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大腸がん

大腸がん(結腸がん・直腸がん) 治療

大腸がんの治療には、内視鏡治療、手術(外科治療)、薬物療法、免疫療法、放射線治療などがあります。また、診断されたときから、がんに伴う心と体のつらさなどを和らげるための緩和ケア/支持療法を受けることができますので、遠慮せずに医療者やがん相談支援センターに相談しましょう。

1.ステージと治療の選択

治療は、がんの進行の程度を示すステージ(病期)やがんの性質、体の状態などに基づいて検討します。

1)ステージ(病期)

がんの進行の程度は、「ステージ(病期)」として分類します。病期は、ローマ数字を使って表記することが一般的で、0期(ステージ0)、Ⅰ期(ステージ1)・Ⅱ期(ステージ2)・Ⅲ期(ステージ3)・Ⅳ期(ステージ4)と進むにつれて、より進行したがんであることを示しています。なお、大腸がんではステージのことを進行度ということもあります。

ステージは、次のTNMの3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決まります(図5、表1)。
Tカテゴリー:原発巣の深達度
Nカテゴリー:領域リンパ節への転移の有無
Mカテゴリー:遠隔転移(がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移)の有無

原発巣とは、原発部位(がんがはじめに発生した部位)にあるがんのことです。

深達度

大腸がんの深達度とは、粘膜に発生したがんが大腸の壁のどの深さまで広がっているかを示す言葉です。深達度は、アルファベットの大文字「T」に数字とアルファベットの小文字をつけて表示します。Tis〜T4bに分類され、数字が大きくなるほどがんが深く広がっていることを示します(図5)。

がんの深さが粘膜下層までにとどまるものを「早期がん」、粘膜下層より深いものを「進行がん」といいます。

図5 大腸がんの深達度
図5 大腸がんの深達度の図
大腸癌研究会編.患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版.2022年,金原出版.より作成
表1 大腸がんのステージ(病期)分類
表1 大腸がんのステージ(病期)分類
大腸癌研究会編.大腸癌取扱い規約 第9版.2018年,金原出版.より作成
がんのステージ(病期)は、検査によって確認します。

2)がんの性質(遺伝子変異など)

大腸がんでは、遺伝子の変異などのがんの性質に対応した治療(薬物療法)を検討することがあります。

3)治療の選択

治療は、がんの進行の程度や遺伝子変異などに応じた標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、担当医と話し合って決めていきます。

図6は0期~Ⅲ期の、図7はⅣ期の大腸がんの標準治療を示したものです。

なお、担当医から複数の治療法を提案されることもあります。治療を選ぶにあたって分からないことは、まず担当医に確認することが大切です。担当医に確認する前に、治療の生活への影響など不安に思うこと、悩みや困りごとなども含め、がん相談支援センターで相談することもできます。

図6 0期~Ⅲ期の大腸がんの治療の選択
図6 0期~Ⅲ期の大腸がんの治療の選択
大腸癌研究会編.大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版.2024年,金原出版.より作成

0期〜Ⅲ期では、まずがんを切除できるかどうかを判断し、切除できる場合には内視鏡治療または手術(外科治療)を行います。また、Ⅲ期もしくは再発リスクが高いⅡ期の場合は、手術の後に薬物療法を行うことがあります(図6)。

図7 Ⅳ期の大腸がんの治療の選択
図7 Ⅳ期の大腸がんの治療の選択
大腸癌研究会編.大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版.2024年,金原出版.より作成

Ⅳ期では、他の臓器に転移したがん(遠隔転移巣)が切除できるかどうかを判断します。遠隔転移巣、原発巣ともに切除可能な場合は、原発巣を切除し、遠隔転移巣の切除を検討します。遠隔転移巣が切除可能であっても原発巣の切除ができない場合は、原則として、薬物療法、放射線治療などの手術以外の治療法を選択します。遠隔転移巣の切除はできないが原発巣の切除は可能な場合で、原発巣による症状があるときなどは、症状や切除の効果を考慮して、原発巣の切除を検討します。

なお、転移しやすい部位は、肝臓や肺、腹膜、卵巣、骨、脳などです。肝転移・肺転移の治療には、手術、薬物療法、放射線治療などがあり、転移した部位が切除可能なときは手術を行うことがあります。また、手術で切除できない場合でも、薬物療法の効果によって切除可能となる場合もあります。骨転移の治療は、主に薬物療法で行います。また、脳転移の治療には、手術と放射線治療があります。

妊孕性にんようせいの温存について

がんの治療が、妊孕性(子どもをつくる力)に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊孕性を温存することが可能かどうかを、治療開始前に担当医に相談してみましょう。

2.内視鏡治療

内視鏡を使って、大腸の内側からがんを切除する方法です。内視鏡治療の適応は、がんがリンパ節に転移している可能性がほとんどなく、技術的に一度で完全に切除できる大きさと部位にある場合です。がんの深さでいうと粘膜下層への広がりが軽度(1mmまで)にとどまっているがんです。

開腹手術と比べて体に対する負担が少なく、かつ、安全に行える治療ですが、出血や腸管穿孔せんこう(腸に穴が開く)が起こる場合もあります。治療のために入院が必要かどうかは、がんの状態や施設によって異なります。

切除した病変は病理検査を行い、組織型(顕微鏡下でのがん組織の見え方によって分類されるがんの種類)やがんの広がりの程度などを確認します。その結果、再発やリンパ節転移の危険性があると分かった場合には、改めて手術による治療が必要になることがあります。

1)切除の方法

切除の方法には、ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)、EMR(内視鏡的粘膜切除術)、ESD(内視鏡的粘膜下層剝離術)があり、病変の大きさや部位、肉眼で見た形(肉眼型)、予測されるがんの広がりの程度などによって治療方法が決まります。

(1)ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)

キノコのような形に盛り上がった、根元に茎やくびれのある病変に対する治療法です。内視鏡の先端からスネアと呼ばれる輪状の細いワイヤを出し、スネアを病変の根元に掛けて切り取る「コールドポリペクトミー」という方法が主に行われています。この方法は、前がん病変と呼ばれる、がんになる前の段階の小さな病変を対象としています。切除が難しい場合には、高周波電流を使用して病変を焼き切ることもあります。

(2)EMR(内視鏡的粘膜切除術)

はっきりした茎やくびれのない病変に対する治療法です。高周波電流を使ってがんを切除します。EMRでは、まず、がんの下の粘膜下層に生理食塩水などを注入してがんを浮き上がらせます。次に、内視鏡の先端からスネアを出し、浮き上がった部分の根元に掛けて、ワイヤを少しずつ絞め、高周波電流を使って焼き切ります。その際、切断した面にがんが残らないように、病変の周囲の正常な粘膜も少し含めて一緒に切除します(図8)。

図8 EMR(内視鏡的粘膜切除術)
図8 EMR(内視鏡的粘膜切除術)

(3)ESD(内視鏡的粘膜下層剝離術)

病変の周りの粘膜下層を切開し、粘膜下層から病変をはがしとる治療法です。ESDでは、まず、がんの下の粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどを注入してがんを浮き上がらせます。次に、がんの周りの粘膜を高周波ナイフで切開し、粘膜下層から病変をはがしとります(図9)。

図9 ESD(内視鏡的粘膜下層剝離術)
図9  ESD(内視鏡的粘膜下層剝離術)

2)内視鏡治療の合併症

治療後に、出血や大腸に穴が開く穿孔が起こることがあります。治療中の出血は少量であることがほとんどです。

出血が起こると、血便が出ることがあります。穿孔が起こったときには、腹痛や発熱などの症状が出ます。そのほかにも、治療後に何らかの体調の変化を感じたときには、すぐに医師や看護師に伝えましょう。

出血や穿孔などの合併症が起こった場合には、止血や、穴をふさぐ治療を行います。その際、通常は内視鏡で治療しますが、ごくまれに手術が必要になる場合もあります。

3.手術(外科治療)

内視鏡治療によるがんの切除が難しい場合は手術を行います。手術では、がんの部分だけでなく、がんが広がっている可能性のある腸管とリンパ節も切除します。がんが周囲の臓器にまで及んでいる場合は、可能であればその臓器も一緒に切除します。腸管を切除したあとに、残った腸管をつなぎ合わせます。腸管をつなぎ合わせることができない場合には、人工肛門(ストーマ:肛門のかわりとなる便の出口)をおなかに造ります(図10)。

1)結腸がんの手術

がんの周囲にあるリンパ節を同時に切除するために、がんのある部位から口側、肛門側にそれぞれ10cmほどの距離をとって腸管を切除します。がんがある部位で切除する腸管の範囲が決まり、部位ごとに回盲部切除術、結腸右半切除術、横行結腸切除術、結腸左半切除術、S状結腸切除術などの方法があります。また、がんを切除できない場合には、便が流れるように迂回路うかいろを造る手術(バイパス手術)や人工肛門(ストーマ)を造る手術を行うことがあります。

2)直腸がんの手術

直腸は骨盤内の深く狭いところにあり、出口は肛門につながっています。また、周りには前立腺、膀胱ぼうこう、子宮、卵巣があります。直腸がんの部位や進行の状況により、直腸局所切除術、直腸前方切除術、直腸切断術、括約筋間直腸切除術の中から適切な方法を選びます。

がんがある場所によっては、肛門も切除し、人工肛門(ストーマ)を造る場合があります。また、直腸の周囲には排尿機能や性機能を調節する自律神経があるため、がんが自律神経の近くに及んでいなければ、手術後の機能障害が最小限ですむよう、自律神経を残す手術を行います(自律神経温存術)。

(1)直腸局所切除術

早期のがんなどでは、がんとその近くの部分だけを切除します。がんが肛門のすぐ近くにある場合には、がんを直接または内視鏡で見ながら切除する経肛門的切除を行います。また、うつぶせの状態でお尻側からメスを入れ、仙骨(骨盤の後ろ側の骨)の横からがんを切除する、経仙骨的切除や経括約筋的切除と呼ばれる方法もあります。

(2)直腸前方切除術

おなか側から切開し、がんがある腸管を切除して、縫い合わせる方法です。腸管の切り口を上部直腸(腹膜反転部より上)で縫い合わせるのが高位前方切除術で、下部直腸(腹膜反転部より下)で縫い合わせるのが低位前方切除術です。低位前方切除術では、一時的な人工肛門(ストーマ)を造る場合があります。

(3)直腸切断術

肛門に近い直腸がんでは、直腸と肛門を一緒に切除し、永久的な人工肛門(ストーマ)を造ります。高齢の人では肛門を締める筋肉(肛門括約筋)の力が低下していることが多く、手術後に排便がうまくコントロールできなくなるおそれがあるため、がんが肛門から離れていても、人工肛門の造設を検討することがあります。また、直腸のみ切除して肛門を残し、排便のための人工肛門を造るハルトマン手術を行うこともあります。

(4)括約筋間直腸切除術(ISR)

肛門に近い下部直腸がんでも、がんを切除でき、手術後に肛門の機能を保つことが見込めるときは、肛門括約筋の一部のみを切除して肛門を温存する手術を行う場合があります。ただし、がんの深達度が深くなるにつれ再発率が高くなるという報告や、手術後に排便がうまくコントロールできなくなるおそれもあり、注意が必要です。特に、肛門括約筋を大きく切除する必要がある場合には、便失禁が増加するなど、手術前と同じように排便することが難しくなります。これらのことから、この手術が自分の場合に適切かどうかは、担当医とよく相談して決めることが大切です。

人工肛門(ストーマ)について

人工肛門とは、人工的に造られた肛門(便の出口)のことで、ストーマともいいます。将来手術によって閉じることを想定して造る一時的なもの(一時的人工肛門)と、生涯使用するもの(永久人工肛門)があります。がんとともに肛門を切除した場合には、永久人工肛門を使用します。

ストーマを造る場合には、手術後の生活を安心して送れるように、便を処理する方法やケアの方法など、ストーマの管理方法を看護師とともに練習します。便をためるストーマ袋には防臭加工がされているため、トイレで便を処理するとき以外は臭うことはほとんどありません。扱いに慣れればもれることもなく、外出や軽い運動、入浴なども可能です。また、ストーマは痛みを伝える神経がないため、排泄はいせつ時や触れた際に痛みを感じることはありません。

図10 人工肛門(ストーマ)
図10  人工肛門(ストーマ)の図

3)腹腔鏡ふくくうきょう下手術・ロボット支援下手術

腹腔鏡下手術は、二酸化炭素でおなかをふくらませ、おなかの中を内視鏡(腹腔鏡)で観察しながら行う手術です。腹腔鏡下手術は、開腹手術と比較して、おなかのきずが小さいために手術後の痛みが少なく回復が早い長所がある一方、手術に時間がかかる傾向があります。また、がんの部位や体格、以前に受けた手術などにより、手術の難しさが変わることがあります。腹腔鏡下手術が治療の選択肢となる場合には、これらの点もふまえ、担当医とよく相談してください。

ロボット支援下手術は、腹腔鏡下手術と同じように二酸化炭素でおなかをふくらませたうえで、内視鏡(腹腔鏡)と関節のついたロボットアームを挿入して行う手術です。直腸がんの手術では、排尿機能や性機能への影響が少なくなることが報告されており、結腸がんに対しても実施されることが増えてきました。ただし、長期的な治療成績についてはまだ十分に分かっていないため、ロボット支援下手術が治療の選択肢となる場合には、担当医とよく相談してください。また、大腸がんのロボット支援下手術を行うことができるのは、日本内視鏡外科学会で定めた条件を満たす施設と医師のみです。

4)術後合併症

縫合不全、創感染そうかんせん腸閉塞ちょうへいそくなどが起こることがあります。合併症が起こった場合には、それぞれの状況に応じた治療を行います。また、より長期的な影響としては、排尿や排便の障害、性機能への影響などがみられることがあります。これらの影響と対処法については、関連情報「大腸がん(結腸がん・直腸がん) 療養 2.日常生活を送る上で」をご確認ください。

より長期的な影響(排尿や排便の障害や、性機能への影響など)とその対処法について記載しています。

(1)縫合不全

腸管を縫い合わせたつなぎ目(吻合部ふんごうぶ)から、腸の内容物が腹腔内にもれることです。縫合不全になると、周囲に腹膜炎(腹腔の内面や臓器の表面をおおっている膜の炎症)が起こり、発熱や腹痛などの症状が出ます。直腸がんのように肛門に近いところで腸管をつなぐ場合には、ほかの場所に比べて縫合不全が起こりやすくなります。感染や炎症が軽い場合は食事制限や点滴治療で治ることもありますが、腹膜炎の症状がある場合は、再手術をしておなかの中を洗浄し、人工肛門(ストーマ)を造ります。

(2)腸閉塞

腸閉塞は、腸の炎症による部分的な癒着ゆちゃく(本来はくっついていないところがくっついてしまうこと)などによって、腸管の通りが悪くなる状態のことをいいます。便やガスが出なくなり、おなかの痛みや吐き気、嘔吐おうとなどの症状が出ます。多くの場合、食事や水分を取らずに点滴をしたり、胃や腸に鼻からチューブを入れて胃液や腸液を出したりして腸管の安静を保つことにより回復しますが、再手術が必要になることもあります。

4.薬物療法

大腸がんに対する薬物療法には、手術によりがんが取り切れた場合に、手術後の再発を防ぐ目的で行う「補助化学療法」と、手術によりがんを取り切ることが難しい場合に、症状を緩和する目的で行う「切除不能進行・再発大腸がんに対する薬物療法」があります。

大腸がんの薬物療法で用いる薬

大腸がんの薬物療法で使う薬は、作用の仕方によって、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬という種類に大きく分けられます。

細胞障害性抗がん薬は、細胞が増殖する仕組みを阻害することで、がん細胞を攻撃する薬です。分子標的薬は、がんの発生や増殖に関わるタンパク質などのさまざまな分子を標的にして、その機能を抑えることでがんを攻撃する薬です。免疫チェックポイント阻害薬は、人の体がもつ免疫ががん細胞を攻撃する力を保つように働く(がん細胞が免疫にブレーキをかけるのを防ぐ)薬です。

治療は、これらの種類に属する薬を単独または組み合わせて、点滴もしくは内服で行います。薬の組み合わせは複数あります。

治療を行うかどうかや、どの種類のどの薬を使うかは、がんの性質や状態を基本とし、期待できる治療の効果と想定される副作用、生活への影響(点滴や入院の必要性や通院頻度など)、本人の状態(年齢やほかに持病がないかなど)も考慮しながら、本人と担当医が話し合って決めていきます。薬に関する詳しい情報は、治療の担当医や薬剤師などの医療者に確認しましょう。

1)補助化学療法

手術によりがんが取り切れた場合に、手術後の再発を防ぐ目的で行います。Ⅲ期で、体の状態がよい場合に行うことが推奨されています(術後合併症から回復している、パフォーマンスステータスが0または1である、主な臓器の機能が保たれている、感染症や縫合不全などの重篤な術後合併症がないなど)。また、Ⅱ期で再発のリスクが高い場合にも行うことを検討します。

補助化学療法では、細胞障害性抗がん薬を用います。内服と点滴を併用する場合もあります。治療期間は6カ月が一般的ですが、がんの状態や用いる薬の種類によっては3カ月のこともあります。補助化学療法の前にバイオマーカー検査を行って、治療効果を予測することが推奨されています。

2)切除不能進行・再発大腸がんに対する薬物療法

手術によりがんを取り切ることが難しい場合に検討します。がんの進行を抑え、症状を軽減することが目的で、薬物療法を行うことにより生存期間が延長し、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)も向上することが分かっています。また、薬物療法でがんが小さくなった場合は、手術で切除できるようになることもあります。

大腸がんの薬物療法には、複数のレジメン(薬剤の用量や用法、治療期間を明記した治療計画のこと)があります。まず一次治療から開始し、治療の効果が低下した場合や、副作用が強く治療を続けることが難しい場合には二次、三次、と順に異なるレジメンを続けていきます。どの段階まで治療を行うかは、その人の状況などによって異なります。

この薬物療法を受けることができるかどうかは、「適応となる」「問題がある」「適応とならない」の3段階で判断します(図11)。判断にあたっては、自分で歩いて身の回りのことを行う体力がある、肝臓や腎臓などの主な臓器の機能が保たれている、ほかに重い病気がない、という基準を参考にします。

「適応となる」:基準を満たしており、一次治療で細胞障害性抗がん薬や分子標的薬を併用できる場合

「問題がある」:満たしていない基準があり、体力や臓器の状態などに合わせた薬物療法がより適切と考えられる場合

「適応とならない」:体の状態がよくない、または肝臓や腎臓などの機能に問題がある、ほかに重い病気があるなどの理由から、症状を和らげるなどの対症療法がより適切と考えられる場合

「適応となる」「問題がある」の場合には、一次治療を始める前に、がんの組織の遺伝子を調べる検査(RAS遺伝子検査、BRAFV600E遺伝子検査、MSI/MMR-IHC検査)を行い、結果に応じた治療を検討します。治療は、MSI/MMR-IHC検査の結果がMSI-High/dMMR(遺伝子に入った傷を修復する機能が働きにくい状態)の場合と、そうでない場合とで異なります(図11)。

図11 大腸がん薬物療法の一次治療を決定するプロセス
図11 大腸がん薬物療法の一次治療を決定するプロセス
大腸癌研究会編.大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版.2024年,金原出版.より作成

MSI-High/dMMRではない場合の一次治療では、通常、RAS遺伝子検査、BRA V600E遺伝子検査の結果を確認し、細胞障害性抗がん薬と分子標的薬を併用する複数のレジメンの中から選択します。

二次治療以降については、治療の効果を確認しながら、状況にあったレジメンを検討していきます。その際、遺伝子検査の結果も考慮します。例えば、BRAFV600E遺伝子検査で遺伝子変異が認められた場合には、その結果に合わせて二次治療の薬を選択します。

MSI-High/dMMRの場合の一次治療では、通常、免疫チェックポイント阻害薬を使用します。治療の効果を確認しながら、二次治療、三次治療と、状況にあったレジメンを検討していきます。

大腸がんのがん遺伝子パネル検査について

手術で取り切ることが難しい大腸がんで、薬物療法の適応があり、標準的な治療が終了する場合には、がん遺伝子パネル検査を検討することがあります。がん遺伝子パネル検査では、多数の遺伝子について異常がないかを同時に調べ、治療方針を検討します。

がん遺伝子パネル検査を検討する場合は、自分が条件に当てはまるか、担当医に確認してみましょう。条件に当てはまる場合には、担当医から提案があることもあります。がん遺伝子パネル検査についての詳しい情報は、関連情報「がんゲノム医療 もっと詳しく」をご確認ください。

このページの情報は、2025年3月現在のものです。薬物療法に関する最新情報は、大腸癌研究会ホームページで「最新情報」として公開されますので、以下の情報もご確認ください。
がん遺伝子パネル検査についての詳細を掲載しています。

3)薬物療法の副作用について

細胞障害性抗がん薬は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えるため、副作用が起こります。副作用には、だるさ、吐き気・嘔吐、食欲不振、便秘、下痢、口内炎、しびれ(末梢神経障害)、手や足の一部が赤くれたりしびれたりする(手足症候群)などの自分で気付くことのできるものと、白血球の減少、血小板の減少、貧血、肝機能や腎機能の悪化などの検査で分かるものがあります。また、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は、薬ごとにさまざまな副作用があらわれます。

副作用は、使用する薬によって異なり、その程度も個人差があります。最近では副作用を予防する薬なども開発され、特に吐き気や嘔吐については、以前と比べて予防(コントロール)することができるようになってきました。

しかし、副作用の種類や程度によっては、治療が継続できなくなることもあります。自分が受ける薬物療法について、いつどんな副作用が起こりやすいか、どう対応したらよいか、特に気を付けるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医によく確認しておきましょう。また、副作用と思われる症状がみられたときには、迷わずに担当医に伝えましょう。

薬物療法の副作用について、薬の種類ごとに説明しています。
副作用に対する対応については、以下の情報をご確認ください。

5.免疫療法

免疫療法は、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。2025年3月現在、大腸がんの治療に効果があると証明されている免疫療法は、MSI-High/dMMR(遺伝子に入った傷を修復する機能が働きにくい状態)の場合と、腫瘍遺伝子変異量高スコア(TMB-High:がん細胞中の遺伝子変異の量が多い状態)の場合に免疫チェックポイント阻害薬を使用する方法のみです。免疫チェックポイント阻害薬を使用する免疫療法は、薬物療法の1つでもあります。詳しくは、関連情報「大腸がん(結腸がん・直腸がん) 治療 4.薬物療法」をご覧ください。

なお、現時点では、その他の免疫療法で、大腸がんに対して効果が証明されたものはありません。

6.放射線治療

大腸がんの放射線治療には、主に、直腸がんの骨盤内の再発を抑える目的で行う「補助放射線治療」と、痛みや吐き気、嘔吐、めまいなどのがんによる症状を和らげる目的で行う「緩和的放射線治療」があります。

1)補助放射線治療

切除が可能な直腸がんが対象で、主に、骨盤内の再発を抑えることを目的として、手術前に行うことがあります(術前照射)。術前照射は、多くの場合、薬物療法と一緒に行います。また、場合により、手術中や手術の後に放射線治療を行うこともあります。

2)緩和的放射線治療

がんによるさまざまな症状を改善する目的で、症状のある部位などに放射線を照射します。対象となる症状や状況には、直腸がんなどの骨盤内の腫瘍による痛みや出血、便通障害、肝臓への転移、肺への転移による出血や気管支狭窄きょうさく、脳への転移による吐き気、嘔吐、めまいなどの神経症状があります。これらの症状は、多くの場合、放射線治療により改善します。

脳への転移に対する放射線治療には、転移の個数や大きさによって、脳全体に放射線を当てる全脳照射と、転移した場所に放射線を集中させてあてる定位放射線照射があります。また、骨への転移によって起こる痛みや骨折を予防するために放射線治療を行うこともあります。

3)放射線治療の副作用

放射線治療の副作用には、治療期間中に起こるもの(早期合併症)と、治療が終了して数カ月から数年後に起こるもの(晩期合併症)があります。

治療期間中に起こる主な副作用には、だるさ、吐き気、嘔吐、食欲低下、白血球減少、腸炎、皮膚炎(日焼けに似たもの)、膀胱炎などがあります。照射する部位によって出やすい副作用は異なり、例えば頭部への照射では頭痛、吐き気、嘔吐、脱毛が、腹部や骨盤への照射では下痢、腹痛などの症状がみられることがあります。

治療終了後しばらくしてから起こる副作用には、腸管や膀胱などからの出血、潰瘍、穿孔(腸などに穴が開くこと)、瘻孔ろうこう(隣接する臓器とつながる穴ができること)、頻回の排便、腸閉塞などがあります。

7.緩和ケア/支持療法

がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。

緩和ケア/支持療法は、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげたり、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用、合併症、後遺症を軽くしたりするために行われる予防、治療およびケアのことです。決して終末期だけのものではなく、がんと診断されたときから始まります。

緩和ケア/支持療法は、つらさを感じるときには、がんの治療とともに、いつでも受けることができます。我慢せずに、医療者やがん相談支援センターなどに相談することが大切です。

なお、大腸がんによって腸がふさがった場合、状況により、ステントと呼ばれるチューブのような器具を入れて腸を広げ、腸を通す処置を行うこともあります。具体的には、薬物療法などの治療の適応とならない場合に、症状を和らげるために行うことや、手術を予定している場合に、手術前に腸を通すために行うことがあります。

また、がんやがんの治療によって外見が変化することがあります。支持療法の中でも、外見の変化によって起こるさまざまな苦痛を軽減するための支援として行われているのが、「アピアランス(外見)ケア」です。外見が変化することによる悩みや心配についても、医療者やがん相談支援センターに相談してください。

「さまざまな症状への対応」には、症状別に、がんそのものやがんの治療に伴って起こることがある症状や原因の説明、ご本人や周りの人ができる工夫などを紹介しているページへのリンクを掲載しています。
からだ・こころ・くらし、緩和ケア/支持療法、アピアランスケアに関する疑問や質問などは、がん相談支援センターにも相談できます。
がんの治療による外見の変化と、それに対するアピアランスケアについて紹介しています。
アピアランス(外見)ケアに関する資料が紹介されています。

8.リハビリテーション

リハビリテーションは、がんやがんの治療の体への影響に対する回復力を高め、今ある体の能力を維持、向上させるために行います。また、緩和ケアの一環として、心や体のさまざまなつらさを和らげる目的でも行います。

一般的に、治療中や治療後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などをリハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師や看護師などの医療者に確認しましょう。

9.再発した場合の治療

再発とは、治療によって、見かけ上なくなったことが確認されたがんが、再びあらわれることです。原発巣のあった場所やその近くにがんが再びあらわれることだけでなく、別の臓器で「転移」として見つかることも含めて再発といいます。大腸がんが再発しやすい部位は、肝臓、肺、局所(がんがあったところの周辺)、腹膜、リンパ節で、吻合部(手術で腸管を縫い合わせたつなぎ目)に再発することもあります。

初発のがんが早期であればあるほど再発率は低くなります。粘膜内にとどまるがん(0期のがん)は、がんを完全に切除すれば、再発することはほとんどありません。再発率は、初発のがんがⅠ期の場合は約5%、Ⅱ期の場合は約15%、Ⅲ期の場合は約30%です。再発する人の85%以上は手術後3年以内に、95%以上は5年以内に見つかっています。

再発した場合の治療は、手術、薬物療法、放射線治療が中心です。手術は、再発が1つの臓器のみに限定されていて、完全に切除できる場合に検討します。再発した臓器が2つ以上でも、それぞれが切除できる場合は手術を検討することがあります。切除できない場合には、全身の状態や再発した部位により、薬物療法や放射線治療、または対症療法を検討します。なお、吻合部での再発や局所再発の場合は、手術によって治癒する可能性もあります。

更新・確認日:2025年03月24日 [ 履歴 ]
履歴
2025年03月24日 「大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版」より内容を更新しました。
2022年11月10日 「大腸癌治療ガイドライン 医師用 2022年版」より、内容を更新しました。
2020年10月27日 「3.手術(外科治療) 4)術後合併症 (3)腸閉塞」を更新しました。
2020年04月09日 「図8 大腸がんの治療の選択」を更新しました。
2020年01月30日 「大腸がん治療ガイドライン2019年版」より、内容の更新をしました。「5.薬物療法」「図8 大腸がんの治療の選択」を更新しました。「図12 腹腔鏡下手術」を追加しました。
2018年06月12日 「大腸癌治療ガイドライン 2016年版」「大腸癌取扱い規約 第8版(2013年)」より、内容の更新をしました。4タブ形式に変更しました。
2018年02月21日 「大腸がん」のタイトルを「大腸がん(結腸がん・直腸がん)」に変更しました。
2016年01月06日 「大腸癌治療ガイドライン2014年版」「患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2014年版」より、内容の更新をしました。「表3 手術による治癒が難しい進行・再発がんに対する化学療法」を追加し、「図9 拡大内視鏡写真」と「図13 ESDの施術の模様」を変更しました。
2013年03月26日 内容を更新しました。
2013年02月14日 「1.内視鏡治療」の図を更新しました。
2013年01月24日 「1.内視鏡治療」を更新しました。
2012年10月26日 更新履歴を追加しました。タブ形式に変更しました。
2011年11月09日 内容を更新しました。
1997年09月22日 掲載しました。
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