脳腫瘍〈成人〉について
1.脳について
脳は、脳を保護する骨である「頭蓋骨」に囲まれた臓器です。髄膜に包まれ、脳の周りを流れている「脳脊髄液」の中に浮かんでいます(図1)。
脳は大脳、小脳、脳幹に分けることができ、脊髄を加えて中枢神経系と呼ばれます。脳からは、脳神経と呼ばれる12対の末梢神経が出ていて、脳と脊髄の外側は髄膜でおおわれています。
大脳は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉などに分けられ(図2)、それぞれが異なった機能を担っています(表1)。
脳には、神経細胞(ニューロン)と神経膠細胞(グリア細胞)があります。神経細胞は、目・耳・鼻などの感覚器や、内臓、筋肉などと最終的につながっていて、体のいろいろな情報伝達に重要な役割を果たしています。一方、神経膠細胞は、神経細胞や神経線維の位置を固定して保護する働きがあり、神経細胞に栄養を供給したり、情報伝達に必要な物質を伝えたりするなどの役割を果たしています。
2.脳腫瘍とは
脳腫瘍とは、頭蓋骨の中にできる腫瘍の総称で、各部位からさまざまな種類の腫瘍が発生します。脳腫瘍は原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍の2つに分けられます。
2023年6月現在、最新版の2021年WHO分類(WHO:World Health Organization)に基づく診療ガイドラインが発表されていないため、以下の分類は2016年WHO分類に基づいています。
1)原発性脳腫瘍
原発性脳腫瘍は、脳の細胞や脳を包む膜、脳神経などから発生した腫瘍です。組織診検査や遺伝子検査によって150種類以上に分類され、脳腫瘍の性質や患者個々の状態に合わせて治療が行われます。
また、原発性脳腫瘍は、良性腫瘍と悪性腫瘍に分けられます。増殖が速く、周辺の組織にしみ込んでいくように広がって(浸潤)、正常組織との境界がはっきりしない腫瘍は悪性で、主に大脳、小脳、脳幹などの脳実質(神経細胞や神経膠細胞などからなる脳の実質の部分)に生じます。一方、増殖が遅く、正常組織との境界が明瞭な腫瘍は良性の場合が多く、主に脳実質外の組織(髄膜、下垂体、脳神経など)に生じます(表2)。
主な原発性脳腫瘍として、以下があげられます。
神経膠腫(グリオーマ)
脳実質を形成する神経細胞(ニューロン)と神経膠細胞(グリア細胞)のうち、神経膠細胞が腫瘍化したものです。原発性脳腫瘍のうち、髄膜腫に次いで多く見られます。神経膠腫は細胞の種類により、星細胞腫、乏突起膠腫に大きく分けられます。最も多く見られるのは星細胞腫で、悪性度の高い膠芽腫(グリオブラストーマ)などがあります。
中枢神経系原発悪性リンパ腫
脳には明らかなリンパ組織がありませんが、脳から発生した悪性リンパ腫を中枢神経系原発悪性リンパ腫といいます。脳に悪性リンパ腫が見つかったときは、全身を調べて脳以外に病変がないことが確認されて初めて中枢神経系原発悪性リンパ腫と診断されます。
全身の悪性リンパ腫は、病理検査で「ホジキン細胞」などの特徴的な細胞が見られる「ホジキンリンパ腫」と、それ以外の「非ホジキンリンパ腫」に分類されます。一方、中枢神経系原発悪性リンパ腫は「非ホジキンリンパ腫」で、B細胞(リンパ球の一種)の特徴をもつものがほとんどです。
なお、中枢神経系原発悪性リンパ腫では、眼球内リンパ腫を合併する可能性があるため、眼および全身の精密検査が行われます。また中枢神経系原発悪性リンパ腫と診断されていても、数年たってから全身にリンパ腫が見られることがまれにあります。
髄膜腫
髄膜は頭蓋骨の内側にある脳を包んでいる3層構造の膜です(外側から、硬膜、クモ膜、軟膜といいます)。髄膜から生じる腫瘍を髄膜腫といい、原発性脳腫瘍の中では、最も多い腫瘍です。大部分の髄膜腫は良性ですが、まれに悪性腫瘍もあります。
下垂体腺腫
下垂体腺腫は、脳の中心部にある下垂体の一部が腫瘍化したものです。下垂体は、ホルモンの分泌に重要な役割を果たしています。下垂体腺腫は、以下の2つに分けられます。
- ホルモン産生腺腫
ホルモンを過剰に分泌する腫瘍(プロラクチン産生腺腫、成長ホルモン産生腺腫、副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫[クッシング病]など) - 非機能性下垂体腺腫(ホルモン非分泌性腺腫)
ホルモンを分泌しない腫瘍
ホルモンとは、生体内の特定の器官の働きを調節するための情報伝達を担う物質で、ごく微量で作用します。ホルモンの中枢(重要な部分)である下垂体は、視床下部から指令を受けると、全身の各臓器に働きかけ、ホルモンの分泌を促します(表3)。
神経鞘腫
脳から出る神経は、それぞれ頭蓋骨の孔を通り抜けて、目や耳、舌などにつながっています。神経鞘腫は、これらの神経を取り巻いて支えている鞘のような組織(神経鞘)から生じた腫瘍です。発生部位は、聴神経である前庭神経が最も多く(聴神経鞘腫)、次いで三叉神経などに生じます。
頭蓋咽頭腫
下垂体と視神経の近くに生じる腫瘍です。小児に多く見られますが、大人にも発症します。
2)転移性脳腫瘍
転移性脳腫瘍は、他の臓器で生じたがんが、血液の流れによって脳に運ばれ、そこで増えることによって発生したものです。がんの種類としては、肺がんが約半数と多く、次いで、乳がん、大腸がんなどが多いとされています。
3.症状
脳腫瘍が脳に発生して大きくなると、腫瘍の周りには脳浮腫という脳のむくみが生じます。脳の機能は、腫瘍や脳浮腫によって影響を受けます。
脳腫瘍や脳浮腫による症状は、腫瘍によって頭蓋骨内部の圧力が高まるために起こる「頭蓋内圧亢進症状」と、腫瘍が発生した場所の脳が障害されて起こる「局所症状(巣症状)」に分けられますが、さまざまな症状が出る場合があります。軽い症状の場合は、見逃してしまいがちになりますが、思い当たる症状がある場合は、すぐに脳神経外科や脳神経内科(神経内科)を受診するようにしてください。
脳腫瘍自体はまれな病気ですが、脳梗塞や脳出血、認知症などほかの脳の病気が見つかる可能性も十分にあります。感じたことのない違和感や、自分の体に初めて起こった現象に気付いたときには、速やかに病院へ行きましょう。
1)頭蓋内圧亢進症状
脳は頭蓋骨に囲まれた閉鎖空間にあるため、腫瘍ができると頭蓋の中の圧力が高くなります。これによってあらわれる頭痛、吐き気、意識障害などの症状を、頭蓋内圧亢進症状といいます。人間の頭蓋内圧はいつも一定ではなく、睡眠中にやや高くなることから、朝起きたときに症状が強く出ることがあります。
腫瘍が大きくなると、髄液(脳脊髄液)の流れが悪くなり、脳の中の空洞(脳室)に過剰にたまって脳室が拡大する水頭症を起こすことがあり、緊急に治療が必要になります。
2)局所症状(巣症状)
運動や感覚、思考や言語などのさまざまな機能は、脳の中でそれぞれ担当する部位が決まっています。脳の中に腫瘍ができると、腫瘍や脳浮腫によってその部位の機能が障害され、局所症状が出現します(表4)。
3)脳腫瘍の種類と関連する症状
脳腫瘍の種類と関連する症状の特徴は以下の通りです。
神経膠腫(グリオーマ)
腫瘍の場所によってさまざまですが、膠芽腫のように麻痺などが短期間で急速に進むことがあります。
中枢神経系原発悪性リンパ腫
腫瘍の場所によってさまざまですが、急速に認知機能障害や麻痺などが進む可能性が高いです。
髄膜腫
腫瘍の場所によってさまざまですが、腫瘍が小さいうちは症状がありません。脳ドックや頭部外傷などでCTやMRI検査を行い、偶然見つかることもあります。腫瘍が大きくなると、運動麻痺や感覚障害、失語などの局所症状に加え、髄液の流れが悪くなって頭蓋の中にたまる水頭症や、腫瘍が周囲の組織を圧迫して生じる頭蓋内圧亢進症状が起こることがあります。
下垂体腺腫
下垂体は視神経の下にあるので、腫瘍が大きくなると視力・視野障害が起こることが多くあります。特に視野の外側が見えにくくなる両耳側半盲という症状が特徴的です。また、腫瘍の圧迫でホルモンの産生が障害され(下垂体機能低下症)、女性では月経不順が、男性では体毛が薄くなったり、性機能障害(性欲低下や勃起不全など)が見られたりします。抗利尿ホルモンの産生が障害されることで、尿が大量に出る尿崩症が起こることがあります。
また、下垂体腺腫では、腫瘍の種類(ホルモン産生腺腫とホルモン非分泌性腺腫に分類)や産生されるホルモンの違いにより、さまざまな症状が起こります(表5)。
神経鞘腫
聴神経鞘腫では、聴力低下、耳鳴り、めまい、歩行時のふらつき、顔面麻痺などの症状が生じることがあります。また三叉神経鞘腫では、顔面の痛み・感覚低下が生じます。
頭蓋咽頭腫
腫瘍が大きくなると、腫瘍のすぐ近くにある視神経や視交叉(視神経交叉部)が圧迫され、視力や視野の障害が起こります。また、下垂体や視床下部の圧迫によりホルモンの産生が低下し、月経不順や性機能障害、甲状腺機能低下などが起こります。尿が大量に出る尿崩症が起こることもあります。
転移性脳腫瘍
転移性脳腫瘍の症状は、頭蓋内圧亢進症状や局所症状など、腫瘍の大きさや位置によって異なります。また、てんかん発作、高次機能障害、精神症状などが発生することもあります。
2023年06月22日 | 「脳腫瘍診療ガイドライン 1.成人脳腫瘍編・2.小児脳腫瘍編 2019年版」より内容を更新しました。 |
2019年06月20日 | タイトルの表記を修正し、「脳腫瘍〈小児〉」へのリンクを関連情報としました。 |
2019年05月13日 | 関連情報として「神経膠腫(グリオーマ)」「小児がん情報サービス 脳腫瘍」へのリンクを追加しました。 |
2018年10月12日 | 「脳腫瘍診療ガイドライン1 2016年版」「臨床・病理 脳腫瘍取扱い規約 第4版(2018年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2017年08月21日 | 掲載準備中としました。 |
2006年10月01日 | 更新しました。 |
1997年04月28日 | 掲載しました。 |
脳腫瘍〈成人〉 検査
脳腫瘍が疑われる場合、腫瘍の位置や大きさを確かめるために、CT検査やMRI検査などの画像診断を行います。また、脳に栄養を供給している血管と腫瘍との関係を確認するために、脳血管造影検査を行うこともあります。最終的には生検(腫瘍の一部を採取すること)もしくは手術を経て、病理組織検査と遺伝子解析(遺伝子検査)を行うことによって、詳細な診断を確定します。
1.CT検査、MRI検査
CT検査はX線を、MRI検査は磁気を使った検査です。
頭蓋骨の内部を描き出し、腫瘍の存在を調べます。多くの施設では、CT検査はMRI検査に比べて迅速に検査することができるため、緊急性があるときはCT検査を行います。CT検査やMRI検査では、病巣(腫瘍)をより鮮明に描き出すために、必要に応じて造影剤を使った検査を行います。造影剤を使うと、腫瘍の広がりや悪性度なども術前に推定することができます。
また、通常のCT検査やMRI検査に加え、特殊なMRI検査を行うことがあります。例えば、脳の血液の変化を視覚化するfMRI(functional MRI)を用いて、脳の運動野(手足の動きに関与する脳の部位)や言語野(言葉に関与する脳の部位:言語中枢)の位置を調べることがあります。
2.脳血管造影検査
造影剤を用いてX線で脳の血液の流れを撮影する検査です。従来は、大腿部の動脈に挿入したカテーテル(細い管)から造影剤を注入して、血管の走行と腫瘍との関係を調べていましたが、頻度は少ないものの脳梗塞が起こることがあり、脳腫瘍の手術前の検査としては避けることが増えています(必要と判断された場合には行います)。一方で、最近では脳血管造影のかわりに、CT装置やMRI装置を用いた比較的体への負担が少ない検査が行われることが多くなっています。
- 3D-CTアンギオ検査:造影剤とヘリカルCT(らせん状に連続回転して撮影していく方式のCT装置)を用い、脳血管の構造を立体的に映し出して詳しく調べる検査です。
- MRA検査:MRI装置を用い、脳の血管の様子を立体的に観察して詳しく調べる検査です。
その他、脳血管造影検査時に麻酔薬を使用して左右大脳半球(左脳、右脳)の優位半球を判定する(言語中枢が左右のどちらにあるかを確認する)検査が行われることもあります(和田テスト:プロポフォールテストともいいます)。
これらの診察や検査によって、腫瘍の発生部位や広がりなどを推測することが可能です。しかし、診断を確定するためには、手術によって腫瘍を採取しての病理検査(病理診断)や遺伝子検査が必要です。
3.腫瘍マーカー検査
現在のところ、脳腫瘍では、診断や治療効果の判定に使用できるような特定の腫瘍マーカーはありません。
脳腫瘍〈成人〉 治療
脳腫瘍〈成人〉の治療には、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法があります。また、診断されたときから、がんに伴う心と体のつらさなどを和らげるための緩和ケア/支持療法を受けることができます。
1.悪性度と治療の選択
治療法は、がんの性質や進行の程度、体の状態などに基づいて検討します。脳腫瘍の治療を選択する際には、次のことを調べます。
1)悪性度(グレード)
脳腫瘍では、他のがんのようにTNM分類やステージ分類はありませんが、手術によって摘出した腫瘍組織の病理診断や遺伝子検査を基に、悪性度(グレード)が診断されます。グレードというのは、治療をしない場合の、腫瘍の増大・進行、予後の目安で、脳腫瘍では1~4の4段階に分けられます。グレード1は良性腫瘍で、手術で取り除くことができると、再発の危険は少なくなります。グレード2〜4は悪性腫瘍で、グレードが上がるにつれて、腫瘍の増殖速度が速くなり、悪性度が増します。
グレードの診断は、WHO(WHO:World Health Organization)分類に基づいて行われますが、最新版の2021年WHO分類に基づいた診療ガイドラインが発表されていないため、2023年6月現在、グレードの診断は2016年WHO分類に従って行われ、治療の選択は、2019年版の脳腫瘍診療ガイドラインに従って行われています。最新版の2021年WHO分類では、腫瘍組織の遺伝子検査を基にした遺伝子診断への移行が進んで病理診断名も変更されています。
原発性脳腫瘍のうち、患者の数が多い上位25種について、グレードおよび年齢の中央値(対象者を年齢順に並べたとき、ちょうど真ん中になる人の年齢:脳腫瘍は種類によって好発年齢が異なります)を表6に示します。
神経膠腫(グリオーマ)、中枢神経系原発悪性リンパ腫は、脳実質(大脳、小脳、脳幹)から生じる悪性腫瘍です。一方、髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫は、脳実質外の組織(髄膜、下垂体、脳神経など)から生じます。これらは基本的に良性で、転移することはほとんどありません。
2)治療の選択
治療は、腫瘍の種類やグレードに応じた標準治療を基本として、本人の希望や生活環境、年齢を含めた体の状態などを総合的に検討し、担当医と話し合って決めていきます。
良性腫瘍は、正常組織との境界がはっきりしているため手術で切除できるものが多く、完全に切除すれば治癒が期待できます。脳の奥深くに腫瘍があるなど切除が困難な場合には、手術で腫瘍の一部を切除してから、放射線治療を行うことがあります。腫瘍の増殖速度が遅い場合は、すぐに治療せず、しばらく経過を観察することもあります。
悪性腫瘍では、腫瘍の種類や悪性度に応じて、手術や放射線、薬物療法を組み合わせた治療を行います。
図3は、脳腫瘍の標準治療を示したものです。
担当医から複数の治療法を提案されることもあります。治療を選ぶにあたって分からないことは、まず担当医にしっかり確認することが大切です。悩みや困りごとについては、がん相談支援センターで相談することもできます。
妊娠や出産について
がんの治療が、妊娠や出産に影響することがあります。将来子どもをもつことを希望している場合には、妊孕性を温存すること(妊娠するための力を保つこと)が可能かどうかを、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
2.手術(外科治療)
手術によって病変をすべて摘出できれば、それが最も有効な治療法です。特にグレード1の良性脳腫瘍は、手術で完全に摘出できればほとんどの場合、再発することはありません。
また、悪性脳腫瘍であっても、手術による生検で中枢神経系原発悪性リンパ腫や胚細胞腫と診断がつけば、その後の薬物療法や放射線治療の効果が高いと考えられるので、無理に摘出する必要がない場合もあります。
しかし、多くの悪性脳腫瘍の手術の原則は、症状を悪化させないように可能な限り腫瘍を摘出することです。
右前頭葉のようにあまり重要な働きをしていないところに腫瘍ができた場合には、腫瘍を肉眼的に全摘出することが可能です。一方で、運動野(手足の動きに関与する脳の部位)や言語野(言葉に関与する脳の部位:言語中枢)に腫瘍が発生した場合には、腫瘍の全摘出により症状が悪化することがあるため、無理な摘出は行いません。その場合は、慎重な部分摘出によって病理診断(病理検査)を行い、放射線治療や薬物療法を主とした治療になります。
術中ナビゲーション
腫瘍の位置を正確に把握して安全に手術を行うために、考え出された医療用ナビゲーションシステムで、精度の高いナビゲーション装置を使います。術前のCTやMRIの画像データと位置感知カメラから腫瘍とその周辺を立体的に描き出し、手術器具の位置と周辺の情報をリアルタイムに示して正確な手術をサポートします。
術中モニタリング
手術による運動麻痺などの後遺症を避けるため、脳の重要な部分に電気刺激を行って、手術中に機能を確かめます。運動機能や感覚機能をSEP(体性感覚誘発電位)やMEP(運動誘発電位)といった術中脳波や筋電図でモニターしながら手術を行います。使用する術中モニタリングの種類は腫瘍の位置で決まります。
覚醒下手術
言語機能や高次機能、運動機能を温存しながら脳腫瘍を摘出する目的で行います。手術の途中で麻酔を緩めて意識をはっきりさせ、実際に機能が保たれていることを確認しながら腫瘍を摘出します。脳は、体中の痛みを感じることができますが、脳自体の痛みは感じないので、手術中に患者と会話しながら手術を行います(脳を切除しても痛くありません)。
術中MRI
脳などの様子をMRI画像で確認しながら手術を行うシステムです。腫瘍が摘出できたかどうかを確認するために、術中にMRI撮影を行うこともあります。
手術や生検で得られた腫瘍組織は、病理診断によって腫瘍の性質や遺伝子変異、悪性度を診断し、放射線治療や薬物療法の方針を決定します。手術中に病理診断を行うことができるかどうかは手術を適切に行う(最適な手術方法と手術範囲を選択する)上でとても大切です。
手術の合併症
手術では、脳の機能を温存しながらできるかぎり腫瘍を摘出します。
画像診断の進歩により、腫瘍の部位や広がりを正確に把握することが可能になり、一般に、手術前に比べ手術後の神経症状(運動や感覚、思考や言語などのさまざまな機能が障害されて起こる症状)が悪化することは少なくなりましたが、手術によって起こる合併症は、腫瘍の部位、大きさによってさまざまです。
手術後に一時的に生じる脳浮腫(脳のむくみ)により症状が悪化することや、てんかんを起こすこともあります。手術前に主治医にどのようなリスクがあるのか、よく聞いておくことがとても重要です。
また、手術中や手術後に出血などが起こると、麻痺や意識障害などの重篤な障害を来すことがあります。そのため、手術後に強い頭痛や吐き気が見られたり、意識障害や運動麻痺などが出現したりした場合には、早急にCT検査を行い、必要に応じて再手術を行います。
3.放射線治療
高エネルギーのX線やそのほかの放射線を照射して、腫瘍細胞にダメージを与える方法です。脳腫瘍の治療において、放射線治療は重要な治療法の1つであり、手術や薬物療法と組み合わせて行うこともあります。治療の際には、放射線をできるだけ腫瘍部分だけに照射し、正常組織には照射しない、もしくは照射量が少なくなるようにします。
悪性腫瘍に対する放射線治療
悪性腫瘍は正常組織との境界がはっきりしないので、腫瘍のみに放射線をあてることが難しくなります。そのため、悪性腫瘍では1週間に数回、数週間にわたって、腫瘍を中心に一部の正常な脳も含めて放射線をあて、腫瘍を破壊します。
良性腫瘍に対する放射線治療
良性腫瘍は正常組織との境界がはっきりしているため、正常な脳組織に放射線をあてず、腫瘍だけをピンポイントに、1回か数回に分けて放射線を照射することが可能な場合があります。これは定位放射線治療と呼ばれ、ミリ単位の正確さで治療が可能です。ガンマナイフ(γ線)やサイバーナイフ(X線)という特殊な装置を使います。良性腫瘍に対する放射線治療の目的は腫瘍を増大させないことです。必ずしも腫瘍が小さくなるわけではありません。
放射線治療の副作用
放射線治療後すぐにあらわれる副作用としては、放射線が照射された部位に起こる皮膚炎、脱毛、中耳炎、外耳炎などや、照射部位とは関係なく起こるだるさ、吐き気、嘔吐、食欲低下などがあります。これらの症状は照射後約1カ月以内で消失します。また、脳そのものの機能に影響が及ぶこともあります。中には、放射線治療が終了して数カ月から数年たってから起こる症状(晩期合併症)もあります。患者によって副作用の程度は異なります。
4.薬物療法
悪性脳腫瘍に対しては、腫瘍の種類や個別の状況を踏まえながら、細胞障害性抗がん剤や分子標的薬などが用いられることがあります。良性腫瘍に対しては原則的には薬物療法を行いませんが、一部の下垂体腫瘍では薬物療法だけで腫瘍が小さくなるものもあります。
薬物療法の副作用について
薬物療法によって副作用が生じることがあるため、体の状態やがんの状態を考慮した上で、適切な治療が選択されます。担当医から、治療の具体的な内容をよく聞き、不安な点や分からない点を十分に話し合った上で、納得できる治療を選びましょう。
副作用については、使用する薬剤の種類や薬ごとに異なり、その程度も個人差があります。最近では副作用を予防する薬なども開発され、特に吐き気や嘔吐については、症状をコントロールすることができるようになってきました。
しかし、副作用の種類や程度によっては、治療が継続できなくなることもあります。自分が受ける薬物療法について、いつどんな副作用が起こりやすいか、どう対応したらよいか、特に気をつけるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医によく確認しておきましょう。また、副作用と思われる症状がみられたときには、迷わずに担当医に伝えましょう。
脳浮腫に対する治療
悪性脳腫瘍の患者で見られる強い脳浮腫に対しては、ステロイド治療が行われます。脳浮腫が強くなって頭痛や手足の麻痺などさまざまな症状があらわれても、ステロイド治療により脳浮腫が改善して症状が劇的によくなることがあります。しかしステロイドの効果は一時的なものです。腫瘍が進行した場合には、ステロイドが増量されることもありますが、胃潰瘍や糖尿病、感染(肺炎などを起こしやすくなる)、骨折などの副作用に注意が必要となります。
けいれん発作(てんかん)に対する治療
脳の神経細胞は、その一つ一つが適切な信号を送り出すことによって、体の働きを調節します。ところが、脳腫瘍やその治療の影響で、脳のある場所の神経細胞が一斉に興奮し、一度に信号を送ることがあります。このときに起こる発作をけいれん発作といいます。
刺激される脳の部位によって、症状はさまざまですが(例:片方の手や足が自分の意思に反して震える、言葉が話せなくなるなど)、脳腫瘍の患者は、けいれん発作を繰り返すてんかんを合併することが少なくありません。脳全体に神経細胞の異常な興奮が広がった場合には、意識を失い、全身の筋肉が震えたり、つっぱったりするなどの大発作となります。大発作は、脳に酸素が十分行き渡らなくなり、重篤な事態を引き起こす可能性があるため、すぐに発作を止める処置をしてもらう必要があります。
てんかんを予防するために、抗てんかん薬が処方されます。規則正しく服用を続けることで、発作を起こさずに生活することが期待されますが、抗てんかん薬を服用していれば絶対に発作が起きないということではありません。自らの判断で薬の飲み方を変えたり、薬を飲むことをやめたりすると、発作が起きる可能性があります。
発作のある方や起こす危険がある方は、車の運転はできません。
5.主な脳腫瘍の治療方法
ここでは、原発性脳腫瘍のうち、患者の数が多いものと、転移性脳腫瘍について治療方法の概要を示します。
1)神経膠腫(グリオーマ)の治療
神経膠腫は浸潤しながら増殖し、髄液の流れに乗って脳の別の部位に転移することがあります(播種)。また、正常組織との境界がはっきりしないため、腫瘍のすべてを手術で切除することが難しいのが特徴です。手術では、できるだけ多くの腫瘍を切除することを目指し、残った腫瘍に対しては、放射線治療や薬物療法を行います。
また、膠芽腫の治療も、一般に、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせて行います。
2)中枢神経系原発悪性リンパ腫の治療
中枢神経系原発悪性リンパ腫は化学放射線療法(薬物療法と併用して放射線治療を行う方法)でいったんは腫瘍が消失することが多いので、手術による生検で診断がつけば、全摘出を目的とした手術は行いません。薬物療法を行ったあとで、放射線を脳全体にあてる治療(全脳照射)を組み合わせて行います。
3)髄膜腫の治療
手術で腫瘍を摘出することが基本ですが、再発を繰り返す場合や、手術により合併症を来す可能性が高い場合には、定位放射線治療が行われることがあります。高齢者や、無症状で腫瘍が小さい場合は、経過を観察することもあります。
4)下垂体腺腫の治療
ホルモンの過剰分泌による症状がなく、視力・視野障害などの症状がない場合には、MRI検査を行って経過観察します。
症状がある場合には手術を行います。下垂体は鼻の奥にあるので、鼻腔から神経内視鏡などを用いて腫瘍を摘出します。手術で腫瘍を完全に切除できなかった場合などでは、腫瘍を小さくしたり、大きくなることを防いだりする目的で、定位放射線治療を行うこともあります。
手術で腫瘍を切除するとホルモンの産生が障害されることがあるため、治療後、必要に応じてホルモン補充療法を行います。
プロラクチン産生腺腫は、手術せずに内服薬での治療が可能です。成長ホルモン産生腺腫に対しては、ホルモン類似薬による治療が有効な場合もあります。
5)神経鞘腫の治療
腫瘍が大きい場合は、手術で摘出します。手術により顔面神経麻痺などが生じる可能性があるため、手術では脳波や顔面神経モニタリングなどが必要です。腫瘍の大きさや患者の状態によっては、腫瘍の増大を阻止する目的で定位放射線治療を行います。
症状がなく腫瘍が小さい場合には、定期的にMRIを撮影して経過観察することもあります。
6)頭蓋咽頭腫の治療
手術が基本です。下垂体腫瘍と同じように、鼻腔からの神経内視鏡により治療することが増えてきました。再発を繰り返す腫瘍では定位放射線治療を行います。手術で腫瘍を切除することによって、下垂体ホルモンが低下した場合は、ホルモン補助療法が必要になります。
7)転移性脳腫瘍の治療
転移した脳腫瘍の数、場所と広がり、原発巣(最初に発生したがん)や全身の状態によって、手術、放射線治療、薬物療法を、単独もしくは組み合わせながら治療を行います。
特に、放射線治療は重要な役割を果たします。転移した腫瘍が小さく、個数が少ない場合には、腫瘍だけにピンポイントで放射線をあてる定位放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフ)が行われます。患者によっては脳全体に放射線をあてる全脳照射が有効なこともあるため、個々の状況を踏まえて検討されます。一般に、腫瘍の大きさが3cm以上の場合には、定位放射線治療の効果が得られにくいため、手術が行われます。また、分子標的薬の効果が見込まれる腫瘍であれば薬物療法を検討することもあります。
転移性脳腫瘍の治療は、最初のがんの担当医を中心に、放射線科や脳神経外科など複数の科の医師が、連携をとりながら進めていきます。不安や疑問点が生じた際には、まず、最初のがんの担当医にしっかりと相談をすることが大切です。
6.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケア/支持療法は、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげたり、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くしたりするために行われる予防、治療およびケアのことです。
決して終末期だけのものではなく、がんと診断されたときから始まります。つらさを感じるときには、がんの治療とともに、いつでも受けることができます。本人にしか分からないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。
7.リハビリテーション
リハビリテーションは、がんやがんの治療による体への影響に対する回復力を高め、残っている体の能力を維持・向上させるために行われます。また、緩和ケアの一環として、心と体のさまざまなつらさに対処する目的でも行われます。
一般的に、治療中や治療終了後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下します。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などをリハビリテーションとして行うことが大切だと考えられています。日常生活の中でできるトレーニングについて、医師に確認しましょう。
脳腫瘍では、腫瘍や治療の影響で、運動や認知の機能にさまざまな障害が生じる可能性があります。しかし、障害が軽度の場合には、自分で気が付くことが困難なことも少なくありません。また、入院中には分からなくても、退院後、日常生活の中で、記憶や注意などに問題を来すこともあります。
このため、脳腫瘍では、専門家が病状と身体機能や認知機能を適切に評価しながら、必要に応じてリハビリテーションの実施が検討されます。
1)運動障害に対するリハビリテーション
脳腫瘍では、良性・悪性や転移の有無に関わらず、運動障害(片麻痺や運動失調など)が残った場合に、リハビリテーションが有効であることが示されているため、実施が推奨されています。
リハビリテーションの内容は、個々の患者の状況に応じて計画が立てられます。一般的には、理学療法や作業療法、言語療法、レクリエーション、看護、ケースワーク(日常生活が困難な人に対して相談や援助を行うこと)などを組み合わせた包括的なリハビリテーションが効果的とされており、治療後だけでなく、治療と並行して行うこともあります。
2)高次脳機能障害に対するリハビリテーション
脳腫瘍の患者で、腫瘍や治療の影響により、高次脳機能障害(注意障害、記憶障害、遂行機能障害)が残った場合に、さまざまな訓練法を組み合わせた認知リハビリテーションの実施が推奨されています。
退院後、日常生活に不具合が生じたり、仕事が以前と同じようにできなかったりすることで障害に気が付くこともあります。しかし、本人は気が付かないことも多いため、ご家族や周りの人が、これまでと変わったことはないかなど、患者の様子を注意深く観察することも重要です。
8.再発した場合の治療
再発とは、治療によって、見かけ上なくなったことが確認されたがんが、再びあらわれることです。原発巣のあった場所やその近くに、がんが再びあらわれることだけでなく、別の臓器で「転移」として見つかることも含めて再発といいます。
腫瘍がどのように再発するかは腫瘍の種類によって異なりますが、多くの場合、もともと腫瘍があった場所に近い場所で再発(局所再発)が起こります。
再発といってもそれぞれの患者で状態は異なります。 病気の広がりや、再発した時期、これまでの治療法などによって総合的に治療法を判断する必要があります。再手術を行ったり、悪性脳腫瘍では薬物療法を再開したり、薬を変えたりすることがあります。それぞれの患者の状況に応じて、治療やその後のケアを決めていきます。
転移について
転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れなどに乗って別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。良性腫瘍が転移することはありませんが、悪性脳腫瘍でも肺や肝臓などに転移することはほとんどありません。ただし、脳と脊髄はつながっているため、頭蓋内に発生した腫瘍が髄液(脳脊髄液)を伝わって脳の別の部分や脊髄に転移すること(播種)があります。
悪性脳腫瘍の治療中に、背中や腰の強い痛み、足のしびれや運動麻痺などがあった場合には、脊髄への転移を疑って脊髄MRI検査を行います。
脳腫瘍〈成人〉 療養
1.経過観察
治療を行ったあとの体調や再発の有無を確認するために、定期的に通院します。再発の危険性が高いほど頻繁、かつ長期的に通院することになります。脳腫瘍では、定期的にCTやMRIによる頭部の画像診断を行います。
脳腫瘍にはさまざまな種類があり、治療もさまざまで、症状や状態も一人一人異なります。悪性脳腫瘍であっても、治療をしながらこれまで通りに仕事をしている人も多数います。
長期の入院や定期的な通院、自宅療養が必要となる場合には、できれば周りの人に病気のことを伝え、理解と協力を得ておきましょう。
2.日常生活を送る上で
規則正しい生活を送ることで、体調の維持や回復を図ることができます。禁煙、節度のある飲酒、バランスの良い食事、適度な運動などを日常的に心がけることが大切です。
症状や治療の状況により、日常生活の注意点は異なりますので、体調を確認しながら、担当医とよく相談して無理のない範囲で過ごしましょう。
脳腫瘍や治療の影響で、運動や認知の障害が起こることがあるため、運動や認知機能の評価を行いながら、必要に応じて、リハビリテーション(リハビリ)が行われます。
運動機能障害や高次脳機能障害は、患者個々の状況によってさまざまです。入院中には分からなくても、退院後、普段の仕事や生活に戻ったときに、以前できたことが同じようにできないなど、障害に気が付くこともあります。日常生活の中で、困ったことや気が付いたことは、早めに担当医や看護師、リハビリのスタッフ(一般に、作業療法士や理学療法士、言語聴覚士など)に相談しましょう。
神経症状(運動や感覚、思考や言語などのさまざまな機能が障害されて起こる症状)が強い場合には、訪問看護師や医師による在宅ケアを受けることもできます。
1)薬物療法中の日常生活について
薬物療法の副作用を予防したり、症状を緩和したりする支持療法が進歩したため、通院で薬物療法を行うこともあります。
通院での薬物療法は、仕事や家事、育児、介護など日常生活を続けながら治療を受けることができますが、日常生活の中で、無理をして体調を崩してしまうことがあります。薬物療法中は、万全の体調ではないことを忘れないようにしましょう。また、いつも医療者がそばにいるわけではないため、不安に感じることもあるかもしれません。予想される副作用やその時期、対処法について医師や看護師、薬剤師に事前に確認し、通院時には疑問点や不安点などを相談しながら治療を進めると良いでしょう。
2)性生活について
性生活ががんの進行に悪影響を与えることはありません。また、性交渉によってパートナーに悪い影響を与えることもありません。しかし、がんやがんの治療は、性機能そのものや、性に関わる気持ちに影響を与えることがあります。がんやがんの治療による性生活への影響や相談先などに関する情報は、「がんやがんの治療による性生活への影響」をご覧ください。
薬物療法中やそのあとは、腟分泌物や精液に薬の成分が含まれることがあるため、パートナーが薬の影響を受けないように、コンドームを使いましょう。また、薬は胎児に影響を及ぼすため、治療中や治療終了後一定期間は避妊しましょう。経口避妊薬などの特殊なホルモン剤を飲むときは、担当医と相談してください。
以下の関連情報では、療養中に役立つ制度やサービスの情報を掲載しています。
脳腫瘍〈成人〉 臨床試験
より優れた標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。
現在行われている標準治療は、より多くの人により優れた治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。
脳腫瘍の臨床試験を探す
国内で行われている脳腫瘍の臨床試験が検索できます。
がんの臨床試験を探す チャットで検索
※入力ボックスに「脳腫瘍」と入れて検索を始めてください。チャット形式で検索することができます。
がんの臨床試験を探す カテゴリで検索 脳腫瘍
※国内で行われている脳腫瘍の臨床試験の一覧が出ます。
臨床試験への参加を検討する際は、以下の点にご留意ください
- 臨床試験への参加を検討したい場合には、担当医にご相談ください。
- がんの種類や状態によっては、臨床試験が見つからないこともあります。また、見つかったとしても、必ず参加できるとは限りません。
脳腫瘍〈成人〉 患者数(がん統計)
1.患者数
年に日本全国で悪性の脳腫瘍と診断されたのは(小児を含めて)例(人)です。
2.生存率
脳腫瘍の治療成績を示す指標の1つとして、生存率があります。生存率とは、がんと診断されてからある一定の期間経過した時点で生存している割合のことで、通常はパーセンテージ(%)で示します。がんの治療成績を表す指標としては、診断から5年後の数値である5年生存率がよく使われます。
以下に、原発性脳腫瘍のうち、患者の数が多い上位25種について、脳腫瘍全国集計調査委員会(The Committee of Brain Tumor Registry of Japan)が公表している全国調査から算出された5年生存率のデータを示します。このデータは、およそ15年前の腫瘍の診断、治療に基づくものです。したがって、診断や治療の進歩により、現在は下記の数字より治療成績は向上していると考えられます。
データは平均的、かつ確率として推測されるものであるため、すべての人に当てはまる値ではありません。
脳腫瘍〈成人〉 予防・検診
1.発生要因
脳腫瘍の発生要因はほとんど明らかになっていません。環境やストレスなど特定のことが原因で脳腫瘍になるわけではありません。
2.予防と検診
1)予防
日本人を対象とした研究では、がん全般の予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスの良い食事、身体活動、適正な体形の維持、感染予防が有効であることが分かっています。
脳腫瘍全般については、現在のところ、特有の予防法は確立されていません。
2)がん検診
がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。わが国では、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(令和3年一部改正)」でがん検診の方法が定められています。
脳腫瘍については、現在は指針として定められているがん検診はありませんが、脳ドックなどで脳腫瘍が見つかることがあります。
悪性脳腫瘍は症状が急速に進行することが特徴であるため、気になる症状がある場合には、脳神経外科や脳神経内科(神経内科)を早めに受診することをお勧めします。
なお、がん検診は、症状がない健康な人を対象に行われるものです。症状をもとに受診して行われる検査や、治療後の経過観察で行われる定期検査は、ここでいうがん検診とは異なります。
2023年06月22日 | 「脳腫瘍診療ガイドライン 1.成人脳腫瘍編・2.小児脳腫瘍編 2019年版」、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(令和3年10月1日一部改正)」を確認し、更新しました。 |
2019年06月20日 | タイトルの表記を修正し、「脳腫瘍〈小児〉」へのリンクを関連情報としました。 |
2019年05月13日 | 関連情報として「神経膠腫(グリオーマ)」「小児がん情報サービス 脳腫瘍」へのリンクを追加しました。 |
2018年10月12日 | 「脳腫瘍診療ガイドライン1 2016年版」「臨床・病理 脳腫瘍取扱い規約 第4版(2018年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2017年08月21日 | 掲載準備中としました。 |
2006年10月01日 | 更新しました。 |
1997年04月28日 | 掲載しました。 |
脳腫瘍〈成人〉 関連リンク・参考資料
1.脳腫瘍〈成人〉の相談先・病院を探す
がん診療連携拠点病院・地域がん診療病院とは、専門的で質の高いがん医療を提供する病院として国が指定した病院です。これらの病院には、がんに関する相談窓口「がん相談支援センター」が設置されており、病院の探し方についても相談することができます。
2.参考資料
- 日本脳腫瘍学会編.脳腫瘍診療ガイドライン 1.成人脳腫瘍編・2.小児脳腫瘍編 2019年版.2019年,金原出版.
- 日本脳神経外科学会・日本病理学会編.臨床・病理 脳腫瘍取扱い規約 第4版.2018年,金原出版
- 日本がんリハビリテーション研究会.がんのリハビリテーションベストプラクティス.2015年,金原出版
- Ostrom QT, Gittleman H, Liao P et al. CBTRUS Statistical Report: Primary brain and other central nervous system tumors diagnosed in the United States in 2010-2014. Neuro-Oncology. 2017; 19 (s5)
- The Committee of Brain Tumor Registry of Japan. Report of brain tumor registry of Japan (2005-2008) 14th edition. Neurologia medico-chirurgica 2017; Suppl: 57
- International Agency for Research on Cancer. WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System (WHO Health Organization Classification of Tumours), 2016, World Health Organization
作成協力
2023年06月22日 | 内容を更新しました。 |
2021年07月01日 | 「1.脳腫瘍〈成人〉の相談先・病院を探す」を追加しました。 |
2019年06月20日 | タイトルの表記を修正し、「脳腫瘍〈小児〉」へのリンクを関連情報としました。 |
2019年05月13日 | 関連情報として「神経膠腫(グリオーマ)」「小児がん情報サービス 脳腫瘍」へのリンクを追加しました。 |
2018年10月12日 | 「脳腫瘍診療ガイドライン1 2016年版」「臨床・病理 脳腫瘍取扱い規約 第4版(2018年)」より、内容の更新をするとともに、4タブ形式に変更しました。 |
2017年08月21日 | 掲載準備中としました。 |
2006年10月01日 | 更新しました。 |
1997年04月28日 | 掲載しました。 |