肝臓がん(肝細胞がん)について
1.肝臓について
肝臓は腹部の右上にある体内最大の臓器で、重さは成人で1kg以上あり、体の右側部分の右葉と左側部分の左葉に分けられます。肝臓の下方からは、門脈(胃や腸から吸収した栄養を多く含む血液を肝臓に運ぶ静脈)が通っています。門脈から肝臓に流入した血液は、肝静脈を通って下大静脈から流れ出ていきます(図1)。
肝臓の主な役割は、門脈から流入した血液に含まれる栄養を代謝して体に必要な成分に変えること、代謝の際に生じた物質や摂取したアルコールなどの有害物質を解毒し排出すること、脂肪の消化を助ける胆汁をつくることです。胆汁は、胆管を通って胆のうに入ったのち、十二指腸に送られます。
2.肝臓がん(肝細胞がん)とは
肝臓がんは、肝臓にできるがんの総称で、「肝がん」といわれることもあります。このうち、肝臓の主な細胞である肝細胞ががん化したものを肝細胞がんと呼びます。同じ肝臓にできたがんでも、肝臓の中を通る胆管ががん化したものは「肝内胆管がん(胆管細胞がん)」と呼ばれ、治療法が異なることから区別されています。
なお、日本で発生する肝臓がんの90%以上は肝細胞がんであるため、一般的には「肝臓がん」とは「肝細胞がん」のことを意味します。このページでは、肝細胞がんについて解説します。肝内胆管がんについては、「胆道がん」のページをご覧ください。
肝細胞がんの発生には、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎などによる、肝臓の慢性的な炎症や肝硬変が影響しているとされています。
脂肪肝炎とは、脂肪が過剰にたまった肝臓(脂肪肝)が炎症を起こしている状態です。また、肝硬変とは、肝炎ウイルスや脂肪肝などによる炎症が長期間にわたって続いた結果、肝臓が硬くなった状態をいいます。
肝細胞がんは、多くの場合、肝臓内で再発します。また、肺やリンパ節、副腎、脳、骨などに転移することがあります。
転移性肝がんについて
肝臓以外の臓器にできたがんが、肝臓に転移したものを転移性肝がんといいます。転移性肝がんは肝細胞がんとは区別し、原発巣(最初にがんができた臓器)に準じた治療を行います。転移性肝がんは、肝転移といわれることもあります。
3.症状
肝細胞がんの人は、B型肝炎やC型肝炎、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変などの慢性肝疾患を伴っていることが多くあります。慢性肝疾患により肝機能が低下すると、黄疸(皮膚や目が黄色くなる)、むくみ、かゆみ、だるさや倦怠感などの症状があらわれることがあります。また、肝細胞がんが進行した場合は、腹部にしこりや圧迫感、痛みがあらわれることがあります。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、炎症やがんがあっても初期には自覚症状がほとんどないため、医療機関での定期的な検診や、ほかの病気の検査のときなどに、異常を指摘されることも少なくありません。肝細胞がんの発生には、ウイルスなどによる肝臓の慢性的な炎症や肝硬変が影響しているとされています。そのため、健康診断などで肝機能の異常や肝炎ウイルスの感染などを指摘されたときには、まずは内科や消化器内科、または身近な医療機関を受診するようにしましょう。
2023年10月06日 | 「2.肝臓がん(肝細胞がん)とは」に「希少な肝胆膵がん」の希少がんセンターへのリンクを追加しました。 |
2023年07月21日 | タイトルを「肝臓がん(肝細胞がん)」に変更し、「2.肝臓がん(肝細胞がん)とは」を更新しました。 |
2022年06月23日 | 「肝癌診療ガイドライン2021年版 第5版」「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版」より、内容を更新しました。 |
2019年06月20日 | 「肝腫瘍〈小児〉」へのリンクを追加しました。 |
2018年04月19日 | 「肝癌診療ガイドライン2017年版」「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版(2015年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2015年03月02日 | 「1.肝細胞がんとは」「2.肝がんと肝炎ウイルス」「3.症状」を更新しました。 |
2012年10月25日 | 更新履歴を追加しました。 |
2012年10月04日 | タブ形式に変更しました。 |
2011年12月05日 | 内容を更新しました。 |
1996年05月23日 | 掲載しました。 |
肝臓がん(肝細胞がん) 検査
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスによる慢性肝炎や肝硬変がある人、ウイルス感染を伴わない肝硬変と診断された人は、3~6カ月ごとの定期的な超音波(エコー)検査や腫瘍マーカー検査を受けることが勧められています。
肝細胞がんが疑われたときや定期的に受ける超音波(エコー)検査でしこりが見つかった場合、腫瘍マーカーの値が上昇した場合などには、CT検査かMRI検査による画像検査を受けます。なお、CT検査やMRI検査などの画像検査で悪性か良性かの区別が難しい場合には、病変の一部を採って詳しく調べる生検が行われることがあります。
治療方針を検討する際には、血液検査で肝機能を調べます。また、肝硬変によって食道静脈瘤や胃静脈瘤ができていないかどうかや、静脈瘤からの出血の危険性を調べるために、内視鏡検査を受けることもあります。
1.超音波(エコー)検査
体の表面にあてた器具から超音波を出し、臓器で反射した超音波の様子を画像化して観察する検査です。がんの大きさや個数、がんと血管の位置、がんの広がり、肝臓の形や状態、腹水の有無を調べます。ただし、がんの場所によっては、検査が難しいことや、皮下脂肪が厚い場合は、十分な検査ができないことがあります。
その人の体の状態や、がんがある部位によっては、血管から造影剤を注入して検査することもあります。
2.腫瘍マーカー検査
腫瘍マーカー検査は、がんの診断の補助や、診断後の経過や治療の効果をみることを目的に行います。腫瘍マーカーとは、がんの種類によって特徴的に作られるタンパク質などの物質です。がん細胞やがん細胞に反応した細胞によって作られます。
肝細胞がんでは、血液中のAFP(アルファ・フェトプロテイン)やPIVKA-Ⅱ(ピブカ・ツー)、AFP-L3分画(AFPレクチン分画)を測定します。腫瘍が小さい場合は、2種類以上の腫瘍マーカーを測定することが推奨されています。
がんの有無やがんがある場所は、腫瘍マーカーの値だけでは確定できないため、画像検査など、その他の検査の結果も併せて、医師が総合的に判断します。例えば、肝炎や肝硬変、肝細胞がん以外のがんがある場合にも値が高くなることがあるため、同時に画像診断も行われます。
3.CT検査・MRI検査
がんの性質や分布、転移や周囲の臓器への広がりを調べるために、造影剤を使ったCT検査やMRI検査を受けます。
CT検査は、X線を使った検査で、体の断面を画像にすることができます。MRI検査は、強力な磁力と電波を使い、磁場を発生させて行われる検査で、体の内部の断面をさまざまな方向から画像にすることができます。MRI検査はX線を使わないため、放射線被ばくがありません。
2022年06月23日 | 「肝癌診療ガイドライン2021年版 第5版」「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版」より、内容を更新しました。 |
2018年04月19日 | 「肝癌診療ガイドライン2017年版」「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版(2015年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2015年03月02日 | 「1.検査」「2.病期(ステージ)・障害度分類」を更新しました。 |
2012年10月25日 | 更新履歴を追加しました。 |
2012年10月04日 | タブ形式に変更しました。 |
2011年12月05日 | 内容を更新しました。 |
1996年05月23日 | 掲載しました。 |
肝臓がん(肝細胞がん) 治療
肝細胞がんの治療には、手術、穿刺局所療法(ラジオ波焼灼療法)、肝動脈(化学)塞栓療法、薬物療法、放射線治療などがあります。また、診断されたときから、がんに伴う心と体のつらさなどを和らげるための緩和ケア/支持療法をうけることができます。
1.治療の選択
治療は、肝予備能(肝機能がどのくらい保たれているか)や、肝臓以外の臓器に転移があるか、脈管(門脈、静脈、胆管)への広がり、がんの個数、がんの大きさなどのがんの状態に基づいて検討します。
1)肝予備能の確認
肝予備能は、肝障害度やChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類で確認します。肝障害度は、肝機能の状態によって、A、B、Cの3段階に分かれます(表1)。また、肝硬変の程度を把握するために、Child-Pugh分類を用いることもあります(表2)。どちらの分類方法でも、AからCへと進むにつれて、肝障害の程度は強まります。
2)ステージ(病期)
がんの進行の程度は、「ステージ(病期)」として分類します。ステージは、ローマ数字を使って表記することが一般的で、Ⅰ期(ステージ1)・Ⅱ期(ステージ2)・Ⅲ期(ステージ3)・Ⅳ期(ステージ4)と進むにつれて、より進行したがんであることを示しています。なお、肝細胞がんではステージのことを進行度ということもあります。
肝細胞がんの場合は、がんの進行の程度と併せて肝予備能も考慮し、治療法を選択します。
肝細胞がんのステージは、がんの個数、がんの大きさ、がんが肝臓内にとどまっているか、肝臓以外の臓器に転移があるかによって決まります。ステージの分類は、日本の「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約(日本肝癌研究会編)」(表3)と、国際的に使われている「TNM悪性腫瘍の分類(UICC)」(表4)の2種類があり、医師はこれらを用いて説明をしています。分類法によって、同じステージでもがんの状態が異なることもあるため、注意が必要です。
3)肝予備能・肝細胞がんの状態と治療の選択
治療は、標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、担当医と話し合って決めていきます。なお、肝細胞がんになった人の多くは、がんと慢性肝疾患という2つの病気を抱えています。そのため、まず肝予備能をChild-Pugh分類を用いて評価し、治療法を選択します。
図2は、肝細胞がんの標準治療を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
なお、担当医から複数の治療法を提案されることもあります。治療を選ぶにあたって分からないことは、まず担当医に確認することが大切です。治療を選ぶにあったっての悩みや困りごとは、がん相談支援センターで相談することもできます。
Child-Pugh分類がAまたはBで、がんが肝臓内にとどまっている場合の治療は、肝切除、ラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が中心です。遠隔転移(肝臓以外の臓器にがんが転移すること)がある場合には、薬物療法を選択します。Child-Pugh分類Cの場合は、肝移植を選択することもあります。
妊娠や出産について
がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊孕性を温存すること(妊娠するための力を保つこと)が可能かどうかを、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
2.手術(外科治療)
手術を行うかどうかは、Child-Pugh分類がAまたはBで肝障害度に基づく肝機能の評価がよい場合、切除後に肝臓の量をどれだけ残せるかによって判断します。また、肝硬変の程度がChild-Pugh分類Cでは肝移植が勧められています。
1)手術の種類
(1)肝切除
がんとその周囲の肝臓の組織を手術によって取り除く治療法です。多くの場合、がんが肝臓にとどまっており、3個以下の場合に行います。がんの大きさには特に制限はなく、10cmを超えるような巨大なものであっても、切除が可能な場合もあります。
また、がんが脈管(門脈、静脈、胆管)へ広がっている場合でも、肝切除を行うことがあります。ただし、腹水がある場合は、肝切除後に肝不全(肝臓が機能しなくなること)になる危険性が高いため、通常は肝切除以外の治療を行います。
切除の方法は、がんがある場所や肝機能に応じて、小さい範囲での切除から、広い範囲での切除までさまざまです。
がんがある場所やがんの数によっては、おなかに小さな穴をいくつかあけ、そこから手術器具などを挿入して行う腹腔鏡下手術が可能な場合があります。しかし腹腔鏡下手術は、特に肝臓の広い範囲を切除する場合において完全に確立した方法ではなく、安全性も十分とはいえません。そのため、開腹手術と内視鏡手術の経験を十分にもつチームがある施設で行われるべきとされています。
腹腔鏡下手術を希望する場合には、担当医と十分に相談しましょう。そのほかに、看護師などの医療スタッフや、全国の「がん診療連携拠点病院」などに設置されているがん相談支援センターに相談することもできます。
(2)肝移植
肝臓をすべて取り出して、ドナー(臓器提供者)からの肝臓を移植する治療法で、日本では、主に近親者から肝臓の一部を提供してもらう「生体肝移植」が行われています。なお近年は、脳死後のドナーから肝臓を提供してもらう「脳死肝移植」も行われています。
肝細胞がんに対する肝移植は、ミラノ基準、または5-5-500基準を満たす場合に行うことがあります。ミラノ基準とは、(a)脈管への広がり・肝臓以外への転移がない、(b)がんが1つなら5cm以下、(c)がんが複数なら3個以下で3cm以内という基準です。5-5-500基準とは、(a)遠隔転移や脈管への広がりがなく、かつがんが5cm以内、(b)がんの数が5個以内、(c)AFP500ng/mL以下という基準です。
2)手術の合併症
肝臓の切除面から胆汁が漏れる胆汁漏、出血、肝不全などが起こることがあります。胆汁漏は、通常、ドレーン(体液を外に流すためのチューブ)を付けたままにすることで症状が軽くなりますが、まれに再手術をすることもあります。出血は輸血と再手術による止血が必要です。肝不全は重大な合併症で、肝臓がまったく機能しない状態のことです。肝不全にならないよう、手術を考える時点で肝臓の機能に応じて十分な肝臓の量を残すようにしますが、ごくまれに起こることがあります。
3.穿刺局所療法
腹部の皮膚の上から針をがんに直接刺し、局所的に治療を行う方法で、手術に比べて体への負担が少ないことが特徴です。Child-Pugh分類のAまたはBのうち、がんの大きさが3cm以下、かつ、3個以下の場合に行われます。
肝細胞がんの穿刺局所療法として推奨されているのは、ラジオ波焼灼療法(RFA)です。ほかの穿刺局所療法としては、経皮的エタノール注入(PEI)、経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)があります。
1)ラジオ波焼灼療法(RFA)
腹部の皮膚の上から特殊な針をがんに直接刺し、通電して針の先端部分に高熱を発生させることで、局所的にがんを焼灼して(焼いて)死滅させる治療法です。治療の際は、針を刺す前に腹部の局所麻酔をします。また、がんを焼くときに生じる痛みを和らげるために鎮痛剤を使用したり、点滴で麻酔をしたりします。焼灼時間は10〜30分程度です。
2)ラジオ波焼灼療法(RFA)の合併症
発熱、腹痛、出血、腸管損傷、肝機能障害などの合併症が起こることがあります。また、針を刺した場所に痛みややけどが起こることもあります。治療後は、数時間程度の安静が必要です。
4.塞栓療法
X線を使って体の中を透かして見ながら、鼠径部(足の付け根)や肘、手首の動脈から肝動脈まで入れたカテーテルを、標的となるがんの近くまで進めて行う治療で、肝動脈化学塞栓療法(TACE)と肝動脈塞栓療法(TAE)があります。
Child-Pugh分類のAまたはBのうち、大きさが3cmを超えた1〜3個のがん、もしくは、大きさに関わらず4個以上のがんがあり、手術が難しくかつ穿刺局所療法の対象とならない場合に行われます。がんが広い範囲にある場合は、複数回に分けて行われます。
なお、肝動脈化学塞栓療法(TACE)と肝動脈塞栓療法(TAE)のほかにも、カテーテルを用いて行う治療法として、細胞障害性抗がん薬を注入する肝動注化学療法(TAI)があります。
1)肝動脈化学塞栓療法(TACE)/肝動脈塞栓療法(TAE)
肝動脈化学塞栓療法(TACE)は、鼠径部あるいは肘や手首の動脈からカテーテルを入れ、血管造影しながら先端を肝動脈まで挿入し、細胞障害性抗がん薬と肝細胞がんに取り込まれやすい造影剤を混ぜて注入した後、肝動脈を詰まらせる塞栓物質を注入する治療法です。肝動脈を詰まらせることで、がんへの血流を減らし、細胞障害性抗がん薬によりがん細胞の増殖を抑えます。
肝動脈塞栓療法(TAE)は、鼠径部あるいは肘や手首の動脈からカテーテルを入れ、血管造影しながら先端を肝動脈まで挿入し、塞栓物質のみを注入する治療法です。肝動脈を詰まらせることで、がんに栄養を運んでいる血管を人工的にふさぎ、血流を減らします(図3)。
なお、①肝動脈化学塞栓療法(TACE)を2回行っても治療の効果が不十分か、肝臓内に新たにがんができたとき、②脈管にがんが広がったときや遠隔転移が起こったとき、③腫瘍マーカーが持続的に上昇するときのいずれかの場合には、治療法の変更を勧められることもあります。
2)塞栓療法の副作用
治療後に、発熱、吐き気、腹痛、食欲不振、肝機能障害、胸痛などの副作用が起こることがあります。副作用の程度は、がんの大きさ、広がり、塞栓した範囲、肝機能によりさまざまです。予想される副作用について、あらかじめ担当医から十分な説明を聞いておきましょう。なお、治療後は、数時間から半日程度の安静が必要です。
5.薬物療法
肝細胞がんの全身薬物療法では、分子標的薬による治療(分子標的治療)や免疫チェックポイント阻害薬による治療が標準治療です。肝切除や肝移植、穿刺局所療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)などが行えない進行性の肝細胞がんで、体の状態を表す指標の1つであるパフォーマンスステータスと肝臓の機能がともに良好なChild-Pugh分類Aの場合には、全身薬物療法を行います。
肝細胞がんが4個以上の場合などには、鼠径部あるいは肘や手首の動脈からカテーテルを入れ、血管造影しながら先端を肝動脈まで挿入し、細胞障害性抗がん薬を注入する肝動注化学療法(TAI)が行われることがあります。治療後には、吐き気、食欲不振、肝機能障害などの副作用が起こることがあります。
1)全身薬物療法で用いる薬の種類
一次治療(がんの診断後に初めて行う薬物治療)では、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬を用います。自己免疫性疾患などのために、免疫チェックポイント阻害薬が使えない場合には、分子標的薬を用います。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ薬です。分子標的薬は、がん細胞に特徴的な分子を目印にしてがんを攻撃する薬で、がん以外への影響を抑えることができるのが特徴です。
一次治療の効果がみられない場合や、副作用のために治療を続けることが難しい場合には、別の種類の分子標的薬を二次治療として用いることがあります。
2)全身薬物療法の副作用
免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬は、薬ごとにさまざまな副作用があらわれます。自分が受ける薬物療法について、いつどんな副作用が起こりやすいか、どう対応したらよいか、特に気を付けるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医に確認しておきましょう。
また、副作用を予防したり、症状を緩和したりする支持療法が進歩したため、通院で薬物療法を行うこともあります。通院での薬物療法は、仕事や家事、育児、介護など、今までの日常生活を続けながら治療を受けることができる一方、いつも医師や看護師などの医療者がそばにいるわけではないため、不安に感じることもあるかもしれません。通院時には疑問点や不安点などを医療者に相談しながら治療を進めるとよいでしょう。
6.免疫療法
免疫療法は、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。2023年6月現在、肝細胞がんの治療に効果があると証明されている方法は、免疫チェックポイント阻害薬を使用する治療法のみです。その他の免疫療法で、肝細胞がんに対して効果が証明されたものはありません。免疫チェックポイント阻害薬を使う治療法は、薬物療法の1つでもあります。
7.放射線治療
肝細胞がんの放射線治療は、まだ標準治療としては確立していません。しかし、手術や穿刺局所療法が難しい場合や、脈管内に広がったがんに対する治療として、X線による放射線治療が行われることがあります。
また、がんが大きく手術が不可能な場合は、重粒子線や陽子線による放射線治療(重粒子線治療、陽子線治療)が受けられる場合もありますが、治療ができる施設は限られていますので、希望する場合は担当医に相談しましょう。
なお、骨に転移したときの痛みの緩和を目的とした治療や、脳への転移に対する治療としては、行うことが勧められています。
8.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケア/支持療法は、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげたり、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くしたりするために行われる予防、治療およびケアのことです。
決して終末期だけのものではなく、がんと診断されたときから始まります。つらさを感じるときには、がんの治療とともに、いつでも受けることができます。
肝細胞がんが進行した場合は、腹部にしこりや圧迫感、痛みがあらわれることもあります。また、黄疸(皮膚や目が黄色くなる)、腹水、むくみ、かゆみ、だるさや倦怠感などのさまざまな症状があらわれることや、食道静脈瘤が悪化することがあります。このような症状や、本人にしか分からないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。
9.リハビリテーション
リハビリテーションは、がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力を維持・向上させるために行われます。また、緩和ケアの一環として、心と体のさまざまなつらさに対処する目的でも行われます。
一般的に、治療中や治療終了後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などをリハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師に確認しましょう。
10.再発した場合の治療
再発とは、治療によって、見かけ上なくなったことが確認されたがんが、再びあらわれることです。原発巣(最初にがんができた臓器)のあった場所やその近くに、がんが再びあらわれることだけでなく、別の臓器で「転移」として見つかることも含めて再発といいます。
肝細胞がんは、多くの場合、肝臓内で再発します。また、肺やリンパ節、副腎、脳、骨などに転移することがあります。
肝切除による治療後に初めて再発した場合は、90%以上が肝臓内での再発だといわれています。これは、がん細胞が肝臓内の血液の流れに乗って、肝臓内の別の場所に転移したり、肝切除後に残った肝臓から新しい肝細胞がんが発生したりするためと考えられています。再発した場合は、その人の体の状況や肝障害度に応じて、治療やその後のケアを決めていきます。
肝切除や局所療法による治療後に再発した場合、肝臓以外の臓器に転移していない場合には、残っている肝臓の量や肝機能を考慮して、治療を検討します。基本的には、初回の治療方針と同じで、手術で切除するか、切除が難しい場合は、ラジオ波焼灼療法や塞栓療法、薬物療法を行います。
肝移植後に再発した場合は、可能であれば手術で切除するか、切除が難しい場合は、薬物療法を行うことがあります。
2023年07月21日 | 日本肝臓学会ウェブサイト「肝癌診療ガイドライン 2021年版」の薬物療法アルゴリズムとCQ39の変更内容を確認し、更新しました。 |
2022年08月18日 | 「図2 肝予備能・肝細胞がんの状態と治療の選択」を再掲載しました。 |
2022年07月28日 | 「図2 肝予備能・肝細胞がんの状態と治療の選択」を一時掲載中止としました。 |
2022年06月23日 | 「肝癌診療ガイドライン2021年版 第5版」「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版」より、内容を更新しました。 |
2021年10月14日 | 「肝細胞癌ガイドライン2017年版 補訂版」より、内容を更新しました。 |
2020年02月27日 | 「6.放射線治療」以降の項目の順序を変更し、「10.生存率」の参照先を「がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計」としました。 |
2018年04月19日 | 「肝癌診療ガイドライン2017年版」「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版(2015年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2015年03月02日 | 「1.手術(外科治療)」「2.穿刺局所療法」「3.肝動脈塞栓療法、肝動注化学療法」「5.化学療法(抗がん剤治療)」を更新しました。 |
2013年03月26日 | 内容を更新しました。 |
2012年10月25日 | 更新履歴を追加しました。「3.肝動脈塞栓術、肝動注化学療法」の図を追加しました。 |
2012年10月04日 | タブ形式に変更しました。 |
2011年12月05日 | 内容を更新しました。 |
1996年05月23日 | 掲載しました。 |
肝臓がん(肝細胞がん) 療養
1.経過観察
治療後は、定期的に通院して検査を受けます。検査を受ける頻度は、がんの進行度や治療法によって異なります。
肝細胞がんと診断された人は、肝臓の別の場所に新しいがんが発生することがしばしばあるため、注意が必要です。再発の危険が高くなるため、頻繁かつ長期的な通院が必要となり、治療後は、3〜6カ月ごとに定期検査を行います。定期検査では、肝機能や腫瘍マーカーを調べるための血液検査に加え、必要に応じて、超音波(エコー)検査や造影超音波検査、造影CT検査、造影MRI検査などの画像検査を行います。また、PET検査、骨シンチグラフィなどを行う場合もあります。
なお、ウイルス性肝炎が原因で肝細胞がんになった場合は、手術や穿刺局所療法後に、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス療法を受けることで、再発を抑えられる可能性があるといわれています。がん治療後のウイルス性肝炎の治療については、担当医と相談しましょう。また、黄疸やむくみなどの症状を自覚したときにも相談しましょう。
2.日常生活を送る上で
規則正しい生活を送ることで、体調の維持や回復を図ることができます。禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、適度な運動などを日常的に心がけることが大切です。
症状や治療の状況により日常生活の注意点は異なりますので、体調をみながら、担当医とよく相談して無理のない範囲で過ごしましょう。
1)食事について
栄養のバランスを第一に、気持ちよく食べることが大切です。ただし、慢性肝疾患がある人は、肝機能を悪くする場合があるため、飲酒を避けることが重要です。また、むくみや腹水がある場合は、塩分を控えめにする必要があります。担当医や看護師、栄養士などに食事の注意点についてよく確認しておきましょう。
2)運動について
手術後約1カ月は、ゆっくり過ごすことが基本です。体力の回復に合わせて散歩などから始め、少しずつ運動量を増やしていきます。体力が回復し、肝機能も安定すれば、徐々に通常の生活に戻れます。ただし、激しい運動は担当医に相談してからにしましょう。
3)性生活について
性生活が、がんの進行に悪影響を与えることはありません。また、性交渉によってパートナーに悪い影響を与えることもありません。
性生活には支障はありませんが、治療中は避妊しましょう。なお、経口避妊薬などの特殊なホルモン剤を飲むときは、担当医と相談してください。
また、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスは、血液や体液を介して感染します。性交渉による感染は、特にB型肝炎ウイルスに注意が必要で、C型肝炎ウイルスはまれとされていますが、肝炎ウイルスに感染している場合は、コンドームを使用しましょう。
以下の関連情報では、療養中に役立つ制度やサービスの情報を掲載しています。
肝臓がん(肝細胞がん) 臨床試験
よりよい標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。
現在行われている標準治療は、より多くの人によりよい治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。
肝臓がん(肝細胞がん)の臨床試験を探す
国内で行われている肝細胞がんの臨床試験が検索できます。
がんの臨床試験を探す チャットで検索
※入力ボックスに「肝細胞がん」と入れて検索を始めてください。チャット形式で検索することができます。
がんの臨床試験を探す カテゴリで検索 肝細胞がん
※国内で行われている肝細胞がんの臨床試験の一覧が出ます。
臨床試験への参加を検討する際は、以下の点にご留意ください
- 臨床試験への参加を検討したい場合には、担当医にご相談ください。
- がんの種類や状態によっては、臨床試験が見つからないこともあります。また、見つかったとしても、必ず参加できるとは限りません。
肝臓がん(肝細胞がん) 患者数(がん統計)
1.患者数
年に日本全国で肝臓がん(肝細胞および肝内胆管のがん)と診断されたのは、例(人)です。
2.生存率
がんの治療成績を示す指標の1つとして、生存率があります。生存率とは、がんと診断されてからある一定の期間経過した時点で生存している割合のことで、通常はパーセンテージ(%)で示します。がんの治療成績を表す指標としては、診断から5年後の数値である5年生存率がよく使われます。
なお、生存率には大きく2つの示し方があります。1つは「実測生存率」といい、死因に関係なくすべての死亡を計算に含めた生存率です。もう1つを「相対生存率」といい、がん以外の死因を除いて、がんのみによる死亡を計算した生存率です。
以下のページに、国立がん研究センターがん対策研究所がん登録センターが公表している院内がん登録から算出された肝細胞がんの生存率を示します。
※データは平均的、かつ確率として推測されるものであるため、すべての人に当てはまる値ではありません。
肝臓がん(肝細胞がん) 予防・検診
1.発生要因
肝細胞がんが発生する主な要因は、B型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルスの持続感染(長期間、体内にウイルスがとどまる感染)です。肝炎ウイルスが体内にとどまることによって、肝細胞の炎症と再生が長期にわたって繰り返され、それに伴い遺伝子の変異が積み重なり、がんになると考えられています。
ウイルス感染以外の危険因子は、アルコール摂取、喫煙、肥満、脂肪肝、糖尿病があることです。また、男性や高齢であることも危険因子として知られています。
※危険因子については、がん情報サービスの発生要因の記載方針に従って、主なものを記載することを原則としています。記載方針については関連情報をご覧ください。
2.予防と検診
1)予防
日本人を対象とした研究では、がん全般の予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、身体活動、適正な体形の維持、感染予防が有効であることが分かっています。
さらに、肝細胞がんの場合は、「肝炎ウイルスの感染予防」が重要で、B型肝炎ウイルスは、ワクチンで感染を予防することができます。また、肝炎ウイルス感染を早期に知ることも「ウイルス感染者の肝臓がん発生予防」として重要ですので、地域の保健所や医療機関で一度は検査を受けましょう。
なお、 B型肝炎およびC型肝炎ウイルス感染が分かった場合には、肝細胞がんの予防として、肝炎が進行しないように、ウイルスの排除や増殖を抑える薬を用いた抗ウイルス療法を受けることが勧められています。
2)検診
がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。わが国では、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(令和3年一部改正)」でがん検診の方法が定められています。
なお、がん検診は、症状がない健康な人を対象に行われるものです。症状をもとに受診して行われる検査や、治療後の経過観察で行われる定期検査は、ここでいうがん検診とは異なります。
肝細胞がんについては、現在、国が推奨するがん検診はありません。気になる症状がある場合には、医療機関を早めに受診することをお勧めします。人間ドックなど任意で検診を受ける場合には、検診のメリットとデメリットを理解した上で受けましょう。
ただし、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルス感染による肝硬変や慢性肝炎がある人、肝炎ウイルスを伴わない肝硬変の人は、3~6カ月間隔での腹部超音波(エコー)検査などの定期的な検査を受けましょう。
2022年06月23日 | 「肝癌診療ガイドライン2021年版 第5版」「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版」より、内容を更新しました。 |
2019年06月20日 | 「肝腫瘍〈小児〉」へのリンクを追加しました。 |
2018年04月19日 | 「肝癌診療ガイドライン2017年版」「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版(2015年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2015年03月02日 | 「1.肝細胞がんとは」「2.肝がんと肝炎ウイルス」「3.症状」を更新しました。 |
2012年10月25日 | 更新履歴を追加しました。 |
2012年10月04日 | タブ形式に変更しました。 |
2011年12月05日 | 内容を更新しました。 |
1996年05月23日 | 掲載しました。 |
肝臓がん(肝細胞がん) 関連リンク・参考資料
1.肝臓がん(肝細胞がん)の相談先・病院を探す
がん診療連携拠点病院・地域がん診療病院とは、専門的で質の高いがん医療を提供する病院として国が指定した病院です。これらの病院では、がんに関する相談窓口「がん相談支援センター」を設置しており、病院の探し方についても相談できます。
2.関連リンク
3.参考資料
- 日本肝臓学会編.肝癌診療ガイドライン2021年版 第5版.2021年,金原出版.
- 日本肝臓学会ウェブサイト.肝癌診療ガイドライン 2021年版 薬物療法アルゴリズムとCQ39の変更;2023年(閲覧日2023年6月6日)https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/medical/
- 日本肝癌研究会編.臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版.2019年,金原出版.
- 日本肝癌研究会編.肝内胆管癌診療ガイドライン2021年版.2020年,金原出版.
- James D. Brierleyほか編.TNM悪性腫瘍の分類 第8版.2017年,金原出版.
- 日本肝臓学会編.肝癌診療マニュアル 第4版.2020年,医学書院.
- 日本臨床腫瘍学会編.新臨床腫瘍学 改訂第6版.2021年,南江堂.
作成協力
2023年11月20日 | 「2.関連リンク」に「国立がん研究センター中央病院・東病院監修 動画とテキストで学べる!がんの解説」へのリンクを追加しました。 |
2023年07月21日 | 「3.参考資料」に日本肝臓学会ウェブサイト.肝癌診療ガイドライン 2021年版 薬物療法アルゴリズムとCQ39の変更を追加しました。 |
2022年06月23日 | 内容を更新しました。 |
2021年10月14日 | 「肝細胞癌ガイドライン2017年版 補訂版」「肝内胆管癌診療ガイドライン」を追加しました。 |
2021年07月01日 | 「1.肝細胞がんの相談先・病院を探す」を追加しました。 |
2019年06月20日 | 「肝腫瘍〈小児〉」へのリンクを追加しました。 |
2018年04月19日 | 「肝癌診療ガイドライン2017年版」「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版(2015年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2015年03月02日 | 「1.肝細胞がんとは」「2.肝がんと肝炎ウイルス」「3.症状」を更新しました。 |
2012年10月25日 | 更新履歴を追加しました。 |
2012年10月04日 | タブ形式に変更しました。 |
2011年12月05日 | 内容を更新しました。 |
1996年05月23日 | 掲載しました。 |