1.貧血について
貧血とは、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの量が少なくなった状態をいいます。ヘモグロビンは、酸素を全身に運ぶ働きがあるタンパク質です。ヘモグロビンの量が減少して貧血になると、体に酸素が足りない状態となり、動いたときの動悸や息切れ、めまい、ふらつき、倦怠感(疲れやすい、だるい)、頭が重いなどの症状が現れることがあります。
貧血の診断は、血液検査のヘモグロビン値(血色素量)が基準となります。15歳以上の男性では13g/dL未満、15歳以上の女性や6歳~14歳の小児では12g/dL未満、高齢者や6カ月~6歳の小児では11g/dL未満が貧血の基準となります。
2.原因
がんやがんの治療、栄養不足など、さまざまなことが原因で貧血が起こります。
1)がんが直接の原因となる貧血
消化管(胃や腸など)などにできたがんなど、がんからの出血が原因で貧血になることがあります。また、白血病や骨髄異形成症候群、がん細胞の骨髄浸潤(がん細胞が骨髄へ入り込む)などが原因になることもあります。
2)がんの治療による貧血
薬物療法や放射線治療によって、骨髄抑制(骨髄で赤血球などの血液細胞を作る力が低下する)や、薬物療法による溶血(赤血球が通常よりも早く壊れる)が原因となり、貧血になることがあります。
赤血球やヘモグロビンを作るための重要な栄養素として、ビタミンB12や鉄があります。胃がんの手術後は、これらの栄養素を吸収する機能が低下して、貧血になることがあります。胃全摘術など、胃を切除した範囲が大きいほど貧血になりやすいです。このような貧血は、手術から数年後に起こることもあるため、注意が必要です。
3)栄養不足による貧血
がんやがんの治療の影響で食事が十分とれなくなり、赤血球やヘモグロビンを作るタンパク質や鉄分、ビタミン類などが不足しで貧血になることがあります。
3.貧血が起こったときは
がんの治療中には、さまざまなことが原因で貧血が起こることがあります。貧血の対処法は、原因に対する治療と、症状を改善するための輸血があります。
1)貧血の原因を治療する
がんの治療と並行しながら、貧血の原因や程度に応じて鉄剤やビタミン剤を用いた治療を行います。
出血が原因となっている場合は、止血剤を使ったり、内視鏡治療や手術によって止血を試みたりします。溶血が原因となっている場合は、ステロイド薬を使った治療をすることがあります。
がんの治療の影響で重い貧血となっている場合、安全のために貧血が改善するまでがんの治療を中断することがあります。
2)輸血を行う
出血などで急速に貧血が進む場合や、慢性的な貧血により日常生活に支障がある場合は、症状の改善のために輸血を行うことがあります。輸血を行うかどうかは、貧血の原因や自覚症状、ヘモグロビン値などをふまえて、医師が慎重に判断します。輸血以外の方法で治療ができる場合は、その治療を優先します。
4.本人や周りの人ができる工夫
1)めまいやふらつきによる転倒に注意する
めまいやふらつきによって転倒し、骨折などの怪我をすることがあります。薬物療法の影響で血小板減少症が起こっているときは、転倒が大きな出血につながることもあるため、特に注意が必要です。
立ち上がったときや歩いているときに、ふらつきやめまい、意識が遠のくような感覚があるときには、すぐにその場にしゃがみこんで落ち着くまで様子をみましょう。症状の悪化や転倒を防ぐことができます。ふらつきやめまいが落ち着いたあとも、急に立ち上がることは避け、一呼吸おいてゆっくりと立ち上がり、歩き出すようにしましょう。

階段や廊下を歩くときは手すりを使う、外を歩くときは壁側を歩くなど、めまいやふらつきを感じたときにすぐにつかまれるようにするのも、工夫の1つです。

2)自分の血液データと症状を知っておく
貧血がゆっくり進むと、ヘモグロビン値がかなり低くなっても症状が出ないことがあります。反対に、貧血が早く進むと、ヘモグロビン値が大きく低下していなくても貧血の症状が出ることがあります。そのため、自分で感じる症状だけでなく、血液検査のヘモグロビン値も把握しておくとよいでしょう。
自分がどんな状態(血液データ)のときに、どのような症状が現れやすいかを知っておくと、体調の変化に気づきやすくなります。薬物療法中は、薬を投与してから何日目に、どのような症状が現れたかを記録しておくと、同じ治療を繰り返し受けるときに参考になります。

3)タンパク質や鉄分を多く含む食事をとる
ヘモグロビンの材料となるタンパク質や鉄分を豊富に含む食品を摂取し、バランスの取れた食事を心がけましょう。鉄の吸収を高めるビタミンCや、赤血球を作るのに必要なビタミンB12を含む食品、葉酸を含む食品を一緒にとるとよいでしょう。
それぞれの栄養素を多く含む食品
- タンパク質:魚介類や肉、卵、チーズ、ミルク、牛乳、大豆製品など
- 鉄分:肉(レバー)、貝類、卵黄、緑黄色野菜など
- ビタミンC:果物(柑橘類、いちご等)、野菜、イモ類など
- ビタミンB12:肉類(レバー)、魚介類、卵、乳製品など
- 葉酸:肉(レバー)、豆類、緑黄色野菜など
食事やサプリメントの摂取については、担当医に相談しましょう。例えば、定期的に輸血を受けている場合は鉄が過剰になっている場合があるなど、不足している栄養素以外を過剰にとらないよう注意する必要があります。
貧血に対する食事の工夫についての詳細は、関連情報をご参照ください。
4)休息時間を確保する
貧血による倦怠感が強いときは、楽な姿勢でこまめに休息を取りましょう。また、帰宅後、入浴後、食後などは、休息をして次の行動に移りましょう。少しでもリラックスできる時間をつくることは、気分転換にもなり疲労の回復に効果的です。
効果的な休息には、昼夜のリズムも大切です。夜眠れないときは、担当医に相談して睡眠導入剤を処方してもらうことも方法の1つです。
5)体調が許す範囲で体を動かす
手足のストレッチやマッサージなどで緊張感を和らげることは、貧血によって生じる倦怠感を軽くするために効果的といわれています。めまいやふらつきなどの症状が軽くなったら、ウォーキングなどの軽い運動を無理のない範囲で行うのもよいでしょう。運動を始める時期や運動の程度は、担当医とも相談しましょう。
6)周りの人に協力してもらう
貧血の症状で日常生活に支障が出たり、つらさを感じたりする場合は、家族や友人など周りの人に協力を求めましょう。家事などを手伝ってもらったり、歩くときに転ばないよう付き添ってもらったりするとよいでしょう。周りの人は、できる範囲で生活をサポートしながら、めまいやふらつきなどの症状が起こっていないか見守りましょう。
周りの人に協力してもらうことが難しい場合は、生活で工夫できることや、利用できる福祉サービスなどについて、看護師やがん相談支援センターの相談員などに相談してみましょう。
5.こんなときは相談しましょう
立ちくらみ、息切れ、めまいなどの貧血の症状がみられる場合は、具体的な症状を医師や看護師に伝えましょう。
手足がしびれる、手足の知覚が鈍い、便に血液が混じる、月経ではない時期や閉経後に出血がある、嘔吐してしまうなどの症状がある場合も、貧血が起こっている可能性があるため、担当医に症状を伝えましょう。特に、濃い茶色や真っ赤な嘔吐物や、真っ赤または真っ黒な便が出るときは出血量が多く、緊急の対応が必要になることがあります。すぐに担当医に連絡しましょう。
分からないことや不安があるときは、担当医や看護師、薬剤師などの身近な医療者や、がん相談支援センターの相談員などに相談しましょう。

6.参考資料
- 日本がんサポーティブ学会編.がん支持医療テキストブック サポーティブケアとサバイバーシップ.2022年,金原出版.
- 西智弘ほか編.緩和ケアレジデントマニュアル 第2版.2022年,医学書院.
- 日本臨床腫瘍学会編.新臨床腫瘍学 改定第7版.2024年,南江堂.
- 矢崎義雄編.内科学 第11版 [分冊版] .2017年,朝倉書店.
- 厚生労働省.[要約]赤血球濃厚液の適正使用 (閲覧日:2025年2月26日) https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/iyaku/kenketsugo/5tekisei3b01.html
- 勝俣範之編.がん診療スタンダードマニュアル がん薬物療法からサポーティブケアまで.2019,シーニュ.
- American Cancer Societyウェブサイト/.Anemia(Low Red Blood Cell Counts);2024年(閲覧日:2025年2月26日)https://www.cancer.org/cancer/managing-cancer/side-effects/low-blood-counts/anemia.html
- 日本胃癌学会編.患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版,金原出版.
- 厚生労働省ウェブサイト.重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬剤性貧血;2021年4月改定(閲覧日:2025年2月26日)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f05-r03.pdf
- 厚生労働省eJIMウェブサイト.(閲覧日:2025年2月5日)https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/index.html
- National Cancer Institute Anemia and Cancer Treatmentウェブサイト.Anemia: Cancer Treatment Side Effect;2021年(閲覧日:2025年2月26日)https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/side-effects/anemia
- American Society of Hematologyウェブサイト.How I treat cancer-associated anemia;2020年(閲覧日:2025年2月26日)https://ashpublications.org/blood/article/136/7/801/461032/How-I-treat-cancer-associated-anemia
- World Health Organizationウェブサイト.Haemoglobin concentrations for the diagnosis of anaemia and assessment of severity;2011年(閲覧日:2025年2月26日)https://www.who.int/publications/i/item/WHO-NMH-NHD-MNM-11.1
※本ページの情報は、「『がん情報サービス』編集方針」に従って作成しています。
必ずしも参照できる科学的根拠に基づく情報がない場合でも、有用性や安全性などを考慮し、専門家および編集委員会が評価を行っています。
作成協力