う、点滴で水分や栄養補給を行うなど、状態に応じて治療がなされます。
再発や転移のこと、痛みが強いときの治療については、「患者必携がんになったら手にとるガイド」の以下もご参照ください。
「がんの再発や転移のことを知る」患者必携サイトへのリンク
「緩和ケアについて理解する」患者必携サイトへのリンク
「痛みを我慢しない」患者必携サイトへのリンク
もしも、がんが再発したら 冊子の画像
がんの再発に対する不安や、再発に直面したときの支えになる情報をまとめた冊子です。がんの再発という事態に直面しても、「希望を持って生きる」助けになりたいという願いを込めて、再発がんの体験者、がん専門医らと共に検討を重ねて作成されたものです。
(Webサイトでもご覧になれます。「もしも、がんが再発したら [患者必携]本人と家族に伝えたいこと患者必携サイトへのリンク
【参考文献】
  1. 日本胃癌学会編:胃癌取扱い規約 第14版(2010年3月);金原出版
  2. 日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン 2014年第4版;金原出版
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