更新・確認日:2019年04月08日 [
履歴 ]
履歴
2019年04月08日 |
「胃癌治療ガイドライン医師用 2018年1月改訂(第5版)」「胃癌取扱い規約 第15版(2017年10月)」により、内容を全面的に更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2015年10月31日 |
最新の情報を確認し、「疫学・統計」などを更新しました。 |
2012年12月04日 |
内容を更新しました。 |
2012年10月26日 |
更新履歴を追加しました。 |
2012年06月05日 |
内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2007年04月02日 |
掲載しました。 |
診療の流れ、セカンドオピニオンなど、本格的に治療を始める前に知っておいていただきたい情報については以下の「治療にあたって」をご参照ください。
1.胃について
胃は袋状の器官で、みぞおちの裏のあたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふんもんぶ)といい、中心の部分を胃体部といいます。胃の出口は幽門部(ゆうもんぶ)と呼ばれ、十二指腸へつながっています(図1)。胃の近くにある血管の周りにはリンパ球が多く集まるリンパ節があります。
胃の壁は、内側から、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層、漿膜と呼ばれる層になっています。
胃の主な働きは、食べ物をある時間その中にとどめ、それを消化することです。胃は、入ってきた食べ物の固まりをくだき、胃液や消化酵素を含む消化液と混ぜていきます。どろどろの粥(かゆ)状になった食物は、幽門部を通り少しずつ十二指腸へ送り出されていきます。
胃の入り口の噴門は、胃の中の食べ物が食道に逆流するのを防ぎ、胃の出口の幽門は、消化された食べ物を十二指腸へ送り出す量を調節します。
2. 胃がんとは
胃がんは、胃の壁の内側をおおう粘膜の細胞が何らかの原因でがん細胞となり、無秩序にふえていくことにより発生します。がんが大きくなるにしたがい、徐々に粘膜下層、固有筋層、漿膜へと外側に深く進んでいきます。がんがより深く進むと、漿膜の外側まで達して、近くにある大腸や膵臓(すいぞう)にも広がっていきます。このようにがんが周囲に広がっていくことを浸潤(しんじゅん)といいます。
胃がんでは、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って、離れた臓器でとどまってふえる転移が起こることがあります。また、漿膜の外側を越えて、おなかの中にがん細胞が散らばる腹膜播種(ふくまくはしゅ)が起こることがあります。
胃がんの中には、胃の壁を硬く厚くさせながら広がっていくタイプがあり、これをスキルス胃がんといいます。早期のスキルス胃がんは内視鏡検査で見つけることが難しいことから、症状があらわれて見つかったときには進行していることが多く、治りにくいがんです。
3. 症状
胃がんは、早い段階では自覚症状がほとんどなく、かなり進行しても症状がない場合があります。
代表的な症状は、胃(みぞおち)の痛み・不快感・違和感、胸やけ、吐き気、食欲不振などです。また、胃がんから出血することによって起こる貧血や黒い便が発見のきっかけになる場合もあります。しかし、これらは胃がんだけにみられる症状ではなく、胃炎や胃潰瘍(いかいよう)の場合でも起こります。胃炎や胃潰瘍などの治療で内視鏡検査を行ったときに偶然に胃がんが見つかることもあります。
また、食事がつかえる、体重が減る、といった症状がある場合は、進行胃がんの可能性もあります。
これらのような症状があれば、検診を待たずに医療機関を受診しましょう。
4. 組織型分類
がん細胞の組織型(細胞を顕微鏡で観察した外見)分類では、胃がんのほとんどを腺がんが占めています。また、腺がんは、細胞の特徴から、大きく分化型と未分化型に分けられます(図2)。一般的に、分化型は進行が緩やかで、未分化型は進行が速い傾向があるといわれています。
なお、スキルス胃がんでは未分化型が多いですが、未分化型のすべての胃がんがスキルス胃がんになるわけではありません。
5. 関連する疾患
良性の胃の疾患として、胃ポリープ、胃潰瘍、慢性胃炎などがあります。胃潰瘍は胃 (みぞおち) の痛み、慢性胃炎では胃の不快感や胸やけなどの胃がんと似たような症状が起こることがあります。
6. 患者数(がん統計)
胃がんは、日本全国で一年間に約135,000人が診断されます。胃がんと診断される人は男性に多い傾向にあり、50歳ごろから増加して、80歳代でピークを迎えます。
男性では最も多く、女性では乳がん、大腸がんに次いで3番目に多いがんです1)。
日本の胃がんの罹患率は、人口の年齢構成の移り変わりの影響を調整した場合、男性では2000年代前半まで減少傾向、その後は横ばいが続いています。女性では、1980年代から一貫して減少傾向にあります2)。
7.発生要因
胃がんの発生要因としては、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染、喫煙があります。その他には、食塩・高塩分食品の摂取が、発生する危険性を高めることが報告されています2)。
8.予防と検診
1)予防
日本人を対象とした研究結果では、がん予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、身体活動、適正な体形、感染予防が効果的といわれています。
2)検診
がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。わが国では、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」で検診方法が定められています。
胃がんの検診方法として「効果がある」とされているのは「問診」に加え、「胃部X線検査」または「胃内視鏡検査」のいずれかです。男女ともに、50歳以上の方が対象となっています。検診の間隔は2年に1度※ですが、気になる症状があるときには、検診を待たずに医療機関を受診しましょう。
※当分の間、胃部X線検査は40歳以上、1年に1度の実施も可です。
なお、検診は、症状がない健康な人を対象に行われるものです。がんの診断や治療が終わったあとの診療としての検査は、ここでいう検診とは異なります。
9.「胃がん」参考文献
1) 厚生労働省.がん登録 全国がん罹患数 2016年速報,2019年
2) 日本臨床腫瘍学会編.新臨床腫瘍学 改訂第5版.2018年,南江堂
3) 日本胃癌学会編.胃癌取扱い規約 第15版(2017年10月),金原出版
4) 日本胃癌学会編.胃癌治療ガイドライン医師用 2018年1月改訂 第5版,金原出版
5)日本消化器内視鏡学会・日本胃癌学会編.胃癌に対するESD/EMRガイドライン.日本消化器内視鏡学会雑誌Vol. 56 (2014) No. 2 p. 310-323
更新・確認日:2019年04月08日 [
履歴 ]
履歴
2019年04月08日 |
「胃癌治療ガイドライン医師用 2018年1月改訂(第5版)」「胃癌取扱い規約 第15版(2017年10月)」により、内容を全面的に更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2016年07月14日 |
「図2 胃がん診断の流れ」から著作権マークを削除しました。 |
2015年10月31日 |
胃生検組織診断分類の説明などを更新しました。 |
2015年03月16日 |
図3、図4を更新しました。 |
2012年10月26日 |
更新履歴を追加しました。内容を更新しました。 |
2012年06月05日 |
内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2007年04月02日 |
掲載しました。 |
1.胃がんの検査
胃がんが疑われると、まず、「がんであるかを確定するための検査」を行い、次に、治療の方針を決めるために、「がんの進行度(進み具合)を診断する検査」を行います。
1)がんを確定するための検査
内視鏡検査やX線検査などを行い、病変の有無や場所を調べます。内視鏡検査で胃の内部を見て、がんが疑われるところがあると、その部分をつまんで取り(生検:せいけん)、病理検査で胃がんかどうかを確定します。
2)がんの進行度を診断する検査
治療の方針を決めるためには、がんの深さや膵臓・肝臓・腸などの胃に隣り合った臓器への広がり、離れた臓器やリンパ節などへの転移を調べて胃がんの進行度を診断します。そのため、さらに、CT検査、MRI検査、PET検査などを行います。また、腹膜播種の可能性が強く疑われる場合には審査腹腔鏡が行われることがあります。
2.検査の種類
1)内視鏡検査
内視鏡を用いて胃の内部を直接見て、がんが疑われる部分(病変)の場所や、その広がり(範囲)と深さを調べる検査です(図3)。病変をつまんで取り、病理検査をする場合もあります。
また、がんの深さをより詳しく見たり、周囲の臓器やリンパ節への転移を調べたりするため、超音波内視鏡検査を行う場合もあります。
2)X線検査(バリウム検査)
バリウムをのんで、胃の形や粘膜などの状態や変化をX線写真で確認する検査です。
3)生検・病理検査
胃の内視鏡検査や腹腔鏡検査で採取した組織に「がん細胞があるか」「どのような種類のがん細胞か」などについて、顕微鏡で調べる検査です。
4)CT検査・MRI検査
CT検査はX線、MRI検査は磁気を使って体の内部の断面を撮影する検査です(図4)。離れた別の臓器やリンパ節への転移、肝臓など胃の周りの臓器への浸潤などを調べます。
5)PET検査
放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射し、がん細胞に取り込まれるブドウ糖の分布を撮影することで、がんの広がりを調べる検査です。リンパ節やほかの臓器への転移の有無、がんの再発の有無、治療の効果を調べるために使われることがあります。
6)注腸検査
お尻からバリウムと空気を注入し、X線写真を撮ります。胃のすぐ近くを通っている大腸にがんが広がっていないか、腹膜播種がないかなどを調べます。
7)腫瘍マーカー検査
腫瘍マーカーとは、がんの種類により特徴的に産生される物質で、血液検査などにより測定します。この検査だけでがんの有無を確定できるものではなく、がんがあっても腫瘍マーカーの値が上昇を示さないこともありますし、逆にがんがなくても上昇を示すこともあります。
胃がんでは腫瘍マーカーとしてCEAやCA19-9などが使われます。主に、手術後の再発や薬物療法の効果判定の参考に使われます。
8)審査腹腔鏡
おなかに小さな穴を開け、腹腔鏡と呼ばれる細い内視鏡によりおなかの中を直接観察する検査です。一般的に全身麻酔をして検査は行われます。腹膜播種の有無は画像検査のみではわかりにくいため、腹膜播種の正確な診断が必要な場合に行うことがあります。この検査では、がんが疑われる部位を生検したり、腹水を採取したりすることによって、がんの有無を病理検査により確認します。
更新・確認日:2019年04月08日 [
履歴 ]
履歴
2019年04月08日 |
「胃癌治療ガイドライン医師用 2018年1月改訂(第5版)」「胃癌取扱い規約 第15版(2017年10月)」により、内容を全面的に更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2016年02月10日 |
「2.治療成績」の5年相対生存率データを更新しました。 |
2015年10月31日 |
最新の情報を確認し、「3.自分にあった治療法を考える」などを更新しました。 |
2015年10月31日 |
「胃癌治療ガイドライン 2014年第4版」などにより、「4.化学療法」などを更新しました。 |
2015年03月16日 |
図の出典を更新しました。 |
2014年10月03日 |
5年相対生存率データを更新しました。 |
2013年03月26日 |
内容を更新しました。 |
2013年02月14日 |
「内視鏡治療」の図を更新しました。 |
2012年11月27日 |
「治療に伴う合併症とその対策」を追加しました。 |
2012年11月27日 |
「手術(外科治療)」「腹腔鏡下胃切除」を更新しました。 |
2012年11月02日 |
「治療成績」を更新しました。 |
2012年10月29日 |
「内視鏡治療」「薬物療法(抗がん剤治療)」を更新しました。 |
2012年10月26日 |
更新履歴を追加しました。 |
2012年10月15日 |
内容を更新しました。 |
2012年06月22日 |
内容を更新しました。 |
2012年06月05日 |
内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2007年04月02日 |
掲載しました。 |
1.病期と治療の選択
治療方法は、がんの進行の程度や体の状態などから検討します。
がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類し、ローマ数字を使って表記することが一般的です。胃がんでは、早期から進行につれてI期〜IV期に分類します。
1)病期(ステージ)
胃がんの病期は、次のTNMの3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決めます。
Tカテゴリー:がんの深さの程度(深達度[図5])
Nカテゴリー:リンパ節への転移の有無
Mカテゴリー:遠くの臓器への転移(遠隔転移)の有無
図5 胃がんの深達度
日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第15版(2017年10月)」(金原出版)より作成
がんの深さが粘膜および粘膜下層にとどまるものを「早期胃がん」、粘膜下層より深いものを「進行胃がん」といいます。
胃がんの治療方針を決めるためのがんの病期は、次の2つの分類があります。
(1)臨床分類
画像診断や生検、審査腹腔鏡などの結果に基づいて、がんの広がりを推定し、治療方針を決めるときに使う分類です(表1)。
表1 胃がんの臨床分類
日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第15版(2017年10月)」(金原出版)より作成
(2)病理分類
手術で切除した病変を病理診断し、実際のがんの広がりを評価した分類です。病理分類は臨床分類と異なる場合があります。病理分類は病気の見通しを立てたり、術後補助化学療法が必要かどうかを判断したりするときなどに使われます(表2)。
表2 胃がんの病理分類
日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第15版(2017年10月)」(金原出版)より作成
2)治療の選択
胃がんの治療法には、内視鏡治療、手術、薬物療法などがあります。
治療法は、標準治療に基づいて、患者さんの体の状態や年齢、希望なども含めて検討し、担当医と共に決めていきます。
図6は、胃がんに対する治療方法を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
図6 胃がんの治療の選択
日本胃癌学会編「胃癌治療ガイドライン医師用 2018年1月改訂(第5版)」金原出版より作成
3)妊娠・出産について
がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊よう性温存治療(妊娠するための力を保つ治療)が可能か、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
2.内視鏡治療(内視鏡的切除)
胃内視鏡を使って胃の内側からがんを切除する(切り取る)方法です。がんが粘膜層にとどまっており、原則リンパ節転移の可能性がごく低い早期のがんで、一度に切除できると考えられる場合に行われることがあります。
手術と比べると、体に対する負担が少なく、また、がんの切除後も胃が残るため、食生活に対する影響が少ない方法です。合併症として、出血や穿孔(せんこう:穴が開く)が起こることがあります。
内視鏡治療でがんが確実に取りきれたかどうかは、病理診断で確認します。リンパ節への転移の可能性も考えながら、次の治療について決めていきます。がんが確実に取りきれてリンパ節転移の可能性が極めて低い場合(根治度A、B)には、経過を観察します。がんが内視鏡治療では取りきれなかった、あるいは取りきれているが、深さが粘膜下層まで達しているなどの理由でリンパ節転移の可能性がある場合(根治度C)は、後日、追加で手術が必要となります。
1)内視鏡治療の方法
切除の方法には、高周波のナイフで切り取る内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)や輪状のワイヤーをかけてがんを切り取る内視鏡的粘膜切除術(EMR)があります。病変の大きさや部位、悪性度、潰瘍などがあるかにより治療方法を選びます。近年は、治療の適応の拡大や技術的な進歩により、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が普及しています(図7)。
EMRはがんが2cm以下であることが実施の条件ですが、ESDは3cm以下で潰瘍となっている場合にも行われることがあります。
3.手術(外科治療)
遠隔転移がない胃がんで、内視鏡治療による切除が難しい場合には、手術による治療が推奨されています。手術では、がんと胃の一部またはすべてを取り除きます。同時に胃の周囲のリンパ節を取り除くリンパ節郭清(かくせい)や、食物の通り道をつくり直す再建手術(消化管再建)も行います。おなかを20cmほど切開する開腹手術と、小さい穴を開けて専用の器具で手術を行う腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術があります。腹腔鏡下手術が長期的にみて有効かについてはまだ十分わかっていないので、この手術を検討するときは、担当医とよくご相談してください。
1)手術の方法
(1)胃切除
切除する胃の範囲は、がんのある部位と病期(ステージ)の両方から決めます。胃の切除範囲によっていくつかの方法があり、代表的なものは、胃全摘術、幽門(ゆうもん)側胃切除術、幽門保存胃切除術、噴門(ふんもん)側胃切除術です(図8)。
(2)リンパ節郭清
胃切除の際に、胃とともに胃の周囲にあるリンパ節を切除します。胃のすぐそばのリンパ節と、胃から少し離れたリンパ節を合わせて切除する「D2リンパ節郭清」が標準的に行われます。早期がんでは郭清するリンパ節の範囲を狭くした手術を行います(D1またはD1+郭清)。
(3)消化管再建
消化管再建とは、胃の切除手術の際に、胃や腸などの消化管を縫い合わせてつなぎ、新しく食べ物の通り道をつくり直すことです。再建の方法は、いくつかの種類があり、胃の切除範囲などによって決めていきます。
(4)周辺臓器の合併切除
胃の周囲には、肝臓、横隔膜、膵臓、胆のう、横行結腸などの臓器があります。これらの臓器にがんが広がっている場合、胃の切除と同時に、がんが浸潤している臓器の一部を切除することがあります。これを合併切除といいます。手術の範囲は広くなりますが、がんを完全に切除することを目指して行います。
2)手術に伴う合併症とその対策
胃がんの手術に伴う主な合併症として、縫合不全(ほうごうふぜん)、膵液漏(すいえきろう)、腹腔内腫瘍、肺塞栓(はいそくせん)などがあります。気になることがあれば、担当の医師や看護師にご相談ください。
(1)縫合不全
手術のときに消化管を縫い合わせたところがうまくつながらなかった場合に、つなぎ目から食物や消化液が漏れることをいいます。炎症が起こり痛みや熱が出ます。縫合不全が生じると腹膜炎を併発し、再手術になる場合があります。
(2)膵液漏
膵臓の周りのリンパ節郭清を行ったときに、一時的に膵液が漏れ出すことがあります。これを膵液漏といいます。膵液は、タンパク質や脂肪を分解する酵素を含むので、膵液漏が起こると、その周囲の臓器や血管を溶かして膿瘍(のうよう)ができてしまうことがあります。
(3)腹腔内膿瘍
縫合不全や膵液漏により、感染を伴いおなかの中に膿のかたまりをつくった状態をいいます。できる場所により症状は異なりますが、大半が腹痛を起こし、またしばしば発熱を起こします。画像診断で確認し、膿瘍が起きていれば、感染を抑えるために抗菌薬を使います。また、膿を外に出すためのカテーテルを体の中に一定期間入れておかなければならない場合もあります。
(4)肺塞栓
手術中やその後に長時間体を動かさないでいたことで、足の静脈の中にできた血のかたまり(血栓:けっせん)が、歩き始めたときになどに血管壁からはがれ、肺の血管に流れ詰まることがあります。これを肺塞栓といいます。肺塞栓の症状は、突然の息切れ、胸の痛みです。予防のため、手術前には足を圧迫する医療用の弾性ストッキングをはきます。
4.薬物療法(化学療法)
がんや全身の状態により、さまざまな薬を単独または組み合わせて使います。
1)胃がんの薬物療法で使われる薬
胃がんの薬物療法に使う薬には、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬そして免疫チェックポイント阻害薬があります。
(1)細胞障害性抗がん薬
胃がんの治療では、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS-1:ティーエスワン)、カペシタビン、シスプラチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、イリノテカンなどが使われます。
(2)分子標的薬
がん細胞の増殖などに関わる分子を標的とした薬を分子標的薬といいます。
胃がんでは、HER2(ハーツ—)と呼ばれるタンパク質ががん細胞の増殖に関わっている場合があります。治療前に病理検査を行い、HER2陽性の場合にはHER2タンパク質の働きを抑えるトラスツマブを細胞障害性抗がん薬と併用して使うことがあります。また、がん細胞の増殖に関わる別のタンパク質の働きを抑えるラムシルマブを使う場合もあります。
(3)免疫チェックポイント阻害薬
がん細胞が免疫から逃れようと体内の免疫(T細胞など)にブレーキをかけるのを防いで、体内にもともとある免疫細胞の活性化を持続する薬です。ニボルマブなどが保険適用されています。(図9)。
2)胃がんの薬物療法の種類
胃がんの薬物療法には、大きく分けて「手術によりがんを取りきることが難しい進行・再発胃がんに対する化学療法」と再発の予防を目的とする「術後補助化学療法」があります。
(1)手術によりがんを取りきることが難しい進行・再発胃がんに対する化学療法
遠隔転移がある場合など、手術によりがんを取りきることが難しい場合や、がんが再発した場合に行います。薬だけでがんを完全に治すことは困難ですが、がんの進行を抑えることにより、生存期間が延長したり、症状を和らげたりすることがわかっています。患者さんのがんの状況や臓器の機能、化学療法に伴う想定される副作用、点滴の必要性、入院の必要性や通院頻度などについて担当医と患者さんで話し合って、どのような薬を使うかを決めていきます。
一次化学療法から三次化学療法までの段階があり、まずは一次化学療法から始め、効果が低下した場合や副作用が強く継続が難しい場合には二次、三次と治療を続けていきます(図9)。
図9 手術によりがんを取りきることが難しい進行・再発胃がんに対する標準的な化学療法
日本胃癌学会編「胃癌治療ガイドライン医師用 2018年1月改訂(第5版)」(金原出版)より作成
(2)術後補助化学療法
手術でがんを切除できた場合でも、目に見えないようなごく小さなながんが残っていて、のちに再発することがあります。こうした小さながんによる再発を予防する目的で行われる化学療法を術後補助化学療法といいます。手術後の患者さんの全身状態やがんの進行度を考慮しながら、TS-1のみあるいはほかの薬とともに使う方法を検討します。
●副作用について
細胞障害性抗がん薬は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも障害を与えます。このために、治療による副作用が出てくることがあります。副作用は、血液細胞の数、肝機能や腎機能など検査でわかるものと、口内炎、吐き気、脱毛、下痢など自分でわかるものがあります。副作用の有無や程度は人によりさまざまです。最近は副作用を予防する薬も開発され、特に吐き気や嘔吐に対しては以前と比べて多くの人に予防ができるようになってきました。
副作用の症状や対処について、担当の医師や薬剤師・看護師よりよく説明を受けましょう。
分子標的薬のトラスツマブの副作用として、吐き気・嘔吐、食欲不振があります。また、パクリタキセルとラムシルマブを組み合わせた治療では、副作用として、疲労、下痢、出血 (鼻血など)、高血圧などがあげられます。免疫チェックポイント阻害薬の副作用については、関連情報をご覧ください。
●治療効果の判定について
治療効果の判定は、内視鏡やCTで行います。また、転移した臓器に対しては主としてCTを使います。また、MRI、PETなどを使うこともあります。
5.緩和ケア/支持療法
緩和ケアとは、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を維持するために、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげ、自分らしく過ごせるようにする治療法です。緩和ケアは、がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われるものです。患者さんの希望に応じて幅広い対応をします。
なお、支持療法とは、がんそのものによる症状やがん治療に伴う副作用・合併症・後遺症による症状を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。
本人にしかわからないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。
6.リハビリテーション
一般的に、治療の途中や終了後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などを、リハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師に確認しましょう。
7.臨床試験
よりよい標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。
現在行われている標準治療は、より多くの患者さんによりよい治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。
●胃がんの臨床試験
現在国内で行われている臨床試験(医師・研究者が実施する臨床試験、および製薬企業や医師が実施する治験の一部)に関しては、「がんの臨床試験を探す」で情報を閲覧することができます。
参加できる臨床試験があるかについては、担当医に相談してみましょう。
8.生存率
がんの治療成績を示す指標の1つとして、生存率があります。生存率とは、がんと診断されてからある一定の期間経過した時点で生存している割合のことで、通常はパーセンテージ(%)で示されます。がんの治療成績を表す指標としては、診断から5年後の数値である5年生存率がよく使われます。
なお、生存率には大きく2つの示し方があります。1つは「実測生存率」といい、死因に関係なくすべての死亡を計算に含めた生存率です。他方を「相対生存率」といい、がん以外の死因を除いて、がんのみによる死亡を計算した生存率です。
以下のページに、国立がん研究センターがん対策情報センターがん登録センターが公表している院内がん登録から算出された生存率を示します。ここでは、科学的根拠に基づく情報を迅速に提供する目的で、5年生存率より新しいデータで算出をした3年生存率についても情報提供をしています。
※データは平均的、かつ確率として推測されるものであるため、すべての患者さんに当てはまる値ではありません。
9.転移・再発
転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れなどに乗って別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。
胃がんの転移として、主に以下の3つのものがあります。
(1)血行性転移:がん細胞が血液に乗って、肺や肝臓に転移する。
(2)リンパ行性転移:リンパ管に入り、リンパ節に転移する。
(3)腹膜播種:胃の一番外側の膜(漿膜)を破り、お腹の中にがん細胞が散らばって広がる。
再発とは、初回の手術(内視鏡あるいは開腹手術)のときに目で見える範囲の胃がんをすべて取り除いたあとや、術後補助化学療法を行ったあとに、治療を行った場所または離れた別の臓器やリンパ節に再び胃がんができることをいいます。
再発に対する治療は、再発した部位、その時の全身状態や前回行った治療法とその時の効果などにより決められます。薬物療法による治療が一般的です。
更新・確認日:2020年03月16日 [
履歴 ]
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2020年03月16日 |
「さまざまな症状への対応 貧血」へのリンクを追加しました。 |
2019年04月08日 |
「胃癌治療ガイドライン医師用 2018年1月改訂(第5版)」「胃癌取扱い規約 第15版(2017年10月)」により、内容を全面的に更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2015年10月31日 |
「胃癌治療ガイドライン 2014年第4版」などにより、「経過観察と検査」などを更新しました。 |
2012年12月04日 |
内容を更新しました。 |
2012年10月26日 |
更新履歴を追加しました。 |
2012年06月18日 |
内容を更新しました。 |
2012年06月05日 |
内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2007年04月02日 |
掲載しました。 |
1.日常生活を送る上で
症状や、治療の状況により、日常生活の注意点は異なります。症状が重いときの対処について担当医と相談しておきましょう。
1) 内視鏡治療後の日常生活
胃の機能が大きく損なわれないので、早めに体力が回復し、基本的には食事も治療前と同じようにとれます。退院後2〜3週間以内にもとの日常生活に復帰できることが多いようです。
2)手術(開腹手術、腹腔鏡手術)後の日常生活
胃を切除したあとに起こることが多い症状を以下に示します。
(1)ダンピング症候群
胃の切除・再建後には、これまで胃の中で混ぜられ少しずつ腸に入っていった食べ物が、直接急に腸に流れ込むために、さまざまな不快な症状が起こることがあります。これをダンピング症候群といいます。全摘を含む胃の幽門部を切除したときに起こりやすくなります。食後すぐあとに起こる早期ダンピング症候群と、2〜3時間後に起こる後期ダンピング症候群があります。
早期ダンピング症候群: 血糖値が急に上昇することで、冷や汗やめまい、脱力感などが起こります。糖分を多く含む食事や甘みの強い流動食を控えることが予防になります。
後期ダンピング症候群: 腸で急速に糖質が吸収されて、インスリン(血糖を下げるホルモン)が大量に分泌し、逆に血糖が下がり過ぎてしまうことで起こります。めまいや脱力感、発汗、震えなどが起こることがあります。症状が起きそうだと感じたらすぐにアメなどをなめるようにします。
(2)逆流性食道炎
胃の入り口(噴門)を切除した場合、胃液や腸液、胆汁などの苦い消化液が逆流することをいい、胸やけなどの症状が出ることがあります。夕食は就寝前2〜4時間までにとるようにし、脂肪の多い食事は控えましょう。
(3)貧血
胃切除、特に全摘後は赤血球をつくるために必要なビタミンB12の吸収がしにくくなります。また、鉄を吸収されやすい形に変える胃酸の分泌も減ります。このため鉄欠乏性貧血となりやすくなります。ただし、ビタミンB12は肝臓に蓄積されているため、貧血の症状は、胃切除後すぐに出ることは少なく、一般的には数年後にみられます。
(4)骨粗しょう症
胃切除後は、カルシウムの吸収が悪くなるため、骨が弱くなり、骨折しやすくなります。必要に応じてカルシウム剤やビタミンD製剤を服用するとともに、筋力を強化するための運動も大切です。
●手術後の食生活
「少量ずつ」「何回かに分けて」「よくかんで」「ゆっくり」食べることを基本として、新しい胃腸の状態に応じた食べ方に少しずつ慣れていくことが大切です。また、水分をとるときは、固形物と別の時間にすることで、固形物を腸で吸収する時間をゆっくりにすることにつながります(空ける時間の目安:30〜60分)。
患者さんにより手術後の食事状況や好みは異なるため、栄養士などの医療者と自分に合った食事の方法を相談していきましょう。
3)薬物治療中の日常生活
副作用やその対処法について事前に担当の医師や薬剤師に確認し、外来時には疑問点や不安点などを相談しながら治療を進めていきましょう。
4) 性生活・妊娠について
性生活、妊娠・出産については、それぞれの病状によって異なります。担当の医師や看護師とよく相談してください。
2.経過観察
完治を目標とした治療が終了したあとは、全身の状態や後遺症を確認し、再発を早期に見つけるために、定期的な経過観察を行います。受診と検査の間隔は、がんの状況や治療の内容、体調の回復や後遺症の程度などによって異なります。
手術(外科治療)のあとには、回復の度合いや再発の有無を確認するために、定期的に通院して検査を受けます。通院の頻度は個別の状況により異なりますが、少なくとも手術後5年間は必要です。
内視鏡治療後の経過観察の方法は、病理診断の結果により異なります。年に1〜2回の内視鏡検査による経過観察を基本として、CT検査などの別の画像検査をする場合もあります。
薬物療法を継続しない場合には、はじめは1週間ごと、病状が安定してきたら2〜3週間ごとに定期的に受診します。治療効果については、治療によりがんを取りきることが難しい進行・再発胃がんに対する化学療法の場合には2〜3カ月に一度、術後補助化学療法の場合には、半年ごとにCT検査などでがんの状態を確認します。
規則正しい生活を送ることで、体調の維持や回復を図ることができます。禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、適度な運動など、日常的に心がけることが大切です。