上咽頭がんについて
1.上咽頭について
咽頭は、鼻の奥から食道までの飲食物と空気が通る部位であり、筋肉と粘膜でできた、約13cmの長さの管です。咽頭は上からそれぞれ、上咽頭、中咽頭、下咽頭の3つの部位に分かれています(図1)。
上咽頭のある場所は、鼻腔の奥で、口蓋垂と口蓋扁桃の後ろの上のほうです。脳を支えている頭蓋骨の底にあたる頭蓋底のすぐ下で、左右には耳につながる穴があります。
上咽頭は、鼻からの呼吸で空気の通り道になります。
なお、鼻、口、あご、のど、耳などからなる部位を頭頸部といいます。

2.上咽頭がんとは
上咽頭にできたがんを上咽頭がんといい、上咽頭がんは頭頸部がんの1つです。
咽頭の周りには多くのリンパ節があるため、頸部(首)のリンパ節に転移しやすいという特徴があります。がんの発見時に頸部リンパ節への転移が見つかることも珍しくありません。
3.症状
上咽頭がんは、初期のうちは自覚症状がみられないことがあります。上咽頭がんの発見時に最も多くみられる症状は、頸部リンパ節に転移したことによる首のしこりです。
その他には、鼻の症状(鼻づまり、鼻血、鼻水に血が混ざるなど)、耳の症状(耳がつまった感じ、聞こえにくいなど)、脳神経の症状(目が見えにくくなる、二重に見えるなど)があります。
これらのような気になる症状がある場合には、早めに耳鼻咽喉科を受診し、早期発見につなげましょう。
上咽頭がん 検査
1.上咽頭がんの検査
触診、後鼻鏡検査や内視鏡検査で上咽頭を確認し、がんが疑われる場合は、組織を採取して詳しく調べます(生検)。また、がんの大きさ、リンパ節や他臓器への転移などを確認するために、CT検査やMRI検査、超音波(エコー)検査、PET検査などを行います。
2.検査の種類
1)触診
上咽頭がんではリンパ節への転移を起こしやすいという特徴があります。そのため、首の周りを丁寧に触って、リンパ節の腫れを調べることが大切です。
2)後鼻鏡検査・耳鏡検査
上咽頭がんでは、鼻や耳の症状があらわれることがあります。成人で、初めて滲出性中耳炎(耳がつまった感じ)になった場合には、上咽頭を確認しておく必要があります。後鼻鏡は小さな鏡がついた器具で、口から入れて鼻やのどの奥を確認します。耳鏡は漏斗状の器具で、耳の穴に差し入れて耳の奥を確認します。
3)内視鏡検査
鼻腔に局所麻酔を行い、表面の痛みを除いた後、内視鏡を鼻から入れて、上咽頭を確認します。
4)生検
内視鏡で確認しながらがんの一部を採取して、顕微鏡で詳しく確認し、がんであるかを確定します。
5)CT検査
体の周囲からX線をあてて撮影することで、体の断面を画像として見ることができます。がんの深さや広がり、リンパ節への転移の有無を調べるときに行います。造影剤を注射して撮影すると、がんの特性や、がんと周りの血管の状態を詳しく確認することができます。
6)MRI検査
強力な磁石と電波を使用して撮影することで、体の断面を画像として見ることができます。CT検査よりがん組織と正常組織の区別が明確で、CT検査とは異なる情報から、がんの深さや広がり、リンパ節への転移の有無を調べます。
7)超音波(エコー)検査
首の表面から超音波をあて、そのはね返りをモニターで見ながら確認します。主に頸部リンパ節への転移の有無を調べるときに用います。
8)PET検査
放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射し、がん細胞にエネルギーとして取り込まれるブドウ糖の分布を撮影することで、全身のがん細胞を検出します。CT検査やMRI検査とは異なる情報から、がんの広がり、リンパ節や他の臓器への転移の有無を調べます。治療後の再発の診断にも有用なことがあります。
9)腫瘍マーカー検査
腫瘍マーカーとは、体のどこかにがんがあるとき特徴的に大量に産生される物質です。がんの種類に応じて多くの種類があり、血液検査により量を測定します。
上咽頭がんでは、現在のところ、診断や治療効果の判定に使用できるような、特定の腫瘍マーカーはありません。
上咽頭がん 治療
1.病期と治療の選択
治療方法は、がんの進行の程度や体の状態などから検討します。
がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類します。病期は、ローマ数字を使って表記することが一般的です。
1)病期(ステージ)
上咽頭がんの病期は、「がんの広がり(T分類)」「頸部のリンパ節に転移したがんの大きさと個数(N分類)」「遠くの臓器への転移の有無(M分類)」によるTNM分類(表1)に基づいて決まります(表2)。


2)治療の選択
治療法は、標準治療に基づいて、患者さんの体の状態や年齢、希望なども含めて検討し、担当医とともに決めていきます。
上咽頭がんの大部分を占める低分化・未分化のがん細胞は、放射線治療で消滅したり、小さくなったりしやすい傾向があります。手術が難しい部位のため、Ⅰ期からⅣA期を通して放射線治療が標準治療として推奨されています。また、放射線治療は薬物療法を併用するほうが治療効果が高いことがわかっており、患者さんの全身状態などをみながら、放射線治療と薬物療法を併用する化学放射線療法を行うことがあります。
図2は、上咽頭がんに対する根治を目指す治療方法を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。

妊娠や出産について
がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊よう性温存治療(妊娠するための力を保つ治療)が可能かどうかを、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
2.手術(外科治療)
上咽頭がんでは、手術が難しい部位のため、手術をすることはほとんどありません。頸部リンパ節に転移がある場合でも、手術で切除しても再発する可能性が高いため、放射線治療が優先されます。ただし、化学放射線療法後に頸部リンパ節にがんが残っている場合には、取り除く手術を行うことがあります。
3.放射線治療
放射線治療では、放射線をあててがん細胞を破壊し、がんを消滅させたり小さくしたりします。上咽頭がんでは、体の表面から放射線をあてる外部照射を、6〜7週間で30〜35回くらい行います。
薬物療法と放射線治療を併用する化学放射線療法を行う場合もあります。薬物を併用することにより放射線治療の効果を高めることができます。
頸部リンパ節への転移があり、放射線治療で治療が難しい場合は、頸部郭清術を先に行い、その後に放射線治療を行う場合もあります。
強度変調放射線治療(IMRT)では、さまざまな方向からあてる放射線の量をコンピューターで調節し、複雑な形のがんでもそれぞれの部位に適切な量の放射線を照射することができます。このため、治療終了後にあらわれる副作用を軽減する効果があります。
副作用について
放射線治療の副作用は、全身的なものと、治療する部位に起こる局所的なものがあります。また、治療中や治療後すぐにあらわれるものと、治療終了後半年から数年たってあらわれるものがあります。
副作用が原因で治療を中止するということがないように、副作用を最小限にする支持療法を行うことがあります。場合によっては、歯科医、歯科衛生士、言語聴覚士、栄養士などと連携をとることがあります。
(1)治療中や治療後すぐにあらわれる副作用
皮膚炎、粘膜炎、粘膜炎により飲み込みにくくなるなどの副作用があらわれることがあります。治療終了後3カ月くらいで改善することが多いのですが、唾液が出にくくなるため、口や咽頭の乾燥、味がわからないという症状は続く可能性があります。
皮膚炎への対応には、軟こうを用いて、放射線治療によって損傷した皮膚の組織を保湿します。口内炎や粘膜炎への対応には、痛みに対する薬を用いることがあります。口の乾燥が続く症状への対応には、水分をこまめにとるようにしましょう。担当医から人工唾液を処方してもらうこともできます。
口腔や咽頭の粘膜炎などの副作用により、栄養や薬剤を口から適切に摂取できず、それが原因で治療が継続できなくなることがあります。これを防ぐため、放射線治療の前に胃ろう(おなかの皮膚から胃へ管を通す穴)をつくっておくこともあります。治療中や治療後に必要な場合には、胃ろうから直接胃の中に栄養や薬剤を入れることができます。治療が終わって、口から十分食事がとれるようになったら、留置していた管を抜きます。通常、管を抜いたあとの穴は自然にふさがります。
(2)治療終了後半年から数年たってあらわれる副作用
中耳炎、開口障害、唾液が出にくいことによる虫歯の増加、歯の欠損や下顎骨壊死などがあらわれることがあります。治療終了後も口の中をきれいに保つように気をつけることが大切です。
まれではありますが、若年性の場合は脳下垂体の障害により第二次性徴へ影響することがあります。
4.薬物療法
上咽頭がんの薬物療法には、化学放射線療法のほか、追加化学療法、導入化学療法があります。
1)化学放射線療法
放射線治療と併用して薬物療法(化学療法)を行う方法です。
一般的にシスプラチンが用いられます。
薬物療法と放射線治療を併用することで治療効果を高めることができる一方で、皮膚炎、粘膜炎、粘膜炎により飲み込みにくい、骨髄抑制などの副作用が強くあらわれることがあります。治療開始前は十分な説明を受けましょう。
また、シスプラチン以外では、分子標的薬のセツキシマブを放射線治療と併用することもあります。
2)追加化学療法
化学放射線療法のあとに追加して行う化学療法です。追加化学療法をすることの科学的根拠は十分ではないため、年齢や全身状態なども考慮し慎重に検討します。
一般的にシスプラチンとフルオロウラシル(5-FU)が併用されています(PF療法)。
3)導入化学療法
化学放射線療法を行うときに、その前に行う薬物療法です。遠隔再発の可能性が高い方を対象に行うことがありますが、化学放射線療法のみと比較して導入化学療法を行うことがよいとされる科学的根拠は十分ではないため、年齢や全身状態なども考慮し慎重に検討します。
導入化学療法には、シスプラチンとフルオロウラシル(5-FU)を併用するPF療法、PF療法にドセタキセルを加えたTPF療法があります。
5.リハビリテーション
上咽頭がんの治療は、放射線治療や化学放射線療法による治療となるため、顔かたちが大きく変わることはありません。しかし、副作用により、飲食物がうまく飲み込めなくなるなど、日常生活を送る上で支障がでる場合があります。このような副作用によって食事の量が少なくなってしまうと、栄養障害につながることもあるため、リハビリテーションを行い、この機能をできる限り回復させていきます。
飲み込みのリハビリテーション
飲食物を食道へ、空気を気管へふり分ける働きが低下すると、誤嚥による誤嚥性肺炎が生じる恐れがあります。これを防ぐために、言語聴覚士や看護師などと共に、安全に食事をとるリハビリテーションを行います。舌やのどの筋力強化の訓練や、実際に食事をするリハビリテーションがあります。
6.緩和ケア
緩和ケアとは、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を維持や改善するために、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげ、自分らしく過ごせるようにする治療法です。緩和ケアは、がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われ、希望に応じて幅広い対応をします。患者さん本人にしかわからないつらさについても、積極的に医療者へ伝えるようにしましょう。
7.転移・再発
転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れなどに乗って別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。また、再発とは、治療の効果によりがんがなくなったあと、再びがんが出現することをいいます。
上咽頭がんでは、発見時に頸部リンパ節に転移していることも少なくありません。また、肺、肝臓、骨などの他の臓器に転移することもあります。
転移・再発した場合、多くは延命や症状緩和を目指した治療となり、主に薬物療法を行います。骨への転移による症状に対しては、緩和を目的とした放射線治療が行われます。
2018年11月29日 | 「頭頸部癌診療ガイドライン 2018年版」「頭頸部癌取扱い規約 第6版(2018年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2016年02月10日 | 5年相対生存率データを更新しました。 |
2014年10月03日 | 5年相対生存率データを更新しました。 |
2013年03月25日 | 内容を更新しました。 |
2012年11月19日 | 『もしも、がんが再発したら』へのリンクを追加しました。 |
2012年11月15日 | 内容を更新しました。タブ形式に変更しました。 |
2006年10月01日 | 内容を更新しました。 |
1997年05月12日 | 掲載しました。 |
上咽頭がん 療養
がんと診断されてからの仕事については「がんと仕事」、医療費や利用できる制度、相談窓口などのお金に関する情報は「がんとお金」をご参照ください。また、「がん相談支援センター」でも相談することができます。
「地域のがん情報」では、各都道府県等が発行しているがんに関する冊子やホームページへのリンクを掲載しています。併せてご活用ください。
1.日常生活を送る上で
咽頭がんが発生すると、口腔がんや食道がんが同時にできたり(併発)、治療から数年たって再発したりすることがあります。これは、これらのがんの原因が、共に喫煙と過度の飲酒にあるためと考えられています。咽頭がんの再発あるいは口腔がん、食道がんの併発の危険性を減らすために、治療中はもちろん治療後も禁煙し、飲酒を控えるようにしましょう。
療養生活では、体調を整えるように心がけることが大切です。規則正しい生活、バランスのとれた食事や適度な運動などを心がけましょう。ただし、体調が悪いときには無理は禁物です。担当医と相談しつつ、できることから始めましょう。
日頃から口腔ケアを心がけることが大切です。治療に伴い、口の中にたくさん存在する細菌が原因で感染症になることがあります。これを防ぐには、粘膜に刺激のないやさしいブラッシング、うがいやこまめに水分をとるなど、口の中を清潔でうるおった環境に保つことが効果的です。また、定期的に歯科医師の診察やチェックを受けましょう。
治療後の安静が必要な期間を過ぎてからは、積極的に、機能を回復するための練習が必要です。話すこと、飲み込むこと、食べることは、多くの筋肉や神経の複雑な働きによって可能になります。身ぶりや手ぶり、メモによる筆談などを組み合わせながら、なるべくのどを使うように心がけてみましょう。話すことが、飲み込みやすさを助けることもあります。
2.経過観察
治療後の体の状態や、がんの転移・再発の有無を確認するために、定期的に通院して診察や検査を受けましょう。
上咽頭がんは、治療後2年以内に再発することが多いとされ、その後は緩やかに減少していきます。受診の間隔は状態によって異なりますが、治療後2年以内は1〜2カ月に1回程度を目安に、継続的な受診が必要であり、少なくとも5年間は経過観察をする必要があります。通院の際には、内視鏡検査、首の触診、画像検査などを行います。受診の間隔や検査の内容は患者さんの状態によって異なるため、担当医と相談しながらきちんと通院しましょう。
規則正しい生活を送ることで、体調の維持や回復を図ることができます。禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、適度な運動など、日常的に心がけることが大切です。
上咽頭がん 臨床試験
よりよい標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。
現在行われている標準治療は、より多くの患者さんによりよい治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。
上咽頭がんの臨床試験を探す
国内で行われている上咽頭がんの臨床試験が検索できます。
がんの臨床試験を探す チャットで検索
※入力ボックスに「上咽頭がん」と入れて検索を始めてください。チャット形式で検索することができます。
- 臨床試験への参加を検討したい場合には、今おかかりの担当医にご相談ください。
- がんの種類によっては、臨床試験が見つからないこともあります。また、見つかったとしても、必ず参加できるとは限りません。
上咽頭がん 患者数(がん統計)
1.患者数
2014年に日本全国で上咽頭がんと診断されたのは約800人です。上咽頭がんと診断される人は男性に多い傾向にあります。
2.生存率
がんの治療成績を示す指標の1つとして、生存率があります。
以下に、全国がんセンター協議会(全がん協)が公表している院内がん登録から算出された5年相対生存率のデータを示します。このデータは、およそ10年前のがんの診断、治療に基づくものです。したがって、診断や治療の進歩により、現在は下記の数字より治療成績は向上していると考えられます。
上咽頭がん 予防・検診
1.発生要因
上咽頭がんの発生する要因として、EBウイルス(エプスタインバールウイルス)が関連するといわれています。また、上咽頭がんの発生頻度は日本ではまれですが、中国南部や東南アジアでは高く、これらの地域で伝統的に食べられている塩蔵魚の摂取のほか、飲酒や喫煙が、上咽頭がんになる可能性を高めると考えられています。
2.予防と検診
1)予防
日本人を対象とした研究結果では、がん予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスの良い食事、身体活動、適正な体形、感染予防が効果的といわれています。
2)検診
がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。わが国では、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」で検診方法が定められています。
しかし、上咽頭がんについては、現在、指針として定められている検診はありません。気になる症状がある場合には、耳鼻咽喉科を早期に受診することをお勧めします。人間ドックなど任意で検診を受ける場合には、検診のメリットとデメリットを理解した上で受けましょう。
なお、検診は、症状がない健康な人を対象に行われるものです。がんの診断や治療が終わった後の検査は、ここで言う検診とは違います。
上咽頭がん 関連リンク・参考資料
1.上咽頭がんの相談先・病院を探す
2.参考資料
- 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」全国がん罹患モニタリング集計 2014年罹患数・率報告,2018年
- 日本頭頸部癌学会編.頭頸部癌診療ガイドライン2018年版,金原出版
- 日本頭頸部癌学会編.頭頸部癌取扱い規約 第6版.2018年,金原出版