神経芽腫〈小児〉について
1.神経芽腫の発生部位について
神経芽腫は、主に交感神経節や副腎髄質などから発生することが分かっています(図1)。
交感神経節は、脊椎(背骨)に沿って縦に連なる交感神経幹(神経線維の束)の中に並んでいる交感神経の集まりです。自律神経の1つで、内臓の働きを調節したり、血管を収縮させる働きがあります。
副腎髄質は、左右の腎臓の上にある副腎の中心部で、アドレナリンやノルアドレナリンという物質を分泌して、体のストレス反応などの調節を行っています。
2.神経芽腫とは
神経芽腫は、体幹(手足を除いた体の軸となる部分)の交感神経節や副腎髄質などから発生する小児がんの1つです。約65%が腹部で発生し、その半数は副腎髄質から発生します。その他では、頸部、胸部、骨盤部などからも発生します。
神経芽腫は5歳未満の小児に多く見られます。腫瘍には、悪性度の高いもの、自然に小さくなっていくもの(自然退縮)など、さまざまな種類がありますが、1歳半未満の小児では、予後が良好であることが多いです。
病理分類(組織分類)
腫瘍組織の病理分類では、神経芽腫、神経節芽腫、神経節腫の3つがあり、これら3つを総称して神経芽腫群腫瘍といわれています。ただし、神経節腫は良性腫瘍で、一般的には、小児がんである悪性腫瘍は、神経芽腫と神経節芽腫の2つを指します。
3.症状
初期の段階では、ほとんどが無症状です。進行してくると、おなかが腫れたり、触ったときに硬いしこりが触れて分かる場合があります。さらに発熱、貧血、不機嫌、歩かなくなる、眼瞼(まぶた)の腫れや皮下出血など、転移した場所(骨・骨髄など)によってさまざまな症状があらわれます。胸部から発生すると咳や息苦しさ、肩から腕の痛みなどが見られることがあります。腫瘍が脊柱の中に進展して、脊髄神経を圧迫すると、下肢麻痺(下半身の麻痺:排尿や排便の障害、歩行の障害など)を生じることもあります。また、特異的な症状として、眼球クローヌス/ミオクローヌス症候群と呼ばれる、目をきょろきょろさせたり、自分の意志とは無関係な動きをしたりすることがあります。
4.発生要因
神経芽腫の発生要因は、多くの場合は不明であり、遺伝や生活環境など特定の原因によるものではありません。
神経芽腫〈小児〉 検査
神経芽腫が疑われる場合、視診や触診などの診察に加え、尿検査・血液検査が行われます。そして、腫瘍発生部位の確認や病期分類のために超音波(エコー)検査やCT検査、MRI検査、遠隔転移の診断のためにMIBG(メタヨードベンジルグアニジン)シンチグラフィ、骨転移の確認のためにX線検査、骨シンチグラフィなどの画像診断が行われます。骨髄転移の有無を調べるために、骨髄検査も行われます。また、病理診断と分子生物学的診断のために組織生検(腫瘍の一部を切り取ること)が行われます。
1.尿検査・血液検査
神経芽腫の腫瘍細胞では、神経伝達物質であるカテコールアミンが増加します。カテコールアミンは、体内で代謝されると、バニリルマンデル酸(VMA)とホモバニリン酸(HVA)となって尿中に排泄されるため、尿検査でこれらの値を調べて確認します。ただし、一部の神経芽腫ではVMA、HVAの値が増えないことがあります。
血液中の腫瘍マーカーである神経特異エノラーゼ(NSE)、乳酸脱水素酵素(LDH)、フェリチンなどが高値を示すこともあるため、血液検査を行います。骨髄に転移している場合は、貧血や血小板減少が認められることがあります。
2.画像診断
超音波(エコー)検査は超音波を、CT検査はX線を、MRI検査は磁気を使った検査です。腫瘍の発生部位を確認したり、腫瘍の大きさや周囲への広がり方を調べて、がんの進行の程度を判定(病期分類)するのに役立ちます。
MIBGシンチグラフィは、メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)という物質が神経芽腫の腫瘍部位に集まる性質があることから、発生部位の確認だけでなく、遠隔転移巣の診断にも役立つ検査です。ごくまれに、MIBGが腫瘍部位に集まらないこともありますが、その際にはPET検査が有用な場合があります。
また、骨転移の有無や広がりの程度を調べるためにX線検査や骨シンチグラフィなどの検査も行われます。
3.骨髄検査
骨髄検査は、腫瘍細胞が骨髄まで浸潤しているかどうかを調べるために行います。左右の腸骨(腰の骨)から骨髄液を吸引して、顕微鏡を用いて診断します。
4.病理検査
神経芽腫の確定診断は、腫瘍摘出や生検により採取した腫瘍組織を顕微鏡で調べて決定します。
病理組織は、後述の国際神経芽腫病理分類(INPC:International Neuroblastoma Pathology Classification)に従って分類され、神経芽腫の予後の判定に重要な役割を果たします。
神経芽腫〈小児〉 治療
神経芽腫の治療法は、リスク分類に従って選択されます。
1.リスク分類と治療の選択
1)リスク分類
一般的には、国際神経芽腫リスク分類(INRGリスク分類、INRG:International Neuroblastoma Risk Group)が用いられます。この分類では、以下(1)~(6)の組み合わせにより、超低リスク、低リスク、中間リスク、高リスクの4つのリスクグループに分けられます(表1)。
(1)病期(腫瘍の進行の程度)
(2)診断時年齢(月齢)
(3)病理分類(組織分類)
(4)MYCN遺伝子の増幅
(5)染色体異常
(6)核DNA量(腫瘍細胞の染色体数)
INRG 病期 |
診断時年齢 (月齢) |
INPC 組織分類 |
MYCN 増幅 |
染色体異常 (11q欠失) |
核DNA量 (染色体数) |
治療前 リスクグループ |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|
病期 L1/L2 |
- | 神経節腫 成熟型; 神経節芽腫 混在型 |
- | - | - | 超低リスク | |
病期L1 | - | 神経節腫 成熟型; 神経節芽腫 混在型を除くすべて |
なし | - | - | ||
あり | - | - | 高リスク | ||||
病期L2 | 18カ月 未満 |
神経節腫 成熟型; 神経節芽腫 混在型を除くすべて |
なし | なし | - | 低リスク | |
あり | - | 中間リスク | |||||
18カ月 以上 |
神経節芽腫 結節型 または 神経芽腫 |
分化型 | なし | なし | - | 低リスク | |
あり | - | 中間リスク | |||||
低分化型 または 未分化型 |
- | なし | - | ||||
- | あり | - | - | 高リスク | |||
病期M | 18カ月 未満 |
- | なし | - | 高2倍体 | 低リスク | |
2倍体 | 中間リスク | ||||||
あり | - | - | 高リスク | ||||
18カ月 以上 |
- | - | - | - | |||
病期MS | 18カ月 未満 |
- | なし | なし | - | 超低リスク | |
あり | - | 高リスク | |||||
あり | - | - |
(1)病期(腫瘍の進行の程度)
国際神経芽腫リスクグループ病期分類(INRG病期分類)によって、病期L1、病期L2、病期M、病期MSの4つに分類されます(表2)。原発腫瘍(原発巣)の広がり、画像診断から推定される手術(外科治療)のリスク(IDRF※)の有無、転移の有無から決められます。病期MSは1歳半未満の小児に限定された分類です。
※IDRF(image-defined risk factor)とは、局所のみの神経芽腫について、画像診断から手術のリスクを推定し、治療の最初に行う手術として摘出を行うか、生検のみで留めるのかを決める指標です。薬物療法(化学療法)後は、IDRFあり(陽性)の場合でも手術を行うことがあります。
病期L1 | 遠隔転移のない局所性腫瘍で、IDRFを有さない |
---|---|
病期L2 | 遠隔転移のない局所性腫瘍で、IDRFを有する |
病期M | 遠隔転移を有する腫瘍(病期MSを除く) |
病期MS | 月齢18カ月未満で、皮膚、肝、骨髄にのみ転移を有する腫瘍 |
(2)診断時年齢(月齢)
一般的に、1歳半未満で発症した場合は比較的よく治りますが、1歳半以上で発症した場合は治りにくくなります。そのため、INRGリスク分類(表1)では18カ月未満と18カ月以上で分けられています。
(3)病理分類(組織分類)
病理分類(組織分類)は、治療前に採取した腫瘍組織を顕微鏡で観察して行います。国際神経芽腫病理分類(INPC)に従って、主に4つのグループに分けられます(表3)。
以下の4つのグループとそれぞれの亜分類に分ける(亜分類の記載は省略) |
---|
1.神経芽腫(シュワンストローマ減少型)、ストローマ減少型 |
2.神経節芽腫、混在型(シュワンストローマ豊富型)、ストローマ豊富混在型 |
3.神経節腫(シュワンストローマ優位型) |
4.神経節芽腫、結節型(シュワンストローマ豊富型/ストローマ優位型およびストローマ減少型の複合) |
(4)MYCN遺伝子の増幅
腫瘍細胞がもつ特徴の中で、予後との関係が一番強い因子です。腫瘍組織の遺伝子検査の結果、MYCN遺伝子が増えている場合は腫瘍の悪性度が高いといわれています。
(5)染色体異常
腫瘍細胞の染色体の形を見ると、1番染色体短腕(1p)や11番染色体長腕(11q)が欠失している場合や、17番染色体長腕(17q)が増えている場合は治りにくいことが明らかになってきました(染色体検査)。
INRGリスク分類(表1)では、11番染色体長腕(11q)欠失を指標として採用しています。
(6)核DNA量(腫瘍細胞の染色体数)
人間の体細胞は、23本の染色体を2セットもつ2倍体です。神経芽腫の腫瘍細胞は、2倍体腫瘍と、染色体数がそれ以上存在する高2倍体腫瘍に分類されます。
進行期では2倍体腫瘍が多く見られ(染色体検査)、治りにくくなると考えられています。
2)治療の選択
図2は、神経芽腫に対する治療アルゴリズム(治療の手順)を示したものです。INRGリスク分類(表1)を用いて治りやすさに関する判定(予後因子判定)を行い、その後に、リスクグループに基づいて治療法が決められます。
担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。
※分化誘導療法(がん細胞を普通の細胞に誘導させることにより治療する方法)、大量MIBG治療(123I-MIBGを放射性治療薬として用いる治療)は、わが国ではいずれも臨床試験などの研究段階の医療であり、保険の適用がされていません(2022年2月現在)。
低リスク群では、手術(外科治療)で腫瘍をすべて摘出できた場合は、治療を終了して経過観察を行います。手術で腫瘍をすべて摘出できない場合には、低用量の薬物療法の後に手術が行われる場合があります。また、1歳半未満で発症した一部の腫瘍では自然退縮する(腫瘍が自然に小さくなっていく)こともあるため、無治療経過観察が選択される場合もあります。
中間リスク群では、生検後に中等度の薬物療法を行ってから、原発腫瘍を摘出するための手術を行う治療法が一般的です。
高リスク群では、腫瘍が周囲の臓器や血管を巻き込んでいることや、転移がある場合が多くあります。治療としては、薬物療法を先行し、周囲の臓器をできるだけ温存した手術と局所の放射線治療、大量化学療法(抗がん剤の投与量を増量して行う治療)と自家造血幹細胞移植を行います。多施設での臨床試験として治療が行われることが多く、経験のある医療機関で治療を行う必要があります。
2.手術(外科治療)
1)手術の概要
手術はその目的から、大きく2つに分けられます。1つは、神経芽腫の確定診断とその悪性度判定のために、腫瘍の一部を切除して調べる手術(生検)で、もう1つは腫瘍(手術部分)を目で見ながら切除する手術(腫瘍摘出術)になります。
神経芽腫では手術で腫瘍すべてを摘出しなくてもよい場合があり、リスクや病状に応じて適切な手術方針が立てられます。集学的治療(薬物療法、手術、放射線治療などのさまざまな治療法を組み合わせた治療)に精通している医療機関で、神経芽腫の治療経験が豊富な外科チームによる治療を受けることが推奨されます。
(1)開腹または開胸による腫瘍摘出術
腹壁や胸壁を大きく切開して広げ、手術部分を目で見ながら腫瘍を摘出する手術で、腫瘍を切除するときに最も多く用いられる方法です。特に薬物療法後の2回目の手術で腫瘍周囲のリンパ節などを一緒に切除するときには、必ず用いられます。
また、側腹部あるいは背部から腹壁を切開する後腹膜経路の腫瘍摘出術もあります。副腎に発生した早期の神経芽腫で、周囲臓器や血管などの巻き込みがなく、比較的容易に腫瘍が摘出できると考えられる場合などに用いられることがあります。
(2)内視鏡(腹腔鏡または胸腔鏡)による腫瘍摘出術
内視鏡処置用の手術器具を挿入するために、1cm程度の穴(孔)を3~4カ所空けて、その小さな穴を通して行う手術です。腫瘍の部位や大きさ、血管への浸潤の有無によって、実施が検討されることがあります。
2)1歳半未満の小児に対する手術(外科治療)
健診などで偶然に神経芽腫が見つかった子どもは、転移のない早期である場合が多く、大部分は腫瘍自体の悪性度も高くありません。そのような場合の治療の主体は、手術で腫瘍を切除することになります。
摘出した腫瘍自体の悪性度が高くなければ、手術後に薬物療法や放射線治療を追加する必要はありません。しかし、脊髄圧迫症状や呼吸障害などの強い症状がある場合には薬物療法を行います。
また、症状が無い一部の腫瘍に対しては、手術や薬物療法も行わず、自然退縮(腫瘍が自然に小さくなっていくこと)を期待して経過観察のみ(無治療経過観察)を行う場合もあります。担当医からの十分な説明とご家族の理解のもと、その後の注意深い観察が必要となります。無治療経過観察の場合を除いては生検を行い、腫瘍の悪性度を判定することが必要です。
3)術後合併症
開腹手術の場合、術後に癒着性腸閉塞の合併症を起こすことがあります。
また、頸部や胸部の交感神経節から発生した神経芽腫では、手術をした側の縮瞳(瞳孔が縮小した状態)、眼瞼(まぶた)の垂れ下がり、顔面の発汗の減少を主な特徴とするホルネル症候群が見られることがあります。腫瘍摘出時に交感神経幹を切断しなければならないため、ホルネル症候群は避けられない合併症です。
さらに、副腎や腎臓近くの後腹膜から発生した腫瘍を摘出した場合、手術操作による損傷や刺激により腎動脈(腎臓に血液を送る動脈)に狭窄が起こり、血流低下を招くことで腎臓の萎縮を合併することがあります。
3.放射線治療
高リスク群に対しては、手術後に微細に残っている腫瘍をなくすため、および骨転移部位への局所療法として、放射線治療を行います。
放射線を照射する範囲や放射線の量は、それまでの治療に対する反応や、手術の結果などを基に決められます。多くの場合、治療期間は2~3週間程度になります。一般的にはX線による治療が行われていますが、陽子線という放射線を用いることもあります。また、病気が再発したときに、対症的に痛みを取るなどの治療として、放射線治療を行うこともあります。
4.薬物療法
INRGリスク分類(表1)によって分けられた低リスク群(超低リスクを含む)、中間リスク群、高リスク群ごとに、次のような薬物療法が行われます。
1)低リスク群(超低リスクを含む)
低リスク群でも、手術で腫瘍をすべて摘出できない場合は低用量の薬物療法が行われます。手術で腫瘍をすべて摘出できない子どもや、脊髄圧迫症状や呼吸障害などの強い症状がある子どもについては、ビンクリスチン、シクロホスファミドなどを用いた低用量の薬物療法を短期間行い、腫瘍を小さくしてから手術により摘出を試みる場合があります。
2)中間リスク群
中間リスク群に対する標準治療は確立していませんが、生検後に中等度の薬物療法を実施し、腫瘍を縮小させてから、原発腫瘍の摘出術を行う治療法が一般的に行われています。
3)高リスク群
薬物療法、手術、放射線治療などのさまざまな治療法を組み合わせた集学的治療を行います。高リスク群では、寛解導入療法(大量化学療法を行うまでの薬物療法)として、一般的にシスプラチン、エトポシド、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンなどからなる多剤併用療法が行われます。その後、自家造血幹細胞移植(あらかじめ保存しておいた自分の造血幹細胞を移植する方法)を併用した大量化学療法が検討されます。腫瘍摘出術は、大量化学療法の前ないし後で行います。また、放射線治療は、一般的に大量化学療法後に行います。
免疫療法である抗GD2抗体が2021年から実施可能となりました。欧米では大量化学療法後の後治療として、免疫療法(抗GD2抗体)に加えて、分化誘導療法や、併用療法としての大量MIBG治療などが行われていますが、国内ではいずれも研究段階であり、保険の適用がされていません(2022年2月現在)。
5.緩和ケア/支持療法
がんになると、体や治療のことだけではなく、学校のことや、将来への不安などのつらさも経験するといわれています。
緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげます。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。
支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。
本人にしか分からないつらさもありますが、幼い子どもの場合、自分で症状を表現することが難しいこともあります。そのため、周りの人が本人の様子をよく観察したり、声に耳を傾けたりすることが大切です。気になることがあれば積極的に医療者へ伝えましょう。
6.再発した場合の治療
再発とは、治療の効果により腫瘍がなくなった後、再び腫瘍があらわれることをいいます。
原発部位の再発だけでなく、骨などの転移巣として再発することがあります。再発した場合に推奨される特定の治療法は定まっていませんが、骨に転移した場合は放射線治療を行う場合があります。また、臨床試験や治験に基づく試験的治療を行うこともあります。
再発は、子どもによって状態が異なりますので、症状や体調あるいは本人や家族の希望に応じて治療やケアの方針を決めていきます。
診断時に低リスク群または中間リスク群であった場合は、再発の状況によって治療法はさまざまですが、それぞれの状況に見合った治療を行うことにより、ある程度良好な予後が期待されます。
一方、診断時に高リスク群であった場合の再発では、確立された救援療法はありませんが、薬物療法など個別の状況に応じた治療法が検討されます。
神経芽腫〈小児〉 療養
がんの子どもの心や体のケア、家族へのケア、周りの方ができること、制度やサービス、入院治療後の生活、長期フォローアップなどの情報を掲載しています。併せてご活用ください。
1.入院治療中の療養
子どもにとっての入院生活は、検査や治療に向き合う療養生活に加え、発達を促すための遊びや学びの場でもあります。医師、看護師、保育士、療養支援の専門職(チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)、ホスピタル・プレイ・スペシャリスト(HPS)、子ども療養支援士など)、薬剤師、管理栄養士、理学療法士やソーシャルワーカー、各専門チーム、院内学級の教員などが連携し、多方面から患者とご家族を支援していきます。また、きょうだいがいる場合には、保護者が患者に付き添う時間がどうしても多くなるため、きょうだいの精神的なサポートも重要になります。入院中のさまざまな不安が軽減できるよう、抱え込まずに、多方面と効果的にコミュニケーションを取ることが大切です。
神経芽腫の治療では、入院中に薬物療法の副作用で免疫が低下する時期があります。病院の指導に基づいて感染症に対する予防が必要となります。
医療費のことも含めさまざまな支援制度が整っています。「どこに相談したらいいのか分からない」というときには、まずは「がん相談支援センター」に相談することから始めましょう。また、各医療機関の相談窓口、ソーシャルワーカー、各自治体の相談窓口に尋ねてみることもできます。
2.日常生活について
入院治療後、退院して間もなくは、入院生活と治療の影響により体力や筋力が低下しているので、あせらずゆっくりと日常生活に慣れていくことが大切です。
また、経過観察中は免疫力が回復していないこともあるため、近くでみずぼうそうや、はしかなどの特別な感染症が流行した場合は、対応について担当医にご相談ください。食欲が低下して食事内容が偏る場合がありますので、栄養のバランスを考慮した食事を心がけるようにしましょう。
就園・就学や復学については、子どもの状態や受け入れ側の態勢によって状況が異なります。担当医やソーシャルワーカーと、時期や今後のスケジュール、さらに、活用できる社会的サポートについてよく話し合いながら進めていくことが大切です。学校生活では子どもの様子を見ながら、担任の先生や養護教諭などと相談し、できることから徐々に慣らしていきましょう。
日常生活を送る上での特別な注意はありません。紫外線による健康影響が懸念される過度の日焼けや疲れが残る強度の運動は避ける必要がありますが、できるだけ普段の生活リズムに沿った日常生活を送りましょう。
3.経過観察
神経芽腫の治療には、低リスク群で無治療経過観察の場合や、高リスク群で薬物療法、手術、放射線治療などのさまざまな治療法を組み合わせた強力な集学的治療を行う場合など、いろいろな治療が行われていますので、それぞれに応じた経過観察が必要になります。
治療終了後も体調の変化や晩期合併症の有無、再発していないかの確認のため、定期的に通院して経過観察を行いますが、治療終了後の経過が長くなるにつれて通院の間隔は延びていくのが一般的です。治療終了5年以降は1年に1回程度の長期フォローアップを目的とした通院となることが多いようです。
4.晩期合併症/長期フォローアップ
神経芽腫は、比較的低年齢の子どもが多く、進行期の神経芽腫(高リスク群)では放射線治療や大量化学療法が行われるため、晩期合併症には特に注意が必要と考えられます。
薬物療法としてシスプラチンを用いることが多く、シスプラチン特有の晩期合併症である腎障害、高音域聴覚障害(鈴虫の鳴き声など高い音が聞きづらくなること)などに注意が必要です。シクロホスファミドは、性腺障害の大きな原因となります。また、高リスク群では、大量化学療法を行うため、成長障害や歯牙の発育障害などにも注意が必要です。二次がん(神経芽腫とは別の種類のがんや白血病を生じること)の発症にも、注意しなければなりません。
さらに、放射線治療では、原発部位や転移部位に対して一定量以上の照射を行った場合に、その部位の臓器の形態や機能についての経過観察が必要になります。
また、副腎髄質や腎レベルの交感神経節の原発腫瘍を手術で摘出した場合、遅れて腎動脈に狭窄が起こり、腎臓の萎縮を合併することがあります。その場合、高血圧や腎機能障害を併発するため、注意が必要です。腎臓の機能が低下している場合、腎臓で産生されるエリスロポエチン(赤血球をつくるのを助けるホルモン)の分泌が減少し、貧血となることがあります。
晩期合併症に適切に対処するためには、長期にわたる定期的な診察と検査による長期間のフォローアップが必要となります。また、治療の記録(薬物療法で使用した薬剤の名前や量、放射線治療の部位や量など)を残していくことも重要です。転居や結婚などにより生活環境や通院する医療機関が変わったときにも継続していきましょう。
晩期合併症の1つである妊孕性(妊娠するための力)の低下については、近年、卵子や精子、受精卵を凍結保存する「妊孕性温存治療」という選択肢も加わってきました。妊孕性温存治療ができるかどうかについて、治療開始前に担当医に相談してみましょう。
子どもは治療後も成長を続けていくため、発達段階に応じた、幅広いフォローアップケアが重要です。治療後は一人一人の患者に合わせて、いつ・どこで・どのようにフォローアップケアを行うかといった、長期フォローアップの方針を決めていきます。
治療部位以外でも体のことについて気になることがあれば、担当医に相談しましょう。
神経芽腫〈小児〉 臨床試験
より良い標準治療の確立を目指して、臨床試験による研究段階の医療が行われています。
現在行われている標準治療は、より多くの人により良い治療を提供できるように、研究段階の医療による研究・開発の積み重ねでつくり上げられてきました。
神経芽腫〈小児〉の臨床試験を探す
国内で行われている神経芽腫〈小児〉の臨床試験が検索できます。
がんの臨床試験を探す チャットで検索
※入力ボックスに「神経芽腫」と入れて検索を始めてください。チャット形式で検索することができます。
がんの臨床試験を探す カテゴリで検索 小児の固形がん
※「カテゴリで検索」では、広い範囲で検索します。そのため、お探しのがんの種類以外の検索結果が表示されることがあります。
臨床試験への参加を検討する際は、以下の点にご留意ください
- 臨床試験への参加を検討したい場合には、担当医にご相談ください。
- がんの種類や状態によっては、臨床試験が見つからないこともあります。また、見つかったとしても、必ず参加できるとは限りません。
神経芽腫〈小児〉 患者数(がん統計)
1.患者数
神経芽腫は0~4歳で診断されることがほとんどであり、この年齢層でかかる割合は10万人に約2人です(0歳が最も多い)。
2.生存率
小児がんの生存率に関する情報です。
神経芽腫〈小児〉 関連リンク・参考資料
1.神経芽腫〈小児〉の相談先・病院を探す
2.参考資料
- 日本小児血液・がん学会編.小児がん診療ガイドライン 2016年版.2016年,金原出版.
- 日本小児血液・がん学会編.小児血液・腫瘍学 改訂第2版.2022年,診断と治療社.
- JCCG長期フォローアップ委員会長期フォローアップガイドライン作成ワーキンググループ編.小児がん治療後の長期フォローアップガイド.2021年,クリニコ出版.
- 田口智章ほか編.スタンダード小児がん手術.2017年,メジカルビュー社.
作成協力