骨肉腫〈小児〉について
1.骨肉腫とは
骨肉腫は骨に発生する悪性腫瘍(がん)の中で最も頻度の高い代表的ながんです。10歳代の思春期、すなわち中学生や高校生くらいの年齢に発生しやすい病気ですが、約3割は40歳以上で発生します。日本国内でこの病気にかかる人は1年間に200人くらいであり、がんの中では非常にまれな部類に入ります。
患者の約6割は膝の上下部分(大腿骨と脛骨の膝関節側)に腫瘍が発生し、次いで、上腕骨の肩に近い部分、大腿骨の股関節に近い部分など、骨端線と呼ばれる骨が速く成長する部位(骨幹端部)に発生します(図1)。腫瘍が大きくなるにつれて発生した骨が破壊されますが、腫瘍自体が骨を作ることが特徴です。
肉腫は血液の流れで運ばれて転移することが多く、骨肉腫が最も多く転移する先は肺です。診断時にすでに肺転移があっても、術前の薬物療法と肺の転移巣を手術で切除することにより、20~30%の症例では治癒が期待できます。
肺の次に多いのは同じ骨の中や、別の骨への転移です。別の骨への遠隔転移、あるいは広範囲にわたる肺転移巣がある場合には効果的な治療は難しいと考えられています。
2.腫瘍組織の性質(悪性度)
骨肉腫の多くは骨の内部から発生する悪性度(グレード)の高い腫瘍ですが、同様の腫瘍が骨の表面や骨以外の臓器に発生する場合があります。
また、まれですが、比較的悪性度の低い骨肉腫として、骨内部に発生する骨内型低悪性度骨肉腫、骨表面に発生する傍骨性骨肉腫や骨膜性骨肉腫も知られています。
3.症状
骨肉腫は、発生した部位の痛みと腫れが最初の症状です。一部の患者では腫瘍が発生した骨の骨折(病的骨折)が生じる場合もあります。また、まれですが、骨盤や背骨に発生した場合は、表面から腫れが分かりにくいため、診断がつくまでに大きくなっていたり、麻痺が出るまで気がつかなかったりすることもあります。
いずれにしても、痛みがずっと続く場合には要注意です。我慢しないで、専門医(整形外科、小児科)の診察を受けましょう。
4.発生要因
骨肉腫の腫瘍細胞にはがん抑制遺伝子の一種である網膜芽細胞腫遺伝子(RB1遺伝子)やTP53遺伝子の変異が確認されます。多くの患者においては腫瘍が発生した遺伝的背景は明らかではありませんが、網膜芽細胞腫に罹患した患者の二次がんとしての骨肉腫や、TP53遺伝子変異が原因の遺伝性腫瘍であるLi-Fraumeni症候群(LFS: Li-Fraumeni syndrome)の患者での発生が知られています。その他、放射線治療後、骨梗塞(骨壊死)や線維性骨異形成(正常な骨が線維組織や異常な骨組織によって置き換わってしまう疾患)等の良性骨病変からの二次がんとして発生することもあります。
骨肉腫〈小児〉 検査
骨肉腫が疑われた場合には、血液検査とともに、X線検査やCT検査、MRI検査などで画像診断を行い、どこにどれくらいの大きさの腫瘍があるかを確認します。これに加え、生検により腫瘍細胞の種類を調べます。適切な治療を行うためには正確な診断が必要であるため、経験の多い医療機関を受診することが大切です。
1.画像診断
診断には主にX線検査(レントゲン検査)が⾏われます。⾻⾁腫では、膝や肩の関節に近い部分の⾻が⾍に食べられたように壊されていたり、それに混じっていびつな形の⾻ができていたりします。例えば、図2では、{ 記号で示した範囲が腫瘍のある部位を示し、壊れているところは⿊っぽく、⾻ができているところは白く⾒えます。これは通常型と呼ばれる⾼悪性度のもので、⼩児に発⽣する⾻⾁腫の⼤部分はこの通常型に該当します。まれに薬物療法を必要としない低悪性度の⾻⾁腫もありますが、この場合、多くは⾻の表⾯に見られます。
骨肉腫では腫瘍が骨からしみ出して骨の外側にもかたまりを作ることが特徴です。しかし、この部分はX線検査で見えにくいため、CT検査やMRI検査(図3)などでその広がりを調べます。また、肺に転移があるかどうかを調べるためにCT検査を行い、別の骨に転移があるかどうかを調べるために放射性同位元素を⽤いる骨シンチグラフィ検査を行います。
2.血液検査
骨の腫瘍では血液検査をしても特別な異常は見られないことが多いですが、骨肉腫ではアルカリホスファターゼ(ALP)という酵素の値が高くなっていることがあります。骨の成長が速い小児では、もともとALP値は高いですが、治療効果や再発などの変化を反映する場合があります。
3.病理検査
確定診断は病理組織検査で⾏います。腫瘍の一部を、針や小手術で採取し(針生検、切開生検)、顕微鏡で診断(病理診断)します。患者には負担のかかる検査ですが、診断を確定するための大事な検査です。
骨肉腫〈小児〉 治療
骨肉腫の治療は、手術(外科治療)と薬物療法が基本になります。
1.病期(ステージ)と治療の選択
骨肉腫においては、表1に示すような分類がよく用いられます。骨肉腫は発見されたときにはすでに、病期ⅡBまで進んでいる場合が多くあります。転移があると病期ⅢになりⅡBに比べて治りにくくなります。したがって、転移の有無を調べることが重要です。
手術の方法は、患者の年齢、腫瘍の性質や大きさ、場所によって異なりますが、患者やご家族の希望なども含めて検討し、担当医と共に決めていきます。
2.手術(外科治療)
手術の原則は、腫瘍が露出しないように周囲の健康な組織で包むように一塊として取ることであり、これを広範切除といいます。手足に栄養を送る重要な血管や、手足を動かす神経を残すことができれば、手足を残す患肢温存手術が可能であり、切断しなくてもすみます。手術のために欠損した骨の部分には人工関節を入れたり、いったん切除した後、がんを殺す処理を施した骨(処理骨)を、もとの位置に移植したりして再建をします(再建手術)。自分の骨を別の部分から取ってきて移植することもあります。
骨肉腫は骨の端にある成長するために必要な骨端線(骨の細胞が密集している柔らかい骨の部分)のすぐそばにできるため、⼿術の際にここを残すことはほとんど不可能です。特に10歳以下の、まだこれから身長が大幅に伸びる時期の子どもの場合には、膝の近くの骨端線を取ってしまうと、成⻑が終わる頃には病気がない⽅の⾜に比べて10cm以上も短くなり、日常生活に支障を来すことになります。
そのため、大腿で切断をして義足を使うほうが生活しやすいという場合が多くなります。また、回転形成術と呼ばれる、血管・神経以外は病気の部分(骨)を含めて皮膚も筋肉も取ってしまい、残ったすねから下の部分を、前後180°逆さ(足のかかと部分が前を向くよう)にして大腿部に接合する手術があります。こうすることにより義足を付けた場合に前後が逆になった足首が膝の働きをしてくれるようになり、機能的には大腿で切断するよりすぐれたものになります。
しかし、最近は延長することが可能な腫瘍用人工関節や、さまざまな方法で骨を延長させる骨延長術が進歩しているため、10歳以下の子どもに患肢温存を試みることもあります。
3.薬物療法
骨肉腫が手術だけで治療されていた1970年以前は、90%近くが再発していました。しかし現在では、手術前後に薬物療法を行うことで再発率を下げ、治癒率を上げることができます。
したがって、通常2カ月から3カ月にわたる薬物療法の後に手術を行い、腫瘍の広範切除と骨再建を行った後、さらに数カ月薬物療法を追加することが、標準的な治療となっています。
使われる薬は、メトトレキサート、シスプラチン、アドリアマイシンの3つが基本で、イホスファミドを加えることもあります。その他の薬が骨肉腫の治癒率向上に役立つかどうかはまだ研究中です。欧米でも日本と同様であり、基本的な薬の種類は同じです。
副作用は吐き気、嘔吐や、それに続くだるさ、口内炎、白血球減少とそれに伴う感染症などが報告されています。また、シスプラチンでは腎障害や聴力障害、アドリアマイシンでは心臓障害のおそれがあるため、それらの検査は定期的に行う必要があります。
シスプラチンとイホスファミドは妊孕性に影響することがあります。特に男性不妊を引き起こすことがありますので、思春期以降の男児には治療開始前に精子の凍結保存について説明することが一般的になっています。
4.放射線治療
骨肉腫は放射線を⽤いた治療が効きにくい腫瘍のため、放射線治療はほとんど⾏われません。しかし、腫瘍の大きさや生じた場所の問題から安全な広範切除が難しい場合や、再建が難しい患肢温存術を行う場合に、手術前あるいは手術後の補助的な治療として行うことがあります。また、脊椎や骨盤の発生で広範切除が困難な場合に、粒子線治療(陽子や重粒子(炭素イオン)などの粒子放射線のビームを病巣に照射する放射線治療法の総称)を行うこともあります。
5.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、学校のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。
子どもの素晴らしい点は、適応能力がすぐれていることです。周りの人が障害を理解できれば、子どもは障害を克服する、すぐれた資質をもっています。
本人にしか分からないつらさもありますが、幼い子どもの場合、自分で症状を表現することが難しいこともあります。そのため、周りの人が本人の様子をよく観察したり、声に耳を傾けたりすることが大切です。気になることがあれば積極的に医療者(医師、看護師、薬剤師、理学療法士など)へ伝えましょう。
6.再発した場合の治療
治療が終わって検査でがんがなくなったことを確認した後に、原発巣、または体の別の部位に再発することがあります。治療法は再発の部位、以前に⾏われた治療、またそのほかの要素により異なります。
肺にだけ少数の転移巣が生じている場合、治療法は外科的切除術が基本となります。切除が困難な肺への多数の転移や肺以外の別の部位にも再発している場合は、薬物療法が主に⾏われます。
治療後すぐに再発した場合の治療は難しいですが、1年から2年⽬以降の再発に関しては、治癒する可能性もあります。
骨肉腫〈小児〉 療養
がんの子どもの心や体のケア、家族へのケア、周りの方ができること、制度やサービス、入院治療後の生活、長期フォローアップなどの情報を掲載しています。併せてご活用ください。
1.入院治療中の療養
子どもにとっての入院生活は、検査や治療に向き合う療養生活に加え、発達を促すための遊びや学びの場でもあります。医師、看護師、保育士、療養支援の専門職(チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)、ホスピタル・プレイ・スペシャリスト(HPS)、子ども療養支援士など)、薬剤師、管理栄養士、理学療法士やソーシャルワーカー、各専門チーム、院内学級の教員などが連携し、多方面から患者とご家族を支援していきます。
また、きょうだいがいる場合には、保護者が患者に付き添う時間がどうしても多くなるため、きょうだいの精神的なサポートも重要になります。
入院中のさまざまな不安が軽減できるよう、抱え込まずに、多方面と効果的にコミュニケーションを取ることが大切です。
骨肉腫の入院治療は断続的に長期間に及ぶことが一般的です。そのため、学童・学生の患者の場合は入院中も体調に合わせた学習が必要になります。院内学級や教師の訪問教育、リモートによる授業への参加により、治療終了後にスムーズにもとの生活に戻れるような配慮が行われています。
医療費のことも含めさまざまな支援制度が整っています。「どこに相談したらいいのか分からない」というときには、まずは「がん相談支援センター」に相談することから始めましょう。また、各医療機関の相談窓口、ソーシャルワーカー、各自治体の相談窓口に尋ねてみることもできます。
2.日常生活について
退院して間もなくは、入院生活と治療の影響により体力や筋力が低下しているので、あせらずゆっくりと日常生活に慣れていくことが大切です。
また、経過観察中は感染を防御する力が十分には回復していないこともあるため、近くでみずぼうそうや、はしかなどの特別な感染症が流行した場合は、対応について担当医にご相談ください。
食欲が低下して食事内容が偏る場合がありますので、栄養のバランスを考慮した食事を心がけるようにしましょう。
就園・就学や復学については、子どもの状態や受け入れ側の態勢によって状況が異なります。担当医やソーシャルワーカーと、時期や今後のスケジュール、さらに、活用できる社会的サポートについてよく話し合いながら進めていくことが大切です。
学校生活では子どもの様子を見ながら、担任の先生や養護教諭などと相談し、できることから徐々に慣らしていきましょう。
紫外線による健康影響が懸念される過度の日焼けや疲れが残る強度の運動は避ける必要がありますが、できるだけ普段の生活リズムに沿った日常生活を送りましょう。
3.経過観察
手術後の四肢(手足)の機能状態や骨再建後の状態、薬物療法後の体調確認のため、また、再発の有無などの診察のために定期的な通院が必要です。
原発部位のX線検査や、肺転移が起こっていないか調べるために胸部CT検査や胸部X線検査などが⾏われます。
患肢温存手術後は、運動機能の回復のために集中的なリハビリテーションが必要になります。また、患肢の切断または回転形成術後は日常生活をできるだけ早期に再開するために、義肢の作成とそのフィッティング、歩行訓練が大切です。
4.晩期合併症/長期フォローアップ
晩期合併症は治療後しばらくしてから起こる問題のことです。疾患そのものの影響よりも、薬物療法、放射線治療、手術、輸血などの治療が原因となっていることが多く、患者やご家族が、将来どのような晩期合併症が起こる可能性があるのかを知っておくことはとても大切です。
どのような晩期合併症が出やすいかは、病気の種類、受けた治療、その年齢により異なります。その程度も軽いものから重いものまであり、時期についても数年後から数十年後に発⽣するなどさまざまです。
アントラサイクリン系薬剤の心筋への障害、シスプラチンとイホスファミドによる腎機能障害、シスプラチンによる聴力障害など、薬物療法による晩期合併症は、長期間にわたる注意深い経過観察が必要です。腫瘍が⼤きく十分な切除ができなかった場合、患肢温存術の前後に放射線照射を行うことがありますが、その場合、放射線治療の副作用として、皮膚・筋肉の壊死や、関節が動きにくくなる拘縮といった状態などが発生することがあります。放射線の照射を行う時期と量によっては、軟骨の障害による患肢の成長障害などが起こる可能性もあります。
妊孕性の低下も晩期合併症の主たるものです。現時点で妊孕性を保つための支持療法は開発されていませんので、治療開始前の対応が大切です。近年、卵子や精子、受精卵を凍結保存する「妊孕性温存治療」という選択肢も加わってきました。妊孕性温存治療ができるかどうかについて、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
晩期合併症に適切に対処するためには、長期にわたる定期的な診察と検査による長期間のフォローアップが必要となります。また、治療の記録(薬物療法で使用した薬剤の名前や量、放射線治療の部位や量など)を残していくことも重要です。転居や結婚などにより生活環境や通院する医療機関が変わったときにも継続していきましょう。
子どもは治療後も成長を続けていくため、発達段階に応じた、幅広いフォローアップケアが重要です。治療後は一人一人の患者に合わせて、いつ・どこで・どのようにフォローアップケアを行うかといった、長期フォローアップの方針を決めていきます。
治療部位以外でも体のことについて気になることがあれば、担当医に相談しましょう。
骨肉腫〈小児〉 臨床試験
より良い標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。
現在行われている標準治療は、より多くの人により良い治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。
骨肉腫〈小児〉の臨床試験を探す
国内で行われている骨肉腫〈小児〉の臨床試験が検索できます。
がんの臨床試験を探す チャットで検索
※入力ボックスに「骨肉腫」と入れて検索を始めてください。チャット形式で検索することができます。
がんの臨床試験を探す カテゴリで検索 小児の固形がん
※「カテゴリで検索」では、広い範囲で検索します。そのため、お探しのがんの種類以外の検索結果が表示されることがあります。
臨床試験への参加を検討する際は、以下の点にご留意ください
- 臨床試験への参加を検討したい場合には、担当医にご相談ください。
- がんの種類や状態によっては、臨床試験が見つからないこともあります。また、見つかったとしても、必ず参加できるとは限りません。
骨肉腫〈小児〉 患者数(がん統計)
1.患者数
骨肉種は多くは10歳台に発生し、10歳台後半に最も多く見られます。性差は約1.5:1で男性にやや多く、国内では、毎年200人くらいが骨肉腫を発症しています。
2.生存率
小児がんの生存率に関する情報です。
骨肉腫〈小児〉 関連リンク・参考資料
1.骨肉腫〈小児〉の相談先・病院を探す
2.参考資料
- 日本小児血液・がん学会編.小児がん診療ガイドライン 2016年版.2016年,金原出版.
- 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会・原発性悪性骨腫瘍診療ガイドライン策定委員会編.原発性悪性骨腫瘍診療ガイドライン2022.2022年,南江堂.
- JCCG長期フォローアップ委員会長期フォローアップガイドライン作成ワーキンググループ編.小児がん治療後の長期フォローアップガイド.2021年,クリニコ出版.
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