肺がんの治療には、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法、緩和ケアがあります。肺がんの治療法は組織型によって大きく異なるため、非小細胞肺がんの治療と小細胞肺がんの治療にページを分けて説明します。このページでは、非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)の治療について説明しています。
1.病期と治療の選択
治療は、がんの進行の程度を示す病期やがんの性質、体の状態などに基づいて検討します。非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)の治療を選択する際には、次のことを調べます。
1)病期(ステージ)
がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。病期は、一般的にローマ数字を使って表します。肺がんでは、0期〜Ⅳ期に分けられ、進行するにつれて数字が大きくなります。
病期は、次のTNMの3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決まります。
Tカテゴリー:原発巣のがんの大きさや広がりの程度(表2)
Nカテゴリー:所属リンパ節(胸腔内や鎖骨の上あたりのリンパ節)への転移の有無(表3)
Mカテゴリー:がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移の有無(表3)



2)がんの性質(組織型・遺伝子異常)
(1)組織型
肺がんの性質は組織型によって異なります。組織型とは、がんの種類のことで、顕微鏡下でのがん組織の見え方によって分類されます。
肺がんの主な組織型は、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんの4つです。肺がんの治療法は、組織型によって大きく異なります。ここでは、非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)の治療法について説明しています。
(2)遺伝子異常
一部のがんの治療では、異常のある遺伝子に対応した薬による治療が行われています。非小細胞肺がんでは、EGFR遺伝子、ALK遺伝子、ROS1遺伝子、BRAF遺伝子、MET遺伝子、RET遺伝子、KRAS遺伝子、NTRK遺伝子などに異常がある場合などに、その遺伝子に対応する薬物療法を検討します。
3)体の状態
治療法を選ぶ際には、年齢や、がんのほかに病気があるか、肺の機能を含む全身の状態などを確認して、体の状態がその治療法に耐えられるかどうか総合的に判断します。全身の状態を確認するときには、「パフォーマンスステータス(PS)」という指標を用います。パフォーマンスステータスは日常生活の制限の程度を示す指標で、0~4の5段階に分けられます。
0 | まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。 |
---|---|
1 | 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業 |
2 | 歩行可能で、自分の身の回りのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。 |
3 | 限られた自分の身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。 |
4 | まったく動けない。自分の身の回りのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。 |
4)治療の選択
治療は、病期や組織型、異常のある遺伝子などに応じた標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、担当医と話し合って決めていきます。
図4は、非小細胞肺がんの標準治療を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
比較的早期の非小細胞肺がんの治療の中心は手術です。再発予防のため、手術後に薬物療法を行うこともあります。また、体の状態や合併するほかの病気などの影響で手術が難しい場合には、放射線治療を行うこともあります。
がんが手術では完全に取りきることができない程度に進行している場合にも、放射線治療の効果が期待できる場合には、放射線治療を行います。この場合、体の状態がよければ、放射線治療と薬物療法を同時に行います(化学放射線療法)。さらに進行した状態では、薬物療法が治療の中心になります。

妊娠や出産について
がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊孕性を温存すること(妊娠するための力を保つこと)が可能かどうかを、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
2.手術(外科治療)
手術は、がんや、がんのある臓器を切り取る(切除する)治療法です。手術ができるかどうかについては、手術前の体の状態を総合的に評価して判断します。
非小細胞肺がんでは、Ⅰ期、Ⅱ期と、Ⅲ期の一部が対象で、手術によってがんを取りきることができる場合に行います。
手術の方法には、胸部の皮膚を15〜20cmほど切開し、肋骨の間を開いて行う開胸手術と、皮膚を小さく数カ所切開して、胸腔鏡という細い棒状のビデオカメラを挿入し、モニターの画像を見ながら行う胸腔鏡手術があります。さらに、小さい開胸部分(皮膚の切開は8cm以下)からの肉眼での観察と、モニターの画像とを併用して、胸腔鏡の補助下で行うハイブリッド胸腔鏡手術も行われています。手術の方法には、それぞれに長所と短所があり、具体的な手術の方法や対象などは病院によって異なることもあります。病状によって手術の方法が変わることもありますので、担当医とよく相談しましょう。
1)手術の種類
切除する範囲によって、肺葉切除術、縮小手術、片側肺全摘手術に分けられます。どの種類の手術を行うかは、組織型や病期、体の状態などによって異なります。
(1)肺葉切除術
がんのある肺葉を切除する手術です(図6)。通常はリンパ節郭清(周囲のリンパ節の切除)も行います。Ⅰ期の一部、Ⅱ期、Ⅲ期の一部の非小細胞肺がんに対する標準的な手術方法です。がんが肺と隣接する胸壁や心膜に広がっているときには、一緒に切除する場合があります。

(2)縮小手術
肺をできるだけ温存することを目的として、肺葉の一部分のみを切除する手術です。非小細胞肺がんのⅠA期で、がんの大きさが2㎝以下の場合の標準的な手術方法の1つです。また、Ⅰ期で肺の機能などに問題があり、肺葉切除ができない場合などにも行われることがあります。
縮小手術には、がんがある区域のみを切除する区域切除(図7左)と、区域の中でがんがある部分のみを切除する楔状切除(図7右)があります。縮小手術を行うかどうかや、切除する範囲は、肺がんの病状と体の状態をみて、担当医と相談しながら決定します。

(3)片側肺全摘手術
がんがある側の肺をすべて切除する手術です(図8)。がんが肺葉を越えて広がっている場合や、大血管や気管支に及んでいる場合に行われることがあります。がんが肺と隣接する胸壁や心膜に広がっているときには、一緒に切除する場合があります。体に大きな負担がかかるので、心臓や肺の状態なども考慮しながら、手術できるかどうかを検討します。

2)手術後の合併症
肺の手術をすると、肺活量が低下します。肺活量が低下すると、肺炎などの合併症が起きることがあります。その予防のために、手術前・手術後それぞれにリハビリテーション(呼吸訓練)をすることが大切です。これまでたばこを吸っていた人は、禁煙することで、痰の量が減る、治療後の肺炎のリスクが下がるなどの効果が期待できますので、禁煙が必須です。
3.放射線治療
放射線治療は、がんのある部分に放射線を当てることにより、がん細胞を攻撃する治療法です。がんの治癒や進行の抑制、がんによる症状の緩和や延命などを目的として行います。
放射線治療は、切除できないⅢ期の非小細胞肺がんが主な対象です。パフォーマンスステータス(PS)が0または1で体の状態がよく、細胞障害性抗がん薬を使用できる場合には、放射線治療と同時に細胞障害性抗がん薬による薬物療法を行います(化学放射線療法)。化学放射線療法では、放射線治療と細胞障害性抗がん薬を同じ時期に併用した方が、時期を分けて連続的に行うよりも効果が高いとされていますが、治療中に強めの副作用が出る可能性も高くなります。
Ⅰ期とⅡ期の非小細胞肺がんの標準治療は手術ですが、手術が難しい場合や、医学的には手術が可能でも本人が希望しないときには、治癒を目標とした放射線治療を行うことが勧められています。
放射線治療の副作用
放射線治療中に見られる副作用には、咳、皮膚炎、食道の炎症(食事のときにしみたり痛んだりする)などがあります。白血球が少なくなったり、貧血になったりすることもあります。化学放射線療法を行った場合には、薬物の影響で、悪心(吐き気)や食欲不振、手足のしびれなどの副作用が出ることもあります。しかし、このような治療期間中にあらわれる副作用は、治療が終わると時間とともに改善します。
肺は放射線の影響を受けやすいため、放射線が当たった部分に炎症が起きることがあります(放射線肺臓炎)。多くの場合、少し咳が出る程度で時とともに治まりますが、重症化する場合もあります。発熱、息苦しさ、空咳などの症状があったら、すぐに担当医に連絡しましょう。高齢、肺にほかの持病がある、喫煙歴がある場合には放射線肺臓炎の危険性が高くなりますので、注意が必要です。
放射線治療の副作用は、治療が終わってから数カ月あるいは数年経ってあらわれることもあるため、放射線治療が終わったあとも定期的に診察を受ける必要があります。
4.薬物療法
薬物療法は、薬によってがんを治したり、がんの進行を抑えたり、症状を和らげたりする治療法です。がんが進行していて手術では取りきれない場合には、薬物療法が治療の中心になります。非小細胞肺がんの薬物療法で使用する薬には、大きく分けて「細胞障害性抗がん薬」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」があります。複数の種類の薬を組み合わせて併用することもあります。
非小細胞肺がんでは、再発や転移を予防することを目的として、手術のあとに薬物療法を行うことがあります。Ⅱ期やⅢ期で手術が難しい場合、放射線治療でがんの治癒を目指せるときには、放射線治療を併用し、化学放射線療法を行うこともあります。また、化学放射線療法後、病状がコントロールできている場合には、免疫チェックポイント阻害薬による治療も行うことが勧められています。
- 細胞障害性抗がん薬
細胞の増殖の仕組みに着目して、その仕組みの一部を邪魔することでがん細胞を攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受けます。 - 分子標的薬
がん細胞の増殖に関わるタンパク質や、栄養を運ぶ血管、がんを攻撃する免疫に関わるタンパク質などを標的にしてがんを攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞への影響を抑えられるのが特徴です。 - 免疫チェックポイント阻害薬
免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ(がん細胞が免疫にブレーキをかけるのを防ぐ)薬です。免疫チェックポイント阻害薬は、分子標的薬の1つとして分類することもあります。 ※免疫チェックポイント阻害薬については「5.免疫療法」もご参照ください。
使用する薬は、がん遺伝子検査とPD-L1検査の結果に基づいて決まります(図9)。がん遺伝子に異常がある場合には、対応する分子標的薬で治療を行います。がん遺伝子に異常はないが、PD-L1というタンパク質が表面にあるがん細胞が多い場合には、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高いことが期待できるため、免疫チェックポイント阻害薬単独、または細胞障害性抗がん薬を併用した治療を検討します。

治療の効果は、CT検査などで判定します。副作用などの理由で一次治療(がんの診断後に初めて行う薬物治療)を中止した場合や、一次治療の効果がなくなった場合でも、体の状態がよければ、二次治療、三次治療、四次治療と治療が続けられることも多くなってきています。その場合、前の治療ですでに使ったものとは異なる薬や組み合わせを使用します。
薬物療法の副作用
使用する薬剤の種類によって副作用は異なり、その程度も個人差があります。細胞障害性抗がん薬は分裂の盛んな細胞に影響を与えやすく、脱毛や、口内炎、下痢、白血球や血小板の数が少なくなる骨髄抑制などの症状が出ることがあります。
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も、薬ごとにさまざまな副作用があらわれます。自分が受ける薬物療法について、いつどんな副作用が起こりやすいか、どう対応したらよいか、特に気をつけるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医に確認しておきましょう。
5.免疫療法
免疫療法は、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。2023年1月現在、免疫療法の中で、非小細胞肺がんの治療に効果があると証明されている方法は、免疫チェックポイント阻害薬を使用する薬物療法のみです。そのほかの免疫療法で、肺がんに対して効果が証明されたものはありません。免疫チェックポイント阻害薬を使う治療法は、薬物療法の1つでもあります。
6.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。本人にしか分からないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。
7.リハビリテーション
リハビリテーションは、がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力を維持・向上させるために行われます。また、緩和ケアの一環として、心と体のさまざまなつらさに対処する目的でも行われます。
肺の手術を行うと、手術前と比べて肺活量が著しく低下したり、痛みのため痰を出しにくくなったりして、肺炎や無気肺などの合併症につながることがあります。このような合併症を避けるため、手術の前後に呼吸訓練を行います。手術後の呼吸訓練を正しく行い、回復の効率をよくするためには、手術前の比較的余裕のある時期にしっかりと呼吸の訓練をしておくことが大切です。胸部や手足の筋肉のストレッチや、息切れが強くならない程度のウオーキングなどの運動も有効です。看護師やリハビリテーションスタッフの指導を受けながら、しっかりと行いましょう。
手術後には、呼吸訓練と併せて、肺の一部分だけを圧迫しないように心がけます。長時間同じ姿勢で寝たきりにならないように体の向きを変えたり、無理のない程度に体を動かしたりしましょう。早期回復のためには、退院後もリハビリテーションを引き続き粘り強く続けていくことが大切です。
一般的に、治療中や治療終了後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などをリハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師に確認しましょう。
8.転移した臓器の治療
肺がんは骨や脳などに転移しやすいがんです。がんができた場所から離れた臓器に転移している場合には薬物療法を行うのが原則ですが、痛みなどの症状がある、全身状態に影響する恐れがあるなどの場合には、転移した臓器への治療を優先して行うことがあります。
骨転移の治療
痛みなどの症状がある場合には、放射線治療を行います。骨折の危険性が高い、痛みや麻痺、しびれなどの脊髄圧迫の症状があるなどの場合には、手術を行うこともあります。骨転移による骨折を予防するために、骨粗しょう症の治療薬を服用することもあります。
脳転移の治療
痛みや麻痺などの症状がある場合には、症状を緩和するための手術や放射線治療を検討します。症状がない場合でも、転移したがんの大きさや個数、部位などの状況によって、放射線治療や手術を行うこともあります。
がん性胸膜炎の治療
肺がんが、肺を越えて胸膜の表面に広がり、胸腔に胸水がたまった状態をがん性胸膜炎といいます。胸水の量が多く、肺を圧迫して息苦しさなどの症状がある場合には、胸腔に管を入れ、数日から数週間のあいだ持続的に胸水を体外に出します(胸腔ドレナージ)。管を抜く前に、胸水が再びたまることを防ぐために、管から薬を注入して胸膜を癒着させ、胸腔を閉じる胸膜癒着術を続けて行うこともあります。
9.再発した場合の治療
再発とは、治療によって見かけ上なくなったことが確認されたがんが、再びあらわれることです。再発には、手術や放射線治療などをしたあとに、がんがあった場所またはそのごく近くに再発する局所再発と、それ以外の場所に転移して再発する転移性再発があります。
再発した場合には、原則として、Ⅳ期の治療と同じように全身療法である薬物療法が治療の中心となります。局所再発の場合には手術や放射線治療を行うこともありますが、ほかの場所にも転移している可能性があるため、薬物療法も併せて行うことが多くなっています。どのような薬が適しているか、担当医とよく相談してみましょう。骨や臓器などに再発したがんが原因で、痛みや麻痺などの症状がある場合などには、その臓器に対する治療を行うことを検討します。