1.脱毛について
がんの治療に伴って、髪のほか、眉毛、まつ毛、鼻毛、ひげ、腋毛、陰毛などが抜けることがあります。その程度は治療法や使われる薬剤によって異なり、脱毛が起きないこともあります。治療前に担当の医師や薬剤師に脱毛が起こるかどうかや、脱毛の程度などを確認しておくとよいでしょう。脱毛は治療の一時的な副作用であり、多くの場合、治療が終われば再び生え始めます。
がんの治療に使う薬による脱毛は、全身に起こることがあります。個人差がありますが、治療を開始してから1~3週間後に毛が抜け始めます。多くの場合、原因となっている治療後3カ月ほどで数ミリ程度の長さに生えそろってきます。
放射線治療による脱毛は、照射した部位だけに起こります。個人差がありますが、治療開始から10日程度で毛が抜け始め、多くの場合は治療終了から2~3カ月で数ミリ程度の長さに毛が生えそろいます。
2.原因
パクリタキセル、ドキソルビシンといった細胞障害性抗がん薬などのがんの治療に使う一部の薬や、放射線治療が原因となって起こります。
細胞分裂が活発な毛根の細胞は薬の影響を受けやすいため、毛の成長に問題が生じて脱毛が起こります。脱毛の程度やスピードには個人差があり、必ずしもすべての毛が抜けてしまう訳ではありません。薬の中でも、脱毛が起こりやすい薬と脱毛が起こりにくい薬があり、使用量、使用スケジュールによって、脱毛の程度は変わります。
放射線治療による脱毛は、照射した放射線が皮膚を通過するときに毛根の細胞がダメージを受けることによって起こります。
3.脱毛が起きたときには
髪が抜け始める時期には、頭皮が引っ張られるような痛み、かゆみなどの症状が出ることがありますが、多くは一時的なものなので心配ありません。頭皮の状態を確認し、実際に頭皮のトラブルが起こっている場合には、担当の医師や看護師、薬剤師に相談してください。
がんの治療薬の点滴中に、脱毛を抑えるために、キャップを頭に装着して頭皮を冷やす頭皮冷却装置を使用している施設もありますが、2020年2月現在、公的医療保険の適用外です。
4.ご本人や周りの人ができる工夫
1)脱毛が始まる前に
脱毛を防ぐ確実な方法はありません。しかし、がんの治療方法を決めてから実際に毛が抜け始めるまで数週間ありますので、その間に外見の変化に備えることができます。
抜けた髪の毛が絡まらないように、あらかじめ短く切っておく人もいますし、長いままにしておく人もいます。
ウィッグ(かつら)や帽子を使うのであれば、生活スタイル、好み、予算などに合わせて、自分らしくかぶれるものを選んでみましょう。がん患者へのウィッグの購入費助成を行っている自治体もあります。
脱毛が始まる前に、自分の髪型や顔の写真を撮っておくとよいでしょう。顔の写真は、脱毛後に眉毛を描くときの参考になります。
2)脱毛中・脱毛後
(1)脱毛時の洗髪・ヘアケアの工夫
髪の抜け始めは、バンダナや室内でも利用できる柔らかい素材の帽子が便利です。外見的なカバーだけでなく、床に髪の毛が落ちるのを防ぎ、布団や枕に髪の毛がつきにくくなります。
髪の毛が抜けてから頭を洗うときには、今まで使っていたシャンプーのほか、顔や背中からのつながりで洗顔料やボディーソープを使うこともできます。
洗髪後はタオルで軽く押さえて水分を吸収させます。ドライヤーで乾かしても構いません。発毛剤や育毛剤を使いたいという人もいますが、2020年2月現在、脱毛の予防や期待するような再発毛を促す効果が十分に確認された製品は今のところありません。
(2)眉毛やまつ毛が抜けたときの工夫
眉毛やまつ毛がないと顔の印象が変わって見えることがあります。脱毛後は眉の位置がわかりにくいので、例えば脱毛前に撮った自分の顔の写真を参考に、顔と眉のバランスを確認し、アイブロー(眉ずみ)で眉を描くとよいでしょう。まつ毛が抜けたときにはアイシャドーを使うなど、化粧の工夫でカバーすることができます。また、フレームの太い眼鏡やサングラスをかけると脱毛が目立たなくなります。
まつ毛がないと目にごみが入りやすくなります。外出時には眼鏡をかけるのも1つの方法です。
(3)鼻毛が抜けたときの工夫
鼻毛がないと突然鼻水が出たり、鼻の中が乾燥し粘膜が痛みやすくなったりします。外出時はマスクを使用するのもよい方法です。
3)再び毛が生えてきたら
再び毛が生えてきたときには、柔らかいくせ毛が生えてくる場合がありますが、しばらくすると以前の毛質に近い毛が生えてきます。
くせ毛を伸ばしたり白髪を染めたりしたい場合は、パーマ剤や染毛剤の使用に適した十分な長さに髪が伸びてから行うことができます。その際には、過去にパーマ剤や染毛剤によるアレルギーや皮膚のトラブルがない、頭皮に湿疹がない、パッチテストで異常がないなどの使用条件を満たすことを確認したうえで、治療前に使用していた製品を使うのが安心です。頭皮にパーマ剤や染毛剤がなるべく付着しないようにするため、自分で行うのではなく、美容師や理容師に施術してもらうことをお勧めします。
施術後、頭皮にトラブルが生じた場合には、速やかに皮膚科専門医を受診するようにしてください。
5.こんなときは相談しましょう
脱毛について不安や悩みがあるときは、ひとりで抱え込まずに担当の医師や看護師、薬剤師、がん相談支援センターの相談員に相談しましょう。
6.「脱毛」参考文献
- 日本乳癌学会編.患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年版.金原出版
- 国立がん研究センター看護部編.国立がん研究センターに学ぶがん薬物療法看護スキルアップ.2018年,南江堂
- 国立がん研究センター研究開発費がん患者の外見支援に関するガイドラインの構築に向けた研究班編.がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版.金原出版
- 日本がん看護学会監修.女性性を支えるがん看護.2015年,医学書院
- 野澤桂子ほか編.臨床で活かすがん患者のアピアランスケア.2017年,南山堂
7.その他の関連情報
※本ページの情報は、「『がん情報サービス』編集方針」に従って作成しています。
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