肺がんの治療には、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法、緩和ケア/支持療法があります。肺がんの治療法は組織型によって大きく異なるため、非小細胞肺がんの治療と小細胞肺がんの治療にページを分けて説明します。このページでは、小細胞肺がんの治療について説明しています。
1.ステージと治療の選択
治療は、がんの進行の程度を示すステージ(病期)やがんの性質、体の状態などに基づいて検討します。小細胞肺がんの治療を選択する際には、次のことを調べます。
1)ステージ(病期)
がんの進行の程度は、「ステージ(病期)」として分類します(表4)。ステージは、ローマ数字を使って表記することが一般的で、Ⅰ期(ステージ1)・Ⅱ期(ステージ2)・Ⅲ期(ステージ3)・Ⅳ期(ステージ4)と進むにつれて、より進行したがんであることを示しています。なお、ステージのことを進行度ということもあります。
どのステージに当てはまるかということは、今後の治療方針を考える上でとても重要です。小細胞肺がんのステージの詳細については担当医に聞いてみましょう。
ステージは、次のTNMの3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決まります。
Tカテゴリー:原発巣のがんの大きさや広がりの程度(表2)
Nカテゴリー:所属リンパ節(胸腔内や鎖骨の上あたりのリンパ節)への転移の有無(表3)
Mカテゴリー:がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移の有無(表3)
なお、表2、表3、表4は「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版補訂版」より作成していますが、第9版が現在改訂中です。
(原発巣のがんの大きさや広がりの程度)
Tis | 上皮内がん、肺野に腫瘍がある場合は充実成分※1の大きさが0cm、かつがんの大きさ※2が3cm以下 |
---|---|
T1 | 充実成分の大きさが3cm以下、かつ肺または臓側胸膜におおわれ、葉気管支(それぞれの肺葉に入る気管支)より中枢への浸潤が気管支鏡上認められない(すなわち主気管支に及んでいない) |
T1mi |
微少浸潤性腺がんで充実成分の大きさが0.5cm以下、かつがんの大きさが3cm以下 |
T1a |
充実成分の大きさが1cm以下で、TisやT1miには相当しない |
T1b |
充実成分の大きさが1cmを超え2cm以下 |
T1c |
充実成分の大きさが2cmを超え3cm以下 |
T2 |
充実成分の大きさが3cmを超え5cm以下
または、充実成分の大きさが3cm以下でも以下のいずれかであるもの
|
T2a |
充実成分の大きさが3cmを超え4cm以下 |
T2b |
充実成分の大きさが4cmを超え5cm以下 |
T3 |
実成分の大きさが5cmを超え7cm以下
または、充実成分の大きさが5cm以下でも以下のいずれかであるもの
|
T4 | 充実成分の大きさが7cmを超える または、大きさを問わず横隔膜、縦隔、心臓、大血管、気管、反回神経、食道、椎体、気管分岐部への浸潤がある または、同側の異なった肺葉内で離れたところに腫瘍がある |
(所属リンパ節への転移の有無)と
M分類(遠隔転移の有無)
N0 | 所属リンパ節※1への転移がない |
---|---|
N1 | 同側※2の気管支周囲かつ/または同側肺門、肺内リンパ節への転移で原発腫瘍の直接浸潤を含める |
N2 | 同側縦隔かつ/または気管分岐下リンパ節への転移がある |
N3 | 対側※3縦隔、対側肺門、同側あるいは対側の前斜角筋、鎖骨の上あたりにあるリンパ節への転移がある |
M0 | 遠隔転移がない |
M1 | 遠隔転移がある |
M1a |
対側肺内の離れたところに腫瘍がある、胸膜または心膜への転移、悪性胸水※4がある、悪性心嚢水※5がある |
M1b |
肺以外の1つの臓器に1つだけ転移がある |
M1c |
肺以外の1つの臓器または複数の臓器への複数の転移がある |
N0 | N1 | N2 | N3 | M1a | M1b | M1c | |
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Tis | 0 | ||||||
T1mi | ⅠA1 | ||||||
T1a | ⅡB | ⅢA | ⅢB | ⅣA | ⅣB | ||
T1b | ⅠA2 | ||||||
T1c | ⅠA3 | ||||||
T2a | ⅠB | ||||||
T2b | ⅡA | ||||||
T3 | ⅡB | ⅢA | ⅢB | ⅢC | |||
T4 |
小細胞肺がんの分類
小細胞肺がんの治療法を選択する際には、表4の病期分類と併せて、「限局型」と「進展型」による分類(表5)も使用しています。
限局型 |
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---|---|
進展型 |
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2)がんの性質(組織型)
肺がんの性質は組織型によって異なります。組織型とは、がんの種類のことで、顕微鏡下でのがん組織の見え方によって分類されます。肺がんは小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別され、それぞれ治療方針が異なります。ここでは、小細胞肺がんの治療法について説明しています。
3)体の状態
治療法を選ぶ際には、年齢や、がんのほかに病気があるか、肺の機能を含む全身の状態などを確認して、体の状態がその治療法に耐えられるかどうか総合的に判断します。全身の状態を確認するときには、「パフォーマンスステータス(PS)」という指標を用います。パフォーマンスステータスは日常生活の制限の程度を示す指標で、0~4の5段階に分けられます(表6)。
0 | まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。 |
---|---|
1 | 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業 |
2 | 歩行可能で、自分の身の回りのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。 |
3 | 限られた自分の身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。 |
4 | まったく動けない。自分の身の回りのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。 |
4)治療の選択
治療は、病期や組織型などに応じた標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、担当医と話し合って決めていきます。
図10は、小細胞肺がんの標準治療を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
小細胞肺がんの治療の中心は薬物療法です。ごく早期の場合は手術を行うこともあります。限局型の場合には、体の状態によって放射線治療を併用することもあります。
妊娠や出産について
がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊孕性を温存すること(妊娠するための力を保つこと)が可能かどうかを、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
2.手術(外科治療)
手術は、がんや、がんのある臓器を切り取る(切除する)治療法です。手術ができるかどうかについては、手術前の体の状態を総合的に評価して判断します。
小細胞肺がんでは、Ⅰ期、ⅡA期が対象で、手術によってがんを取りきることができる場合に行います。手術のあとには、薬物療法を行います。
手術の方法には、胸部の皮膚を15〜20cmほど切開し、肋骨の間を開いて行う開胸手術と、皮膚を小さく数カ所切開して胸腔鏡という細い棒状のビデオカメラを挿入し、モニターの画像を見ながら行う胸腔鏡手術があります。さらに、小さい開胸部分(皮膚の切開は8cm以下)からの肉眼での観察と、モニターの画像とを併用して、胸腔鏡の補助下で行うハイブリッド胸腔鏡手術も行われています。手術の方法には、それぞれに長所と短所があり、具体的な手術の方法や対象などは病院によって異なることもあります。病状によって手術の方法が変わることもありますので、担当医とよく相談しましょう。
1)手術の種類
小細胞肺がんの手術は、がんのある肺葉を切除する肺葉切除術が基本です(図7)。通常はリンパ節郭清(周囲のリンパ節の切除)も行います。がんが肺と隣接する胸壁や心膜に広がっているときには、一緒に切除する場合があります。
肺がんの手術の方法としては、ほかに、肺をできるだけ温存することを目的として肺葉の一部分のみを切除する縮小手術や、がんがある側の片肺をすべて切除する片側肺全摘術がありますが、小細胞肺がんでこれらの手術が行われることはまれです。
2)手術後の合併症
肺の手術をすると、さまざまな合併症が起こることがあります。喫煙歴のある人や年齢の高い人で発生頻度が高い傾向があります。合併症には、以下のものがあります。また少しでも合併症を予防するために、手術前・手術後それぞれに深呼吸などの呼吸訓練をすることが大切です。
(1)肺炎
術後に痰をうまく出せなくなって肺炎を起こす場合があります。肺炎が起こった場合は、抗菌薬を使用します。これまでたばこを吸っていた人は、禁煙することで、痰の量が減る、治療後の肺炎のリスクが下がるなどの効果が期待できますので、禁煙が必須です。
(2)肺瘻や気管支断端瘻
肺や気管支の切り口の縫い合わせ部分がうまくくっつかずに空気がもれることを指します。再手術が必要になることがあります。
(3)膿胸
肺を切除したあとの胸の中に細菌が繁殖し、膿がたまる状態です。抗菌薬を使用することや、膿を外に出すために再手術を要することがあります。
(4)循環器系合併症
肺切除により一時的に心臓に負担がかかり、不整脈が出ることがあります。血圧が変動する場合は、飲み薬で対応します。また頻度は少ないものの、心筋梗塞・脳梗塞・肺血栓などの血栓による突発的な合併症が起こることがあります。
3.放射線治療
放射線治療は、がんのある部分に放射線をあてることにより、がん細胞を攻撃する治療法です。がんの治癒や進行の抑制、がんによる症状の緩和や延命などを目的として行います。
小細胞肺がんでは限局型が放射線治療の対象となります。パフォーマンスステータス(PS)が0から2で、細胞障害性抗がん薬を使用できる場合には、放射線治療と同時に細胞障害性抗がん薬による薬物療法を行います(化学放射線療法)。化学放射線療法では、放射線治療と細胞障害性抗がん薬を同じ時期に併用したほうが、時期を分けて連続的に行うよりも効果が高いとされていますが、治療中に強めの副作用が出る可能性も高くなります。放射線の照射法では、1日2回照射する方法(加速過分割照射)のほうが1日1回の照射法(通常分割照射)より効果が高いとされていますが、強めの副作用が出る可能性も高くなります。
また、Ⅰ期またはⅡA期以外の限局型では、初回の治療によってがんが画像検査では分からないほど縮小し、体の状態もよい場合には、脳への転移による再発を予防するために脳全体に放射線を照射することが推奨されています(予防的全脳照射)。
放射線治療の副作用
放射線治療中にみられる副作用には、咳、皮膚炎、食道の炎症(食事のときにしみたり痛んだりする)などがあります。白血球が少なくなったり、貧血になったりすることもあります。化学放射線療法を行った場合には、薬物の影響で、悪心(吐き気)や食欲不振、手足のしびれなどの副作用が出ることもあります。しかし、このような治療期間中にあらわれる副作用は、治療が終わると時間とともに改善します。
肺は放射線の影響を受けやすいため、放射線があたった部分に炎症が起きることがあります(放射線肺臓炎)。多くの場合、少し咳が出る程度で時間とともに治まりますが、重症化する場合もあります。発熱、息苦しさ、空咳などの症状があったら、すぐに担当医に連絡しましょう。高齢の方や、肺にほかの持病がある方、喫煙歴がある方は放射線肺臓炎の危険性が高くなりますので、注意が必要です。
放射線治療の副作用は、治療が終わってから数カ月あるいは数年経ってあらわれることもあります。そのため放射線治療が終わったあとも定期的に診察を受ける必要があります。
4.薬物療法
薬物療法は、薬によってがんを治したり、がんの進行を抑えたり、症状を和らげたりする治療法です。小細胞肺がんの薬物療法で使用する薬には、大きく分けて「細胞障害性抗がん薬」「免疫チェックポイント阻害薬」があります。小細胞肺がんは、主に細胞障害性抗がん薬で治療しますが、進展型では免疫チェックポイント阻害薬と併用することもあります。
- 細胞障害性抗がん薬
細胞の増殖の仕組みに着目して、その仕組みの一部を邪魔することでがん細胞を攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受けます。
※「細胞障害性抗がん薬」とも書かれます。がん情報サービスでは、日本臨床腫瘍学会編「新臨床腫瘍学 改訂第6版」の表記に合わせています。 - 免疫チェックポイント阻害薬
免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ(がん細胞が免疫にブレーキをかけるのを防ぐ)薬です。免疫チェックポイント阻害薬は、分子標的薬の1つとして分類することもあります。
※免疫チェックポイント阻害薬については「5.免疫療法」もご参照ください。
(1)限局型の場合
病期がⅠ期またはⅡA期で手術で取りきれる場合には、再発や転移を防ぐために、手術のあとに細胞障害性抗がん薬を使用します。手術が難しい場合は、細胞障害性抗がん薬とともに放射線治療を用いる化学放射線療法を行います。体の状態によっては、細胞障害性抗がん薬のみで治療を行います。
Ⅰ期とⅡA期以外では、細胞障害性抗がん薬と放射線治療による治療が中心となります。パフォーマンスステータス(PS)が0~2の場合には、細胞障害性抗がん薬と同時に、放射線治療を併用して化学放射線療法を行います。体の状態により同時に行うことが難しい場合には、細胞障害性抗がん薬による治療が終わったあとに放射線治療を行うこともあります。パフォーマンスステータスが3の場合には、薬物療法が治療の中心です。いずれの場合も、初回の治療でがんが画像検査では分からないほど縮小し、体の状態がよいまたは改善した場合には、予防的全脳照射を行うことがあります。
(2)進展型の場合
進展型は主に細胞障害性抗がん薬で治療します。パフォーマンスステータスが0または1の場合には、免疫チェックポイント阻害薬と併用することもあります。使用する薬は体の状態や年齢によって異なります。
薬物療法の副作用
副作用については、使用する薬剤の種類や薬ごとに異なり、その程度も個人差があります。
細胞障害性抗がん薬は分裂の盛んな細胞に影響を与えやすく、脱毛や、口内炎、下痢、白血球や血小板の数が少なくなる骨髄抑制などの症状が出ることがあります。白血球や好中球の数が少ない時期には細菌感染に注意が必要です。免疫チェックポイント阻害薬も、薬ごとにさまざまな副作用があらわれます。
最近では副作用を予防する薬なども開発され、特に細胞障害性抗がん薬や放射線治療に伴う吐き気や嘔吐については、予防(コントロール)することができるようになってきました。
しかし、副作用の種類や程度によっては、治療が継続できなくなることもあります。自分が受ける薬物療法について、いつどんな副作用が起こりやすいか、どう対応したらよいか、特に気をつけるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医に確認しておきましょう。また、副作用と思われる症状がみられたときには、迷わずに担当医に伝えましょう。有効な治療をできるだけ続けられるように、適切に対処することが大切です。
5.免疫療法
免疫療法は、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。2024年2月現在、小細胞肺がんの治療に効果があると証明されている方法は、免疫チェックポイント阻害薬を使用する薬物療法のみです。その他の免疫療法で、小細胞肺がんに対して効果が証明されたものはありません。免疫チェックポイント阻害薬を使う治療法は、薬物療法の1つでもあります。
6.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケア/支持療法は、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげたり、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くしたりするために行われる予防、治療およびケアのことです。
緩和ケアは診断時から行われる全てのがん治療の土台となって支えています。体の負担になっているつらさがある場合には、早めの緩和ケアや適切な支持療法を受けることで和らげることができます。がんの治療にも専念しやすくなり、より良い生活を長く送ることにもつながります。がんやがん治療に伴うつらさを感じたときには担当医や看護師に伝えましょう。がん相談支援センターに相談することもできます。
全国のがん診療連携拠点病院では外来、入院いずれの状況でも緩和ケアを受けることができます。また、自宅でも受けることができます。必要時には地域の病院と連携して緩和ケアを継続することも可能です。がん相談支援センターでは、お住まいの地域の病院や在宅療養のこと、利用できる制度など地域の緩和ケアに関する情報を紹介することもできます。
なお、がんやがんの治療によって外見が変化することがあります。支持療法の中でも、外見の変化によって起こるさまざまな苦痛を軽減するための支援として行われているのが、「アピアランス(外見)ケア」です。外見が変化することによる悩みや心配についても、医療者やがん相談支援センターに相談してください。
7.リハビリテーション
リハビリテーションは、がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力を維持・向上させるために行われます。また、緩和ケアの一環として、心と体のさまざまなつらさに対処する目的でも行われます。
肺の手術を行うと、手術前と比べて肺活量が著しく低下したり、痛みのため痰を出しにくくなったりして、肺炎や無気肺などの合併症につながることがあります。このような合併症を避けるため、手術の前後に呼吸訓練を行います。手術後の呼吸訓練を正しく行い、回復の効率をよくするためには、手術前の比較的余裕のある時期にしっかりと呼吸の訓練をしておくことが大切です。胸部や手足の筋肉のストレッチや、息切れが強くならない程度のウオーキングなどの運動も有効です。看護師やリハビリテーションスタッフの指導を受けながら、しっかりと行いましょう。
手術後には、呼吸訓練と併せて、長時間同じ姿勢で寝たきりにならないように、無理のない程度に普段の生活でも体を動かしましょう。早期回復のためには、退院後もリハビリテーションを引き続き粘り強く続けていくことが大切です。
一般的に、治療中や治療終了後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などをリハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師や看護師などの医療スタッフに確認しましょう。
8.転移した臓器の治療
肺がんは骨や脳などに転移しやすいがんです。がんができた場所から離れた臓器に転移している場合には薬物療法を行うのが原則ですが、痛みなどの症状がある、全身状態に影響する恐れがあるなどの場合には、転移した臓器への治療を優先して行うことがあります。
骨転移の治療
痛みなどの症状がある場合には、放射線治療を行います。骨折の危険性が高いときや、痛みや麻痺、しびれなどの脊髄圧迫の症状があるなどの場合には、手術を行うこともあります。骨転移による骨折を予防する骨修飾薬を定期的に注射することもあります。
脳転移の治療
痛みや麻痺などの症状がある場合には、症状を緩和するための手術や放射線治療を検討します。症状がない場合でも、転移したがんの大きさや個数、部位などの状況によって、放射線治療や手術を行うこともあります。
がん性胸膜炎の治療
肺がんが、肺を越えて胸膜の表面に広がり、胸腔に胸水がたまった状態をがん性胸膜炎といいます。胸水の量が多く、肺を圧迫して息苦しさなどの症状がある場合には、胸腔に管を入れ、数日から数週間のあいだ持続的に胸水を体外に出します(胸腔ドレナージ)。管を抜く前に、胸水が再びたまることを防ぐために、管から薬を注入して胸膜を癒着させる胸膜癒着術を続けて行うこともあります。
9.再発した場合の治療
再発とは、治療によって見かけ上なくなったことが確認されたがんが、再びあらわれることです。原発巣のあった場所やその近くに、がんが再びあらわれることだけでなく、別の臓器で「転移」として見つかることも含めて再発といいます。
再発した場合には、原則として、全身療法である薬物療法が治療の中心となります。局所再発の場合には手術や放射線治療を行うこともありますが、ほかの場所にも転移している可能性があるため、薬物療法も併せて行うことが多くなっています。どのような薬が適しているか、担当医とよく相談してみましょう。骨や臓器などに再発したがんが原因で、痛みや麻痺などの症状がある場合には、その臓器に対する治療を検討します。