1.口内炎・口内の乾燥について
口内炎とは一般に口内の粘膜に起きた炎症で、粘膜が赤く腫れたり、痛んだりします。口内炎や口内の乾燥は、がんの治療中によくみられます。薬物療法を受けた約半数の人で起こり、口、のど、耳などのがん(頭頸部がん)への放射線治療を受けたほとんどの人に起こります。これらのトラブルは、食事や睡眠を十分に取れない原因となり、体力の低下につながることがあります。
したがって、がんの治療を開始する前から口腔ケア(歯磨きとうがい)で予防を行い、トラブルが起きたときには、早めに適切な治療を受けるとともに自分でも口腔ケアを行うことが大切です。
2.原因
口内炎の多くは、薬物療法や口、のど、耳などのがん(頭頸部がん)の放射線治療によって、口の中の粘膜が傷つけられたり、唾液を出す細胞がダメージを受けたりすることで起こります。また、歯磨きやうがいが十分にできていないこと、免疫力が低下すること(加齢、薬の副作用など)、食事が十分に取れず栄養状態が不良になること、喫煙、入れ歯が合わず粘膜を傷つけてしまうことなども原因となります。
口内の乾燥の多くは、薬物療法や放射線治療、酸素療法、食事が取れないこと、薬の副作用(医療用麻薬や抗不安薬、睡眠導入剤)などによって、唾液が十分に出なくなることが原因で起こります。
3.口内炎・口内の乾燥が起きたときには
1)口内炎が起きたときには
水やうがい薬で口をすすぎ、うるおいと清潔さを保ちます。痛みがある場合には、痛み止めの薬(鎮痛剤)を使います。
食事のときに食べ物が当たるなどで痛みが強い場合には、範囲の狭い小さな口内炎でも、症状が悪化する前からうがい薬に局所麻酔薬(リドカインなど)を混ぜて使用することがあります。うがいが届きにくい唇の周り(口唇粘膜)などに口内炎ができた場合には、スプレータイプの粘膜保護剤(エピシルなど)を用いることがあります。
のどのほうまで口内炎が広がるなど、症状が強い場合には、医療用麻薬を用いることがあります。
症状が強くて食べ物が飲み込みづらく、誤嚥や肺炎の危険性がある場合には、点滴などにより栄養補給をすることがあります。
なお、薬物療法や放射線治療によって起こる口内炎は、基本的には一時的なもので、治療が終了すれば症状がおさまります。
2)口内の乾燥が起きたときには
頻繁にうがいをしたり、市販の口腔保湿剤を使ったりして口の中を湿らせます。唾液腺(唾液が出るところ)を刺激して唾液を出す薬(ピロカルピン塩酸塩[サラジェン])を使用することもあります。
4.ご本人や周りの人ができる工夫
口内炎・口内の乾燥の原因によっては、ご本人や周りの人が工夫できることもあります。
1)口腔ケア
口腔ケアは、口や全身のあらゆるトラブルを防止するために重要です。病気や治療の状態や、食事をしたかに関わらず毎日行いましょう。自分だけでケアをすることが難しい場合には、医師や看護師、薬剤師などに相談したり、周りの人に手伝ってもらったりすることも大切です。
飲酒や喫煙は口腔粘膜に傷害を与えます。禁煙し、治療中の飲酒は控えましょう。
(1)歯磨き・歯間清掃
毛の柔らかい歯ブラシで、歯や歯茎、舌への優しいブラッシングを1日2~4回行います。通常のブラッシングのあとに、歯と歯の間を細いブラシ(ワンタフトブラシ)や歯間ブラシを用いてブラッシングを行うとよいでしょう。舌のブラッシングは専用のブラシ(舌ブラシ)を用いるなどして、舌を傷つけないよう、優しく行ってください。
入れ歯の人は、毎食後口をすすぎ、少なくとも1日2回は柔らかいブラシ(スポンジブラシ等)でブラッシングを行います。入れ歯は、夜間は外し清潔にして、密閉容器に保管します。入れ歯が合わなくなると、粘膜を傷つけることがあるため、早めに歯科医師に相談しましょう。
(2)うがい
うがいは口の中のうるおいと清潔を保つのに役立ちます。水または生理食塩水(500mLの水に対して小さじ1杯分の食塩[約5g]を溶かした食塩水)でうがいをするとよいです。1日4回以上が目安になります。うがいができない場合には、スポンジブラシをうがい薬にひたし、口の中を拭くことで口内を湿らせるとよいです。
2)口内炎がある場合の工夫
口内炎があるときには、歯磨き剤を一時的に使用しない、または低刺激性の歯磨き剤を使って歯磨きをすることがお勧めです。痛みが強いときには、一時的に塗れたガーゼでぬぐったり、うがいだけにしたりします。
十分に食事を取り、体力をつけることが口内炎の治療に役立ちます。口内炎によって口の中が痛い場合には、酸味やスパイスを控えた薄味の料理で痛みを和らげます。また、口の中を刺激しないよう、食べ物や飲み物は人肌程度に冷ます、食べ物は軟らかくしたり、細かく刻んだり、とろみをつける工夫もあります。食べられないときは、栄養士に相談しながら、濃厚流動食(バランス栄養飲料)や栄養補助食品なども利用しましょう。
3)口内の乾燥がある場合の工夫
口内の乾燥があるときには、水で塗らしたガーゼで口をぬぐったり、市販の口腔保湿剤(ジェルタイプやスプレータイプがあります)を使ったりすることで症状が緩和します。スプレータイプの保湿剤は口が十分に開けられない場合などに便利です。1日数回気付いたときに保湿しましょう。アルコールを含む洗口液でうがいをすることは控えたほうがよいといわれています。
5.こんなときは相談しましょう
口の中が痛い、乾燥する、食べ物がしみる、飲み込みにくい、入れ歯が合わなくなったと感じるなど、いつもと違う症状があるときには、医師や歯科医師、看護師、薬剤師に相談しましょう。痛みが強くなるまで我慢せず、痛みが出始めたときから相談することが大切です。歯科治療を受ける際には、まずがんの治療の担当医にその旨を伝え、歯科医師にもがんの治療の状況を伝えることが大切です。
6.「口内炎・口内の乾燥」参考文献
- 国立がん研究センター内科レジデント編.がん診療レジデントマニュアル 第7版.2016年,医学書院
- 国立がん研究センター.平成24年度 厚生労働省・国立がん研究センター委託事業 全国共通がん医科歯科連携講習会テキスト 第1版.2012年
- 独立行政法人医薬品医療機器評価機構ウェブサイト.重篤副作用疾患別対応マニュアル(医療従事者向け)抗がん剤による口内炎.2009年
- 日本がんサポーティブケア学会 粘膜炎部会編.「JASCCがん支持医療ガイド翻訳シリーズ」口腔ケアガイダンス 第1版日本語版.2018年
- 日本口腔ケア学会学術委員会編.口腔ケアガイド.2012年,文光堂
- 上野尚雄ほか編.がん患者の口腔マネージメントテキスト-看護師がお口のことで迷ったら-.2016年,文光堂
- 的場元弘編.在宅療養中のがん患者さんを支える口腔ケア実践マニュアル.2014年
- 森田達也ほか監修.緩和ケアレジデントマニュアル.2016年,医学書院
7.その他の関連情報
※本ページの情報は、「『がん情報サービス』編集方針」に従って作成しています。
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