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肺がん((はいがん))

更新・確認日:2020年01月23日 [ 履歴 ]
履歴
2020年01月23日 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2019年版」より、内容の更新をしました。
2019年02月22日 「4.組織型分類(がんの組織の状態による分類)」に肺腺がんの記載を追加しました。
2018年07月31日 「4.組織型分類」から「4.組織型分類(がんの組織の状態による分類)」へタイトルを変更しました。
2018年07月25日 「6.発生要因」に関連情報を追加しました。
2017年08月03日 「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2016年版」「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版(2017年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。
2014年10月23日 「6.疫学・統計」を更新しました。
2012年11月02日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月01日 内容を更新しました。
1995年11月06日 掲載しました。
診療の流れ、セカンドオピニオンなど、本格的に治療を始める前に知っておいていただきたい情報については以下の「治療にあたって」をご参照ください。

1.肺について

肺は左右の胸部に1つずつあり、右肺うはいは3つ、左肺さはいは2つの肺葉はいように分かれています。気管が左右の主気管支に分かれて肺に入る部分を肺門、肺門以外の肺の本体部分を肺野といいます。先端付近の気管支には、肺胞という小さな袋が無数についています。左右の肺の間のすきまは縦隔じゅうかくといい、気管や食道、心臓などがあります(図1)。
肺は、胸腔きょうくう(胸壁という胸部を作る壁で囲まれた空間)の中にあり、胸膜きょうまくという二重の膜で包まれています。内側の胸膜は肺の表面を包み、外側の胸膜は胸壁と接していて、その間を胸水が満たしています。
肺は、体の中に酸素を取り入れ、いらなくなった二酸化炭素を外に出す働きをしています。
図1 肺の構造
図1 肺の構造の図

2.肺がんとは

肺がんは、気管支や肺胞の細胞が何らかの原因でがん化したものです。 進行すると、がん細胞は周りの組織を壊しながら増殖し、血液やリンパ液の流れにのって転移することもあります。転移しやすい場所はリンパ節、反対側の肺、骨、脳、肝臓、副腎です。

3.症状

「この症状があれば必ず肺がん」という症状はありません。症状がないうちに進行していることもあります。咳や痰、痰に血が混じる、発熱、息苦しさ、動悸、胸痛などがあげられますが、いずれも肺がん以外の呼吸器の病気にもみられる症状です。複数の症状がみられたり、長引いたりして気になった場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

4.組織型分類(がんの組織の状態による分類)

肺がんは、組織型によって、非小細胞肺がんと小細胞肺がんの2つに大きく分けられます(表1)。発生頻度が高いのは非小細胞肺がんで、腺がん、扁平へんぺい上皮がん、大細胞がんに分類されます。中でももっとも多いのが腺がんで、一般には「肺腺がん」ともいいます。小細胞肺がんは、非小細胞肺がんと比べて増殖速度が速く、転移や再発をしやすい腫瘍です。
非小細胞肺がんと小細胞肺がんでは、治療方針が大きく異なるため、検査によって組織型を確認してから治療を開始します。
表1 主な肺がんの組織型とその特徴
表1 肺がんの組織型とその特徴の表

5.患者数(がん統計)

肺がんは、日本全国で1年間に約125,000人が診断されます。男性に多い傾向にあり、60歳ごろから急激に増加しはじめ、高齢になるほど多くなります。男女ともに4番目に多いがんです1)

6.発生要因

喫煙は肺がんの危険因子の1つです。喫煙者は非喫煙者と比べて男性で4.4倍、女性では2.8倍肺がんになりやすく、喫煙を始めた年齢が若く、喫煙量が多いほどそのリスクが高くなります。受動喫煙(周囲に流れるたばこの煙を吸うこと)も肺がんのリスクを2〜3割程度高めます。
喫煙以外では、職業的曝露ばくろ※1や大気汚染※2、家族に肺がんにかかった人がいる、年齢が高いことなどが発生のリスクを高めると考えられています。
※1 アスベスト、ラドン、ヒ素、クロロメチルエーテル、クロム酸、ニッケルなどの有害化学物質にさらされている
※2 特にPM2.5(粒径 2.5 ミクロン以下の微小浮遊粒子)による汚染

7.予防と検診

1)予防

日本人を対象とした研究結果では、がん予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、身体活動、適正な体形、感染予防が効果的といわれています。
肺がんを予防するために、たばこを吸っている人は禁煙し、吸わない人はたばこの煙を避けて生活しましょう。禁煙を始めてから10年後には、禁煙しなかった場合と比べて肺がんのリスクを約半分に減らせることがわかっています。

2)検診

がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。わが国では、厚生労働省の「がん予防重点健康教育およびがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」で検診方法が定められています。
40歳以上の方は1年に1回、肺がん検診を受けましょう。ほとんどの市町村では、検診費用の多くを公費で負担しており、一部の自己負担で検診を受けることができます。
検診の内容は、胸部エックス線検査、喀痰かくたん細胞診(50歳以上で、喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上の方が対象)および問診です。問診では、自覚症状、喫煙歴、妊娠の可能性の有無、過去の検診の受診状況などを確認します。
検査の結果が「要精密検査(がんの疑いあり)」となった場合は、必ず精密検査を受けましょう。
※厚生労働省の指針では、がん検診の死亡率減少効果が確実で、検診の不利益(偶発症、過剰診断、偽陰性・偽陽性)が少ない検診だけが推奨されています。現時点で肺がん検診では、胸部エックス線検査と喀痰細胞診(50歳以上の重喫煙者のみ)が推奨されています。
なお、検診は、症状がない健康な人を対象に行われるものです。がんの診断や治療が終わった後の検査は、ここでいう検診とは異なります。

8.「肺がん」参考文献

1)厚生労働省ウェブサイト.がん登録 全国がん登録 罹患数・率 報告 平成28年報告;2019年(閲覧日2020年1月23日)
2)日本臨床腫瘍学会編.新臨床腫瘍学 改訂第5版.2018年,南江堂
3)日本肺癌学会ウェブサイト.肺癌診療ガイドライン 2019年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む(閲覧日2020年1月23日)
4)日本肺癌学会編.臨床・病理 肺癌取扱い規約第8版.2017年,金原出版
5)日本肺癌学会編.患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む.金原出版 
更新・確認日:2020年01月23日 [ 履歴 ]
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2020年01月23日 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2019年版」より、内容の更新をしました。
2019年07月22日 新規に追加された用語へのリンクを追加しました。
2017年08月03日 「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2016年版」「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版(2017年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。
2014年10月23日 掲載内容の更新が不要であることを確認しました。
2012年11月02日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月01日 内容を更新しました。
1995年11月06日 掲載しました。
肺がんが疑われるときは、まず、胸部X線検査や胸部CT検査などを行い、病変の有無や場所を調べます。喀痰細胞診かくたんさいぼうしんなどを組み合わせて調べることもあります。これらの検査で異常が見つかった場合には、肺がんが疑われる部位から細胞や組織を採取して病理検査を行い、がんかどうか、がんの場合はどのような種類のがんかについての診断を確定します。
肺がんでは組織型などによって治療方法が異なるので、治療開始前に病理検査を行います。治療方法を決める際には、がんの病期(がんがどのくらい進行しているか)も知る必要があります。肺がんの診断が確定したら、病期を診断するために画像検査を行います。

1.画像検査

画像によってがんの広がりや性質を調べる検査です。体への負担が比較的少ない検査で、検査ごとに特徴があり、目的に応じて使い分けます。

1)胸部X線検査

いわゆるレントゲン検査のことです。胸部全体にX線を照射して撮影し、肺にがんを疑う影がないか調べます。簡便で広く普及した検査で、がん検診でも用いられています。

2)胸部CT検査

胸の断面像を連続的に撮影する検査で、肺にがんがないか調べる画像診断法としては現時点でもっとも有力な方法です(図2)。胸部X線検査で異常が認められた場合に行い、がんの存在、大きさ、性質、周囲の臓器への広がりなどを調べます。この検査で良性か悪性の疑いがあるか判断ができないときは、より高精度な高分解能CT検査や造影剤を使ったCT検査を行うこともあります。造影CT検査は病期の診断にも用いられます。
図2 CT検査の様子
図2 CT検査の様子の図

3)PET‐CT検査

PET-CT検査は、がん細胞の代謝の特徴からがんを検出するPET検査と、組織のかたちの異常からがんを検出するCT検査を同時に行う検査です。2つの検査の画像を重ねることで、高い精度でがん細胞の有無や位置を診断することができます。肺がんが転移した場所や進行の程度を調べるのに特に有効な検査です。

4)MRI検査

MRIは磁気を使って体内の様子を画像化する検査です。頭部などへの転移の有無を確認するために使われます。

5)骨シンチグラフィ

放射性物質を静脈から注射し、骨への転移の有無を調べる検査です。骨にがんがあると、その部分に放射性物質が集まることを利用する検査です。

2.病理検査・病理診断

がんかどうか、どのような種類のがんかについての診断を確定するために、がんが疑われる部位から細胞や組織を採取して顕微鏡で詳しく調べる検査です。細胞や組織の採取法には、手術中に採取する以外に、喀痰細胞診、気管支鏡下検査きかんしきょうかけんさ経皮的針生検けいひてきはりせいけんなどがあります。体に負担の少ない検査から順に実施を検討していきます。

1)喀痰細胞診

痰の中に出てきたがん細胞の有無を調べる検査です。胸部X線検査で見つけることが難しい肺門部のがんを検出できる可能性があり、X線検査と併用することがあります。1回だけの検査ではがん細胞を発見しにくいため、数日分の痰を採取して検査します。

2)気管支鏡下検査・生検

直径5mmほどの細いしなやかな内視鏡を、鼻や口から挿入して気管支の中を観察し、がんが疑われる部位の細胞や組織を採取します(図3)。のどや気管の痛みを軽減する処置をしてから行います。がんが疑われる部位が小さい場合や、がんが疑われる箇所まで気管支鏡が届かない場合などには検査ができないことがあります。
図3 気管支鏡下検査の様子
図3 気管支鏡下検査の様子の図

3)経皮的針生検

がんが疑われる箇所まで気管支鏡が届かない場合や、気管支鏡下検査で診断がつかない場合などに行います。局所麻酔をし、肋骨の間から細い針を刺して、X線・超音波(エコー)・CTなどで位置を確認しながら肺の細胞や組織を採取します。気胸などの合併症を起こす可能性が高く、体の状態をみながら検査ができるかを検討します。

4)胸腔鏡下検査・胸膜生検

胸を小さく切開して、内視鏡を肋骨ろっこつの間から胸腔内に挿入し、肺や胸膜、リンパ節の組織を採取して調べる検査です。従来は全身麻酔をした状態で行ってきましたが、近年では局所麻酔のみで行うこともあります。

3.バイオマーカー検査

タンパク質や遺伝子などの生体内の物質で、病状の変化や治療の効果の指標となるものをバイオマーカーといいます。バイオマーカーでがんの性質を事前に調べ、効果を予測して治療の方針をたてることもできます。がん遺伝子検査、PD-L1検査、腫瘍マーカー検査などがあります。

1)がん遺伝子検査

がん細胞の発生や増殖に関わるがん遺伝子に変異があるかを調べる検査です。肺がんでは、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子について調べます。変異のあるがん遺伝子によって、使用する薬を検討します。

2)PD-L1検査(PD-L1免疫組織化学染色検査)

がん細胞の表面にPD-L1というタンパク質があるかを調べる検査です。細胞表面にこのタンパク質をもつがん細胞の割合によって、使用する薬を検討します。

3)腫瘍マーカー検査

腫瘍マーカーとは、がんの種類によって特徴的に産生される物質で、血液検査などで測定します。この検査だけでがんの有無を確定できるものではなく、がんがあっても腫瘍マーカーの値が上昇しないこともありますし、逆にがんがなくても上昇することもあります。
非小細胞肺がんの腫瘍マーカーとしては、CYFRA21-1、CEA、SLX、CA125、SCC、小細胞肺がんの腫瘍マーカーとしては、NSEとProGRPがよく使われていますが、いずれも補助的な役割です。また、経過観察中に調べることもあります。
更新・確認日:2020年01月23日 [ 履歴 ]
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2020年01月23日 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2019年版」より、内容の更新をしました。
2019年07月22日 新規に追加された用語へのリンクを追加しました。
2017年08月03日 「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2016年版」「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版(2017年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。
2014年10月23日 「3.薬物療法(抗がん剤治療)」を更新しました。
2013年03月25日 内容を更新しました。
2012年11月02日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月01日 内容を更新しました。
1995年11月06日 掲載しました。

1.病期と治療の選択

治療方法を決める際には、組織型やがんの進行の程度、体の状態、年齢、合併症などを考慮します。がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。病期はローマ数字を使って表記するのが一般的です。肺がんでは早期から進行につれて0期〜IV期に分類します(表4)。

1)病期(ステージ)

肺がんの病期は、次のTNMの3種の分類(TNM分類)の組み合わせで決まります。
T:原発巣のがんの大きさや広がりの程度(表2)
N:所属リンパ節(胸腔内や鎖骨の上あたりのリンパ節)への転移の有無(表3)
M:遠隔転移の有無(表3)
表2  肺がんのT分類 (原発巣のがんの大きさや広がりの程度)
表2  肺がんのT分類 (原発巣のがんの大きさや広がりの程度)の表
日本肺癌学会編「臨床・病理 肺癌取扱い規約 2017年1月(第8版)」(金原出版)より作成
表3 肺がんのN分類(所属リンパ節への転移の有無)とM分類(遠隔転移の有無)
表3 肺がんのN分類(所属リンパ節への転移の有無)とM分類(遠隔転移の有無)の表
日本肺癌学会編「臨床・病理 肺癌取扱い規約 2017年1月(第8版)」(金原出版)より作成
表4 肺がんの病期分類
表4 肺がんの病期分類の表
日本肺癌学会編「臨床・病理 肺癌取扱い規約 2017年1月(第8版)」(金原出版)より作成

●小細胞肺がんの分類

小細胞肺がんの治療法を選択する際には、上記の病期分類と併せて、「限局型」と「進展型」による分類(表5)も使用しています。
表5 小細胞肺がんの病期分類
表5 小細胞肺がんの病期分類の表
日本肺癌学会ウェブサイト「肺癌診療ガイドライン2019年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む」より作成
用語集
胸水 

2)治療の選択

肺がんの治療法は、組織型や病期ごとの標準治療に基づいて、体の状態や年齢、本人の希望なども考慮しながら担当医と共に決めていきます。複数の治療法を併用することもあります。
図4、図5は、組織型や病期ごとの標準治療の流れをまとめたものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。

(1)非小細胞肺がんの治療

比較的早期の非小細胞肺がんの治療の中心は手術です。再発予防のため手術後に薬物療法を行うこともあります。また、体の状態、年齢、合併する他の病気などの影響で手術が難しい場合には、放射線治療を行います。
がんが手術では完全に取りきることができない程度に進行している場合にも、放射線治療を行います。この場合、体の状態がよければ、放射線治療と薬物療法を同時に行うこともあります(化学放射線療法)。さらに進行した状態では、薬物療法が治療の中心になります。
図4 非小細胞肺がんの治療の選択
図4 非小細胞肺がんの治療の選択の図
日本肺癌学会ウェブサイト「肺癌診療ガイドライン2019年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む」より作成

(2)小細胞肺がんの治療

小細胞肺がんの治療の中心は薬物療法です。ごく早期の場合は手術を行うこともあります。限局型の場合には、体の状態によって放射線治療を併用することもあります。
図5 小細胞肺がんの治療の選択
図5 小細胞肺がんの治療の選択の図
日本肺癌学会ウェブサイト「肺癌診療ガイドライン2019年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む」より作成

●妊娠や出産について

がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊よう性温存治療(妊娠するための力を保つ治療)が可能かどうかを、治療開始前に担当医に相談してみましょう。

2.手術(外科治療)

手術は、I期、II期の非小細胞肺がんとI期、IIA期の小細胞肺がんが対象で、手術によってがんを取りきることができる場合に行います。手術ができるかどうかについては、手術前の体の状態を総合的に評価して判断します。手術後の順調な回復のためにも、手術前には1カ月以上の禁煙をします。
手術の方法としては、これまで、胸部の皮膚を15〜20cmほど切開して、肋骨の間を開いて行う開胸手術が一般的でした。しかし近年では、胸腔鏡という細い棒状のビデオカメラを挿入し、モニターの画像を補助的に使う開胸手術や、モニターの画像だけを見ながら行う手術が広く行われています。それぞれに長所と短所があり、具体的な手術の手順は病院によって異なることもあります。

1)手術の種類

切除する範囲によって複数の手術法があります。どの種類の手術を行うかは、組織型や病期、体の状態などによって異なります。

(1)肺葉切除術

がんのある肺葉を切除する手術です(図6)。通常はリンパ節郭清(周囲のリンパ節の切除)も行います。I期からII期の非小細胞肺がんに対する標準的な手術方法です。がんが肺と隣接する胸壁や心膜に広がっているときには、一緒に切除する場合があります。
図6 肺葉切除術の切除範囲
図6 肺葉切除術の切除範囲の図

(2)縮小手術

肺をできるだけ温存することを目的として、肺葉の一部分のみを切除する手術です。非小細胞肺がんのごく早期か、I期で肺の機能などに問題があり、肺葉切除ができない場合の手術です。再発の可能性が高くなるので、可能であれば肺葉切除術を行います。
縮小手術には、がんがある区域のみを切除する区域切除(図7左)と、区域の中でがんがある部分のみを切除する楔状けつじょう切除(図7右)があります。
図7 縮小手術の切除範囲
図7 縮小手術の切除範囲の図

(3)片側肺全摘手術

がんがある側の片肺をすべて切除する手術です(図8)。がんが肺葉を越えて広がっている場合や、大血管や気管支に及んでいる場合に必要になることがあります。がんが肺と隣接する胸壁や心膜に広がっているときには、一緒に切除する場合があります。体に大きな負担がかかるので、心臓や肺の状態や年齢なども考慮しながら、手術できるかどうかを検討します。
図8 片側肺全摘手術の切除範囲
図8 片側肺全摘手術の切除範囲の図

2)手術後の合併症

肺の手術を行うと、肺活量の低下や肺炎などの合併症がおきることがあります。合併症を予防するために、手術前・手術後それぞれに呼吸訓練をすることが大切です。

●肺活量の低下

手術中の肺の圧迫の影響や、手術の傷あとの痛みなどのため、手術前と比べて肺活量が著しく低下することがあります。

●肺炎などの肺の病気

手術後の痛みのために咳がしにくくなると、気道の中に痰などの分泌物がたまりやすくなります。これが肺炎や無気肺(肺の一部または全体に空気がなく、肺がつぶれた状態)などの肺の病気の原因になることがあります。

3.放射線治療

放射線治療は、高いエネルギーを持つ放射線をあててがん細胞を破壊し、がんを消滅させたり小さくしたりする治療法です。がんの治癒や進行の抑制、がんによる身体症状の緩和や延命などを目的として行います。体の状態がよく、細胞障害性抗がん薬を使用できる場合には、放射線治療と同時に使用することがあります(化学放射線療法)。
化学放射線療法では、放射線治療と細胞障害性抗がん薬を同じ時期に併用したほうが、時期を分けて連続的に行うよりも効果が高いとされていますが、急性の副作用が出る可能性も高くなります。

1)非小細胞肺がんの放射線治療

I期からIII期で手術が難しい場合には、治癒を目標とした放射線治療を行います。II期・III期で体の状態がよい場合には、化学放射線療法を行います。また、I期・II期で医学的には手術が可能でも、患者本人が手術を希望しないときには、治癒を目標とした放射線治療を行うことがあります。

2)小細胞肺がんの放射線治療

小細胞肺がんでは限局型が放射線治療の対象となります。I期で手術ができない場合や、II期以降でも体の状態がよい場合には、化学放射線療法を行います。また、I期またはIIA期以外の限局型では、初回の治療によってがんが画像検査では分からないほど縮小し、体の状態も良い場合には、脳への転移による再発を予防するために脳全体に放射線を照射することがあります(予防的全脳照射)。

【放射線治療の副作用】

皮膚や粘膜など細胞分裂が盛んな部分は放射線の影響を受けやすく、治療後に炎症を起こすことがあります。放射線があたった部位に起こりやすく、食道の痛みや飲み込みにくさ、咳や発熱、息切れなどの症状がでることがあります。重症になることもありますので、高熱やひどい息切れがある場合には早めに医師に相談しましょう。

4.薬物療法

薬剤を点滴または内服で体内に取り入れ、がんの増殖を抑えたり成長を遅らせたりする治療です。体内に入った薬は全身をめぐるので、肺以外の臓器に転移している場合にも効果を期待できます(全身療法)。手術や放射線治療のような局所療法と組み合わせて、治療後の再発や転移を予防することもあります。肺がんは転移しやすいがんなので、薬物療法はとても有効な治療法です。
治療の効果は、X線検査やCT検査、気管支鏡下検査、腫瘍マーカー検査などで判定します。副作用などの理由で一次治療(がんの診断後に初めて行う薬物治療)を中止した場合や、一次治療の効果がなくなった場合でも、体の状態が良好であれば、二次治療、三次治療が行われます。その場合、前の治療ですでに使ったものとは異なる薬や組み合わせを使用します。
肺がんの薬物療法で使用する薬には、大きく分けて「細胞障害性抗がん薬」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」があります。どの薬を使用するかは、肺がんの組織分類や病期、体の状態などによって異なります。
細胞障害性抗がん薬は、細胞の増殖の仕組みに着目して、その仕組みの一部を邪魔することでがん細胞を攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受けます。

分子標的薬は、がん細胞に特徴的な分子を目印にしてがんを攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞への影響を抑えられるのが特徴です。肺がんでは、チロシンキナーゼ阻害薬や血管新生阻害薬を使用します。がん遺伝子検査をもとに適切な薬を選びます。

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ薬です。免疫チェックポイント阻害薬は、分子標的薬に含めることもあります。
※免疫チェックポイント阻害薬については「5.免疫療法」もご参照ください。

1)非小細胞肺がんの薬物療法

再発や転移を予防することを目的として、手術後に細胞障害性抗がん薬による治療を行うことがあります。II期やIII期で、手術は難しいが放射線治療の効果が期待できる場合に、放射線治療を併用し、化学放射線療法を行うことがあります。
進行していて手術では取りきれない場合には、薬物療法が治療の中心になります。細胞障害性抗がん薬や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を使用します。複数の薬を組み合わせて併用することもあります。

2)小細胞肺がんの薬物療法

小細胞肺がんでは、主に細胞障害性抗がん薬で治療を行います。進展型では免疫チェックポイント阻害薬と併用することもあります。小細胞肺がんは転移しやすいがんですが、細胞障害性抗がん薬の効果が出やすいという特徴があります。

(1)限局型の場合

病期がIからIIA期で手術で取り切れる場合は、再発や転移を防ぐために、手術の後に細胞障害性抗がん薬を使用することがあります。手術が難しい場合は化学放射線療法を行います。体の状態によっては、細胞障害性抗がん薬のみで治療を行います。
I期とIIA期以外では細胞障害性抗がん薬による治療が中心となり、体の状態を考慮しながら適切な方法を選びます。状態が良い場合(PS0-2)には、放射線治療を併用した化学放射線療法を行います。PS3では薬物療法が治療の中心です。いずれの場合も、初回の治療でがんが画像検査では分からないほど縮小し、PSが良いまたは改善した場合には、予防的全脳照射を行うことがあります。

(2)進展型の場合

進展型は主に細胞障害性抗がん薬で治療します。免疫チェックポイント阻害薬と併用することもあります。使用する薬は健康状態や年齢によって異なります。

【薬物療法の副作用について】

使用する薬剤の種類によって副作用は異なり、その程度も個人差があります。細胞障害性抗がん薬は新陳代謝の盛んな細胞に影響を与えやすく、脱毛や、口内炎、下痢、白血球や血小板の数が少なくなる骨髄抑制などの症状が出ることがあります。
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は、薬ごとにさまざまな副作用があらわれます。自分が受ける薬物療法について、いつどんな副作用が起こりやすいか、どう対応したらよいか、特に気をつけるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医に確認しておきましょう。

5.免疫療法

免疫療法は、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。2020年1月現在、肺がんの治療に効果があると証明されているのは、免疫チェックポイント阻害薬を使用する治療法のみです。

6.緩和ケア/支持療法

緩和ケアとは、がんと診断されたときから、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を維持するために、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげ、自分らしく過ごせるようにする治療法です。がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われ、希望に応じて幅広い対応をします。
なお、支持療法とは、がんそのものによる症状やがん治療に伴う副作用・合併症・後遺症による症状を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。
本人にしかわからないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。
関連情報
緩和ケア

7.リハビリテーション

リハビリテーションは、がんとその治療による合併症や副作用などによる身体的・心理的な障害の緩和や、能力の回復・維持を目的に行われます。
肺の手術を行うと、手術前と比べて肺活量が著しく低下したり、痛みのため痰を出しにくくなったりして、肺炎や無気肺などの合併症につながることがあります。このような合併症を避けるため、手術の前後に呼吸訓練を行います。手術後の呼吸訓練を正しく行い、回復の効率をよくするためには、手術前の比較的余裕のある時期にしっかりと呼吸の訓練をしておくことが大切です。胸部や手足の筋肉のストレッチや、息切れが強くならない程度のウォーキングなどの運動も有効です。看護師やリハビリテーションスタッフの指導を受けながら、しっかりと行いましょう。
手術後には、呼吸訓練と併せて、肺の一部分だけを圧迫しないように心がけます。長時間同じ姿勢で寝たきりにならないように体の向きを変えたり、無理のない程度に体を動かしたりしましょう。早期回復のためには、退院後もリハビリテーションを引き続き粘り強く続けていくことが大切です。

8.臨床試験

よりよい標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。
現在行われている標準治療は、より多くの患者さんによりよい治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。

●肺がんの臨床試験

現在国内で行われている臨床試験(医師・研究者が実施する臨床試験、および製薬企業や医師が実施する治験の一部)に関しては、「がんの臨床試験を探す」で情報を閲覧することができます。
参加できる臨床試験があるかについては、担当医に相談してみましょう。

9.生存率

がんの治療成績を示す指標の1つとして、生存率があります。生存率とは、がんと診断されてからある一定の期間経過した時点で生存している割合のことで、通常はパーセンテージ(%)で示されます。がんの治療成績を表す指標としては、診断から5年後の数値である5年生存率がよく使われます。
なお、生存率には大きく2つの示し方があります。1つは「実測生存率」といい、死因に関係なくすべての死亡を計算に含めた生存率です。他方を「相対生存率」といい、がん以外の死因を除いて、がんのみによる死亡を計算した生存率です。
以下のページに、国立がん研究センターがん対策情報センターがん登録センターが公表している院内がん登録から算出された生存率を示します。ここでは、科学的根拠に基づく情報を迅速に提供する目的で、5年生存率より新しいデータで算出をした3年生存率についても情報提供をしています。
※データは平均的、かつ確率として推測されるものであるため、すべての患者さんに当てはまる値ではありません。

10.転移・再発

転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れなどに乗って別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。また、再発とは、治療の効果によってがんがなくなったあと、再びがんが出現することをいいます。

1)転移

肺がんはリンパ節、反対側の肺、骨、脳、肝臓、副腎などに転移しやすいがんです。一般的に、転移した肺がんを手術ですべて取りきることは難しいため、症状がない場合は薬物療法を中心に、痛みなどがある場合は症状を取り除くための放射線治療や手術を行います。これらの治療ができない場合にも、症状を和らげる治療を行い、痛みや苦痛を緩和しながら日常生活を送れるようにします。

●骨転移の治療

痛みなどの症状がある場合には、放射線治療を行います。骨折の危険性が高い、脊髄圧迫があるなどの場合には、手術を行うこともあります。骨転移による骨折を予防するために、骨粗しょう症の治療薬を服用することもあります。

●脳転移の治療

痛みや麻痺などの症状がある場合には、症状を緩和するための手術や放射線治療を検討します。症状がない場合には薬物療法が中心ですが、転移巣の大きさや個数、部位などの状況によって、放射線治療や手術を行うこともあります。

2)再発

再発がんでは、がんが肺以外の組織にもみられることが多いので、非小細胞肺がん、小細胞肺がんともに全身療法である薬物療法が治療の中心となります。非小細胞肺がんでは、がんの組織型や遺伝子変異などの有無、体の状態をみながら治療薬を選択します。小細胞肺がんは特に再発の多いがんです。再発した場合には、一次治療終了から再発までの期間の長さによって、適切な細胞障害性抗がん薬を選びます。
関連情報
痛み
更新・確認日:2020年01月23日 [ 履歴 ]
履歴
2020年01月23日 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2019年版」より、内容の更新をしました。
2019年07月08日 新規に追加された用語へのリンクを追加しました。
2018年07月25日 「関連情報」を追加しました。
2017年08月03日 内容の更新に伴い、4タブ形式に変更しました。
2014年10月23日 掲載内容の更新が不要であることを確認しました。
2012年11月02日 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。
2006年10月01日 内容を更新しました。
1995年11月06日 掲載しました。

1.日常生活を送る上で

症状や治療の状況によって、日常生活の注意点は異なります。予想される症状や対処法について担当医と相談しておくことが大切です。これまでたばこを吸っていた人は、禁煙することで、痰の量が減る、治療後の肺炎のリスクを下げるなどの効果が期待できますので、この機会にぜひ禁煙しましょう。「禁煙外来」を設けている医療機関で禁煙治療を受けることもできます。

1)手術や放射線治療の場合

退院したあと急に肺炎にかかることがあるので、せきたん、急な発熱などの症状がある場合は早めに診察を受けます。呼吸機能の低下が原因となって息切れやだるさを感じることもありますが、体を起こしたり立ち上がったりすることで、かえって楽に呼吸ができるようになる場合もあります。無理をしない程度に散歩などの軽い運動を取り入れて、体力の維持に努めることも大切です。放射線治療を受けた場合にも同様な注意が必要です。

2)薬物療法の場合

最近では、通院で薬物療法を行うことが増えています。日常生活を続けながら治療ができる一方で、何かあったときにすぐ気付いて適切に対処できるように、予想される副作用やその時期、対処法などについてしっかり把握しておく必要があります。事前に担当医や看護師に確認し、外来時に疑問点や不安点などを相談しながら治療を進めます。

3)性生活について

性生活には支障はありませんが、治療中は避妊しましょう。妊娠・出産を希望される場合は治療前から担当医とよく相談しましょう。

2.経過観察

治療後の経過観察は5年間を目安とし、定期的な検査を行って再発がないか確認します。
受診と検査の間隔は、肺がんの性質や進行度、治療の内容と効果、追加治療の有無、体調の回復や後遺症の程度などによって異なります。治療が続いている間はその予定にしたがって通院しますが、治療が終了した場合でも、始めは1カ月から3カ月ごと、病状が安定してきたら6カ月から1年ごとに定期的に受診します。
受診時は体調についての問診や診察、血液検査(腫瘍マーカー)、胸部X線検査などを行い、必要に応じてCT検査、MRI検査、PET-CT検査などの画像検査も行います。画像検査では発見しにくい肺門型扁平上皮癌の場合には、喀痰細胞診かくたんさいぼうしん気管支鏡きかんしきょう下検査を行うこともあります。
規則正しい生活を送ることで、体調の維持や回復を図ることができます。禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、適度な運動など、日常的に心がけることが大切です。