横紋筋肉腫〈小児〉について
1.横紋筋について
筋肉は、横紋筋と平滑筋の2つの種類に分けられます。横紋筋は、さらに、骨格筋と心筋に分けられます(図1)。
骨格筋は、骨と骨をつないで体を動かすことを主な働きとする筋肉で、自分の意思で動かすことができます(随意筋)。
心筋は、心臓を動かすことを主な働きとする筋肉で、自分の意思で動かすことはできません(不随意筋)。
一方、平滑筋は消化管や気道などの内臓や血管を構成する筋肉で、心筋と同様に自分の意思で動かすことはできません(不随意筋)。消化管では、平滑筋が伸びたり縮んだりすることで、内容物(食べ物)を先へ送るぜん動運動を行っています。
横紋筋は、細長い繊維状の細胞(筋線維)が集まって構成されており、その名の通り、横じまの模様が見られます(図2)。
2.横紋筋肉腫とは
横紋筋肉腫は、筋肉などの軟らかい組織(軟部組織)から発生する軟部肉腫(悪性軟部腫瘍)の1つで、骨格筋(横紋筋の1つで、骨に付着し、自分の意志で動かせる筋肉のこと)になるはずの細胞から発生する悪性腫瘍(がん)です。小児の悪性軟部腫瘍の中では最も多く見られます。
横紋筋肉腫は、実際には病名に使用されている「横紋筋」(骨格筋)だけではなく、全身のあらゆる部位に発生します。
特に、
- 「泌尿器や生殖器」膀胱、前立腺、傍精巣(精巣の周囲)、子宮、腟など
- 「頭頸部」傍髄膜(鼻の奥:脳を下から支える頭蓋底に隣接する部位で鼻咽頭、鼻腔、副鼻腔、中耳など)や眼窩(目の奥:眼球が入っている骨のくぼみ)を含む
- 「四肢」上肢:腕と手、下肢:脚と足
によく見られます(図3)。
原発部位が四肢の場合、その周囲のリンパ節(領域リンパ節)や遠隔の臓器への転移が多いとされています。
3.症状
症状は、腫瘍が発生した部位によって異なります。一般的には、腫瘍が発生した部位の腫れや痛みがみられます。また、腫瘍が周囲の組織や臓器を圧迫することで、眼球の突出、鼻血、頭痛、血尿、排尿障害、便秘、腹痛など、さまざまな症状があらわれることがあります。
横紋筋肉腫を含め、⼩児がんの症状に特有のものはほとんどありません。長く続く、徐々に悪くなるなど気になる症状がみられる場合は、早めに小児科を受診することが大切です。
4.発生要因
小児がんの多くは、なぜ発生するのかという根本的な原因が分かっていません。生まれつきの体質(遺伝的な要因)が関わっていることもありますが、非常にまれです。もし遺伝的な要因が関わっていると分かった場合は、一人ひとりの体質に合わせた治療や健康管理を丁寧に行っていきます。
小児の横紋筋肉腫の発生要因も、多くの場合、明らかになっていません。近年の研究により、一部の横紋筋肉腫の発生に、ある特定の遺伝子の変化が関与していることが分かってきました。例えば、本来は別々にあるPAX3とFOXO1という遺伝子が何らかの理由で結びついてしまったPAX3::FOXO1融合遺伝子が見つかることがあります。ただし、このような遺伝子の変化がなぜ起こるのかは、まだよく分かっていません。大半のケースでは生活環境などの明らかな原因(リスク要因)はなく、親から受け継いだものではない「遺伝子の変化」が偶然重なって発生すると考えられています。
5.予防・検診
小児がんの根本的な原因や予防法は今のところはっきり分かっていません。小児の横紋筋肉腫についても、親からの遺伝や生活環境などの特定の原因が影響して発生する可能性は低いと考えられています。そのため、日常生活の中で注意して予防する方法は現在のところありません。
また、国が推奨する小児がんに特化したがん検診はありません。症状が出てから検査を受けて見つかる場合がほとんどです。
| 2026年10月14日 | 「小児がん(血液腫瘍・固形腫瘍)診療ガイドライン 2026年版」より、内容を更新しました。 |
| 2022年10月18日 | 専門家による確認の上、内容を更新しました。 |
| 2019年07月22日 | 新規に追加された用語へのリンクを追加しました。 |
| 2019年06月20日 | タイトルを変更し、本文に「軟部肉腫〈成人〉」へのリンクを追加しました。 |
| 2018年06月21日 | 「小児がん診療ガイドライン 2016年版」より、内容の更新をしました。 4タブ形式に変更し、でんし冊子PDFを追加しました。 |
| 2014年04月22日 | 2013年7月発行の冊子とがん情報サービスの情報を再編集し、掲載しました。 |
横紋筋肉腫〈小児〉 検査
横紋筋肉腫が疑われた場合、まず、血液検査、尿検査、画像検査、骨髄検査などで全身を調べます。
また、傍髄膜(鼻咽頭、鼻腔、副鼻腔、中耳など、頭の骨の底にあたる頭蓋底に隣接する部位)に腫瘍があることが疑われる場合には、髄液検査も行います。
これらの検査結果に基づいて、どこにどれくらいの大きさの腫瘍があるかを確認し、治療前ステージ(病期)分類を行います。その後、手術による腫瘍切除(または生検)で採取した腫瘍細胞を顕微鏡で調べる病理検査を行って、横紋筋肉腫かどうかを診断します。
1.画像検査
腫瘍の場所や大きさ、広がりなどを確認するためにCT検査、MRI検査、超音波(エコー)検査、PET-CT検査、骨シンチグラフィなどの画像検査(画像診断)を行います。
中でも、PET-CT検査は、腫瘍の活動状態(腫瘍が活発かどうか)を調べることができ、転移している場所を知るのに有用です。そのため、治療を開始する前のステージ(病期)の診断のために実施することもあります。
2.骨髄穿刺検査
骨髄は血液をつくる組織で、全身の骨の中にあります。骨髄穿刺検査(骨髄検査)は、治療を始める前に行う検査です。通常はうつ伏せや横向きの状態で、腰の骨に専用の針を刺し、骨髄液を注射器で吸引して採取します。採取した骨髄液は顕微鏡で詳しく調べ、腫瘍細胞の有無などを確認します。針を刺すときや骨髄液を吸い取るときに痛みを伴うため、事前に局所麻酔を行います。また、小児の場合は、必要に応じて全身麻酔あるいは鎮静薬を使用し、苦痛や不安を和らげながら検査を行います。
3.病理検査(生検)
腫瘍の一部分を切り取って、顕微鏡で詳しく調べる検査を「生検」といいます。
生検は、原則として治療を始める前に行いますが、1回の手術で腫瘍をすべて取りきれるような場合は、手術後の組織を用いて検査を行います。
生検では、病理医と呼ばれる専門の医師が組織や細胞の性質を詳しく調べます(病理検査)。これにより、腫瘍が悪性か良性か、また、がんの悪性度(治りにくさ)や詳しい種類を診断します。一部の横紋筋肉腫では、腫瘍組織に特徴的にみられる遺伝子の変化を調べて診断を確定することもあります。
また、腫瘍の周囲や、遠くのリンパ節への転移を調べるために、リンパ節の組織を採取することもあります。
採取の方法は、皮膚を少し切り開いて1cm角程度の腫瘍組織を直接採取する開放生検が一般的です。ただし、体への負担や安全性を考えて、少し太めの針を刺して組織を採取する針生検(コア針生検)を行うこともあります。いずれの方法でも、その後の治療に影響が出ないよう、組織を採取する場所や針を刺す位置などを慎重に検討して行います。
4.腫瘍マーカー検査
横紋筋肉腫では、現在のところ、診断や治療効果の判定に使用できるような特定の腫瘍マーカーはありません。
横紋筋肉腫〈小児〉 治療
横紋筋肉腫の治療は、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法などがあります。これらの治療を、がんの広がりや発生した部位などに応じて組み合わせて行います。また、診断されたときから、がんに伴う心と体のつらさなどを和らげるための緩和ケア/支持療法を受けることができます。
子どものがんの治療は、大人のがんとは異なる場合もあります。小児がんと診断された場合は、小児がんの医療を専門的に行っている病院(例えば小児がん拠点病院、小児がん連携病院など)で治療を受けるようにしましょう。できれば子どもの成長・発達に配慮した設備、医療者などの環境が整っている病院がよいでしょう。
1.病期・リスク分類と治療の選択
治療法は、がんの進行の程度を示す病期(ステージ)やがんの性質、体の状態などに基づいて検討します。横紋筋肉腫では、まず画像検査などの結果に基づいて「治療前ステージ分類」を行い、最初の手術または生検を実施します。その後、病理診断の結果から「手術後グループ分類」を行い、これらを組み合わせた「リスク分類」に基づいて、最適な治療法を決めていきます。
1)治療前ステージ分類
治療前ステージ分類(病期分類)とは、腫瘍の進行の程度を表す基準です。画像検査などで得られた結果をもとに、最初の手術または生検の前に分類します。
横紋筋肉腫では、腫瘍が発生した部位によって、予後(病期や治療の経過に関する見通し)に差があることが分かっています。そのため、治療前ステージ分類では、腫瘍の発生部位や大きさ、領域リンパ節や遠隔転移の有無を組み合わせて、進行の程度が低いものから順に1~4のステージに分類します(米国小児がん研究グループ(COG)によるTNMステージ分類)(図4)。
2)手術後グループ分類
治療前ステージ分類の後に最初の手術または生検を行い、採取した組織を用いて病理診断(病理検査)を行います。横紋筋肉腫では、まず、胎児型(比較的治りやすい)と胞巣型(比較的治りにくい)の2つの組織型に大きく分類します(その他のまれな組織型もあります)。必要に応じて遺伝子検査も行います。
そして、いずれの場合も、手術で腫瘍がどこまで取りきれたかによって、グループⅠからグループⅣに分類します(米国小児がん研究グループ(COG)によるグループ分類)(表1)。
3)リスク分類
横紋筋肉腫の「リスク分類」は、「治療前ステージ分類」と「手術後グループ分類」の2つの結果を組み合わせて行います。世界で共通した1つの分類方法はなく、国や研究グループによって違いがあります。ここでは、日本小児がん研究グループ(JCCG)横紋筋肉腫委員会(JRSG)が用いている「リスク分類」を示します(JRS-Ⅱリスク分類)(表2)。
この方法では、「治療前ステージ分類」と「手術後グループ分類」の組み合わせによって、4つのリスク群(低リスクA、低リスクB、中間リスク、高リスク)に分けています。なお、リスク分類は、病理診断で調べた2つの組織型(胎児型と胞巣型)ごとに異なる基準を使います。
4)治療の選択
治療法は、リスク分類に基づいて、薬物療法の1つである化学療法の種類、放射線治療、手術などについて検討します(表2、図5)。生活環境、年齢を含めた体の状態などを考慮しながら、子ども本人の希望や意思を尊重し、担当医とよく話し合って決めていきます。
治療は、腫瘍が発生した場所に応じて、さまざまな診療科の医師がチームを組んで行います。例えば、頭頸部・鼻腔・喉頭であれば耳鼻咽喉科、四肢であれば整形外科の医師が治療に加わります。その他、部位によって、小児外科、泌尿器科、婦人科、形成外科、皮膚科、脳神経外科などさまざまな専門医が関与し、治療をサポートします。
なお、担当医から複数の治療法を提案され、選択を求められることもあります。治療を選ぶにあたって分からないことは、まず担当医に確認することが大切です。治療の選択に関する悩みや困りごとは、がん相談支援センターで相談することもできます。
妊孕性温存(妊娠するための力を保つこと)について
がんの治療が、将来の妊娠や出産に影響することがあります。近年、卵子や精子、受精卵、卵巣や精巣などの組織を凍結保存する「妊孕性温存療法」という選択肢も加わってきました。ただし、年齢や発達の状況によって利用できる方法は異なり、乳幼児などでは選択肢が限られる場合があります。まずは治療を開始する前に、妊孕性温存ができるかどうか、担当医に相談してみましょう。
2.手術(外科治療)
横紋筋肉腫における最初の外科的な処置方法には、腫瘍を切除する「手術」と組織の一部を採取する「生検」があります。
1回の手術で腫瘍が完全に切除でき、体の機能や外見などへの影響が小さい場合には、手術を行います(これを一期的手術といいます)。
一方、腫瘍が大きく手術による体への影響が大きいと思われる場合や、腫瘍の摘出が難しい眼窩(目の奥)や傍髄膜(鼻の奥)、腟、胆道、傍脊椎(背骨の周囲)などの部位では、まず生検を行います。
その後、薬物療法(化学療法)などによって腫瘍が小さくなれば、適切なタイミングまで待って、腫瘍をできるだけ切除する手術を行うことがあります(これを二期的手術といいます)。ただし、追加の手術によって体の機能や外見に大きく影響する可能性がある場合は、無理に手術を行うことはありません。
また、リンパ節への転移が疑われる場合は、その有無によって治療方針に関わってくるため、リンパ節の生検(リンパ節生検)や切除(リンパ節郭清)も検討します。
他の臓器への遠隔転移がある場合は、転移の部位や数、大きさなどを慎重に確認します。そのうえで、転移した腫瘍の切除が可能な場合は手術を行うことがあります。
1)部位別の手術方法
(1)頭頸部
頭頸部(脳と目、首の骨(頸椎)を除く首から上のすべての部分)に腫瘍ができた場合、最初の手術で腫瘍を広範囲に切除するのは難しいことが多いため、まずは生検を行います。その後、可能であれば、薬物療法や放射線治療などで腫瘍を小さくした後、手術を行って腫瘍を切除します。
また、眼窩(目の奥)に腫瘍ができた場合は、予後(治療の見通し)がよいことが多いため、眼球を温存する(目を残す)ことを第一に考えます。まずは生検を行って、一人ひとりの状況に合わせた治療を検討します。
(2)四肢
四肢(手足を含む両腕と両脚)に腫瘍ができた場合は、リンパ節や離れた別の部位に転移しやすい特徴があるため、腫瘍の周りを広い範囲で切除しなければならないことがあります。手術の際は、できる限り四肢の機能を温存する(残す)ように考慮します。
(3)膀胱・前立腺・傍精巣
膀胱や前立腺、傍精巣(精巣の周囲)などに腫瘍ができた場合は、排尿機能や性機能(子どもをつくる能力に関わる機能)をできるだけ残せるように努めながら、慎重に手術を行います。
(4)子宮・腟
子宮や腟に腫瘍ができた場合は、できるだけ妊孕性(妊娠するための力)を温存するように考慮します。一人ひとりの状況に合わせて、手術だけでなく、手術と放射線治療や薬物療法との組み合わせも考えながら、よりよい方法を検討します。
2)化学療法前腫瘍再切除(PRE:Pretreatment Re-Excision)
初回の手術/生検の後に、腫瘍が残っている場合、それらの切除(手術)により体の機能や外見などへの影響が小さいと判断されるときは、薬物療法(化学療法)や放射線治療を始める前に、可能な限り、腫瘍を切除します。これを、化学療法前腫瘍再切除といいます。
完全に切除できた場合には、手術後グループ分類がより軽いものへと変更になるため、治る確率が高まります。また、その後の治療内容も変わって、体への負担を小さくすることができます。この治療法は、四肢、体幹、傍精巣に発生した腫瘍に適しています。
3)手術後の合併症とサポート
横紋筋肉腫は、全身のあらゆる部位に発生することから、腫瘍のできた場所によっては、臓器の機能や外見などに影響が出る場合があります。
そのため、治療の経過を見ながら、必要に応じて、関連する診療科(例えば、形成外科や口腔外科、整形外科、泌尿器科、産婦人科など)とも連携し、以下のようなサポートを行います。
- 手術部位の機能回復のためのリハビリテーション
- アピアランスケア(外見の変化に伴う苦痛を和らげるケア)
利用可能な制度や社会的サポートに関する情報については、担当医やがん相談支援センターにご相談ください。
3.放射線治療
放射線治療を行うかどうかは、腫瘍のタイプ(組織型)や、最初の手術/生検(組織をとって調べる検査)の後に腫瘍が残っているかによって決まります。
胎児型では、初回の手術/生検の後に顕微鏡もしくは肉眼で見て腫瘍が残っていると判断される場合に、放射線治療を行います。
胞巣型では、傍精巣あるいは四肢にできた腫瘍を切除する手術/生検の後に腫瘍が残っていない場合を除いて、原則としてすべての場合に放射線治療を行います。
また、他の臓器などへの転移がある場合は、転移巣(最初に発生したがんから転移してできたがんの病巣)に対しても放射線治療を行うことがあります。
なお、放射線治療は、がんの治療だけでなく、腫瘍が神経を圧迫することで生じる局所症状(痛みや麻痺、しびれなど)を緩和するのにも有効です。
1)頭頸部への放射線治療
鼻の奥(傍髄膜)にできたグループⅢの腫瘍で、頭蓋内に腫瘍が広がっている場合には、薬物療法と同時に放射線治療を開始します。
また、腫瘍が神経を圧迫し、視力の消失など身体機能が障害される危険性があるときには、機能を守るために緊急で放射線治療を行うことがあります。
2)放射線治療による合併症
放射線治療は、局所にある腫瘍を治療する方法として重要な役割を果たす一方、副作用(治療に必要な効果以外の作用)を伴います。副作用には、放射線治療中または終了直後に起こる急性期合併症(皮膚炎、粘膜障害など)と、終了してから半年から数年以上たった後に起こる晩期合併症があります。特に成長の途中にある小児では、成長の妨げ(成長障害)や骨の一部がもろくなる骨壊死など骨や筋肉の異常による変形(手足の長さに左右差が出る、筋肉がうまく育たないなど)が起こることがあります。また、将来的に別の種類のがん(二次がん)が発生する可能性もあるため、治療が終わった後も細心の注意が必要です。
近年では、できる限り正常な細胞を傷つけないように、腫瘍だけに放射線を照射する強度変調放射線治療(IMRT:Intensity Modulated Radiation Therapy)や陽子線治療も実施されるようになってきています。これらの治療により、晩期合併症の減少につながることが期待されています。
4.薬物療法(化学療法)
小児横紋筋肉腫の薬物療法は、いくつかの細胞障害性抗がん薬を組み合わせる「化学療法」が中心となります。最も基本となるのは、ビンクリスチン(VCR)、アクチノマイシンD(ACD)、シクロホスファミド(CPA)の3剤を併用するVAC療法と呼ばれる標準治療です。
実際の治療では、リスク群(低リスクA、低リスクB、中間リスク、高リスク)に応じて、薬剤の組み合わせや治療期間を検討します。近年では、将来の妊娠・出産への影響や二次がん(別のがんの発生)などのリスクを減らすために、シクロホスファミド(CPA)の投与量を減らした新しい治療法を試みることもあります。
1)低リスクA群・低リスクB群
低リスクA群では、ビンクリスチン(VCR)とアクチノマイシンD(ACD)の2剤を組み合わせるVA療法や基本のVAC療法などを行います。
低リスクB群でも、 基本のVAC療法を行います。ただし、近年では将来の妊娠・出産への影響を減らす(妊孕性温存)ため、治療効果とのバランスを確認しながら薬の量や組み合わせの調整(CPAの減量や他の薬剤の使用)をすることもあります。
2)中間リスク群
ビンクリスチン(VCR)、アクチノマイシンD(ACD)、シクロホスファミド(CPA)の3剤を組み合わせる基本のVAC療法を検討します。
3)高リスク群
化学療法だけでなく、手術や放射線治療を組み合わせた総合的な治療(集学的治療)を行います。標準治療はまだ確立されていないため、一人ひとりの状況に合わせて最適な治療を検討します。
効果を高めるために、高リスク群に対するさまざまな新しい治療法が検討されています(臨床試験、研究)。その1つに、自家造血幹細胞移植と併せて大量の抗がん薬を使う大量化学療法がありますが、これまでのところ、明らかな有効性は示されていません。また、従来のVAC療法にさらに別の薬剤を組み合わせた薬物療法なども検討されています。
4)副作用について
薬物療法の副作用については、使用する薬剤ごとに異なり、症状のあらわれ方や程度も個人差があります。吐き気や嘔吐などを含めて多くの副作用は一時的なものです。通常は、症状を和らげるための治療(支持療法)を行いながらできるだけ治療を継続します。
例えば、VAC療法では、肝臓の中心静脈の内側が狭くなることで、VAC関連性の肝中心静脈閉塞症/類洞閉塞症候群(SOS/ VOD)が起こることがあります。その結果、肝臓から血液が流れにくくなり、肝臓の腫れや痛み、腹水、体重の増加などの肝機能障害が生じることがあるため、注意が必要です。ただし、適切に対処することにより、多くは短期間で回復します。一方、VAC療法で使う薬剤のシクロホスファミド(CPA)による性腺(精巣・卵巣)機能低下や不妊の副作用には特に注意が必要です。近年は、この将来への影響を減らすために、CPAの投与量を減らした新しい治療法が臨床試験で検討されています。
薬物療法では、子どもの成長や治療後の時間の経過に伴って影響があらわれる副作用(晩期合併症)への注意も必要になります。晩期合併症に適切な対処をするためには、定期的な診察と検査による長期間のフォローアップが重要です。
いつどんな副作用が起こりやすいか、特に気をつけるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医によく確認しておきましょう。また、副作用と思われる症状がみられたときには、迷わずに担当医に伝えましょう。
5.緩和ケア/支持療法
小児がんになると、体や治療のことだけではなく、学校のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体のつらさや社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。
本人にしか分からないつらさもありますが、幼い子どもの場合、つらさを我慢したり、あるいは自分で症状をうまく表現できなかったりすることもあります。そのため、周りの人が本人の様子をよく観察したり、話をよく聞いてあげたりすることが大切です。気になることがあれば積極的に医療者(医師、看護師、薬剤師、理学療法士など)へ伝えましょう。
6.リハビリテーション
リハビリテーションは、がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力を維持・向上させるために行います。また、心と体のさまざまなつらさを和らげる「緩和ケア」の一環としても、非常に重要な役割を持っています。
子どもは、がんやその治療の影響によって日常生活動作(ADL)が低下しやすく、リハビリテーションの強さや回数の調節が難しい面があります。年齢や性格に合わせて遊びの要素を取り入れたり、無理をさせないように配慮したり、工夫しながら進めます。
横紋筋肉腫の場合、全身のあらゆる部位から発生するため、発生した部位によって必要なリハビリテーションが異なります。治療の経過を見ながら、早期に、関連する診療科(例えば、形成外科や口腔外科、整形外科、泌尿器科、産婦人科など)と連携し、一人ひとりに最適なリハビリテーションを行います。
7.再発した場合の治療
再発とは、治療によって、がんがなくなったと判断された後に、再びがんがあらわれることです。原発巣のあった場所やその近くに、がんが再びあらわれることだけでなく、別の臓器で「転移」として見つかることも含めて再発といいます。
横紋筋肉腫の治療成績は向上していますが、再発は低リスク群で10~20%、中間リスク群で20~30%、高リスク群で40~70%に見られます。また、診断後2年以内の再発が多いとされています。
再発した場合には、それぞれの症状や体調、あるいは本人や家族の希望に応じて、治療やケアの方針を決めていきます。
腫瘍が発生した部位にとどまっている場合は、手術や放射線治療などの局所療法を行うことが推奨されています。また、再発後の手術では、肉眼で確認できるよりも広範囲に腫瘍を切除し、完全に腫瘍を取りきることが重要と考えられています。
再発後の薬物療法(化学療法)は確立されていませんが、以前の治療やがんの状態などから、有効性が高いと考えられる薬剤の使用や組み合わせを検討します。
| 2026年10月14日 | 「小児がん(血液腫瘍・固形腫瘍)診療ガイドライン 2026年版」より、内容を更新しました。 |
| 2022年10月18日 | 専門家による確認の上、内容を更新しました。 |
| 2019年07月22日 | 新規に追加された用語へのリンクを追加しました。 |
| 2018年06月21日 | 「小児がん診療ガイドライン 2016年版」「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン 2013年」より、内容を更新しました。 4タブ形式に変更し、でんし冊子PDFを追加しました。 |
| 2016年07月28日 | 「予後(治りやすさ・治りにくさ)」から「臨床試験への参加のお願い」を削除しました。 |
| 2014年04月22日 | 2013年7月発行の冊子とがん情報サービスの情報を再編集し、掲載しました。 |
横紋筋肉腫〈小児〉 療養
本人の心や体のケア、家族へのケア、周りの方ができること、制度やサービス、入院治療後の生活、長期フォローアップなどの情報を関連情報に掲載しています。併せてご活用ください。
1.入院治療中の療養
子どもにとっての入院生活は、検査や治療に向き合う療養生活に加え、発達を促すための遊びや学びの場でもあります。病院では、さまざまな職種が連携し、多方面から子どもと家族を支援していきます。
- 医師、看護師、薬剤師、理学療法士、心理士、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど
- 保育士、療養支援の専門職(チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)、ホスピタル・プレイ・スペシャリスト(HPS)、子ども療養支援士など)、院内学級の教員など
また、入院治療中は、保護者が入院中の子どもに付き添う時間がどうしても多くなります。そのため、きょうだいがいる家庭では、きょうだいの心のケアやサポートも重要になります。
医療費のことも含め、さまざまな支援制度があります。「どこに相談したらいいのか分からない」というときには、まずは小児がん拠点病院などの「がん相談支援センター」に相談することから始めましょう。子ども本人のことに限らず、保護者自身の不調や悩みなどについても相談が可能です。1人で抱え込まずに、周りに頼ること、多方面と効果的にコミュニケーションを取ることが大切です。各医療機関の相談窓口、ソーシャルワーカー、各自治体の相談窓口に尋ねてみることもできます。
2.経過観察
治療後は定期的に通院して検査を受けます。横紋筋肉腫では、診断後2年以内が多いとされる再発や、晩期合併症の早期発見のために、治療終了後も定期的な診察や画像診断などの経過観察が欠かせません。
初発時の治療終了後は、問診、全身診察に加え、原発部位(局所、領域リンパ節)のCT検査やMRI検査、肺転移の有無を確認するための胸部CT検査などを定期的に行います。また、骨転移の有無を確認するために、骨シンチグラフィや全身骨X線検査を行うこともあります。
また、横紋筋肉腫では、治療終了5年後以降の再発はまれであることから、5年後以降は身体所見と血液検査によるフォローアップを中心に行います。
3.日常生活を送る上で
退院して間もなくは、入院生活や治療の影響により体力や筋力が低下しています。あせらずに、少しずつ普段の生活リズムを取り戻していきましょう。
食事
食欲が低下して食事内容が偏ってしまう場合があります。十分な水分摂取とともに栄養のバランスを考慮した食事を心がけるようにしましょう。
運動
強い紫外線による過度の日焼けは避けましょう。特に退院後しばらくは、治療の影響によるバリア機能の低下や、手術の傷跡などにより、皮膚が紫外線の影響を受けやすいことがあるため注意が必要です。また、疲れが翌日に残るような激しい運動は控え、体調を見ながら徐々に普段の活動に戻していきましょう。運動再開の時期や内容は、病気や治療内容、回復状況によって異なるため、担当医に相談してください。
感染予防
受けた治療によりますが、治療後しばらくの間は予防接種を受けられないことがあります。日頃からの感染予防に努めましょう。また、退院してしばらくは感染を防御する力が十分には回復していないこともあります。近くでみずぼうそうや、はしかなどの特別な感染症が流行した場合は、すぐに担当医に連絡し、対応を相談してください。
登園・登校(復園・復学)
園や学校に戻るタイミングについては、子どもの状態によって一人ひとり異なります。時期やこれからのスケジュール、さらに、活用できる社会的サポートなどについては、担当医やソーシャルワーカーとよく話し合いながら進めていくことが大切です。
集団生活が始まったら、子どもの様子を見ながら、担任の先生や養護教諭などと相談し、できることから徐々に慣らしていきましょう。
4.晩期合併症/長期フォローアップ
1)晩期合併症
晩期合併症とは、治療が終わってから長い時間が経過した後に起こる健康上の問題のことです。疾患そのものの影響よりも、薬物療法、放射線治療、手術、輸血などの治療が原因となっていることが多いとされています。本人や家族が、将来どのような晩期合併症が起こる可能性があるのかを知っておくことはとても大切です。
どのような晩期合併症が出やすいかは、病気の種類、受けた治療、治療時の年齢により異なります。その程度も軽いものから重いものまであり、発症する時期も数年後から数十年後までさまざまです。
横紋筋肉腫の治療では、薬物療法で高用量のシクロホスファミド(CPA)やイホスファミド(IFM)を用いることがあり、これらの薬剤の影響を受ける可能性があります。具体的には生殖機能への影響(精巣・卵巣の機能低下や不妊)や二次がん(特に白血病)に注意が必要です。そのほか、腎臓や心臓の働き、ホルモン分泌などに障害があらわれることもあります。そのため、長期にわたって、診察や検査などを行って経過を観察することが重要となります。
また、放射線治療の影響として、照射された部位の発育や成長に障害が生じることがあります。さらに、歯の発育障害、白内障、ホルモン分泌の低下(下垂体機能低下症や性腺機能障害)、二次がんなどにも注意が必要です。特に、永久歯がつくられる時期に頭頸部に放射線治療を受けた場合は、歯の形成異常を起こしやすいため、定期的な歯科受診が推奨されています。
2)長期フォローアップ
晩期合併症に適切に対処するためには、発達段階に応じた、幅広いフォローアップケアが必要となります。治療後は一人ひとりの子どもに合わせて、いつ・どこで・どのような診察や検査を行うかといった、長期フォローアップの方針を決めていきます。
また、治療の記録(薬物療法で使用した薬剤の名前や量、放射線治療の部位や放射線量など)を残していくことも重要です。就学や進学、就職、転居、結婚などにより生活環境や通院する医療機関が変わったときにも継続していきましょう。治療から長い年月がたつと、医療機関側でも過去の治療内容を詳しく確認するのが難しくなることもあります。
治療部位以外でも体のことについて気になることがあれば、担当医に相談しましょう。
横紋筋肉腫〈小児〉 臨床試験
より優れた標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。
現在行われている標準治療は、より多くの人によりよい治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。
横紋筋肉腫〈小児〉の臨床試験を探す
国内で行われている横紋筋肉腫〈小児〉の臨床試験が検索できます。
がんの臨床試験を探す チャットで検索
※入力ボックスに「横紋筋肉腫」と入れて検索を始めてください。チャット形式で検索することができます。
がんの臨床試験を探す カテゴリで検索 小児の固形がん
※「カテゴリで検索」では、広い範囲で検索します。そのため、お探しのがんの種類以外の検索結果が表示されることがあります。
臨床試験への参加を検討する際は、以下の点にご留意ください
- 臨床試験への参加を検討したい場合には、担当医にご相談ください。
- がんの種類や状態によっては、臨床試験が見つからないこともあります。また、見つかったとしても、必ず参加できるとは限りません。
横紋筋肉腫〈小児〉 患者数(がん統計)
1.患者数
横紋筋肉腫は子どもから大人まで発症しますが、年代別では、0歳から9歳までの小児に最も多く見られます(発症年齢は平均5歳)。日本では、毎年50~100人が横紋筋肉腫を発症しています。
2.生存率
小児がんの生存率に関する情報です。横紋筋肉腫は軟部腫瘍の1つとして集計されています。
横紋筋肉腫〈小児〉 関連リンク・参考資料
1.横紋筋肉腫〈小児〉の相談先・病院を探す
小児がんの診療を行う「小児がん拠点病院」や「連携病院」を探すことができます。
2.関連情報
3.参考資料
- 日本小児血液・がん学会編.小児がん(血液腫瘍・固形腫瘍)診療ガイドライン 2026年版.2026年,金原出版.
- JCCG横紋筋肉腫委員会(JRSG)ウェブサイト.横紋筋肉腫のリスク分類(閲覧日:2026年9月1日)http://jrsg.jp/
- JCCG長期フォローアップ委員会長期フォローアップガイドライン作成ワーキンググループ編.小児がん治療後の長期フォローアップガイド.2021年,クリニコ出版.
作成協力
| 2026年10月14日 | 「小児がん(血液腫瘍・固形腫瘍)診療ガイドライン 2026年版」より、内容を更新しました。 |
| 2023年07月26日 | 「2.関連情報」にリンクを追加しました。 |
| 2022年10月18日 | 専門家による確認の上、内容を更新しました。 |
| 2021年07月01日 | 「1.横紋筋肉腫〈小児〉の相談先・病院を探す」を追加しました。 |
| 2019年07月22日 | 新規に追加された用語へのリンクを追加しました。 |
| 2019年06月20日 | タイトルを変更し、本文に「軟部肉腫〈成人〉」へのリンクを追加しました。 |
| 2018年06月21日 | 「小児がん診療ガイドライン 2016年版」より、内容の更新をしました。 4タブ形式に変更し、でんし冊子PDFを追加しました。 |
| 2014年04月22日 | 2013年7月発行の冊子とがん情報サービスの情報を再編集し、掲載しました。 |
一般社団法人くすりの適正使用協議会 くすりのしおり