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胚細胞腫瘍〈小児〉(はいさいぼうしゅよう)

更新・確認日:2019年06月20日 [ 履歴 ]
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2019年06月20日 タイトルに〈小児〉を追記しました。
2014年04月22日 2013年7月発行の冊子とがん情報サービスの情報を再編集し、掲載しました。

胚細胞腫瘍とは

胚細胞腫瘍は、胎生期(胎児の時)の原始生殖細胞といわれる、精子や卵子になる前の未成熟な細胞から発生した腫瘍の総称です。精巣・卵巣といった性腺由来のものと、仙尾部(せんびぶ)、後腹膜(こうふくまく:腹部の大血管周囲)、前縦隔(ぜんじゅうかく:胸骨の裏で心臓の前の部分)、頸部、頭蓋内(ずがいない)など性腺外に出るものに分けられます。頭蓋内では松果体の付近に多く発生します。

胚細胞腫瘍の中でもっとも頻度が高いのは奇形腫と呼ばれる腫瘍であり、構成する細胞の分化の程度により成熟型と未熟型に分けられますが、いずれも良性として扱われます。胚細胞腫瘍は、体のどのような部位にも分化できる可能性を持つ生殖細胞由来であるため、1つの腫瘍の中に神経系成分、脂肪成分、骨や歯の成分、のう胞成分などいろいろな組織成分が集まっているのが特徴です。その他、胎児性がん(精巣)、多胎芽腫(たたいがしゅ)、卵黄のう腫瘍、絨毛(じゅうもう)がんや、未分化胚細胞腫(卵巣)、胚細胞腫(性腺外)、セミノーマ(精上皮腫:精巣)などの悪性の胚細胞腫瘍もあります。また良性型の奇形腫が、時間の経過により悪性化したり、悪性の形で再発したりすることもあります。

よく発症する年齢や頻度は生じる部位により異なります。精巣原発のものは生後6ヵ月から12ヵ月ころに多く、悪性型の卵黄のう腫瘍も同時期に多くみられます。これに対して卵巣原発のものは乳児期から成人期まで広い年齢に発症し、良性型が多くみられます。

性腺以外の場所で最も発生の頻度が高い部位は仙尾部で、新生児の腰に大きな腫瘍が飛び出したように見えますが、ほぼ全てが未熟成分を含む良性型です。ただし生後6ヵ月以降に発症するものでは仙骨の前側に発生することが多く、悪性である可能性が非常に高い特徴があります。まれにみられる頸部原発の腫瘍は、新生児期や出生前に診断されるものがほとんどです。また、後腹膜原発の腫瘍は胚細胞腫瘍全体の10%程度であり、乳児期以降の比較的高い年齢によく発症しますが、悪性である可能性は10%未満と多くはありません。前縦隔の腫瘍は胸腺原発であることが多く、学童期以降の高い年齢によく発症します。悪性腫瘍も少なからずみられます。

15歳からの青年期に発症した精巣腫瘍や卵巣胚細胞腫瘍は、成人の腫瘍の場合と同じ治療を行うことがあります。がん情報サービス それぞれのがんの解説の「精巣(睾丸)腫瘍」や「卵巣がん」を参考にしてください。



更新・確認日:2017年02月03日 [ 履歴 ]
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2017年02月03日 「がんといわれたとき」の項目を「子どもががんと言われた親の心に起こること」「小児がんと言われた子どもの心に起こること」に変更しました。
2014年04月22日 2013年7月発行の冊子とがん情報サービスの情報を再編集し、掲載しました。

小児がんの診療の流れ

この図は、はじめて小児がんを疑われたときから、「受診」そして「経過観察・長期フォローアップ」に至るまでの流れです。今後の見通しを確認するための目安としてお使いください。
がんの疑い      「風邪のような症状が治らない」「顔色が悪い」「いつもと様子が違う」などと感じたら、まず、病院や医院で医師に相談しましょう。
 
受診   受診のきっかけや、気になっていること、症状など、何でも担当医に伝えてください。伝えたいことはあらかじめメモにまとめておくとよいでしょう。検査の予定や次の診察日が決まります。
 
検査・診断   検査が続いたり、結果が出るまで時間がかかったりすることもあります。担当医から検査結果や診断について説明があります。治療法を選択する際には、検査や診断についての理解が必要となります。不安や疑問に思ったことは医療者に尋ねましょう。
 
治療の選択   担当医が、がんや体の状態に合った治療の方針について説明します。治療の目的や効果、治療に伴う副作用について整理しておきましょう。信頼できる情報を集め、お子さんやご家族、医療者と話し合い、お子さんの希望に沿う方法を見つけましょう。
 
治療   治療が始まります。治療中、困ったことやつらいこと、気が付いたことはいつでも医療者に相談しましょう。お子さんにとって、よりよい方法を一緒に考えていきましょう。
 
長期フォローアップ   治療後の体調の変化やがんの再発がないかなどを確認するために、しばらくの間、通院します。検査を行うこともあります。治療が終わって長い時間が経過してからあらわれる副作用や成長への影響に対応するために、長期のフォローアップを行います。

受診と相談の勧め

がん(腫瘍[しゅよう])という病気は、患者さんごとに症状のあらわれかたが異なります。また、はっきりした症状がみられない場合もあります。お子さんに何か気に掛かる点がある場合や、健康診断などで詳しい検査が必要と言われたときには、きちんと医療機関を受診してください。疑問や不安を抱きながらも問題ないとご家族が判断したり、病気が見つかることを怖がって、受診を控えたりすることのないようにしましょう。受診して医師の診察を受け、症状の原因を詳しく調べることで、病気ではないことが確認できたり、早期診断に結び付いたりすることがあります。

全国の国指定の小児がん拠点病院がん相談支援センターでは、小児のがんについて知りたい、話を聞きたいという方の相談をお受けしています。その病院にかかっていなくても、どなたでも無料で、また対面だけでなく、電話などでも相談できます。わからないことや困ったことがあったらお気軽にご相談ください。

小児がん拠点病院は「小児がん拠点病院を探す」から検索することができます。

子どもががんと言われた親の心に起こること

がん(腫瘍)という診断を受けることは、わが子を失うかもしれない恐怖で心がいっぱいになる方が多いでしょう。何がいけなかったのだろうかと思い悩み、早く気付けなかった罪悪感にさいなまれたり、見守ることにつらさを感じたりすることもあるかもしれません。精神的な衝撃を受ける中で、治療の説明を理解し、子どもに伝え、判断していく必要があります。

子どもが命に関わるかもしれない病気になることは、親にとってもトラウマ(心的外傷)体験になると考えられています。ご家族も気分が悪くなったり、体調を崩したりすることがあります。

ご家族に心がけていただきたいこと

子どものがんと大人のがんとでは、その性質がまったく異なります。小児がんについての情報はいろいろなところから得ることができますが、正確でないものもあります。できるだけご家族そろって専門家の話をよく聞いて、現状を正しく理解することが大切です。わからないことは遠慮せずに質問するようにしましょう。

子どもの入院生活はどのようになるのか、検査や治療に子どもは耐えられるのだろうか、入院が始まるときに家族はどのような態勢を取ればよいのだろうか、ほかのきょうだいの生活はどのように維持していけばよいのだろうか、と頭の中は大混乱となることがあるかもしれません。
病院内にも、多方面からサポートするスタッフがいます。ささいなことと思ってもひとりで悩まないで、医療者に伝えて適切な相談者を紹介してもらいましょう。

一方、ご家族の関心が、病気の子どもに集中してしまうと、きょうだいは寂しい思いをします。きょうだいにも理解できる範囲で、病気のこと、今後の見通しについて説明をしておくことが大切です。面会に年齢制限があるなど、きょうだいを会わせるのが難しい場合もありますが、できれば会わせたり、電話で話したりする機会をつくるとよいでしょう。

小児がんと言われた子どもの心に起こること

小学生以上の子どもたちの中には、親と同様に「がん(腫瘍)」という言葉から、命に関わるかもしれない病気であると感じる子もいます。また、幼児期の子どもたちは大人たちの反応を非常によく観察していますので、周囲のただならぬ雰囲気から大変なことが起こっているのだということを感じ取ります。

治療を受けるには、「治したい」という本人の自覚が必要です。今起きていることや、これからのことがわからない上に、体調も悪いとなると、子どもはとても不安になります。不安が高まると、いろいろなことに敏感になります。例えば痛みに敏感になったり、寝付きが悪くなったりします。納得して治療に臨めるように子どもにどのように伝えるか、医療スタッフとしっかり話し合いましょう。周囲から支えられていることを感じながら、この試練を乗り越えることができると、子どもは自分に自信を持ち、発病前以上に成長できることが知られています。これからの入院生活の中で本人が孤立しないように、家族と医療スタッフの間の信頼が築けるような態勢をまず整えましょう。



更新・確認日:2014年04月22日 [ 履歴 ]
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2014年04月22日 2013年7月発行の冊子とがん情報サービスの情報を再編集し、掲載しました。

診断方法

腫瘍の一部を手術でとって調べること(生検)によって診断が確定されます。

腫瘍の種類によっては、腫瘍マーカーと呼ばれる腫瘍細胞から出される物質が血液から検出されます。腫瘍マーカーを調べることは、、腫瘍の種類の判定とともに治療の効き方の評価にも役立ちます。例えば、ヒト絨毛性ゴナドトロピンβ鎖(β-hCG)は絨毛がんで上昇し、アルファフェトプロテイン(AFP)は卵黄のう腫瘍で上昇します。腫瘍の成分として両者が混在することもあり、その場合には両方の腫瘍マーカーが上昇します。

胚細胞腫瘍のうち胚細胞腫(あるいは未分化胚細胞腫、セミノーマ)には特異的な腫瘍マーカーがありません。腫瘍マーカーの上昇がみられない場合は、病理診断(腫瘍細胞を顕微鏡で詳しく観察することで、悪性腫瘍かどうかなど、組織や細胞の性質について診断すること)が重要となります。また、病期の診断は、CT、MRI、骨シンチグラフィなどの画像所見により行われます。

病期(ステージ)

病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、英語をそのまま用いてステージともいいます。胚細胞腫瘍の場合には病期I~IVに分けられます。

大まかにいうと「病期I」は臓器などの中にとどまっていた腫瘍が完全に切除され、リンパ節に転移がみられなかったもの、「病期II」は、臓器を包む膜に腫瘍が広がっているか、あるいは小さなリンパ節転移があったもの、「病期III」は、目で見えるリンパ節転移があったもの、あるいは腫瘍の取り残しがあり、腹水または胸水の中に腫瘍細胞が確認されたもの、「病期IV」は肺や肝臓などもとの腫瘍から離れた場所に転移があるものです。

また、卵巣胚細胞腫瘍については、国際産科婦人科連合(FIGO)の病期分類が用いられています。
表1 小児の悪性胚細胞腫瘍の病期分類
表1 小児の悪性胚細胞腫瘍の病期分類 図
日本小児がん学会*編「小児がん診療ガイドライン 2011年版」(金原出版)より一部改変 *現日本小児血液・がん学会
表2 小児の卵巣胚細胞腫瘍の病期分類
表2 小児の卵巣胚細胞腫瘍の病期分類 図
日本小児がん学会*編「小児がん診療ガイドライン 2011年版」(金原出版)より一部改変 *現日本小児血液・がん学会



更新・確認日:2014年04月22日 [ 履歴 ]
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2014年04月22日 2013年7月発行の冊子とがん情報サービスの情報を再編集し、掲載しました。

治療

手術(外科治療)

良性の胚細胞腫瘍に対しては、原則として手術による治療が行われます。

新生児の大きな仙尾部腫瘍では、腫瘍部分を流れている血液の量が多く、出血により難しい手術になることもあります。

後腹膜腫瘍では、良性型の場合でも15~50%の可能性で、腫瘍の大きさによって腎臓など周囲組織を一緒に切除しなければならないとされています。
また、卵巣の胚細胞腫瘍は両側に発症することがあるため、可能であれば腫瘍のみくりぬいて卵巣を温存するようにします。完全摘除が困難と思われる場合は、抗がん剤治療で腫瘍を縮小させた後に手術を行います。

縦隔の腫瘍では、まれに気管を圧迫して呼吸困難となり、緊急に胸部を開ける手術を行い腫瘍による圧迫を取り除かなければならないことがあります。
尾骨に腫瘍が発生した場合は、尾骨の切除を行います。

I期の精巣胚細胞腫瘍は、摘出手術のみで化学療法は行わず、経過を観察します。

抗がん剤治療(化学療法)

外科的切除の後に病期に応じて、抗がん剤治療が行われます。

ただし、成熟奇形腫や未熟奇形腫のような良性腫瘍においては抗がん剤治療は行われません。また、悪性胚細胞腫瘍でも精巣あるいは卵巣に発症したものであり、かつI期の完全に切除できた腫瘍については、抗がん剤治療を行わずに経過をみます。

一方前述のように、初回の手術は腫瘍の一部をとるだけの生検にとどめ、抗がん剤治療で腫瘍を縮小させた後に実際の切除を行う場合もあります。II~IV期の悪性胚細胞腫瘍および精巣、卵巣以外の部位にできた全ての病期の悪性胚細胞腫瘍に対しては、抗がん剤治療が必要です。

標準的な抗がん剤の組み合わせは、シスプラチン(あるいはカルボプラチン)とエトポシド、ブレオマイシンの3剤によるものです。放射線治療は原則として行われませんが、抗がん剤治療後に腫瘍が残っている場合には検討します。卵巣腫瘍のうち性腺胚細胞腫瘍では、I期であっても術後に化学療法を行います。
図1 小児の胚細胞腫瘍の臨床診断と治療
図1 小児の胚細胞腫瘍の臨床診断と治療
日本小児がん学会*編「小児がん診療ガイドライン 2011年版」(金原出版)より作成 *現日本小児血液・がん学会

予後(治りやすさ・治りにくさ)

悪性胚細胞腫瘍には抗がん剤治療が非常に有効であり、全体の5年生存率は90%を超えています。しかし、遠隔転移のあるとき、あるいは精巣・卵巣以外に腫瘍が生じ、それを完全切除できないとき(III~IV期)には、治癒率は80%程度に低下します。縦隔に発生した悪性胚細胞腫瘍を除くと予後はかなり良好です。また、精巣・卵巣に発生したI期(完全切除できたとき)の胚細胞腫瘍では、抗がん剤治療が行われない(一部を除く)代わりに、定期的に詳細なチェックを行う必要があります。その際には先に述べた腫瘍マーカーの検討が役立ちます。
表3 胚細胞腫瘍の予後分類
表3 胚細胞腫瘍の予後分類 図
日本小児がん学会*編「小児がん診療ガイドライン 2011年版」(金原出版)より一部改変 *現日本小児血液・がん学会



更新・確認日:2014年04月22日 [ 履歴 ]
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2014年04月22日 2013年7月発行の冊子とがん情報サービスの情報を再編集し、掲載しました。

経過観察

手術後の状態や、抗がん剤治療後の晩期合併症の有無、また、再発の有無を調べる診察のために定期的な通院が必要です。

特に、手術だけで治療を終了している場合には、定期的に詳細な診察・血液検査などを行う必要があります。

胚細胞腫瘍は、比較的治りやすいとされている腫瘍ですが、再発することもあります。再発は、手術後3年以内の場合が多いため、特に3年間はしっかりと定期的な検査を受ける必要があります。



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2014年04月22日 2013年7月発行の冊子とがん情報サービスの情報を再編集し、掲載しました。

合併症

抗がん剤治療による合併症として、骨髄抑制(白血球など血球の減少)に伴う感染症、シスプラチン(カルボプラチン)による腎障害、聴力障害、ブレオマイシンによる肺障害、エトポシドによるアレルギー反応があります。また、抗がん剤のすべてに共通するものとして、二次がん(治療のための抗がん剤、放射線により生じるがん)、不妊があげられます。骨髄抑制以外は必ず生じるというものではありませんが、治療時から時間が経過してから生じるものもあり、注意が必要です。

晩期合併症

晩期合併症は治療後しばらくしてから起こる問題のことです。

晩期合併症は疾患そのものの影響よりも、抗がん剤、放射線治療、手術、輸血などの治療が原因となっていることが多く、本人やご家族が、晩期合併症について現在どのようなことがわかっているのかを知ることはとても大切です。どのような晩期合併症が出やすいかは、病気の種類、受けた治療、その年齢により異なります。その程度も軽いものから重いものまでいろいろですし、時期についても数年後から数十年後に発生するなどさまざまです。例えば、便秘、排便および尿失禁、手術後のケロイドなどの美容上の問題や精神的な問題も発生することがあります。

抗がん剤による晩期合併症としては、腎障害、聴力障害(特に高音域の聴力低下)、肺線維症(酸素の吸収障害)、ホルモンの分泌障害、不妊、二次がんがあげられます。腎障害、聴力障害についてはある程度生じることは避けられませんが、同じ投与量でも程度には大きな個人差があります。また、ブレオマイシンについては障害が生じにくい範囲に投与量が抑えられているため、肺の障害が生じる可能性は低いと考えられます。不妊についてはどの程度の割合で発生するか明らかになっていないため、今後の検討課題です。晩期合併症に関しては、これらの障害についての定期的なチェックが必要です。

再発

再発とは、治療後に再び同じ種類の腫瘍が発生することをいいます。

片側の卵巣原発の場合に、反対側に再発したり、新生児期の良性仙尾部胚細胞腫瘍が悪性となって再発することもありますので、経過観察を注意深く行う必要があります。

仙尾骨に再発した場合は、再手術と化学療法を行いますが、追加の放射線治療をする場合もあります。

再発部位、組織型などによりそれぞれの患者さんで状態は異なりますから、状況に応じて治療やその後のケアについて決めていきます。