下咽頭がんについて
1.下咽頭について
咽頭は、鼻の奥から食道までの飲食物と空気が通る部位で、筋肉と粘膜でできた約13cmの管です。咽頭は上からそれぞれ、上咽頭、中咽頭、下咽頭の3つの部位に分かれています(図1)。
下咽頭は、咽頭の最も下の部分で、食道と中咽頭、および気管とつながる喉頭に隣接しており、飲食物の通り道になります。飲食物が通るときには、喉頭が上がることによって喉頭蓋が喉頭への通り道をふさぎます。これによって飲食物は気管に流れず、食道へ送られます。
なお、頭頸部とは、脳、目、首の骨(頸椎)を除いた頭と頸部(首)のことで、鼻や口、あご、のど、耳、またそれらの周囲の臓器を指します。
2.下咽頭がんとは
下咽頭がんは、下咽頭に発生するがんで、頭頸部がんの1つです。発生するがん細胞の種類(組織型)はほとんどが扁平上皮がんです。
咽頭の周りには多くのリンパ節があるため、頸部(首)のリンパ節に転移しやすいという特徴があります。がんの発見時に頸部リンパ節への転移が見つかることも珍しくありません。また、下咽頭は喉頭に近いため、下咽頭がんが発見されたときには、喉頭までがんが広がっていることもあります。
3.症状
下咽頭がんは、初期のうちは自覚症状がみられないことがあります。
自覚症状としては、飲み込むときの違和感、おさまらない咽頭痛、のどからの出血、耳の痛み、口の奥・のど・首にできるしこり、声の変化があげられます。
これらのような気になる症状がある場合には、早めに耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。
4.関連する疾患
下咽頭がんと同時、または異なる時期に、口腔、喉頭、食道などのほかの臓器にがんが見つかることがあります。下咽頭がんの原因である喫煙や過度の飲酒は、これらのがんの発生要因でもあると考えられているためです。このように、異なる臓器に発生するがんのことを重複がんといいます。
2023年04月13日 | 「頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版」「頭頸部癌取扱い規約 第6版補訂版」より、内容を更新しました。 |
2019年04月23日 | 「4.統計」の項目名を「4.患者数(がん統計)」に変更し、内容を更新しました。 |
2018年11月29日 | 「頭頸部癌診療ガイドライン 2018年版」「頭頸部癌取扱い規約 第6版(2018年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2013年03月14日 | 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2006年03月16日 | 内容を更新しました。 |
1997年05月12日 | 掲載しました。 |
下咽頭がん 検査
触診や内視鏡検査で咽頭を確認し、がんが疑われる場合は、組織を採取して詳しく調べる検査(生検)を受けます。また、がんの大きさ、リンパ節や他臓器への転移などを確認するために、CT検査やMRI検査、超音波(エコー)検査、PET検査などが行われます。
1.触診
医師が首の回りを触って、腫れやしこり、リンパ節への転移がないかなどを調べる検査です。緊張すると首が固くなり、リンパ節の腫れが見つけにくくなるため、首の力を抜くよう意識することが大切です。
2.内視鏡検査
鼻腔や咽頭に局所麻酔をかけ、咽頭反射(のどへの刺激による吐き気)と表面の痛みを除いたあと、内視鏡を鼻や口から入れて、咽頭を確認します。その際、声帯の動きも確認します。また、下咽頭がんでは、同時に食道がんや胃がんができることがあるため、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で重複がんがないかを調べることが勧められています。
3.生検
咽頭や喉頭に局所麻酔をかけ、内視鏡で確認しながら病変の一部を採取する検査です。採取した組織は顕微鏡で詳しく確認し、がんかどうかを診断します。
4.CT検査
体の周囲からX線をあてて撮影することで、体の断面を画像として見ることができる検査です。がんの大きさ、深さや広がり、リンパ節への転移の有無を調べるときに行われます。造影剤を注射して撮影すると、がんの広がりや、がんが周りの臓器に浸潤しているか等を詳しく確認することができます。
5.MRI検査
強力な磁石と電波を使用して撮影することで、体の断面を画像として見ることができる検査です。MRI検査の画像は、CT検査よりも、がん組織と正常な組織の区別が明確です。がんの深さや広がり、リンパ節への転移の有無をCT検査とは異なる情報から調べることができます。
6.超音波(エコー)検査
首の表面から超音波をあて、そのはね返りをモニターで見ながら確認します。主に頸部リンパ節への転移の有無を調べるときに行われます。
7.PET-CT検査
PET検査とは、放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射し、がん細胞にエネルギー源として取り込まれるブドウ糖の分布を撮影することで、全身のがん細胞を検出する検査です。CT検査やMRI検査とは異なる情報から、がんの広がり、リンパ節や他の臓器への転移の有無を調べることができます。治療後の再発の診断にも有用なことがあります。PET-CT検査は、PET検査とCT検査の画像を重ねることで、がん細胞の有無や転移があるかどうかを高い精度で診断することができます。
8.腫瘍マーカー検査
下咽頭がんでは、現在のところ、がんの診断や治療効果の判定に使用できるような、特定の腫瘍マーカーはありません。
下咽頭がん 治療
下咽頭がんの治療には、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法、緩和ケアなどがあります。
1.ステージと治療の選択
治療は、がんの進行の程度を示すステージ(病期)やがんの性質、体の状態などに基づいて検討します。
1)ステージ(病期)
がんの進行の程度は、「ステージ(病期)」として分類します。ステージは、ローマ数字を使って表記することが一般的で、下咽頭がんでは0期〜Ⅳ期に分けられ、進行するにつれて数字が大きくなります。
ステージは、次のTNMの3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決まります。
Tカテゴリー:原発腫瘍※の広がり
Nカテゴリー:頸部のリンパ節に転移したがんの大きさと個数
Mカテゴリー:がんができた場所から離れた臓器への転移の有無
※原発腫瘍とは、原発部位(がんがはじめに発生した部位)にあるがんのことで、原発巣ともいわれます。
TNM分類は表1を、ステージ(病期)は表2をご参照ください。
2)治療の選択
治療は、がんの進行の程度や組織型に応じた標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、担当医と話し合って決めていきます。
下咽頭がんの治療では、Ⅰ期やⅡ期といった早期では、喉頭の温存を目指し、放射線による根治的な治療や、喉頭を温存する手術(喉頭温存手術)を行います。喉頭温存手術のうち一部の早期がんでは内視鏡と器具を口から入れて病変を切除する経口的切除術も行われます。
がんが進行している場合は手術による治療が主となり、喉頭を摘出せざるをえないことも多くなりますが、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を保つために、喉頭温存手術や薬物療法を併用して放射線治療を行う化学放射線療法を行う場合もあります。
図2~図5は、下咽頭がんの標準治療を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
妊娠や出産について
がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合で、特に薬物療法を受ける可能性が高いときには、妊孕性を温存すること(妊娠するための力を保つこと)が可能かどうかを、治療開始前に担当医に相談しましょう。
2.手術(外科治療)
下咽頭がんに対する手術は、がんとリンパ節の切除が中心となります。切除した部位の機能が失われる場合は、体の別の組織を移植する手術によって切除した部分を再建する「再建手術」を行い、飲み込みや発声の機能などをできるだけ保つようにします。
1)手術について
(1)下咽頭がんに対する手術
下咽頭がんの手術は、がんの進行状態により、口から器具を入れて内視鏡を使ってがんを切除する経口的切除術のほか、頸部の皮膚を切開して行われる喉頭温存・下咽頭部分切除術、喉頭全摘・下咽頭部分切除術、下咽頭・喉頭全摘術、下咽頭・喉頭・頸部食道全摘術があります。
経口的切除術
早期がんの一部に対しては、口から内視鏡や器具を入れてがんの切除を行うことができます。喉頭を温存できるため発声が可能です。がんの大きさや場所にもよりますが、飲み込みのリハビリテーションが必要なこともあります。
喉頭温存・下咽頭部分切除術
がんが下咽頭のみか、喉頭に広がっていても程度が軽い場合は、喉頭を温存して、下咽頭の部分的な切除ですむことがあります。喉頭を温存できるため、がんの大きさや場所にもよりますが、手術後もある程度声を出すことができます。飲み込みのリハビリテーションが必要です。
喉頭全摘・下咽頭部分切除術
がんが進行し、喉頭に広がっている場合に、下咽頭の一部と喉頭を切除する手術です。喉頭を切除するため、呼吸をするための穴(永久気管孔)を首に開ける必要があります。下咽頭を切除する範囲が少なければ咽頭の粘膜をそのまま縫いますが、範囲が大きい場合は皮膚を移植して下咽頭を再建する必要があります。喉頭は全摘(すべて切除すること)するため声は出せなくなります。
下咽頭・喉頭全摘術
がんが進行し、喉頭に広がっている場合に、下咽頭と喉頭を切除する手術です。喉頭を切除するため、呼吸をするための穴(永久気管孔)を首に開ける必要があります。下咽頭は全摘(すべて切除すること)されるため、腸の一部または皮膚を移植して下咽頭を再建する必要があります。喉頭は全摘するため声は出せなくなります。
下咽頭・喉頭・頸部食道全摘術
がんが進行し、咽頭の周囲に広がっている場合に、下咽頭、喉頭、首の部分の食道まで切除する手術です。喉頭を切除するため、呼吸をするための穴(永久気管孔)を首に開ける必要があります。また、下咽頭から首の部分の食道を切除するため、腸の一部または皮膚を移植して切除した部分を再建する必要があります。喉頭は全摘(すべて切除すること)するため声は出せなくなります。
(2)頸部郭清術
下咽頭がんでは、頸部リンパ節に転移があることが多いです。頸部リンパ節に転移している場合や、転移の確率が高い場合、頸部リンパ節を切除する頸部郭清術が行われます。取り除く範囲は、がんの状態によって異なります。リンパ節への転移がない場合でも、転移を防ぐために頸部郭清術が行われることがあります。手術は、周辺の血管や神経、筋肉をできるだけ残しながら行われますが、がんの状態によってはそれらを残すことができない場合があります。
2)術後の合併症
(1)下咽頭がんの手術の後遺症
下咽頭がんが進行し、喉頭もすべて切除した際には、声を出すことができなくなり、呼吸のための穴(永久気管孔)を首の付け根に開けます。このような場合は、発声法(食道発声、シャント発声など)の習得や電気式人工喉頭(発声を補助する器具)を使用したリハビリテーションを行います。
手術で咽頭や食道の一部または全部を切除した場合、腸の一部または皮膚を移植して再建することで、多くの場合、食事ができるようになります。
(2)頸部郭清術の後遺症
頸部郭清術の際は、リンパ節だけでなく周囲の血管や筋肉、神経を切除することがあるため、術後に、顔のむくみ、頸部のこわばり、肩の運動障害などの後遺症が起こりえます。そのため、後遺症を最小限に抑えるために、リハビリテーションを行います。
3.放射線治療
放射線治療は、放射線をあててがん細胞を破壊し、がんを消滅させます。下咽頭がんでは、体の表面から放射線をあてる外部照射を30〜35回(1日1回、週5日の治療を6~7週間)受けます。
薬物療法と併用して放射線治療を行う化学放射線療法を行う場合もあります。薬物を併用することにより放射線治療の効果を高めることができます。
手術のあと、顕微鏡で検査し、再発の可能性が高いと判断される場合には、補助療法として薬物療法と組み合わせる化学放射線治療または放射線治療が行われる場合があります。
また、頸部リンパ節への転移が、放射線治療のみでは消滅させるのが難しい場合は、頸部郭清術を先に行い、手術のあとに放射線治療を行う場合もあります。
強度変調放射線治療(IMRT)では、さまざまな方向からあてる放射線の量をコンピューターで調節するため、複雑な形のがんでもそれぞれの部位に適切な量の放射線を照射することができます。また、治療終了後にあらわれる副作用を軽減する効果があります。
放射線治療の副作用について
放射線治療の副作用は、全身にあらわれるものと、治療する部位に起こる局所的なものがあります。また、治療中や治療後すぐにあらわれるものと、治療終了後数カ月から数年たってあらわれるものがあります。
副作用が原因で治療が続けられなくなるという事態を避けるため、皮膚科医、看護師、歯科医、歯科衛生士、言語聴覚士、栄養士、心理士などの医療スタッフが連携して、副作用を最小限にするための治療やケアが行われます。
(1)治療中や治療後すぐにあらわれる副作用
声がかれたり、唾液が出にくくなったり、皮膚炎や粘膜炎が起こることがあります。また、粘膜炎によって水や食事が飲み込みにくくなる嚥下困難などの症状があらわれることもあります。このような症状は、治療終了後1~2カ月くらいで改善することが多いです。ただし、声がかれたり、唾液が出にくくなるという症状の改善には時間がかかるため、口や咽頭の乾燥、味が分からないという症状はしばらく続く可能性があります。
皮膚炎が起こった場合は、外用薬(塗り薬)を用いて皮膚の組織を保湿・保護します。口内炎や粘膜炎の痛みには、うがい薬や鎮痛剤を使ったり、歯科で口腔ケアを受けたりします。
また、口腔や咽頭の粘膜炎などによって、食事を十分に食べられず体力が落ちたり、薬剤を内服できなかったりすることが原因で、治療が続けられなくなることがあります。これを防ぐため、放射線治療の前に胃ろう(おなかの皮膚から胃へ管を通す穴)(図6)をつくっておくこともあります。なお、胃ろうは、ほとんどの場合、内視鏡を使ってつくります。
治療中や治療後に、食事が十分に食べられなかったり、薬を内服できなかったりする場合には、胃ろうから直接栄養や薬剤をとることができます。胃ろうから栄養をとることによって、食事が食べられないことによる体力低下や、栄養状態を改善するための入院などの可能性を減らすことができます。治療が終わって、口から十分食事がとれるようになったら、胃ろうに入れていた管を抜きます。通常、管を抜いたあとの穴は自然にふさがります。
(2)治療終了後半年から数年たってあらわれる副作用
中耳炎、嚥下・開口障害(口が開きにくくなること)、唾液が出にくいことによる味覚の低下や虫歯の増加、歯が抜ける、下顎骨壊死(下あごの骨の組織が局所的に壊死すること)や下顎骨骨髄炎(普段から口の中にいる細菌による感染が下あごの骨に及んだ状態)によるあごの痛みや腫れなどの症状があらわれることがあります。治療終了後も口の中をきれいに保つように気をつけることが大切です。
4.化学放射線療法
化学放射線療法は、手術を行わずに放射線治療と併用して薬物療法(化学療法)を行い、治癒を目指す方法です。薬物療法と放射線治療を併用することで治療効果を高めることができます。
化学放射線療法における薬物療法では、細胞障害性抗がん薬や、分子標的薬を使います。細胞障害性抗がん薬は、細胞が増殖する仕組みの一部を邪魔することで、がん細胞を攻撃する薬です。分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質などを標的にして、がんを攻撃する薬です。
副作用として、放射線治療によって声がかれたり、皮膚炎や粘膜炎、粘膜炎による嚥下障害が起こったりすることや、薬物療法によって骨髄抑制などがあらわれることがあります。
薬に関する詳しい情報は、治療の担当医や薬剤師などの医療者にご確認ください。
5.薬物療法
下咽頭がんの薬物療法には、治癒や機能の温存を目指した集学的治療として行われる薬物療法と、再発・転移した場合に行われる薬物療法があります。
治癒や機能の温存を目指した薬物療法では、放射線治療と同時に行われる化学放射線療法があります。また、根治を目指した治療の前に行われる導入化学療法、手術のあとに行われる術後補助療法としての術後化学放射線療法があります。
導入化学療法は、化学放射線療法や手術の前に行う薬物療法のことです。薬物療法によって腫瘍の量を減らし、治療効果を高めることが目的です。治療は、複数の細胞障害性抗がん薬を組み合わせます。分子標的薬を併用することもあります。
術後化学放射線療法は、手術のあと、がんが取り切れなかった場合や、再発の可能性が高い場合に行う治療のことです。細胞障害性抗がん薬が用いられ、放射線治療を併用することが勧められています。
再発や遠隔転移に対する薬物療法では、細胞障害性抗がん薬や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬が使われます。
薬に関する詳しい情報は、治療の担当医や薬剤師などの医療者にご確認ください。
6.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケア/支持療法は、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげたり、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くしたりするために行われる予防、治療およびケアのことです。
決して終末期だけのものではなく、がんと診断されたときから始まります。つらさを感じるときには、がんの治療とともに、いつでも受けることができます。本人にしか分からないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。
7.リハビリテーション
リハビリテーションは、がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力を維持・向上させるために行われます。また、緩和ケアの一環として、心と体のさまざまなつらさに対処する目的でも行われます。
下咽頭がんでは、手術の合併症を予防し、後遺症を最小限に抑えることや、回復を早めるために、手術前後の時期には以下のリハビリテーションを行います。治療後の安静が必要な期間を過ぎてからは、積極的に、機能を回復するための練習が必要です。話すこと、飲み込むこと、かむことは、多くの筋肉や神経の複雑な働きによって可能になります。話すことが、飲み込みやすさを助けることもあります。はじめは身ぶりや手ぶり、メモによる筆談などを組み合わせながら、なるべくのどを使うように心がけてみましょう。
1)飲み込みのリハビリテーション
飲食物を食道へ、空気を気管へふり分ける働きが低下すると、誤嚥による肺炎が生じる恐れがあります。これを防ぐために、言語聴覚士や看護師などと共に、安全に食事をとるリハビリテーションを行います。舌やのどの筋力強化の訓練や実際に食事をするリハビリテーションがあります。
また、喉頭温存手術を受けた場合は、飲み込みのリハビリテーションで、その段階に合った食べ物を選ぶことが重要です。食べることそのものがリハビリテーションになるため、担当医と相談しながらいろいろな食事を試してみましょう。
2)食べ物をよくかみ砕くためのリハビリテーション
手術で下あごの骨を切除したあとにかむ動作がしにくくなった場合は、鏡を見ながら、口の開け閉めを練習するようにします。退院後、1人でも練習できるように、担当医や看護師、リハビリテーション専門の医療スタッフにリハビリテーションの方法を確認しておきましょう。
3)頸部郭清術による症状のリハビリテーション
頸部郭清術を行った場合、手術後の顔のむくみ、頸部の変形・こわばり、肩の運動障害などが起こることがあります。理学療法士などの指導を受けながら、腕をあげたり、肩や首を回したりする運動を行います。このような運動を退院後も継続することで、不快感の軽減が期待できます。
4)発声のリハビリテーション
喉頭全摘術により声を出せなくなった場合は、代用音声を習得する方法があります(図7)。
(1)食道発声
食道に吸い込んだ空気を出すときに食道を振動させて発声する方法です。習得に時間がかかりますが、音質がよく、器具を必要としません。食道発声法は経験者の話が役に立つことがあります。患者会などでコツを聞くとよいでしょう。
(2)電気式人工喉頭
電気式人工喉頭(電気喉頭)という電気で振動する器械をのどにあてて音を出し、口、舌などの形を調節して発声する方法です。機械的な音声で、片手がふさがってしまいますが、習得は簡単です。
(3)シャント発声
気管と食道をつなぐ穴をつくり、穴に器具を入れる手術をすることで肺から食道へ空気を送り発声する方法です。自分で器具のメンテナンスを行うことや、定期的な器具の交換が必要ですが、発声方法は食道発声より簡単で10日ほどで習得できます。
それぞれメリット、デメリットがあるため、個人に合った方法を選びます。気になることがあれば、担当医や看護師、言語聴覚士などに聞いてみましょう。
8.再発した場合の治療
再発とは、治療によって、見かけ上なくなったことが確認されたがんが、再びあらわれることです。原発巣やその近くにがんが再びあらわれることだけでなく、別の臓器で「転移」として見つかることも含めて再発といいます。
下咽頭がんでは、発見時に頸部リンパ節に転移していることも少なくありません。また、肺、肝臓、骨などの他の臓器に転移することもあります。
1)局所再発に対する放射線治療・手術
放射線治療は、原則として同じ場所に対して繰り返し行うことができないため、初めの治療で放射線治療を行ったあとに再発した場合は、切除が可能であれば手術を行います。一方で、初めの治療で放射線治療を行っていない場合は、放射線治療を含めて治療法を検討します。
2)再発に対する薬物療法
初回の治療後に再発し、手術ができない場合や遠隔転移が出現した場合には、薬物療法を行うことがあります。
薬物療法では、細胞障害性抗がん薬や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を使います。体の状態に応じて、いくつかの薬を併用したり、1つの薬で治療したりします。体調や合併症などの状況によって、薬物療法を行うことが難しい場合には、症状を和らげるための治療が勧められることがあります。
細胞障害性抗がん薬は、細胞が増殖する仕組みの一部を邪魔することで、がん細胞を攻撃する薬です。分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質などを標的にして、がんを攻撃する薬です。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫細胞ががん細胞を攻撃する力を保つ(がん細胞が免疫にブレーキをかけるのを防ぐ)薬です。
いずれの薬物療法でも副作用への対応が重要となります。予想される副作用とその対応については担当医とよく相談をしましょう。特に免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療では、いつ、どんな副作用が起こるか予測がつかず、治療が終了してから数週間から数カ月後に起こる副作用もあるため注意が必要です。起こるかもしれない副作用の症状を事前に知り、自分の体調の変化に気を配って、治療中や治療後にいつもと違う症状を感じたら、医師や薬剤師、看護師などの医療スタッフにすぐに相談することも必要です。
なお、2023年3月現在、下咽頭がんの治療に効果があると証明されている免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬を使用する治療法のみです。そのほかの免疫療法で、下咽頭がんに対して効果が証明されたものはありません。
2023年05月16日 | 「3.放射線治療」に「図6 胃ろう」を追加しました。 |
2023年04月13日 | 「頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版」「頭頸部癌取扱い規約 第6版補訂版」より、内容を更新しました。 |
2019年09月09日 | 「表1 下咽頭がんのTNM分類」を修正しました。 |
2018年11月29日 | 「頭頸部癌診療ガイドライン 2018年版」「頭頸部癌取扱い規約 第6版(2018年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2016年02月10日 | 「2.治療成績」の5年相対生存率データを更新しました。 |
2014年10月03日 | 「2.治療成績」の5年相対生存率データを更新しました。 |
2013年03月25日 | 内容を更新しました。 |
2013年03月14日 | 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2006年03月16日 | 内容を更新しました。 |
1997年05月12日 | 掲載しました。 |
下咽頭がん 療養
1.経過観察
治療によりがんが消失したと判断された後は、定期的に通院して検査を受けます。検査を受ける頻度は、がんの進行度や治療法によって異なります。
下咽頭がんは、再発する場合は、治療後2年以内が多いとされ、その後は緩やかに減少していきます。治療後2年以内は、継続的な受診が必要で、少なくとも5年間は経過観察のために通院する必要があります。通院の際には、内視鏡検査、首の触診、画像検査などを行います。なお、受診の間隔や検査の内容は体の状態などによって異なります。担当医と相談しながら通院しましょう。
2.日常生活を送る上で
規則正しい生活を送ることで、体調の維持や回復を図ることができます。禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、適度な運動などを日常的に心がけることが大切です。
症状や治療の状況により、日常生活の注意点は異なりますので、体調をみながら、担当医とよく相談して無理のない範囲で過ごしましょう。
日頃から口腔ケアを心がけることも大切です。口の中には、普段もたくさんの細菌が存在しています。しかし、治療を受けると、これらの細菌が原因で感染症になることがあります。これを防ぐには、粘膜に刺激のないやさしいブラッシング、うがいやこまめに水分をとるなど、口の中を清潔でうるおった環境に保つことが効果的です。また、定期的に歯科医師の診察を受けましょう。
喉頭全摘術後の日常生活
喉頭全摘術を受けた場合は、呼吸をするために首に開けた穴(永久気管孔)は、清潔に保つために、毎日ぬれたタオルで気管孔を拭く、ガーゼをかぶせて乾燥しないようにする、吸入や吸痰といった管理が必要になります。また、入浴の際には気管孔にお湯が入らないように注意が必要です。発声法の練習も無理のない範囲で取り組みましょう。
また、喉頭全摘術を受けた方は身体障害者3級に該当するため、認定のための手続きを行うと、自治体から援助を受けられるようになります。援助の内容は、市区町村によって異なりますが、電気喉頭・ファクシミリ・吸入吸痰器などの「日常生活用具」の給付または貸与と、交通機関の運賃割引や税金の軽減、控除などの「割引・助成」などがあります。
申請後、認定までに2~4カ月程度かかりますが、手術当日から申請手続きができるので、入院前に市区町村の窓口で書類を取り寄せるなどの準備をしておくとよいでしょう。詳しい情報は、お住まいの市区町村に問い合わせてください。分からないことや心配なことについては、がん相談支援センターにも相談できます。
性生活について
性生活によって、がんの進行に悪影響を与えることはありません。また、性交渉によってパートナーに悪い影響を与えることもありません。
しかし、がんやがんの治療は、性機能そのものや、性に関わる気持ちに影響を与えることがあります。がんやがんの治療による性生活への影響や相談先などに関する情報は、「がんやがんの治療による性生活への影響」をご覧ください。
なお、薬物療法中やそのあとは、膣分泌物や精液に薬の成分が含まれることがあるため、パートナーが薬の影響を受けないように、コンドームを使いましょう。また、薬は胎児に影響を及ぼすため、治療中や治療終了後一定期間は避妊しましょう。経口避妊薬などの特殊なホルモン剤を飲むときは、担当医と相談してください。
以下の関連情報では、療養中に役立つ制度やサービスの情報を掲載しています。
下咽頭がん 臨床試験
よりよい標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。
現在行われている標準治療は、より多くの患者さんによりよい治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。
下咽頭がんの臨床試験を探す
国内で行われている下咽頭がんの臨床試験が検索できます。
がんの臨床試験を探す チャットで検索
※入力ボックスに「下咽頭がん」と入れて検索を始めてください。チャット形式で検索することができます。
がんの臨床試験を探す カテゴリで検索 下咽頭がん
※国内で行われている下咽頭がんの臨床試験の一覧が出ます。
臨床試験への参加を検討する際は、以下の点にご留意ください
- 臨床試験への参加を検討したい場合には、担当医にご相談ください。
- がんの種類や状態によっては、臨床試験が見つからないこともあります。また、見つかったとしても、必ず参加できるとは限りません。
下咽頭がん 患者数(がん統計)
1.患者数
2019年に日本全国で口腔・咽頭がんと診断されたのは、23,671例(人)です。
2.生存率
がんの治療成績を示す指標の1つとして、生存率があります。生存率とは、がんと診断されてからある一定の期間経過した時点で生存している割合のことで、通常はパーセンテージ(%)で示します。がんの治療成績を表す指標としては、診断から5年後の数値である5年生存率がよく使われます。
関連情報には、地域がん登録から算出された下咽頭がんを含む口腔・咽頭がんの5年相対生存率を掲載しています。このデータは、およそ10年前のがんの診断、治療に基づくものです。したがって、診断や治療の進歩により、現在は下記の数字より治療成績は向上していると考えられます。データは平均的、かつ確率として推測されるものであるため、すべての人に当てはまる値ではないことをご理解ください。
下咽頭がん 予防・検診
1.発生要因
下咽頭がんの発生要因には、喫煙と飲酒があることが分かっています。
2.予防と検診
1)予防
日本人を対象とした研究では、がん全般の予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、身体活動、適正な体形の維持、感染予防が有効であることが分かっています。
2)がん検診
がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。わが国では、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(令和3年一部改正)」でがん検診の方法が定められています。
しかし、下咽頭がんについては、現在は指針として定められているがん検診はありません。気になる症状がある場合には、医療機関を早めに受診することをお勧めします。
なお、がん検診は、症状がない健康な人を対象に行われるものです。症状をもとに受診して行われる検査や、治療後の経過観察で行われる定期検査は、ここでいうがん検診とは異なります。
2023年04月13日 | がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(令和3年10月1日一部改正)」を確認し、更新しました。 |
2019年04月23日 | 「4.統計」の項目名を「4.患者数(がん統計)」に変更し、内容を更新しました。 |
2018年11月29日 | 「頭頸部癌診療ガイドライン 2018年版」「頭頸部癌取扱い規約 第6版(2018年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2013年03月14日 | 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2006年03月16日 | 内容を更新しました。 |
1997年05月12日 | 掲載しました。 |
下咽頭がん 関連リンク・参考資料
1.下咽頭がんの相談先・病院を探す
がん診療連携拠点病院・地域がん診療病院とは、専門的で質の高いがん医療を提供する病院として国が指定した病院です。これらの病院では、がんに関する相談窓口「がん相談支援センター」を設置しており、病院の探し方についても相談できます。
以下の「相談先・病院を探す」では、下咽頭がんを含む「口腔がん・咽頭がん・唾液腺がん・鼻のがん」の診療を行うがん診療連携拠点病院などの病院やがん相談支援センターを探すことができます。また、診断や治療の実施状況や病院の種類などで絞り込んで検索することや、院内がん登録の件数などを確認することもできます。
2.参考資料
- 日本頭頸部癌学会編.頭頸部癌診療ガイドライン2022年版.2022年,金原出版.
- 日本頭頸部癌学会編.頭頸部癌取扱い規約 第6版補訂版.2019年,金原出版.
作成協力
2023年04月13日 | 「2.参考資料」を更新しました。 |
2021年07月01日 | 「1.下咽頭がんの相談先・病院を探す」を追加しました。 |
2019年04月23日 | 「4.統計」の項目名を「4.患者数(がん統計)」に変更し、内容を更新しました。 |
2018年11月29日 | 「頭頸部癌診療ガイドライン 2018年版」「頭頸部癌取扱い規約 第6版(2018年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2013年03月14日 | 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2006年03月16日 | 内容を更新しました。 |
1997年05月12日 | 掲載しました。 |