肺がんについて
1.肺について
肺は左右の胸に1つずつあり、右肺は3つ、左肺は2つに分かれています。分かれたそれぞれの部分を肺葉といいます。
肺は、体の中に酸素を取り入れ、いらなくなった二酸化炭素を外に出す働きをしています。空気の通り道である気管が、左右の主気管支に分かれて肺に入る部分を肺門、肺門以外の部分を肺野といいます。主気管支はさらに何回も枝分かれをし、その先端付近には肺胞という小さな袋がたくさんついています。
肺は、胸壁(胸部を作る壁)で囲まれた胸腔という空間の中にあり、胸膜という薄い膜でおおわれています。左右の肺にはさまれた部分を縦隔といい、気管や食道、心臓などがあります(図1)。

2.肺がんとは
肺がんは、気管支や肺胞の細胞が何らかの原因でがん化したものです。進行すると、がん細胞は周りの組織を壊しながら増殖し、血液やリンパ液の流れなどにのって転移することもあります。転移しやすい場所はリンパ節や、肺の中のほかの部位、骨、脳、肝臓、副腎です。
がんの種類(組織型)について
肺がんの主な組織型(がんの種類)は、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんの4つです(表1)。腺がんが最も多く半数以上を占め、扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がんの順に続きます。なお、腺がんは肺腺がんと呼ばれることもあります。
肺がんの治療法は、組織型が小細胞がんの場合とそれ以外の場合とで大きく異なります。このため、肺がんを「小細胞肺がん」「非小細胞肺がん」に大きく分けて扱います(表1)。「非小細胞肺がん」には、腺がん・扁平上皮がん・大細胞がんなどの組織型の肺がんが含まれます。
このコンテンツでも、治療については、「非小細胞肺がん 治療」「小細胞肺がん 治療」にページを分けて説明しています。

いずれの組織型のがんでも発生要因の1つに喫煙があります。中でも、扁平上皮がんや小細胞がんは喫煙との関連が大きいがんですが、喫煙をしていない人でも肺がんになることもあります。
3.症状
早期には症状が見られないことも多く、進行して初めて症状が出ることもあります。主な症状としては、咳や痰、血痰(痰に血が混じる)、胸の痛み、動いたときの息苦しさや動悸、発熱などがあげられます。しかし、いずれも肺炎や気管支炎などの呼吸器の病気にも共通する症状で、「この症状があれば必ず肺がん」という症状はありません。また、このような症状がないまま進行し、医療機関での定期的な検診や、ほかの病気の検査で偶然見つかることもあります。なお、脳や骨などに転移すると、頭痛やふらつき、背中や肩の痛みなどの症状が出ることもあります。
最も多い症状は咳と痰です。原因が分からない咳や痰が2週間以上続く場合や、血痰が出る場合、発熱が5日以上続く場合には、早めに身近な医療機関を受診しましょう。
2022年11月22日 | 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2021年版」「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版補訂版」より内容を更新しました。 |
2020年01月23日 | 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2019年版」より、内容の更新をしました。 |
2019年02月22日 | 「4.組織型分類(がんの組織の状態による分類)」に肺腺がんの記載を追加しました。 |
2018年07月31日 | 「4.組織型分類」から「4.組織型分類(がんの組織の状態による分類)」へタイトルを変更しました。 |
2018年07月25日 | 「6.発生要因」に関連情報を追加しました。 |
2017年08月03日 | 「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2016年版」「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版(2017年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2014年10月23日 | 「6.疫学・統計」を更新しました。 |
2012年11月02日 | 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2006年10月01日 | 内容を更新しました。 |
1995年11月06日 | 掲載しました。 |
肺がん 検査
肺がんが疑われるときは、まず、胸部X線検査を行います。異常が見られた場合には胸部CT検査を行い、がんが疑われる病変の有無や場所を調べます。
これらの検査で異常が見つかった場合には、肺がんが疑われる部位から細胞や組織を採取する病理検査を行い、がんかどうか、がんの場合はどのような種類のがんかについての診断を確定します。組織や細胞を採取するために最も多く行われているのは気管支鏡検査ですが、場合によっては経皮的針生検や胸腔鏡検査などを行うこともあります。胸部CT検査で見つかった病変が小さく、病理検査が難しい場合には、経過観察になることもあります。
また、がんの病期や広がりを調べるために、胸腹部の造影CT検査や脳のMRI検査、PET検査、骨シンチグラフィなどを行います。どの検査をどのタイミングで行うかは、必要に応じて担当医が判断します。
1.胸部X線検査
いわゆるレントゲン検査のことです。肺にがんを疑う影がないか調べるために、胸部全体にX線を照射して撮影します。簡便で広く普及した検査で、がん検診でも用いられています。
2.喀痰細胞診
痰の中にがん細胞がないか調べる検査です。検診でも実施されることがあります。胸部X線検査では見つかりにくい肺門部のがんを見つけることができる可能性があり、喫煙量が多いなど、肺がんのリスクが高い人で行われることがあります。1回だけの検査ではがん細胞を発見しにくいため、数日分の痰を採取して検査します。
3.CT検査
肺にがんを疑う病変がないか調べる画像診断法としては、今のところ最も有力な方法です(図2)。胸部X線検査などで異常が認められた場合に行い、がんを疑う病変の大きさや場所、リンパ節や腹部などのほかの臓器に転移していないかなどを調べます。体の周囲からX線を当てて、体の断面を画像にします。さらに詳しく調べるために、より高精度な高分解能CT検査や造影剤を使ったCT検査を行うこともあります。

4.気管支鏡検査・生検
直径5mmほどの細いしなやかな内視鏡を、鼻や口から挿入して気管支の中を観察し、がんが疑われる部位の細胞や組織を採取します(図3)。スプレー状の薬を使って、のどや気管に部分的な麻酔をかけてから行います。長時間かかることが予想される場合には、痛み止めや眠くなる薬を注射することもあります。

5.経皮的針生検
がんが疑われる箇所まで気管支鏡が届かない場合や、気管支鏡検査で診断がつかない場合などに行います。局所麻酔をし、体の外から細い針を刺して、超音波(エコー)やX線、CTで位置を確認しながら病変のある肺の細胞や組織を採取します。気胸などの合併症を起こす可能性があるため、体の状態を見ながら検査ができるかを検討します。
6.胸腔鏡検査
胸を小さく切開して、内視鏡を肋骨の間から胸腔内に挿入し、肺や胸膜、リンパ節の組織を採取して調べる検査です。従来は全身麻酔をした状態で行ってきましたが、近年では局所麻酔のみで行うこともあります。
7.がん遺伝子検査
がん細胞の発生や増殖に関わるがん遺伝子に異常があるかを調べる検査です。非小細胞肺がんでは、EGFR遺伝子、ALK遺伝子、ROS1遺伝子、BRAF遺伝子、MET遺伝子、RET遺伝子、KRAS遺伝子、NTRK遺伝子などについて異常がないか、生検で採取した組織や胸水などに含まれるがん細胞を調べます。異常のあることが分かった場合には、異常が見つかったがん遺伝子に応じた分子標的薬による治療を検討します。
8.PD-L1検査(PD-L1免疫染色検査)
PD-L1というタンパク質があるがん細胞の割合を調べる検査です。免疫チェックポイント阻害薬の治療の効果を予測するために行います。免疫チェックポイント阻害薬は、PD-L1があるがん細胞の割合が高いと効果が出やすいことが分かっています。
9.MRI検査
頭部や骨などへの転移の有無を確認するためなどに行います。磁気を使って体内の様子を画像化する検査です。
10.PET-CT検査
肺がんが転移しているかなど、進行の程度を調べるのに特に有効な検査です。PET検査、CT検査という2つの異なる検出方法の検査の画像を重ねることで、高い精度でがん細胞の有無や転移があるかどうかを診断することができます。
11.骨シンチグラフィ
骨への転移の有無を調べる検査です。骨の中でがんがある部分に集まる性質を持つ薬剤を、放射性物質につけて静脈から注射し、その分布を調べます。
12. 腫瘍マーカー検査
腫瘍マーカー検査は、がんの診断の補助のために行います。また、診断後の経過や治療の効果を見ることを目的に行うこともあります。腫瘍マーカーとは、がんの種類によって特徴的に作られるタンパク質などの物質で、がん細胞やがん細胞に反応した細胞によって作られます。しかし、腫瘍マーカーの値だけでは、がんの有無やがんがある場所、がんが進行しているかどうかは確定できません。
肺がんでは、血液中のCYFRA、CEA、ProGRP、NSEなどを測定することもありますが、組織型や病期によって検出しやすさが異なります。肺がんがあるのにいずれの腫瘍マーカーの値も高くならないこともしばしばあります。
2023年01月26日 | 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2022年版」より内容を更新しました。 |
2022年11月22日 | 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2021年版」「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版補訂版」より内容を更新しました。 |
2020年01月23日 | 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2019年版」より、内容の更新をしました。 |
2019年07月22日 | 新規に追加された用語へのリンクを追加しました。 |
2017年08月03日 | 「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2016年版」「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版(2017年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2014年10月23日 | 掲載内容の更新が不要であることを確認しました。 |
2012年11月02日 | 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2006年10月01日 | 内容を更新しました。 |
1995年11月06日 | 掲載しました。 |
肺がん 非小細胞肺がん 治療
肺がんの治療には、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法、緩和ケアがあります。肺がんの治療法は組織型によって大きく異なるため、非小細胞肺がんの治療と小細胞肺がんの治療にページを分けて説明します。このページでは、非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)の治療について説明しています。
1.病期と治療の選択
治療は、がんの進行の程度を示す病期やがんの性質、体の状態などに基づいて検討します。非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)の治療を選択する際には、次のことを調べます。
1)病期(ステージ)
がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。病期は、一般的にローマ数字を使って表します。肺がんでは、0期〜Ⅳ期に分けられ、進行するにつれて数字が大きくなります。
病期は、次のTNMの3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決まります。
Tカテゴリー:原発巣のがんの大きさや広がりの程度(表2)
Nカテゴリー:所属リンパ節(胸腔内や鎖骨の上あたりのリンパ節)への転移の有無(表3)
Mカテゴリー:がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移の有無(表3)



2)がんの性質(組織型・遺伝子異常)
(1)組織型
肺がんの性質は組織型によって異なります。組織型とは、がんの種類のことで、顕微鏡下でのがん組織の見え方によって分類されます。
肺がんの主な組織型は、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんの4つです。肺がんの治療法は、組織型によって大きく異なります。ここでは、非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)の治療法について説明しています。
(2)遺伝子異常
一部のがんの治療では、異常のある遺伝子に対応した薬による治療が行われています。非小細胞肺がんでは、EGFR遺伝子、ALK遺伝子、ROS1遺伝子、BRAF遺伝子、MET遺伝子、RET遺伝子、KRAS遺伝子、NTRK遺伝子などに異常がある場合などに、その遺伝子に対応する薬物療法を検討します。
3)体の状態
治療法を選ぶ際には、年齢や、がんのほかに病気があるか、肺の機能を含む全身の状態などを確認して、体の状態がその治療法に耐えられるかどうか総合的に判断します。全身の状態を確認するときには、「パフォーマンスステータス(PS)」という指標を用います。パフォーマンスステータスは日常生活の制限の程度を示す指標で、0~4の5段階に分けられます。
0 | まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。 |
---|---|
1 | 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業 |
2 | 歩行可能で、自分の身の回りのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。 |
3 | 限られた自分の身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。 |
4 | まったく動けない。自分の身の回りのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。 |
4)治療の選択
治療は、病期や組織型、異常のある遺伝子などに応じた標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、担当医と話し合って決めていきます。
図4は、非小細胞肺がんの標準治療を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
比較的早期の非小細胞肺がんの治療の中心は手術です。再発予防のため、手術後に薬物療法を行うこともあります。また、体の状態や合併するほかの病気などの影響で手術が難しい場合には、放射線治療を行うこともあります。
がんが手術では完全に取りきることができない程度に進行している場合にも、放射線治療の効果が期待できる場合には、放射線治療を行います。この場合、体の状態がよければ、放射線治療と薬物療法を同時に行います(化学放射線療法)。さらに進行した状態では、薬物療法が治療の中心になります。

妊娠や出産について
がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊孕性を温存すること(妊娠するための力を保つこと)が可能かどうかを、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
2.手術(外科治療)
手術は、がんや、がんのある臓器を切り取る(切除する)治療法です。手術ができるかどうかについては、手術前の体の状態を総合的に評価して判断します。
非小細胞肺がんでは、Ⅰ期、Ⅱ期と、Ⅲ期の一部が対象で、手術によってがんを取りきることができる場合に行います。
手術の方法には、胸部の皮膚を15〜20cmほど切開し、肋骨の間を開いて行う開胸手術と、皮膚を小さく数カ所切開して、胸腔鏡という細い棒状のビデオカメラを挿入し、モニターの画像を見ながら行う胸腔鏡手術があります。さらに、小さい開胸部分(皮膚の切開は8cm以下)からの肉眼での観察と、モニターの画像とを併用して、胸腔鏡の補助下で行うハイブリッド胸腔鏡手術も行われています。手術の方法には、それぞれに長所と短所があり、具体的な手術の方法や対象などは病院によって異なることもあります。病状によって手術の方法が変わることもありますので、担当医とよく相談しましょう。
1)手術の種類
切除する範囲によって、肺葉切除術、縮小手術、片側肺全摘手術に分けられます。どの種類の手術を行うかは、組織型や病期、体の状態などによって異なります。
(1)肺葉切除術
がんのある肺葉を切除する手術です(図6)。通常はリンパ節郭清(周囲のリンパ節の切除)も行います。Ⅰ期の一部、Ⅱ期、Ⅲ期の一部の非小細胞肺がんに対する標準的な手術方法です。がんが肺と隣接する胸壁や心膜に広がっているときには、一緒に切除する場合があります。

(2)縮小手術
肺をできるだけ温存することを目的として、肺葉の一部分のみを切除する手術です。非小細胞肺がんのⅠA期で、がんの大きさが2㎝以下の場合の標準的な手術方法の1つです。また、Ⅰ期で肺の機能などに問題があり、肺葉切除ができない場合などにも行われることがあります。
縮小手術には、がんがある区域のみを切除する区域切除(図7左)と、区域の中でがんがある部分のみを切除する楔状切除(図7右)があります。縮小手術を行うかどうかや、切除する範囲は、肺がんの病状と体の状態をみて、担当医と相談しながら決定します。

(3)片側肺全摘手術
がんがある側の肺をすべて切除する手術です(図8)。がんが肺葉を越えて広がっている場合や、大血管や気管支に及んでいる場合に行われることがあります。がんが肺と隣接する胸壁や心膜に広がっているときには、一緒に切除する場合があります。体に大きな負担がかかるので、心臓や肺の状態なども考慮しながら、手術できるかどうかを検討します。

2)手術後の合併症
肺の手術をすると、肺活量が低下します。肺活量が低下すると、肺炎などの合併症が起きることがあります。その予防のために、手術前・手術後それぞれにリハビリテーション(呼吸訓練)をすることが大切です。これまでたばこを吸っていた人は、禁煙することで、痰の量が減る、治療後の肺炎のリスクが下がるなどの効果が期待できますので、禁煙が必須です。
3.放射線治療
放射線治療は、がんのある部分に放射線を当てることにより、がん細胞を攻撃する治療法です。がんの治癒や進行の抑制、がんによる症状の緩和や延命などを目的として行います。
放射線治療は、切除できないⅢ期の非小細胞肺がんが主な対象です。パフォーマンスステータス(PS)が0または1で体の状態がよく、細胞障害性抗がん薬を使用できる場合には、放射線治療と同時に細胞障害性抗がん薬による薬物療法を行います(化学放射線療法)。化学放射線療法では、放射線治療と細胞障害性抗がん薬を同じ時期に併用した方が、時期を分けて連続的に行うよりも効果が高いとされていますが、治療中に強めの副作用が出る可能性も高くなります。
Ⅰ期とⅡ期の非小細胞肺がんの標準治療は手術ですが、手術が難しい場合や、医学的には手術が可能でも本人が希望しないときには、治癒を目標とした放射線治療を行うことが勧められています。
放射線治療の副作用
放射線治療中に見られる副作用には、咳、皮膚炎、食道の炎症(食事のときにしみたり痛んだりする)などがあります。白血球が少なくなったり、貧血になったりすることもあります。化学放射線療法を行った場合には、薬物の影響で、悪心(吐き気)や食欲不振、手足のしびれなどの副作用が出ることもあります。しかし、このような治療期間中にあらわれる副作用は、治療が終わると時間とともに改善します。
肺は放射線の影響を受けやすいため、放射線が当たった部分に炎症が起きることがあります(放射線肺臓炎)。多くの場合、少し咳が出る程度で時とともに治まりますが、重症化する場合もあります。発熱、息苦しさ、空咳などの症状があったら、すぐに担当医に連絡しましょう。高齢、肺にほかの持病がある、喫煙歴がある場合には放射線肺臓炎の危険性が高くなりますので、注意が必要です。
放射線治療の副作用は、治療が終わってから数カ月あるいは数年経ってあらわれることもあるため、放射線治療が終わったあとも定期的に診察を受ける必要があります。
4.薬物療法
薬物療法は、薬によってがんを治したり、がんの進行を抑えたり、症状を和らげたりする治療法です。がんが進行していて手術では取りきれない場合には、薬物療法が治療の中心になります。非小細胞肺がんの薬物療法で使用する薬には、大きく分けて「細胞障害性抗がん薬」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」があります。複数の種類の薬を組み合わせて併用することもあります。
非小細胞肺がんでは、再発や転移を予防することを目的として、手術のあとに薬物療法を行うことがあります。Ⅱ期やⅢ期で手術が難しい場合、放射線治療でがんの治癒を目指せるときには、放射線治療を併用し、化学放射線療法を行うこともあります。また、化学放射線療法後、病状がコントロールできている場合には、免疫チェックポイント阻害薬による治療も行うことが勧められています。
- 細胞障害性抗がん薬
細胞の増殖の仕組みに着目して、その仕組みの一部を邪魔することでがん細胞を攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受けます。 - 分子標的薬
がん細胞の増殖に関わるタンパク質や、栄養を運ぶ血管、がんを攻撃する免疫に関わるタンパク質などを標的にしてがんを攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞への影響を抑えられるのが特徴です。 - 免疫チェックポイント阻害薬
免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ(がん細胞が免疫にブレーキをかけるのを防ぐ)薬です。免疫チェックポイント阻害薬は、分子標的薬の1つとして分類することもあります。 ※免疫チェックポイント阻害薬については「5.免疫療法」もご参照ください。
使用する薬は、がん遺伝子検査とPD-L1検査の結果に基づいて決まります(図9)。がん遺伝子に異常がある場合には、対応する分子標的薬で治療を行います。がん遺伝子に異常はないが、PD-L1というタンパク質が表面にあるがん細胞が多い場合には、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高いことが期待できるため、免疫チェックポイント阻害薬単独、または細胞障害性抗がん薬を併用した治療を検討します。

治療の効果は、CT検査などで判定します。副作用などの理由で一次治療(がんの診断後に初めて行う薬物治療)を中止した場合や、一次治療の効果がなくなった場合でも、体の状態がよければ、二次治療、三次治療、四次治療と治療が続けられることも多くなってきています。その場合、前の治療ですでに使ったものとは異なる薬や組み合わせを使用します。
薬物療法の副作用
使用する薬剤の種類によって副作用は異なり、その程度も個人差があります。細胞障害性抗がん薬は分裂の盛んな細胞に影響を与えやすく、脱毛や、口内炎、下痢、白血球や血小板の数が少なくなる骨髄抑制などの症状が出ることがあります。
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も、薬ごとにさまざまな副作用があらわれます。自分が受ける薬物療法について、いつどんな副作用が起こりやすいか、どう対応したらよいか、特に気をつけるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医に確認しておきましょう。
5.免疫療法
免疫療法は、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。2023年1月現在、免疫療法の中で、非小細胞肺がんの治療に効果があると証明されている方法は、免疫チェックポイント阻害薬を使用する薬物療法のみです。そのほかの免疫療法で、肺がんに対して効果が証明されたものはありません。免疫チェックポイント阻害薬を使う治療法は、薬物療法の1つでもあります。
6.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。本人にしか分からないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。
7.リハビリテーション
リハビリテーションは、がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力を維持・向上させるために行われます。また、緩和ケアの一環として、心と体のさまざまなつらさに対処する目的でも行われます。
肺の手術を行うと、手術前と比べて肺活量が著しく低下したり、痛みのため痰を出しにくくなったりして、肺炎や無気肺などの合併症につながることがあります。このような合併症を避けるため、手術の前後に呼吸訓練を行います。手術後の呼吸訓練を正しく行い、回復の効率をよくするためには、手術前の比較的余裕のある時期にしっかりと呼吸の訓練をしておくことが大切です。胸部や手足の筋肉のストレッチや、息切れが強くならない程度のウオーキングなどの運動も有効です。看護師やリハビリテーションスタッフの指導を受けながら、しっかりと行いましょう。
手術後には、呼吸訓練と併せて、肺の一部分だけを圧迫しないように心がけます。長時間同じ姿勢で寝たきりにならないように体の向きを変えたり、無理のない程度に体を動かしたりしましょう。早期回復のためには、退院後もリハビリテーションを引き続き粘り強く続けていくことが大切です。
一般的に、治療中や治療終了後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などをリハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師に確認しましょう。
8.転移した臓器の治療
肺がんは骨や脳などに転移しやすいがんです。がんができた場所から離れた臓器に転移している場合には薬物療法を行うのが原則ですが、痛みなどの症状がある、全身状態に影響する恐れがあるなどの場合には、転移した臓器への治療を優先して行うことがあります。
骨転移の治療
痛みなどの症状がある場合には、放射線治療を行います。骨折の危険性が高い、痛みや麻痺、しびれなどの脊髄圧迫の症状があるなどの場合には、手術を行うこともあります。骨転移による骨折を予防するために、骨粗しょう症の治療薬を服用することもあります。
脳転移の治療
痛みや麻痺などの症状がある場合には、症状を緩和するための手術や放射線治療を検討します。症状がない場合でも、転移したがんの大きさや個数、部位などの状況によって、放射線治療や手術を行うこともあります。
がん性胸膜炎の治療
肺がんが、肺を越えて胸膜の表面に広がり、胸腔に胸水がたまった状態をがん性胸膜炎といいます。胸水の量が多く、肺を圧迫して息苦しさなどの症状がある場合には、胸腔に管を入れ、数日から数週間のあいだ持続的に胸水を体外に出します(胸腔ドレナージ)。管を抜く前に、胸水が再びたまることを防ぐために、管から薬を注入して胸膜を癒着させ、胸腔を閉じる胸膜癒着術を続けて行うこともあります。
9.再発した場合の治療
再発とは、治療によって見かけ上なくなったことが確認されたがんが、再びあらわれることです。再発には、手術や放射線治療などをしたあとに、がんがあった場所またはそのごく近くに再発する局所再発と、それ以外の場所に転移して再発する転移性再発があります。
再発した場合には、原則として、Ⅳ期の治療と同じように全身療法である薬物療法が治療の中心となります。局所再発の場合には手術や放射線治療を行うこともありますが、ほかの場所にも転移している可能性があるため、薬物療法も併せて行うことが多くなっています。どのような薬が適しているか、担当医とよく相談してみましょう。骨や臓器などに再発したがんが原因で、痛みや麻痺などの症状がある場合などには、その臓器に対する治療を行うことを検討します。
肺がん 小細胞肺がん 治療
肺がんの治療には、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法、緩和ケアがあります。肺がんの治療法は組織型によって大きく異なるため、非小細胞肺がんの治療と小細胞肺がんの治療にページを分けて説明します。このページでは、小細胞肺がんの治療について説明しています。
1.病期と治療の選択
治療は、がんの進行の程度を示す病期やがんの性質、体の状態などに基づいて検討します。小細胞肺がんの治療を選択する際には、次のことを調べます。
1)病期(ステージ)
がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。病期は、一般的にローマ数字を使って表します。肺がんでは、0期〜Ⅳ期に分けられ、進行するにつれて数字が大きくなります。
病期は、次のTNMの3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決まります。
Tカテゴリー:原発巣のがんの大きさや広がりの程度(表2)
Nカテゴリー:所属リンパ節(胸腔内や鎖骨の上あたりのリンパ節)への転移の有無(表3)
Mカテゴリー:がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移の有無(表3)



小細胞肺がんの分類
小細胞肺がんの治療法を選択する際には、上記の病期分類と併せて、「限局型」と「進展型」による分類(表5)も使用しています。

2)がんの性質(組織型)
肺がんの性質は組織型によって異なります。組織型とは、がんの種類のことで、顕微鏡下でのがん組織の見え方によって分類されます。
肺がんの主な組織型は、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんの4つです。肺がんの治療法は、組織型によって大きく異なります。ここでは、小細胞肺がんの治療法について説明しています。
3)体の状態
治療法を選ぶ際には、年齢や、がんのほかに病気があるか、肺の機能を含む全身の状態などを確認して、体の状態がその治療法に耐えられるかどうか総合的に判断します。全身の状態を確認するときには、「パフォーマンスステータス(PS)」という指標を用います。パフォーマンスステータスは日常生活の制限の程度を示す指標で、0~4の5段階に分けられます。
0 | まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。 |
---|---|
1 | 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業 |
2 | 歩行可能で、自分の身の回りのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。 |
3 | 限られた自分の身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。 |
4 | まったく動けない。自分の身の回りのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。 |
4)治療の選択
治療は、病期や組織型などに応じた標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、担当医と話し合って決めていきます。
図5は、小細胞肺がんの標準治療を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
小細胞肺がんの治療の中心は薬物療法です。ごく早期の場合は手術を行うこともあります。限局型の場合には、体の状態によって放射線治療を併用することもあります。

妊娠や出産について
がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊孕性を温存すること(妊娠するための力を保つこと)が可能かどうかを、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
2.手術(外科治療)
手術は、がんや、がんのある臓器を切り取る(切除する)治療法です。手術ができるかどうかについては、手術前の体の状態を総合的に評価して判断します。
小細胞肺がんでは、Ⅰ期、ⅡA期が対象で、手術によってがんを取りきることができる場合に行います。手術のあとには、薬物療法を行います。
手術の方法には、胸部の皮膚を15〜20cmほど切開し、肋骨の間を開いて行う開胸手術と、皮膚を小さく数カ所切開して、胸腔鏡という細い棒状のビデオカメラを挿入し、モニターの画像を見ながら行う胸腔鏡手術があります。さらに、小さい開胸部分(皮膚の切開は8cm以下)からの肉眼での観察と、モニターの画像とを併用して、胸腔鏡の補助下で行うハイブリッド胸腔鏡手術も行われています。手術の方法には、それぞれに長所と短所があり、具体的な手術の方法や対象などは病院によって異なることもあります。病状によって手術の方法が変わることもありますので、担当医とよく相談しましょう。
1)手術の種類
小細胞肺がんの手術は、がんのある肺葉を切除する肺葉切除術が基本です(図6)。通常はリンパ節郭清(周囲のリンパ節の切除)も行います。がんが肺と隣接する胸壁や心膜に広がっているときには、一緒に切除する場合があります。

肺がんの手術の方法としては、ほかに、肺をできるだけ温存することを目的として肺葉の一部分のみを切除する縮小手術や、がんがある側の片肺をすべて切除する片側肺全摘術がありますが、小細胞肺がんでこれらの手術が行われることはまれです。
2)手術後の合併症
肺の手術をすると、肺活量が低下します。肺活量が低下すると、肺炎などの合併症が起きることがあります。その予防のために、手術前・手術後それぞれにリハビリテーション(呼吸訓練)をすることが大切です。これまでたばこを吸っていた人は、禁煙することで、痰の量が減る、治療後の肺炎のリスクが下がるなどの効果が期待できますので、手術前には禁煙が必須です。
3.放射線治療
放射線治療は、がんのある部分に放射線を当てることにより、がん細胞を攻撃する治療法です。がんの治癒や進行の抑制、がんによる症状の緩和や延命などを目的として行います。
小細胞肺がんでは限局型が放射線治療の対象となります。パフォーマンスステータス(PS)が0から2で、細胞障害性抗がん薬を使用できる場合には、放射線治療と同時に細胞障害性抗がん薬による薬物療法を行います(化学放射線療法)。化学放射線療法では、放射線治療と細胞障害性抗がん薬を同じ時期に併用した方が、時期を分けて連続的に行うよりも効果が高いとされていますが、治療中に強めの副作用が出る可能性も高くなります。
また、Ⅰ期またはⅡA期以外の限局型では、初回の治療によってがんが画像検査では分からないほど縮小し、体の状態も良い場合には、脳への転移による再発を予防するために脳全体に放射線を照射することが推奨されています(予防的全脳照射)。
放射線治療の副作用
放射線治療中に見られる副作用には、咳、皮膚炎、食道の炎症(食事のときにしみたり痛んだりする)などがあります。白血球が少なくなったり、貧血になったりすることもあります。化学放射線療法を行った場合には、薬物の影響で、悪心(吐き気)や食欲不振、手足のしびれなどの副作用が出ることもあります。しかし、このような治療期間中にあらわれる副作用は、治療が終わると時間とともに改善します。
肺は放射線の影響を受けやすいため、放射線が当たった部分に炎症が起きることがあります(放射線肺臓炎)。多くの場合、少し咳が出る程度で時とともに治まりますが、重症化する場合もあります。発熱、息苦しさ、空咳などの症状があったら、すぐに担当医に連絡しましょう。高齢、肺にほかの持病がある、喫煙歴がある場合には放射線肺臓炎の危険性が高くなりますので、注意が必要です。
放射線治療の副作用は、治療が終わってから数カ月あるいは数年経ってあらわれることもあるため、放射線治療が終わったあとも定期的に診察を受ける必要があります。
4.薬物療法
薬物療法は、薬によってがんを治したり、がんの進行を抑えたり、症状を和らげたりする治療法です。小細胞肺がんの薬物療法で使用する薬には、大きく分けて「細胞障害性抗がん薬」「免疫チェックポイント阻害薬」があります。小細胞肺がんは、主に細胞障害性抗がん薬で治療しますが、進展型では免疫チェックポイント阻害薬と併用することもあります。
- 細胞障害性抗がん薬
細胞の増殖の仕組みに着目して、その仕組みの一部を邪魔することでがん細胞を攻撃する薬です。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受けます。 - 免疫チェックポイント阻害薬
免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ(がん細胞が免疫にブレーキをかけるのを防ぐ)薬です。免疫チェックポイント阻害薬は、分子標的薬の1つとして分類することもあります。
※免疫チェックポイント阻害薬については「5.免疫療法」もご参照ください。
(1)限局型の場合
病期がⅠ期またはⅡA期で手術で取り切れる場合には、再発や転移を防ぐために、手術のあとに細胞障害性抗がん薬を使用します。手術が難しい場合は、細胞障害性抗がん薬とともに放射線治療を用いる化学放射線療法を行います。体の状態によっては、細胞障害性抗がん薬のみで治療を行います。
Ⅰ期とⅡA期以外では、細胞障害性抗がん薬と放射線治療による治療が中心となります。パフォーマンスステータス(PS)が0から2の場合には、細胞障害性抗がん薬と同時に、放射線治療を併用して化学放射線療法を行います。体の状態により同時に行うことが難しい場合には、細胞障害性抗がん薬による治療が終わったあとに放射線治療を行うこともあります。パフォーマンスステータスが3の場合には、薬物療法が治療の中心です。いずれの場合も、初回の治療でがんが画像検査では分からないほど縮小し、体の状態が良いまたは改善した場合には、予防的全脳照射を行うことがあります。
(2)進展型の場合
進展型は主に細胞障害性抗がん薬で治療します。パフォーマンスステータスが0または1の場合には、免疫チェックポイント阻害薬と併用することもあります。使用する薬は体の状態や年齢によって異なります。
薬物療法の副作用
使用する薬剤の種類によって副作用は異なり、その程度も個人差があります。細胞障害性抗がん薬は分裂の盛んな細胞に影響を与えやすく、脱毛や、口内炎、下痢、白血球や血小板の数が少なくなる骨髄抑制などの症状が出ることがあります。
免疫チェックポイント阻害薬も、薬ごとにさまざまな副作用があらわれます。自分が受ける薬物療法について、いつどんな副作用が起こりやすいか、どう対応したらよいか、特に気をつけるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医に確認しておきましょう。
5.免疫療法
免疫療法は、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。2023年1月現在、免疫療法の中で、小細胞肺がんの治療に効果があると証明されている方法は、免疫チェックポイント阻害薬を使用する薬物療法のみです。そのほかの免疫療法で、肺がんに対して効果が証明されたものはありません。免疫チェックポイント阻害薬を使う治療法は、薬物療法の1つでもあります。
6.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。本人にしか分からないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。
7.リハビリテーション
リハビリテーションは、がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力を維持・向上させるために行われます。また、緩和ケアの一環として、心と体のさまざまなつらさに対処する目的でも行われます。
肺の手術を行うと、手術前と比べて肺活量が著しく低下したり、痛みのため痰を出しにくくなったりして、肺炎や無気肺などの合併症につながることがあります。このような合併症を避けるため、手術の前後に呼吸訓練を行います。手術後の呼吸訓練を正しく行い、回復の効率をよくするためには、手術前の比較的余裕のある時期にしっかりと呼吸の訓練をしておくことが大切です。胸部や手足の筋肉のストレッチや、息切れが強くならない程度のウオーキングなどの運動も有効です。看護師やリハビリテーションスタッフの指導を受けながら、しっかりと行いましょう。
手術後には、呼吸訓練と併せて、肺の一部分だけを圧迫しないように心がけます。長時間同じ姿勢で寝たきりにならないように体の向きを変えたり、無理のない程度に体を動かしたりしましょう。早期回復のためには、退院後もリハビリテーションを引き続き粘り強く続けていくことが大切です。
一般的に、治療中や治療終了後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などをリハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師に確認しましょう。
8.転移した臓器の治療
肺がんは骨や脳などに転移しやすいがんです。がんができた場所から離れた臓器に転移している場合には薬物療法を行うのが原則ですが、痛みなどの症状がある、全身状態に影響する恐れがあるなどの場合には、転移した臓器への治療を優先して行うことがあります。
骨転移の治療
痛みなどの症状がある場合には、放射線治療を行います。骨折の危険性が高い、痛みや麻痺、しびれなどの脊髄圧迫の症状があるなどの場合には、手術を行うこともあります。骨転移による骨折を予防するために、骨粗しょう症の治療薬を服用することもあります。
脳転移の治療
痛みや麻痺などの症状がある場合には、症状を緩和するための手術や放射線治療を検討します。症状がない場合でも、転移したがんの大きさや個数、部位などの状況によって、放射線治療や手術を行うこともあります。
がん性胸膜炎の治療
肺がんが、肺を越えて胸膜の表面に広がり、胸腔に胸水がたまった状態をがん性胸膜炎といいます。胸水の量が多く、肺を圧迫して息苦しさなどの症状がある場合には、胸腔に管を入れ、数日から数週間のあいだ持続的に胸水を体外に出します(胸腔ドレナージ)。管を抜く前に、胸水が再びたまることを防ぐために、管から薬を注入して胸膜を癒着させ、胸腔を閉じる胸膜癒着術を続けて行うこともあります。
9.再発した場合の治療
再発とは、治療によって見かけ上なくなったことが確認されたがんが、再びあらわれることです。再発には、手術や放射線治療などをしたあとに、がんがあった場所またはそのごく近くに再発する局所再発と、それ以外の場所に転移して再発する転移性再発があります。
再発した場合は、がんが肺以外の組織にも見られることが多いので、全身療法である薬物療法が治療の中心となります。小細胞肺がんが再発した場合、一次治療終了から再発までの期間が60~90日以上の場合には細胞障害性抗がん薬による治療を行います。それより短い期間で再発した場合は、細胞障害性抗がん薬による治療のほか、再発した部位への放射線治療や、症状を和らげることを目的とした治療を検討します。骨や臓器などに再発したがんが原因で、痛みや麻痺などの症状がある場合などには、その臓器に対する治療を行うことを検討します。
肺がん 療養
がんと診断されてからの仕事については「がんと仕事」、医療費や利用できる制度、相談窓口などのお金に関する情報は「がんとお金」をご参照ください。また、「がん相談支援センター」でも、仕事やお金、生活の工夫や利用できるサポート等、困ったときにはどんなことでも相談することができます。
「地域のがん情報」では、各都道府県等が発行しているがんに関する冊子やホームページへのリンクを掲載しています。併せてご活用ください。
1.経過観察
治療後は、定期的に通院して検査を受けます。検査を受ける頻度は、がんの性質や進行度、治療の内容と効果、追加治療の有無、体調の回復や後遺症の程度などによって異なります。
治療後の経過観察は5年間が目安です。始めは1カ月から3カ月ごと、病状が安定してきたら6カ月から1年ごとに定期的に受診します。
受診時は、再発のほか、治療後の合併症・後遺症の早期発見、早期治療のため、体調についての問診や診察、血液検査(腫瘍マーカーなど)、胸部X線検査などを行い、必要に応じてCT検査、MRI検査、PET-CT検査などの画像検査も行います。画像検査では発見しにくい肺門型扁平上皮がんの場合には、必要に応じて、喀痰細胞診や気管支鏡検査を行うこともあります。
2.日常生活を送る上で
規則正しい生活を送ることで、体調の維持や回復を図ることができます。禁煙、節度のある飲酒、バランスの良い食事、適度な運動などを日常的に心がけることが大切です。とりわけ喫煙は予後の悪化や、二次がんのリスク要因となるため、禁煙を続けることは重要です。症状や治療の状況により、日常生活の注意点は異なりますので、体調を見ながら、担当医とよく相談して無理のない範囲で過ごしましょう。
1)手術や放射線治療後の日常生活
手術や放射線治療のあとは、無理をしない程度に散歩などの軽い運動を取り入れて、体力の回復に努めましょう。急な運動や作業をすると息が切れることもありますので、休みながら、ゆっくりとしたペースで行うとよいでしょう。
肺気腫や間質性肺炎など肺全体に及ぶ病気がある場合には、手術のあとに肺炎になる危険性が高くなりますので、体調の管理には十分注意をしましょう。雨の日や寒い日に肺が痛むこともよくありますが、次第にやわらいでいきます。日常生活にさしつかえるような痛みがある場合には、担当医に相談して、痛み止めを処方してもらいましょう。話をしたとき、深呼吸をしたときなどに咳が出ることもよくあります。多くは1~2カ月でよくなりますが、咳に発熱や痰をともなう場合には注意が必要です。すぐに担当医に連絡しましょう。
2)薬物療法中の日常生活
薬物療法の副作用を予防したり、症状を緩和したりする支持療法が進歩したため、通院で薬物療法を行うこともあります。
通院での薬物療法は、仕事や家事など今までの日常生活を続けながら治療を受けることができる一方、いつも医師や看護師などの医療者がそばにいるわけではないため、不安に感じることもあるかもしれません。予想される副作用やその時期、対処法について医師や看護師、薬剤師に事前に確認し、通院時には疑問点や不安点などを相談しながら治療を進めるとよいでしょう。
3)性生活について
性生活によって、がんの進行に悪影響を与えることはありません。また、性交渉によってパートナーに悪い影響を与えることもありません。しかし、がんやがんの治療は、性機能そのものや、性に関わる気持ちに影響を与えることがあります。がんやがんの治療による性生活への影響や相談先などに関する情報は、「がんやがんの治療による性生活への影響」をご覧ください。
なお、薬物療法中やそのあとは、膣分泌物や精液に薬の成分が含まれることがあるため、パートナーが薬の影響を受けないように、コンドームを使いましょう。また、薬は胎児に影響を及ぼすため、治療中や治療終了後一定期間は避妊しましょう。なお、経口避妊薬などの特殊なホルモン剤を飲むときは、担当医と相談してください。
2022年11月22日 | 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2021年版」「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版補訂版」より内容を更新しました。 |
2020年01月23日 | 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2019年版」より、内容の更新をしました。 |
2019年07月08日 | 新規に追加された用語へのリンクを追加しました。 |
2018年07月25日 | 「関連情報」を追加しました。 |
2017年08月03日 | 内容の更新に伴い、4タブ形式に変更しました。 |
2014年10月23日 | 掲載内容の更新が不要であることを確認しました。 |
2012年11月02日 | 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2006年10月01日 | 内容を更新しました。 |
1995年11月06日 | 掲載しました。 |
肺がん 臨床試験
より良い標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。
現在行われている標準治療は、より多くの人により良い治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。
肺がんの臨床試験を探す
国内で行われている肺がんの臨床試験が検索できます。
がんの臨床試験を探す チャットで検索
※入力ボックスに「肺がん」と入れて検索を始めてください。チャット形式で検索することができます。
がんの臨床試験を探す カテゴリで検索 肺がん
※国内で行われている肺がんの臨床試験の一覧が出ます。
- 臨床試験への参加を検討したい場合には、担当医にご相談ください。
- がんの種類や状態によっては、臨床試験が見つからないこともあります。また、見つかったとしても、必ず参加できるとは限りません。
肺がん 患者数(がん統計)
1.患者数
年に日本全国で肺がんと診断されたのは例(人)です。
2.生存率
がんの治療成績を示す指標の1つとして、生存率があります。生存率とは、がんと診断されてからある一定の期間経過した時点で生存している割合のことで、通常はパーセンテージ(%)で示します。がんの治療成績を表す指標としては、診断から5年後の数値である5年生存率がよく使われます。
なお、生存率には大きく2つの示し方があります。1つは「実測生存率」といい、死因に関係なくすべての死亡を計算に含めた生存率です。もう1つを「相対生存率」といい、がん以外の死因を除いて、がんのみによる死亡を計算した生存率です。
以下のページに、国立がん研究センターがん対策研究所がん登録センターが公表している院内がん登録から算出された肺がんの生存率を示します。
※データは平均的、かつ確率として推測されるものであるため、すべての人に当てはまる値ではありません。
肺がん 予防・検診
1.発生要因
喫煙は肺がんの危険因子の1つです。喫煙者は非喫煙者と比べて男性で4.4倍、女性では2.8倍肺がんになりやすく、喫煙を始めた年齢が若く、喫煙量が多いほど肺がんになる危険性が高くなります。受動喫煙(周囲に流れるたばこの煙を吸うこと)も肺がんになる危険性を2~3割程度高めるといわれています。喫煙していない人や受動喫煙の影響を受けていない人でも肺がんになることもあります。
喫煙以外では、アスベストなどの有害物質に長期間さらされることや、肺結核、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎なども、肺がんの発生の危険性を高めると報告されています。
※危険因子については、がん情報サービスの発生要因の記載方針に従って、主なものを記載することを原則としています。記載方針については関連情報をご覧ください。
2.予防と検診
1)予防
日本人を対象とした研究では、がん全般の予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスの良い食事、身体活動、適正な体形の維持、感染予防が有効であることが分かっています。
肺がんを予防するために、たばこを吸っている人は禁煙し、吸わない人はたばこの煙を避けて生活しましょう。禁煙を始めてから10年後には、禁煙しなかった場合と比べて肺がんのリスクを約半分に減らせることが分かっています。
2)がん検診
がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。わが国では、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(令和3年一部改正)」でがん検診の方法が定められています。
40歳以上の人は1年に1回、肺がん検診を受けましょう。ほとんどの市区町村では、がん検診の費用の多くを公費で負担しており、一部の自己負担で検診を受けることができます。
がん検診の内容は、問診、胸部X検査と喀痰細胞診(50歳以上で、喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上の人が対象)です※。問診では、喫煙歴、職歴、血痰の有無、妊娠の可能性の有無、過去の検診の受診状況などを確認します。問診のかわりに、質問用紙に記入する場合もあります。
検査の結果が「要精密検査」となった場合は、必ず精密検査を受けましょう。
※厚生労働省の指針では、死亡率の減少効果が確実で、不利益(偶発症、過剰診断、偽陰性・偽陽性)が少ないがん検診だけが推奨されています。現時点で、肺がん検診では、胸部X線検査と喀痰細胞診(50歳以上の重喫煙者のみ)が推奨されています。
なお、がん検診は、症状がない健康な人を対象に行われるものです。症状をもとに受診して行われる検査や、治療後の経過観察で行われる定期検査は、ここでいうがん検診とは異なります。
2022年11月22日 | 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2021年版」「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版補訂版」より内容を更新しました。 |
2020年01月23日 | 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2019年版」より、内容の更新をしました。 |
2019年02月22日 | 「4.組織型分類(がんの組織の状態による分類)」に肺腺がんの記載を追加しました。 |
2018年07月31日 | 「4.組織型分類」から「4.組織型分類(がんの組織の状態による分類)」へタイトルを変更しました。 |
2018年07月25日 | 「6.発生要因」に関連情報を追加しました。 |
2017年08月03日 | 「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2016年版」「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版(2017年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2014年10月23日 | 「6.疫学・統計」を更新しました。 |
2012年11月02日 | 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2006年10月01日 | 内容を更新しました。 |
1995年11月06日 | 掲載しました。 |
肺がん 関連リンク・参考資料
1.肺がんの相談先・病院を探す
2.参考資料
- 日本肺癌学会ウェブサイト.患者さんのための肺がんガイドブック 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2022年版;2022年(閲覧日2023年1月16日)https://www.haigan.gr.jp/
- 日本肺癌学会編.肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2022年版.2022年,金原出版.
- 日本肺癌学会編.臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版補訂版.2021年,金原出版.
- 日本臨床腫瘍学会編.新臨床腫瘍学 改訂第6版.2021年,南江堂.
作成協力
2023年01月26日 | 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2022年版」より内容を更新しました。 |
2022年11月22日 | 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2021年版」「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版補訂版」より内容を更新しました。 |
2021年07月01日 | 「1.肺がんの相談先・病院を探す」を追加しました。 |
2020年01月23日 | 「肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2019年版」より、内容の更新をしました。 |
2019年02月22日 | 「4.組織型分類(がんの組織の状態による分類)」に肺腺がんの記載を追加しました。 |
2018年07月31日 | 「4.組織型分類」から「4.組織型分類(がんの組織の状態による分類)」へタイトルを変更しました。 |
2018年07月25日 | 「6.発生要因」に関連情報を追加しました。 |
2017年08月03日 | 「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2016年版」「臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8版(2017年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2014年10月23日 | 「6.疫学・統計」を更新しました。 |
2012年11月02日 | 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2006年10月01日 | 内容を更新しました。 |
1995年11月06日 | 掲載しました。 |