1.病期と治療の選択
治療方法は、がんの進行の程度や体の状態などから検討します。
がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。病期は、ローマ数字を使って表記することが一般的です。
1)病期(ステージ)
喉頭がんの病期は、「がんの広がり(T分類)」「頸部のリンパ節に転移したがんの大きさと個数(N分類)」「遠くの臓器への転移の有無(M分類)」によるTNM分類(表1)に基づいて決まります(表2)。


2)治療の選択
治療法は標準治療に基づいて、がんの進行の程度や体の状態、年齢、患者さんの希望なども含めて検討し、担当医とともに決めていきます。
食事をとる、発声するといった機能を温存することも重要視しています。
喉頭がんの治療方法は、がんの進行度によって異なります。Ⅰ期やⅡ期といった早期の場合は、放射線治療や喉頭を残すことができる手術(喉頭温存手術)のみで治療することがありますが、患者さんの状況に合わせて治療法を組み合わせることも少なくありません。進行している場合、従来は喉頭をすべて取り除く手術(喉頭全摘出術)を行いましたが、最近では放射線治療と薬物療法を併用した治療で、声を残す方法も選ばれるようになってきました。
図2〜6は、喉頭がんの広がりの程度ごとに根治を目指す治療方法を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。





妊娠や出産について
がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊よう性温存治療(妊娠するための力を保つ治療)が可能か、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
2.放射線治療
放射線治療では、放射線をあててがん細胞を破壊し、がんを消滅させたり小さくしたりします。正確に放射線をあてるため、治療中に体が動かないようにする固定具(シェル)を使用するのが一般的です。喉頭を切除しないため、声を出す機能を残すことができます。放射線は正常な細胞にもダメージを与えるため、その影響をなるべく少なくできるよう間隔をあけ、何回かに分けて治療を行います。通常、治療にかかる期間は6〜7週間です。
がんの進行度により、放射線治療を単独で行う場合と、放射線治療と薬物療法を併用する場合があります。
1)放射線治療(単独)
Ⅰ期やⅡ期といった早期の場合に行います。1週間に5回の頻度で、分割して治療をするのが一般的です。リンパ節を治療の範囲に含むかどうかは、がんの種類によって異なります。早期の場合は、放射線をあてる範囲が狭いので、皮膚の発赤や声がれなどの比較的軽い副作用ですみます。
近年、通常の照射法のほか、がんが進行している場合には強度変調放射線治療(IMRT)という治療法も行われるようになってきました。IMRTでは、さまざまな方向からの放射線の量をコンピューターで調節するため、複雑な形のがんでもそれぞれの部位に適切な量の放射線を照射することができます。また、正常な細胞への照射を最小限にできるため、放射線をあてる範囲が広い場合でも副作用の軽減が期待されます。
2)化学放射線療法
化学放射線療法は、進行した喉頭がんに対して、薬物療法と併用して放射線治療を行う方法です。薬物を併用することにより放射線治療の効果を高めることができます。一方で、放射線と薬物の両方の副作用により、放射線治療を休止せざるをえない場合もあります。嗄声や音声障害、粘膜炎による嚥下障害、皮膚炎、骨髄抑制などの副作用も強くなります。
副作用について
がんが進行している場合の放射線治療中や治療後には、唾液の出る量の減少、口腔乾燥、味覚障害、口腔・咽頭・喉頭の粘膜炎による痛み、皮膚の炎症による痛みなどがみられ、しばしば摂食・嚥下機能が低下します。また、倦怠感や体力低下が起こることもあります。咽頭・喉頭の乾燥は後遺症として続き、痰の切れが悪くなったり、痰がはりついたりする感じが生じることも少なくありません。
副作用が原因で治療を中止するという事態を避けるため、副作用を最小限にする支持療法という処置を行うことがあります。
(1)放射線皮膚炎への対応
軟こうを用いて、放射線治療によって損傷した皮膚の組織を保湿します。
(2)口内炎/粘膜炎への対応
放射線治療によって口内炎や粘膜炎がみられる場合、痛みに対する処置として薬剤を用いることがあります。
(3)口腔ケア
治療に伴い、口の中にたくさん存在する細菌が原因で感染症になることがあります。これを防ぐには、粘膜に刺激のないやさしいブラッシング、うがいやこまめに水分をとるなど、口の中を清潔で潤った環境に保つことが効果的です。また、定期的に歯科医師の診察やチェックを受けましょう。口腔ケアは放射線治療だけでなく、手術や薬物療法でも行われています。
(4)胃ろうの造設
おなかの皮膚から胃へ直接管を留置することを「胃ろうの造設」といいます。口腔や咽頭の粘膜炎などの副作用により、栄養や薬剤を口から適切に摂取できず、それが原因で治療を継続できなくなることを避けるため、放射線治療の前に胃ろうをつくっておくこともあります。治療中や治療後に必要な場合には、直接胃の中に栄養や薬剤を入れることができます。治療が終わって、口から十分食事がとれるようになったら留置していた管は抜くことができます。抜いてしまうと通常は自然に穴がふさがります。
3.手術(外科治療)
手術には、喉頭を部分的に残す「喉頭温存手術」と、喉頭をすべて取り除く「喉頭全摘出術」があります。声を出す機能を残すため、できる限り喉頭温存手術を行いますが、がんがとりきれないほど進行しているときには喉頭全摘出術を行います。
1)手術の種類
(1)喉頭温存手術
喉頭の一部を取り除く方法で、がんの大きさや場所によりますが、手術後もある程度声を出すことができます。さまざまな手術方法があり、声帯や声門上部のがんで表面のみにとどまる場合は、口から確認しながらレーザーなどでがんを取り除くことができます(内視鏡切除術または経口的切除術)。より進行している場合や部位によっては、首を切開してがんを取り除く「喉頭部分切除術」や「喉頭亜全摘出術」を行うことになります。
(2)喉頭全摘出術
喉頭を完全に取り除く方法で、手術後は手術前と同様の声を出すことができなくなります。喉頭を取り除くと喉頭とつながっていた咽頭が開いた状態になるため、この部分を閉じる処置を行います。ただし、この処置により気管が鼻や口とつながらなくなってしまうため、呼吸をするための穴(永久気管孔)を首に開ける必要があります。
(3)頸部郭清術
リンパ節への転移がある場合に、手術で転移のあるリンパ節を周囲の組織ごと取り除く方法です。がんの状態によって、取り除く範囲は異なります。リンパ節への転移がない場合にも頸部郭清術を行うこともあります(予防的郭清)。周辺の血管や神経をできるだけ残しながら手術しますが、がんの状態によってはそれらを残すことができないこともあります。
2)手術の後遺症
喉頭の切除術式や頸部郭清術の範囲によって異なります。
(1)喉頭温存手術後の後遺症
早期の場合は、切り取る範囲が少ないため声への影響はわずかですが、広い範囲を切り取る場合やがんの部位によっては、声が出にくくなることもあります。また、飲食物が食道ではなく気管に入ってしまう誤嚥を起こしやすくなるので、気をつけなければなりません。
(2)喉頭全摘出術の後遺症
喉頭をすべて取り除くため、手術直後はまったく声を出すことはできなくなりますが、いくつかの発声法があり、訓練することで声を出せるようになります。また、食道と気管が完全に分かれるため、誤嚥の心配はありません。ただし、小腸の一部を利用して食道を再建する「遊離空腸移植」をした場合は、移植部分で食べたものが停滞したり、つなぎ合わせた部分が狭窄したりして、飲み込みにくい、食べたものが逆流するといった症状があらわれることがあります。その場合は狭窄した部分を広げる手術を行ったり、食事の内容や食べ方を工夫したりします。
(3)頸部郭清術の後遺症
手術の範囲によりますが、腕をあげにくい、首や肩の締めつけ感や痛みといった症状があらわれることがあります。そのまま動かないでいると、痛みや肩が動かしにくい状態が続いてしまう場合もあります。また、神経に接して存在するリンパ節もあり、首や肩の麻痺があらわれることがあります。このような場合はリハビリテーションを行って、それらの症状を軽減します。
4.薬物療法
Ⅱ期以降で行う「化学放射線療法」、主にⅣ期で行う「導入化学療法」、再発や遠隔転移に対する薬物療法があります。
1)導入化学療法
放射線治療や手術を行うときに、これらの治療の前に先行して行う薬物療法のことです。
導入化学療法には、シスプラチンとフルオロウラシル(5-FU)を併用するPF療法、PF療法にドセタキセルを加えたTPF療法があります。
また、導入化学療法後に行う放射線治療の際に、治療の効果を高めて喉頭を温存するために、分子標的薬を併用することがあります。
2)再発や遠隔転移に対する薬物療法
(1)分子標的薬
一般的にセツキシマブが用いられています。セツキシマブにシスプラチンやフルオロウラシル(5-FU)を併用することもあります。
(2)免疫チェックポイント阻害薬
喉頭がんではニボルマブが用いられています。承認されて間もない薬のため、副作用について特に慎重に検討がなされています。(2018年6月現在)
5.緩和ケア
緩和ケアとは、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を維持するために、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげ、自分らしく過ごせるようにする治療法です。がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われ、希望に応じて幅広い対応をします。患者さん本人にしかわからないつらさについても、積極的に医療者へ伝えるようにしましょう。
6.リハビリテーション
声を失ったり、飲食物を飲み込んだりする働きが低下した場合は、リハビリテーションを行い、これらの機能をできる限り回復させていきます。
1)発声のリハビリテーション
喉頭全摘出術により声を出せなくなった場合は、代用音声を獲得する方法があります(図7)。
(1)食道発声
食道に吸い込んだ空気を出すときに食道を振動させて発声する方法です。習得に時間がかかりますが、器具を必要としないので両手を使えるのが利点です。食道発声法は習得者の話が役に立つことがあります。患者会などで経験者にコツを聞くとよいでしょう。
(2)電気喉頭
電動で振動する器械をのどにあて、単純に言葉の口型をつくることで振動させて発声する方法です。機械的な音声で、片手がふさがってしまいますが、習得は簡単です。器械が入手できれば、入院中から練習を始められます。
(3)シャント発声
気管と食道をつなぐ道をつくり、肺から食道へ空気を送り発声する方法です。つくった道に器具を入れて誤嚥を防ぐ方法もあり、この場合は器具のメンテナンスが必要ですが、食道発声より簡単で10日ほどで習得できます。
それぞれメリット、デメリットがあるため、患者さんに合った方法を選びます。
気になることがあれば、担当医や看護師、言語聴覚士などに聞いてみましょう。発声の指導をする発声教室もあるため、活用してもよいでしょう。

2)飲み込みのリハビリテーション
飲食物を食道へ、空気を気管へふり分ける働きが低下すると、誤嚥による誤嚥性肺炎になってしまう恐れがあります。これを防ぐために、言語聴覚士や看護師などと共に、安全に食事をとるリハビリテーションを行います。舌やのどの筋力強化の訓練や実際に食事をするリハビリテーションがあります。
3)頸部郭清術による症状のリハビリテーション
肩や首の症状を悪化させないために、肩に負担がかからない生活の指導を受けたり、肩や首を温めたりします。また、肩や首を動かす訓練、筋肉を強化する訓練なども行います。
7.転移・再発
転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。また、再発とは、治療の効果によりがんがなくなったあと、再びがんが出現することをいいます。
転移のしやすさは、がんのできる場所により異なります。声門がんは進行するまで転移しないことが知られていますが、声門上部がんと声門下部がんはリンパ節に転移しやすいです。リンパ節に転移し、その範囲が広がると遠くの臓器に転移(遠隔転移)することもあります。多くは肺への転移で、肝臓や脳への転移はあまり起こりません。
1)局所再発に対する放射線治療・手術
放射線治療は同じ場所に対して原則として繰り返し行うことができないため、はじめの治療で放射線治療を行ったあとに再発した場合は手術を行います。一方で、はじめの治療で放射線治療を行っていない場合は、放射線治療を含めて治療法を検討します。
2)再発・転移に対する薬物療法
初回の治療後に再発し、手術ができない場合や遠隔転移が出現した場合には、薬物療法を行うことがあります。
再発後の薬物療法では、シスプラチンとフルオロウラシル(5-FU)とセツキシマブを併用する3剤併用療法、パクリタキセルとセツキシマブの2剤併用療法などが行われます。従来の薬物療法で効果が得られない場合には、免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブも使用されます。
2020年02月27日 | 「4.薬物療法」以降の項目の順序を変更し、「8.生存率」の参照先を「がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計」としました。 |
2018年06月26日 | 「頭頸部癌診療ガイドライン2018年版」「頭頸部癌取扱い規約 第6版(2018年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2016年02月10日 | 5年相対生存率データを更新しました。 |
2014年10月03日 | 5年相対生存率データを更新しました。 |
2013年02月14日 | 内視鏡治療の図を更新しました。 |
2012年12月21日 | 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2006年11月29日 | 内容を更新しました。 |
1996年11月25日 | 掲載しました。 |